今月の注目指標 No.099-1(2006年6月29日) 自動車メーカーの中国展開の現状と市場予測 1.世界のなかの中国自動車市場 ・自動車販売の地域別需要をみると、中国市場は世界市場の約9%を占め、米国、日本に次ぐ世界 第3位の自動車市場である。2005年の中国新車販売台数は日本に肉薄しており、06年には日本を 抜いて世界第2位の自動車市場に成長すると見込まれる(図表1)。 ・車種別では、2003年以降、乗用車市場が著しく成長している(図表2)。 ・日米欧の主要メーカーは、外資出資規制のもと中国の大手企業集団と合弁生産会社を設立し、競 争を展開している(図表3)。 ・日系主要メーカーの中国戦略をみると、現地生産能力の増強投資を積極化するとともに、多様化 した中国市場の新規需要を掘り起こすため世界戦略車を相次いで投入している(図表4)。 ・乗用車の市場シェアをみると、2002年には独VW,GM等の欧米系メーカーがシェアの6割以上を 占めていたが、最近では、中国地場メーカー、韓国系メーカー等が台頭し、競争は激化している (図表5)。その結果、新車販売価格は02年以降低下傾向にあり、自動車メーカーの収益を下押し している(図表6)。 図表2 中国国内の四輪車販売台数 図表1 主要国の自動車販売台数推移 1,000 (万台) 2,000 600 (万台) 500 800 600 400 500 200 100 97 98 99 00 01 02 03 日本 中国 BRICs(除中国) 米国(右目盛) 0 05 年 04 0.8 0 0.6 0.8% 0.6% 152 0.5 107 117 86 97 74 86 102 121 98 99 00 01 327 272 397 乗用車 0.2% 176 02 03 トラック・バス 04 05 普及率(右目盛) (注)中国、インドは国産自動車販売台数 (出所)「FOURIN中国自動車調査月報」 (出所)「自動車年鑑」・「自動車産業ハンドブック」日刊自動車新聞 社・(社)日本自動車会議所、「FOURIN海外自動車調査月報」 図表3 中国自動車メーカーと外資系メーカーとの提携(合弁)状況 中 国 外資出資の上限50% 外資メーカーの提携先2社まで 江西晶河スズキ(2.7万台) GM '04販売台数 世界シェア 長安汽車集団 100% 50% 【14.2%】 オペル 34% サーブ 50% 重慶長安スズキ(9.1万台) 日 本 45.4% スズキ 35% 上汽GM五菱(29.2万台) 上海GM(32.5万台) 上海汽車集団 VW 99% 34% アウディ 30% 【同シェア8.2%】 上海VW(25.0万台) 一汽VW(24.0万台) 第一汽車集団 26.8% PSA 50% BMW 神龍汽車 天津一汽トヨタ (13.5万台) 華晨BMW 四川一汽トヨタ(1.0万台) 広州トヨタ 広州汽車集団 広州ホンダ(23.1万台) 本田汽車 東風ホンダ(2.6万台) 東風汽車集団 ルノー 東風汽車(15.8万台) 鄭州日産汽車(0.8万台) 35%(1996.4) フォード 【同シェア10.7%】 100% ダイムラークライスラー 【同シェア7.1%】 42% 旧クライスラー 50% ダイハツ 51.2% 45% トヨタ 【同シェア11.6%】 50% ホンダ 50% 日産 28.3% 30% 日産ディーゼル 15% (2006.4) 長安フォードマツダ 北京現代(23.4万台) 日野 50.1% 65% 50% 東南汽車 合併 8.7% (2005.10) 富士重工 45% ボルボ 湖南長豊(2.4万台) 20% マツダ 25% (2006.4) 三菱 15% 現代※ 北京汽車集団 北京ベンツ(2.5万台) (備考) 各種資料を基に作成。括弧内は05年乗用車販売台数、%は出資比率。 