様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成22年6月15日現在 研究種目:若手研究(スタートアップ) 研究期間:2008 ~2009 課題番号:20890302 研究課題名(和文) サイトカインシグナル伝達抑制分子(SOCS)の癌治療への応用 研究課題名(英文) De velopm entofcancerth erapyu sings uppres sorofcytoki nesignal ing (SOCS)m olecul es. 研究代表者 世良田 聡 (SE RADAS ATOSHI ) 医薬基盤研究所・基盤的研究部・免疫シグナルプロジェクト・研究員 研究者番号:50463302 研究成果の概要(和文): 前立腺癌、乳癌などの悪性腫瘍においてサイトカインシグナル伝達制御の異常と発癌や癌細 胞の増殖亢進との関係が明らかにされている。本研究では我々の研究室にて単離されたサイト カインシグナル伝達抑制分子である SOCS分子を用いた前立腺癌細胞特異的な治療法の開発を 試みた。SOCS3の遺伝子導入は前立腺癌細胞株(D U145,LNCaP) に対して優れた抗腫瘍効果を示 した。また、前立腺癌特異的膜蛋白質である PS MAを認識する抗体とナノ粒子を用いて前立腺癌 細胞株移植モデルマウスにて前立腺癌特異的な薬物送達システムも開発した。 研究成果の概要(英文): Dysregul ated cyt okine si gnalin g is assoc iated wi th develop ment and p rogres sion o f cancerssuchaspro statecan cerandbreas tca ncer.Inthisstud y,wee stabl ishedaprost ate cancer target ed th erapy usin g sup presso r of cyto kine si gnalin g (SO CS), a fa mily of negative regula tors of cytoki ne sign aling, previ ously clo ned in ou r labo ratory . We demonstr atedtha tSOCS3sh owedgro wthinhi bitiona ctivityinp rostat ecancerc ellline s (DU145,L NCaP)i nvitro.Wealsoestablishedaprostatecancer-specificdrugdelivery system us ing a m onoclo nal an tibodyagains t PSMA ,a prostat e canc er-spe cificantige n conjugat ednan oparti cleinvivo. 交付決定額 (金額単位:円) 2008年度 2009年度 年度 年度 年度 総 計 直接経費 1,340,00 0 1,200,00 0 間接経費 402,000 360,000 合 計 1,742,00 0 1,560,00 0 2,540,00 0 762,000 3,302,00 0 研究分野:免疫学 科研費の分科・細目:泌尿器科学 キーワード:サイトカイン、SOCS、癌 様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 1.研究開始当初の背景 サイトカインは細胞の分化・増殖・細胞死 などの生理機能を調節する分子である。近年、 前 立腺 癌、 乳癌 など の悪性 腫瘍 にお いて JAK/STAT経路にみられる S TAT-3の持続的活 性化のようなサイトカインシグナル伝達制 御の異常と発癌や癌細胞の増殖亢進との関 係が明らかにされている(Yos himuraA,Na ka T et al. 2 007 NatRev Im munolo gy)。これ らの事は STAT3を標的とした阻害剤が癌な ど難病治療において非常に効果的である事 を示唆している。実際に STA Tを活性化する キナーゼである JAKに対する低分子阻害剤が これまで開発され、invit roにおいて抗腫瘍 効果を示すことが報告されている。しかしな がら、JAKの低分子阻害剤は inv ivoにおい て正常細胞への重篤な副作用を示したため、 癌治療薬として臨床応用されるに至らなか った。そこで、サイトカインシグナル伝達の 抑制分子を標的とする癌細胞特異的に輸送 する手法を確立することが出来れば、正常組 織への副作用を抑えることが出来るため癌 の画期的な治療法になるものと期待される。 我 々 の 研 究 室 に て 単 離 さ れ た SOCS(sup presso rofcytoki nesigna ling) は JAK/STAT経路を阻害する分子であるが(Na ka Tetal.1997 Natur e)、細胞内に強制発現 させることで FAK(Foca l adhesi on kinas e) など様々なキナーゼを阻害する機能を持つ ことが明らかにされているため、SOCS分子は 優れた抗癌剤として利用できることが期待 される。従って、invivoで SOCS分子を遺伝 子の発現ベクターなどの形状で癌細胞特異 的に輸送し、癌細胞に SOCS分子を過剰発現 させる技術を開発することが出来れば、正常 細胞への副作用の少ない癌の新規治療法が 実現できると考えられる。 2.