河川水平透視度の影響因子について

河川水平透視度の影響因子について
四国電力
正会員
玉井典
四国総合研究所
フェロー
○岩原廣彦
1.はじめに
四国の中山間部の河川は、清浄な河川が多い。河川水の視覚的な「きれいさ」を表す指標として透視度や透
明度があるが、両者とも深さ方向を測定するため、水深の浅い河川では、必ずしもこれらの指標で「きれいさ」
を把握しているとは言い難い
1)
。近年、河川水の「きれいさ」を測定する手法として、水平方向に見通した透
明性を表す指標(本稿では「水平透視度」という。)が提案
1)2)
されており、高知県西部を流れる四万十川のよ
うに水平透視度に関する独自の基準を定めている事例もある。
2)
本稿では、水平透視度と河川の濁りを表す濁度・SS の関係ならびに光の影響について、水理実験・現地調査
により検討した結果を述べる。
表 1 実験条件
2.水理実験
2.1 実験条件
水理実験では、造波二次元水路(B1m×H1.5m×L50m)の
L=15m を用い、仕切り板の内側に種々の濁水を貯留し水平
透視度を測定した。実験条件および実験ケースを表 1 に、
水理実験状況を写真 1 に示す。水平透視度に使う目標物は、
四万十川で採用されている黒色円板(φ200mm)2)、参考とし
①実験条件および実験ケース
<実験条件>
・水 深:h=0.6m
・目標物:黒色円板(φ200mm)、白色円板(φ300mm)
アユ模型(L135mm)
・照 明:[高度]75度,20度 [方向]正面,背面
<実験ケース>
・濁度(度) : 0(清水),1,2,3,4,5,10
②測定項目
・水平透視度(m):箱メガネで目標物が見える距離
を測定
・水質分析:SS,VSS(有機物量)
て従来透明度で用いられている白色円板(φ300mm) 3)およ
び魚類を模擬したアユ模型(L135mm)の3種類とし、箱メガネで覗いて見える距離を測定した。貯留する水は、
清水および濁水として実際のダム底泥を目標濁度となるよう水に溶かして作成したものを用いた。また、照明
は、HID ランプを用い、実際の太陽の高度と測定者の位置を考慮して4ケースの角度を設定した。
2.2 水平透視度測定結果
水平透視度と濁度の関係を図 1 に示す。全般的には目標物の違いによらず濁度が大きくなるほど水平透視度
が低下する傾向が見られる。その傾向は、濁度 0~2 度程度まで上がると水平透視度は約 15~3mと大きく低下
するのに対し、濁度 3~10 度程度では約 2~1mと小さく、その変動幅も少ない。
目標物別に見ると、清水では、水平透視度は白色円板、黒色円板、アユ模型の順に小さくなり、これは目標
物の大きさの順と一致する。濁度が大きくなるとその差は小さくなり、濁度 3 度以上では三者ともほとんど同
じとなる。
次に、水平透視度と照明の位置との関係を図 2 に示す。清水では、各目標物とも、背面から照らされた場合
16
に水平透視度が大きく、正面から照らされた場合に小さくなる傾向
がある。この理由として、背面から照らすと目標物から光が反射し、
観測者が認識しやすいことが考えられる。濁水では、この傾向は白
照明
黒色円板
14
水
平 12
透 10
視
度 8
6
m
4
白色円板
アユ模型
<照明の位置>
[高度]20度、[方向]背面
をプロット
(
箱メガネ
目標物
(黒色円板)
)
2
0
水平透視度
写真 1 水理実験状況
0
水平透視度
2
4
6
8
10 12
濁度(度)
図 1 水平透視度と濁度の関係
色円板の濁度 1~2 度のみに見られ、それ以外では照明の影響はほとんど見られなかった。この理由として、濁
度が大きくなると濁りで光が遮られ反射の影響が薄まること、白色円板は光の反射率が高く、濁度 2 度以下の
清浄水ではその影響が残り認識しやすいことが推察される。以上より、黒色円板とアユ模型は、照明の位置に
よる影響が少なく、日照条件が変化する現地調査にも適用しやすいものと推察される。
16
16
14
14
14
水
12
平
透 10
視
度 8
水
12
平
透 10
視
度 8
水
12
平
透 10
視
度 8
濁度4
(
濁度5
(
6
m
(
6
m
4
)
4
)
2
2
2
0
30
60
90
120
60
照明高度(度)
背面
150
30
180
0
正面
濁度1
濁度2
濁度3
濁度10
4
0
0
濁度0
6
)
m
16
0
0
30
60
90
120
60
照明高度(度)
背面
(a)黒色円板
150
30
180
0
0
正面
60
60
90
120
照明高度(度)
30
背面
(b)白色円板
30
150
0
180
正面
(c)アユ模型
図 2 水平透視度と照明の位置との関係
正面
SS(mg/L)
高度
高度
目標物
観測者
5
20
照明
水平透視度
y = 1.6351x
R 2 = 0.9661
15
VSS(mg/L)
背面
10
5
5
濁度(度)
4)
3.現地調査結果との比較
水理実験結果を現地調査結果(目標物;黒色円板)と比較した
水平透視度(m)
関係は見られなかった。
14
現地調査結果
12
実験結果
・目標物=黒色円板
・近似式は現地調査結果
をもとに算出
8
6
4
2
度 0~2 度程度の範囲であるが、実験結果と概ね一致しているこ
0
まとめ
近似式(黒色円板)
10
ものを図 4 に示す。これまでに得られている現地調査データは濁
とが確認できた。
10
16
の間に高い相関関係にあることが分かった。このことから、水平
と考えられた。なお、VSS(有機物量)は、濁度との間に強い相関
5
濁度(度)
(b)濁度と VSS の関係
図 3 水質分析結果
に知られているように、濁度と SS
透視度と SS の間にも、前述(図 1~2)と同様の関係にあるもの
0
10
実験に用いた濁水の水質分析結果を図 3 に示す。SS は濁度の増
加とともに増加し、一般的
2
0
0
(a)濁度と SS の関係
2.3 水質分析結果
y = 0.1932x
2
R = 0.4046
3
1
0
(d)照明位置イメージ図
4
0
2
4
6
8
濁度(度)
10
12
図 4 実験結果と現地調査結果の比較
本稿では、水理実験・現地調査により、河川の水平透視度と濁
度の関係、ならびに光が水平透視度に及ぼす影響について基礎的な知見を得ることができた。今後は、現地調
査データを蓄積し、水平透視度と濁り(濁度・SS)の関係について知見を深めていく予定である。
参考文献
1)佐々木久雄・西村修・須藤隆一,水平透明度による水質のきれいさの評価,水環境学会誌 第 22 巻 第 7 号
581-586,1999
2)高知県文化推進課・四万十川流域振興室,四万十川清流基準調査手引書,2005
3)大見謝辰
男・満本裕彰,サンゴ礁における濁度・水平透明度・SPSS 測定値の関係について,沖縄県衛生環境研究所報第 34
号,2001 4)曽根真理・井上隆司・山本裕一郎,国土技術政策総合研究所資料 第 594 号,2010