4. 都市キャノピーの熱収支パラメータ とキャノピー構造

4.1
アルベード
4. 都市キャノピーの熱収支パラメータ
とキャノピー構造
スケールでの陸面についても衛星データからアル
本章では都市キャノピーについて 1km スケール
ば Sellers, 1992 や Vukovich, 1983).しかし,たと
での地表面熱収支パラメータを求め,都市キャノピ
えば山地や丘陵地形,あるいは森林やビル街のよう
ーの幾何形状との関係を議論する.その際,第 2 章
に地表面がキャノピー構造を有する場合は,反射光
でのべた RF effective surface を都市キャノピーの地
が天頂角依存性,あるいは方位角依存性を持ち,衛
表面とし,この地表面におけるパラメータ求めた.
星計測のように狭視野のセンサからアルベードや
都市キャノピーの幾何形状を表す量として屋根
ベードを求めることが一般的になっている(たとえ
植生指数を計測する際には大きな誤差要因になる
面積割合 Ar,街路のアスペクト比 zh/W,街路の天
ことが知られている(BDR の問題,Moran et al., 1990,
空率ψ をとりあげる.屋根面積割合は敷地面積に対
Epiphanio et al., 1995 ).一方,都市域においてはこ
する屋根面積(建築面積)の比である.街路のアス
ペクト比は建物高さと道幅の比であり,対象領域の
平均値同士の比とする.ここで建物高さは屋根面積
割合の重みをつけて平均した高さとする.天空率ψ
は道路中央点における天空率とし,アスペクト比
zh/W を使って次のように表すことができる
の地表面の起伏のために,アルベードが低下するこ
とが知られている.Aida(1982)および Aida and
Gotoh(1982)は模型実験と数値実験により都市キャ
ニオンの形状パラメータ(建物高さと道幅の比,お
よび道路幅と建物幅の比)とアルベードの関係を定
量的に明らかにした.現実の都市域での観測では
Takamura(1992)が東京において航空機観測により地
(Johnson and Watson, 1984).
表面の分光反射率を推定し,都市域の方が郊外より
ψ = cos β , (4-1)
も反射率が低いことを示している.反射率の分布は
 2z 
β = tan −1  h  . (4-2)
W 
同時に測定された上向き短波放射量と似た分布が
得られている.一方,Takamura and Toritani (1994)
は札幌で同様の測定を行い,地表面の分光反射率と
キャノピー形状との対応はあまり大きくなかった
と述べている.また,衛星計測では Brest(1987)が
LANDSAT のデータから都市域および郊外でのア
ルベードの季節変化を調べており,植生とキャノピ
ー構造がアルベードに大きく影響しているようだ
と結論づけている.中川,中山(1995)は LANDSAT
のデータから日本の各都市についてアルベードと
形状パラメータ(天空率,建蔽率)との関係を議論
し,やはり天空率が小さいところではアルベードが
図 4-1 都市キャノピーの幾何形状概念図.
低下していることを示した.しかし,先に述べた
BDR の問題を考慮しないままアルベードを求めて
4.1 アルベード
おり,その結果については疑問が残る.また一般に
建築物の壁面は比較的明るい色で塗装されており,
4.1.1 キャノピー構造に由来する問題
材質的に見てもガラス面を多く含んでいることか
アルベードは地表面の熱収支にとって重要なパ
ら,直感的には森林などよりアルベードは大きいの
ラメータであり,これまで数多くの研究がなされて
ではないか?という疑問もある( 近藤,1994) .
きた.大陸スケールのみならず,数百 m から数 km
Aida(1982)および Aida and Gotoh(1982)もコンクリ
4.1-1
4.1
アルベード
ート,アスファルト,ガラスといった都市キャノピ
た.
ーを構成する材質については,あまり考慮していな
(A) 札幌における観測とアルベードの算定方法
い.