研究の目的 前立腺癌において、STAT-3の持続的活性化 が癌細胞の増殖亢進と関係していることも 明 ら か に さ れ て お り (Yu H, Jove R 20 04 NatureReview sCan cer)、SOCS分子は前立腺 癌に対する新規抗癌剤として有用できると 考えられる。また、前立腺癌は前立腺癌特異 的 膜 蛋 白 質 抗 原 と し て PSMA(P rosta te SpecificMembra neAnt igen) が発現している 事が知られている。そこで、PSMA陽性細胞特 異的な薬剤送達システム(DDS)を開発するこ とにより、静脈注射により癌細胞特異的な遺 伝子治療が可能となることが期待される。 本研究では S OCS3が前立腺癌に抗腫瘍効果 を示すことを明らかにする事、及び、PS MA陽 性細胞特異的な DDSの開発を目的とした。 3.研究の方法 (1)SOCS3による前立腺癌細胞増殖抑制効果 の解析 前立腺癌細胞株(D U145,LNCaP )に S OCS-3 遺伝子をアデノウイルスベクターにて導入 する事で、増殖抑制効果を MTTアッセイ法に て評価した。さらに、D U145,LNC aPにおける STAT-3の持続的活性化の阻害効果について もウェスタンブロット法にて確認した。抗腫 瘍効果についてはアポトーシスの誘導を評 価するため、cl eavedcaspas e-3の発現をウ ェスタンブロット法評価した。 前立腺癌膜抗原である PSMAを標的とした 前立腺癌特異的な D DSシステムを開発するた め、まず、DU1 45と LNCaPにおける PSMAの発 現の有無を F ACSにて確認した。 (2)前立腺癌特異的薬物輸送システムの開発 LNCaPを用いた前立腺癌移植モデルマウス を作成した。LN Cap細胞を PBSで懸濁し、3 倍容量の BDマトリゲルに懸濁して、細胞懸 7 濁液 1.0× 108 c ells/ml( 1×10 cell s/ 0.1ml/マウス)とした。細胞の移植は Balb /c nu/nu(オス、6週)の右側背部皮下に 3 0Gニ 8 ードル付シリンジで、0.1ml( 1×10 cell s/ ml)を注入した。腫瘍径の測定は細胞移植後、 7、14、2 1、25 、27、2 9日目に腫瘍の長径と 短径をデジタルノギスで計測した。腫瘍体積 の計算は以下の方法で行った。 腫瘍体積( mm3)=(腫瘍の長径×短径×短径) /2 生着条件を検討後、invivoでの前立腺癌 を標的とした DDSの開発を以下の通り行った。 抗体ラベリングキット (Cy5. 5)(住商ファー マインターナショナル (株))の説明資料に 従って、抗 PSMAモノクローナル抗体(M BL medical&Bio logica llabora tories )をリポ ソームに結合した。抗体ラベリングキット (Cy5.5) のリポソーム溶液 2mlのうち 1ml をリポソーム製造に使用した。 1. 抗体未修飾リポソーム (コントロー ル):300 μl 略名:C y5.5-L ip 2.抗 PMSA抗体結合リポソーム(500 ) :300 μl略名:PSMA -Cy5.5 -Lip(5 00) 抗 PMSA抗体の終濃度を 500 μg/mlとして 抗体結合反応を行った。 3.抗 PMSA抗体結合リポソーム(250 ) :300 μl:PM SA-Cy5 .5-Lip (250) 抗 PMSA抗体の終濃度を 250 μg/mlとして 抗体結合反応を行った。 Balb/cn u/nuに腫瘍移植後 25日後に抗体 未修飾 Cy5.5内包リポソーム、抗 PMSA結合 Cy5.5内包リポソーム(500 )、抗 PMSA結合 Cy5.5内包リポソーム(250 )をマウスの尾静 脈から投与した。各被験物質は 100μL/マ ウスで各々3匹ずつ投与した。 4.研究成果 (1)SOCS3による前立腺癌の増殖抑制効果 SOCSによる前立腺癌の治療法を開発する ため、まず前立腺癌細胞株における SOC S3の 抗腫瘍効果を検討した。SOCS 3をアデノウィ ルスベクター(AdSOC S3)により前立腺癌細胞 株 DU145と LNCaPに導入した結果、いずれに おいても対照の AdLac Zよりも著明な細胞増 殖抑制を示した(図 1)。 (図 1) 2-2)、SOCS-3 はこれらの細胞株において STAT3 の活性化を阻害することでアポトー シスを誘導し、抗腫瘍効果を示すことが判明 した。前立腺癌においては STAT-3 が癌細胞 の増殖亢進と関係していることが示唆され ているため、SOCS-3 は前立腺癌において抗 癌剤として有用であることを示している。 (図 2-1) DU145 1 2 3 LNCaP 4 5 1,4: No treatment 2,4: AdLacZ 3,6: AdSOCS3 6 ● AdSOCS3 DU145 ○ AdLacZ pSTAT3 120 % control 100 80 STAT3 60 40 20 0 0 20 40 60 80 100 (MOI) SOCS3 LNCaP 120 % control 100 GAPDH 80 60 40 20 0 0 20 40 60 80 (MOI) 100 (図 2-2) DU145 (2) SOCS3 による前立腺癌の増殖抑制機序の 解析 AdSOCS3 による前立腺癌の抗腫瘍メカニ ズムを調べた。ウェスタンブロット法にて STAT3 の リ ン 酸 化 を 評 価 し た 結 果 、 AdSOCS3 はホルモン非依存性前立腺癌細胞 株 DU145 において STAT3 の持続的活性化を 抑制した(図 2-1)。