Development of Beliefs . about Changeability of Negative - 新潟大学

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子 ど もの 楽天 主 義 :望 ま しくな い 特 性 の
変容可能性 についての信念 の発達
Children' s Optimism: Development of Beliefs
. about Changeability of Negative Traits
中 島
伸
*0稲
子
垣
佳 世子
**
Nobuko NAKASHIMA and Kayoko INAGAKI
Abstract
The present study examined whether children's
optimism would be observed in Japanese
children who grow up in culture where self-enhancing bias, an optimistic tendency, is not as
Twenty-four each of 5-, 6-, 8-10-year-olds, and college students
dominant as in the U.S.
were asked to predict whether each of eight negative traits would change as a character matured
Results indicated that (t) the
from ase 10 to 21 (youne adult) and from 21 to 80 (older adult).
"naive
optimism" in that they believed the negative traits could change in
S-year-olds showed
extreme positive direction not only in young adults but also in older, due to maturation or
increased age. (z) The school-aeed children and adults showed "effort-dependent optimism" in
that they believed the negative traits could change to average, based on personal effort or
practice. (s)All the participants applied "optimism" to varied traits selectively.
The significance
of children's optimism as a motivation in the long-term acquisition of skills or expertise, as well
as its nature , is discussed in terms of culture-free and culture-bound development.
key words: children' s optimism, changeability of traits, cultural influence
題
な つて きた ことは , 幼 児 は年長 児童 や大人に比 べ て
特性 の情報 を使 う ことは上手で はないが , しか し全
く使 えないわ け で はない , とい う もので あ る。 と く
最近,幼 児 が 人間 の もつ さま ざまな特性 を どの よ
うに捉 えているのかにつ いての 関心 が 高ま ってい る。
これ までの研究 の 多 くは,性 格特性 に焦点化 し,特
性 が時間や場面 を超 えて安定 して い る こ とを幼児が
理解 しているかを検討 して い る。そ こか ら明 らかに
2006.9.28 受 理
*新
潟大学教育人間科学 部
料
千葉大学教 育学部
に最近 の 研 究 で はそ う した報告 が 見 られ る。例 えば
G n e p p & C h i l a r n u k u r t i ( 1 9 8 8 ) は , 幼 稚 園児 ( 6
歳児) で も, 物 語 の 主 人公 の将来 の 行動 に ついて 性
格 特 性 と 一 致 した 行 動 を 予 測 で き る こ と を ,
Heyman&Gelman(1999)は
, 幼 稚 園児 が 特性 ラ
ベ ル ( 例え ば 「い い 人 ( n i c e ))」
に 基 づいて 他者 の
心的状態 を推測 で きる こ とを報告 している。 さらに ,
幼 児 で はまだ特性 の 安定 性 を理 解 して い な い とされ
一
て きた従 来 の 研究 で も, 幼 児 が 異 な る場面 で 貫 し
新潟大学教育人間科学部紀要 第
た特性推論 がで きな いのは ( 特性 を安定 した もの と
考 えていな い と解 釈 で きる のは ) 特 性 が 望 ま しくな
い場 合 が 圧 倒 的 に多 い こ と, 逆 にいえば , 望 ま しい
一
特性 に つ いては特 性 と 致 した行 動を予 測 で きる こ
9巻
第 2号
幼児 が 発達過程 で の さま ざまな技 能 の 獲得 にお いて
くり返 し失敗 に出会 つて も努 力 し続 け るのは なぜ か
の 説 明 と して, こ の幼児 の 楽天主義 とい う考 えは興
味深 い もの と いえ よう。 しか しなが ら Lockhartら
と も指 摘 さ れ て き た 。 例 え ば Rholes&Ruble
(1984)は , 5∼ 6歳 児 は , 9∼ 10歳児 に比 べ て ,
特性 と一 貫 した行動を種 々の場面に適用す るのが劣 っ
の 実験結果 か らは確 か に幼 児 に 「楽天 主義 」 が 存在
て いたが ,年 長児 との差 が大 きか つたのは 望 ま しく
は,彼 らの 研究 で は,発 達 の 到達点 と して用 い られ
たのは諸能 力 ・諸機能 の 増 大傾 向 の あ る若年成 人期
な い特性 の 場 合 で あ り,望 ま しい特性 で は さほ ど大
きな差 は見 られ なか つた。 同様 の 結果 は 3∼ 6歳 児
を対 象 と した清水 (2000)にもみ られ る。 この よ う
な研究結果 は ,幼 児 が 望 ま しくな い特性 は 将来 よい
方 向に変 容す る可能 性が あ る とい う信念 を も つてい
るのか も しれ な い ことを 強 く示唆す る。
Lockhart,Chang,&Story(2002)は
墨ま し
, 菫
し,そ れ は幼 児 に普遍 的 な もので あ る, と 結論 す る
のは早計 で あ る。 そ の 理 由は 2つ あ る。第 1の 理 由
(21歳 の 大 人 )ま で で あ るた め ,「 年齢 の 増 加 と と
ー
もに能力の 向上 のみ られ る発達 」 と 「同 じ年齢 コホ
ト内での 個 人 の 進歩」 とを幼児 が混 同 して いた 可能
一
性 が ある ことだ 。 いいか えれば幼児か ら大人 へ の
般的 な発達 と個 人差 の 発達 とを混 同 した可能性 で あ
る。 も し幼 児 に本 当に (素朴 な)楽 天主義 が 強 い と
幼 児 の 楽 天 主 義 と呼 び ,幼 児 が この よ うな楽 天 主
義 を も つてい る ことは進化心理学 的視 点 か らみ て も
す れば,能 力 の増大 がみ られ な い ,な い し低下 がみ
られ る老人期 の 大人 にな つた ときで さえ も幼児期 に
