硫黄島の火山性地殻変動に関する研究 (第 1 年次) 実施期間 平成 14 年度∼平成 15 年度 地理地殻活動研究センター 地殻変動研究室 矢来 博司 1.はじめに 硫黄島は 1889 年以来小規模な水蒸気爆発が 15 回以上発生している非常に活発な火山である.この 硫黄島では長期的には 20cm/year を上回るような急激な隆起が続いており,地殻変動が非常に激しい ことがわかっている.最近では,2001 年 9 月 21・22 日,10 月 19 日に噴火しており,GEONET で の観測により噴火に伴う地殻変動が捉えられている.また,島内での水準測量や辺長測量の結果は, 非常に複雑な変動パターンを示している.これらの変動は火山活動と密接に関連していると考えられ, 硫黄島の火山活動を考える上で重要である. 現在,硫黄島には GEONET の観測点が 2 点設置されているが,地殻変動の変動源を推定するため には観測点密度が十分ではない.そこで,本研究では,地殻変動を詳細に明らかにすることを目的と して,地殻変動を繰り返し観測する点を高密度に設置し,繰り返し観測することにより硫黄島の地殻 変動場を明らかにする.また,観測により得られた地殻変動場から,その変動源を推定する. 2.研究概要 硫黄島において,GPS による繰り返し観測を実施し,硫黄島の地殻変動場を把握する.観測により 得られた地殻変動場から変動源を推定する.これまでに行われた地震活動や重力異常などの観測結果 と本研究により求められた地殻変動源とを比較し,硫黄島の火山活動について考察する. 3.平成 14 年度実施内容 硫黄島島内において,繰り返し観測を実施する観測点の選点を行い,島内 17 箇所において GPS に よる観測を実施した.観測は 3 カ月おきに行い,2002 年 8 月,11 月,2003 年 2 月に実施した.観測 時間は,2002 年 8 月は 6 時間,2002 年 11 月と 2003 年 2 月は 12 時間であり,サンプリング間隔は いずれも 30 秒である. 4.得られた成果 硫黄島の島内 17 箇所における GPS 観測の結果,元山付近を中心とした収縮と,南西部での拡大隆 起が捉えられた(図 1) .これは干渉 SAR の結果と調和的である.また,島全体が隆起していること も明らかとなった.元山付近の変動はほぼ一定の割合で進行しているが,南西部の変動は時間の経過 と共に減衰していることがわかった. 地殻活動観測データ総合解析システム(鷺谷他,2003)を用い,2002 年 8 月∼11 月の水平変位か ら変動源を推定した(図 2).求められたパラメータを表 1 に示す.元山付近の変動は球状圧力源の体 積減少で説明が可能であり,干渉 SAR で求められた力源の位置とほぼ同じ場所に求まった.南西部の 開口断層については,現在のところ preliminary なモデルであり,南西部における変動を完全には説 明できていない.また,島全体の隆起については現在のモデルでは説明できず,今後の課題である. 5.まとめ 硫黄島において GPS による繰り返し観測を実施した.観測の結果,元山付近を中心とした収縮と, 南西部での拡大隆起が捉えられた.また,島全体が隆起していることもわかった.元山付近の変動は ほぼ一定の割合で進行しており,球状圧力源の体積減少で説明が可能である.南西部における変動お よび島全体の隆起については,現在のモデルでは完全には説明できないため,今後の観測結果を加え, モデルを改良していく予定である. 図1 GPS キャンペーン観測により得られた硫黄島の地殻変動.つくば固定で解析した結果を比較して得られ た変位ベクトルに,ユーラシア大陸安定部に対する筑波の速度(Heki, 1996)を加え,硫黄島付近のフィ リピン海プレートの運動(Nuvel-1)を差し引いている.(a)∼(c):水平変動,(d)∼(f):上下変動.(a),(d): 2002 年 8 月∼11 月,(b), (e):2002 年 11 月∼2003 年 2 月,(c),(f): 2002 年 8 月∼2003 年 2 月. 図2 GPS 観測結果から推定された硫黄島の地殻変動源.2002 年 8 月∼11 月の変位(図 1(a))を用いた. (a):球状圧力源による変位,(b):開口断層による変位,(c):残差. 表 1 推定された変動源のパラメータ 変動源 Lat. (°N) Lon. (°E) Depth (km) Length (km) Width (km) Strike (°) Dip (°) Rake (°) Slip (m) Open (m) Volume change (m3) point source 24.798 141.322 3.0 − − − − − − − -1.84×106 open crack 24.789 141.301 1.1 3.2 1.8 170 30 0 0.1 0.57 3.28×106
© Copyright 2024 ExpyDoc