一方で、ホルモン依存性の LNCaP において STAT3 の持続的活性化が認 められなかった(図 2-1)。これらの結果、 SOCS3 は STAT3 が持続的に活性化している DU145 だけでなく、STAT3 非依存的に増殖 が亢進している LNCaP においても増殖抑制 効果を示すことが判明した。 SOCS-3 による抗腫瘍効果がアポトーシス に依存するかについて cleaved caspase-3 の 発現をウェスタンブロット法にて確認した 結果、DU145, LNCaP いずれにおいても SOCS-3 遺 伝 子 導 入 群 に て cleaved caspase-3 の発現が認められたことから(図 1 2 LNCaP 3 4 5 6 1,4: No treatment 2,5: AdLacZ 3,6: AdSOCS3 Cleaved caspase-3 SOCS3 GAPDH (3) FACSによる P SMA陽性細胞の解析 DU145と LNCaPについて、PSMAの発現の有 無を FACSにて解析した結果、PS MAは LNC aP にて発現が認められたが、DU 145では認めら れてなかった(図 3) 。 (図 4-1) (図 3) DU145 LNCaP PSMA (図 4-2) 腫瘍移植部位 Cy5.5-Lip PSMA-Cy5.5 -Lip(250) PSMA-Cy5.5 -Lip (500) 3 5 24hr 48hr 72hr 96hr MouseNo. 1 (図 4-3) 2 4 6 Photon/second (Ph/sec) (4) PSMA陽性癌細胞を標的とした i nvi voで の DDSシステムの開発 LNCaP細胞を Ba lb/cn u/nuの皮下に移植 させるために生着予備実験を行った結果、1 7 ×10 cells/0.1 ml/マウスが適している ことが明らかになった(図 4-1) 。 次に、da y25にリポソームを用いた 3種類 の Cy5.5標識ナノ粒子(1.PSMA抗体未標識 (Cy5.5-L ip)、2 . PSM A抗体 250mg/ ml標識 (PSMA-Cy 5.5-Li p(500))、 3. PS MA 抗 体 500mg/ml標識(PSMA -Cy5.5 -Lip(5 00)))を尾 静脈し(n =3)、2 4,48,72,9 6時間後の腫瘍 移植部位の蛍光強度を蛍光イメージング装 置: eXp loreOptix(ART社) 励起波長: 6 80 nm、蛍光波長: 700nmで計測した(図 4-2) 。 腫 瘍 部 位 の 蛍 光 シ グ ナ ル を photon count/se condの総量として評価を行った。リ ポソーム未投与の腫瘍部位の photoncou nt をバックグランドとして、リポソーム投与群 の photoncoun tから差し引いた。3個体の 平均値によりグラフを作成した(図 4-3)。 PSMA-Cy5 .5-Lip (500) は 、 PMSA-Cy5 .5-Lip (250) および Cy5.5Lipより も投与後 72時間で腫瘍への高い集積が確認 された。表面修飾のない Cy5.5-Lipおよび PSMA-Cy5 .5-Lip (500)の癌部位への集積は、 48時間をピークに徐々に減少する傾向が認 め ら れ た 。 Cy5.5 -Lip お よ び PSMA-Cy5 .5-Lip (500)の癌部位への集積は、 enhanced permea bility and re tenti on effect(E PR)効果によるリポソームの受動的 送達能に起因すると考えられる。 PSMA-Cy5 .5-Lip (500)においては、それらと は異なる挙動を示し、投与後 48時間から 72 時間での腫瘍集積量の減少は認められなか った。このことから、PSMA-C y5.5-L ip(50 0) においては、抗 PSMA抗体によるターゲティ ング効果が認められているのではないかと 考えられる。粒子の投与量を調製することで 腫瘍部位へのより効果的な集積が可能とな ると考えられる。今後、SOCS 3の遺伝子発現 ベクターなどを封入したナノ粒子を投与す ることで、LNCa Pの増殖抑制効果を invi vo で評価する事が期待される。 5.主な発表論文等 (研究代表者、研究分担者及び連携研究者に は下線) Kishimoto T, Naka T et al. (14 人中 4 番 目) Suppressor of cytokine signaling-1 ameliorates dextran sulfate 〔雑誌論文〕(計 8 件) sodium-induced colitis in mice. (1) Serada S, Naka T et al. (13 人中 1 番目) Int Immunol. 