PLC の情報発信機能によって変貌する 監視・制御システムの形態 横河電機 金子 由雄 1.はじめに Java のプログラミングや Web 画面の作成に専門的な知識が求め PLC は,あらゆる装置・設備に組み込まれてその制御をつかさ られる。そこで,Web アプリケーションや E メールアプリケー どって来たが,近年は高機能化・大容量化が進み,制御の高度化 ションを,IT 分野のプログラミングの知識を必要とせず開発する はもちろん,生産管理やデータ収集・遠隔監視といった情報処理 ためのソフトウェアパッケージ「InfoWell」を提供している。 系の役割を担うケースが増えている。急速に普及したパソコンと 連携して,生産・操業の管理・監視をハイコストパフォーマンス で実現するシステムが普及した。特に遠隔監視などの用途では, InfoWell は,Web 画面表示や E メール発信といった情報発信 機能をプログラミングレスで実現する。 さらに,この情報発信機能を応用して,遠隔監視ソリューショ PLC 側で警報処理などのデータ処理やデータ保存機能が求めら ン「eCUBE」 ,空調2次ポンプ省エネソリューション「エコノパ れる。 イロット」 ,エネルギー管理システム「InfoEnergy」といったさ 一方で,長期にわたる保守性や信頼性の面でパソコンに内在す まざまな分野のアプリケーションパッケージを展開している。 る Windows にまつわる問題が顕在化しており,信頼性の面でパ ソコンに依存しないシステム形態が求められている。このような 4.情報発信パッケージ「InfoWell」 背景から,PLC のデータ処理機能を発展させて,情報発信機能を InfoWell は,現在,Web 画面表示と E メール発信の 2 種類の 持たせることにより,汎用ネットワークを活用したパソコンに依 機能を提供しているが,さらに,データロガー機能などを加えて 存しないシステムが提案されている。 いく計画である。 本稿では,当社の STARDOM を例に,PLC に情報発信機能を InfoWell は,プログラミングレスであることに加えて,動作に 持たせることによって実現されるアプリケーションをいくつか紹 必要な設定ツールやファイルを全て FCN/FCJ に内蔵することに 介すると共に,そういったアプリケーションを効率よく構築する より,ネットワークに接続された端末ならば,場所を選ばず,設 ための仕組みについても解説する。 定および監視・操作が可能なThin クライアント化を図っている。 InfoWell を利用したシステムの構成例を図1に示す。社内ネッ 2.自律型コントローラ「FCN/FCJ」 トワーク内に FCN/FCJ を配置し,制御対象から収集したデータ STARDOM は,自律型コントローラ「FCN/FCJ」と操作監視 を監視・操作用端末に,Web 画面や E メールを使って情報とし ソフトウェア「VDS/ASTMAC」を核にした商品群であり,高い て発信する。また,Web 画面を操作することで,制御対象に指示 「オープン性」と「ネットワーク技術」により,他社製品とも高 を与えることもできる。 い親和性を持ち,用途に応じて柔軟でスケーラブルなシステム構 成を実現する。 自律型コントローラ FCN/FCJ は,ECC メモリ搭載,CPU/電 源/通信の二重化 (FCJ は通信のみ二重化) といった高信頼に加え, エンジニアリングツールは,国際規格の IEC61131-3 に完全準拠 しており,ファンクションブロック,ラダー,SFC など 5 種類の 言語を処理に応じて使い分けできる(写真1)。 図1 InfoWell のシステム構成例 InfoWell のソフトウェア構成を図2に示す。FCN/FCJ は制御 実行エンジンを搭載し,フィールド機器や機械装置などの制御を 写真1 自律型コントローラ「FCN/FCJ」 行う。この制御実行エンジンとは独立して Java アプリケーショ ン実行フレームワークが機能しており,InfoWell はこのフレーム 3.FCN/FCJ の情報発信機能 FCN/FCJ は IEC 言語による制御実行エンジンに加えて,Java アプリケーション実行環境を装備し,Web 経由でのデータ開示, ワーク上で動作する。Web,E メールの各アプリケーションを実 行する Web モジュールと E メールモジュール,さらに,これら のモジュールの動作を設定する設定モジュールで構成される。 E メール発信,FTP によるファイル転送などが可能である。Java アプリケーション開発環境を用いてこれらの機能を構築できるが, 月刊計装 2007 年 3 月号 1 図4に JAVA プログラミングと InfoWell を組み合わせてロガー システムを実現した例を示す。JAVA プログラムによるロガー処 理は,100 点/1 分周期で 150 日,50 点/10 分周期で 8 年分のデー タを CSV ファイル形式で 512MB のコンパクトフラッシュカー ドに蓄積する。CSV ファイルは,メール添付で送信したり,FTP サーバー機能で送信することができる。 図2 InfoWell のソフトウェア構成 FCN/FCJ の制御情報を発信する Web 画面を作成するために, 図4 ロガーシステム Web 画面を構成する部品をあらかじめ組み込んだテンプレート を,画面種にあわせて複数用意した。