0.4% 0.0% ドイツ 米国・欧州 1.2% 1.0% 180 168 0.7 300 200 0 0.9 400 1,000 179 1.1 1,500 日本:585万台 中国:576万台 1.4% 1.3 三菱ふそう ※韓国メーカー 今月の注目指標 No.099-2(2006年6月29日) 図表4 主要メーカーの中国展開の状況 生産 稼働 主な販売車種 能力 年 (万台) 第一(上海) 1985 【ベーシックカー】ポロ 第二(上海) 1992 45 【小型車】サンタナ2000、ゴルフ 上海VW 78億元 VW 【中型車】パサート 第三(上海) 2000 【高級車】Audi A6/A4 一汽VW 37.1億元 吉林省長春 1995 33 【小型車】ジェッタ、ボーラ、ゴルフ 【高級車】Buick Royaum 【中型車】Regal 上海GM 15.2億US$ 上海 1998 36 【小型車】Excelle、Sail、S-RV GM 広西チワン族自治区 2002 上海GM五菱 − 20 【ベーシックカー】Chevrolet Spark 四川省成都 2000 1.3 【SUV】ランドクルーザープラド 【バス】コースター 四川一汽トヨタ 0.67億US$ 吉林省長春 2003 1 【SUV】ランドクルーザー 【小型車】プリウス 第一(天津) 2002 12 【小型車】VIOS・カローラ トヨタ 天津一汽トヨタ 4.08億US$ 第二(天津) 2005 10 【高級車】クラウン 【中型車】マークX 【中型車】カムリ 広州トヨタ 173億円 広東省広州 2006 10 【ベーシックカー】ヴィッツ(予定) 鄭州日産汽車 2.5元 河南省鄭州 1995 6 【SUV】パラディン 【商用車】トラック(3t) メーカー 日産 合弁会社 東風汽車 1.4億US$ 0.98億US$ 6.8億元 マツダ 長安フォードマツダ 0.98億US$ 三菱 湖南長豊 3.2億元 重慶長安スズキ 0.7億US$ スズキ 江西晶河スズキ 1.55億US$ 現代 工場立地点 広東省広州 2003 15 湖北省襄樊 2003 10 167億元 広州ホンダ ホンダ 資本金 東風ホンダ 本田汽車 北京現代 広東省広州 1999 24 湖北省武漢 広東省広州 重慶 湖南省長沙 四川省重慶 12 5 15 9 10 10 6 2004 2005 2003 1996 1995 江西省景徳鎮 1998 江西省九江 2005 27.1億元 北京 2002 30 中国における各メーカーの戦略 ○ 07年にチェコ子会社の「シュコダ」ブランドを 生産予定 ○ 生産拡大への投資は行わず、設備稼働率 を向上させることで生産増に対応 ○ GM大宇の車をベースにした低価格の小型 車をBuick、Chevoletのブランドで投入 ○ 07年に広州で世界戦略車「ヴィッツ」を生産 予定 ○ 2010年にシェア10%を目標 ○ 成都工場の能力増強、天津第三工場 稼働等により現地生産能力を増強予 定(0 5年: 29 万台→08 年:6 9万台) ○ 07年に2車種、08年以降も新車投入予定 ○ 広州の新型エンジン工場の稼働(06年3 【小型車】サニー、ティーダ 月)、広州工場の能力増強(06年末)によ り、現地生産能力を増強 【中型車】ティアナ、ブルーバード ( 05 年:3 1万台→0 8年:61 万台) 【中型車】アコード 【ベーシックカー】フィットサルー ○ 世界戦略車「シビック」を06年に生産開始 ン、フィット 【MPV】オデッセイ ○ 広州の新工場稼働(06年予定)、東風の工 場の能力増強等により現地生産能力を増 【小型車】シビック 【SUV】CR-V 強(05 年: 27万台→08年:4 8万台) Jazz(輸出用) ○ 07年南京新工場でMazda2(デミオ)投入予定 【小型車】Mazda3 【SUV】パジェロ、パジェロイオ、パジェロCK ○ 07年までに三菱ブランドを7車種投入予定 ○ 江西省九江市の新エンジン工場の稼働、 【ベーシックカー】アルト、カルタス、スイフト 中国メーカーを傘下に組み入れるなど現地 【MPV】ワゴンR 【小型車】エリオ 生産能力を増強 【商用車】キャリイ、エブリ ○ 北京現代の第二工場を08年に稼働し、60 【中型車】Sonata 【小型車】Elantra 万台体制に増強 【SUV】Tucson (備考) 