大規模屋内プールの温湿度と壁体の吸放湿性状に関する夏期実測

: 9 9 8 年度 日本 建 築 学 会
関 東 支部研 究報 告集
21
大空間内温度 ・
湿度の空間分布と時間変化に関する検討
ー
1
)
大
( その
規 模 屋 内 プ ル の 温 湿 度 と壁 体 の 吸 放 湿 性 状 に 関す る夏期 実 測
正会員 ○ 清水
同
1序
屋内プール は一般 に温度 ・
湿度等の空間的、時間的変
岳
*1
同
*1
同
近
*2
藤 靖史
・
池世欧啓 3
藤 原 誠
菊
ー
ス
ラ
はト
やキャッ トウォ クな どがある。東側 の 2階
ベ
レ ル には観客席があ り、局所的に空調 され ている。
化が大きい空間である。 また、屋根がテ フロン膜な ど
また西側回廊は立席 となっている。東西外壁 面 (FL■
1 0m
で構成 され る膜構造である場合が多 く、太陽光導入 に
よる光環境 の向上や照明エネル ギー削減 などが期待 で
付近)には自然換気 口が設 け られてい る。表 1に 外皮条
件・
空調条件 を、表 2に 測定項 目を示す。
きる反面、外気温度 ・日射 などの外部環境の影 響を受 け
やす い。検討対象 とす るプール には観客席があ り、一
つの空間に着衣量お よび運動量の異なる人が混在す る
このよ うな状況では、両者 の快適性 を維持す るために、
局所的に空調 を行な うことが一般的である。今回屋 内
ブールの快適性 を確認す ることを 目的 として、夏期 に
温湿度 の実測 を行 い 、検討 した。 また壁体サ ンプル の
重量変化 の測定か ら室内湿度に影響 を与 える壁体の吸
放湿現象について検討 した。
2実 測概要
検討対象 とした横浜市内にある屋 内プール の内観 を
断面図および測定点を図 1、2に 示
写真 1に 、平面図 ・
す。屋根は部分的に二重膜であ り、内膜は幅 4.5mの も
のが 8枚 東西方向に延び、更に外膜で覆 う構造にな っ
ている(ただ し二重膜内は密封状態ではない)。膜間に
写 真 1屋 内プー ル 内観
空 調条 件
表 1外 皮条 件 ・
構造 :SRC造3階建 プールサイド西側 :フロートガラス(t=15耐
天丼:テフロン膜 (一部分二重膜)日 射透過率 :外膜 13%外 膜+内膜6%
日射吸収率 :外膜13%外 膜 +内膜13%
東側 プ ー ル サイド(換 気 +必 要 時 曖 房 ):
15‐58100CMH)、
丸形 ノズル 500o(3874×
西側 プ ー ル サイド(換 気 +必 要 時 曖 房 ):
窓 下吹 出 (4900CMH)
И 00× 200(2080× 15・31200CMH)
精 円形 ノズノ
楕 円形 ノズル 1500× 200(3400× 6=20400CMH)
ー
ブリ ズ 長 さ2000(300× 16=4800CMH)
13■ 12000Ch414)
観 客席 (空調 制御 ):ア ネ モ 300o(924×
室 内 温度 設 定 :プ ー ル サイド(一般 30℃ 大 会 時28℃ )、
観 客席 (大会 時 の み 冷房 26℃ )
天 丼 内機 械 換 気 :365× 4=1460CMH
天 丼 内 自然 換 気 :換 気 口面 積 (西側 3368m2、 東側 33 488nf)
設 定水 温 :一 般 28℃ 大 会 時 26℃
図 1プール平面図
18日 ∼ 22日
:全天 日
外 気 温湿 度 :lヶ所 (屋上 )
空 間 温 湿 度 :①観 客席 側 上 下 3点 、② 中央 部 上 下 6点 、③ 立席 側 上 下 6点
自然 換 気 ロ
(自然排煙 目を兼用)
天 丼 面温 度 :観客席 側 1,点
膜 表 面温 度 :外膜 (中央 部 、立席 側 の 計2点 )、
内膜 (中央 部 、立席 側 の 計 2点 )
床 表 面 温 度 :観客 席 側 、立席 側 の 計 2点
グロー ブ 温度 :観客 席 (h=37m:観 客席 床 レベ ル か ら1 lm)、
立席 (h=51m:立 席 床 レベ ル か ら1 lm)
FL■13660
FL+10660
FL+10160
FL+7400
壁 体 重量 :
FL+5100
FL+4000
アネモ
FL+
温 湿度 計 を用 いてそれ ぞれ 5分 毎 に 自
