80W 駆動の省エネロボットで、 人とロボットの共存環境を実現!

80W 駆動の省エネロボットで、
人とロボットの共存環境を実現!
∼一里塚を越えた安全ロボットの理想的な姿
「第 4 回 ロボット大賞」
(経済産業大臣賞)の栄冠に輝いた「安全・
快適に人と協働できる低出力 80W 駆動の省エネロボット」
。人とロ
ボットの協働を目指し、従来比 20 分の 1 の出力で動かせる画期的な
ロボットは、トヨタ自動車、オチアイネクサス、名古屋工業大学、首
都大学東京のメンバーが一丸となって開発した努力の賜物であった。
いのうえ
たけ お
井上 猛雄(テクニカルライター)
取材に応じてくれた開発メンバーの皆さん。トヨタ自動車(藤原弘俊氏、江里義憲
氏、村山英之氏)
、オチアイネクサス(落合金光氏、中野陽雄氏、石居賢治氏)。
本質安全の省エネロボットとの
協働作業で“カイゼン”を進める
この省エネロボットは、すでに 2010
年 1 月から愛知県のトヨタ自動車・高岡
ロボットを本当に駆動できるのだろうか?
外規定に該当することになる。
「そのため、
という声もありました」と、開発当時を振
この省エネロボットは産業用ロボットでな
り返るのはトヨタ自動車の藤原弘俊氏(組
く、従来のように工場内で安全柵を囲ん
立生技部 技術管理室 主幹)だ。
で、ロボットを隔離しながら運用する必要
工場第一ラインにおいて稼働している(写
省エネロボットで用いられている駆動
もなくなります」
(藤原氏)
。もちろん安全
真 1)
。毎秒 110mm というラインスピー
源のサーボモータは、出力 100W の市販
柵がなくなれば、設備スペースを狭くする
ドに対応できる速度と耐久性を確保した最
モータを 80W の特別仕様に変更してもら
ことができ、生産ライン長も短くなる。そ
新ロボットが生産性の向上に大きく貢献し
い、すべてのロボット軸に採用したもの
して生産ライン上で、人が安心してロボッ
ているのだ(写真 2 〜 5)
。このロボット
(写真 6)
。80W にこだわった理由は、本
のコンセプトは「人と協働できる」という
質安全の動力基準となるものだからだ。具
また同社の江里義憲氏(組立生技部 技術
言葉のなかに集約されているといえるだろ
体的に 80W 出力とは一体どのくらいであ
管理室 グループ長)は「
“カイゼン面”でも
う。
「協働」の「働」は“ニンベン”のついた
ろうか。1 馬力が約 735.5W であるため、
大きな効果を発揮できる」と、人とロボッ
「働」であるということ。そこには単純に
馬 1 頭分の 10 分の 1 ぐらいのパワーで
トの協働によるメリットについて指摘す
動く従来のロボットではなく、人との共存
あるとイメージすれば分かりやすいかもし
る。かつては産業用ロボットのみを集中的
環境下で稼働する安心・安全なロボットを
れない。
「労働安全衛生規則第 36 条第 31
にラインに配備して、自動化ゾーンを設け
追求してきたトヨタ自動車の不断の努力と
号」では、すべての原動機の出力が 80W
る時代もあった。しかし、ロボットを安全
熱い想いが込められている。
以下であれば、産業用ロボットの適用除
トと協働できるようになるわけだ。
同社では 20 年以上も前から、人とロ
ボットが協働できる環境を目指してきた。
しかし安全面での課題を解決することは、
なかなか容易なことではなかったという。
それが 80W というローパワーのモータを
導入できるようになったことで、
「協働」
という大目標の“一里塚”を越えたのだ。
「当初は、これほど小さなサーボモータで、
写真 1 トヨ
タ自動車・高
岡工場の第一
ラインで稼働
する省エネロ
ボ ッ ト。 ロ
ボットはライ
ン横の天井部
に設置してあ
る。
50
写真 2 省エネロボットがスペアタイヤをピッ
クアップしているところ。ロボットはピック
アップ時に垂直に移動する。
写真 3 スペアタイヤを搬送している省エネロ
ボット。ライン上で流れる自動車にあわせて
アームが水平に移動する。
写真 4 ロボットによって、重量 20kg ほどの
タイヤが自動車のトランク部に収納される。こ
こまではロボットで作業。
写真 5 ロボットの作業が終わると次工程へ。
安全・安心なロボットであるため、女性もライ
ン上で協働作業が可能だ。
ROBOCON Magazine 2011.3
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