熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System Title 関節軟骨変性の進行における小胞体ストレスの関与 Author(s) 高田 興志 Citation Issue date 2010-03-25 Type Thesis or Dissertation URL http://hdl.handle.net/2298/21765 Right 学位論文 Doctoral Thesis 関節軟骨変性の進行における小胞体ストレスの関与 (The Involvement of Endoplasmic Reticulum Stress in the Progression of Articular Cartilage Degeneration) 高田 興志 Koji Takada 熊本大学大学院医学教育部博士課程臨床医科学専攻運動骨格病態学 指導教員 水田 博志 教授 熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻運動骨格病態学 2010年3月 学 位 論 文 Doctoral Thesis 論文題名 : 関節軟骨変性の進行における小胞体ストレスの関与 ( The Involvement of Endoplasmic Reticulum Stress in the Progression of Articular Cartilage Degeneration) 著 者 名 : (単名) 高 田 興 志 Koji Takada 指導教員名 : 熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻運浮動骨格病態学 審査委員名 : 機能病理学担当教授 伊藤 隆明 分子生理学担当教授 富澤 一仁 代謝内科学担当教授 荒木 栄一 脳神経外科学担当教授 倉津 純一 2010年3月 水田 博志 教授 目次 1. 要旨 4 2. 発表論文 6 3. 謝辞 7 4. 略語一覧 8 5. 研究の背景と目的 5-1. 変 形 性 関 節 症 と 関 節 軟 骨 変 性 5-1-1. 変 形 性 関 節 症 10 5-1-2. 関 節 軟 骨 の 構 造 10 5-1-3. 軟 骨 基 質 の 恒 常 性 12 5-1-4. 軟 骨 変 性 の 病 態 12 5-2. 小 胞 体 ス ト レ ス 5-2-1. 小 胞 体 ス ト レ ス の 定 義 13 5-2-2. 小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 と ア ポ ト ー シ ス 14 5-3. 軟 骨 変 性 と 小 胞 体 ス ト レ ス 14 5-4. 本 研 究 の 目 的 15 6. 実験方法 6-1. 試 薬 16 6-2. 変 性 軟 骨 に お け る 小 胞 体 ス ト レ ス の 発 生 に 関 す る 検 討 6-2-1. ヒ ト 変 性 軟 骨 の 採 取 17 6-2-2. ラ ッ ト 変 形 性 関 節 症 モ デ ル の 作 製 と 関 節 軟 骨 の 採 取 18 6-2-3. 組 織 標 本 の 作 製 19 6-2-4. Safranin-O 染 色 19 1 6-2-5. 免 疫 組 織 化 学 染 色 20 6-2-6. RNA の 抽 出 と 逆 転 写 21 6-2-7. RT-PCR と Pst1 制 限 酵 素 処 理 22 6-2-8. Real-time PCR 23 6-3. 軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス と 小 胞 体 ス ト レ ス に 関 す る 検 討 6-3-1. ヒ ト 関 節 軟 骨 の 組 織 標 本 の 準 備 23 6-3-2. ヒ ト 軟 骨 細 胞 の 単 離 ・ 培 養 ・ 刺 激 23 6-3-3. 免 疫 組 織 化 学 染 色 24 6-3-4. TUNEL 染 色 25 6-3-5. 免 疫 組 織 化 学 染 色 と TUNEL 染 色 の 二 重 染 色 25 6-3-6. RNA の 抽 出 と 逆 転 写 25 6-3-7. RT-PCR と Pst1 制 限 酵 素 処 理 26 6-3-8. Real-time PCR 26 6-3-9. ELISA 26 6-4. 軟 骨 代 謝 と 小 胞 体 ス ト レ ス に 関 す る 検 討 6-4-1. ヒ ト の 変 性 軟 骨 と 培 養 軟 骨 細 胞 の cDNA の 準 備 27 6-4-2. ラ ッ ト 軟 骨 細 胞 の 単 離 ・ 培 養 ・ 刺 激 27 6-4-3. RNA の 抽 出 と 逆 転 写 27 6-4-4. Real-time PCR 27 6-5. 統 計 学 的 解 析 7. 28 実験結果 7-1. 変 性 軟 骨 に お け る 小 胞 体 ス ト レ ス の 発 生 7-1-1. 変 形 性 関 節 症 患 者 の 軟 骨 変 性 度 2 29 7-1-2. ヒ ト 変 性 軟 骨 の 変 性 度 と 小 胞 体 ス ト レ ス 関 連 分 子 30 7-1-3. ラ ッ ト 変 形 性 関 節 症 モ デ ル の 軟 骨 変 性 度 35 7-1-4. ラ ッ ト 変 性 軟 骨 の 変 性 度 と 小 胞 体 ス ト レ ス 関 連 分 子 36 7-2. 軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス と 小 胞 体 ス ト レ ス 7-2-1. ヒ ト 変 性 軟 骨 の 軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス と 小 胞 体 ス ト レ ス 37 7-2-2. ヒ ト 培 養 軟 骨 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス と 小 胞 体 ス ト レ ス 40 7-3. 軟 骨 代 謝 と 小 胞 体 ス ト レ ス 7-3-1. ヒ ト 変 性 軟 骨 に お け る 軟 骨 代 謝 と 小 胞 体 ス ト レ ス 41 7-3-2. ヒ ト 及 び ラ ッ ト 培 養 軟 骨 細 胞 の 軟 骨 代 謝 と 小 胞 体 ス ト レ ス 43 8. 考察 46 9. 結語 50 10. 参 考 文 献 51 3 1. 要旨 [ 目的 ] 関節軟骨の変性は軟骨細胞アポトーシスと軟骨代謝の異常によって 進 行 す る 。小 胞 体 ス ト レ ス は 細 胞 に ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る こ と で 様 々 な 疾 患 に 関 与 す る こ と が 明 ら か に さ れ て い る が 、軟 骨 変 性 と の 関 連 性 は 詳 細 が 不 明 で あ る 。本 研 究 で は 軟 骨 変 性 の 進 行 、軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス 及 び 軟 骨 代 謝 に 対 し て小胞体ストレスがどのように関与するかを検討した。 [ 方 法 ] 変 形 性 膝 関 節 症 患 者 か ら 採 取 し た 変 性 軟 骨 、ま た は ラ ッ ト 変 形 性 関 節 症 モ デ ル の 変 性 軟 骨 に お い て 、 小 胞 体 ス ト レ ス 関 連 分 子 で あ る リ ン 酸 化 PERK ( pPERK)、ユ ビ キ チ ン( Ub)、GRP78、CHOP 及 び リ ン 酸 化 JNK( pJNK)の 発 現 、CHOP mRNA 発 現 及 び XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ を そ れ ぞ れ 免 疫 染 色 、 real-time PCR 及 び RT-PCR で 解 析 し 、 cleaved caspase-3 に 対 す る 免 疫 染 色 と TUNEL 染 色 を 行 い 、 軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス を 検 出 し た 。 ま た 、 ヒ ト 及 び ラ ッ ト の 培 養 軟 骨 細 胞 を 小 胞 体 ス ト レ ス 誘 発 剤 で あ る tunicamycin で 刺 激 し て 細 胞 ア ポ ト ー シ ス を ELISA で 評 価 し 、 CHOP、 ア グ リ カ ン 、 II 型 コ ラ ー ゲ ン 及 び MMP-13 の mRNA 発 現 と XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ を そ れ ぞ れ real-time PCR と RT-PCR で 解 析 し た 。 [ 結 果 ] ヒ ト 変 性 軟 骨 で は 変 性 度 の 増 加 と 共 に pPERK、 Ub、 CHOP、 pJNK の 陽 性 細 胞 率 と CHOP mRNA 発 現 が 増 加 し た 。XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ は 中 等 度 の 変 性 軟 骨 で 増 加 し た が 、重 度 の 変 性 軟 骨 で は 中 等 度 よ り も 低 下 し た 。ラ ッ ト 変 性 軟 骨 に お い て も 変 性 の 進 行 と 共 に pPERK、GRP78、CHOP 発 現 が 増 加 し た 。 ヒ ト 変 性 軟 骨 の 軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス は pPERK や CHOP と 同 様 に 変 性 度 と 相 関 し て 増 加 し 、pPERK を 発 現 す る TUNEL 陽 性 の 軟 骨 細 胞 が 確 認 さ れ た 。 ヒ ト 、ラ ッ ト と も に 培 養 軟 骨 細 胞 で は tunicamycin の 濃 度 依 存 的 に CHOP mRNA 4 発 現 と ア ポ ト ー シ ス が 増 加 し た が 、 高 濃 度 の tunicamycin で は XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ は 減 弱 し た 。 ま た 、 tunicamycin は ア グ リ カ ン と II 型 コ ラ ー ゲ ン の mRNA 発 現 を 抑 制 し 、 MMP-13 の mRNA 発 現 を 増 加 し た 。 [ 考 察 ] 小 胞 体 ス ト レ ス は 軟 骨 変 性 の 進 行 と 共 に 増 加 し 、軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス と 軟 骨 代 謝 の 異 常 に 関 与 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。ま た 、小 胞 体 ス ト レ ス に よ る軟骨細胞のアポトーシス誘導には小胞体ストレス応答の保護的経路の低下 とアポトーシス経路の増大が関与することが推測された。 [ 結論 ] 小胞体ストレスは軟骨細胞アポトーシスを介して軟骨変性に関与す る。 5 2. 発表論文 本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである Koji Takada, Jun Hirose, Kei Senba, Soichiro Yamabe, Yuichi Oike, Tomomi Gotoh, Hiroshi Mizuta Enhanced apoptotic and reduced protective response in chondrocytes following endoplasmic reticulum stress in osteoarthritic cartilage. International Journal of Experimantal Pathology. In press 6 3. 謝辞 本 研 究 は 熊 本 大 学 大 学 院 生 命 科 学 研 究 部・運 動 骨 格 病 態 学 水田博志教授の ご 指 導 の 下 に お い て 行 い ま し た 。多 面 に 渡 り ご 指 導 を 頂 き 、深 く 感 謝 い た し ま す。 熊 本 大 学 大 学 院 生 命 科 学 研 究 部・分 子 遺 伝 学 尾 池 雄 一 教 授 に は 、研 究 方 法 な ど 多 く の 助 言 を 頂 き ま し た 。熊 本 大 学 教 育 学 部 養 護 教 諭 養 成 課 程 後藤知己教 授 に は 小 胞 体 ス ト レ ス に 関 す る 基 礎 的 な 知 識 の ご 教 授 に 加 え 、研 究 の 進 め 方 か ら 実 験 結 果 の 解 釈 な ど 熱 心 に ご 指 導 頂 き ま し た 。熊 本 大 学 発 生 医 学 研 究 所・器 官構築部門 仙波圭博士には基本的な実験手技やプライマーの作製など様々 な ご 指 導・ご 協 力 を 頂 き ま し た 。