飛行コース・対象領域を図 4.1-1 に示す.ヘリコ
そこで本研究では,都市域を含む実際の複雑地形
プタに搭載した分光放射計により,飛行高度での上
においてアルベードがどのような値をとるのか,そ
向き分光放射量が測定されている.測定波長は 475,
して都市形状とどのような関係があるのかを定量
525, 675, 750nm である.その他にヘリコプタではパ
的に評価する.現実の地表面でのアルベードを航空
ーティクルカウンタによるエアロゾル粒径分布,全
機観測により BDR を考慮した上で求めた.本研究
天日射計による上向き短波放射量(335―2200nm)
では方位角・天頂角について積分されたアルベード
などが測定されている.飛行高度は 610m であり,
を実測し都市キャノピー構造(天空率)との関係を
この高度での水平分布の他に,鉛直分布も測定され
議論する.天空率は都市計画データから算出した.
ている.また,地上ではサンフォトメータにより大
本節で使用する用語の定義をここで行う.分光反
気の光学的厚さが計測された.観測当日の天候は観
射率はある波長帯(λ1, λ2)でみた地表面の反射率と
測者の記録および札幌管区気象台による観測から
して次のように定義される.
快晴であったと判断される.
αλ
∫∫
=
∫∫
λ + dλ
I ( λ ' ) dλ ' dω
λ − dλ up
λ + dλ
λ −dλ
(4.1-1)
I down (λ ' )dλ ' dω
ここで,Iup は地表面における上向き放射強度,Idown
は同様に下向き放射強度,λは波長である.ω は立
体角であり,dωによる積分は半球での積分である.
アルベードはこれを全短波長域で積分し次のよう
に定義される.
α = ∫ α λ dλ
(4.1-2)
本研究では土地被覆を表すパラメータとして
NDVI(Normalized Vegetation index) を使用した.
NDVI は求められた分光反射率αλ を用いて次の式
により求めた.
NDVI =
α 750 nm − α 675nm
α 750nm + α 675nm
(4.1-3)
図 4.1-1 地表面アルベード観測対象領域(図
4.1.2 航空機観測および解析方法
2.2-5 とはコースが異なる.)
本研究では札幌および東京を対象とした航空機
観測の結果から都市域でのアルベードを求めた.2
本研究では上向き放射量に対してヘリコプタ飛
つの対象都市でアルベードの算定方法が異なるた
行高度と地表面との間の大気による吸収・散乱の効
め,以下では各々の算定方法について示す.なお,
果を補正するため,次の方法によりアルベードを求
札幌における観測は高村民雄博士による観測であ
めた.まず,測定された上向き分光放射量から地表
り,観測の詳細は Takamura and Toritani (1994) およ
面の分光反射率を求めた.次に標準的な大気状態に
び早崎(1996)に示されている.1994 年 8 月 5 日
おける下向き分光放射量 Sλ を用いて,次式により
の測定データの提供を受け,本研究では解析を行っ
アルベードを求めた.波長積分は短波領域(0.2∼3.0
4.1-2
4.1
アルベード
µm)について行った.
0.8
Sapporo
∫ α S dλ
∫ S dλ
λ
α=
0.6
λ
(4.1-4)
λ
0.4
NDVI
(B) 分光反射率の推定
分光反射率の推定は Takamura (1992)に準じ,two
0.2
stream 近似によりヘリコプタ飛行高度と地表面間
の放射伝達を解いた.求められた分光反射率の分布
0
を図 4.1-2 に,この分光反射率から求めた NDVI を
FRM
SEA
きく異なり,特に 750nm の反射率は植生の有無に
RSD
U
RSD
FRT
-0.2
-8
よって大きく異なっていることがわかる.一方,そ
の他の波長では土地利用による差は大きくない.な
HBD LBD
LBD
図 4.1-3 に示す.分光反射率は土地利用によって大
0
8
16
distance from sea coast [km]
24
図 4.1-3 正規化植生指標(NDVI)の分布
お,図中 U は北海道大学キャンパスであり,実験農
場を含むため周囲よりも植生が多い.また FRM は
(C) 下向き分光日射量の推定
下 向き 分光 放射量 の推定 に は LOWTRAN7
畑地であり,この中での変動は畑地内に混在してい
(Kneizys et al., 1988) を使用した.地表面の反射特性
る住宅によるものと思われる.
