関西若手社員交流会が海外(韓国)研修を実施 - 真空工業会

日本真空工業会関西支部
若手社員交流会 第一回海外研修旅行 韓国研修旅行報告
(2009 年 10 月 14 日~16 日(3 日間)実施)
神港精機株式会社 高田 弘喜
(関西支部若手幹事長)
1.はじめに
昨年(2008 年)関西支部若手社員交流会において、海外研修の話が持ちあがったことがきっ
かけとなり、さらに当工業会の主旨である「世界視野で真空を語ることのできる人材育成、日本
から世界に向けた真空産業の発信」に賛同いただいた各会員企業のご協力のおかげで、この
たび若手社員交流会初の海外研修となる韓国研修旅行が関西支部において実現しました。
くわえて、本年 9 月に開催された真空展 2009 への韓国真空研究組合(KOVRA)会員企業の
出展もあり、日本 JVIA、韓国 KOVRA の交流・懇親を図るという目的のためにも、真空展が本海
外研修実施の大きな弾みとなりました。
募集当初、参加者の確保が非常に難しい状況ではありましたが、参加各企業の当主旨への
ご理解・ご協力をいただき、15 名の参加をもって韓国へ訪問することができました。本研修旅行
に関わっていただいた全ての関係者の皆さまに感謝いたします。
今回の韓国研修旅行のメインテーマとして以下を計画しました。
1. KRISS (韓国標準科学研究院)訪問 (韓国の産業規格・標準等の研究機関)
2. i-SEDEX 2009(韓国電子産業大展)展示会視察 (半導体・ディスプレイ関連技術展示会)
3. KOVRA(韓国真空研究組合)メンバーとの懇親会
技術立国を目指す我々にとって最も身近な国、韓国がどのような戦略で国際競争を戦ってゆ
くのか、またその戦略の中で真空関連についてはどのような方針を持っているのかなど視察を
通して学ぶとともに、我々と同じく真空産業に携わる韓国真空研究組合のメンバーとの交流を
通して日韓の真空分野における今後の相互発展・協力関係を築くことを目的としました。
2.KRISS(韓国標準科学研究院)訪問
10 月 14 日、関西空港、羽田空港からのフライトに搭乗し金浦空港到着ロビーにて待ち合わせ
ました。関西組(11 名)、羽田組(4 名)とも無事到着し、空港にて合流、直接専用バスにて大田
市(デジュン)にある KRISS へ向かいました。
KRISS のある大田市は、人口約 150 万人、ソウル中心部より 160km の距離に位置する都市
です。市内には科技大学や研究機関など約 40 の研究所が集まり、科学技術都市となっており、
日本のつくば地区の様です。現在韓国では、ソウルに集中している行政機関を大田市に移すと
いう計画が進行しているようで、今後注目度が増す都市となることは明らかです。
KRISS は韓国の国家が資金援助を行なう、国のあらゆる規格標準の研究、策定を行なう研究
機関です。KRISS 内では約 400 名の研究職員が勤務しており、産業の基礎となる規格標準(温
度、重量、分子量、電波、寸法、圧力など)や Si 単位についての研究を実施しています。
KRISS の起源は、1966 年、米国ジョンソン大統領が韓国の技術力を危惧し、土産として持ち
込んだスケール(重量を計測するための標準スケール)にはじまるそうです。
その後 1975 年からは、韓国の産業標準を国際標準に近づける為の研究を行う国の機関となり
ました。研究分野は光・電波・寸法・重量・温度・圧力など 1709 分野まで広がり、韓国政府から
の資金援助を受けて名実共に国家の規格標準研究機関となりました。
KRISS 入口にて記念撮影
今回我々が見学させていただいた「真空」分野に関しては、300,000m2 の敷地内に 3 棟の
Vacuum Center(真空センター)があり、日夜真空に関する研究が行なわれています。
真空センターでは、1999 年以来 10 年間に渡って、真空に関する Si 単位の研究、真空システ
ム、真空を利用した製品の製造プロセス研究、コンポーネントである真空計の評価、真空ポンプ
の評価、材質の分析、半導体関連ガスの測定・分析、プラズマ処理の開発など、真空に関する
あらゆるテーマの研究が行なわれています。国からの資金援助を受け、自国産業の発展のた
めの最重要研究機関として実験データの一般企業への提供などを行なっています。
KRISS を訪問して特に印象に残ったのが、韓国の大企業である SAMSUNG や LG などの企業
へ実験データを提供しているということでした。そのことはすなわち、韓国が国家戦略としてこれ
らの大企業を保護し、国際競争に打ち勝てるようにすることで、世界に誇れる企業体にするとい
う明確な意思だと思われます。