熊 本 大 学 医 学 部 付 属 病 院・医 療 情 報 経 営 企 画 部 廣 瀬 隼 講 師 に は 基 礎 医 学 の 研 究 方 法 を 熱 心 に ご 指 導 頂 き ま し た 。こ こ に 深 く感謝いたしますとともに、お礼申し上げます。 ヒト軟骨組織のサンプル提供は本研究に賛同して頂いた患者様のご厚意に よ る も の で 、国 立 病 院 機 構 再 春 荘 病 院 の 米 村 憲 輔 先 生 、瀬 形 建 喜 先 生 、熊 本 機 能 病 院 の 中 根 惟 武 先 生 、高 橋 修 一 朗 先 生 、清 田 克 彦 先 生 、高 橋 知 幹 先 生 、南 熊 本 病 院 の 坂 田 浩 章 先 生 、大 島 卓 先 生 、整 形 外 科 井 上 病 院 の 甲 斐 功 一 先 生 、済 生 会 熊 本 病 院 の 安 楽 喜 久 先 生 に は 本 研 究 に 快 く ご 協 力 し て 頂 き ま し て 、深 く 感 謝 いたします。 7 4. 略語一覧 本論文において、以下の略語を用いた。 ACAN : aggrecan Actb : actin, beta AEC : 3-amino-3-ethylcarbazole ATF6 : activating transcription factor 6 C-CASP3 : cleaved caspase 3 CHOP : C/EBP homologous protein COL2A1 : collagen, type II, alpha 1 DAB : 3,3'-diaminobenzidine DMEM : Dulbecco's modified Eagle's medium DNA : deoxyribonucleic acid EDTA : ethylenediaminetetraacetic acid ELISA : enzyme-linked immunosorbent assay ERAD : endoplasmic reticulum-associated degradation FBS : fetal bovine serum GAPDH : glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenas GRP78 : glucose-regulated protein 78 HBSS : Hank's balanced salt solution IRE1 : inositol-requiring protein 1 JNK : c-Jun NH2-terminal kinase MMP-13 : matrix metalloproteinase 13 PBS : phosphate-buffered saline PERK : PKR-like ER kinase Real-time PCR : real-time polymerase chain reaction 8 RNA : ribonucleic acid RT-PCR : reverse transcription polymerase chain reaction TUNEL : terminal deoxyribonucleotidyl transferase-mediated dUTP-digoxigenin nick-end labeling Ub : ubiquitin XBP1 : X-box binding protein 1 9 5. 研究の背景と目的 5-1. 変形性関節症と関節軟骨 変性 5-1-1. 変形性関節症 変 形 性 関 節 症 は 代 表 的 な 運 動 器 疾 患 の 一 つ で あ り 、加 齢 、性 別 、肥 満 、遺 伝 的 素 因 な ど の 全 身 的 要 因 と 関 節 の 不 安 定 性 や 関 節 外 傷 、関 節 へ の 過 度 の 力 学 的 ス ト レ ス な ど の 局 所 的 要 因 を 背 景 に 発 症 す る [1]。 病 理 変 化 は 関 節 構 成 体 の 退 行 性 変 化 を 特 徴 と し 、軟 骨 で は 初 期 に 軟 化 が 生 じ 、続 い て 表 面 の 不 整 、 線 維 化 や 亀 裂 が 認 め ら れ 、進 行 す る と 軟 骨 基 質 が 消 失 す る 。ま た 、骨 で は 骨 硬化と骨棘形成などの形態的変化が、滑膜には炎症性の変化が認められる。 主 な 臨 床 症 状 は 関 節 痛 、関 節 腫 脹 、運 動 機 能 の 低 下 で あ り 、対 症 療 法 と し て 、 消 炎 鎮 痛 剤 の 内 服 、ヒ ア ル ロ ン 酸 や ス テ ロ イ ド の 関 節 内 注 射 及 び 理 学 療 法 な ど の 保 存 療 法 、あ る い は 骨 切 り 術 や 人 工 関 節 置 換 術 な ど の 手 術 療 法 が 行 わ れ て い る [1]。 根 本 的 治 療 が 確 立 さ れ て い な い の は 、 変 形 性 関 節 症 の 本 質 が 軟 骨 の 変 性 で あ り 、そ の 進 行 機 序 が 未 だ 十 分 解 明 さ れ て い な い こ と に 起 因 し て い る [2]。 5-1-2. 関節軟骨の構造 関節軟骨は関節運動における潤滑性と荷重緩衝のために不可欠の組織で あ り 、そ の た め に 特 質 化 し た 構 造 を 有 し て い る 。関 節 軟 骨 は 血 管 、リ ン パ 管 、 神 経 を 欠 く 硝 子 軟 骨 で 、大 部 分 は 軟 骨 基 質 で 構 成 さ れ 、存 在 す る 細 胞 は 全 容 積 の 4%以 下 の 軟 骨 細 胞 の み で あ る 。 軟 骨 基 質 は 湿 重 量 の 70%を 水 分 が 占 め 10 て お り 、水 分 以 外 の 基 質 は 乾 燥 重 量 で 50%の コ ラ ー ゲ ン 、30~ 35%の プ ロ テ オ グ リ カ ン 、15~ 20%の 非 コ ラ ー ゲ ン 性 蛋 白 や 糖 蛋 白 質 に よ っ て 構 成 さ れ る [3]。 関 節 軟 骨 の 表 面 は 膠 原 線 維 を 欠 き 、糖 蛋 白 で 構 成 さ れ る 輝 板 で 覆 わ れ て い る 。関 節 軟 骨 は 関 節 表 面 か ら 、扁 平 化 し た 軟 骨 細 胞 が 関 節 面 に 平 行 に 配 列 し た 浅 層 、円 形 の 軟 骨 細 胞 が ま ば ら に 存 在 す る 中 間 層 、軟 骨 細 胞 が 柱 状 に 配 列 し た 深 層 、 tidemark の 下 層 に 位 置 す る 石 灰 化 層 の 4 層 構 造 を 呈 す る ( 図 1) [4]。 輝 板 か ら 浅 層 は フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン な ど の 糖 蛋 白 に よ っ て 関 節 表 面 の 極 め て 低 い 摩 擦 係 数 を も た ら し 、関 節 表 面 に 平 行 な コ ラ ー ゲ ン 線 維 の 配 列 が 関 節 面 の せ ん 断 力 を 緩 衝 し て 潤 滑 な 関 節 運 動 を 可 能 に す る 。中 間 層 は 不 規 則 な コ ラ ー ゲ ン 線 維 網 と 豊 富 な プ ロ テ オ グ リ カ ン 、水 分 で 構 成 さ れ 、こ の 層 の 粘 弾 性 に よ っ て 荷 重 エ ネ ル ギ ー が 緩 衝 さ れ る 。深 層 と 石 灰 化 層 で は 深 層 か ら 垂 直に埋入するコラーゲン線維の石灰沈着によって関節軟骨を骨組織へ固定 している。 図 1. 関 節 軟 骨 の 構 造 関節軟骨は表面から表層、中間層、深層及び石灰化層の 4 層構造を呈する。 11 5-1-3. 軟骨基質の恒常性 軟 骨 細 胞 は 軟 骨 代 謝 を 司 っ て お り 、軟 骨 基 質 の 修 復( 同 化 作 用 )と 分 解( 異 化 作 用 ) が 繰 り 返 さ れ る こ と に よ っ て 軟 骨 基 質 は 維 持 さ れ て い る [3, 5]。 軟 骨 細 胞 は 通 常 、 代 謝 活 性 が 低 い 状 態 に あ る が [3]、 力 学 的 ス ト レ ス や 炎 症 な ど に よ っ て 軟 骨 基 質 が 損 傷 す る と 、 軟 骨 内 に 貯 蔵 さ れ て い る transforming growth factor, beta ( TGF-β)や insulin-like growth factor 1( IGF-1)な ど の 成 長 因 子 の 作 用 を 受 け て 、軟 骨 細 胞 は 軟 骨 基 質 の 産 生 を 増 加 し 、損 傷 し た 軟 骨 基 質 を 修 復 す る 。 一 方 、 過 剰 な 力 学 的 ス ト レ ス 、 interleukin 1, beta( IL-1β) な ど の 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン 、活 性 酸 素 種 、損 傷 し た 基 質 分 子 の 断 片 な ど に よ っ て 、蛋 白 分 解 酵 素 で あ る matrix metalloproteinases( MMPs)や A disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs( ADAMTSs) の 軟 骨 細 胞 か ら の 産 生 が 増 加 し 、 軟 骨 基 質 が 分 解 除 去 さ れ る [3, 5]。 特 に MMP-13 は 軟 骨 基 質 の 分 解 に 最 も 重 要 な 酵 素 と 考 え ら れ て い る [6]。 こ の よ う な 同 化 と 異 化 作 用 の 均 衡 が 保 た れ る こ と に よ っ て 、軟 骨 細 胞 は 軟 骨 基 質 の 恒 常 性 を 維 持 し ている。 5-1-4. 軟骨変性の病態 関 節 軟 骨 の 変 性 は 、軟 骨 細 胞 の 同 化 と 異 化 作 用 の 均 衡 が 崩 れ 、軟 骨 代 謝 に 異 常 が 生 じ た 結 果 、軟 骨 基 質 の 分 解 が 亢 進 す る こ と で 進 行 す る と 考 え ら れ て い る [3, 5]。ま た 、軟 骨 変 性 の 進 行 と 共 に 軟 骨 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス は 増 加 し [7, 8]、変 形 性 関 節 症 の 動 物 モ デ ル に お い て 、ア ポ ト ー シ ス の 実 行 過 程 の 中 心 的 酵 素 で あ る caspase の 抑 制 剤 が 軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス を 減 少 さ せ て 軟 骨 変 性 の 進 行 を 抑 制 す る こ と が 報 告 さ れ て い る [9]。 つ ま り 、 軟 骨 細 胞 の ア ポ ト ー 12 シ ス は 軟 骨 変 性 の 進 行 に 深 く 関 与 し て お り 、こ れ は 軟 骨 基 質 を 維 持 す る 細 胞 数 を 減 少 さ せ る こ と に 起 因 し て い る [10]。 現 在 、 軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス の 原 因 と し て 、一 酸 化 窒 素 、過 剰 な 力 学 的 ス ト レ ス 、炎 症 性 サ イ ト カ イ ン 、活 性 酸 素 種 、 軟 骨 細 胞 の 肥 大 化 な ど が 推 測 さ れ て い る が [11]、 特 に 一 酸 化 窒 素 は 軟骨細胞のアポトーシス誘導を制御する重要な分子であることが軟骨変性 の 動 物 モ デ ル で 証 明 さ れ て い る [12, 13]。 5-2. 小胞体ストレス 5-2-1. 小胞体ストレスの定義 小 胞 体 は 分 泌 蛋 白 質 の 成 熟 を 担 う 細 胞 内 小 器 官 で あ る 。新 た に 生 成 さ れ る 蛋 白 質 は mRNA の も つ 塩 基 配 列 情 報 に 則 し て ア ミ ノ 酸 を 重 合 す る 翻 訳 を 経 てポリペプチド鎖として合成される。この新生蛋白質は小胞体へ移送され、 78kD glucose-regulated protein( GRP78)な ど の 小 胞 体 シ ャ ペ ロ ン の 作 用 に よ っ て 折 り 畳 ま れ 、高 次 構 造 を 形 成 す る 。ま た 、高 次 構 造 が 適 切 で な い 異 常 な 蛋 白 質 は 小 胞 体 内 か ら 細 胞 質 へ 送 り 出 さ れ 、 ユ ビ キ チ ン ( Ub) ・ プ ロ テ ア ソ ー ム 系 に よ っ て 分 解 除 去 さ れ る ( endoplasmic reticulum-associated protein degradation: ERAD) 。 