X線CT検査の安全性と品質維持に関する 茨城県放射線技

○地域貢献研究 T-8
研究課題
「X線CT検査の安全性と品質維持に関する
茨城県放射線技師会との連携調査研究」
○研究代表者 放射線技術科学科 准教授
○研究分担者 放射線技術科学科 教授
(4 名)
取手協同病院
○研究年度
佐藤 斉
森 浩一
准教授
門間正彦
助教
五反田留見
学外共同研究員 風見ひろみ
平成21年度
(研究期間) 平成20年度~平成22年度(3年間)
1.研究背景・目的
X 線コンピュータ断層撮影(computed tomography : CT)装置の技術進歩は目覚しく、医学診断レベルの向
上に大きく貢献している。特に近年では、多列検出器を搭載した高性能 MDCT (multi-detector array CT) 装
置が次々と開発され、検査適用範囲の拡大や新たな検査手技による疾病情報の取得が進められている。これ
に伴い、X線 CT 装置は急速に普及し、全世界のX線CT装置の 1/3 にあたる約 13,000 台が日本国内に設置
されている (2007 年度)。また、日本国内のX線CT検査件数も増加し、1979 年には 145 万件/年であったが、
2007 年では 3,655 万件/年に達していると推定されている。
また、X線CT検査は1回あたりの患者線量(被曝)が多いことが知られており、1回あたりの患者線量に検査
件数を乗じた集団線量は、日本国民が受ける総放射線被曝の 35 %以上を占めている。国際放射線防護委員
会(International Commission on Radiological Protection : ICRP)も CT 検査時に患者が受ける線量の問題は無
視できないとして、適正な線量コントロールと、そのための技術教育の重用性を指摘している(ICRP 87,
Managing Patient Dose in Computed Tomography.2003)。
しかし、MDCT 装置による X 線 CT 検査における患者線量評価法や検査品質評価手法はいまだに確立さ
れていない。新しい装置が次々と開発されており、放射線防護に関連する技術が新型装置に対して立ち遅れ
ている現状である。線量と検査品質を確認し、患者線量の適正化方策を適用するためには相応の労力と経費
が必要であり、適確な患者線量のコントロールを日常的に実施することができる医療施設は少ない。
平成 17 年度から地域貢献研究センターの研究課題「医用放射線の安全と有効利用に関する研究」として、
茨城県放射線技師会と連携した放射線診断検査の実態調査と患者線量評価システムの普及および線量低
減の啓蒙活動を実施して効果を挙げてきた。昨年度から特に X 線 CT 検査に焦点を絞った新たな研究課題
「X線 CT 検査の安全性と品質維持に関する茨城県放射線技師会との連携調査研究」として取り組んでいる。
本研究の目的を以下に示す。
1) (社)茨城県放射線技師会と連携し、県内の医療施設におけるX線CT検査の患者線量および検査水
準等に関する現地調査を継続的に行う。患者線量低減のための線量コントロール方策およびX線CT検
査の品質保証管理のためのシス テムを個々の医療施設で構築するための支援を行う。
2) 日常の医療現場で患者線量を簡易に精度良く把握するために開発した、X線CT用患者線量評価シス
テムの実地検証と普及活動を行う。
3) 日常の医療現場で簡易に精度良く実施可能な、必要な診断情報が得られていることを評価するための
X線CT検査品質評価システムを検討する。
2.研究方法・結果・考察
1)
(社)茨城県放射線技師会が継続的に施行している茨城県内医療施設調査活動と連携し、茨城県放射
線技師会被曝低減委員会,放射線管理委員会,RI研究会,各施設協力者らと共に放射線診断検査にお
ける患者被曝線量と画像診断水準に関する現地調査を実施した。対象とした放射線診断検査は,単純X
線,X線CT,乳房X線,血管造影・IVRである。
本年度の現地調査は,茨城県内の7施設で実施した.これまでの調査では,同じ種類の検査を受けた
場合の患者線量は,X線装置の種類や施設の検査手技の違いなどにより大幅な相違が認められている。
本調査結果では、線量の施設間差は検査によっては5倍以上であった。検査品質を一定水準以上に維持
したうえで線量差を小さくするための努力がさらに必要である.
