<速報研究論文> 微細カーボン素材の磁界特性解析 滝川浩史*1,須田善行*l,元島栖二*2,小松晃*3,江口宇三郎 AnalysISOnMagneticFieldCharacterofMinuteCarbonMaterials HirohumiTakikawa*l,YoshiyukiSuda*1,Se臼iMotqjima*2,AkiraKomatsu*3 andUsaburoEguchi (ReceivedonSep.28,2010) Abstract Wecon且rmedthatnewminutecarbonmaterialsofCarbonNanoCoil(CNC),CarbonNanoTwist(CNTw)and CarbonMicroCoil(CMC),Whichweredevelopedrecently,hadgoodsensitivityonthemagneticneld.CNC hadahighestsensitivityonmagneticneld,andintheorderofCMC,CNTw・Andwhenthedensityofcarbon materialswastoohigh,WeVerinedthatthesensitivltyOfthemagneticfieldwasdecreasedduetothecontactof thecarbonmaterialsandthecancelofthenuxofmagneticinduction・ キーワード:カーボンナノコイル、カーボンナノツイスト、カーボンマイクロコイル、磁界 1.目的 近年、ナノテクノロジーでは多くの革新的な材料 や微細加工、計測などの技術が開発され、従来には 類を見ない技術が生み出されている。 本研究では、ナノテクノロジーの根幹を担ってい る微細カーボン素材に着目し、今回はそれらの基本 特性の一つである磁界との相互作用の角牢析を行うこ とを目的としている。使用した微細カーボン素材は、 近年、豊橋技術科学大学で新たに開発され、実用性 の期待が非常に大きいナノメータオーダーの大きさ を持つカーボンナノコイル(CNC)、カーボンナノ ツイスト(CNTw)ならびに株式会社CMC総合研 究所の開発したマイクロメータオーダーのカーボン マイクロコイル(CMC)の3種類である。 ☆1豊橋技術科学大学電気・電子工学系 ☆2 株式会社CMC総合研究所 ☆3 鶴岡工業高等専門学校専攻科 2.特徴 炭素原子は2s軌道と2p軌道が混じること(spn混 成)によって結合形態を自由に変えることができる。 禁制帯がない電子状態を持つグラファイトはsp2混 成で2次元の炭素固体を作り、導体の性質を有する。 半導体または絶縁体の電子状態を持つダイヤモンド はバンドギャップの大きさにより半導体あるいは絶 縁体に分類され、Sp2混成とsp3混成によって3次元 の炭素固体を作る。今回使用した3種類のカーボン 素材(CNC,CNTw,CMC)は、SP2混成とsp3混 成がランダヰに混ざることによって構成された非晶 質の炭素繊維であるため、導体と半導体の2つの性 質を合わせ持つものと推定できる1)。 これらのカーボン素材は触媒化学気相成長法 (CVD法)によって生成される。CNCは、図1に示 すように、線径は15nm,コイル径が50nm、長さが 1000nm程度の大きさを持つコイル形炭素繊維であ る。CNTwは、図2に示すように、カーボンナノコ イルと類似しており、CNCを更に微小化した「ねじ れ」が極めて強くコイルの穴がないものである1)。 鶴岡工業高等専門学校研究紀要・第45号 CMCは、図3に示すように、線径は100nm,コイ ル径が5〃m、長さが500〃m程度の大きさを持つ α=竺×100[wt%】 但し、mはカーボン素材の重量、Mはカーボン素 コイル形炭素繊維である2)。 上記より、これらのカーボン素材は、導体と考え ると導体のコイルが持つ電気磁気学的な相互作用が 期待でき、半導体であれば熱などの外部エネルギー による価電子から伝導体への電子励起発生が可能と なる。 