し か し 、 こ の 折 り 畳 み 機 構 や 分 解 機 構 が 破 綻 し た 場 合 、小 胞 体 の 機 能 を 超 え る 量 の 蛋 白 質 が 小 胞 体 に 送 り 込 ま れ る 場 合 、あ る い は遺伝子変異などによって元来正常に折り畳まれない蛋白質が合成される 場 合 は 、小 胞 体 の 折 り 畳 み 機 構 と 分 解 機 構 の バ ラ ン ス が 破 綻 し 、結 果 と し て 小 胞 体 内 に 高 次 構 造 の 異 常 な 蛋 白 質 が 蓄 積 す る 。こ の 状 態 が 小 胞 体 ス ト レ ス と 定 義 さ れ て い る [14]。 13 5-2-2. 小胞体ストレス応答とアポトーシス 細胞は小胞体ストレスを小胞体膜に存在する 3 つのストレスセンサー ( protein kinase RNA-like ER kinase:PERK、inositol-requiring protein-1:IRE1α、 activating transcription factor-6: ATF6) で 感 知 し て 、 小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 と 総 称 さ れ る 応 答 を 誘 導 す る [14]。 活 性 化 し た PERK は 翻 訳 を 抑 制 し て 小 胞 体 の 負 荷 を 軽 減 す る 。ま た 、活 性 化 し た IRE1α は X-box binding protein 1 (XBP1) mRNA を ス プ ラ イ ス し 、 ス プ ラ イ ス さ れ た XBP1 mRNA が コ ー ド す る XBP1 蛋 白 は 転 写 因 子 と な り 、GRP78 な ど の 分 子 シ ャ ペ ロ ン の 発 現 を 増 加 し て 小 胞 体 の 処 理 能 力 を 向 上 さ せ る 。 ま た 、 XBP1 蛋 白 は 、 ERAD 関 連 蛋 白 の 発 現 を 増 加 し て 異 常 蛋 白 の 分 解 除 去 を 促 進 す る 。こ れ ら の 異 常 蛋 白 の 小 胞 体 内 蓄 積 を 改 善 す る 保 護 的 応 答 に も か か わ ら ず 、小 胞 体 ス ト レ ス が 回 避 さ れ な い 場 合 には、小胞体ストレス応答はアポトーシスを誘導し、細胞自身を除去する。 小胞体ストレス応答によるアポトーシス誘導は少なくとも3つの経路が知 ら れ て い る [15]。 第 一 は 活 性 化 し た PERK な ど が C/EBP-homologous protein ( CHOP) 発 現 を 増 加 す る 経 路 で あ る 。 第 二 は 活 性 化 し た IRE1α が tumor necrosis factor( TNF) receptor-associated factor 2( TRAF2) を リ ク ル ー ト し て 、 mitogen-activated protein kinase( MAPK) で あ る c-Jun N-terminal kinase ( JNK)を 活 性 化 す る 経 路 で あ る 。最 後 は caspase-12 活 性 化 に よ る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 で あ る 。 た だ し 、 ヒ ト の caspase-12 は 機 能 を 欠 失 し て い る [16]。 5-3. 軟骨変性と小胞体ストレ ス 14 近 年 、 変 形 性 関 節 症 の 変 性 軟 骨 で は 小 胞 体 シ ャ ペ ロ ン GRP78 の 発 現 が 正 常 軟 骨 よ り も 増 加 す る こ と が 報 告 さ れ 、小 胞 体 ス ト レ ス の 軟 骨 変 性 へ の 関 与 が 推 測 さ れ て い る [17-19]。ま た 、軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス の 重 要 な 制 御 分 子 で ある一酸化窒素のアポトーシス誘導には小胞体ストレスが関与することが、 マ ク ロ フ ァ ー ジ や 膵 β 細 胞 の 解 析 で 明 ら か な っ て い る [20, 21]。 さ ら に 、 培 養 軟 骨 細 胞 を 使 用 し た in vitro の 実 験 で は 、 小 胞 体 ス ト レ ス を 誘 導 す る こ と で ラ ッ ト 軟 骨 細 胞 に ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 し 、 ア グ リ カ ン と II 型 コ ラ ー ゲ ン の mRNA 発 現 を 抑 制 す る こ と や [22, 23]、 ヒ ト 軟 骨 細 胞 の MMP-13 の mRNA 発 現 を 増 加 す る こ と も [24] 報 告 さ れ て い る 。 し か し 、 こ れ ま で 関 節 軟 骨 に お い て GRP78 以 外 の 小 胞 体 ス ト レ ス 関 連 分 子 の 発 現 や 、 軟 骨 変 性 の 進 行 と 小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 の 関 連 性 は 検 討 さ れ て い な い 。ま た 、軟 骨 変 性 に お け る 小胞体ストレスの軟骨細胞アポトーシスや軟骨代謝への関与についても不 明なままである。 5-4. 本研究の目的 本研究の目的は、複数の小胞体ストレス関連分子を評価し、様々な変性度 の関節軟骨における小胞体ストレスと小胞体ストレス応答を多面的に捉えて、 小胞体ストレスと軟骨変性との関連性を明らかにすることである。まず、生 体軟骨で軟骨変性の進行と小胞体ストレス関連分子の発現の変化を評価した。 さらに、生体軟骨と軟骨細胞培養系で小胞体ストレスの軟骨細胞アポトーシ ス及び軟骨代謝への関与を検討した。 15 6. 実験方法 6-1. 試 薬 免 疫 組 織 化 学 染 色 に 使 用 し た 一 次 抗 体 の 購 入 先 、希 釈 濃 度 、参 考 文 献 を 表 1 に示した。 表 1. 一 次 抗 体 免疫動物 購入先 希釈濃度 参考文献 1/200 [25, 26] 1/500 [27] 1/300 [18] 1/200 [28] 1/200 [29] 1/500 [30-32] Santa Cruz pPERK rabbit Biotechnology Inc (Santa Cruz, USA) Ubiquitin mouse MBL (Nagoya, Japan) Santa Cruz GRP78 goat Biotechnology Inc (Santa Cruz, USA) Santa Cruz CHOP rabbit Biotechnology Inc (Santa Cruz, USA) Santa Cruz pJNK mouse Biotechnology Inc (Santa Cruz, USA) C-CASP3 (cleaved caspase-3) Cell Signaling rabbit Technology Inc (Bervely, USA) ま た 、 免 疫 組 織 化 学 染 色 に 使 用 し た 二 次 抗 体 は Histofine Simple Stain MAX-PO (R)、 Histofine Simple Stain MAX-PO (M)、 Histofine Simple Stain MAX-PO (G)、 Histofine Simple Stain AP (R)を ニ チ レ イ バ イ オ サ イ エ ン ス ( Tokyo, Japan) か ら 購 入 し た 。 16 Real-time PCR に 使 用 し た TaqMan ® Gene Expression Assays( Applied Biosystems, Foster, USA) を 表 2 に 示 し た 。 表 2. TaqMan ® Gene Expression Assays ヒト ラット 遺伝子 製 品 ID CHOP Hs00358796 ACAN Hs00202971 COL2A1 Hs00156568 MMP-13 Hs00233992 GAPDH Hs99999905 Chop Rn00492098 Grp78 Rn01435771 Acan Rn00573424 Col2a1 Rn01637085 Mmp-13 Rn01448197 Actb Rn00667869 培 養 実 験 に 使 用 し た Hank’s Balanced Salt Solutions( HBSS)、コ ラ ゲ ナ ー ゼ・ タ イ プ II、FBS、抗 生 剤( ペ ニ シ リ ン・ス ト レ プ ト マ イ シ ン )は Invirogen( Carlsbad, Ca, USA)か ら 購 入 し 、ヒ ア ル ロ ニ ダ ー ゼ 、ト リ プ シ ン は Sigma-Aldrich Japan ( Tokyo, Japan) か ら 、 DMEM/F-12 と DMEM は Nacalai( Kyoto, Japan) か ら 購 入 し た 。ま た 、tunicamycin を Calbiochem( San Diego, USA)か ら 購 入 し た 。 6-2. 変 性軟骨における小胞体ストレスの発生に関する検討 6-2-1. ヒト変性軟骨の採取 17 ヒ ト 軟 骨 組 織 の 採 取・解 析 を 熊 本 大 学 生 命 科 学 研 究 部・倫 理 委 員 会 の 承 認 の 下 に 施 行 し た 。対 象 症 例 は 人 工 膝 関 節 置 換 術 を 施 行 さ れ た 変 形 性 膝 関 節 症 患 者 11例( 平 均 年 齢 71.7±6.5歳 、男 性 3例 、女 性 8例 )で あ っ た 。各 症 例 の 脛 骨 高 原 か ら 表 3に 示 し た 肉 眼 的 変 性 度 ( ICRS grade) [33]の 異 な る 1~3個 の 骨 軟 骨 組 織 を 術 中 に 採 取 し 、 合 計 20個 の 骨 軟 骨 組 織 を 得 た 。 骨 軟 骨 組 織 を 2分 割 し 、片 方 を 組 織 標 本 作 製 に 使 用 し 、も う 片 方 は 直 ち に 液 体 窒 素 で 凍 結 し て -80℃ で 保 管 し 、 遺 伝 子 解 析 に 使 用 し た 。 表 3. ICRS grading system Grade 6-2-2. 所見 I 表面の損傷や亀裂、軟化 II 磨 耗 、 50%未 満 の 深 さ の 損 傷 III 50%以 上 の 深 さ の 損 傷 IV 完全な軟骨の欠失 ラット変形性関節症モデルの作製と関節軟骨の採取 10 週 齢 、雄 の Sprague-Dawley ラ ッ ト を 日 本 SLC( Hamamatsu, Japan)か ら 購 入 し 、熊 本 大 学 動 物 実 験 指 針 を 尊 守 し て 実 験 を 施 行 し た 。前 十 字 靭 帯 切 離 と内側半月切除による変形性関節症モデルを作製した。 手術方法は過去の 報 告 [34]に 従 っ て 以 下 の よ う に 施 行 し た 。 ラ ッ ト を ペ ン ト バ ル ビ タ ー ル ( 30 ~ 40mg/kg) の 腹 腔 内 投 与 で 麻 酔 し 、 右 膝 前 方 で 皮 膚 を 切 開 し 、 膝 蓋 骨 か ら 膝 蓋 靭 帯 の 内 縁 を 切 開 し て 関 節 内 に 達 し た 。前 十 字 靭 帯 を 脛 骨 付 着 部 で 切 離 し 、 内 側 半 月 板 を 関 節 包 か ら 剥 離 し て 切 除 し 、 洗 浄 し て 閉 創 し た 。 術 後 1、 2、3 週 後 に ラ ッ ト を 頚 椎 脱 臼 で 安 楽 死 さ せ 脛 骨 高 原 の 関 節 軟 骨 を 採 取 し た 。 18 ま た 、対 照 と し て 10 週 齢 、雄 の Sprague-Dawley ラ ッ ト の 脛 骨 高 原 か ら 正 常 関節軟骨を採取した。 6-2-3. 組織標本の作製 ヒ ト お よ び ラ ッ ト の 骨 軟 骨 組 織 を 4℃ の リ ン 酸 緩 衝 生 理 食 塩 水 ( PBS) で 洗 浄 し 、 PBS に 希 釈 し た 4%パ ラ フ ォ ル ム ア ル デ ヒ ド で 4℃ 、 18 時 間 の 固 定 を 行 っ た 。次 に 70%か ら 100%の エ タ ノ ー ル 系 列 で 一 晩 か け て 脱 脂 し た 後 に 、 10%エ チ レ ン ジ ア ミ ン 四 酢 酸( EDTA)を 含 む リ ン 酸 緩 衝 液 に 組 織 を 浸 し て 、 4℃ で 2 週 間 か け て 脱 灰 し た 。 組 織 を パ ラ フ ィ ン 包 埋 し 、 4μm の 薄 切 標 本 を 作製した。 6-2-4. Safranin-O 染 色 組 織 標 本 を 脱 パ ラ フ ィ ン 後 、再 親 水 化 し 、マ イ ヤ ー ヘ マ ト キ シ リ ン 液 に 室 温 で 7 分 間 に 浸 し た 。 