各社HP、FOURIN「日本自動車産業の2015年中国事業展望」、(株)アイアールシー「中国自動車産業と日本メーカーの事業戦略2004年版」及び新聞報道等を基に作成 図表5 中国の乗用車市場シェア 2002年 一汽轎車, 2.4% 奇瑞, 4.5% 天津一汽夏利, 8.5% 2005年 上海GM, 8.2% 中国その他, 13.6% 上海VW, 25.5% 韓国系その他 北京現代 上海VW, 6.3% 吉利控股集団, 3.8% 広州ホンダ, 5.3% 一汽VW, 6.0% 奇瑞, 4.8% 欧米系その他 天津一汽夏利, 4.8% 一汽VW, 18.8% 重慶長安スズキ, 5.8% 神龍, 7.6% 上海GM, 9.9% 哈飛, 5.2% 広州ホンダ, 5.8% 長安, 6.2% 2002年 63.7% 14.9% 0.3% 18.8% 欧米系 日系 韓国系 中国系 日系メーカー 中国メーカー 韓国系メーカー 2005年 34.9% 17.9% 8.7% (出所) マークラインズ(株) 38.3% 図表6 CITROEN 1.6AXCの販売価格推移 (元) 140,000 130,000 120,000 110,000 100,000 90,000 80,000 70,000 02/1 7 03/1 東風日産, 4.0% 日系その他 天津一汽 トヨタ, 3.4% 欧米系メーカー (備考)CEICデータより作成 上海GM五菱, 7.3% 7 04/1 7 05/1 7 06/1 (年月) 今月の注目指標 No.099-3(2006年6月29日) 2.中国自動車市場の展望と課題 ・地域別の普及率をみると、所得が高い沿海部ほど高くなっており、所得と普及率には正の相関 がみられる(図表7)。 ・日中韓の普及率の推移をみると、日本は1960年頃、韓国は1980年頃、中国は2000年頃に黎明期 に入り、その後、日本は1964年の東京オリンピックを、韓国は1988年のソウルオリンピックを 契機に高速道路などのインフラが整備され、所得が向上した結果、マイカーブームが起きて普 及期に突入した(図表8)。 ・日本、韓国、中国の自動車産業普及期の一人あたり実質GDP水準と普及率のデータを用い、 地域格差など中国固有の事情を勘案した普及率の予測モデルを推定し、自動車販売台数の予 測を行ったところ、実質GDP成長率を2006年∼10年を9%と仮定するベースケースで2010年 に808万台と推計された(図表9)。 ・中国の自動車需要が予測通りに拡大するためには、①中間層の拡大と所得向上、②販売網の拡 充とサービス水準の改善、③高品質の小型低価格車の開発が条件となる。また、自動車産業が 社会と調和し、発展していくためには、①環境問題への対応、②交通マナー改善による交通事 故削減、③知的財産権の保護などの課題がある(図表10)。 図表7 省市別普及台数 図表8 1人あたりGDPと乗用車普及率 (日・中・韓) 乗用車普及率 乗用車普及率 1975 14% 15% ◆沿海部 ◆その他 10% 1995 日本(1960-75) 韓国(1980-95) 中国(沿海部)(2000-10) 中国(内陸部)(2000-10) 北 京 12% 10% 8% 6% 2004 2.2% 2004 0.9% 天 津 上 海 広 東 4% 河 北 2% 2008 山 東 江 蘇 福 建 1988 甘 粛 0% 0 10000 5% 浙 江 0% 20000 30000 40000 1人あたりGDP(元) 50000 (備考)中国統計年鑑より作成 60000 0 2000 1980 1960 2,000 1964 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 1人あたり実質GDP($) (備考)中国の2005年以降は政投銀予測 図表9 中国市場予測 ①日本(1960年∼80年)、韓国(1980年∼2000年)、中国(2000年∼2004年)の一人あたり実質GDP水準と普及率のデータに中国固 有の事情(地域格差・割安な元相場)を加味した普及率の予測モデルを推定(沿海部と内陸部を分離して推定) ②以下の主要な前提のもと販売台数を産出 