PCM を組み込んだソーラーチムニーの換気性能に関する基礎的研究

2004 年度卒業論文梗概
PCM を組み込んだソーラーチムニーの換気性能に関する基礎的研究
発表者:金子 豊
指導教員:相良和伸 教授
卒評論文の構成
ある相変化材料 PCM(=Phase Change Material)
第 1 章 序論
を用いることで、夜間の自然換気も可能な、24
第 2 章 実験装置
時間換気装置の開発を最終目的としている。
第 3 章 PCM 特性の把握
PCM は相変化の際、温度がほぼ一定なため、
第 4 章 可視化実験による内部気流性状の把握
吸熱時には温度が上がりすぎないことから熱損
第 5 章 チムニー各部の温度変化と温度分布の
失が小さくなり、集熱効率がよいといえ、また放
熱時には、外気との温度差を保てるため安定した
把握
第 6 章 出口風速の測定および換気性能の把握
放熱が可能となる(図 2)。
第 7 章 総括
第 2 章 実際に PCM パネル 1 枚を組み込んだ
ソーラーチムニーの小型模型と PCM パネル 6 枚
卒業論文概要
を組み込んだ実物大模型(図 3)を製作した。第
第 1 章 太陽熱を利用した自然換気システムと
3 章では小型模型を、第 4 章、第 5 章、第 6 章
してソーラーチムニー(図 1)が注目されてきた。 では実物大模型を用いて実験を行った。チムニー
しかし、従来のものは日中の太陽熱を利用して換
模型に組み込んだ PCM は硫酸ナトリウム 10 水
気を行うものであるため、夜間の利用は難しく、 塩(Na2SO410H2O)である(表 1)。
また日射量の変動により換気量も変動するため、
不安定な換気システムであるといえる。そこで本
研究では、大きな蓄熱容量を有する潜熱蓄熱材で
吸熱
顕熱
蓄熱
潜熱
蓄熱
固体 固体+液体
放熱
顕熱 顕熱
蓄熱 放熱
液体
潜熱放熱
顕熱放熱
液体+固体
固体
相変化
相変化
気温
等価外気温
PCM温度
32℃
(融点)
上昇気流
日射
断熱材
居室
PCM
6時
12時
18時
24時
図 2 PCM の相変化概念図
透明ガラス
換気
図 1 ソーラーチムニー概略図
硫酸ナトリウム
10水塩
表 1 硫酸ナトリウム 10 水塩 Na2(Na
SO42SO
10H
O 物性表
4 210H
2O)
融解温度
32
[℃]
凝固温度
30
[℃]
蓄熱量
176
[kJ/(kg K)]
液体時
3.5
比熱 [kJ/(kg K)]
固体時
3.6
液体時
0.22
熱伝導率 [W/(m K)]
固体時
0.19
液体時
1410
密度
[kg/m3]
固体時
1390
毒性
無し
大阪大学工学部地球総合工学科建築工学科目
建築デザイン学講座建築・都市環境工学領域
図 3 実物大模型写真
2004 年度 卒業論文梗概
第 3 章 第 2 章で製作した小型チムニー模型を
PCM の一部が融点に達した日の結果を図 5、図 6
用いて、PCM の特性を把握する予備実験を行っ
に、b) 日射量が極端に少ない日の結果を図 7、図
た。実験条件はチムニー傾斜角 45°、ガラス−
8 に示す。また、チムニー内空気温度の実測デー
壁間距離 10 ㎝である。実験結果を図 1 に示す。
タを用いて、チムニーを 1 室とした定常計算に
この結果より、安定して日射が得られた場合、 より換気量を算出した。算出結果を図 9 に示す。
PCM が完全に融解するのは午後 2 時ごろである
実物大のチムニーにおいても、融点を超えた場
ことから、PCM の融解には、午前中のみならず、 合、PCM 温度には潜熱放熱域が見られた。これ
南中後にも安定した日射量が必要である。また等
によりアルミ板表面も夜間において外気との安
価外気温を PCM を組み込んでいない場合とみな
定した温度差が得られ、チムニー内空気温度と外
すと、PCM を組み込んだことにより、温度の上
気温に温度差が生じ、夜間において安定した換気
昇と下降が緩やかになっており、温度が上がりす
量が得られた。一方、極端に日射の少なかった日
ぎず冷めにくい安定した集熱壁となったといえ