おけ る望 ま しくな い特性 は ,望 ま しい特性 へ と変 容
理 にか な つてい るので はないか と主張 して い る。幼
児 は大人 へ と発達す る過程 で 多 くの技 能 を学 ば なけ
す る と予測す るかを調 べ る必要 があ る。
の 結 果 は ア メ リカ
第 2の 理 由 は ,Lockhartら
れ ばな らな いが ,そ う した技 能 の 多 くは獲得 まで に
時間 がかか り, しか もそ の過程 で は 多 くの 失敗 に出
(ない し欧米)の 文 化 に特 有 の 現象で はないか , と
い う可能性 で あ る。成功 ・失敗 の 原 因帰属 に関す る
会 い ,か な りの苦痛 も伴 う。そ れ に もめげず 多大 の
エ ネ ル ギ ー を費や して学 び つづ け られ るのは 幼児 が
欧米 の 研究 か ら,ア メ リカ人 は 自己 の 成功 を 「楽天
的 に」期 待す る傾 向, 自 己高揚 的 バ イ ア スが あ る こ
この ような楽天主義 を もつてい るか らで はないか ,
とが指摘 され て きた (北山,1998)。 幼 児 にお け る
望 ま しくな い 特性 が 将来 は 望 ま しい特 性 へ と変容す
くな い特性 の 将来 にわた つての 変 容可能性 の 信念 を
とい うので あ る。そ して 5∼ 6歳 児, 7∼ 10歳児,
大人 を対象 と した 一 連 の 実験 で ,幼 児 の 楽天 主義の
存在 が 確 かめ られた と結論 してい る。そ こで は , 5
歳 の とき も10歳の とき も持 つてい た望 ま しくな い特
るはず だ と い う信念 は , こ う した 「楽天 的 」 な ア メ
リカの 国民 性 の 反映 か も しれ な い 。 も しLockhart
性 (例えば 「クラスの 友 だ ちの誰 よ りも背 が低 い」
「クラスの 友 だ ち の 誰 よ りも意地悪」 な ど)を 変 え
らの進化心理学的視 点 か らの 説 明が正 しければ文化
の違 いを超 えて幼 児 の 楽 天主義 がみ られ るはず で あ
るが ,そ れ を確証す るた めには , 自 己高揚 的 バ イア
た い と思 いつづ けた ら大人 (21歳)に な つた ときに
は ど うな るか を 3選 択肢 の もとで 答 え させ た。そ の
スが 存在 しな い文化 の もとで も同 じよ うな結果 がみ
られ るか ど うかを調 べ る必要 が あ る。北 山 (1998)
結果,幼 児 は小学 生や大 人に比 べ て ,望 ま しくな い
に よれば, 日 本 での 原 因帰属 の研 究 で は ア メ リカで
のそれ とは ちが つて 「自己高揚 的 バ イ ア ス」 は 見 ら
特性 は大人 にな る ととて も望 ま しい 方 向に変化す る
とい う信念 が 強 く,逆 に とて も望 ま しい特性 に つい
て は大人 にな つて も変化せずそ の まま維持 され続 け
る とい う信 念 を持 つて い る ことが 見 い 出 された。 さ
らに理 由の 分析 か ら,望 ま しくな い特性 の 変 容可能
の 理 由 と して 「加 齢 ・成熟 (大 き くな つた か ら)」
を あ げ る こ と が 幼 児 で は 多 か つ た 。 (な お
Lockhartら はそ う した言葉 を使 つて い な いが ,本
研究 では これを 「素朴楽天主義」 とよぶ ことにす る。)
無 力感 の 研究 で くり返 し報告 され て きた ように,
何度 も失敗 に出会 うと人は さ らに努 力す る こ とを放
棄 して しま うの に (e.g.,Dweck&Elliot,1983),
れず,む しろ 自己批判 的傾 向 が 強 い とい う。 日本で
は努 力 が特 に重視 され るが, こ れ は 自己批判 が 努 力
や 向上心 と結 び つ く ことに よつて肯定 的 な意味 を も
つ ようにな るか らで はないか と彼 は主張 して い る。
そ こで本研究で は,発 達 の到 達点 と して若年成 人
期 (21歳)だ け で な く,老 人期 (80歳)ま で 含 め ,
日本の子 ど もにお いて も楽天 主義 が 見 られ るか一―
望 ま しくな い 特性 が 変容す る可能性 を信 じて い るか
一一 を調 べ る ことを大 きな 目的 とす る。幼 児 が 一 般
に老 人期 の 大 人の能 力を どの ように認知 して い るか
に関す る研 究 は 少 な いが ,現 在 ま で に報告 されて い
子 どもの楽天主義 :望 ま しくない特性の変容可能性についての信念の発達
る研究で は ,老 人期 には 能 力 の 低 下がみ られ る こ と
231
をあ る程 度幼 児 で も理解 して い る ことを示唆 して い
本研究 の 第 3 の 目的 は, 楽 天主義 の及ぶ範 囲を 明
らか にす る こ とで ある。そのた めに , 性 格特性 だけ
る。例 えば 老 人は若年成 人 よ り,病 気 の な りに くさ
で な く, 身 体特 性 も身体構造 に 関わ る特性 と身体機
(Weinberger,1979),走
&Ginsburg,1984-85),頭
る速 さ (Miller,Blalock,
の よさ (Rosenwasser,
McBride,Brantley,&Ginsburg,1986)な
どで劣 っ
てい る と幼 児 が 認知 してい る とい う報 告 が あ る。 も
し幼児 に (素朴 な)楽 天主義が存 在す る とす れ ば ,
幼 少時 に も つていた 望 ま しくない特 性 は ,若 年成人
期 だけで な く,老 人期 にお いて も望 ま しい特性 へ の
変 容 が 見 られ る と予 測す るで あ ろ う (予 測 1)。 こ
能 に関わ る特性 に分けて と りあげ る。 また人間 には
存在 しない特徴 ( 空中に浮 かぶ ) も 含め る。 意志や
願 望 に よる特 性 の 変 容 可 能 性 を調 べ た従 来 の 研 究
( 但 しいずれ も短期の変容可 能性を扱 った ものだが )
に よれば , 就 学 前 の幼児で も心理的特性 は変容 しや
す く, 身 体構造 に 関す る特性 ( 例えば 目の 色) は 身
体機 能 に よる特 性 よ りも変容 しに くい こ とを理解 し
てお り ( I n a g a = i & H a t a n O , 1 9 9 3 ) , 人 が 空 中 に 浮
かん で い られ な い こ と も理解 して い る ( S h u l t &
の予測を確 かめ ることが本 研究 の 第 1の 目的で ある。
本研 究 の 第 2の 目的 は,.小 学生 以降大 人にいた る
W e l l m a n , 1 9 9 7 ) 。 心理的 特性 と身体的特性 を親か
「楽天主義 」 の 存在 とその性 質 を 明 らか にす る こと
らの 「遺伝」 と い う点で区別 して い るとい う報告 も
で あ る。Lockhart他
(2002)で は 望 ま しくない 特
性 の変 容可能性 の信 念 (楽天主義)に もとづ く反応
は年齢 の増加 とと もに低下す るが , し か し全 く消失
す るわ け で は な い ことを見 い 出 して い る。 とて も望
ま しい特性 へ と変化 は しないまで も中程度 に望 ま し
man&Gelman,2000)。
ある (Heッ
ここか ら考 え る
と, 望 ま しくない特性 の変容可能性 の信 念は無差別
に 適用 され るので はな く, 特 性 の タイプに よ つて 異
な つて 適用 され る のでは な いか と予想 され る ( 予測
3)。