が波長依存性を持つことから,アルベードαは入射
0.3
光の波長分布によって異なった値をとると思われ
Sapporo
475 nm
525nm
675nm
750nm
0.25
る.そこで数種類の雲の状態について計算を行った.
分光日射量を計算する際の条件は表 4.1-1 にまとめ
た.計算された分光日射量について,波長積分され
reflectance (0-1)
0.2
た日射量で規格化した波長分布を図 4.1-4 に示した.
0.15
表 4.1-1 LOWTRAN7 による下向き分光日射量
計算条件
0.1
0.05
LBD
FRM
SEA
RSD
HBD LBD
U
RSD
FRT
0
-8
0
8
16
distance from sea coast [km]
24
図 4.1-2 分光反射率の分布.横軸は図 4.1-1 の直線
上の位置を示し,距離の原点は海岸線である.SEA:
海,FRM:畑地,RSD:住宅地,LBD:低層ビル街,
U:都市内緑地(北大,大通り公園),HBD:高層ビ
ル街,FRT:森林.
大気プロフ 中緯度夏および冬
ァイル
エアロゾル 上空は background level,境界層は
rural type aerosol, 視程 23km
地表面のア 0.25
ルベード
太陽高度
東京(北緯 35°41′)における夏至
の正午および冬至の正午
雲の状態
1)快晴,2)積雲,3)巻雲,4)
層雲,5)層積雲,6)高層雲,7)
乱層雲,いずれも降水はなし
4.1-3
4.1
アルベード
60
concrete
asphalt
forest
crops
duty water
bare soil
summer
fine
cumulus
stratus
3
40
reflectance [%]
Sλ / Stotal [Wm-2µm-1/Wm-2]
4
2
20
1
0
400
0
0
0.4
0.8
1.2
1.6
500
2
wave length [µm]
600
wavelength [nm]
700
800
図 4.1-5 各地表面の分光反射率(尾島,1980 より)
図 4.1-4 日射量の波長別強度分布.夏の条件につい
以上の方法で求めたアルベードの分布を図 4.1-6
て LOTRAN7 により計算したもの.
に示す.雲の状態によるアルベードの差はほとんど
(D) 波長積分とアルベードの推定結果
なく,最大で絶対値の 3%の違いを生むだけであっ
式4.1-4 の波長積分は使用した分光日射計(英弘精
た.これは太陽光のうち比較的エネルギー密度の大
機 MS-130)の波長帯を考慮して次のように行った. きい 0.4∼0.7µm において反射率のスペクトル分布
∫α
λ
がほぼ一様であることに起因していると思われる.
S λ dλ = ∑ aλ S (λ )∆λ
すなわち,波長積分したアルベードは雲の有無にほ
(4.1-5)
λ=<395nm
とんど影響を受けない.以下では晴天日の値につい
αλ=α(475nm)-2.0✕ 10-4λ(nm)
て解析を進める.
395 < λ =< 495 nm
αλ = α(475nm)
以上の方法で求められたアルベードの絶対値を
495 < λ =< 590 nm
αλ = α(525nm)
検証するため,同観測のデータから海面のアルベー
590 < λ =< 695 nm
αλ = α(675nm)
ドを求め文献値と比較した.この方法により求めた
695 < λ =< 850 nm
αλ = α(750nm)
海面のアルベードは 0.05 であった.
観測時の太陽高
λ > 850 nm
αλ = α(750nm) + 6.0✕ 10-4λ(nm)
度は36.7°,
海面風速は約4m/sであり,
文献値0.024
(Kondratyev, 1969,強風時の海面,太陽天頂角 60°)
395nm 以下と 850nm より長波長側はコンクリー
と実測されたアルベードは整合的である.