図2プー ル断面図
OP
:嚢
憬
昌
護
5T
-245-
:放射温度計による壁面 ・
水面 ・
床面温度 (1
遊泳者数および観客者数(1時間毎)
ー
ー
スモ ク・
ジェネレ タによる可視化
3実 測結果および考察
3:8月 21日 15:00∼21:30)には立席側 空間温度 と比 ベ
晴天 日(8月 20日 と 8月 21日 )の実測デー タに基づ
いて検討を行な う。表 3に 各 日の空調 ・
換気 の運転モー
て 2℃ 程度低 く抑 え られ てお り、観 客席 にお け る局所
空調 の効果 が確認 で きる註1)。図 5に おい て 8月 20日
では 9:00に 東側 プ ール サイ ド給気温度 が 50℃近 くに
ドを示す。
3、4に 各気象条件 の 日変動
。
を示す。 また図 5に 空調 換気 の給気温度お よび空間温
度 の 日変動 を示す。 図 5に おける観客席側空間温度 と
まで達 してい る。 これ は立席側 空 間温度 が設 定温度 で
ある 30℃ (表 1参 照)よ りも低か つたた めに、一 時的
して h=37m、 立席側空間温度 として h=5.lm(それぞれ
の床 レベルか ら+1.lm)を代表点 として示 した。
32垂 直温度分布
31温 度の 日変動
図
に暖房運転 となった もの と考 え られ る。
図
6、7に垂 直温度分布 を示す。
図 5に おいて立席側空間温度は両 日とも外気温度 (図
8月 20日は観 客席 の 局所 空調 が作動 してお り、8月21日
の8:00∼15:00(モー ド2)よ り2℃程度 低 く抑 え られ て い
4参 照)に追従 して変化す る。 これは立席側 では機械換
気を行 つてい ることによる。 一方観客席側空間温度 は
変動 が小 さい。 これ は空調 に よって制御 され ていた た
局所空調を運転 していない場合 (モー ド 2:8月 21日
8:00∼15:00)については立席側空間温度 とほぼ同 じで
あるが、観客席 の局所空調 を運転 してい る場合 (モー ド
表3運転モード
モード
モード1
モー ド2
モード3
る (図6(3)、7(3)参照)。また図6(3)にお いて 時 間的 な
め と考 え られ る。 逆 に図7(3)にお い て変動 が大 きい の
は、空調 を停 止 していた の で、 ブ ー ル サ イ ド居住域 に
お け る機械換 気 によつて外気 の影響 を受 けたため と考
時間 帯
居 住 域 外 気 冷房 ●l御
観客席冷房
天 丼 内機 械 換 気
天 丼 内 自然 換 気
8 月 2 0 日8 : 0 0 ∼2 1 : 3 0
○
○
○
○
8月 21日 8:00∼ 15:00
○
○
○
8月 21日 15:00∼ 21:30
○
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絶対湿度の 日変動
図 4外 気温度 ・
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観客 席給 気温度
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サイド給気温度 ヽ
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図 5空 調 ・
空間温度の日変動
換気給気温度 ・
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45
測責(0
測
(i)立
席側
責(℃)
(2)中 央部
温
25 30 35 40 4525 30 35 40 4525 30 35 40 45
度(℃)
腋 〈
0
(3)観 客席側
雄
(1)立
席側
図 6垂 直温度分布(8月20日)
(り
(2)中
央部
( ℃)
腫
(3)観
客席側
図 7垂 直温度分布(3月 21日 )
え られ る。外膜 ・
内膜間における空間温度は時間的な変
16000
外膜面
14000
600
33垂 直絶対湿度分布
図 8に 8月 21日 における
絶対湿度 の垂 直分布 を示す。観客席側 において 18:00
2000
0
0
︰
︲
12100
一 ・
31罵1 1
