理科薬品の取扱いと事故防止 - 奈良県立教育研究所

小・中学校における
理科薬品の取扱いと事故防止
平成11年12月
奈良県教育委員会
目
次
1
理科実験等における事故の防止
1
2
理科実験における薬品等の管理及び廃棄
2
3
毒物及び劇物の取扱い
2
4
危険物の取扱い
4
5
危険薬品の防災表示
5
6
理科薬品の特性と取扱いの注意
6
7
薬品の管理
11
8
薬品の保管
12
9
環境保全
13
10
外傷及び中毒に対する一般的応急処置
16
参考文献
17
参考資料
18
薬品管理簿
22
薬品別管理票
23
定期点検表
24
1
理科実験等における事故の防止
理科学習における観察や実験などは、科学的な知識を得たり、問題解決能力を養う上
で重要なものであり、また、技能については、実際にそれらの活動を行ってはじめて得
られるものである。さらに、児童生徒に興味、関心をもたせることや科学的態度の育成
など、望ましい発達を図るには、心と体を動かし実物に直接触れて、驚いたり、感動し
たり、疑問をもったりするなど体験的な活動が最適である。
このような理科学習における主要な活動を安全で適切に行うために、事故の防止、薬
品の管理や廃棄物の処理などについて十分配慮することが必要である。
(1) 指導計画等の検討
年間指導計画の中に、観察や実験等の目的や内容を明確にし、児童生徒のその時期
での観察や実験の技量を掌握し、無理のない方法を選ぶ。また、学習の目標や内容に
照らして効果的で、安全性の高い観察、実験の方法を選ぶことが大切である。
(2) 予備実験の実施
観察や実験の安全を確保するためにも、予備実験は必ず行っておくことが必要であ
る。なお、環境保全のことを考え、実験で用いる薬品は、実験の目的が達成できる最
低の濃度で、必要な最小限の量にすることが望ましい。
(3) 日常の点検と指導
ガラス器具等実験器具の点検や整備を日ごろから心がけなければならない。また、
生徒に実験の基本操作や正しい器具の使い方などを習熟させるとともに、事前・事後の
点検等の習慣、観察・実験中のまじめな態度などを身に付けさせることが大切である。
(4) 理科室などの環境整備
理科室には、児童生徒の使いやすい場所に薬品や機器を配置し周知しておく。また、
救急箱の用意や防火対策として消火器等の用意も必要である。さらに、換気にも注意
を払うことが大切である。
(5) 観察や実験のときの服装等
観察や実験の時の服装についての配慮も大切である。なるべく皮膚の露出部分の少
ない機能的な服装をさせる。また、長い髪は後ろで束ねて縛るなど注意を与えておく
ことも大切である。
(6) 応急処置と対応
事故への対策を心得ておくことが大切である。例えば、薬品が眼に入った場合は流
水で洗眼をした後、直ちに医師の手当てを受けさせる。火傷をしたときは患部を直ち
に冷水で冷やし、早急に専門の病院へ連れて行く。
(7) 連絡網の整備
万一の事故等に対応できるよう、消防署、救急病院、関係機関等との連絡の方法に
ついて、教職員が見やすい場所に掲示し、全教職員に周知しておくことが大切である。
また、校医とも相談し、緊急時の対応について具体的に決めておくことが必要である。
-1-
2
理科実験における薬品等の管理及び廃棄
学校には、理科等の実験用に多くの理科薬品が保管されており、その中には、人が吸
い込んだり、誤って飲むと健康に著しい障害を与える毒物や劇物がある。また、容易に
引火して爆発や火災の原因となる危険物もある。これらの薬品は、取扱いを誤って万一
事故が起こると、実験者はもちろん周囲の者に重大な被害を及ぼすおそれがある。それ
ゆえに、これらの薬品を取り扱う場合に、その薬品の毒性や危険性について十分な認識
をもつことが大切である。
毒物、劇物及び危険物については、「毒物及び劇物取締法」や「消防法」でさまざま
な規制が設けられている。学校で毒物や劇物を取り扱う場合は、登録や届出の義務はな
いが、法に沿った保管、管理、廃棄処理が行わなければならない。学校での危険物は、
その量が少ないので「消防法」の規制を受けることはほとんどないが、少量とはいえ危
険物を保有していることに変わりはないので、法に沿った保管や管理を行わなければな
らない。
3
毒物及び劇物の取扱い
(1) 取扱い上の原則
①
能率、安全、清潔、整頓の四原則を守る。
②
学校薬剤師と密接な連絡をとり、必要に応じて指導と助言を受け、あるいは試験、
検査、鑑定などを依頼し、保健衛生、安全その他に必要な配慮を行う。