図1CNCのSEM像 図2 CNTwのSEM像 (倍率:6000倍) (倍率:15000倍) (1) M 材と導電性接着剤を加えた試料の重量とする。 図4に試料の構造、図5に試料の概観写真を示す。 CNC,CNTwまたはCMC ガラス板 (導電性接着剤含む) 図4 試料構造図 図3 CMCのSEM像 (倍率:3000倍) 図5 試料概観写真 CNC、CNTwの磁界に対するインピーダンス変化 の測定は以下のようにして行った。実験システムの 3.実験方法 構成を図6に示す。 3.1 測定試料 カーボン試料 CNC、CNTwおよびCMC試料はスキージ法によ り試料を作製した。スキージ法による試料作製手順 は以下の通りである。 ① ガラス板を縦30mm、横26mmに切り取る. ② CNC、CNTwまたはCMCを導電性接着剤(有 機バインダ)と混ぜ、ペースト状にする。 ③ ガラス板に縦20mm、横23mmにメンディン LCRメータ グテープで段差を作り②で作製したペースト を引き伸ばす。 ④ 銅板とリード線ならびに②のペーストと銅板 との間に導電性ペーストにより貼り付ける。 図6 実験システム構成図 CNC、CNTwまたはCMCから成る各試料をLCR 尚、CNC試料ならびにCNTw試料は重量パーセ ント濃度が0.25、0.50、2.50、5.00および13.00wt% メータに接続し、磁界を印加したときのインピーダ ンス変化をパソコン上に表示した。測定は、試料へ の5種類をそれぞれ作製したが、CMC試料につい の交流印加電圧および周波数は比較的安定した結果 が得られた一定条件下で行い、それぞれの測定を4 回ずつ実施し、その平均値を測定データとした。印 加した交流電圧は5V、周波数は10kn乙一定とし、イ ては導電性接着剤の量が不足したことなどにより、 重量パーセント濃度が2.50【wt%]のものを1種類作 製することになった。 重量パーセント濃度αの算出式を(1)式に示す 一2− 滝川・須田ほか:微細カーボン素材の磁界特性解析 ンピーダンス変化率とは(2)式より求めた。 図7より、CNCの磁界に対する応答性は印加磁界 が大きくなるにつれインピーダンス変化率も増加し (Zl−Zo) ×10d[%】 (2) Zo 但し、Zoは印加磁界を印加しないときのインピー ダンス、Zlは磁界を印加したときのインピーダンス た。CNCの濃度との関連は、2.5wt%のときが最大 の変化率となり、濃度が高くなると徐々に変化率が 減少した。濃度13.Owt%の場合には磁界の増減に対 してほとんど変化しなくなり、いわゆる純抵抗の状 態に近くなった。 とする。 図8より、CNTwの磁界に対する応答性は、CNC る傾向が確認された。 の場合と同様に、印加磁界が大きくなるにつれイン ピーダンス変化率も増加した。CNTwの濃度との関 連は、0.25wt%のときが最大の変化率となり、濃度 が高くなると徐々に変化率が減少し、濃度5.Owt% 以上になると磁界の増減に対してほとんど変化しな くなり、いわゆる純抵抗の状態に近くなった。 以下に、(2)式で求めたそれぞれの試料のインピー ダンス変化率について述べる。 のインピーダンス変化率を図9に示す。尚、測定条件 図7にCNC試料に含まれるCNC濃度および印加 磁界Bを可変したときのインピーダンス変化率を、 同様に、図8にCNTwの場合のインピーダンス変化 は比較的安定した結果が得られた条件の、試料の重 量パーセント濃度2.5wt%、印加電圧5Vならびに印 加電源周波数100kHz一定とし、整合性を図った。 4.実験結果および考察 CNC、CNTwおよびCMCの3種類の各試料とも 印加磁界の増大につれてインピーダンスが大きくな CNC、CNTwおよびCMCの磁界に対するそれぞれ 率を示す。 [盗り掛︺†凰ペ∧h−M∧ヾ 7654321 6543210 ︻盟掛空尉ぺ∧h−u∧ヽ 50 100 磁界B[mT] 50 100 150 磁界B【mT] 図9 磁界に対するインピーダンス変化率 (濃度:2.5wt% 電圧:5V 周波数:100kHz一定) 図7 CNCの磁界に対するインピーダンス変化率 図9より、CNC、CNTwおよびCMCの磁界特性 は磁界が大きくなるにつれてインピーダンス変化率 (電圧:5V 周波数:10kHz一定) が増大しており、この測定条件下ではCNCが最大 CNC、CNTwならびにCMCへの磁界印加により インピーダンスが変化した原因については、まだ多 3.5 3 くの課題はあるが、現時点では次のように推察され る。CNC、CNTwおよびCMCは導体のコイルの形 状を持つことから、試料に一定の電流を流した場合、 コイル内の磁束密度とコイルの自己インダクタンス 2.5 1 2 5 1 5 [芭り掛蜜観べ∧h−u∧ヾ のインピーダンス変化率を持つことがわかった。 4 0 は比例するという自己誘導が生じる。即ち、コイル 0 50 100 に直流磁界を印加し、直流磁界が強くなるにつれ、 150 鎖交磁束数もそれに応じて増加することになる。そ の結果、自己インダクタンスが大きくなることに繋 磁界B[mT] 図8 CNTwの磁界に対するインピーダンス変化率 (電圧:5V 周波数:10kHz一定) がる。この関係を図10に示す。 −3− 150 鶴岡工業高等専門学校研究紀要 第45号 ⊥「 5.今後の課題 \ \J、J、、J‘、、ユ‥、J 今回使用したカーボン素材は開発されてまだ日も 浅いことから、それらの性質・特性が十分に解明さ れていないが、現時点での研究内容を紹介した。今 後、更に研究・解明を進め応用分野の調査や実用性 に向かって道筋をつけて行く所存である。 V ∵ く > し 図10 コイルと鎖交磁束数 但し、¢は電流による鎖交磁束数、¢1は直流磁界 による鎖交磁束数、Ⅰは電流、Ⅴは電圧、Lは自己イ ンダクタンスを表わし、ⅠおよびⅤは一定とする。 コイルに電流が流れると鎖交磁束が発生する。そ れによりインダクタンスLは(3)式で求めることが 謝辞 できる。 本研究は豊橋技術科学大学との共同研究であり、 レ (3) CNC、CNTwの素材や技術資料などを提供いただい Ⅰ 固定磁石によりコイルに直流磁界を印加すること により鎖交磁束数が増加し、その結果自己インダク た滝川教授ならびに須田准教授、またCMC素材を 提供いただいた元島先生に感謝します。 タンスは増加する。 レ 旦 (4) 参考文献 また、図7および図8に示すように、CNCやCNTw の重量パーセント濃度が高濃度になると、試料内で 1)豊橋技術科学大学電気電子系 滝川教授および須 コイル同士が接触する状態が多く発生する。それに より短絡や磁束を打ち消す現象が生じるため、イン ダクタンス成分が減少することになり、インピーダ 田准教授提供の共同研究資料 2)YⅨato,N.Adati,T.Okuyama,S.Motojima and T.Tsuda:Jpn.J.Appl.Phys.42,5035(2003) ンス変化率が小さくなったものと考えられる。 尚、各試料のインピーダンスの測定値は次の通り であった。 ・CNC試料のインピーダンス:約1.1Mn ・CNTw試料のインピーダンス:約510k良 ・CMC試料のインピーダンス:約630kn 4.結論 CNC、CNTwならびにCMCに磁界を印加すると インピーダンスは増加し、印加磁界が大きくなるに つれてインピーダンスもより大きくなる。同一の測 定条件のもとでは、磁界の応答性はCNCが最も良 く、CMC、CNTwの順に応答性が悪くなった。また、 試料に混入するカーボン素材の重量パーセント濃度 が高くなると、インピーダンス変化率が小さくなっ たが、この理由としてはコイル内の鎖交磁束数の減 少が影響しているものと考えられる。 −4−
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