トの分光反射率分布(尾島,1980)を仮定した(図
4.1-5).そもそもこの波長帯においては入射光の
強度が相対的に弱いため,このような仮定をしても
重大な誤差は生まない.
4.1-4
4.1
アルベード
0.2
0.18
Sapporo
Sapporo
0.17
0.16
albedo (0-1)
albedo (0-1)
0.16
0.12
0.15
0.14
0.08
0.13
HBD LBD
LBD
FRM
SEA
0.04
RSD
U
RSD
FRT
0.12
80
-8
0
8
16
distance from sea coast [km]
90
100
110
120
130
S upward [Wm- 2]
24
図 4.1-6 分光日射量を仮定して求めたアルベード
図 4.1-7 アルベードと航空機飛行高度での上向き
の分布.
短波放射量との関係
各土地利用ごとに平均したアルベードの値を表
(E) 東京における観測とアルベードの算定
4.1-2 に示す.いわゆる人工地表面(低層および高
東京における観測は筆者らが 1996 年 3 月 12 日
層ビル街,住宅地)においてはアルベードの差はほ
に実施した.この日は冬型の気圧配置により関東地
とんどないことがわかる.むしろ植生の有無によっ
方は強い風が吹き(東京管区気象台における瞬間最
てアルベードが大きく異なっている.また図 4.1-7
大風速が 23m/s),快晴であった.視程は地上では
にはアルベードとヘリコプタで測定された上向き
15 kmであった.ヘリコプタにおいて上向き日射
短波放射量との関係を示す.対象領域ほぼ全域に対
量を,地上では下向き日射量を計測した.飛行経路
して両者にはよい相関があり,分光反射率の測定や
を図 4.1-8 に示した.放射伝達を解くのに必要なエ
アルベードを求める際の波長積分が適切であった
アロゾルの鉛直分布や地上における大気の光学的
ことがわかる.全体の相関から外れている点は対象
厚さなどについて十分なデータを得ることができ
領域南端の森林であり,他の土地被覆とは分光反射
なかったため,ヘリコプタにおいて計測された上向
特性が異なるために(図 4.1-5 参照)全体の傾向か
き日射量 S ↑ 610 m と地上において計測された日射
ら外れているものと思われる.
量 S ↓ SFC との比をアルベードとした.
α=
表 4.1-2 本研究で求めたアルベードの平均値
S ↑ 610 m
S ↓ SFC
(4.1-6)
観測中の日射量の変動は平均して 3Wm-2 程度であ
土地被覆
高層ビル街
低層ビル街
住宅地
畑地(住宅地混在)
森林(住宅地混在)
都市内緑地(公園)
アルベード
0.13
0.13
0.13
0.16
0.16
0.14
り,その影響は 0.5%(アルベード)である.この
方法はヘリコプタ飛行高度と地上との間での放射
の吸収,散乱を無視しており,結果として求められ
るアルベードは絶対値が小さめに見積もられると
思われる.しかし,この方法によって求められた海
面のアルベードは測定高度 900m の場合で 0.05(太
陽天頂角は 36.9°)であり,札幌での観測で得られ
た値と一致した.これは前述したように視程が非常
4.1-5
4.1
アルベード
によかったことに対応し,大気が非常に清浄で吸収
0.52
散乱が弱かったためと思われる.また図 4.1-7 に示
course A/ 2000ft
albedo
0.15
0.48
sky view factor
飛行高度(610m)での上向き日射量は良い相関が
0.44
ある.したがってこの場合,式 4.1-6 で求めたアル
0.14
ベードは大気補正されたアルベードにほぼ等しい
albedo (0-1)
0.4
と考えられる.