的小 さい。 これは前述 の とお り、 日射熱 の大部分 が二 I E
6000
重膜で吸収 された ことによる効果であると考えられ る。
4000
また立席側居住域は 33℃程度に達す る場合がある註"。
│
0100
︲
i2000
内膜面
熱 を吸収 し、 この熱 の影響 を強 く受けてい るためと考
え られ る。 内膜以下の空間では上下間 の温度差は比較
000
一 動が大きくなってい る(図 6(2)、7(2)参照)。これは膜
間の トラスやキャ ッ トウォー クあるいは膜 自体が 日射
Tヤ
18:00
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12:00
饉
1
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18 20 22 24 2618 20 22 24 2618 20 22 24 26
の絶対湿度が小さくな っている (図 8(3)参照)。これは
モー ド 3の 時間帯であ り、観客席 の局所空調 により冷
鯛 献 υ 暉) 鰯
(1)立
席側
却・
除湿 されていたための効果である と考え られる。 ま
た立席側 ・
中央部において、外気を導入 している 12:00、
(2)中
離 lg/kg) 鯛
央部
)
融 υkぜ
(3)観 客席側
図 8垂 直絶対湿度分布(8月 21日)
18:00には外気の絶対湿度に ほぼ近い値 (図 4参 照)を
示 してお り、空間内 の湿気 を効果的に除去 している と
間 に放 湿 してい る こ とが分 か る。 壁体 か ら放 湿 され 始
考えられ る。
34グ ロー ブ温度 と空間温度の比較
急激 に上昇 してい る。 これ は壁 体 か ら空 間内 に放湿 さ
めた直後の 7:00∼8:00に 、FL+16120(llull)の
絶対湿度 が
9に グロ
図
ー ブ温度 の 日変動 を示す。 立席側 空間温度 の上昇時 に
絶対湿度 に
れ てい るた め と考 え られ る。 FL+1800(llull)の
グロー ブ温度が高 くな り、下降時にグロー ブ温度が低
くなる傾向が見 られ る。 立席側 はガラス窓面が多 く、
は空 間上部 で壁体 か らの 吸放湿 が活発 に行 なわれ て い
日射 の影響 により空間温度が上昇す るとともに放射受
熱量 も多い ことによる。観 客席 について は局所空調 が
ー
運転 されてい る時間帯で グ ロ プ温度は立席側 よ り 2
∼3℃低 く抑 えられてお り、ほぼ良好な環境であった と
想 され る。 8:00以 降 も昼間は放湿 され続 けてい るが、
思われ る。
8月 20日 の方が 多い。 これ は 8月 20日 の 方が室 内の
35壁 体重量 と絶対湿度の関係
図
10に 壁体サ ン
ブルの重量の変化 と室内絶 対湿度 の 日変動 を示す。壁
を
体重量は 8月 20日 と 8月 21日 の平均値 (≒323.8g〉
基準に した割合で表わ した。壁体は夜間に吸湿 し、昼
つい て は、 この よ うな吸放 湿現 象 は顕 著 でない。 これ
るが、空 間下部 にお いての この影響 は小 さい もの と予
絶対湿度 の上 昇が見 られ な い。 これ は 8:00か ら機械換
気 が運 転 され 、外 気絶対 湿 度 の影響 を強 く受 けたた め
と考 え られ る (図 4参 照)。放湿 量 は 8月 21日 に比 べ て
絶対 湿度 が低 いた め、放湿 されや す い 状 況 に あ つた も
の と思われ る。
11に
36壁 体 吸放湿量 とプー ル蒸発量の比較
図
ー
の
ル
水 面か ら 蒸発 量 を示
壁 体 か らの吸放 湿 量 と、 プ
―-247-―
35
34
33
35
2,7キ
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立席 側グ ロ
立席 側 空 間 温 度
34
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プ温 度
33
│││ │││││
)│…
崎: 2 1 号
ー
立席側グロ ブ温度
│││││││││
p32
