物流の共通プラットフォームで 医薬品メーカーのBCPに架け橋 - 大塚倉庫

[特集]サプライチェーン強靱化∼物流BCP/BCM
大 倉庫〈シリーズ❸〉
物流の共通プラットフォームで
医薬品メーカーのBCPに架け橋
大 倉庫の 物流でBCP 戦略
シリーズで追っている大 倉庫の「共通プラットフォーム戦略」,
の中核生産拠点は四国・徳島に集中
今回は医薬品業界のBCPを物流で実現する,同社のソリューション提案に注目する。
している。四国は東南海トラフ地震
同社が全国に張り巡らす物流拠点ネットワークなどビジネスインフラを活用すれば,
医薬品メーカーは,工場の生産設備を分散化する代わりに,物流でBCP対応が可能になる。
しかも,納品先一致率の高い大 倉庫の物流プラットフォームに相乗りすることで「共同物
での被災が予測され,何らかの対応
が必要とされたのだ。
流」を実現でき,高品質な医薬品物流サービスを,よりリーズナブルなコストで享受できる。
「しかしその時,我々から提案し
大 倉庫が医薬品メーカーを〈安全・安心・強靱〉につなぐ,架け橋となるのだ。
(編集部)
たんです」と,大 倉庫の濵長一彦
営業本部長は振り返る。
全国への在庫分散で
リスクも分散
BCP(事業継続計画)対策の1つが,
「生産拠点を分散させるのでなく,
安定供給のための「生産拠点の分散
それは〈物流でカバーできます〉と」
化」である。ある工場が被災した時,
◆高まるBCPニーズ
他にもその製品を生産できる工場を
◆在庫分散
東日本大震災から2年半,医薬品
設けて二重化すれば,カバーするこ
大 グループの在庫は従来,約8
業界各社はその教訓をもとに「次」
とが可能になる。
割が徳島の生産拠点周りの倉庫に集
に備える対応を本格化させている。
だが問題は,生産拠点の分散化に
発生確率の高さが指摘される東南海
は相当のコストと時間が必要なこと
トラフ地震や首都圏直下型地震など
だ。建屋はもちろん,医薬品用の高
で,極めて厳しい被害が予想される
価な生産設備を複数備えるとして,
からで,想定を上方修正し,時間と
投資は正当化できるのか。微妙な判
コストがかかっても,企業としてで
断も出てこよう。
きることをやっておかねばならない
実は大 グループの大 製薬,大
からだ。
製薬工場,大鵬薬品工業でも同じ
医薬品メーカーとしての本格的な
2
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問題に直面していた。同社グループ
濵長一彦氏
物流の共通プラットフォームで医薬品メーカーのBCPに架け橋/大 倉庫の“物流でBCP”戦略
中していた。工場ではなくこの在庫
注センターで,その他の情報も大阪
悩みを持つ医薬品メーカーは多く,
を本州各地の物流拠点に分散させ,
と東京に,二重化したバックアップ
当社の〈共通プラットフォーム〉の
備蓄も積み上げることで,万一の際
体制をもつ。
提案への関心は高く,数社から引き
にも復旧まで,製品供給を継続可能
「代替手段」の確保はBCPの基本
合いをいただいています」
にする。これが大 倉庫の提案だっ
だが,物流についてこの体制を完備
冒頭触れたように最近の医薬品メ
た。
した大 グループは,人の生命と健
ーカーでは,災害時における安定供
〈四国の集中在庫を本州に分散さ
康を守る医薬品供給者の社会的使命
給体制を確立したいとの要望が強ま
せる〉基本方針は容れられ,12年9
としてのBCPを確立したのだった。
っている。大 倉庫が整えた物流の
月,大 倉庫は賃借で関西(摂津)・
関東(群馬)に新たな在庫拠点を設
置した。
仕組みは他社と違い,大量の輸液を
共同プラットフォームで
相乗効果
全国供給するために考え出されたも
の。各地に分散設置した医薬品保管
面積は約4万坪と,一般の医薬品メ
以前から展開していた物流拠点ネ
ットワークは,これによりほぼ全国
◆BCP+共同化
ーカーに比べ断然多い。
の布陣を完了。工場と連携した在庫
今 回 の ポ イ ン ト は,
〈物流で
このプラットフォームを活用する
の備蓄機能と,陸海の配送ネットワ
BCP〉を実現する大 倉庫の高度な
なら,荷主は図表-1のように南北・
ーク活用で万一の際にも必要な客先
機能・サービスを,同社の「物流共
東西に長く延びる日本列島をカバー
に大 グループの医薬品を「翌日配
通プラットフォーム」に乗ること
した全国の物流拠点から,必要な複
送」できる,迅速な物流体制を整え
で,外部荷主もそのまま享受可能に
数拠点をチョイスすればよい。
たのだ(図表-1)
。
したことにある。
「BCP」と「共同
共同物流のインフラが既にできて