次 に 0.02%フ ァ ー ス ト グ リ ー ン 液 に 10 分 間 浸 し た 後 に 、1%酢 酸 で 5 回 浸 し 、0.1% Safranin-O 液 で 10 分 間 染 色 を 行 っ た 。キ シ レ ンで疎水化し、カバーガラスで封入した。 関 節 軟 骨 の 組 織 学 的 変 性 度 を Mankin score( 表 4) [35] に 従 っ て ス コ ア 化 し 、変 性 度 を 軽 度 変 性( Mankin score = 1 - 3)、中 等 度 変 性( Mankin score = 4 - 7) 、 重 度 変 性 ( Mankin score >7) の 3 群 に 分 類 し た [36]。 19 表 4. Mankin score system Score I II III IV 構造 a. 正常 0 b. 表面の不整 1 c. 表面の不整、パンヌス形成 2 d. 中間層までの亀裂 3 e. 深層までの亀裂 4 f. 石灰化層までの亀裂 5 g. 完全な破壊 6 a. 正常 0 b. びまん性の細胞数増加 1 c. クローニング 2 d. 細胞数減少 3 細胞 Safranin-O の 染 色 性 a. 正常 0 b. 軽度の低下 1 c. 中等度の低下 2 d. 重度の低下 3 e. 染色性の消失 4 Tidemark の 状 態 a. 正常 0 b. 血管の横断 1 総得点 6-2-5. 0~ 14 免疫組織化学染色 薄 切 切 片( 4 µm)を 脱 パ ラ フ ィ ン 後 、再 親 水 化 し た 。pPERK、CHOP、Ub の 解 析 に お い て は 、PBS に 希 釈 し た proteinase K ( Roche Diagnostics, Mannheim, Germany) ( 20 µg/ml) で 組 織 切 片 を 室 温 、 12 分 間 培 養 し て 抗 原 賦 活 化 を 行 い 、 pJNK と GRP78 に 対 し て は 抗 原 賦 活 化 を 行 わ な か っ た 。 次 に 0.3%過 酸 化 水 素 を 含 む メ タ ノ ー ル に 切 片 を 室 温 で 30 分 間 浸 し て 、 内 生 ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 活 性 の 除 去 を 行 っ た 。 非 特 異 的 反 応 の ブ ロ ッ キ ン グ の た め に 抗 GRP78 20 抗 体 に 対 し て は ウ サ ギ 正 常 血 清 ( Nichirei Co. Ltd, Tokyo, Japan) を 使 用 し 、 他 の 抗 体 に 対 し て は ヤ ギ 正 常 血 清( Nichirei Co. Ltd, Tokyo, Japan)を 使 用 し て 組 織 切 片 を 室 温 、 30 分 間 培 養 し た 。 次 に 組 織 切 片 を PBS で 希 釈 し た 一 次 抗 体 で 4℃ 、18 時 間 培 養 し た 。PBS で 洗 浄 後 、各 一 次 抗 体 に 対 す る 二 次 抗 体 で 組 織 切 片 を 室 温 、 30 分 間 培 養 し た 。 発 色 は 3,3'-diaminobenzidine( DAB) ま た は 3-amino-9-ethylcarbazole( AEC) で 行 い 、 ヘ マ ト キ シ リ ン で 対 比 染 色 を 行 っ た 。 陰 性 コ ン ト ロ ー ル に は 、 一 次 抗 体 を Negative control Rabbit immunoglobulin Fraction (Dako, Glostrup, Denmark)ま た は Negative control mouse IgG ( Dako, Glostrup, Denmark)に 置 き 換 え て 同 じ 処 理 を 行 っ た 組 織 切 片と一次抗体を使用せずに同じ処理を行った組織切片を使用した。 1mm 以 上 離 れ た 2 箇 所 の 幅 800µm の 軟 骨 組 織 全 層 を 300×400µm の 20~40 領 域 に 分 割 し た デ ジ タ ル 画 像 と し て 得 た 。こ れ ら の 画 像 内 の 陽 性 細 胞 と 全 細 胞 数 を 計 算 し 、組 織 全 体 の 陽 性 細 胞 率 を 算 出 し て 、免 疫 染 色 を 半 定 量 的 に 評 価した。 6-2-6. RNA の 抽 出 と 逆 転 写 -80℃ で 凍 結 し た 関 節 軟 骨 を 凍 結 し た ま ま 破 砕 し 、 TRIzol reagent (Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を 使 用 し て total RNA を 抽 出 し た 。 RNA を RNeasy Mini kit (Qiagen, Valencia, CA, USA)と DNase (Qiagen, Valencia, CA, USA)を 使 用 し て RNA の 精 製 お よ び DNA の 除 去 を 行 っ た 。RNA 100ng を High Capacity RNA-to-cDNA( Applied Biosystems , Foster, CA, USA)を 使 用 し て 逆 転 写 し 、 cDNA を 作 製 し た 。 21 6-2-7. RT-PCR と Pst1 制 限 酵 素 処 理 XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ を XBP1 mRNA に 対 す る RT-PCR と Pst1 制 限 酵 素 を 利 用 し た 方 法 で 評 価 し た [37]。 XBP1 mRNA に 対 す る PCR 増 幅 は TaKaRa LA Taq (Takara, Kyoto, Japan)と GeneAmp® PCR system 9700( Applied Biosystems, Foster City, CA) を 使 用 し た 。 使 用 し た プ ラ イ マ ー の シ ー ケ ン ス は次の通りである。 XBP1: sense 5’- GCCTTGTAGTTGAGAACCAG-3’ antisense 5’- TTAATGGCTTCCAGCTTGGC-3’ こ の プ ラ イ マ ー は spliced XBP1 と unspliced XBP1 の mRNA の 両 方 を 増 幅 し 、予 想 さ れ る PCR 産 物 の サ イ ズ は spliced XBP1 mRNA が 379bp、unspliced XBP1 mRNA が 405bp で あ る 。ま た 、こ の プ ラ イ マ ー は IRE1α に よ っ て ス プ ラ イ ス さ れ る 26 塩 基 の 部 位 を unspliced XBP1 の PCR 産 物 が 含 む 様 に 設 計 し て い る 。 こ の 26 塩 基 の 部 位 は Pst1 制 限 酵 素 の 切 断 部 位 を 含 ん で い る た め 、 こ の 部 位 が ス プ ラ イ ス さ れ た spliced XBP1 mRNA の PCR 産 物 で は Pst1 制 限 酵 素 の 切 断 部 位 が 消 失 し て い る 。従 っ て 、こ の プ ラ イ マ ー の PCR 産 物 を Pst1 制 限 酵 素 で 処 理 し 、 ア ガ ロ ー ス 電 気 泳 動 す る こ と で 、 spliced XBP1 と Pst1 制 限 酵 素 で 切 断 さ れ た unspliced XBP1 に PCR 産 物 を 分 離 す る こ と が 可 能 と なる。 PCR 反 応 は 、94℃ 、30 秒 間 の denaturation、56℃ 、30 秒 間 の annealing、72℃ 、 30 秒 間 の extension を 33 サ イ ク ル 行 っ た 。次 に PCR 産 物 を Pst1 制 限 酵 素 で 37℃ 、2 時 間 培 養 し た 後 に 、2%ア ガ ロ ー ス に 電 気 泳 動 し 、濃 度 計( AE-6920-MF, ATTO, Tokyo, Japan) と CS analyzer software program (ver 2.0; ATTO, Tokyo, Japan)を 使 用 し て 、 spliced XBP1 と unspliced XBP1 の PCR 産 物 量 を 測 定 し 、 22 XBP1 mRNA の ス プ ラ イ シ ン グ を spliced XBP1 と unspliced XBP1 の 比 ( spliced/unspliced XBP1) で 評 価 し た 。 6-2-8. Real-time PCR CHOP と GAPDH の mRNA 発 現 を 評 価 す る た め に real-time PCR を 施 行 し た 。 Real-time PCR は Applied Biosystems 7300/7500 Real-Time PCR system ( Applied Biosystems, Foster City, CA) 、 TaqMan ® Gene Expression Assays ( Applied Biosystems, Foster City, CA) 、 TaqMan ® Universal PCR Master Mix ( Applied Biosystems, Foster City, CA)を 使 用 し た 。Real-time PCR 反 応 は 50℃ 、 2 分 間 、 続 い て 95℃ 、 10 分 間 の 培 養 後 、95℃ 、15 秒 間 と 60℃ 、 1 分 間 を 40 サ イ ク ル 行 っ た 。全 て の 実 験 で ス タ ン ダ ー ド カ ー ブ を 描 い て 各 遺 伝 子 の 発 現 量 を 定 量 し 、 GAPDH を 内 因 性 コ ン ト ロ ー ル と し て 使 用 し た 。 6-3. 軟 骨細胞アポトーシスと小胞体ストレスに関する検討 6-3-1. ヒト軟骨組織標本の準備 6-2-3 で 作 製 し た 20 個 の ヒ ト 軟 骨 組 織 標 本 を 使 用 し た 。 6-3-2. ヒト軟骨細胞の単離・培養・刺激 ヒト関節軟骨は人工膝関節置換術を施行された変形性膝関節症患者 2 例 ( 71 歳 及 び 75 歳 、 女 性 2 例 ) の 大 腿 骨 顆 部 と 脛 骨 高 原 か ら 得 た 。 ヒ ト 軟 骨 組 織 か ら の 軟 骨 細 胞 単 離 は 以 下 の 手 順 で 行 っ た [38]。 採 取 し た 関 節 軟 骨 を HBSS で 3 回 洗 浄 後 、 HBSS に 溶 解 し た 0.05%ヒ ア ル ロ ニ ダ ー ゼ で 37℃ 、10 分 間 、滅 菌 ボ ト ル 内 で 攪 拌 し な が ら 培 養 し た 。次 に 軟 骨 片 を 0.03% 23 ト リ プ シ ン 及 び 0.1%コ ラ ゲ ナ ー ゼ・タ イ プ II を 含 む HBSS で 37℃ 、10 分 間 、 攪 拌 し な が ら 培 養 し た 。 最 後 に 軟 骨 片 を 抗 生 剤 を 含 む DMEM/F-12 で 3 回 洗 浄 し 、DMEM/F-12 に 溶 解 し た 0.07%コ ラ ゲ ナ ー ゼ・タ イ プ II で 37℃ 、16 時 間 、 攪 拌 し な が ら 培 養 し て 完 全 に 溶 解 し た 。 軟 骨 の 溶 解 液 の 不 溶 物 を 70μm の cell ス ト レ イ ナ ー ( BD Falcom, Bedford, USA) で 濾 過 除 去 し 、 1500rpm、 5 分 間 遠 心 し て 軟 骨 細 胞 ペ レ ッ ト を 得 た 。 さ ら に 軟 骨 細 胞 を DMEM/F-12 で 浮 遊 し 、遠 心 し て ペ レ ッ ト に す る 処 理 を 2 回 行 い 、最 後 に ペ レ ッ ト を 10%FBS を 含 む DMEM/F-12 で 浮 遊 さ せ 軟 骨 細 胞 を 得 た 。 ヒ ト 軟 骨 細 胞 は 20 x 10 4 cells/cm 2 の 密 度 で プ レ ー ト に 播 種 し 、 5% CO 2 、 37℃ の 条 件 の 下 に 、 10%FBS を 含 む DMEM/F-12 で 培 養 し 、 実 験 に は 初 代 培 養 細 胞 を 使 用 し た 。70%以 上 の コ ン フ ル エ ン ト に 達 し た 後 、培 地 を 無 血 清 の DMEM/F-12 培 地 に 置 き 換 え 、12 時 間 培 養 し た 。そ の 後 、軟 骨 細 胞 を 0.5%の FBS を 含 む DMEM/F-12 に 溶 解 し た 小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 剤 tunicamycin( 0、 0.5、 1、 5、 10μg/ml) で 24 時 間 刺 激 し た 。 