(学校保健法第 16 条、同法施行規則第 25 条)
③
理科薬品を取り扱う者のすべてが薬品の取扱いや管理に注意するとともに、薬品
等の管理責任者を定め、その業務を明確にして、管理責任の体制を整備しておく。
④
校長及び理科を指導する教師は、理科薬品に関する法令についても知っておく必
要がある。関連法には、薬事法、毒物及び劇物取締法、消防法、火薬類取締法、学
校保健法、水質汚濁防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律等がある。
(2) 毒物及び劇物の種類
毒物及び劇物取締法第2条で、毒物、劇物及び特定毒物を具体的に列挙している。
(3) 毒物及び劇物の判定基準
毒物と劇物とを分ける判定は、動物実験に基づき、体重1 kg 当たりの致死量を求
めて行われる。これを人のからだに換算して、その目安を定める方法がとられる。
〔毒物・劇物の判定基準〕
区
分
毒
物
LD 50 が 30mg/kg 以下のもの
シアン化カリウム
劇
物
LD 50 が 30 ~ 300mg/kg のもの
塩酸、水酸化ナトリウム
(注)
判定基準(経口)
薬品の例
LD 50 は、動物実験で 50 %が死亡する薬品量(半数致死量)を体重1 kg 当た
りで求めた量である。
-2-
(4) 学校で毒物または劇物を取り扱うときの法令による規制
「毒物及び劇物取締法」は、毒物・劇物営業者、特定毒物研究者、特定毒物使用者
が毒物または劇物を販売・授与し、あるいはその目的で製造、輸入、貯蔵、運搬、陳
列、所持、使用することなどを取り締まることを本来の目的としている。
しかし、営業者及び特定毒物研究者以外であっても、厚生省令で定める毒物または
劇物を業務上取り扱う者に対しては、下記の規定が準用されることが、毒物及び劇物
取締法第 22 条第5項に示されている。
ここでいう、業務上取り扱う者の中には、学校で理科の指導その他に毒物及び劇物
を使用したり、使用するために保管したりする関係職員が含まれる。
(毒物または劇物の取扱い)
第 11 条 1
毒物または劇物の盗難・紛失を防ぐために必要な措置
2
取り扱う場所の外に飛散し、漏れ、流れ出、しみ出、地下にしみ込むこ
とを防ぐのに必要な措置
3
運搬中に飛散し、漏れ、流れ出、しみ出ることを防ぐのに必要な措置
4
毒物または厚生省令で定める劇物の容器に、飲食物の容器として通常使
用されるものを使用してはいけない。
(表示)
第 12 条 1
毒物または劇物の容器及び被包に「医薬用外毒物」(赤地に白ぬきの文
字)または「医薬用外劇物」(白地に赤字の文字)を表示する。
3
毒物または劇物を貯蔵し、または陳列する場所に「医薬用外毒物」また
は「医薬用外劇物」の文字を表示する。
(廃棄の方法)
第 15 条 2
政令で定める技術上の基準に従わなければ廃棄してはならない。
(事故の際の措置)
第 16 条 2
飛散、漏れ、流れ出、しみ出、地下にしみ込み、不特定または多数の者
に保健衛生上の危害が生ずるおそれがあるときは、直ちにその旨を保健所
または警察署に届け出るとともに、危害を防止するために必要な応急の措
置を講ずる。
(立入検査等)
第 17 条 1
厚生大臣または都道府県知事の求めに応じて、保健衛生上必要な報告を
しなければならない。また、毒物劇物監視員による、立入り、検査、質問、
薬品の必要最小限の分量の収去を受ける場合がある。
(5) 毒物及び劇物取締法第 15 条第2項に定める政令について
学校でも薬品の整理の際に、不注意に捨てたりして環境を汚染し、保健衛生上不測
の事態を起こすことのないよう、毒物及び劇物取締法施行令で下記のとおり規制され
ている。
第 40 条 1
中和、加水分解、酸化、還元、希釈その他の方法により、毒物及び劇物
並びに法第 11 条第2項に規定する法令で定める物のいずれにも該当しな
-3-
いものとすること。
2
ガス体、揮発性の毒物または劇物は、保健衛生上危害を生ずるおそれが
ない場所で、少量ずつ放出し、または揮発させること。
3
可燃性の毒物または劇物は、保健衛生上危害を生ずるおそれがない場所
で、少量ずつ燃焼させること。
4
前各号により難い場合には、地下1メートル以上で、かつ、地下水を汚
染するおそれがない地中に確実に埋め、海面上に引き上げられ、若しくは
浮き上がるおそれがない方法で海水中に沈め、または保健衛生上危害を生
ずるおそれがないその他の方法で処理すること。