上記の方法によって求められたアルベードαの分
sky view factor
したように,大気補正したアルベードとヘリコプタ
0.36
0.13
布を図 4.1-9 に示した.東京都による都市計画デー
タから算出した天空率の分布についても示した.日
0.32
0.12
射量の変動による誤差を考慮しても,アルベードは
park
park
river
park
緑地(公園,河川敷)および天空率の分布と対応し
0
ており,天空率が大きい場所および緑地では,アル
4
8
12
16
Horizontal Position [km]
ベードが大きいことがわかる.
0.6
0.16
course B/ 2000ft
albedo
sky view factor
0.5
albedo (0-1)
0.4
0.14
sky view factor
0.15
0.3
0.13
0.2
park
river
0.12
0
4
8
12
Horizontal Position [km]
図 4.1-9 飛行経路に沿ったアルベードα の分布.
天空率の分布についても同様に示した.
図 4.1-8 東京における飛行経路
4.1.3 地表面状態とアルベードの関係
(A) 都市域キャノピーの幾何学的構造の特徴
アルベードと地表面状態の関係をみる前に,解析
対象域の特徴について述べる.図 4.1-10 は札幌の
中心部における天空率,屋根面積割合,植生指標
(NDVI)を示したものである.図 4.1-1 のコース上で
の分布であるが座標原点は図 4.1-3 とは異なる.森
林(distance=18-20km )および北海道大学付近
4.1-6
4.1
アルベード
(distance=8km)において NDVI が大きくなっている
屋根面積の極大になっていることがわかる.また郊
ことがわかる.なお北海道大学は札幌市の都市計画
外(横軸の両端付近)では逆に天空率の増加,屋根
データに含まれていないため,distance=8km 付近の
面積割合の減少が見られる.図 4.1-11 に示す相関
天空率は北海道大学を除いた平均値である.
図から,これら天空率と屋根面積割合には負の相関
があることがわかる.これは高層建築物ほど市街地
に密集して建設されていることを意味している.
40
アルベードや地表面粗度は都市キャノピーの幾
Sapporo
sky view factor
roof area
何学的構造に強く影響されるため,このような都市
構造自体の特徴は,非常に重要な意味を持つ.すな
30
わち天空率と屋根面積割合との間に一定の関係を
1
20
roof area ratio(%)
sky view factor
0.8
得ることができれば,いずれかについての情報を得
ることで都市の幾何学的構造は一義的に決定でき,
したがって都市キャノピーの熱収支パラメータも
推定が容易になる.現状では天空率を知る方法は
SAR などの開発中の技術を除けば,現地調査に頼
0.6
らざるを得ない.一方屋根面積割合は航空写真など
10
から比較的容易に得られるため,屋根面積割合を計
0.4
測することで天空率を推定できると思われる.
図 4.1-12 は天空率と NDVI の関係を見たもので
0.2
0
0
4
8
12
16
ある.この2つの量についてもある程度相関があり,
20
distance [km]
天空率が大きいほど NDVI も大きい.これは住宅の
0.8
庭や畑地などでは植生が豊富であると同時に天空
率も大きいことや,高層ビル街では植生が少なくせ
いぜい街路樹程度であること,公園などでは天空率
0.6
NDVI
が大きいことなどが原因であると思われる.ただし
ここでは建築物のみに関する天空率を計算してお
0.4
り,樹木による天空率の変化は考慮していない.ま
た,NDVI と天空率が相関を持つ理由として,天空
率が大きくなると相対的に道路面(アスファルト)
0.2
の占める面積が大きくなり,観測される分光反射率
が変化することも考えられる.一方,NDVI が大き
い領域(郊外,札幌市北部の畑地と南部の河川敷)
0
0
4
8
12
distance [km]
16
20
では植生種の違いを反映して必ずしも天空率とは
図 4.1-10 札幌における土地被覆の分布.上からコ
対応していない.
ースに沿った天空率,屋根面積割合の分布,NDVI
の分布.横軸の原点は図 4.3-1 とは異なる.