6-3-3. 免疫組織化学染色 Caspase-3 は ア ポ ト ー シ ス 実 行 過 程 の 中 心 的 酵 素 で あ り [39]、抗 C-CASP3 抗 体 は 活 性 化 し た caspase-3 を 検 出 す る た め [30-32]、 こ の 抗 体 を 使 用 し た 免 疫 組 織 化 学 染 色 に よ っ て 変 性 軟 骨 の 軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス を 評 価 し た 。免 疫 染 色 は 組 織 切 片 を proteinase K( 20 µg/ml) で 室 温 、 12 分 間 培 養 し て 抗 原 賦 活 化 を 行 い 、他 の 手 順 は 6-2-5 に 示 し た 方 法 と 同 様 に し て 施 行 し 、発 色 を AEC で行った。 24 6-3-4. TUNEL 染 色 ヒ ト 軟 骨 組 織 切 片 を 脱 パ ラ フ ィ ン し 、 PBS に 希 釈 し た proteinase K( 20 µg/ml)で 室 温 、15 分 間 培 養 し て 抗 原 を 賦 活 し た 。3%過 酸 化 水 素 を 含 む PBS に室温で、5 分間浸して内生ペルオキシダーゼ活性の除去を行った。次に ApopTag® Peroxidase In Situ Apoptosis Detection Kit( Chemicon International, Temecula, CA, USA)を 使 用 し て 、操 作 手 順 書 に 従 っ て 組 織 標 本 の TUNEL 染 色 を 行 っ た 。 発 色 は AEC で 行 い 、 ヘ マ ト キ シ リ ン で 対 比 染 色 を 行 っ た 。 陰 性 コ ン ト ロ ー ル は TdT Enzyme を 使 用 せ ず に 同 じ 操 作 を 行 っ た 切 片 と し た 。 6-3-5. 免 疫 組 織 化 学 染 色 と TUNEL 染 色 の 二 重 染 色 組 織 切 片 を 脱 パ ラ フ ィ ン し 、PBS に 希 釈 し た proteinase K( 20 µg/ml)で 室 温 、12 分 間 培 養 し て 抗 原 を 賦 活 し た 。PBS で 洗 浄 後 、ヤ ギ 正 常 血 清( Nichirei Co. Ltd, Tokyo, Japan) を 使 用 し て 切 片 を 室 温 、 30 分 間 培 養 し 、 非 特 異 的 反 応 の ブ ロ ッ キ ン グ を 行 っ た 。 次 に PBS に 希 釈 し た 抗 pPERK 抗 体 で 室 温 、 1 時 間 培 養 し た 。 PBS で 洗 浄 後 、 Histofine Simple Stain AP (R)で 室 温 、 30 分 間 培 養 し 、TBS で 洗 浄 後 、ニ ュ ー フ ク シ ン に よ っ て 発 色 を 行 っ た 。水 洗 後 、3% 過 酸 化 水 素 を 含 む PBS に 5 分 間 浸 し て 内 生 ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 活 性 の 除 去 を 行 っ た 。次 に ApopTag® Peroxidase In Situ Apoptosis Detection Kit( Chemicon International, Temecula, CA, USA)を 使 用 し て TUNEL 染 色 を 施 行 し 、発 色 を DAB で 行 い 、 ヘ マ ト キ シ リ ン で 対 比 染 色 を 行 っ た 。 6-3-6. RNA の 抽 出 と 逆 転 写 ヒ ト 培 養 軟 骨 細 胞 の total RNA を RNeasy Mini kit (Qiagen, Valencia, CA, 25 USA)と DNase (Qiagen, Valencia, CA, USA)を 使 用 し て 抽 出 し 、DNA の 除 去 を 行 っ た 。 RNA 200ng を High Capacity RNA-to-cDNA( Applied Biosystems , Foster, CA, USA) を 使 用 し て 逆 転 写 し 、 cDNA を 作 製 し た 。 6-3-7. RT-PCR と Pst1 制 限 酵 素 処 理 6-2-7 に 示 し た 手 順 と 同 様 に し て XBP1 mRNA に 対 す る RT-PCR と PCR 産 物 の Pst1 制 限 酵 素 処 理 を 施 行 し 、 XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ を 評 価 し た 。 6-3-8. Real-time PCR ヒ ト 軟 骨 細 胞 の CHOP mRNA 発 現 に つ い て 、 6-2-8 の 方 法 と 同 様 に し て real-time PCR を 使 用 し て 解 析 し た 。ま た GAPDH を 内 因 性 コ ン ト ロ ー ル と し て使用した。 6-3-9. ELISA 培 養 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス 量 を Cell Death Detection ELISA PLUS (Roche Applied Science, Indianapolis, IN)を 使 用 し て 、 操 作 手 順 に 従 っ て ア ポ ト ー シ ス 量 を 解 析 し た 。 ELISA の 解 析 は 、 reference 波 長 を 492nm と し て 、 各 サ ン プ ル の 吸 光 度 を 405nm で 測 定 し 、 ア ポ ト ー シ ス 量 を サ ン プ ル の 吸 光 度 の コ ン ト ロ ー ル ( tunicamycin 未 投 与 の 細 胞 ) に 対 す る 比 ( enrichment factor: EF) で 評 価 し た 。ま た 、同 じ 刺 激 実 験 を 施 行 し た 軟 骨 細 胞 を 別 の well で 培 養 し 、 総 蛋 白 量 を Bradford 法 で 定 量 し た 。こ の 細 胞 の 総 蛋 白 量 で ア ポ ト ー シ ス 量 を 補正した。 6-4. 軟 骨代謝と小胞体ストレスに関する検討 26 6-4-1. ヒ ト の 変 性 軟 骨 と 培 養 軟 骨 細 胞 の cDNA の 準 備 6-2-6 で 作 製 し た ヒ ト 軟 骨 組 織 の cDNA と 6-3-2 で 刺 激 を 行 っ た ヒ ト 培 養 軟 骨 細 胞 の cDNA を 解 析 に 使 用 し た 。 6-4-2. ラット軟骨細胞の単離・培養・刺激 ラ ッ ト の 関 節 軟 骨 は 5 週 齢 、 雄 の Sprague-Dawley ラ ッ ト ( SLC Japan, Hamamatsu, Japan)の 大 腿 骨 頭 か ら 採 取 し た 。ラ ッ ト の 関 節 軟 骨 組 織 を HBSS に 溶 解 し た 0.1%ト リ プ シ ン で 37℃ 、20 分 間 攪 拌 し な が ら 培 養 し 、次 に DMEM に 溶 解 し た 0.1%コ ラ ゲ ナ ー ゼ ・ タ イ プ II で 37℃ 、 3 時 間 攪 拌 し な が ら 培 養 し て 溶 解 し た 。 軟 骨 組 織 の 溶 解 液 か ら 6-3-2 の 手 順 と 同 様 に し て ラ ッ ト 軟 骨 細 胞 を 回 収 し た 。ラ ッ ト 軟 骨 細 胞 を 25 cm 2 フ ラ ス コ に 播 種 し 、5% CO 2 、37℃ の 条 件 の 下 に 、 10%FBS を 含 む DMEM で 培 養 し た 。 実 験 に は 1 回 継 代 細 胞 を 使 用 し 、 一 回 継 代 細 胞 を 無 血 清 の DMEM で 37℃ 、 12 時 間 培 養 し た 後 に 、 tunicamycin( 0、 1、 5、 10μg/ml) で 24 時 間 刺 激 を 行 っ た 。 6-4-3. RNA の 抽 出 と 逆 転 写 ラ ッ ト 培 養 軟 骨 細 胞 か ら の RNA 抽 出 と 逆 転 写 を 6-3-6 と 同 じ 方 法 で 施 行 した。 6-4-4. Real-time PCR ヒ ト 変 性 軟 骨 及 び ヒ ト 培 養 軟 骨 細 胞 の ACAN、COL2A1、MMP-13、GAPDH の mRNA を real-time PCR で 定 量 し た 。ラ ッ ト 培 養 軟 骨 細 胞 で は Chop、Grp78、 Acan、 Col2a1、 Mmp-13、 Actb の mRNA 発 現 を real-time PCR で 評 価 し た 。 27 Real-time PCR は 6-2-8 と 同 じ 方 法 で 施 行 し た 。 ま た ヒ ト の mRNA 発 現 は GAPDH を 内 因 性 コ ン ト ロ ー ル と し て 使 用 し 、ラ ッ ト の mRNA 発 現 の 内 因 性 コ ン ト ロ ー ル に は Actb を 使 用 し た 。 6-5. 統 計学的解析 多 群 間 の 比 較 は Kruskal-Wallis test を 行 い 、 有 意 な 場 合 は Mann-Whitney U test に Bonferroni 補 正 を 使 用 し て post-hoc test を 行 っ た 。相 関 解 析 は Spearman’s rank correlation coefficient( r s ) を 算 出 し て 行 っ た 。 0.05 未 満 の p 値 を 統 計 学 的に有意とした。 表 5. 評 価 項 目 一 覧 小胞体ストレス 軟骨細胞 免疫染色 PCR 解 析 アポトーシス XBP1 splicing C-CASP3 CHOP TUNEL 軟骨代謝 pPERK Ub 関節軟骨 GRP78 CHOP ヒト ACAN COL2A1 MMP-13 pJNK XBP1 splicing 培養軟骨細胞 CHOP ACAN ELISA COL2A1 MMP-13 pPerk 関節軟骨 Grp78 Chop ラット 培養軟骨細胞 Grp78 Chop 28 Acan Col2a1 Mmp-13 7. 実験結果 7-1. 変性軟骨における小胞 体ストレスの発生 7-1-1. 変形性関節症患者の軟骨変性度 各 症 例 か ら 得 た 関 節 軟 骨 の ICRS grade と Mankin score の 一 覧 を 表 6 に 示 し 、 図 2 に 変 性 度 で 分 類 し た 代 表 的 な 軟 骨 組 織 を 示 し た 。 20 個 の ヒ ト 変 性 軟骨は変性度が軽度、中等度、重度の軟骨にそれぞれ 5 個、7 個、8 個が分 類された。また中等度変性軟骨の一部と全ての重度変性軟骨は表層を欠損 し、表面は中間層であった。 表 6. 症例 関 節 軟 骨 の ICRS grade と Mankin score 年齢(歳) 性別 ICRS grade (Mankin score) 1 71 女性 0 (1) 2 76 女性 I (3) 3 74 女性 I (6) 4 76 女性 I (6), II (8), 5 76 女性 I (3), III (4) 6 59 女性 I (5), III (10) 7 73 女性 II (7), III (9) 8 58 女性 III (9) 9 70 男性 0 (2), I (4), 10 77 男性 I (3), II (5) 11 79 男性 I (6), III (11) 図 2. ヒ ト 変 性 軟 骨 組 織 の safranin-O 染 色 a、 b、 c は そ れ ぞ れ 軽 度 、 中 等 度 、 重 度 の 変 性 軟 骨 で あ る 。 29 III (9) III (7) 7-1-2. ヒト変性軟骨の変性度と小胞体ストレス関連分子 変 性 軟 骨 に お け る 小 胞 体 ス ト レ ス の 発 生 を 評 価 す る た め 、 pPERK、 Ub、 GRP78、CHOP、pJNK の 小 胞 体 ス ト レ ス 関 連 蛋 白 の 発 現 に つ い て 免 疫 染 色 法 で評価した。 軽 度 の 変 性 軟 骨 に お い て 、 pPERK、 Ub、 GRP78、 CHOP、 pJNK に 対 す る 陽 性 軟 骨 細 胞 を 表 層 で 認 め た ( 図 3. a、 図 4. a、 図 5. a、 図 6. a、 図 7. a) 。 中 間 層 と 深 層 で は 、 一 部 の 軟 骨 細 胞 が pPERK と Ub に 対 し て 弱 陽 性 で あ っ た が 、 多 く の 軟 骨 細 胞 は GRP78、 CHOP、 pJNK に 対 し て 陰 性 で あ っ た ( 図 3. b-c、 図 4. b-c、 図 5. b-c、 図 6. b-c、 図 7. b-c) 。 