2)
本学X線室に構築した診断X線校正標準センター(日本放射線技術学会)の維持と校正精度を向上する
ための検討を行った。茨城県内の医療施設が保有する診断X線領域で使用する線量計について,本年
度は12施設18件の比較校正を実施した。
また,本学の基準測定器は国家標準器(産業総合研究所)との相互比較により,不確かさ最大1.9 %で
校正値を得ている。本年度も産業総合研究所で比較実験を実施し、本学の基準測定器の健全性を検証し
た。また自動測定の導入等により測定精度の向上を図った。
本学で実施する線量計相互比較の不確かさは5.0 %と見積もられ,昨年度に対して向上が認められた。
3)
開発したX線検査室内の線量分布解析ソフトウエアの配布と取扱講習会を2回実施した。茨城県内,県
外から合計88名が参加した。
講習会は1日間で実施したが,受講者の理解度は様々であるため,講習プログラムの工夫や複数の講
師を育成することにより講習の効果が向上すると考えられた。
4)
開発したX線CT検査における患者線量評価ソフトウエアの検証作業を実施した。ソフトウエアはX線CT
装置のX線出力パラメータと検査条件から患者線量を算出するものである。X線CT装置の線量指標CTDI
の測定値と計算値とほぼ一致した。また、臓器線量の計算結果が実験値を再現するかどうか検証した。人
体ファントムとガラス線量計を用いた実験を4施設で実施して実用性能を確認した。
3.成果の発表(学会・論文等,予定を含む)
1) 野上恵子,佐藤 斉,円谷明男,宮内兼義.X線撮影装置の不変性試験法の検討.日本放射線技師会
雑誌 2009; 56: 249-258
2) 原 秀剛,井上年幸,西村克之,中地俊介,阿部慎司,佐藤斉,伊藤彰義,中島康雄.脳卒中検出のた
めの周波数強調処理-X線CTファントムシミュレーション-.医学物理 2009; 29 [Sup.2]: 338-339
3) 原 秀剛,井上年幸,西村克之,中地俊介,阿部慎司,佐藤 斉,伊藤彰義,中島康雄.急性期脳梗塞
の低吸収域検出におけるCT撮像パラメータの再考.医学物理 2009; 29 [Sup.3]: 225-226
4) 佐藤 斉.実践医療被曝線量測定法.日本放射線技師会雑誌 2009; 56(679):470-475
5) Hitoshi Sato, Ken Fujisaku, Hayato Yoneda.Development of Monte Carlo calculation system for
estimation of dose distribution in X-ray examination room.The 13th East Asia Conference of Radiological
Technologists; 2009; 78
6) Toshiya Akatsu, Hitoshi Sato, Yuji Kanakubo, Hiroko Taguchi, Katsumi Miyamoto.Evaluation of the
medical worker’s exposure in X-ray examination room.The 13th East Asia Conference of Radiological
Technologists; 2009; 77
7) 佐藤 斉,藤咲 賢,米田隼人.X線検査における患者線量算出の不確かさ.日本放射線技術学会第64
回総合学術大会(横浜); 2009年4月
8) 藤咲 賢,佐藤 斉,米田隼人,風見ひろみ.人体ファントム中の線量計配置と臓器線量測定の不確かさ.
第37回日本放射線技術学会秋季学術大会(岡山)2009年10月
9) 米田隼人,佐藤 斉,藤咲 賢.X線CT検査における主要臓器防護用シートを用いた水晶体防護効果の
検証.第37回日本放射線技術学会秋季学術大会(岡山)2009年10月
10) Hitoshi Sato, Koiti Mori,Ken Fujisaku,Hayato Yoneda,Development of EGS5 Monte Carlo toolkit for
estimation of dose distribution in X- ray diagnostic room.(J Med. Phys. 投稿中)
11) Hitoshi Sato, Masami ando, Daisuke Shimao . Investigation of absorbed radiation dose in
Refraction-Enhanced Tomosynthesis of a Brest by X-Ray Dark-Field Imaging. (Radiation Protection
Dosimetry 投稿中)