い方 向 へ の 変化 はあ りうる とす る反応 は ,小 学 生で
は50∼ 65%,大 人 で は37∼ 48%み られた (た だ しと
方
法
て も望 ま しい特性 へ の変化を選択 した大人は 2 % ) 。
大人 が 中程度の変容可能性を信 じる理 由がどの よう
な ものかについては報告 されていないが, 小 学生で
は, 幼 児に多か つた 「加齢 ・成熟 」 の理 由 ( 2 6 % )
に代わ つて 「努 力 ・練 習」 に よる とす る理 由づ け
( 2 1 % ) が 多 く見 られた とい う ( 幼児 ではこの理 由
づ けは4 % ) 。 学ばなければな らない技能 が依然 と
してまだ 多 い とい う点では, 学 童期 の子 どもで もあ
る種 の楽天主義の信 念 が必 要 とされ るが, しか し他
方 では幼児に比べ て 現実認識が よ り正確 になる学童
期 の子 どもでは素朴 な楽天主義を とることには気 が
進まな いか もしれな い。 とすれば, 素 朴 な楽天主義
にかわ って, 努 力と練習 さえつ めば よい方向に変わ
るはずだ とい う, い ゎば 「努力依存 の楽天主義」 と
で もい うべ き楽天主義を もつのでは あるまいか。 こ
うした 「努力依存 の」楽天主義は, 文 化 の影響を受
けやす いか も しれない。知的達成 に関 して, ア メ リ
カの能力重視の信 念に対 して, 日本 は努力重視 の信
念 の 強 い こ とが指 摘 され て きた ( e . g . , S a t o ,
Narniki, Ando,
& Hatano,
2004; Holloway,
Kashiwagi,Hess,&Azuma,1986)。
被 験 者
被験 者 は 新潟 市 内 の 私立幼稚 園 の 5 歳 児2 4 名 ( 平
均年齢 5 歳 6 ヶ 月, 年 齢範囲5 : 0 ∼5 : 1 1 ) , 6 歳 児 2 4
名 ( 平均 年齢 6 歳 4 ヶ 月, 年 齢範 囲6 : 0 ∼6 : 1 0 ) , 新
潟市 内の 公立小学 校 の 3 , 4 年 生 2 4 名 ( 平均年齢 9
歳 1 0 ヶ月, 年 齢 範 囲8 : 1 0 ∼1 0 : 9 ) ( 以 下 8 - 1 0 歳 児
と略記 ) , 大 人 と して新 潟 県 内 の 国立 大学 の 学生 2 4
名 ( 平均 年齢2 0 歳 4 ヶ 月, 年 齢範 囲 1 8 : 7 ∼2 1 : 7 ) 。
刺激材料
望 ま しくない特 性 を持 つて い る主人公 に つ いて 作
成 された 8 つ の 物 語。 8 つ の 望 ま しくない特性 は,
身体構 造特 性 ( 背が 低 い , 可 ヽ
指 が な い ) , 身 体機 能
特性 ( 視力 が低 い , 走 るのが 遅 い ) , 心 理 特 性 ( 意
地悪 , 物 覚 えが 悪 い) , 不 変 / 不 可 能特 性 ( 目の 色
が黒 , 空 中に浮かぶ) の 4 つ の タイプに分け られ る。
不変/ 不 可能特 性 以外 は L o c k h a r t 他 ( 2 0 0 2 ) で 使
用 された 特性 と同 じで あるが, 彼 らが心理特性 , 生
物特性, 生 物 。心理混合特性 と していた ものを上 記
ア メ リカ文
化 に比 べ て 努 力志 向 の 信 念 の 強 い 日本文化 の もとで
公 の物語 を , 女 性 被験者用 に女 児が主人公 の 物 語を
は この 「努 力依存 の 」楽天主義 は よ り強 く見 られや
作成 した。
す く, 小 学 生以降大 人 にお いてか な り高 い割 合 で 見
られ る ので はないだ ろ うか。 これ を予 測 2 と す る。
の よ うに整理 した。 なお男性被 験 者用 に 男児 が主 人
新潟大学教 育人間科学部紀要 第
232
課
第 2号
9巻
題
若 年 成 人 課 題 と 老 人 課 題 が あ り ,前
者は
L o c k h a r t 他 ( 2 0 0 2 ) で 用 い られ た課 題 とほ ぼ 同 じ
で , 後 者 はそ れを老 人にな つた ときへ と拡 張 した も
ので あ る。 い ずれ の 課題 も 8 つ の 物語 か らな る。各
物 語 で は , 主 人公 が5 歳 と1 0 歳の ときに望 ま しくな
い特 性 を有 してお り, そ れ を望 ま しい 方 向に変 えた
い と願 つてい る ことが示 された後 , 主 人公 が2 1 歳に
な つた ときに特性 が どの よ うに変 化す るか の 予 測を
以下 の 3 つ の 選択肢 の なかか ら 1 つ 選 ばせ , そ の理
由を 尋ね る ( 若年成 人課 題 ) : ( a ) 5 歳 , 1 0 歳 の とき
と同 じ望 ま しくない特性 の まま l b ) 中程 度 に望 ま し
い 特性 へ と変化 して い る ( c ) と
て も望 ま しい 特性 へ
と変化 して い る, で ある。若年成 人課 題 の 各物語終
了後 , 引 き続 いて す ぐ主人公が8 0 歳にな つた ときに
ど うな るか の 予測 を上記 3 選 択肢 の 中か ら選 ばせ ,
そ の 理 由を尋ね た ( 老人課 題 ) 。外 的 な介 入 に よ つ
て主 人公 に変化が生 じていない こ とを強調す るため
TABLE l ス
低 い」 とい う特性)
若年成人課題
(主人公 タ カ コさん は幼稚 園 の 5歳 の とき,お 友達
が 5歳 の と 背比 べ を してみ ると,背 が一 番低 くて, タ
絵 を 提 カ コさん よ り背 が低 い子 ど もはいませ んで し
示)
。 タカ コさんは, も つ と背 が高けれ ばいい
た
な あと思 つてい ま した。 タカ コさんは,い つ
か本 当に背 が 高 くなれば いい なあ と考 える こ
とが よ くあ りま した。
(主人公 タ カ コさん は10歳にな りま した。小学 4年
が10歳の 生 です (幼児 の場合 は,小 学 4年 生 くらいの
絵 を 提 お 姉 さん にな りま した)。 タカ コさん は幼 稚
の 5歳 の とき よ りは背 が高 くな りま した。
示)
園
で も同 じクラスの女 の子 と比 べ るとや は りま
だ背 が一番低 くて, タ カ コさん よ り背 が低 い
子 どもはいませ んで した。 タカ コさん は,10
歳 の とき もいつか 本 当に背 が高 くなれ ばいい
なあ と考 え る こ とが よ くあ りま した。 タカ コ
さん は, ク ラスの他 の女 の子 よ りも背が高 く
な りた い と思 つてい ま した。
に , 主 人公 が病 院 で 手術 した経験 を もた な い こと,
薬物 を定期的 に摂取 してはいない こ とを 明示 した。
課 題 セ ッ トの 例 を T A B L E l に
今 では, タ カ コさん は もつ と年 を と つて21
歳 です。大学生 くらいの大 きなお姉 さん にな
りま した。 タカ コさんは これ まで に病院で手
術 を した ことはあ りません し,薬 を飲 む こと
もめ ったに あ りません。 今, タ カ コさん は ど
ん なふ うにな つて い る と思 い ます か ?次 の 中
か ら一 番近 い と思 うもの を選 んで くだ さい。
示 す 。 各 物 語 にお
いて , 主 人公 の 5 歳 時, 1 0 歳 時 の 様子 を読 み上げ る
際 に , ま た各課題 での 3 選 択肢 を読み上 げ る際 に ,
それぞ れ め様子 を表す絵刺 激 を提 示 した。
① タ カ コさん は,今 で も同 じ年 の他 の女 の
手 続 き
人 よ りも背 が低 いで す 。
② タ カ コさんは, 今 では もう同じ年の他の