中等度の変性軟骨においては、表面に近い層(表層または中間層の上部) で 、 pPERK、 Ub、 GRP78、 CHOP、 pJNK の 小 胞 体 ス ト レ ス 関 連 分 子 全 て に 対 す る 陽 性 の 軟 骨 細 胞 を 高 頻 度 に 認 め 、 特 に Ub に 対 し て は 強 陽 性 を 示 す 細 胞 が み ら れ た( 図 3. d、図 4. d、図 5. d、図 6. d、図 7. d)。ま た 、中 間 層 下 部 や 深 層 で は 、pPERK、Ub、pJNK に 対 す る 陽 性 細 胞 を 認 め た が( 図 3. e-f、 図 4. e-f、図 7. e-f)、GRP78 と CHOP に 対 し て は 陰 性 の 軟 骨 細 胞 が 多 か っ た ( 図 5. e-f、 図 6. e-f) 。 重 度 の 変 性 軟 骨 で は 中 間 層 全 体 に お い て 、 pPERK、 Ub、 CHOP、 pJNK に 対 す る 陽 性 軟 骨 細 胞 を 多 数 認 め 、 特 に pPERK と Ub に 対 し て は 強 い 染 色 性 を 示 す 軟 骨 細 胞 を 認 め た( 図 3. g-h、図 4. g-h、図 6. g-h、図 7. g-h)。ま た 、 下 層 に お い て も pPERK、 Ub、 CHOP、 pJNK に 対 す る 陽 性 の 軟 骨 細 胞 を 認 め た( 図 3. i、図 4. i、図 6. i、図 7. i)。し か し GRP78 に 対 し て は 中 間 層 上 部 で 陽 性 細 胞 が 認 め ら れ た が 、中 間 層 下 部 や 深 層 で は 軽 度 及 び 中 等 度 変 性 軟 骨 30 と 同 様 に 多 く の 軟 骨 細 胞 が 陰 性 で あ っ た ( 図 5. g-i) 。 図 3. ヒ ト 変 性 軟 骨 の pPERK の 発 現 軽 度 ( a-c) 、 中 等 度 ( d-f) 、 及 び 重 度 ( g-i) の 変 性 軟 骨 を 示 し た 。 a は 表 層 、 b は 中 間 層 、 d と g は 中 間 層 上 部 、 e と h は 中 間 層 下 部 で あ る 。 c、 f 及 び i は 深 層 で あ る 。 挿 入 画 像 は 矢 頭 の 拡 大 図 で あ る 。 ス ケ ー ル バ ー は 100μm で あ る 。 図 4. ヒ ト 変 性 軟 骨 の Ub の 発 現 軽 度 ( a-c) 、 中 等 度 ( d-f) 、 及 び 重 度 ( g-i) の 変 性 軟 骨 を 示 し た 。 a は 表 層 、 b は 中 間 層 、 d と g は 中 間 層 上 部 、 e と h は 中 間 層 下 部 で あ る 。 c、 f 及 び i は 深 層 で あ る 。 挿 入 画 像 は 矢 頭 の 拡 大 図 で あ る 。 ス ケ ー ル バ ー は 100μm で あ る 。 31 図 5. ヒ ト 変 性 軟 骨 の GRP78 の 発 現 軽 度 ( a-c) 、 中 等 度 ( d-f) 、 及 び 重 度 ( g-i) の 変 性 軟 骨 を 示 し た 。 a は 表 層 、 b は 中 間 層 、 d と g は 中 間 層 上 部 、 e と h は 中 間 層 下 部 で あ る 。 c、 f 及 び i は 深 層 で あ る 。 挿 入 画 像 は 矢 頭 の 拡 大 図 で あ る 。 ス ケ ー ル バ ー は 100μm で あ る 。 図 6. ヒ ト 変 性 軟 骨 の CHOP の 発 現 軽 度 ( a-c) 、 中 等 度 ( d-f) 、 及 び 重 度 ( g-i) の 変 性 軟 骨 を 示 し た 。 a は 表 層 、 b は 中 間 層 、 d と g は 中 間 層 上 部 、 e と h は 中 間 層 下 部 で あ る 。 c、 f 及 び i は 深 層 で あ る 。 挿 入 画 像 は 矢 頭 の 拡 大 図 で あ る 。 ス ケ ー ル バ ー は 100μm で あ る 。 32 図 7. ヒ ト 変 性 軟 骨 の pJNK の 発 現 軽 度 ( a-c) 、 中 等 度 ( d-f) 、 及 び 重 度 ( g-i) の 変 性 軟 骨 を 示 し た 。 a は 表 層 、 b は 中 間 層 、 d と g は 中 間 層 上 部 、 e と h は 中 間 層 下 部 で あ る 。 c、 f 及 び i は 深 層 で あ る 。 挿 入 画 像 は 矢 頭 の 拡 大 図 で あ る 。 ス ケ ー ル バ ー は 100μm で あ る 。 表 7 に 軟 骨 全 層 に お け る 各 変 性 度 の pPERK、 Ub、 GRP78、 CHOP、 pJNK の 陽 性 細 胞 率 と 、 そ れ ら と Mankin socre と の 相 関 関 係 を ま と め た 。 pPERK、 Ub、CHOP、pJNK の 陽 性 細 胞 率 は い ず れ も Mankin socre と 正 の 相 関 を 示 し 、 重 度 変 性 軟 骨 で は 軽 度 変 性 軟 骨 と 比 較 し て 陽 性 細 胞 率 が 有 意 に 増 加 し た 。し か し 、GRP78 の 陽 性 細 胞 率 は Mankin score と 正 の 相 関 を 示 し た が 、変 性 度 の 違いによる有意な差はみられなかった。 33 表 7. 軟骨変性度と小胞体ストレス関連分子 軽度 中等度 重度 Mankin score (n = 5) (n = 7) (n = 8) rs p-value pPERK (%) 23.0 ± 10.4 37.0 ± 5.0 49.0 ± 7.0 * † 0.86 0.001 Ub (%) 19.1 ± 2.8 29.6 ± 6.6 59.3 ± 3.7 * † 0.81 0.001 GRP78 (%) 16.2 ± 2.9 21.2 ± 1.9 24.2 ± 2.8 0.51 0.028 CHOP (%) 8.2 ± 5.2 15.9 ±13.7 35.4 ± 9.2 * † 0.74 0.002 pJNK (%) 8.6 ± 7.5 32.7 ± 14.9 * 48.6 ± 13.8 * 0.81 0.001 各 変 性 度 の 陽 性 細 胞 率 の 平 均 値 ±標 準 誤 差 を 示 し た 。 r s は Mankin socre と の 相 関 係 数 で あ る 。 * p<0.05 vs 軽 度 変 性 軟 骨 、 † p<0.05 vs 中 等 度 変 性 軟 骨 。 変 性 軟 骨 に お け る XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ と CHOP mRNA 発 現 の 結 果 で あ る 。 XBP1 mRNA は 全 て の 変 性 軟 骨 で 発 現 し 、 中 等 度 変 性 軟 骨 で XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ が 最 も 多 く 、軽 度 及 び 重 度 変 性 軟 骨 よ り も 有 意 に 増 加 し た ( 図 8. a-b) 。 一 方 、 CHOP mRNA の 発 現 は 軟 骨 変 性 の 進 行 と 共 に 増 加 し た ( 図 9) 。 図 8. 軟 骨 変 性 度 と XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ a. 各 変 性 度 の 軟 骨 に お け る XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ の 代 表 的 な 4 例 を 示 し た 。上 段 は total XBP1 mRNA、中 段 と 下 段 は そ れ ぞ れ spliced XBP1 mRNA と unspliced XBP1 mRNA を 示 す 。b. 各 変 性 度 の 軟 骨 の spliced/unspliced XBP1 を 示 し た 。 結 果 は 軽 度 変 性 軟 骨 の 平 均 値 で 標 準 化 し 、 軽 度 ( n=5) 、 中 等 度 ( n=7) 、 重 度 ( n=8) の 平 均 値 ±標 準 誤 差 を 示 し た 。 * p<0.05 vs 軽 度 変 性 軟 骨 、 † p<0.05 vs 中 等 度 変 性 軟 骨 。 34 図 9. 軟 骨 変 性 度 と CHOP mRNA の 発 現 各 変 性 度 の CHOP mRNA 発 現 量 を 示 し た 。 結 果 は 軽 度 変 性 軟 骨 の 平 均 値 で 標 準 化 し 、 軽 度 ( n=5) 、 中 等 度 ( n=7) 、 重 度 ( n=8) の 平 均 値 ±標 準 誤 差 を 示 し た 。 * p<0.05 vs 軽 度 変 性 軟 骨。 これらの結果は小胞体ストレスと小胞体ストレス応答のアポトーシス経 路 が 軟 骨 変 性 の 進 行 と 共 に 増 加 し 、小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 の 保 護 的 経 路 は 中 等 度の変性軟骨で最も増加し、重度の変性軟骨では低下することを示した。 7-1-3. ラット変形性関節症モデルの軟骨変性度 ラット変形性関節症モデルの脛骨高原の関節軟骨は術後経過が進むにつ れ て 、表 面 の 不 整 や 軟 骨 組 織 の 亀 裂 が 生 じ 、safranin-O の 染 色 性 が 低 下 し て 、 関 節 軟 骨 の 変 性 が 発 症 し 進 行 す る 過 程 を 再 現 し て い た ( 図 10. a) 。 正 常 軟 骨 の Mankin score は 全 て 0 点 で あ っ た が 、術 後 1~3 週 の Mankin score の 平 均 値 は そ れ ぞ れ 2.9 点 、5.1 点 、8.8 点 で あ り 、そ れ ぞ れ 軽 度 、中 等 度 、重 度 の 軟 骨 変 性 度 を 示 し た ( 図 10. b) 。 35 図 10. ラット変形性関節症モデルの軟骨変性 a. ラ ッ ト の 正 常 軟 骨 と 変 形 性 関 節 症 モ デ ル の 関 節 軟 骨 の safranin-O 染 色 。 b. 正 常 軟 骨 と 術 後 各 週 ( 各 n=3) に お け る Mankin score を 平 均 値 ±標 準 誤 差 で 示 し た 。 7-1-4. ラット変性軟骨の変性度と小胞体ストレス関連分子 ラット変形性関節症モデルの変性軟骨の小胞体ストレス発生を調査する た め に 、 pPerk、 Grp78、 Chop の 3 つ に つ い て 評 価 し た 。 軟 骨 組 織 の pPerk、 Grp78、 Chop の 陽 性 細 胞 は 術 後 経 過 が 進 む に つ れ て 増 加 し た ( 図 11、 12) 。 こ の 結 果 は ヒ ト 変 性 軟 骨 と 同 様 で あ り 、小 胞 体 ス ト レ ス が 軟 骨 変 性 の 進 行 と 共 に 増 加 す る こ と を 裏 付 け た 。さ ら に 、ラ ッ ト 変 形 性 関 節 症 モ デ ル で は こ れ ら 3 つの小胞体ストレス関連分子の陽性細胞率は術後 1 週の変性軟骨で既に 正 常 軟 骨 よ り も 増 加 し て お り 、小 胞 体 ス ト レ ス が 軽 度 な 変 性 軟 骨 に お い て も 増 加 す る こ と を 示 唆 し た ( 図 11、 12) 。 36 図 11. ラット変形性関節症モデルの変性軟骨における小胞体ストレス関連分子の発現 ラ ッ ト の 正 常 軟 骨 と 変 形 性 関 節 症 モ デ ル の 関 節 軟 骨 の pPerk( a、 b、 c、 d) 、 Grp78( e、 f、 g、 h) 、 Chop( i、 j、 k、 l) の 免 疫 染 色 。 図 12. ラット関節軟骨の小胞体ストレス関連分子の陽性細胞率 ラ ッ ト の 正 常 軟 骨 と 変 形 性 関 節 症 モ デ ル の 関 節 軟 骨 ( 各 n=3) の pPERK( a) 、 Grp78( b) 、 Chop( c) の 陽 性 細 胞 率 を 平 均 値 ±標 準 誤 差 で 示 し た 。 * p<0.05 vs 正 常 軟 骨 7-2. 軟 骨細胞アポトーシスと小胞体ストレス 7-2-1. ヒト変性軟骨の軟骨細胞アポトーシスと小胞体ストレス ヒト変性軟骨における変性度と軟骨細胞アポトーシスの関係を組織学的 に 評 価 し た 。 C-CASP3 陽 性 細 胞 は 軽 度 変 性 軟 骨 の 表 層 で み ら れ た が 、 中 間 37 層 や 深 層 で は 非 常 に 少 な か っ た( 図 13. a-c)。中 等 度 変 性 軟 骨 で は 表 層 や 中 間 層 上 部 で 多 数 の C-CASP3 陽 性 細 胞 が 認 め ら れ た が 、 中 間 層 下 部 や 深 層 の C-CASP3 陽 性 細 胞 は 少 な か っ た ( 図 13. d-f) 。 