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図 9グ ローブ温度の 日変動
35
1010%
30
1005%
_
d盤 路
中央 都 絶 対 湿 度
(FL+16120)
│││││IJ斗
995,
1015%
型 ゝ︶
→
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1010%
︱︱ 化 ︱︱
(3月 20日 )
︱︱ 量 ︱
︱︱ 壁 ︱
1015%
(FL+16120)
1005%
││││
1/11
― 中 央部 擬1 対湿 度
(FL+11, 0 0 )
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〇
図 10壁 体サンプルの重量と室内絶対湿度
(3月 20日 )
( 3 月2 1 日 )
│
壁体 吸 放 湿量
│
湘
上
軍
│レ
:
︱発 ︱
│
︱ 一 ︱﹂
︱プ ー
︵
く 翌︶
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││││
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判 ロ
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壁体 吸放 湿量
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〇9 o 一
09 〇 一
〇9 ● 一
〇O N 一
0● 0 一
09 N
図 11壁 体吸放湿量とプール蒸発量
す註3)。明け方の 6:00か ら 13:00頃にかけて壁体か ら
の放湿量が大きい ことが分か る。 プール水面か らの蒸
発 量 は空調 に よつて制御 され てい る時 間帯 (8:00∼
21:30)でほぼ一定 となつてい る。
4ま とめ
今回の夏季実測か ら以下に示す結果が得 られた。
11観客席 の空間温度は局所 空調 により、プール サイ ド
に比べて 2℃程度低 く、絶対湿度は 2g/kピ
程度低 い。
ー
l_21観
客席 の局所空調 の停止時には、プ ル サイ ドにお
ける機械換気の影響 が観客席 の温熱環境 に現れ る。
O二 重膜以下の空間では上下間の温度差は小 さい。
④壁体における吸放湿は室内湿度に影響 を与える。
⑤ 日中のプールサイ ドにお ける空間温度 ・
絶対湿度は外
* 1 武 蔵工業大学 学生
* 2 武 蔵 工業大学 助教授 工博
* 3 川 本 工業
気 とほ ぼ同様 な変 化 を示 す 。
く
註 1〉
大会時はプールサイ ドの設定温度は 2 8 ℃となり、観客席の空
間温度は実測時よりも低くなると予想される。
く
註 2〉立席の利用形態は通過空間、 もしくは短時間の滞在空間であ
り、温熱環境的には大 きな問題はないと考えられる。
〈
壁体か らの吸放湿量は、空間内に吸放湿材料が 2500ボ (壁体
註 3〉
サンプルの約 50000倍)存在すると想定 し、これにサンプル壁体重量
の変化量 をかけて算定 した。 またプー ル蒸発量は、対流熱伝達率を
l kca1/ポ
h℃ とし、ルイスの関係か ら湿気伝達率を求め、プー ル水
温の飽和絶対湿度 と水面近傍 (中央部+18m)の 絶対湿度 の差に湿気伝
達率をかけて算定 した。
<謝辞〉本実測 を行 うにあた り、 (財)横浜市 スポー ツ振興事業団 の関
三浦信之氏、国島隆志氏、武蔵工大技術員 安達
係各位 、川本工業 ・
健吾氏、同大学院生 ・
荻田俊輔氏、藤村淳 一氏、入交麻衣子氏より多
大なご協力を頂 きました。 ここに記 して謝意を表わ します。
く
参考文献〉高橋 ・
小林 ガヽ
磯・
菊池、寒冷地に建 つ屋内プー ルの温熱環
春季 ・
境に関する実測調査 (その 4)冬季 ・
夏季 の温熱環境、空気調和
衛生工学会学術講演会議演論文集、199510
Student Membetヽ lusashi lnstitute of Techn010gy
_Assoc Prol,Musashi lnstitute ofTechno圏
、DIEng
Kawamoto lndustries,Ltd
―- 2 4 8 -