女の人と同じくらいの背の高さです。
子 ど もの被験者 に対 して は , 個 別面接 に よる実験
を行 った。 8 つ の物語 を提示す る前 に , 幼 児 ( 5 歳
児 と 6 歳 児) に 対 して は, 2 1 歳 だ と若 年成 人, 8 0 歳
だ と老 人 で あ る ことを 被験 者 が 理解 して い るか ど う
かを確かめ るための ス ク リー ニ ン グテ ス トを行 った。
これ は誕生 日が何 回 もまわ つて きて2 1 歳 ( 8 0 歳) に
な つた ら ど うな るか を , 2 枚 の 絵 ― 一 子 ど もの 絵
( 若年成 人) と 若年成人 ( 老人) の 絵 一一 か ら選択
させ る とい う課題 で , 5 歳 児 5 名 , 6 歳 児 の 1 名 は
正 しく答 え る ことがで きなか つた ので 被験 者 か ら除
外 した ( 除外後 の 人数 が 5 歳 児, 6 歳 児各2 4 名となつ
た ) 。 8 つ の 物語 の 提示 順序 は 被験 者 ご とに ラ ン ダ
ムで , 若 年成人課 題, 老 人課題 にお け る選択肢 の 提
示順序 も ラ ン ダムで あ った 。大 人 に対 して は, 8 つ
の物 語 の 提示順序 を変 えた冊子 を 4 種 類 用 意 し, 各
被験 者 に冊子 を配布 し各 自の ペ ー スで 進 め させ た。
選択肢 の 提示順序 は上 記 で示 した選択肢 a ∼ c の 順
に固定 し, 選 択 の理 由づ けを記入す る欄 も設 けた。
大人 に対 して は絵刺激 は提示 しなか つた 。
背が
トー リー ・課題 セ ッ トの例 (「
③ タ カコさんは, 今 ではもう同じ年の女の
人 と比 べ ると背が とて も高 いです。
老人課題
では, タ カ コさんが もつ ともつ と年を と つ
て80歳のおば あ さんにな つた らどん なふ う に
な つてい る と思 い ます か ?タ カ コさん は80歳
になるまで に病院で手術を した ことはあ りま
せ ん し,薬 を飲 む こと もめ つた にな い と しま
す。
① タ カコさんは,80歳のおばあさんになつ
た とき も同 じ年の他 の女 の人 よ りも背が低
いです。
② タ カコさんは, 8 0 歳のおばあさんになつ
たときは, 同 じ年の他の女の人と同じくら
いの 背 の 高 さです 。
③ タ カ コさんは, 8 0 歳 のおばあさんにな つ
たときは, 同 じ年の女 の人 と比べ ると背が
とても高 いです。
子 どもの楽天主義 :望 ま しくない特性の変容可能性 につ いての信念 の発達
結
課題, 老 人課題) の 3 要 因の分散分析を行 った。そ
の結果, 年 齢 ×特性 ×課題 の交互作用 が有意 であっ
果
l.若 年成人課題 ,老 人課題の特性改善得点 の平均
点の分析
若年成人課題,老 人課題 において 「とて も望ま し
い特性 へ の変化」を選択 した場合を 3点 ,「中程 度
に望ま しい特性 へ の変化」を選択 した場合を 2点 ,
「望ま しくない特性のまま」 を選択 した場合を 1点
と して,「特性改 善得点」 を算出 した。TABLE 2
に年齢別 ,特 性 の種類別に各課題 の特性改善得点 の
平均 と標準偏差を示 した。 これ らの得点を従属変数
と して,年 齢を被験者間要因,特 性 と課題 を被験者
内要因 と して,年 齢 (4;5歳
児, 6歳 児, 8-10
歳児,大 人)× 特性 (4;身 体構造,身 体機能,心
理特性,不 変/不 可能特性)× 課題 (2;若 年成人
TABLE 2 若
たので ( F ( 9 , 2 7 6 ) = 2 . 8 , ク< , 0 1 ) , 課 題 ごとに年
齢 ×特性 の単純交互作用を分析 した。
若 年 成 人課 題 で は 特性 の主 効 果 ( F ( 3 , 2 7 6 ) =
1 0 6 . 6 , p < . 0 1 ) , 年 齢 の主効果 ( F ( 3 , 9 2 ) = 1 1 . 6 ,
ク< . 0 1 ) が 有意 で あ り, 交 互作用 は有意 ではなか つ
た。 そ こで 年齢 要 因に つい て S h e f f e 法に よる対間
比較を行 った ところ, 5 歳 児 とその他の各年齢群の
間に有意 な差 が 見 られ ( 全てρ< . 0 1 ) , 5 歳 児 は望
ま しくない特性 が望ま しい特性 へ と変化す ると予測
す る こ とが よ り多か った。特性要因 について は乱塊
法に よる 2 要 因 の 分散分析 を行 つた後, S h e r e 法
に よる対間比較 を行 った と ころ, 不 変/ 不 可能特性
< 身 体機能 三身体構造 < ′心理特性 ( 差の ある箇所は
全てρ< . 0 1 ) で
あ つた。す なわ ち, 望 ま しい方 向
年成人課題 ,老 人課題の特性改善得点の平均 と標準偏差
特性 の タイプ
身体構造特性
身体 機能特性
心理 特性
不変/不 可能 特 性
年
齢
ー
グル プ
若年成 人 課題
M
SD
老 人課題
M
SD
5歳
2.29
0.75
2.29
0.75
6歳
1.71
0.55
2.00
0.71
8-10歳
1.60
0.39
1.90
0.55
大人
1.52
0.28
1.60
0.39
5歳
2.13
0.66
1.96
0.71
6歳
1.94
0.60
1.85
0.56
8-10歳
1.81
0.41
1.67
0,48
0.46
大人
1.63
0.47
1.81
5歳
2.58
0.55
.2.48
2.48
0.68
0.65
6歳
2.25
0.68
8-10歳
2.29
0.36
2.56
0.45
大人
2.27
0.42
2.40
0.57
5歳
1.71
0.82
1.98
0.84
6歳
1.19
0.44
1.38
0.59
8-10歳
1.04
0.14
1.15
0.23
大人
1.06
0.22
1.08
0.28
注 1)得 点範 囲 は 1-3点 。 1点 =「 望 ま しくな い 特 性 の まま」 を選択
した場 合, 2点 =「 中程度 に望 ま しい特 性 へ と変 化」 を選択 した場
合, 3点 =「 とて も望 ま しい 特性 へ と変 化」 を選択 した場合
注 2)各 年齢群 の 人数 は24人
新潟大学教 育人間科学 部紀要 第
へ変化す るのは心理特性が もつ とも多 く,次 に身体
特性 で あ り (身体特性 の なかでは身体構造に関わ る
9巻
第 2号
容可能性 を どの タイプの 特性 に対 して も同 じよ うに
認 め るので はな く,あ る程度選択 的 に認 めてい る一
― 心理 的特 性 が も つ と も変容 の 可能性 があ り,次 が
特性 も身体機能に関わる特性 も変容 しやす さではほ
ぼ同 じ),不 変/不 可能特性は望 ま しい特性 に変 容
しに くい と判断 していた。
身体 的特性 で あ り,不 変/不 可能特性 は も つ と も変
容 しに くい と予測 して いた 。ただ し5歳 児 で は若年
老人課題 において は,特 性 の主効果 (F(3,276)
=91.2,ク <.01),年 齢 の主効果 (F(3,92)=5.1,
ρ<.01),特 性 と年齢の交互作用が有意 (F(9,276)
=4.3,ク <.01)で あ つた。 交互作用 が有意 であ つ
成 人期 にお いては ど老 人期 で は この傾 向 が 顕 著 で な
たので,各 年齢群 ごとに特性 の単純主効果を検定 し
た ところ,す べ ての年齢群 において特性 の主効果 が
られ な い ことが示 された。 いいか えれば 6歳 児 だ け
で な く小学生 も大人 も,年 月を経 るに つ れて望 ま し