重 度 変 性 軟 骨 で は 、 軽 度 お よ び 中 等 度 の 変 性 軟 骨 と 比 較 す る と C-CASP3 陽 性 細 胞 が 全 層 に わ た っ て 広 範 囲 に 認 め ら れ 、 特 に 中 間 層 全 体 で 強 く 染 色 さ れ た C-CASP3 陽 性 細 胞 が み ら れ た ( 図 13. g-i) 。 図 13. ヒ ト 変 性 軟 骨 の C-CASP3 発 現 軽 度 ( a-c) 、 中 等 度 ( d-f) 、 及 び 重 度 ( g-i) の 変 性 軟 骨 を 示 し た 。 a は 表 層 、 b は 中 間 層 、 d と g は 中 間 層 上 部 、 e と h は 中 間 層 下 部 で あ る 。 c、 f 及 び i は 深 層 で あ る 。 挿 入 画 像 は 矢 頭 の 拡 大 図 で あ る 。 ス ケ ー ル バ ー は 100μm で あ る 。 TUNEL 陽 性 細 胞 も 重 度 の 変 性 軟 骨 で 軽 度 及 び 中 等 度 の 変 性 軟 骨 よ り も 広 範 囲 で 認 め ら れ 、 C-CASP3 陽 性 細 胞 と 同 様 の 分 布 で あ っ た ( 図 14) 。 38 図 14. ヒ ト 変 性 軟 骨 の TUNEL 染 色 軽 度 ( a-c) 、 中 等 度 ( d-f) 、 及 び 重 度 ( g-i) の 変 性 軟 骨 を 示 し た 。 a は 表 層 、 b は 中 間 層 、 d と g は 中 間 層 上 部 、 e と h は 中 間 層 下 部 で あ る 。 c、 f 及 び i は 深 層 で あ る 。 挿 入 画 像 は 矢 頭 の 拡 大 図 で あ る 。 ス ケ ー ル バ ー は 100μ m で あ る 。 表 8 に 軟 骨 変 性 度 の 違 い に よ る C-CASP 陽 性 細 胞 率 と TUNEL 陽 性 細 胞 率 の 平 均 値 と Mankin score と の 相 関 係 数 を 示 し た 。C-CASP3 と TUNEL 陽 性 細 胞 率 は 共 に Mankin score と 正 の 相 関 を 認 め 、重 度 変 性 軟 骨 で は 軽 度 変 性 軟 骨 と 比 較 し て 陽 性 細 胞 率 の 有 意 な 増 加 が 確 認 さ れ た ( 表 8) 。 ま た 、 C-CASP 陽 性 細 胞 率 と TUNEL 陽 性 細 胞 率 の 間 に は 有 意 な 相 関 関 係 を 認 め た ( r s = 0.65, p = 0.005) 。 小 胞 体 ス ト レ ス と 同 様 に 、 軟 骨 変 性 の 進 行 と 共 に 軟 骨 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス が 増 加 す る 結 果 か ら 、小 胞 体 ス ト レ ス が 軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シスに関与することが示唆された。 39 表 8. 軟 骨 変 性 と C-CASP3 発 現 及 び TUNEL 染 色 軽度 中等度 重度 Mankin score (n = 5) (n = 7) (n = 8) rs p-value C-CASP3 (%) 5.4 ± 1.6 9.2 ± 1.2 13.7 ± 1.9 * 0.58 0.013 TUNEL (%) 13.4 ± 3.0 23.8 ± 3.5 29.5 ± 2.3 * 0.64 0.005 各 変 性 度 の 陽 性 細 胞 率 の 平 均 値 ±標 準 誤 差 を 示 し た 。 r s は Mankin socre と の 相 関 係 数 で あ る 。 * p<0.05 vs 軽 度 変 性 軟 骨 。 そ こ で 、小 胞 体 ス ト レ ス と 軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス の 関 連 性 を 検 証 す る た め に 、 重 度 の 変 性 軟 骨 に お い て pPERK の 免 疫 染 色 と TUNEL 染 色 の 二 重 染 色 を 実 施 し た 。そ の 結 果 、pPERK の 免 疫 染 色 と TUNEL 染 色 の 両 方 に 対 し て 陽 性 を 示 す 軟 骨 細 胞 が 確 認 さ れ た ( 図 15) 。 図 15. ヒ ト 変 性 軟 骨 の pPERK 発 現 と TUNEL 染 色 重 度 変 性 軟 骨 の pPERK に 対 す る 免 疫 染 色 と TUNEL 染 色 の 二 重 染 色 。b は a の 四 角 枠 の 拡 大 像 で あ る 。 矢 頭 は pPERK 陽 性 の TUNEL 陽 性 細 胞 を 示 す 。 ス ケ ー ル バ ー は 50μm で あ る 。 7-2-2. ヒト培養軟骨細胞のアポトーシスと小胞体ストレス ヒト関節軟骨細胞の小胞体ストレス応答とアポトーシスの関係を評価す る た め 、 ヒ ト 培 養 軟 骨 細 胞 を tunicamycin で 24 時 間 刺 激 し た 。 tunicamycin 刺 激 に よ り 軟 骨 細 胞 の XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ は 増 加 し た が 、 1μg/ml 40 の 刺 激 で 最 も 増 加 し て お り 、5-10μg/ml で は 減 少 傾 向 を 呈 し た( 図 16. a-b)。 CHOP mRNA の 発 現 は 1μg/ml の tunicamycin で 約 30 倍 に 増 加 し 、tunicamycin の 濃 度 依 存 的 に 増 加 し た ( 図 16. c) 。 ま た 、 軟 骨 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス は 5-10μg/ml の tunicamycin に よ っ て 有 意 に 増 加 し た ( 図 16. d) 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 tunicamycin に よ る 軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス に は CHOP mRNA 発 現 の 増 加 と XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ の 減 少 が 関 連 す る 事 が 示 唆 さ れ た 。 図 16. ヒ ト 軟 骨 細 胞 の 小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 と ア ポ ト ー シ ス Tunicamycin(0, 0.5, 1, 5 or 10 μg/ml)で 24 時間刺激したヒ ト 軟 骨 細 胞 の XBP1 mRNA スプライシング(a、 b)、CHOP mRNA 発現(c)、アポトーシス(d)を示した。a. 上 段 は total XBP1 mRNA、中 段 と 下 段 は そ れ ぞ れ spliced XBP1 mRNA と unspliced XBP1 mRNA を 示 す 。 b-d. 結 果 は 0 μg/ml の tunicamycin の平 均 値 で 標 準 化 し 、 4 回 の 独 立 し た 実 験 の 結 果 の 平 均 値 ±標 準 誤 差 を 示 し た 。 * p<0.05 vs tunicamycin(0 μg/ml)。 7-3. 軟 骨代謝と小胞体ストレス 7-3-1. ヒト変性軟骨における軟骨代謝と小胞体ストレス ヒト変性軟骨の代謝状態を評価するために、軟骨変性度の違いによる 41 ACAN、 COL2A1、 MMP-13 の mRNA 発 現 を 解 析 し た 。 ACAN 発 現 は 中 等 度 及 び 重 度 の 変 性 軟 骨 で 軽 度 変 性 軟 骨 よ り も 有 意 に 低 下 し た ( 図 17. a) 。 一 方 、COL2A1 と MMP-13 は 変 性 度 間 で 差 が み ら れ な か っ た が 、MMP-13 は 中 等 度 及 び 重 度 変 性 軟 骨 で は 軽 度 変 性 軟 骨 の 約 2 倍 の 発 現 を 認 め た ( 図 17. b-c) 。 こ れ ら の 結 果 は 、 軟 骨 変 性 の 進 行 に 伴 う 同 化 作 用 の 減 少 と 異 化 作 用 の亢進が生じることを示唆する。 図 17. 軟 骨 変 性 と ACAN、 COL2A1、 MMP-13 の mRNA 発 現 * * 各 変 性 度 の ヒ ト 関 節 軟 骨 の ACAN( a)、COL2A1( b)、MMP-13( c)の mRNA 発 現 を 示 し た 。 結 果 は 軽 度 変 性 軟 骨 の 平 均 値 で 標 準 化 し 、 軽 度 ( n=5) 、 中 等 度 ( n=7) 、 重 度 ( n=8) の 平 均 値 ±標 準 誤 差 を 示 し た 。 * p<0.05 vs 軽 度 変 性 軟 骨 。 さ ら に 、軟 骨 代 謝 と 小 胞 体 ス ト レ ス の 関 連 を み る た め に 、ヒ ト 変 性 軟 骨 の ACAN、 COL2A1、 MMP-13 の mRNA 発 現 と CHOP mRNA 発 現 お よ び XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ と の 相 関 関 係 を 評 価 し た 。 CHOP mRNA 発 現 と XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ は 7-1-2 で 定 量 し た 値 を 使 用 し た が 、ACAN、COL2A1、 MMP13 の mRNA 発 現 と は い ず れ も 有 意 な 相 関 関 係 を 示 さ な か っ た( 図 18)。 42 図 18. ヒ ト 変 性 軟 骨 の ACAN、 COL2A1、 MMP-13 の mRNA 発 現 と 小 胞 体 ス ト レ ス ヒ ト 変 性 軟 骨 ( n=20) の XBP1 mRNA ス プ ラ シ ン グ と ACAN( a) 、 COL2A1( c) 、 MMP-13 ( e)の mRNA 発 現 の 相 関 関 係( rs)と CHOP mRNA 発 現 と ACAN( b)、COL2A1( d)、MMP-13 ( f) の mRNA 発 現 の 相 関 関 係 ( rs) を 示 し た 。 7-3-2. ヒト及びラット培養軟骨細胞の軟骨代謝と小胞体ストレス 軟 骨 代 謝 と 小 胞 体 ス ト レ ス の 関 連 性 を 検 証 す る た め 、ヒ ト お よ び ラ ッ ト の 関 節 軟 骨 細 胞 に 小 胞 体 ス ト レ ス を 誘 導 し て 、 ACAN、 COL2A1、 MMP-13 の mRNA 発 現 を 評 価 し た 。 ヒ ト 培 養 軟 骨 細 胞 に お い て tunicamycin は ACAN、 COL2A1 の mRNA 発 現 を 有 意 に 抑 制 し た( 図 19. a-b)。さ ら に 、tunicamycin は 濃 度 依 存 的 に MMP-13 発 現 を 増 加 し た ( 図 19. c) 。 43 図 19. ヒ ト 軟 骨 細 胞 の ACAN、 COL2A1、 MMP-13 の mRNA 発 現 と 小 胞 体 ス ト レ ス Tunicamycin(0, 0.5, 1, 5 or 10 μg/ml)で 24 時間刺激したヒ ト 軟 骨 細 胞 の ACAN(a)、COL2A1(b)、 MMP-13(c)の mRNA 発現を示した。結 果 は 0 μg/ml の tunicamycin の平 均 値 で 標 準 化 し 、4 回 の 独 立 し た 実 験 の 結 果 の 平 均 値 ±標 準 誤 差 を 示 し た 。 * p<0.05 vs tunicamycin(0 μg/ml)。 ラ ッ ト 軟 骨 細 胞 の Grp78 お よ び Chop の mRNA 発 現 は 1μg/ml の tunicamycin で そ れ ぞ れ 約 40 倍 お よ び 約 60 倍 に 増 加 し た た め 、 ヒ ト 軟 骨 細 胞 と 同 様 に 、 ラ ッ ト 軟 骨 細 胞 に お い て も tunicamycin の 小 胞 体 ス ト レ ス 誘 導 性 が 確 認 さ れ た ( 図 20. a-b) 。 さ ら に 、 ラ ッ ト 軟 骨 細 胞 に お い て も tunicamycin は Acan、 Col2a1 の mRNA 発 現 を 抑 制 し 、 Mmp-13 発 現 を 増 加 し た ( 図 20. a-c) 。 