このように都市域郊外を含めて,建物による天空
率,屋根面積割合,NDVI は互いに相関を持つこと
がわかった.以下ではこれらの量とアルベードとの
図 4.1-10 を見ると,札幌市中央の高層ビル街
(ススキノ付近,distance=11km)が天空率の極小,
関係を見てゆくが,その物理的解釈にはそれぞれの
量が独立でないことに注意が必要である.
4.1-7
4.1
アルベード
1
空率の小さい狭いキャニオン構造ほどアルベード
Sapporo
が小さいことがわかる.この傾向は Aida(1982)や中
川,中山(1995)らが指摘するキャニオン内での多
sky view factor
0.8
重散乱による効果と定性的に一致する.多重散乱の
効果とはすなわち,キャニオン内に入射した太陽光
0.6
が壁面や道路面で反射を繰り返し,キャニオン外へ
出てゆく光が少なくなることである.天空率の小さ
いキャニオンほどその効果は大きい.また札幌と東
0.4
京では横軸のスケールが異なる点に注意が必要で
あるが,その傾向は一致している.
0.2
0
10
20
30
Sapporo
40
urban, suburban
farm with residences
0.18
roof area ratio (%)
図 4.1-11 天空率と屋根面積割合の相関図.
札幌に
0.17
albedo (0-1)
おける飛行経路上のデータについてプロットした.
0.8
Sapporo
A
0.6
0.16
0.15
0.14
NDVI
0.13
0.12
0.2
0.4
0.4
0.6
0.8
Sky view factor
1
0.2
0.18
Sapporo
all data
0.17
0
0.2
0.4
0.6
0.8
B
1
sky view factor
4.1-11 と同じ領域のもの.
albedo (0-1)
0.16
図 4.1-12 天空率と NDVI の相関図.データは図
0.15
0.14
(B) アルベードと天空率・屋根面積割合の関係
アルベードと天空率の関係を図 4.1-13 に示す.
0.13
天空率は札幌市および東京都の都市計画データか
ら求めた.使用した放射計の視野角に合わせて,航
空機の直下の地点から半径 2km のエリアの平均値
を使用した.このエリアからの放射は途中大気での
減衰がなければ放射計が受け取る放射量の 92%を
占める.この図では,天空率と正の相関があり,天
4.1-8
0.12
0
10
20
roof area ratio (%)
30
40
4.1
アルベード
0.16
(C) アルベードと土地被覆との関係
C
Tokyo
アルベードと天空率との関係は,従来の研究と定
0.15
性的に一致する傾向を見せた.一方,特徴の②とし
error range
て述べたように,天空率が比較的小さい場所(札幌
の場合天空率が 0.58 未満)で,プロットが 2 グル
albedo (0-1)
0.14
ープに分離することも見受けられた.都市部(高層
ビル街)と郊外でそのような違いが見られているこ
0.13
とから,キャノピー構造ではなく土地被覆が影響し
ていることが考えられる.そこで土地被覆を表すパ
0.12
ラメータとして NDVI を用い,アルベードとの対応
0.11
0.2
を見た.図 4.1-14 は札幌について,問題となる天
0.3
0.4
0.5
0.6
空率 0.58 未満の領域を抜き出して示したものであ
sky view factor
図 4.1-13 晴天日のアルベードと天空率の関係.A)
る.NDVI は観測された分光反射率から求めたもの
札幌,横軸は天空率.天空率=0.4∼0.6 の白丸は北
であり,視野はアルベードと完全に一致している.
海道大学(U)付近のデータである.B)札幌,横軸
前述のように東京における観測では十分なデータ
は屋根面積割合.C) 東京について.A)の図とは横
が得られなかったため,NDVI を求めることができ
軸のスケールが異なることに注意.
なかった.
図 4.1-14 によれば,アルベードと NDVI との間
図 4.1-13 を詳しく見ると,アルベードと天空率と
には相関があり,NDVI が大きいほどアルベードも
の関係は単純な比例関係ではなく,次の 2 つの特徴
大きい.これはアスファルトやコンクリートよりも
があることがわかる.