有意 で あ つた (5歳 児はF(3,69)=6.0,ρ <.01;
6歳 児 はF(3,69)=18.9,ク<.01;8-10歳 児 はF(3,
69)=50.9,ク <.01'大
人 はF(3,69)=45.0,
くな い特性 は望 ま しい特 性 へ と改善 されて い くとい
か ったけれ ど も。 さ らに ,上 記 の 分析 か ら,望 ま し
くな い特性 が 改善 され る と予測す る傾 向は, 6歳 以
降 の 年齢 グル ー プで は 統計的 には顕 著 な年齢 差 は見
う信念 が あ る程度強 い こ とは注 目され よう。
ρ<.01)。 そ こで 各年齢群 ごとに乱塊法 に よる 2要
因 の 分散分析 を行 った後 ,Shere法 に よる対間比
較 を行 つた ところ, 5歳 児 では不変/不 可能特性 =
2.若 年成 人課題 ,老 人課題 にお け る各選択 肢 の選
択率 の 分析
身体機能 <心 理特性 (不変/不 可能特性 と心理特性
の差 はρ<.05,身 体機能 と心理特性の差 はク<.01)
若年成 人課 題,老 人課題 にお いて ,
い
「とて も望 ま し 特 性 へ と変 化」 「中程度 に 望 ま し
い 特性 へ と変化 」 「望 ま しくない特性 の まま」 の 各
であ り,身 体構造 は どの特性 タイプ とも有意な差は
なか つた。 6歳 以降 の年齢群 ではいずれ も不変/不
可能特性 <身 体機能 =身 体構造 <心 理特性 であつた
選択肢 の選択 率 を年齢 別 に示 した もので あ る。 「と
て も望 ま しい 特性 へ と変 化 」 を選択 した個数 を従属
変数 と して,年 齢 ×課題 の 2要 因 の 分散分析 を行 つ
(6歳 児 においては不変/不 可能特性 と身体機能 の
差,身 体構造 と心理特性 の 差 はク<.05で あ り,不
変/不 可能特性 と身体構造お よび`心
理特性 の差,身
た と ころ,年 齢 の主効果 (F(3,92)=15.8,p<.01)
体機能 と心理特性 の差はク<.01。 小学生,大 人にお
いては差 の ある箇所はす べ てク<.01)。
以上 の結果 は, 5歳 児は 6歳 以降 の他 の年齢群 と
較 を行 つた と ころ 5歳 児 とそ の 他 の 各年齢群 の 間 に
有意差 が 見 られ (全て ρ<.01), 5歳 児 で 「とて も
望 ま しい特性 へ と変 化」 の予 測をす る ものが 有 意 に
比較す ると,望 ま しくない特性は時間 の経過 ととも
多 か つた 。 また課題 の主 効果 がみ られた ことか ら,
に改善す ると予演1する傾 向が強 く,そ れは若年成人
期 のみでな く,老 人期に対 して も見 られ る ことを示
老人課題 の 方 が ,若 年成 人課題 よ りも 「とて も望 ま
しい 特性 へ と変化 」 を選択す る割 合 が 多 い ことが示
している。また 5歳 児を含めて どの年齢段階 の者 も,
若年成人期,老 人期 ともに,望 ま しくな い特性 の変
された。
TABLE 3 若
TABLE 3は
と課題 の 主効果 (F(1,92)=15.9,p<.01)が
次 に 「中程度 に望 ま しい特性 へ と変 化」 を選択 し
年成人課題 ,老 人課題における各選択肢 の選択 率
(%)
年
有意
で あ つた。 年齢差 に つ いて Sheffe法 に よる対 間 比
老 人課題
齢
ー
グル プ
Positive
Average
Negative
Positive
Average
Negative
5歳
50.5
16.7
32.8
50.0
17.7
32.3
6歳
22.9
31.3
45.8
34.4
24.0
41.7
27.6
26.6
45.8
21.9
28.6
49.5
若年成人課題
8-10歳
12.5
43.8
43.8
大人
14.1
33.9
52.1
注 1 ) 各 年齢群 におけ る総反応数 1 9 2 ( 被 験 者 2 4 名 × 8 反 応 )
注 2 ) P o s i t i v e は 「とて も望 ま しい特 性 へ と変 化」 の 選択肢 、A v e r a g e は 「中程 度 に望 ま しい
特性 へ と変化 」 の選択肢 、N e g a t 市e は 「望 ま しくな い 特性 の まま」 の 選択肢 を示す
子 どもの楽天主義 :望 ま しくない特性の変容可能性についての信念の発達
た個 数 について ,上 記 と同様の分 析 を行 った ところ ,
年齢 の 主効果 (F(3,92)=8.3,ク <.01),課 題 の 主
3.望 ま しくない 特性 の 改善 の理 由 づけについ ての
効果 (F(1,92)=12.1,ク <.01),年
望 ま しくない特性が 改善 され る と答えた場 合 の理
由づ け,す なわ ち若年成人課 題 で は 「とて も望 ま し
い特性 へ の 変化 」 な い し 「中程 度 に 望 ま しい特性 へ
互作用 (F(3,92)=3.4,p<.05)が
齢 と課 題 の 交
有意 で あ つた。
交互作用 が 有意 で あ ったため ,課 題 ご とに年齢 の単
純 主効果 を分析 した ところ,若 年成 人課題で の み有
意 で あ つ た (F(3,92)=9.9,ク <.01)。 Sheffe法
分析
に よる対間比 較 を行 った ところ, 5歳 児 とそ の 他 の
の 変化」 を選択 した ときの理 由 づ け,老 人課題 にお
いて は 若年成 人課題 の 時 に選んだ 選択肢 よ りも望 ま
しい 方 向へ の 変化 の 選択肢 を選 んだ 場合 の理 由づ け
各 年齢群 の 間 に差 が あ り (6歳 ,大 人 との差 はク<
.05, 8-10歳 児 と の 差 はク<.01), 5歳 児 は 他 の
(但 し若年成 人課題で も老人課題 で も 「とて も望 ま
しい特 性 へ の 変化」 を選択 した場 合 は,天 丼効果 を
年齢群 よ り 「中程 度 に 望 ま しい特性 へ と変化 」 を選
考慮 し, こ こに 含 め る)を 8つ の カテ ゴ リー (老人
課題 は 9つ の カテ ゴ リー)に 分類 した。TABLE4
に各 カテ ゴ リー の 分類基 準 と,回 答例 を,TABLE
択す る割 合 が 有意 に低 い こ とが示 された。 さらに年
齢 ご とに課題 の 単純 主効果 を分析 した ところ, 810歳児 においてのみ 有意 な効果 が 見 られ (F(1,23)
=15.9,ク <.01),若 年成 人課 題 の 方 が 老 人課 よ
題
りも 「中程度 に 望 ま しい特性 へ と変化 」 を選択す る
割 合が多 い ことが 示 された。
さらに 「望 ま しくない特 性 の まま」 を選択 した個
数 に つい て も,上 記 と同様 の 分析 を行 つた ところ,
年齢 の 主効 果 のみ が 有意で あ った (F(3,92)=3.4,
ク<.05)。 Sheffe法 に よる対 間 比較 を行 っ た と こ
ろ, 5歳 児 と大人 の 間 のみ に 有意差 が 見 られ (ク<
.05), 5歳 児は大人 よ り 「望 ま しくない特性のまま」
を選択す る割 合 が 有意 に低 い ことが 示 された。
以上 をま とめ る と, 5歳 児 はそ の他 の 年齢群 に比
べ る と,「望 ま しくない 特性」 は,「 とて も望 ま しい
特性 に変化 す る」 と考 え る傾 向 が 高 く, この 傾 向は
若年成 人期 と老人期 に 同 じよ うにみ られた。 これ に
対 し6歳 児,小 学生,大 人 は 「中程度 に望 ま しい特
性 に変化 す る」 と考 え る傾 向が高か つた。 また 6歳
児,小 学 生,大 人 は ,「望 ま し くな い 特 性 の ま ま 」
