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自律走行ロボットの開発
自律走行ロボットの開発
ーつくばチャレンジ 2008 に参加してー
○坂本巧,岩崎健吾,小林誠,近藤祐太,村田慎太郎,佐渡裕児,浜藤正輝,
山崎亮一,大庭亮,永田実,木下雄太郎,市田剛崇,瀧田直,中西巧,服部文昭,
市野陽太,山下大輔,田中辰弥,谷正史,鈴木亮一,小林伸明
(金沢工業大学 夢考房自律走行車プロジェクト)
道路検出には,CCD カメラから得られる画像を用い
はじめに
1.
て図 2 に示す流れで処理する.①原画像をグレー化し,
金沢工業大学には,ものづくり関係の施設として夢
考房
1)
②色の濃さを閾値として二値化,③白黒を簡単化して
がある.ここでは,学科,学年の垣根を越えた
③白い部分の輪郭を検出することで道路を認識した.
チームによる問題発見解決型の課外活動を夢考房プロ
ジェクトと称して 15 のプロジェクトを展開している.
START
Robot
その一つに自律走行車プロジェクトがあり,現在 17
名の学生が参加しており,この内の 2 名は 1 年次から
参加し現在卒業研究に相当する科目のテーマとして取
組んでいる.
2007 年度は,1 号機を開発してつくばチャレンジに
22.5 度
参加し 1km のコースの内 995m を走行した.完走と認
GOAL
定されたものの,①GPS のゆらぎで 5m 手前をゴール
と認識する,②障害物を避けるときにコースアウトす
図1
進行方位の決定方法
る,③影を障害物として認識する,等の問題が明らか
になった.
本稿では,1 号機の構成を示すと共に,これらの問
題に対しての解決策と改善点について述べる 2).
図2
主な機構は,前輪操舵,後輪駆動の 4 輪自動車型で
あり,制御システムの機能を大別すると,進行方位の
2.3
決定と道路検出である.
2.1
②簡単化
①二値化
自律走行ロボット 1 号機の特徴
2.
③輪郭検出
道路検出手順
1 号機の課題
先に述べた 1 号機の問題点を改善すべく次のような
課題を策定した.
進行方位の決定
① GPS の精度向上
図 1 につくばチャレンジ 2007 のコースを示す.ロボ
より高精度な DGPS を導入する.
ットは,GPS により現在の座標を認識しており,これ
② コースへの復帰
とゴール座標とを比較して走行方位を決定,方位セン
進行方位の決定に,経路追従動作を付加する.
サにより方位を認識し走行する.
③ 影の認識
使用した GPS はゆらぎが 30m 程度存在すること,
画像処理方法を変更し,影の影響を受け難くする.
方位センサの分解能は 16 方位であり,1 方位の範囲が
④ 障害物の特定
22.5 度と広く,コースアウトする場面が多かった.
レーザレンジセンサを導入し確実な障害物特定を行
2.2
道路検出
なう.
1
これらの課題に取組み,制御システムに改良を施し
MTSAT Satellite-based Augmentation System)に対応し
た DGPS を搭載した.両者の GPS にて本学 7 号館周辺
た.これを 1 号機‐改と称す.
の同じポイントで 10 分間定置測位した結果を図 4 に示
自律走行ロボット 1 号機-改
号機 改のシステム構成
3.
3.1
す.ピンクのプロットが 1 号機のものであり,9×27
システム構成
mの範囲でゆらぎが確認できる.一方,1 号機-改のプ
制御システムの構成を図 3 に示す.自律走行のため
ロットは破線で囲った部分であり,40cm 以内のゆらぎ
の 7 種類のセンサを取付け,図中左上のセンサほど操
に収まっている.今回採用した DGPS は,現在の位置
舵制御の優先順位が高い構成としている.操舵処理を
情報の確度を表す位置精度劣化度が出力でき,確度情
次に示す.
報が最も高い場合,0.5m 以内の精度が保障される 3) .
超音波センサにて物体を検知した場合は,他のセン
1号機
サに関係なく停止,後退して方向転換する.レーザレ
ンジセンサと CCD カメラからの情報により,道路検
Road
出と障害物の検出を行ない,DGPS で目的地と現在地
Parking bicycle
27 [m]
9 [m]
の位置関係を認識する.また,方位センサにてロボッ
トの進行方位を認識し,これらの情報を総合し操舵角
1号機‐改
と走行速度を決定している.なお,操舵角は 7 段階,
No.7 Building
(Four floors)
走行速度は前後合わせて 4 段階で制御している 2).