新たに Web 画面を作成す る場合はテンプレートを基にして,必要な制御情報などの埋め込 5.アプリケーションパッケージ 次に JAVA プログラミングを活用してアプリケーションをパッ み作業だけを行えばよい。表形式の Web 画面については,設定 ケージ化した例を示す。 画面でパラメータを指定するだけで,ボタンやテキストエリアな 5.1 遠隔監視ソリューション「eCUBE」 どのコントロールを含んだ画面を自動的に生成することができる。 コジェネレータなどの無人運転される設備を遠隔監視する 図3は,Gif ファイルの背景画像の上に,数値表示の部品を任意の eCUBE システムの構成を図5に示す。eCUBE ユニットは,設備 位置に HTML を記述し貼り付け作成したグラフィック画面例で および設備を制御する PLC からデータを収集してファイルに蓄 ある。 積する。eCUBE ユニットは,ISDN などのネットワークで eCUBE センタに接続されており,eCUBE センタは定期的に eCUBEユニットからFTPでファイルを取り込んでデータベース に格納する。現場のユーザは Web ブラウザで eCUBE ユニット にアクセスして設備の状態を確認できる。さらに,設備メーカの 保守担当者は eCUBE センタにダイアルアップ接続して長期保存 されたデータを確認できる。eCUBE ユニットは,警報を認識し てメールで通知したり,事故発生時に事故直前のデータを高速サ ンプリングで記録して事故原因の解析を支援する機能を備えてい る。以上の機能は全て標準化されており,設定ツールで定義する だけでシステムを構築できる。また,当社が保有する eCUBE セ ンタを ASP で利用できる。 図3 グラフィック画面 FCN/FCJ の制御実行エンジンはプロセス制御,シーケンス制 御の両方に対応している。プロセス制御では,制御実行エンジン がプロセスの状況変化を適宜メッセージとしてメモリに保存する。 E メールモジュールはこのメモリの内容を読み取り,プロセスの 状況をそのままメールとして発信することができる。一方,シー ケンス制御時は,警報の条件として,接点の ON/OFF や上下限 値による指定ができ,不感時間や警報ヒステリシスなど,細かな 判定動作の指定もできる。また,E メールの本文も警報の発生原 因ごとに用意することができる。 月刊計装 2007 年 3 月号 図5 eCUBE システム構成 2 5.2 送水二次ポンプ省エネソリューション「エコノパイロット」 6.最後に ビル空調における送水二次ポンプの電力を削減するエコノパイ PLC に情報発信機能を実装する仕組みと,情報発信機能を活用 ロットの原理を図6に示す。流量が減少すると吐出圧力は流量の したアプリケーションについて, STARDOM の自律型コントロー 二乗に比例して低減可能で,その場合のインバータの電力はモー ラ FCN/FCJ を例に紹介した。OA 用途を中心に普及したパソコ ターの特性上三乗に比例して減少することを利用した省エネシス ンを生産設備に利用する際の問題が顕在化している中で,PLC の テムである。FCJ の制御実行プログラムによって省エネ制御を行 担う情報処理機能の範囲が今後ますます拡大していくと思われる。 い,JAVA プログラムによって Web ブラウザによるパラメータ設 PLC の情報発信機能を強化し,長期間にわたって使用できる高信 定画面表示や省エネ量の計算処理を行っている。ネットワーク経 頼のシステムを,さまざまな分野で提案していく所存である。 由で Web ブラウザによるアクセスができるため,管理会社から 遠隔で省エネ運転状態の確認やパラメータ変更が可能で,最適な 省エネ運転を実現している。なお,本製品は平成 14 年度省エネ 大賞(資源エネルギー庁長官賞)を受賞した。 注) • ASTMAC ,InfoWell ,eCUBE ,エコノパイロット, InfoEnergy は横河電機(株)の登録商標である。 • STARDOM は商標である。 • その他,掲載の会社名,商品名称などは,各社の登録商標 または商標である。 カネコ・ヨシオ 横河電機(株) IA システム事業センター オープンシステム部 〒180-8750 武蔵野市中町 2-9-32 図6 エコノパイロットの省エネ制御(管路抵抗特性予測制御) 5.3 エネルギー管理システム「InfoEnergy」 InfoEnergy は,電力監視を中心としたエネルギー管理システム を FCN/FCJ で実現している。図7に概要を示す。RS-485 通信で 最大 124 台(31 台×4 系当) の電力モニタを接続し,アナログデー タや接点/パルスデータと併せて取込んだデータを帳票ファイル に編集して 5 年分の帳票ファイルを記憶する。 記憶したデータは, ネットワーク経由でパソコンの Web ブラウザで帳票やグラフと して表示できるほか,CSV ファイルとして取込むこともできる。 そのほかにも,最速 5 秒周期で記録するトレンドグラフ表示,E メールによるアラーム通知,グラフィック画面表示,デマンド監 視やスケジュール発停といった省エネ制御機能を備えている。こ れらの機能は全て,設定ツールで定義するだけでプログラミング レスで利用できる。 図7 InfoEnergy 概要 月刊計装 2007 年 3 月号 3
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