を選択す る割 合 は若年成 人課題で も老 人課題 で も変
わ らないの に ,「 とて も望 ま しい特 性 へ と変 化」 を
選択す る割 合は,若 年成 人課題 で よ りも老人課 題 に
お いて の 方 が 高 か つた (TABLE 3参 照 )。 この こ
とは,楽 天傾 向 が 強 い 5歳 児 では 望 ま しくない特 性
は若年成 人 (21歳)に な るまでに とて も望 ま しい特
性 へ と変 化 して い る と考 え る の に対 し,「 変 化 が 生
じる と して も少 し」 とい った 楽天主義が弱い 6歳 児 ,
小学生,大 人 で は,望 ま しい特性へ と変化 す るには
時間がかか る (80歳の 老 人 にな るまでかか る)と 考
えてい る可能性が示 唆 され る。 い ずれ にせ よ, こ こ
で の 子 ど も達 が ,80歳 とい う遠 い将 来 に も望 ま しい
方 向へ の 変化 の 可能性 を信 じて い る ことは確 か とい
え よう。
5に は 各 カ テ ゴ リー に 分 類 され た 回 答 の 割 合 と頻
度 を年齢別 に示 した。 なお被験 者 が回 答 の 中 で ,複
数 の カ テ ゴ リー に 入 る理 由を述 べ た場 合 は , 1÷
(言及 カテ ゴ リー数)の 値を言及 された各 カテ ゴ リー
に配 分 した。 二 人 の判定者が独立 に判 定 した と ころ,
判定 の 一 致率 は 若 年成人課題 で89.4%,老 人課題 で
84.9%で あ った。判定 が不 一 致 で あ つた ものについ
ては ,二 人 の 判定 者 の協議 に よ り決定 した。
「反応 の 繰 り返 し ・分 か らない 。説 明な し」 以外
の ,意 味 の汲 み取 れ る理 由 づ けのみ を対 象 と して ,
以下 の ような分 析 を行 つた。 若年成人課題,老 人課
題 の 各課題 にお いて ,各 カテ ゴ リの理 由 づ けを した
者 の 割 合 と年齢 の 間に連 関 が あ るか どうかを 検討す
るため に,各 カテ ゴ リの理 由づ け ごとに 直接確率法
に よる分 析 を行 つた注)。若年成 人課題 にお いて は ,
「加 齢 ・成熟 」 (ク<.01両 側 検定 ),「努 力 ・練習」
(ク<.01両 側 検 定 )に お いて 有 意 な連 関 が 見 られ
た 。 残 差 分析 の 結 果 ,「加齢 0成 熟 」 の 理 由を あげ
る者 の割 合は 5歳 児, 6歳 児 は有 意 に多 く (いずれ
もρ<.01), 8-10歳
児,大 人は有意 に少 なか つた
<.01)。
(いず れ もク
また,「 努 力 ・練 習」 の 理 由
づ けを行 う者 の 割 合 は 5歳 児, 6歳 児 は有意 に少 な
く (いずれ もク<.01),8-10歳 児 (p<.05),大 人
は 有 意 に 多 か つた 。 老 人 課 題 で は
(ク<.01)で
・
「加 齢 成熟 」 (ク<.01両 側 検定 ),「努 力 ・練習」
(ク<.05両 側検 定 ),「習得」 (ク<.05両 側検定 ),
「他者 との 相 対的 比較 」 (ク<.05両 側検定 )で 有 意
な連 関 が 見 られ た。残差 分析 の 結 果,「加 齢 ・成熟」
の 理 由 を あ げ る 者 の 割 合 は 6歳 児 が 有 意 に 多 く
(ρ<.01),大 人 が 有 意 に 少 なか つた (ρ<.01)。
「努 力 ・練習」 の 理 由 づ けを行 う者 の 割 合 に つい て
は , 5, 6歳 児 で 少な く, 8-10歳 児,大 人で多 い
傾 向 が あ つたが ,い ずれ も有意 で はなか つた 。 「習
新潟大学教育人間科学部紀要 第 9巻
236
TABLE 4 特
理 由づ け タイプ
第 2号
ー
性 が改善 す る ことに対す る理 由 づ けの各 カテ ゴ リ の定義 と例
定
義
例
加齢 ・成熟
加齢や成熟に伴 う自然な変化に よ つて
改善す ると説 明 した もの
「大 き くな つたか ら」 「年 を と つたか
ら」 「大人 (お じい さん ・おばあ さん)
にな つたか ら」
生物学 的 ・身体
的
生物学的あるいは身体的な変化 や特徴
に よつて改善す ると説 明 した もの
「成長期 に ぐん と身長 が 伸 びた可能性
が あるか ら,他 人 よ りも背 が 高 い と思
う」 「足 が 長 くな つたので,他 人 よ り
も背 が 高 くな つた 」
努力 ・練習
何かについて努力す る, 練 習す る, 勉
強す ることに よ つて改善す ると説 明 し
た もの
「努力を して うま く覚 え るため の こつ
を身 に つ けた ので ,他 人 よ りもた くさ
ん ものを覚える ことがで きるようにな つ
た」 「速 く走れ る ように練習 したので ,
他人 よ りも足 が 速 くな つた 」
願 望 ・意欲
こ うな りたい, こう した い とい う願望
や意欲に よつて 改善す ると説 明 した も
の
「常 に優 しい人 にな りた い と思 つて い
た ことで ,少 しず つ 意地悪 な気持 ちが
変化 して優 しくな つた 」
習得
他者か ら教 え られて習得す る, あ るい
は経験 の増加に よ り身につ ける ことに
よ って改善 の説 明を した もの
「先生 が ど う した らうま く覚 え られ る
か を教 えて くれたか ら他 人 よ りもた く
さん覚 え られ る よ うにな つた 」 「今 ま
での人生 の 中 でい ろいろな経験 を して ,
他人を思 いや れ る ように な り,優 しく
な つた 」
他者 との 相対 的
比較
主人公 とそ れ以外 の 登場 人物 の 特性 の
変化 の 程度 を比較す る ことに よ つて 改
善 に つ いて 説 明 した もの
「他 の 人 が 走 るのが遅 くな つたか ら,
彼 は (相対的 に )速 くな つた 」
特性 の 時 間的連
続性
2 1 歳の ときの 特 性 はそ の まま変 わ る も
ので はない ことを 理 由に, 8 0 歳 の とき
も2 1 歳の とき と同 じ状態 で あ る ことを
述 べ た もの
「優 しいま ま年 を と つて い くよ うに思
うか ら,21歳 の とき優 しければ80歳 に
な つて も相変 わ らず 優 しい 」
反応の繰 り返 し・
わ か らない 。説
明な し
単 に 自分 の 選択 した答 えの 内容 を繰 り
返 し述 べ て い るだけ で , 選 択 の 理 由を
説 明 して い な い 場 合, 分 か らない と答
えた場 合, 何 も答 えなか つた場 合
そ の他
上記 以外 の 反応
ー
注)「 特性 の 時間的連続性」 は 老 人課 題 にお いてのみ 見 られ る カテ ゴ リ で あ る
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237
子 どもの楽天主義 :望 ま しくない特性の変容可能性についての信 念の発達
新潟大学教育人間科学部紀要 第
238
9巻
第 2号
得」 「他者 との 相対的比較 」 の理 由を あげ る者 の割
合 は, 大 人 が 有意 に多か つた ( 両方 と もつく . 0 1 ) o
い うものだ つた 。 「とて も望 ま しい 特性 へ と変化」
以上 の ことか ら, 若 年成 人期, 老 人期 の どち らに
対 して も, 5 歳 児, 6 歳 児は, 望 ま しくな い特性 は ,
を数値 化 した得点 の平均 点 の 分析 か ら,少 な くと も
5歳 の 幼児 は ,幼 少時 に もつ 望 ま しくな い特 性 は 若