CCD カメラと方位センサについては,調整が間に合
図4
わず,つくばチャレンジ 2008 での使用を断念した.
Input
Micro
computer
Control
unit
Motor
driver
M
Left rear wheel
Ultrasonic wave
sensors
経路追従動作は,DGPS の確度情報が”2”までは,GPS
の座標を基に経路を追従するが,確度情報が”2”を超え
Speed
R
た場合には,デッドレコニングにて,コントローラ内
の地図情報をもとに経路を推定して追従する 2).
Motor
driver
M Speed
R
Right rear wheel
Leaser range
sensor
GPS 測位の比較
2) 経路追従動作の付加
Output
Controller
Road
経路追従の方法は,図 5 に示すように,ポイント間
を直線で結び,その直線を追従させるもので,直線と
Motor
driver
PC
CCD camera
Speed
Speed
Angle
ロボットとの距離が 1m 以上の場合は 30 度の進入角度,
M Angle
P
Steering
1m 未満の場合は 10 度の進入角度で追従させた.
30 度
Micro
computer
DGPS
10 度
h
h ≧ 1m の場合
Direction sensor
M : Motor,
R : Rotary encoder
図3
3.2
P : Potentiometer
経路から離れている
制御システム構成
図5
h
h < 1m の場合
経路に近い
経路追従方法
デッドレコニングの処理方法を図 6 に示す.地図上
課題に対する取組み
の走行可能領域を黒く塗り,予め引いた白線を追従さ
1) GPS の高精度化
せるもので,障害物等を避ける際は白線から外れるが,
1 号機では,大会前日のテスト走行時にゴールを約
10m 通過後停止するよう設定したが,GPS のゆらぎの
黒い領域からは外れないよう制御する.この地図の距
範囲の見積もりが甘くゴール手前 5m で停止した.そ
離は GPS 座標と対応させている 2).デッドレコニング
のため,運輸多目的衛星用航法補強システム(MSAS:
の精度は,25m の走行で前後約 2m,左右約 4m の誤差
2
があり,この性能ではつくばチャレンジのコースを走
る障害物は避けることが可能である.しかし,曲がり
行させることができなかったため使用を断念し,
角で,3m 先の障害物を検出した場合に,経路から大
DGPS のみの経路追従で挑むこととなった.
きく離れ,脇道に入り復帰できない場面があったため,
曲がり角は 1m に範囲を狭めて走行することで解決で
Parking bicycle
きた.
Robot
3m
Road
No.7 Building
(Four floors)
図6
1m
180 度
デッドレコニング方法
曲がり角
直線走行
3) 画像処理方法の変更
図8
道路検出の精度向上を図るために,路面中の影を障
害物として認識しないように,通常の RGB 表色系を
4.
HSV 表色系(H:色相,S:彩度,V:明度)に変換し,
レーザレンジセンサでの障害物検出
つくばチャレンジ 2008 の結果
この内の S 画像を使用する.S 画像は,色が鮮やかで
コースの特徴として特に難しいと感じた点は,①道
ない影等をより黒く表示するもので,この特性を利用
の左側のみの走行が求められる,②左側のさらにキー
して図 7 のようにグレー画像(a)と S 画像の色を反転し
プレフトが要求される,③折り返しが存在し,GPS の
た画像(b)を合成することで(c)に示すように影をほぼ
誤差が大きいことである.今回 GPS の確度が 2 以上で
2)
.しかし,この画像処理と
あった箇所は 2 箇所あり,いずれも 5m 以上の誤差が
レーザレンジセンサとの統合が間に合わず,つくばチ
あった.特に折り返し地点は合同試走会の時からクリ
ャレンジ 2008 では使用を断念した.
アする事ができず試行錯誤を繰り返した.
消すことが可能となった
11 月 20 日(木)の 100 m トライアル走行は 4 分 5 秒
のタイムで完走し,本走行へ出場することができた.
shadow
21 日(金)の本走行は,折返し地点のパイロンを回れず,
往路を引き返す結果となり,記録は 450 m 地点でリタ
(a) Gray image
イアとなった(図 9).
確度 2 以上の箇所
(c) Composed image
START / GOAL
450m
(b) Negative S image
図7
S 画像を用いた影の除去
4) レーザレンジセンサによる障害物の特定
1 号機は,超音波センサだけで障害物を検知したが,
建物
1.3m 未満の近距離でかつ 120 度の範囲でしか検出でき
往路を引き返し,
リタイアとなる
なかった.今回,このセンサに加えてレーザレンジセ
ンサ(30m,270 度)を新たに取付け障害物の認識精度の
図9
向上を図った.図 8 にその方法を示す.