植生の方がアルベードが大きいことによる(表
①天空率が小さい部分ではアルベードがほぼ一
定の値をとっている,これについては次のように説
4.1-3).以上のことから,図 5.3-13(A)でプロット
が分離しているのは植生の影響であるといえる.
明できる.すなわち,屋根面積がある程度以上大き
なお,NDVI は土壌面の水分量など植生以外のも
くなると,敷地内に占めるキャニオン空間(建物に
のによっても変化することが知られている.このた
はさまれた空間)は狭くなり,相対的に屋根面の影
め植生地については SAVI (Soil Adjusted Vegetation
響が大きくなる.したがってこの時,建物高さ(天
Index) といった指標も開発されている.都市域につ
空率)が変化してもアルベードへの影響は小さく抑
いてはそのような指標が開発されていないため,こ
えられる.この点については中川・中山(1995)も
こでは NDVI が植生の量にのみ依存するとして論
理論的に考察している.
を進めた.しかし,たとえば屋根面と道路面では分
②札幌では天空率 0.4∼0.6 の部分が 2 つのグルー
光反射特性が異なるため,NDVI に影響を与える可
プに分離している.また東京ではアルベードが 0.12
能性もある.都市域の植生について SAVI のような
という低い値をとっており,この部分はコースAの
指標を検討する必要性があると思われる.
中心付近,新宿御苑の北側で比較的高い建物が多い
場所にあたる.したがって,土地被覆(植生の有無)
がアルベードに影響を及ぼしているように見える.
そこで次に NDVI との関係について見てゆく.
4.1-9
表 4.1-3 土地被覆ごとのアルベード(文献値)
土地被覆
アスファルト
コンクリート
芝生
稲キャノピー
アルベード
0.12
0.20
0.23
0.2∼0.25
文献
菅原(1995)
菅原(1995)
菅原(1995)
石田ら(1997)
4.1
アルベード
アルベードは天空率や NDVI とよい相関を示し,
考に表 4.1-4 のように設定した.
それぞれの相関関係は物理的に説明できるもので
あった.実際の都市ではアルベードはキャノピー構
表 4.1-4 アルベド推定式で用いた計算条件.
造と植生の両方に依存する.天空率と NDVI が独立
wall
0.25
0.15
な量でないため,都市域におけるアルベードの低下
Case1
Case2
はどちらに依存するのかを定量的に評価すること
road
0.18
0.12
はできなかった.本研究で得られた天空率とアルベ
ードの関係は,植生の影響も含んだ現実の都市域で
この計算値と本研究による実測値との比較を図
のものとしてメソモデルなどで使用することがで
4.1-15 に示す.計算値と観測値はいずれも都市部で
きる.
低く,郊外で高いという点で大局的に見て一致して
0.18
観測値が下に凸となっており,キャノピー形状の変
化に対してDL94 はアルベードが高めに計算される
0.16
傾向があることがわかる.この理由は図中,屋根面
積割合が小さい部分で計算値が一定の値をとって
0.15
いるのに対して,観測値が急な右下がりの傾向を示
していることから,実測値には植生の影響が効いて
0.14
いるためと思われる.
0.13
0.12
0.1
0.2
NDVI
0.3
0.20
0.4
observation
DL94_1
DL94_2
0.18
albedo
albedo (0-1)
0.17
いる.しかしながら,曲線の形は計算値が上に凸,
Sapporo
farm,residence
urban, suburban
図 4.1-14 晴天日のアルベードと NDVI との関係.
縦軸は図 4.1-13 と合わせてある.天空率が 0.58 未
0.16
0.14
0.12
満のデータについてのみした.
0.10
0.0
0.2
(D) 先行研究との比較
ここでは,先行研究として Dong and Li (1994)(以
0.4
0.6
sky view factor
0.20
下,DL94 と略す)による数値計算の結果と中川・中
albedo
を取り上げ,本研究による航空機観測の結果と比較
する.