在庫拠点の分散だけではない。輸
化」がセットになった提案なのだ。
いるのだから,それだけで在庫とリ
配送ルートについても,陸送で2ル
「四国で点滴用の輸液を製造して
スクを分散し,万一の際は他の拠点
ートを用意しているのに加え,内航
いるグループ企業の大
製薬工場
からカバー可能な自社仕様の物流ネ
船利用でも日本海ルートと太平洋ル
は,国内トップのシェア50%を誇
ットワークを構築できる。医薬品メ
ートを確保し,多重化している。
っています」と濵長氏は続ける。
ーカーの悩みにそのまま応えるソリ
さらに情報についても,受注情報
「それが大 倉庫の物流拠点への
ューションと言ってよい。
は徳島と東京2か所に分散させた受
在庫分散でリスク回避できた。同じ
これによって荷主企業は,万一の
際にも「当社の在庫は分散してこれ
図表-1
大
だけ確保しているから大丈夫」とア
倉庫の医薬品物流ネットワーク
・年間医薬品取扱量1,900万ケースのしくみ
・全国に分散した物流拠点配置
・翌日納品体制
ナウンスし,顧客を安心させること
ができるはずだ。BCPで最も大事
なのは,この「安心アナウンス効果」
札幌
だ,とする専門家もある。物流で備
釧路
BCP対応を装備した
のだ。
医薬品プラットフォーム
富山
岩手
前橋
仙台
大阪
◆共同プラットフォーム
同時にこの共同プラットフォーム
に乗ることで,大 倉庫が既に確立
浦安
佐賀
徳島
えを取ることで,それが可能になる
している「医薬品の太く強いサプラ
東京
イチェーン」に一体化し,相乗効果
物流拠点
工 場
が得られる。
なぜ「太く・強い」のか。それは,
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[特集]サプライチェーン強靱化∼物流BCP/BCM
飲料並みの大量物流となる「輸液」
ルートにほぼ,そのまま合
に対応する物流体制を築いてきたか
流させることが可能だ。
らだ。
大 倉庫としても,輸液
大 グループの医薬品事業は,売
だけで満杯にしたら重量超
上高でみると国内の大手数社に及ば
過になる車両に,軽量の医
ないとしても,
「量」でみた場合,ト
薬品などを合い積みするこ
ップシェアの輸液がある。これらは
とで,車両の積載率=物流
「年間1,900万ケース」に及び,医薬
効率を高めることができる
品卸における大
グループの取扱
(写真❶❷)
。
量は圧倒的No.1だというのだ。
文字通りのwin-winモデ
全国をカバーする物流拠点網を整
ルが実現できるわけで,既
備してきたのも,この物量をカバー
に一部大手医薬品メーカー
し,全国で「翌日配送」を実現する
との全国共同物流が開始さ
ため。
れつつある。
1
2
既に確立されたこの流れに,相性
の良い商品̶物流特性の同じ医
薬品ほか/物流特性を補完しあえる
❶❷輸液と軽量品を積み合わせて満杯にした
車両
高品質の物流サービ
スを低コストで
軽量品,冬型商品など̶を乗せる
工場の倉庫運輸部から独立し,大
ことで,独自に拠点と配送のネットワ
◆品質,迅速,コスト
製薬・大
製薬工場・大鵬薬品工
ークを作るよりも,はるかに効率的な
医薬品メーカーのメリットはまだ
業など大
グループ各社の共同物
物流を即,実現できることになる。
ある。医薬品専門物流企業ならでは
流を担ってきた。50年以上の蓄積
の大
倉庫の高度な品質管理と配
ノウハウをもつ医薬品専門の物流企
◆納品先一致率
送サービス,そして共同物流による
業であり,前回もレポートした「毎
大
コストダウンのメリットを,同時に
日・現品棚卸」
「製造ロット別管理」
倉庫との医薬品共同物流の
「トレーサビリティ」などの対応は
もう1つのメリットは,納品先一致
得られることだ。
率が極めて高いこと。食品・飲料分
医薬品メーカーが自社で大
倉
万全。iPad-miniの活用で現場作業
野などでも大
倉庫は共同物流を
庫のような物流ネットワークを保持
と管理をさらに高度化していること
実施しているが,納品先一致率が高
する例はほとんどなく,近年は物流
も,既報の通りだ。
いと言っても,7割程度。
をアウトソーシングする企業が多
同社は医薬品メーカーの製造品質
しかし医薬品業界では周知の通り
い。だが医薬品の専門企業でない一
管理基準・GMPに準拠し,これを
近年,メーカーの直接の顧客である
般の物流企業に,①医薬品に求めら
社内文化としてきたからで,物流段
医薬品卸の企業数が,統合・集約の
れる高い品質管理と迅速配送機能,
階でも高度な温度・品質管理を求め
進展により大きく絞り込まれてい
②それでいてリーズナブルなコス
