漁獲物の” 生 き“ の保持 に関する研究 一1(抄 録)*1

漁 獲 物 の” 生 き“ の保 持 に関 す る研 究 一1(抄
録)*1
マ ダ イ の死 後 硬 直 と貯蔵 温 度 との 関係
岩本 宗 昭 ・井 岡
久 ・斉藤 素 子 ・山 中英 明 貌
タ イ ・ ヒ ラ メ ・ハ マ チ な どの 高 級 魚 は そ の生 きの よ さ に よ って 評 価 さ れ,通
ン ク され る。 活 魚 の 流 通 に は 水 槽 に 生 か し た 状 態 で 取 引 さ れ る場 合 と,即
常活 魚が 最上 位 に ラ
殺 し て"生
きの 状 態"
(死 後硬 庫煎 の状 聾)に ある もの←対 象 とす る場 合が あ り,後 者 は活 魚(イ ケ ウオ)又 は活 け しめ魚
と通 称 され,京 阪神 な どの消 費地 市場 で は この活 け しめ 魚 によ る取 引 きが主 体 とな ってい る。 した
が って,産 地 か らこれ ら市 場へ 出荷 す る場 合 は,生
きの保 持 が可 能 で あれ ば必 ず し も水槽 に生 か し
た状態 で輸 送 す る必要 は な い。
魚体 の死 後 硬 直 を遅 らせ る要 因 と して は生理 条 件 ・致 死条 件 ・貯蔵 条 件 な どが あ げ られ る。 生理
条 件 では空 腹,疲 労 の状 態 が よ くない と され,致 死条 件 につ いて は苦 悶 死 魚の 方が 即殺 魚 に比 べて
硬直 が 早 く起 る こ とが知 られ て い る。 しか し,貯 蔵 温度 の 影響 につ いて は実 験 例 が少 な く,魚 種 に
よ って 様 々 な結 果 が 報告 されて お り,一 般 的 に は低温 に貯 蔵 した方 が 硬 直 が遅 く始 ま る と考 え られ
て い る。 ま た,流 通 の現 場 で も経 験 的 に各様 の処 理法 が行 われて い るが,長 崎県 な ど先進 の 産地 で
は即 殺 した 魚 を0℃ よ り高 い温 度 域 に維 持 して 出荷 し効 果 を上 げて い る。
そ こで,マ ダイ ・ヒ ラメ を用 いて 死後 硬 直 を埋 延 させ ろ条 件 の一 っ で あ る貯 蔵温 度 の影 響 につ い
て検射 して みた。
〔方
法)、 マ ダ イは養 殖 マ ダ イ2尾 を即殺 しラ ウン ドの ま ま0℃ と10℃ に貯 蔵 し,ヒ ラメは天
然 ヒラ メ1尾 を即 殺 して3枚 に卸 した の ち頭部 と尾 部 に2分 して4片 の筋 肉片 と し,一3℃,0℃
5℃,10℃
の4区 分に 分 けて貯蔵 した。一 定 時 間毎 に各試 験 区 の試 料 肉 を採 聖 して,死 後 硬直 の
化 学 的要 因 と され て い るATP*3の
残 存量 と乳 酸 蓄積 量 を測 定 す る とと もに,マ ダ ィに つ いて は硬
直 の進 行 状態 を観 察 した 。 な お,ATP関
に よ って 定 量 し,乳 酸 は Barker
連 化 合 物 は高速 液 体 ク ロマ トグ ラ フ(島 津LC-3A型)
-Sunnier
son
法 で 定量 した。 また,死 後 硬直 の強 さを尾藤 ら
の方 に準 拠 して測 定 し硬直 指 数 と して表 わ した 。
』
*1日
本 水 産 学 会 誌Vol51,Nb
*2東
京 水 産大 学
*3ア
デ ノ シ ン3燐
酸
.3(ig'85)葱
発 表 した。 一
一
〔結
果)マ
ダ ィ肉 のATPの
減 少 は0℃ 区 の方 が 速 や かで あ り,7時
13時 間 で 消失 した 。硬 直 は3時 間 後 にす で に進行 し,13時
区 はATPの
間 後 にATPは
半 減 し,
間 後 に完 全硬 直 に入 った 。 一方10℃
減 少 が緩 慢 で,硬 直 は7時 間 以降 か ら始 ま り20時 間 後 に完 全 硬 直 とな った。乳 酸は0
℃ 区 の方 が速.やかに増 加 し,そ れ と平 行 して硬 直 が進 行 し乳 酸 量 が最 高 値に 達 した時 点 で完 全 硬直
に入 った。10℃
区 で も乳酸 の生 成 と硬直 の進 行 は 並行 してい たが
生 成の 度 合 は0℃ よ り緩慢 で
あ った 。乳 酸の 生成 と硬直 の 進行 が並行 して い るの は,乳 酸 の 生成 即 ち解 糖 によ って 生成 したAT
Pが 硬 直 エ ネルギ ー と して補 給 された もの と考 えられ る。 鮮 度 指 標で あ るK値 は10℃ 区 の方 が0℃
区よ り各測 定時 点 で約2倍 高 い値 を示 したが,・48時 間後 で も10%以
下 であ り極 めて 新鮮 な 状態 を
示 す値 を維 持 した 。 ま た,呈 味成 分 で あ るイノ シン酸 は0℃ 区の方 が10℃
区 よ り速 や か に増加 し
た。
ヒラメの場 合 も一
一
一3℃,0℃
の低 温 貯蔵 区 の方 が5℃,10℃
区 に比べ てATPの
減少 が 速 やか
で,マ ダ イ と同様 な 頃 向 を示 した 。
上 記結 果 は鮮度化 学の 観点 か ら興 味あ る内容 で あ る と同時 に流 通現 場 の 経験 的知 見 を裏 付 け る も
の で あ る。 貯蔵 温 度 を調整 す るこ とに よ りあ る程 度 硬 直 の遅 延が 可 能 で あれば,そ れだ け 出荷 に要
す る時 間 も延 長 され,よ
り遠融 地 か らの 出荷 も期 待 出来 る。