直線走行時は,3m,180 度の範囲で障害物を検出し,
5.
最も広く空いた領域に走行する.歩行者や停止してい
3
つくばチャレンジ
2 号機へ向けての問題提起
1 号機-改の問題に対する改善策について
号機 改の問題に対する改善策について
• 衝突しない ································· 10%
1) GPS のゆらぎで 5 m 手前をゴールと認識する
• 小さなロボットを認識する ············ 0%
5.1
DGPS の確度が良い場合は正確に位置を認識するこ
• 後方確認をする ··························· 0%
とができたが,デッドレコニングでは未検証である.
• キープレフトが完全にできる ········· 0%
2) 障害物を避けるときにコースアウトする
• デッドレコニングの実現 ··············· 0%
経路追従動作を付加することでコースに復帰可能と
• GPS の精度に性能が左右されない ··· 0%
なったが,デッドレコニングでは未検証である.
• 人間の行動を邪魔しない ··············· 0%
3) 影を障害物として認識する
また,本チームの技術レベルから考えた完成度とし
レーザレンジセンサの導入により解決することがで
ては,90%と考えている.残りの 10%はデッドレコニ
きた.画像処理でも,ソフトウェアレベルで実現して
ングの実現ができなかったことによる減点である.
いるため,今後走行実験を行ない,検証していきたい.
質問 3
5.2
最大の理由は
2 号機の課題
自己位置推定方法に関する知識,技術の不足であっ
つくばチャレンジ 2009 に向けて 2 号機の開発を開始
たと認識している.
した.フルモデルチェンジを予定しており,デッドレ
質問 4
コニングを実現させ,レーザレンジセンサと画像処理
完走できなかった理由
GPS に依存した走行方法であったこと,デッドレコ
を統合して環境認識を充実させたいと考えている.
ニングが実現できなかったことが理由と考える.具体
特に,1 号機-改は,操舵角 0 度で直進させても左右
的には,折り返し地点で,GPS の精度が低下しロボッ
に曲がってしまう特性であり,デッドレコニングに影
トの正確な位置が把握できなくなっていたためリタイ
響を与えていたため,機械構成の精度向上を図り,直
アとなった.それについては,9 月 2 日の合同試走会
進性とコーナリング特性を改善する.また,段階的で
の段階から認識していた.
あった操舵制御と速度制御を連続的で滑らかな動作に
質問 5
なるよう性能向上に取組む予定である.
6.
ロボットの完成度が 100%まで行けなかった
本チャレンジに参加して得られた最大のもの,
事柄は何であったか
おわりに
自チームの技術力のほぼすべてを出し切ることがで
全参加チームに設けられた質問について下記に記す.
きたことであり,これはメンバーの自信となった.ま
システムを設計・開発するに当たって,何か
た,大会参加 47 チーム中,27 チームを調査させてい
ら始めて,何に一番時間を費やしたか
ただき,情報収集を行なうことで自チームに不足して
画像処理プログラミング,電子回路,マイコンプロ
いる点を見つけることができたことは,大きな財産と
質問 1
なった.
グラミングの勉強会を実施し,メンバーのスキル向上
から始めた.最も時間を費やしたのは,経路追従シス
最後に,このような機会を与えてくださったつくば
テムの実現であり,4 月から試走を繰り返してきた.
チャレンジ実行委員会および全参加者の方々,活動を
質問 2
続けさせてくれた大学関係者に深く御礼申し上げる.
自分で考えてロボットの完成度は何%程度か
文
つくばチャレンジで求められているロボットの性能
献
1) 出村公成 他:金沢工業大学における夢考房プロジェクト教
としては,40%と考えている.つくばチャレンジのル
育, 工学教育, 第 54 巻, 第 6 号 (2006)
ールなどから,ロボットに必要な機能を項目として挙
2) 坂本巧 他:自律走行ロボットの開発―経路追従と道路検出
げ,各々10%の重みを付けて自己評価した.
について―,SI2008 予稿集
• ハードウェアが確実に動作する ·······10%
3) 伊藤恒平 他:DGPS データと比例航法を用いた移動ロボッ
• 自ら走るべきコースを選べる ··········10%
トの誘導に関する一考察,SI2007 予稿集
• ゴールで停止できる ······················10%
4