全文(PDF) - 愛媛県産業技術研究所 紙産業技術センター

愛媛県産業技術研究所研究報告
No.49
2011
抄 録
柑橘精油の未利用成分を用いた貯穀害虫忌避紙の開発
西田典由,大井辰夫 *1 ,神野勝志 *2 ,森川敏行 *3 ,渡辺康夫 *4 ,市浦英明 *5 , 宮ノ下明大 *6
Development of Insect-repellent Papers with Unused Component of Citrus Essential Oil
Noriyoshi Nishida,
*1
Tatsuo Ohi,
*5
*2
Katsushi Jinno,
Hideaki Ichiura and
機能紙研究会誌
*6
*3
Toshiyuki Morikawa,
*4
Yasuo Watanabe,
Akihiro Miyanoshita
No.49, 73-78(2010)
キーワ ード:柑橘精 油、 貯 穀害虫 、忌 避 、コク ゾウムシ、天然物
貯穀害虫とは、穀物や穀物 加工品 などの乾燥食 品に被害
で求 められる数 値 であり、EPI の数 値 が小 さいほど忌 避 性 が
を与える害虫の総称である。貯穀害虫による食害や食品への
強いことを示す。
混入を防ぐためにさまざまな方法が検討されてきたが、いずれ
(2)試作紙成型品のバイオアッセイ
の方法も万能ではない。そこで、天 然物 (特 に精 油)の有する
忌避性を利用する方法を従 来の手法と組 み合わせることも着
目 されている。しかし、天 然 物 は一 般 に高 価 であることや、生
エアナイフ塗工法で試作した害虫忌避紙 については、段ボ
ールに成型したものについてもバイオアッセイを行った。
0.5
奉書紙
クラフトライナー
産量の変 動 が大きいという問 題 があり、これらが普 及を妨げる
一因となってきた。
そこで本 研 究 では、柑 橘 精 油 からリモネンを抽 出 した未 利
b
a
d
c
EPI
用 成 分 (Unused Component of Citrus essential oil、 以 後
0
a: グラビア塗工、UCC1g/m2
b: グラビア塗工、UCC0.5g/m2
c: グラビア塗工、UCC0.2g/m2
d: エアナイフ塗工、UCC1g/m2
UCC と略す)に着目した。UCC は数百t/年生じているため、
UCC が各 種 貯 穀 害 虫 に対 し忌 避 を示 せば、天 然 由 来 の忌
-0.5
避 成 分 を安 価 かつ大 量 に入 手 できることになる。また、廃 棄
物の有効活用にも繋がると言える。本研究では、UCC を紙に
担 持 させ、害 虫 忌 避 紙 を試 作することを目 標 とした。これらは、
-1
穀物袋や段ボールなどに応用することが可能である。
図1 試作紙のコクゾウムシに対する忌避性
実 験 方 法
結果と考察
1.害虫忌避紙の試作
(1) UCCの担体への担持
段 ボール原 紙 および奉 書 紙 に塗 工 した試 作 品 でのバイオ
UCCを一度多孔質担体に担持させた後、塗工法により害
アッセイ結果を図1に示す。試作害虫忌避紙 は、コクゾウムシ
虫忌避紙を試作することとした。本研究では、カキ殻を粉砕し
に対 し優 れた忌 避 性 を示 した。塗 工 量 が多 いほど忌 避 性 が
た物を多孔質担体として用いた。
強 まるが、特 に段 ボール原 紙 に塗 工 した場 合 、UCC塗 工 量
(2) 塗工試験
0.2g/m 2 でも忌避性を示した。
UCC担 持 担 体 をエ ア ナ イ フ 塗 工 法 に よ り 紙 に 塗 工 を
どの塗工量でも、奉書紙に比べ段ボール原紙のほうが高い
行った。
忌避性を示している。この理由は不明だが、段ボール原紙に
2. バイオアッセイ
含まれる多くの薬品(填 料や紙力剤 など)にUCCが保持され、
(1) 試作紙のバイオアッセイ
乾燥時の揮発が抑制されたためではないかと推測される。
バイオアッセイには、コクゾウムシ成 虫 を供 した。忌 避 性 の
段ボール箱に成型した試作 品でバイオアッセイを行った結
評価には EPI(Excess Proportion Index)を用いた。これは、試
果、EPI=−0.52を示した。このため、段ボール箱に成 型 し
料区に集まった虫数を ns、対照区に集まった虫数を nc とする
た後も、試作 紙は忌 避性 を示したと言える。 このことから、U
と、
CCを用 いて害 虫 忌 避 紙 を製 造 でき、さらに段 ボールなどに
EPI=(ns-nc)/(ns+nc)
加工することも可能であることが明らかになった。
*1 カミ商事(株) *2 日本ケミテック(株) *3 ヤスハラケミカル(株) *4(株)ヤスハラ
技術総合研究機構 食品総合研究所
この研究は、地域イノベーション創出研究開発事業(平成20∼21年度)の予算で実施した。
愛媛県産業技術研究所業績第18号
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*5高知大学農学部
*6(独)農業・食品産