加齢 な い しは成熟 に よつて 自然 に改善す る と考 える
傾 向 が 強 い といえ る。 5 歳 児 は , 若 年成 人課 題 と老
人課 題 の両 方 にお いて , 「反 応 の く り返 し 0 わ か ら
年成 人 にな つた ときで も,老 人 にな つた ときで も,
とて も望 ま しい特 性 へ と変化す るとい う信念 が 存在
な い 。説 明な し」 の カテ ゴ リー を除 く, 意 味 の汲み
取 れ る理 由 づ け の 中 で は , 「加 齢 ・成 熟 」 の 理 由 づ
けは, 若 年成人課題, 老 人課題 で と もに5 6 % , 6 歳
児 で は若年成 人課題 で6 1 % , 老 人課題 で6 7 % を 占め
ていた。 これ に対 して , 8 - 1 0 歳 児や大人 で は , 努
・
力す れ ば 変 化す る と考 え る傾 向 が 強 く, 「努 力 練
習」 の 理 由づ けは, 大 人 で は 若年成 人課題 で も老人
課題 で も理 由づ け反応 全体 の 中 の最 も高 い割 合 ( 若
の 選択肢 を選ぶ割 合 の 分析 ,特 性 が 改善 され る程度
す る ことが 見 い出 され ,予 測 1は 確認 された。理 由
の分析 か ら幼児 の持 つ この 楽天主義 は 「加齢 ・成熟」
に よるとす る ものが 多 い , と い う意味 で 素朴楽天 主
義 で あ つた。 6歳 の 幼 児 もまた発達 の メカ ニ ズム と
して 「加齢 ・成熟」 を あげ る ことが 多 い とい う意味
で は 素朴 楽天 主義 で あ つたが , し か し望 ま しくな い
特性 の変 容 の程 度 を 5歳 児ほ ど大 き く見積 もらず,
「中程 度 の 変化」 とす る特徴 が あ つた とい う点 で は
後述 の 小学生 の反応 と近 く,そ の 意味 で 過渡的状態
年39.7%;老 人20.5%)を 占め, 8-10歳 児 で も若
年成人課題 では32.9%(意 味 の汲み取れ る反応 のな
かでは38.2%)を 占めていた。 これ らの こ とか ら,
にある と考 え られ る。
51 6歳 の幼児 は,加 齢な い しは成熟 に よつて望ま
しくな い特性 は望ま しい特性へ と自然に改善 される
と考 える素朴楽天主義を もつてい るが, この素朴楽
降 み られ,大 人 で もそ う した楽天主義 はか な り高 い
割 合 で 見 られ るだ ろ う, と い うものだ つた。 「中程
度 に望 ま しい特性 へ の 変化」 の 選択肢 の 選択傾 向 と
天主義 は,少 な くとも小学校中学年頃までには優勢
で な くな り,そ れに代わ つて努力すれ ば変化す る,
ない しは努力 しなければ変化 しない と考える,い わ
理 由の 分析 か ら, こ こで も予測 2は 確認 された。望
ま しい 特性 へ の 変化 の 可能性 を中程 度 に 見積 も り,
それを 「努 力 ・練 習」 に よ つて 可能 とな る とす る反
ば努力依存 の楽天主義 が出現す るといえ よう。但 し,
8-10歳 児 で も年 月 の経 過 が よ り長 い老 人期 には
「加齢 ・成熟」の理 由をあげる者 が 3割 強 もお り,
応 が 小学生 で は強 く認 め られ, しか も大 人 で も同 じ
ように観察 された。不変/不 可能特性 を除 く6特 性
にお いて 「とて も望 ま しい特性 へ と変化」 「中程度
大人 で も15%に そ う した理 由がみ られ る。また大人
で 見 られ る 「習得」 の理 由のなかには,老 人期 にむ
けて積極的な努力 は しないで も,経 験 が 自然に増加
に望 ま しい 特性 へ と変化 」 のい ずれ かを選 択 した者
の割 合 は,小 学生 の 若 年成 人課題 で73.6%(老 人課
す ることに よつて改善す ると考えていると解釈で き
るもの も多 く (特に 「意地悪」項 目の理 由付けで 多
くみ られ,理 由づ け の40%を 占めていた ),年 月 が
望ま しくな い ことを望ま しい方向に変 えて くれると
い う信念 の根強 い ことが うか がわれる。
討
論
本研究 では, 大 人にな つた ら望ま しくない特性 は
とて も望ま しい特性 へ と変化 しているはずだ とい う
幼児 の楽天主義 が, 自己高揚 バ イア スが強 くな く,
逆 に 自己批判傾向が強 い といわれ る 日本 の文化 の も
とで も見 られ るかを 3 つ の予測 の もとに検討 した。
予汲1 1 は , 日本 の幼児 も楽天主義を もち, そ れは諸
能力の増大傾 向にある若年成人期まででな く, 諸 能
力の低下傾 向にある老人期に もみ られ るだろう, と
予 測 2は ,努 力志 向 の 信 念 の 強 い 日本 で は ,「努
力依存 の 楽天主義」 とで もい うべ き ものが 児童 期 以
つた 。
題 で は67.4%),大 人 で は62.5%(65.3%)だ
Lockhart他
は
(2002)
これ に対応す る正確 な数値
で は 明 らか で は な い が ,彼 らの示 して い るTables
の数値 か ら算 出す る と,小 学生 が67%,大 人 が45%
で あ る ことをみ て も 日本 人 の 大人 で の 楽天主義 の 強
い ことがわか る。 さ らに Lockhart他 (2002)で は
望 ま しい特性 へ の 変容可能性 に関 して小学 生 と大人
との 間 には有意差 がみ られ ,大 人 で は変 容可能性 を
低 く見積 もる傾 向 が 強 くな るのに , 日本 で は小学生
と大人 との 間 に有意差 が 見 られ なか つた。 これは ,
大人 にお いて も変 容可能性 を低 く見積 もる ことが 日
本 で は少 な い こ とを示 して い る。
予 測 3は ,楽 天 主義 は どの タイプの特性 に も同 じ
ように適用 され るのでは な く,あ る程度選択性 を持 つ
てい るだ ろ う, とい うものだ つた が , これ も確認 さ
児 童 や 大 人 だ け で な く,幼 児
れた (TABLE2)。
で も変 容可能性 が 最 も高 いのは心理特性で あ り,身
子 どもの楽天主義 :望 ま しくない特性の変 容可能性 につ いての信念 の発達
体特性 が これ に つづ き,人 間 の もた ない空 中に浮か
れば, ほ とん どの ア メ リカ人 は 自分 の 性格特性や能
ぶや 遺伝 的 に規定 され る 目の 色 な どの特 徴 には楽天
力に ついて , 弱 点 や欠点 よ りも強みや長所 の方 を非
常 に多 く認識 して い る とい う。例 えば , 望 ま しい性
主義 をあま り適用せず,無 差別 に楽天主義 を適用 し
てい るので はない こ とが 明 らか に され た。
以上 見て きた結果 か ら,幼 児 の 素朴 楽天主義―一
年月 の 経過 とともに望 ま しくない特性 は とて も望 ま
しい特 性 へ と (自然 に )変 わ るだ ろ うとい う信 念―
―は
, ど の文 化 で も普遍 的 に 見 られ る もので あ る ら
しい ことが 強 く示唆 され る。発達 を 「長 期 にわた る
種 々の技能 の獲得」 な い し 「熟達化」 と捉えた とき ,
格特 性 と望 ま しくない性格特性 の どち らが 自己を正
確 に表 して い るか と問わ れ る と, ( 精 神 的 に ) 健 康
な人 は望 ま しくない性格特性 よ り望 ま しい性格特性
の 方 が 自分 の 性格 を圧倒 的 に正確 に表 して い る と判
断す る ( A l i c k e , 1 9 8 5 ; B r o w n , 1 9 8 6 ) 。 一 方, こう