については、日中、PCM 温度は全く融点を超え
る。
ていないため潜熱放熱域は見られず、夜間におけ
第 4 章 実物大チムニー模型を用いて、本学建
るアルミ板と外気との温度差はとんどない。それ
設棟 8 階建物屋上において可視化実験を行った。 ゆえに、夜間における換気量はほとんどない。
実験条件は傾斜角 45°、ガラス壁間距離 20 ㎝
これらの結果から、蓄熱された PCM は夜間
である。可視化により空気がチムニーに流入し
における自然換気に優位に働いていることがわ
ていることは確認できたが、外部風の影響が大き
かった。
く、明確な結果は得られなかった。
第 6 章 本章では、風速分布から換気量を算定
第 5 章 実物大チムニー模型を用いて、模型に組
し、チムニーの換気性能を把握していく。
み込まれた PCM の内部温度、集熱板であるアル
ミ板表面温度、チムニー内空気温度を測定した。a)
150
100
50
6:00
3:00
0:00
200
0
6:00 9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 0:00 3:00
time
time
図4 アルミ表面とPCM内部の温度変化
20
外気温
15
10
PCM内部
25
20
15
潜熱放熱域
外気温
10
30
40
30
外気温
20
25
15
18:00
3:00
0:00
21:00
18:00
15:00
9:00
12:00
6:00
3:00
0:00
21:00
18:00
3:00
0:00
21:00
0
18:00
0
15:00
0
12:00
0
9:00
5
time
time
放熱時
35
35
30
10
図7 PCM内部温度(極端に日射が少なかった日)
20
15
アルミ板表面
10
0
3:00
-5
18:00
time
0:00
3:00
0:00
-5
放熱時
25
5
外気温
21:00
0
18:00
5
time
アルミ板表面
15
0
21:00
3:00
0:00
21:00
18:00
time
20
5
-5 外気温
15:00
12:00
6:00
外気温
9:00
0
10
25
15:00
5
-5
15
30
9:00
10
PCM内部
12:00
15
20
18:00
20
25
6:00
temperature[℃]
PCM内部
temperature[℃]
t
t
[℃]
40
30
temperature[℃]
35
35
25
放熱時
図6 アルミ板表面温度(PCMの一部が融解した日)
40
30
外気温
10
10
time
アルミ板表面
20
5
time
3:00
放熱時
アルミ板表面
50
5
図5 PCM内部温度(PCMの一部が融解した日)
0:00
time
外気温
time
3:00
25
30
temperature[℃]
潜熱放熱域
60
temperature[℃]
30
temperature[℃]
35
21:00
図9 流量の算定結果
35
PCM内部
6:00
temperature[℃]
40
極端に日射の少ない日
0:00
time
21:00
18:00
12:00
6:00
3:00
0:00
21:00
15:00
外気温
0
18:00
12:00
15:00
外気温
0
極端に日射の少ない日
250
PCMの一部が融解した日
3:00
20
300
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
18:00
0:00
30
10
10
PCMの一部が融解した日
350
21:00
20
400
PCM内部
21:00
アルミ板表面
等価外気温
40
flow rate[m3/h]
30
50
flow rate[m3/h]
等価外気温
40
temperature[℃]
60
50
temperature[℃]
temperature[℃]
60
放熱時
図8 アルミ板表面温度(極端に日射が少なかった日)
大阪大学工学部地球総合工学科建築工学科目
建築デザイン学講座建築・都市環境工学領域