44 図 20. ラ ッ ト 軟 骨 細 胞 の tunicamycin に よ る 小 胞 体 ス ト レ ス 発 生 と ACAN、 COL2A1、 MMP-13 の mRNA 発 現 Tunicamycin(0, 1, 5 or 10 μg/ml)で 24 時間刺激したラ ッ ト 軟 骨 細 胞 の Grp78(a)、Chop(b)、Acan (a)、Col2a1(b)及び Mmp-13(c)の mRNA 発現を示した。結 果 は 0 μg/ml の tunicamycin の平 均 値 で 標 準 化 し 、 3 回 の 独 立 し た 実 験 の 結 果 の 平 均 値 ±標 準 誤 差 を 示 し た 。 * p<0.05 vs tunicamycin(0 μg/ml)。 以 上 の ヒ ト 及 び ラ ッ ト 培 養 軟 骨 細 胞 の 結 果 は 、小 胞 体 ス ト レ ス が 軟 骨 代 謝 の 異 常 に 強 く 関 与 し 、軟 骨 細 胞 の 同 化 作 用 を 抑 制 し 、異 化 作 用 を 亢 進 さ せ る ことを示した。 45 8. 考察 本研究では関節軟骨の変性の程度と小胞体ストレスの関連性をヒトとラッ ト の 変 性 軟 骨 を 用 い て 検 討 し た 。ヒ ト 変 性 軟 骨 に お け る 解 析 で は 、小 胞 体 ス ト レ ス 関 連 分 子 で あ る pPERK、Ub、GRP78、CHOP 及 び pJNK を 発 現 す る 軟 骨 細 胞 が 軟 骨 変 性 の 進 行 と 共 に 増 加 す る こ と を 確 認 し た 。ラ ッ ト 動 物 モ デ ル に お い て も 、軟 骨 変 性 の 進 行 過 程 に お け る 小 胞 体 ス ト レ ス 関 連 分 子 の 発 現 増 加 が 確 認 さ れ た 。こ れ ら の 結 果 か ら 、我 々 は 小 胞 体 ス ト レ ス が 軟 骨 変 性 の 進 行 に 関 与 す ることを明らかにした。 複 数 の 小 胞 体 ス ト レ ス 関 連 分 子 の 発 現 を 調 査 し た 本 研 究 は 、軟 骨 変 性 に お け る軟骨細胞の小胞体ストレス応答を保護的経路とアポトーシス経路の両面か ら 捉 え て い る 。小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 の 保 護 的 経 路 に 関 し て は 、中 等 度 の 変 性 軟 骨 で は 軽 度 の 変 性 軟 骨 よ り も XBP1 mRNAス プ ラ イ シ ン グ が 増 加 し 、 重 度 の 変 性 軟 骨 で は 中 等 度 の 変 性 軟 骨 と 比 較 し て 、小 胞 体 内 の ア ン フ ォ ー ル ド 蛋 白 の 処 理 に 重 要 な GRP78の 発 現 は 有 意 に 増 加 せ ず 、 XBP1 mRNAス プ ラ イ シ ン グ は 減 少 し た 。 一 方 、 小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 の ア ポ ト ー シ ス 経 路 で あ る CHOP発 現 と [40-42]、 JNKの 活 性 化 [43]は 軟 骨 変 性 の 進 行 に 伴 っ て 増 加 し た 。 こ れ ら の 結 果 は関節軟骨では変性の進行に伴って小胞体ストレス応答のアポトーシス経路 が 増 大 し 、重 度 の 変 性 軟 骨 で は 保 護 的 経 路 が 低 下 す る こ と を 示 し て お り 、両 者 の不均衡が軟骨変性に関与することが示唆された。 関 節 軟 骨 の 軟 骨 細 胞 数 が 減 少 す る と 軟 骨 基 質 が 維 持 で き な く な る た め 、軟 骨 細 胞 ア ポ ト ー シ ス は 軟 骨 変 性 の 重 要 な 病 態 の 一 つ で あ る [10]。 本 研 究 の ヒ ト 変 性 軟 骨 で は 、TUNEL陽 性 細 胞 率 と C-CASP3陽 性 細 胞 率 の 両 者 が 軟 骨 変 性 度 と 正 46 の 相 関 を 示 し た 。小 胞 体 ス ト レ ス も 同 様 に 軟 骨 変 性 度 と 正 の 相 関 を 示 し た こ と か ら 、TUNELと pPERKの 二 重 染 色 を 実 施 し た と こ ろ 、TUNEL陽 性 細 胞 が pPERK の 染 色 性 を 示 す こ と も 確 認 さ れ た 。こ れ ら の 結 果 か ら 、軟 骨 変 性 に お い て 小 胞 体ストレスは軟骨細胞アポトーシスに関与することが強く示唆された。また、 ヒ ト 変 性 軟 骨 の 解 析 で 、 小 胞 体 ス ト レ ス 応 答 の ア ポ ト ー シ ス 経 路 で あ る CHOP 発 現 が 軟 骨 変 性 の 進 行 と 共 に 増 加 し た の に 対 し て 、 保 護 的 経 路 で あ る XBP1 mRNAス プ ラ イ シ ン グ は 重 度 の 変 性 軟 骨 で は 低 下 し た 。 さ ら に 、 ヒ ト 培 養 軟 骨 細 胞 に お け る 解 析 で は 、tunicamycinに よ る 小 胞 体 ス ト レ ス 性 の ア ポ ト ー シ ス に は CHOP発 現 増 加 と XBP1 mRNAス プ ラ イ シ ン グ の 減 弱 が 関 連 す る こ と が 確 認 さ れ た 。 Linら も 軟 骨 細 胞 を 除 く マ ウ ス 胎 児 線 維 芽 細 胞 な ど の 様 々 な 細 胞 株 で 同 様 の 結 果 を 報 告 し て い る [44]。 以 上 を ま と め る と 、 小 胞 体 ス ト レ ス は 軟 骨 細 胞 に ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 し て 軟 骨 変 性 を 進 行 さ せ る こ と 、そ の 過 程 に は 小 胞 体 ストレス応答のアポトーシス経路の増加と保護的経路の低下が関与すること が推測される。 軟 骨 代 謝 の 異 常 は 軟 骨 変 性 の 重 要 な 病 因 の ひ と つ で あ る [4]。本 研 究 に お い て 、 ヒ ト 変 性 軟 骨 の II 型 コ ラ ー ゲ ン の mRNA 発 現 は 変 性 度 に よ っ て 変 化 を 認 め な か っ た が 、ア グ リ カ ン の mRNA 発 現 は 変 性 度 と 負 の 相 関 を 示 し 、MMP-13 mRNA 発 現 は 変 性 が 進 む と 増 加 す る 傾 向 に あ っ た 。こ の 結 果 は こ れ ま で 報 告 さ れ た ヒ ト 変 性 軟 骨 の 遺 伝 子 解 析 の 結 果 [45-47]と 一 致 し て お り 、軟 骨 変 性 の 進 行 と 共 に 軟 骨 細 胞 の 同 化 作 用 が 低 下 し 、異 化 作 用 が 亢 進 す る こ と を 確 認 し た 。ま た 、Yang ら [22]や Hamamura ら [24]の 報 告 と 同 様 に 、 ヒ ト 及 び ラ ッ ト の 培 養 軟 骨 細 胞 で は 、 tunicamycin の 刺 激 に よ り ア グ リ カ ン と II 型 コ ラ ー ゲ ン の mRNA 発 現 が 抑 制 さ れ 、MMP-13 の mRNA 発 現 が 増 加 し た 。つ ま り 、小 胞 体 ス ト レ ス は 培 養 軟 47 骨細胞の同化作用を低下し、異化作用を増加することが確認された。しかし、 ヒ ト 変 性 軟 骨 の 解 析 で は 、CHOP mRNA 発 現 と XBP1 mRNA ス プ ラ イ シ ン グ は 、 そ れ ぞ れ ア グ リ カ ン 、II 型 コ ラ ー ゲ ン 及 び MMP-13 の mRNA 発 現 と 有 意 な 相 関 を 示 さ な か っ た 。生 体 内 で は 軟 骨 細 胞 が 成 長 因 子 や 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン な ど の 影 響 を 受 け て い る た め [45-47]、軟 骨 細 胞 の 同 化 及 び 異 化 作 用 の 制 御 に は 小 胞 体 ス ト レ ス 以 外 の 様 々 な 分 子 の 作 用 が 存 在 す る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。従 っ て 、生 体 内 の 軟 骨 代 謝 異 常 に 関 す る 小 胞 体 ス ト レ ス の 役 割 に つ い て は 、こ れ ら の 因 子 を含めた多角的な検討が必要である。 こ れ ま で 培 養 軟 骨 細 胞 に お い て IL-1β や TNFα な ど の 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン や 一 酸 化 窒 素 が 小 胞 体 ス ト レ ス の 誘 因 と な る こ と が 報 告 さ れ て い る が [22]、 こ れ らの分子が変性軟骨においても小胞体ストレスに関与しているかは明らかに さ れ て い な い 。 関 節 軟 骨 の 表 面 に 近 い 層 で は IL-1β や TNFα の 産 生 が 増 加 す る と さ れ て お り [48]、 本 研 究 で は ヒ ト 変 性 軟 骨 の 表 面 に 近 い 層 で 小 胞 体 ス ト レ ス が 増 加 す る こ と を 確 認 し た 。ま た 、ラ ッ ト 変 形 性 関 節 症 モ デ ル は 力 学 的 ス ト レ ス に よ っ て 軟 骨 変 性 を 誘 導 す る が 、力 学 的 ス ト レ ス は 軟 骨 細 胞 の 一 酸 化 窒 素 産 生 を 増 加 す る こ と が 報 告 さ れ て い る [49]。 本 研 究 の ラ ッ ト 変 性 軟 骨 に お い て も 小 胞 体 ス ト レ ス が 増 加 し て お り 、生 体 内 の 軟 骨 変 性 に お い て も 炎 症 性 サ イ ト カ インや一酸化窒素は小胞体ストレスの発生に関与することが推測される。 現 在 、小 胞 体 ス ト レ ス は 糖 尿 病 、動 脈 硬 化 、パ ー キ ン ソ ン 病 な ど 様 々 な 疾 患 の 病 態 に 関 与 す る こ と が 報 告 さ れ て お り [50]、一部の疾患において小 胞 体 ス ト レ ス を 標 的 と す る 治 療 の 有 用 性 が 示 さ れ て い る 。例 え ば 、糖 尿 病 モ デ ル マ ウ ス に お い て 小 胞 体 ス ト レ ス の ア ポ ト ー シ ス シ グ ナ ル で あ る Chop の 欠 失 は 糖 尿 病 モ デ ル マ ウ ス の 糖 尿 病 発 症 を 抑 制 す る こ と が 示 さ れ [51]、 化 学 的 シ ャ ペ ロ ン と 呼 48 ば れ る 4-フ ェ ニ ル 酪 酸 な ど の 薬 剤 は 小 胞 体 ス ト レ ス を 抑 制 し て 、肥 満 モ デ ル マ ウスの耐糖能やインスリン抵抗性を改善して糖尿病の発症を抑制することが 明 ら か に さ れ て い る [52]。 ま た 、 こ の 薬 剤 は パ ー キ ン ソ ン 病 モ デ ル の 神 経 細 胞 死 を 抑 制 す る こ と [53]、 マ ウ ス の 脳 虚 血 モ デ ル で 脳 神 経 の 細 胞 死 を 抑 制 す る こ と [54]も 報 告 さ れ て い る 。 今 後 、 軟 骨 変 性 に お い て も 小 胞 体 ス ト レ ス や そ の ア ポ ト ー シ ス 経 路 の 抑 制 に 関 す る 検 討 が 必 要 で あ る が 、小 胞 体 ス ト レ ス は 変 形 性 関節症の本質的な治療標的となる可能性がある。 49 9. 結語 本研究は変形性関節症患者とラット変形性関節症モデルの変性軟骨におい て 様 々 な 小 胞 体 ス ト レ ス 関 連 分 子 を 解 析 し 、小 胞 体 ス ト レ ス が 軟 骨 変 性 の 進 行 と 共 に 増 大 す る こ と を 示 し た 。ま た 、軟 骨 変 性 が 進 行 す る と 小 胞 体 ス ト レ ス 応 答の保護的経路が低下し、アポトーシス経路が増大することを明らかにした。 さ ら に 、小 胞 体 ス ト レ ス は 軟 骨 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス と 軟 骨 代 謝 の 異 常 を 惹 起 す ることにより、軟骨変性の病態に深く関与することが示唆された。 50 10. 参考文献 1. 越 智 光 男 、 「 運 動 器 の 10 年 」 変 形 性 関 節 症 の 病 態 解 明 ・ 診 断 ・ 治 療 の 新世紀 変形性関節症の治療の最前線、日本整形外科学会雑誌 2007; 81: 36-40. 2. 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