るGDP基準への対応準備も推進中。
る。
ト,③そしてBCP対応——という
全国の拠点ネットワークを活か
医薬品メーカーの物流ニーズにすべ
し,全国で「翌日配送」迅速サービ
卸業の物流拠点は全国400~500か
て応えることは,簡単ではない。
スを実現していることも上述通り。
所あるが,これは医薬品メーカーの
大 倉庫の場合はどうか。③は上
納品先のほとんどをカバーしてい
述の通りだから①②を改めてみてお
②コスト
る。従って納品先一致率は食品・飲
くと……。
これまで製品単価が高く,コスト
大
倉庫が納品している医薬品
負担力の大きい医薬品分野では,物
料よりはるかに高い。
4
つまり医薬品メーカーは自社物流
①品質管理レベル
流コストはさほど問題視されてこな
を,既に確立された大 倉庫の配送
大 倉庫は1961年に㈱大 製薬
かった。
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物流の共通プラットフォームで医薬品メーカーのBCPに架け橋/大 倉庫の“物流でBCP”戦略
ところが近年,医療費抑制に向け
図表-2
た政府の施策もあり,後発で価格が
神戸リサーチパーク 赤松台
三田の新物流センターの位置と用地の概要
中国
自動
車
新薬の数分の1というジェネリック
医薬品の取扱比率が上昇。これによ
道
り売上高に占める物流コスト比率も
上がり,医薬品でも一般商品並みの
低コストニーズが高まっている。
だが大
神
戸
倉庫の医薬メインカー
三
田
I.C
ゴ・輸液は,さほど高価でなく,し
かも重い。その物流を担って適正利
益を上げてきた大 倉庫は,
「低コ
建設
予定地
スト・高品質」の物流サービス力を
備えている。
さらに上の通り,医薬品ならとり
わけ高い納品先一致率・高い車両積
載率で,共同物流を実施できる。医
薬品メーカーはこの物流インフラを
活用することで,独自物流に比べ,
よりリーズナブルなコストで,より高
●住所:神戸市北区赤松台一丁目 2 番 2
…中国自動車道及び六甲北有料道路「神戸三田」I.C. から約 3.9km
…六甲北有料道路「長尾」I.C. から約 3.2km
●面積:40,767㎡(約 12,350 坪)
いサービスを享受できることになる。
これが大 倉庫の「医薬品共通プ
や淀川沿いに比べ地盤が堅固で災害
施設かどうかも安心・信用の視点で
ラットフォーム」の強みである。
の危険性が少ない,②都市圏に近く
無視できない。自社拠点化を進める
西日本全体へのアクセスもよい,③
ことも,重要なリスク回避要件になる
万一中国道が寸断されても,瀬戸内
と判断しています」と濵長氏は話す。
側・日本海側の両ルートを迂回路と
*
新物流拠点で BCP 対応を
さらに強化
して選択できる,など。
このように市場の喫緊ニーズであ
◆三田に新センター
「湾岸ではなく,あえて内陸に在
る「医薬品BCP」に対し,
「物流」で
前回も触れたが本年3月,大 倉
庫拠点を置くのは,物量No.1だか
ソリューションを提供する大
庫は医薬品専用物流センター建設の
らこそできること」と濵長氏。
庫の「共通プラットフォーム戦略」
ため,神戸市北区に4万㎡余の土地
これにより,
「BCPと共同物流の
は,医薬品メーカーの支持を獲得し
を取得した。現場は神戸三田,長尾
セット」で進める大 倉庫の「医薬
始めている。
インターチェンジから至近の位置に
品共通プラットフォーム戦略」展開
値引きなど小手先のその場対応で
ある(図表-2)
。
に弾みを付ける計画なのだ。
はなく,社会環境と業界全体を見渡
新たな医薬品専用物流センターを
倉
した企業戦略として対応を進める大
関西に建てる狙いは,大塚グループ
◆自前拠点の拡充
と外部企業向けの「 医薬品物流
同社は将来的に,関東でも新たな
ネスを前提とした荷主企業の信頼を
BCP」を一層強化することにある。
自社物流センター構築を視野に入れ
勝ち得ているのだろう。
約1万坪を予定する新センターは,
ている。
「季節商品など〈想定外〉の物流
本体設計を本年中に固め,2015年
「一部使っている賃借倉庫だと,
波動に対応することも,物流BCP
秋に竣工させる計画。従来の摂津の
物件オーナーが将来,あるいは災害
の1つの課題。対応を練っていきま
賃借倉庫は新センターに集約する。
後に経営基盤を維持できるかが問わ
す」と濵長氏は話していた。
三田を選んだ理由は,①大阪湾岸
れ,顧客視点からは大 倉庫の自前
倉庫の姿勢自体が,長期継続ビジ
MF
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