2008 ; (6):753-62. (査読有) iTRAQ-based proteomic identification of leucine rich alpha 2 glycoprotein (LRG) as a novel inflammatory biomarker in Ann Rheum Dis 2009 In Press (査読有) (2) Kim A, Enomoto T, Serada S, Naka T et al. (13 人中 3 番目) Enhanced expression of Annexin A4 in clear cell carcinoma of the ovary and its association with mesothelioma: Evaluation in comparison with mesothelin. Lung Cancer 2008 ;62(1):45-54. (査読有) (8) Nishikawa T, Hagihara K, Serada S, Naka Fujimoto M, Serada S, Naka T et al. (13 for Cytokine-Driven CRP Gene 人 中 3 番 目 ) Interleukin-6 blockade Expression. Journal of Immunology 2008 ;180(5):3492-501. (査読有) by the inhibition of inflammatory Th17 responses. Arthritis Rheum. 2008 ; 58: 3710-3719. (査読有) Serada S, Fujimoto M, Kishimoto T, Naka T et al. (15 人中 1 番目) IL-6 blockade inhibits the induction of myelin antigen specific Th17 cells and Th1 cells in experimental autoimmune encephalomyelitis. Proc Natl Acad Sci U 2008 ;105(26):9041-6. (査読有) S A. Takahashi T, Naka T, Fujimoto M, Serada S, Nishida T et al. (14 人中 4 番目) Aberrant Expression of Glycosylation in Juvenile Gastrointestinal Stromal Tumors. Proteomics clinical applications. 2008 ; (2):9: 1246-1254. (査読有) (6) tumor marker of malignant pleural c-Fos, STAT3, and HNF-1a is Essential suppresses autoimmune arthritis in mice (5) potentiating factor as a Transcriptional Complex Formation of 2009 ; 125(10):2316-22 (査読有) (4) M, Naka T et al. (16 人中 3 番目) T, Yoshizaki K et al. (10 人中 3 番目) chemoresistance to carboplatin. (3) Iwahori K, Osaki T, Serada S, Fujimoto Megakaryocyte autoimmune diseases. International Journal of Cancer (7) Horino J, Fujimoto M, Terabe F, Serada S, 〔学会発表〕(計3件) SeradaS ,NakaT.etal(6人中 1番目) Proteomi cs-bas edide ntific ationof leucinerichalph a2glyco protei n(L RG)as anovelbiomar kerasso ciatedwi thdisea se activityofin flamma torya utoimm une disorder s 第 39回日本免疫学会総会、1 2/2-12 /4、大阪 SoumaY,Serad aS,N akaT.etal(7人中 4番目) Anti-pro lifera tive eff ect of SO CS-1, -3 throughthesu ppress ionofJAK/S TAT andP38MAP Ksig nalin gpat hwaysingastr ic cancerc ells ECCO 15 - 3 4th ES MO Mult idisci plina ry Congress Internat ionale C ongres s Centr um Berl in (ICCBerlin ),Berlin ,German yfromSund ay 20toTh ursday24Se ptembe r2009 . IwahoriK,Ser adaS,NakaT.etal(5人 中 2番目) SOCS-3pro teinexh ibitspo tentant i-tum or activity in malig nant pleur al mesothel ioma 13thWor ldCon ferenc eonL ungCa ncer SanFrancis co,Calif ornia ,USA.31Jul yto 4August2009 〔産業財産権〕 ○出願状況(計1件) 名称:S OCS活性化剤を有効成分とする抗癌剤 発明者:仲 哲治、世良田 聡、岩堀 幸太、 藤本 穰 権利者:財団法人ヒューマンサイエンス振興 財団 種類:特許権 番号:特願 2 008-30 1919号 出願年月日:20 08年 11月 27日 国内外の別:国内 6.研究組織 (1)研究代表者 世良田 聡(セラダ サトシ) 研究者番号:504633 02 (2)研究分担者 ( ) 研究者番号: (3)連携研究者 ( 研究者番号: )
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