した知 見 を東 洋 人 の 研 究 結 果 と比較 検 討 した北 山
こう した 獲 得 な い し学 習を支 えて い る動機 づ け の 重
( 1 9 9 8 ) は , 望 ま しい属性 を 自 らの うちに確認す る
とい う北米人 の傾 向は, 日本人 を含む東 洋文化 で は
要性 が 浮上 して くる。 と くに幼 児期 は 日常生活 をお
くる上で大 人 に比 べ 学 ば なければ な らない技能 は 多
大変 弱 いか , 場 合 に よ つて は完全 に逆 転す る と結論
づ け て い る。 こ う した ことを踏 まえる と, ア メ リカ
く,そ の過程 で は 多 くの失敗 に出会 う。 この ような
幼児 が 技能習得 へ の 意欲 を失わ ず にい られ る理 由を
人 の 場 合は, そ もそ も望 ま しくない特性 よ りも望 ま
明 らかにす る ことは重要 で ,幼 児 の素本卜
楽天主義 は ,
こ う した発 達 へ の 動機 づ け と して注 目す べ き もの と
特性 が 改善 され る と考 え る傾 向は弱 くて も, 宿 命論
いえ よう。
で は幼 児期 以降学 童期 で は この 楽天主義 は ど うな
るのか 。多 くの失 敗 に もめげず技能獲得 (発達 )へ
の意欲 を持 ち つづ け る ことは学童期 で も同様 に必 要
で あ る。本研究 の 結果 か ら,確 か に楽天 主義 は小 学
しい特性 に注 目す る傾 向 が 強 いので , 望 ま しくない
者 に は な らず , 問 題 は生 じな い のだ と思 わ れ る。
「自己高揚 バ イア ス」 ( 北山, 1 9 9 8 ) の 強 い ア メ リ
カで は , 大 人 にな るに つ れて ( いいか えれば文 化 の
影響 が 強 くな るに つ れて ) 自 己 の 望 ま しくな い特性
を改善 しようと努 力す る よ りは , 自己 の 望 ま しい特
性 に注 目 しそ れを強 めてい く方 向 の 発達 をめ ざす の
生に も存在 した。 しか しそれは幼 児 の 素朴 楽天主義
では な く,努 力依存 の 楽天主義―― 努 力や練 習 さえ
で あ ろ う。
すれ ば 望 ま しい特性 へ と少 しは変化 させ られ る とい
う信念一― で あ つた。 現実認識 が 進む に つ れて幼 児
大 きい ら しい ことが 示唆 された が , しか し文 化 の影
響 を よ り明 らか にす るには, 同 じ課題 を用 いて , 異
の ような単純 に年 月 さえたてば とて もよい方 向に好
な る文 化 に属す る被験 者 を直接 比較検討す る必要 が
転す る とは信 じられ な くな るか らで あ ろ う。そ して
素朴楽天主義 とは ちが つて , この 努 力依存 の 楽天主
義は文化 の影 響 を受 け る一― 努 力を重視す る信 念 の
あ る。 今後 の 課題 といえ よう。
本研究 か ら努 力依存 の 楽天主 義 には文化 の影響 が
引用 文献
強 い文 化で は よ り強 くみ られやす い こ と も特徴 で あ
る。本研究で は学童 だけで な く大人で も この 「努力
依存 の 楽天主義 」 が 高 い比率 で 見 られた。 この 努 力
Alicke, M. D. 1985 Global self―
determined by the desirability and control‐
依存 の 楽天主義 は ア メ リカの学童 で もみ られ る こ と
lability
は Lockhart他
′
′
Pαs″η′
ノ漏
(2002)で も報告 され て い るが,大
べ
人 で は学童 に比 変 容可能性を信 じる傾 向が有 意 に
低 くなる こ とが報告 されている。 しか し本研究では ,
学童 と大人 との 間 に変容可能性を信 じる傾 向に統計
的に有 意 な差 は 見 られ なか つた。努 力志 向 の 信 念 の
強 い 日本で は ,努 力依存 の 楽天主義 を持 ち つづ け る
ことに よつて ,長 期 にわた る技能 の獲得 で 生 じる こ
との 多 い挫折 や失敗 を の りこえてい るのだ ろ う。 こ
れに対 して努 力を 日本ほ ど重視 しない ア メ リカでは
大人 にな るまで には消失 な い し弱 まる のでは な いか
と推測 され る。北米 の 被験者 を対 象 に した 自己観 の
よ
研究 を レビュー したTaylor&BrOwn(1988)に
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″″′,
θ
′
19, 47-53.
付
記
本研 究 の 一 部 に平成 1 4 年度 日本 学術振 興会科学研
究 費補助 金基盤研 究C C l ( 課題番 号 1 4 5 1 0 1 2 4 , 研 究代
表者 : 稲 垣佳 世子 ) , 平 成 1 5 年度 日本学 術振 興会 科
学研究費補助 金若手研究l B N ( 課題 番号 1 5 7 3 0 2 9 3 , 研
究代表者 : 中 島伸子) の 補 助 を受 けた。
本研究 をすす め るにあた つて , お よび本 稿 の 第 1
草稿 に対 して元放送 大学 教授 故 ・波 多野誼 余夫氏
か ら貴 重 な 示 唆 を 得 た 。 Y a l e 大 学 講 師 K r i s t i
L o c k h a r t 氏 には L o c k h a r t 他 ( 2 0 0 2 ) で 使用 した
Rholes,W.,&Ruble,D.1984 Children's under
詳 しい質問や刺激絵 を送 つて いただ いた 。記 して心
か ら感謝 の 意 を表 した い。 また本研究 の 実施 に際 し
standing of dispositional characteristics of
て ご協 力 くだ さ つた新潟 市 の旭 が丘 幼稚 園, 新 潟大
′
グDaη ′
others.Cん グ
θ
,55,550-560.
ク“クZι
学付属長 岡幼稚 園, 新 潟 市 立新通小学校 の 先生方,
園児 ・児童 の 皆様 , 理 由 づ け の コー デ ィ ン グに協 力
して下 さ つた新潟市立 中之 口幼稚 園 馬 場 さつ きさ
Rosenwasser,
S. M.,
NIIcBride,
P. A.,
Brantley, T.」 ., &Ginsburg, H.J.1986
Children and aging: Attitudes, differentiation ん , 調 査補助 に協 力 して くだ さ った相場恵美子 さん ,
ability, and quantity and quality of contact.
動 ιル 躍 ′げ G″ αたRttα 鰹 ,147,407-415.
Sato,T。 , Namiki,H.,Ando,J.,&Hatano,
大森理聡 さん, 木 村博子 さん に深謝 したい。
脚
注
G. 2004 」apanese cOnception of and research
on human intelligence. In R.」 . Sternberg
%%ガ bθ
θ
たο
ι
O型 θ
(Ed。), I滋御η″″η′」
/
/Ps,ふ θ
肋 zαη I″ι
〃.部 ι.New York: Cambridge
University Press.
一 被験 者 が 2 つ 以上 の カテ ゴ リー の理
注) な お , 同
由付 けを行 つた た め頻 度 が 整数 で な い場 合 があ る
が , この場 合 は 小数点 第 1 位 以下 を四捨 五 入 した
うえ で 分析 を行 つた。