重力式コンクリートダムの横継目の揚圧力低減効果に関する - 土木学会

VI-259
土木学会第57回年次学術講演会(平成14年9月)
重力式コンクリートダムの横継目の揚圧力低減効果に関する解析的検討
独立行政法人土木研究所 正会員 ○市原裕之、山口嘉一、佐々木隆
1.はじめに
重力式コンクリートダムの基礎岩盤に施されるグラウチングのうち、コンソリデーショングラウチング(以
下「コンソリ」とよぶ)は、基礎岩盤の変形性の改良と堤体接触部付近の遮水性改良を、カーテングラウチン
グ(同「カーテン」
)は貯留水の浸透抑制と堤体に作用する揚圧力の軽減を目的としている
1)。また、堤体内
監査廊から基礎岩盤に設置される基礎排水孔は堤体底面に作用する揚圧力の低減と、揚圧力と基礎浸透流の監
視がその目的である。
本報告では、重力式コンクリートダム基礎岩盤のモデルを用いた浸透流解析を行い、グラウチング、基礎排
水孔および横継目が揚圧力低減に与える効果について基礎的な検討を行った。
2.解析条件
解析モデルを図-1 に示す。堤高 100m、堤敷長 77m の重力式
▽
上下流断面図
コンクリートダムを想定し、基礎岩盤は上下流方向に 277m、深
テンは上流端から 17.5m 地点に 75m 深で改良幅 1m、基礎排水
上流
m
0
0
1
度方向に 100m の解析領域を与えた。コンソリは 5m 深、カー
コンソリデーショングラウチング
17.5m
水頭固定境界
水頭固定境界
孔は上流端から 18.5m の位置に孔径 66mm ボーリングを 5m 深
m
5
m
5
7
m
0
0
1
基礎排水孔は通常ダム軸(解析領域の奥行)方向に 5m 間隔
カーテングラウチング
1m
不透水 境界
不透水 境界
で施工した状況を想定した。
全面
で設置されるため、1 孔当たり担当領域をモデル化した「5m モ
デル」
と、
横継目で挟まれる 1 ブロック全体をモデル化した「15m
m
5
モデル」を作成した。後者のモデルではカーテン部より下流の
77m
平面図
18.5m
基礎排水孔
0.06×0.06m
(5m モデル)
堤体横継目の着岩部でダム底部の浸透水が流出するものとし、
この影響を考慮するためダム軸方向に 1cm 幅の要素を設置し、
15m
図-1 解析モデル
これらに、表-1 及び 2 の解析条件による三次元浸透流解析を行
表-1 解析ケース
った。
ケース
CASE-0
3.解析結果
CASE-1
3.1
CASE-2
図-2 と 3 に 5m モデル 2)、図-4 と 5 に 15m モデルのダム底部
に働く揚圧力の計算結果をダム軸方向の平均として整理した。
5m モデルの図-2 と 3 の比較により、基礎排水孔による揚圧力
低減効果は明瞭に確認でき、コンソリをカーテンより上流部の
みに施工あるいは全く施工していない CASE の揚圧力が相対的
に低いことが分かる。また、図-3 の揚圧力の分布形状は、基礎
排水孔直下部から一定区間揚圧力が上昇しピーク後は緩やかに
低減している。
図-4 と 5 は、5m モデルの結果と比較して、低い揚圧力の計算
キーワード
連絡先
(15m モデル)
横継目部水頭固定
このカーテン部より下流においては水頭 0m の固定境界とした。
揚圧力分布
不透水境界
CASE-3
条件
未処理
コンソリ(上流)
コンソリ(全面)
カーテン
ケース
CASE-6
CASE-7
CASE-8
コンソリ(上流)+
CASE-4 カーテン
CASE-9
コンソリ(全面)+
CASE-5 カーテン
CASE-10
条件
コンソリ(上流)+
基礎排水孔
コンソリ(全面)+
基礎排水孔
カーテン+
基礎排水孔
コンソリ(上流)+
カーテン+
基礎排水孔
コンソリ(全面)+
カーテン+
基礎排水孔
表-2 岩盤等の透水係数
処
理
条
件
岩 盤 ( 無 処 理 )
岩盤(コンソリ部)
岩盤(カーテン部)
基 礎 排 水 孔
透水係数(cm/sec)
-4
-5
5.0×10 (75m以深1.0×10 )
5.0×10-5
-5
1.0×10
-0
1.0×10
重力式コンクリートダム,グラウチング,基礎排水孔,浸透流解析,揚圧力
〒305-8516 茨城県つくば市南原1−6 独立行政法人土木研究所水工研究グループ(ダム構造物チーム)
TEL 0298-79-6781
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土木学会第57回年次学術講演会(平成14年9月)