このような国家主導によるトップダウンの産業保護・育成を行なう韓国の国としての対応は驚
きとともに、急速に国内産業を発展させるためには最も近道な手段であると実感しました。
次に見学した真空センター内の真空ポンプ評価実験室ではインターナショナルブランドの真
空ポンプや日本製真空ポンプの排気特性測定、騒音、振動測定、材質チェック、分解・組立によ
る内部構造のチェック、真空計の精度測定など、他国ブランドの真空ポンプや真空計に関する
あらゆる評価実験を行なっています。
同実験室は 8 年前から本格的に他国ブランドのコンポーネント評価テストを実施しており、テ
ストデータは報告書にまとめられて SAMSUNG などに提供されているとのことです。
韓国では半導体やディスプレイなどの製造設備
をユーザーが導入する際に、装置本体と排気ポ
ンプとをユーザーが個別に購入し、アセンブリし
て使用するという方法が一般的であり、これらの
真空ポンプ評価データは排気ポンプの個別購入
の際に基準とされる重要なデータであるとのこと
でした。
韓国としては、自国産業・企業を保護・育成しな
がら、他国の技術を適正価格で入手するという、
うまくできたシステムで他国製品や技術と付き合
っている印象を受けました。
その背景には設備投資を継続し、大量の設備を
購買する SAMSUNG や LG などの巨大な資金力
があることはいうまでもありません。
KRISS 真空センターでは、真空に関する研究
のほか、KS(Korea Standard、日本の JIS にあた
る標準)の策定や工業標準についての国際比較
を行なっており、真空に関する国際的な立場での発言力を増しています。
KRISS 研究員の方の話から、彼らの仕事は国の予算がついていることからも、自信に満ちあ
ふれている内容であり、韓国の国際的な意識の高さ、将来見据えている場所が常に国際的なフ
ィールドであるという事がうかがえました。そのことが仕事に対するモチベーションにつながり、さ
らに良い研究ができる土壌を形成していると思いました。
約 2 時間半の見学の後、KRISS の好意により構内のレストランで夕食をご馳走になりました。
韓国へはじめて来る参加者の多い私たちにとって、いただいた韓定食の夕食はその味もさるこ
とながら、もてなしていただいた KRISS 職員をはじめとする韓国の方々との交流も忘れることの
できない経験となりました。
固い握手を交わす JVIA 真下団長と KRISS 洪承秀博士
3.i-SEDEX 2009(韓国電子産業大展)展示会視察
視察 2 日目、ソウル市内の端に位置する、ウルサンという地区へ移動し、i-SEDEX(韓国電子
産業大展)を視察しました。当日のエスコートは、韓国真空研究組合(KOVRA)の兪海俊専務理
事にしていただきました。
i-SEDEX はもともと、SAMSUNG のプライベートショーからスタートし、今年で 11 回目を迎えま
す。韓国では最も大きい産業展示会のうちのひとつです。
会場となった KINTEX 周辺はまだまだ開発途上であり、ショッピングセンターやビル群が建設中
でした。会場へバスで到着すると、兪海俊専務理事が出迎えてくれ、展示会のあらましを説明し
ていただきました。参加者全員の入場パスも予め準備していただいており、ここでも温かい歓迎
を受けました。
会場は 1~5 ホールまであり、1~3 ホールは電子関連の展示会、4 ホールはディスプレイ関連
の展示会、5 ホールが i-SEDEX を含む半導体関連の展示会でした。会場は東京ビッグサイトの
ホール 4 つを縦につなげたような広さで、とても 1 日では回りきれない内容の展示会でした。
(左)i-SEDEX 会場入口にて
前半は KOVRA の兪海俊専務理
事により、i-SEDEX 会場で KOVRA
会員企業の展示ブースを紹介して
いただき、後半は参加者各自での
展示会視察としました。
i-SEDEX はおもに真空関連技術
の展示をメインとしている展示会で
すが、印象に残った事は展示各社
の規模の違いはあるものの、どの企業も韓国国内のみならず、アジア市場、世界市場を見据え
た商品展開をしていることでした。だからこそ KOVRA 会員企業が日本で開催された真空展にも、
工業会として参加をされたのだと思います。我々日本企業にとって、世界に目を向けた活動を展
開することは不可欠であり、また、これらの韓国企業から世界へ打って出る姿勢を学ぶ良い機
会となりました。
i-SEDEX に併設されていた展示会場で目立っていたのは SAMSUNG、LG の家電展示ブース
でした。2 社のブースは会場の一番奥にありましたが、小間数から展示規模まで他の展示者と
