土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度) Ⅰ-307 半雪覆型防音壁の高速列車通過時挙動の推定 鉄道総研 正○曽我部正道 鉄道総研 正 後藤 恵一 鉄道・運輸機構 正 山東 徹生 鉄道総研 正 徳永 宗正 鉄道総研 正 浅沼 潔 鉄道・運輸機構 正 德富 恭彦 半雪覆型防音壁は,積雪地帯において線路内への降・積雪を低減するために開発された防音壁構 1.目的 造の一つである.図-1 に半雪覆型防音壁の概念図を示す.本形式は,場所打ち RC 高欄に傾斜部を含む H 型鋼支 柱を埋め込み,この支柱に空洞 PC パネルを落とし込んだ構造となっている.防音壁のレールレベルからの高さ は一般に,線路周辺環境等の類型区分に応じて設定されるが,本形式では従来よりも 1m 程度高い,高さ 3.5m の 構造も提案された.このため,防音壁の剛性低下に対する検討が必要であると考えられた.以上のような背景か ら,本研究では,高速列車通過時の列車風圧による防音壁の挙動について数値解析により検討した. 検討には,車両と構造物との動的相互作用解析プログラム DIASTARS III を用いた. 2.解析方法 図-2 にラーメン高架橋,地覆及び防音壁の解析モデルの概念図を示す.ここで,地覆,張出スラブ,路盤コン クリート一体型縦梁,中間スラブはそれぞれシェル要素でモデル化した.横梁,柱は梁要素でモデル化した.メ ッシュスケールは 0.5m 前後を基本とした.縦梁は,軌道スラブの影響は無視し,軌道重量のみを考慮した.防 音壁の支柱は梁要素でモデル化した.落とし込み PC パネルは梁要素による格子構造でモデル化した.PC パネル は単純支持とした.解析モデルにおける総節点数は 2768,総要素数は 3300 となった.減衰定数ξは,全モード に対して 2%を適用した.構造物の柱下端は固定とした. 図-3 に車両の解析モデルを示す.車両の解析モデルは,車体,台車,輪軸を剛体と仮定し,これらを,ばねと ダンパーで結合して構成した.列車は 12 両編成とした.車輪とレール間の接触モデルは,鉛直方向については Hertz の接触ばねを,水平方向については,車輪とレール未接触時はクリープ力を,接触時はレールの小返りばね を考慮した. 図-4 に列車風圧モデルを示す.列車風圧は,列車の先頭と後尾の圧力変動により生じる.列車風圧は,既往の 測定結果に基づき荷重列でモデル化した 1),2).風圧のピーク値は列車速度の 2 乗に比例と仮定した.防音壁高さ方 向への分布については,高さ 0.5m と 3.2m での風圧測定結果から直線補間で近似した. 図-5 に固有値解析結果を示す.高架橋全体の 1 次の固有振動数は 2.8Hz であった.また,地覆 3.解析結果 と防音壁倒れの 1 次モードは 4.0Hz であった.本構造形式に関して,建設直後の高架橋においてインパルスハン マ加振により 1 次固有振動数を測定したところ,固有振動数は 3.8Hz であった.よって本解析モデルは概ね妥当 であると考えられる.ちなみにレールレベルからの高さが 2.5m 前後の防音壁の場合,地覆と防音壁の倒れ 1 次 z 車体 ψ 台車枠 zT ψ T zW 輪軸 柱:梁要素 ψW φW 連結器 K3, C3 zT ψT Kwz, Cwz Kwy K1, C1 Kwx K 2, C 2 台 車 車 体 θ ψ 軸ばね 台 車 zW θT y T ψW θW 非線形ばね 線形ばね ダンパー y yW F δ 非線形ばね (ストッパ) 図-3 車両の解析モデル PCパネル:梁要素 (格子モデル) 地覆:シェル要素 風圧(N/m2) 図-1 半雪覆型防音壁の概念図 H鋼: 梁要素 φ 空気ばね φT 輪軸 z 1000 800 600 400 200 0 -200 -400 -600 高さ0.5m 高さ3.5m -50 0 50 100 150 200 250 300 列車先頭からの距離(m) 張出スラブ、中間スラブ、縦梁、横梁:シェル要素 図-2 ラーメン高架橋と半雪覆型防音壁の解析モデル 図-4 列車風圧モデル(12 両編成,260km/h) キーワード 防音壁,列車風圧,動的相互作用解析,共振 連絡先 〒185-8540 東京都国分寺市光町 2-8-38 公益財団法人 鉄道総合技術研究所 構造力学 -613- TEL 042-573-7290 350 土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度) Ⅰ-307 第5支柱の水平変位(mm) 第5支柱の曲げモーメント(kN・m) 第5上側パネルの水平変位(mm) 第5支柱の曲げモーメント(kN・m) 軌道中心水平変位(mm) 第5支柱の水平変位(mm) モードは,解析,実測とも 8~10Hz 程度となる. 