4
危険物の取扱い
ここでいう危険物とは、「消防法」で定める発火性または引火性物品をさしており、
いうまでもなく火災予防を主眼としている。しかし、毒物や劇物、麻薬類、高圧ガス類
及び火薬類などは「危険物」に含まれないで、別の法律による取締りの対象とされてい
る。
(1) 消防法に定められている危険物
消防法では、類別と数量の両面から危険物を指定している。
類
別
性
質
物
質
の
例
第1類
酸 化 性 固 体
塩素酸カリウム、硝酸カリウム
第2類
可 燃 性 固 体
赤リン、イオウ、マグネシウムの粉末
第3類
自然発火性物質及び禁水性物質
ナトリウム、炭化カルシウム
第4類
引 火 性 液 体
ガソリン、エーテル、エタノール、灯油
第5類
自己反応性物質
セルロイド、ニトロベンゼン、ピクリン酸
第6類
酸 化 性 液 体
過酸化水素、濃硝酸
(2) 学校で取り扱うときの法令・条例などによる規制
①
指定数量危険物の貯蔵
消防法第 10 条別表で指定されている基準量を上回って、多量の危険物を貯蔵し
ている場合は、十分に留意をする必要がある。
②
指定数量未満の危険物(少量危険物)の貯蔵
少量危険物、その他政令で決める準危険物、特殊可燃物などの貯蔵等については、
各学校所在の市町村の火災予防条例で定められている。(消防法第9条の3)この
条例は各市町村とも共通の条文で定められており、消防法別表の指定数量の 1/5 以
上~指定数量未満の危険物を少量危険物と定めている。この場合、少量危険物取扱
所の表示が必要となる。
なお、危険物について、「品名を異にする2つ以上の危険物を同一場所において
-4-
貯蔵し、または取り扱う場合、当該貯蔵または取扱いに係る危険物の品名ごとの数
量をそれぞれの指定数量の 1/5 の数量で除し、その商の和が1以上となるときは、
当該場所は指定数量以上の危険物を貯蔵し、または取り扱っているとみなす。」と
の規定があり、この場合も少量危険物取扱所の表示が必要となる。
( 例) 燃料用アルコール残量 40 ç、金属ナトリウム残量 400 g(0.4 kg)、濃硫酸 24
本(12 ㎏)、エーテル4本(2ç)を貯蔵しているとすると、
40
0.4
12
2
+
+
+
= 0.5 + 0.2 + 0.2 + 0.2 = 1.1 > 1
80
2
60
10
基準量の1を超えるので、前記条例によりあらかじめ消防長に届け出るとと
もに、技術上の基準に従って危険物を取り扱わなければならない。
(3) その他の留意点
5
①
第1類と第2類、第1類と第4類、及び第4類と第6類を共存させてはいけない。
②
危険物の廃棄については、危険物の規制に関する政令で基準が示されている。
危険薬品の防災表示
危険薬品等の分類は、いくつかの法規で定められている。例えば、消防法においては
危険物第1類から第6類まで、毒物及び劇物取締法においては医薬用外毒物、同劇物及
び特定毒物、高圧ガス取締法においては可燃性ガス及び有毒ガスなどに区分されている。
しかし、これらの法規は、もともと限定された危険薬品等をそれぞれ取り扱っている
ので、これらの法規上の分類方法は、必ずしもすべての危険薬品等の性質を総合的に考
えて分類されたものではない。これに対して日本試薬連合会では 1997 年から薬品に表
示する危険内容を下のように示しており、危険薬品の性質を総合的に把握するのに便利
である。
[薬品に表示されている危険内容の表示語]
爆
発
性: 衝撃、摩擦、加熱等により爆発する物質
極 引 火 性 : 極めて引火性の強い液体(引火点が-20℃未満で沸点が40℃以下)
引
火
可
燃
性 : 引火性の液体(引火点が70℃未満)
性 : 火災により着火しやすい固体または低温で引火しやすい固体
自 然 発 火 性 : 空気中において自然に発火する性質がある物質
水反応可燃性:
水と接触して発火し、または可燃性気体を発生する性質がある物質
酸
化
性 :
可燃物との混合により、燃焼または爆発を起こす物質
猛
毒
性 : 飲み込んだり、吸入したり、あるいは皮膚に触れると非常に有害で死に至ることが
ある物質
毒
性 : 飲み込んだり、吸入したり、あるいは皮膚に触れると有害である物質
有
害
性 : 飲み込んだり、吸入したり、あるいは皮膚に触れると有害の可能性がある物質
腐
食
性 : 皮膚または装置等を腐食する物質
刺
激
性 : 皮膚、眼、呼吸器官等に痛み等の刺激を与える可能性がある物質
-5-
-6-