0.16
0.14
DL94 は同一高さの直方体が並んだ都市域を対
0.12
象として数値計算を行い,屋根面積割合や構成面の
0.10
0.0
アルベードを用いた回帰式を提案している.DL94
1.0
observation
calc_1
calc_2
0.18
山(1995)(以下,NN95)による衛星計測の結果
0.8
0.1
0.2
roof area ratio
0.3
0.4
によるアルベード推定式を本研究の札幌における
図 4.1-15 アルベード計算値と観測値の比較.計算
観測領域に適用し,アルベードの分布を推定した.
値は Dong and Li(1994)による推定式で表 4.1-4 の 2
計算条件は太陽高度を観測時の値(36.7°)とし,
種類のケースについて計算したもの.
壁面および道路面のアルベードは Iqubal(1983)を参
4.1-10
4.1
アルベード
NN95 は衛星計測から得られた関東地方の 20 都
0.20
市のアルベードについて都市キャノピー形状を用
observation
NN95
0.15
albedo
いた回帰式を作成している.この式によるアルベー
ド推定値と本研究による観測値との比較を図 4.1-16
に示す.NN95 による回帰式は屋根面積割合と天空
0.10
0.05
率のみを使ってアルベードを回帰させており,他の
0.00
パラメータは含まれていない.両者は定性的には一
0.0
致しているが,計算値の方が値は全般的に小さく,
0.1
0.2
roof area ratio
0.3
0.4
特に都市化が進んだ地点(屋根面積割合が 1 に近い
図 4.1-16 アルベード推定値と観測値の比較.推定値
側,天空率が 0 に近い側)でその差が大きい.都市
は中川・中山(1995)の衛星計測結果の回帰式による.
化された地点でそのような影響が見られることか
ら,NN95 の推定式の元となった衛星計測には BDR
4.1.4 結論
の影響が出ているものと思われる.すなわち,衛星
実際の都市におけるアルベードとキャノピー構
計測では直下方向の測定がおこなわれるため,高層
造との関係を調べるため航空機観測を行い,地表面
建築群など日陰の多い場所ではアルベードが小さ
アルベードを札幌および東京において実測した.観
めに見積もられてしまう.ただし,NN95 の回帰式
測に際しては視野角が2πである放射計を用いるこ
の適用範囲は 0.4 < ψ < 1.0,0.1 < Ar < 0.7 であり,
とで地表面の BDR を考慮し,また航空機,地上間
極端に低い推定値( α < 0.02)はこの回帰式の適用
の大気による散乱・吸収を補正した上でアルベード
範囲外である.
を求めた.得られたアルベードに対して,キャノピ
以上,2 つの先行研究との比較により,これらの
ー構造として都市計画データから求めた天空率と
先行研究との差は物理的に説明できるものであり,
屋根面積割合,土地被覆として NDVI との関係をみ
本研究の結果が妥当であることが確認された.都市
た.
域におけるアルベードの推定には植生の影響,およ
都市域および郊外におけるアルベードの絶対値
び実測の場合は BDR の影響を考慮する必要がある
は 0.13∼0.15 程度であった.アルベードは都市キャ
ことがわかった.
ノピー構造に依存性し,天空率が大きく開けた街区
ほどアルベードも大きかった.この点については過
0.20
observation
NN95
albedo
0.15
去の研究と整合的であり,その理由はキャニオン内
部での多重散乱であると思われる.また天空率が
0.10
0.4∼0.5 以下では多重散乱の効果が頭打ちとなり,
0.05
アルベードがほぼ一定となった.
一方,都市部においては公園などの植生地でアル
0.00
0.0
0.2
0.4
0.6
sky view factor
0.8
1.0
ベードの増加が見られ,NDVI とアルベードとの相
関も有意に高かった.これは公園などがオープンス
ペースであるとともに植生とコンクリート・アスフ
ァルトという被覆の違いが影響しているものと思
われる.
4.1-11
4.1
アルベード
data, Remote Sens. Environ., 32, 203-214.
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