図-6 に時刻歴波形の例 (列車速度 260km/h)を示す. 図-6(a)の高架橋載荷側軌 (a)高架橋全体 1 次(2.8Hz) (b)地覆+防音壁倒れ 1 次(4.0Hz) 道中心のスパン中央の水平 図-5 固有値解析結果 変位では,高架橋の水平動 → H鋼上端 に共振増幅挙動がみられる. 第1スパン中央 ↓ ↓ ↓ ↓ H鋼折れ点 → 第2スパン中央 その振動数は図-5(a)に相 第3スパン中央 地覆上端 → 地覆下端 → 当する 2.9Hz である.列車 0.4 5 0.2 速度 72.2m/s と車両長 25m 0 0 から加振周波数は 2.9Hz と −0.2 求まり,1 次共振であると −0.4 −5 0 2 4 6 8 0 2 4 6 8 考えられる 3).図-6 (b)の 時刻(sec) 時刻(sec) 第 5 支柱付近の水平変位か (a)高架橋載荷側軌道中心の水平変位 (b)第5支柱の水平変位 ↓ ら,H 鋼において変位量が ↓ H鋼折れ点 → ↓ ↓ ↓ 起点 中央 急増していることが分かる. H鋼下端 → 終点 5 5 また,列車風圧の影響,図 -5(b)のモードの影響も波 0 0 形に現れている.図-6(c) の第 5 上側パネルの水平変 −5 −5 0 2 4 6 8 0 2 4 6 8 位から,列車進入時の PC 時刻(sec) 時刻(sec) (c)第5上側パネルの水平変位 (d)第5支柱の曲げモーメント パネルの純たわみは 0.2mm 図-6 時刻歴波形の例(列車速度 260km/h) 程度に留まっていることが → 分かる. 図-6(d)の第 5 支柱 ↓ ↓ H鋼上端 → H鋼折れ点 → H鋼折れ点 の曲げモーメントからは, H鋼下端 地覆上端 → → H鋼下端 (静的) 地覆下端 → 列車進入時,退出時に設定 20 20 した列車風圧に伴う応答が 10 10 速度の 3.1乗則 生じ,それぞれのピーク直 後に 4Hz の自由振動が生じ 0 0 0 100 200 300 400 0 100 200 300 400 ていることが分かる. 列車速度 (km/h) 列車速度 (km/h) 図-7 に列車速度と防音 (a)第5支柱の水平変位 (b)第5支柱の曲げモーメント 壁の応答の関係を示す.水 図-7 列車速度と防音壁の応答の関係 平変位,支柱曲げモーメン トともに速度依存性が強い結果となっており,H 鋼下端の曲げモーメントは列車速度の 3.1 乗で推移する結果と なった.図-7(b)の■H 鋼下端(静的)は,比較のため各列車速度の列車風圧荷重と列車を静的な移動荷重として解 析した検討結果であり,□と■の差が防音壁と構造物の動的な寄与分に相当する.これより発生モーメントの増 加の主因は列車速度の増加に伴う風圧の増加であることが分かる.発生モーメントは設計列車速度である 260km/h において 4.7 kN・m であった.これは設計荷重である風圧 3kN/m2(風速 50m/s)による発生モーメント 55kN・m よりも小さな値である.別途実施した静的非線形解析によれば,支柱下端のコンクリートへの埋め込み 部における,コンクリートのひび割れ発生モーメントは 10.3kN・m,H 鋼,地覆を含めた全体系の降伏時におけ る支柱下端の発生モーメントは 105kN・m であった. よって本構造形式の振動性状は安定的であると判断される. ①高さ 3.5m の半雪覆型防音壁の 1 次固有振動数は数値解析で 4Hz,実測で 3.8Hz であった.②H 4.まとめ 鋼支柱の曲げモーメントは,列車進入時,退出時に列車風圧に伴うピークが生じ,ピーク直後に 4Hz の自由振動 が続く.③H 鋼下端の曲げモーメントは列車速度の 3.1 乗で推移する結果となっており,その主因は列車速度の 増加に伴う風圧の増加であると考えられる.今後,検討パラメータを増やし検討の深度化を図る. 参考文献 1) 長谷川敦史,曽我部正道,杉本一郎,鳥取誠一:高速列車走行に対する高架橋上防音壁支柱の安全性評価,鉄道技術 連合シンポジウム(J-RAIL2005),S7-1-8,pp.121-124,2005,2) 菊池勝浩,内田一男,中谷浩二,吉田康夫,前田達夫,柳澤三憲: 三次元境界要素法による列車通過時の圧力変動解析,鉄道総研報告,Vol.10,No.2,pp.47-52,1996,3) 曽我部正道,松本信之, 藤野陽三,涌井一,金森真,宮本雅章:共振領域におけるコンクリート鉄道橋の動的設計法に関する研究,土木学会論文集,No.724/ Ⅰ-62,pp.83-102,2003 -614-
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