結果となっている。基礎排水孔の有無による影響は 5m モデ
0
ルほどではなく、今回の 15m モデルでは横継目部に与えた
時と仮定している分布形状に近いことがわかる。なお、平均
20
30
40
にする前の奥行方向の分布についても同様の傾向が確認さ
れている。
70
CASE-1
CASE-3
CASE-5
揚圧力分布(5m モデル、基礎排水孔なし)
上流端からの距離(m)
上流
図-6 と 7 は基礎排水孔の排出量とダム堤体下流基礎岩盤
60
CASE-0
CASE-2
CASE-4
図-2
3.2 排水量及び流出量
下流
50
揚圧力水頭(m)
揚圧力の分布形状が図-3 と比べ直線的な形状に変化し、設置
10
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
水頭固定境界が揚圧力の低減効果に大きな影響を与えてい
ることが分かる。また、図-5 で基礎排水孔位置から下流部の
上流端からの距離(m)
上流
0
10
20
30
40
下流
50
60
70
0
表面からの流出量及び横継目部分の排出量の計算結果につ
10
また、図-8 に 15m モデルの各 CASE における排出量と流
出量の合計と揚圧力ダム上下流方向の積分値を 5m モデルの
揚圧力水頭(m)
20
いて、ダム軸方向に平均したものである。
結果を 1 とした場合の結果を示した。一部に例外もあるが、
30
40
50
60
70
CASE-6
CASE-8
CASE-10
80
90
横継目排水により、排出量と流出量の合計値が増加し、揚圧
100
力が低下しており、その変化率は揚圧力における方が大きい
図-3
今回の検討により、コンソリとカーテン及び基礎排水孔に
10
20
30
40
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
よる揚圧力の低減効果の他に、横継目からの排水による揚圧
力の低減効果がある程度把握することができた。また、これ
下流
50
揚圧力水頭(m)
4.まとめ
上流端からの距離(m)
0
が上流コンソリのみの条件については、基礎排水孔の要素を
未処理岩盤上に設定するためであると考えられる。
揚圧力分布(5m モデル、基礎排水孔あり)
上流
ことがわかる。例外となった理由の一つとして、このモデル
CASE-7
CASE-9
60
CASE-0
CASE-2
CASE-4
70
CASE-1
CASE-3
CASE-5
は、従来の揚圧力分布の議論 3)に数値計算による検討を加え 図-4 揚圧力分布(15m モデル、基礎排水孔なし)
上流端からの距離(m)
上流
下流
るものである。今後は、モデルの精度向上のため、観測デー
0
10
20
30
40
50
60
70
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
タによる検証や、より複雑な基礎岩盤条件について検討を行
25
流出量(堤体下流部)
排出量(基礎排水孔)
20
15
10
5
0
1
2
3
4
5 6
CASE
7
8
CASE-7
CASE-9
揚圧力分布(15m モデル、基礎排水孔あり)
流出量(堤体下流部)
50%
排出量(横継目)
排出量(基礎排水孔)
40%
15
10
揚圧力(合計)
合計流量
30%
20%
10%
0%
-10%
-20%
5
-30%
-40%
-50%
0
0
図-6
20
図-5
CASE-6
CASE-8
CASE-10
横継目による変化率
25
ダム軸単位幅当流量(L/min/m)
ダム軸単位幅当流量(L/min/m)
【参考文献】
1) ( 財 ) 国 土 開 発 技 術 セ ン タ ー : グ ラ ウ チ ン グ 技 術 指 針 ・ 同 解
説,pp.37-50,(1983).
2)市原裕之,山口嘉一,佐々木 隆,宮内茂行:グラウチング及び基礎排
水孔によるコンクリートダムの揚圧力・浸透量低減効果,ダム講演会第
12 回研究発表会講演集,pp.4-6(2001.11).
3) 飯 田 隆 一 : コ ン ク リ ー ト ダ ム の 設 計 法 ,pp.80-102, 技 報 堂 出
版,(1992).
揚圧力水頭(m)
う必要がある。
9 10
ダム軸単位幅当流量(5m モデル)図-7
0
1
2
3
4
5 6
CASE
7
8
9 10
0
1
2
ダム軸単位幅当流量(15m モデル) 図-8
-518-
3
4
5 6
CASE
7
8
9
計算結果変化率
10