は全く規模が異なっており、集客率は SAMSUNG、LG=8:その他=2 ぐらいの割合で、圧倒的なも
のを感じました。やはり韓国の産業界は 2 社の存在を無くしては語れないと実感した内容でし
た。
韓国が国家としてこれらの企業を保護せざるを得ないほどに、韓国経済はこれらの企業に依
存しているのだということが浮き彫りにされているように見えました。
iMiD という半導体関連の展示会では、SAMSUNG ELECTRIC、HYNIX が圧倒的な集客力を誇
っており、その他のブースへは来場者はまばらでした。これらの企業は DRAM や FLASH
MEMORY など、自動車・モバイルパソコン・デジタルカメラ・携帯電話などに利用されているチッ
プの紹介および製品の展示、製造工程の開設などが展示されていました。
展示会の視察では、技術や精度は日本のほうがまだ優れているという印象を受けましたが、
韓国人は非常に勤勉であり、一般市民も自国の製品に誇りを持っており、かつパワーもあるた
め、今後日本にとってはよきライバルとなる事は間違いありません。加えて、彼らの「常に国際
的な視野で物事を考える」習慣は日本人に不足している感覚ではないかと感じました。
今後韓国が国を挙げて国内産業を育成し、財閥系企業の保護を強化すれば、国全体の技術
競争力は自ずと上がると予想されますし、製造コストで日本と既に差があることを考えれば、韓
国製品・技術の日本への本格的進出は時間の問題であると感じました。
現在、日本では苦戦している自動車の現代(ヒュンダイ)や家電の SAMSUNG、LG については、
将来においても日本のトヨタやホンダ、パナソニックや日立などがあるために販売を拡大するこ
とは困難と思いますが、製造設備や装置、コンポーネントなど民生品でない製品については、価
格・品質・アフターの総合評価が日本製を上回れば、日本を席巻する可能性が十分にあると実
感しました。
4. KOVRA(韓国真空研究組合)メンバーとの懇親会
展示会の視察を終え、懇親会場へ移動しました。会場は韓国民族料理の料亭です。今回の
JVIA 訪問団の韓国訪問に合わせて、KOVRA 兪海俊専務理事に窓口を務めていただき、
KOVRA 側の人選・募集を行い、韓国側 13 名の方々に参加いただき、日本 JVIA と韓国 KOVRA
との懇親会を実現させることができました。
懇親会のはじめに各参加者で名刺交換、紹介を行なった後、KOVRA の張鎬承理事長より歓
迎の言葉をいただき、JVIA からは真下団長が御礼の挨拶を行ないました。兪海俊専務理事の
取り計らいにより、KOVRA 参加者は英語もしくは日本語が話せる方が多く、JVIA 参加者とのコミ
ュニケーションもほぼ問題なく取ることが
できました。
あわせて、美味しい食事と韓国の酒も
あって、初対面とは思えないほどの交流・
懇親ができたと思います。普段は聞くこと
のない、韓国の方の話や料理の話、酒の
話、そして韓国市場についての話など、
生の声が聞けたのは大きな参加者にとっ
て収穫となったと思います。
次回は KOVRA メンバーが若手を引き連れて日本へ来
られるという話も飛び出すほど盛り上がった懇親会となり
ました。是非韓国、KOVRA との交流を今後とも継続して
互いの発展につなげてゆきたいと感じた一夜でした。
5. おわりに
最終日ホテルをチェックアウトしてから金浦空港まで移
動し、関西組、羽田組とも無事に帰国となりました。
今回、記念すべき第一回の若手社員交流会海外視察
を関西支部において実現させることができ、韓国を訪問
して非常に得るものが大きかったと思います。技術力に
ついては KRISS という研究機関を見学し、また i-SEDEX
を視察することで、韓国の国家戦略の一端を垣間見ることができましたし、SAMSUNG、LG が技
術力、製品力において他に抜きん出ていることを実感することもできました。KOVRA メンバーと
の懇親会では韓国人のパワーを肌で感じましたし、また、ライバル心を燃やすだけではなく、協
力し、情報交換をする事で互いに発展してゆく道もあるということも実感しました。
このような中で、真空に携わるこれからの世代同士で交流を行い、懇親を行なうことは国家間
の関係においてはまことに小さな動きかもしれませんが、参加された方々にとって、また、真空
業界においては、非常に大きな意味を持つものになったのではないかと考えています。
是非、他国の技術・製品・企業・人をこの目で見、肌で感じることのできる海外視察を今後とも
継続してゆきたいと思いますし、そのことが私たち日本真空工業会の業界の発展にもつながる
ものであることを期待します。
以上