【実質GDP成長率】 2006年∼2010年:9% 沿海部・内陸部別 【人口成長率】 2006年∼2010年:0.93%/年 に普及率を予測 【平均使用年数】 10年 【輸出成長率】 韓国の1980年∼95年の輸出台数増減率推移勘案 ③推計結果 ベースケース(上記前提) 2005実績 2010予想 乗用車 397 593 商用車 179 215 (万台) 合計 572 808 買換需要・輸出を勘案 し、販売台数予測 ダウンサイドケース(2006∼10年GDP成長率7.5%) (万台) 乗用車 商用車 合計 2005実績 397 179 572 2010予想 514 207 720 【参考①】 中国汽車工業協会目標 2010年900万台 【参考②】 素材産業への影響 (ベースケース) 2005年→2010年 自動車向け鋼材需要231万トン/年増加 (1370kg×(808万台−572万台)×71.5%(鋼材平均重量比)=231万トン) 自動車向け樹脂需要27万トン/年増加 (1370kg×(808万台−572万台)×8.2%(樹脂平均重量比)=27万トン) (注)日本における自動車産業向け鋼材需要(普通鋼+特殊鋼)は1,529万トン(2005年、日本鉄鋼連盟調) 今月の注目指標 No.099-4(2006年6月29日) 図表10 中国自動車産業の課題 自動車需要拡大の条件 自動車産業が発展するための課題 ①中間層の拡大、所得向上 ①環境問題への対応(図表13) ②販売網の拡充、サービス水準改善 ②交通マナー改善による交通事故削減(図表14) ③高品質の小型低価格車の開発(図表11・12) ③知的財産権の保護 図表11 日本の自動車普及期における自動車 図表12 出荷台数上位30車の価格分布(中国) の年収倍率 (単位:円) 1965 1966 1967 1968 1969 1970 乗用 車普 及率 2.2% 2.9% 3.8% 5.1% 6.8% 8.5% 発売された 小型大衆車 定価 A ファミリアクーペ1000 カローラ1100 ファミリア1000DX サニークーペ1000 コルト11Fカスタム カローラクーペDX 648,000 450,000 498,000 500,000 498,000 537,000 1人あたり 年収 可処分所 倍率 得(年)B A/B 173,050 3.7 191,861 2.3 213,933 2.3 243,103 2.1 277,219 1.8 318,874 1.7 価格 2004 2005 30万元超 20万元∼30万元 10万元∼20万元 5万元∼10万元 5万元以下 1 6 12 9 2 代表的な車名(メーカー、価格) 1 1 13 11 4 Audi A6 (一汽VW、32.8万元∼) Teana (東風日産、24.98万元∼) Elantra (北京現代、11.28万元∼) Jetta (一汽VW、9.78万元∼) QQ (奇瑞、2.98万元∼) (備考)FOURIN「中国自動車調査月報」より作成 (備考)櫻井清「日本自動車産業の発展」、総務省「家計調査報告」より作成 【参考】中国沿海部・都市部の1人あたり実収入:2004年11,307元→2010年(予想)21,321元 (注)1元=14.2円(2006.6.12現在) 図表13 CO2、SO2発生量の推移(中国) 図表14 交通事故死亡者数の推移(中国) (百万トン) 4,000 (万トン) 2,400 (万人) 12 3,000 2,200 10 8 2,000 2,000 6 4 1,000 CO2 SO2(右目盛) 1,800 0 1,600 (年) 2000 2001 2002 2003 2004 (備考)中国国家環境保護局「環境統計年鑑」、OECD FACTBOOK 2006より作成 2004年自動車1万台あたり交通事故死亡者数 中国 日本 2 0 2000 2001 2002 61.7人 1.3人 2003 2004 (年) (備考)中国統計年鑑より作成 【参考】外資メーカーによる主な自動車生産拠点 ⑰ ⑥ ① ⑨ ② ④ ⑤ ⑮ ⑭ ⑪ ⑯ ⑬ ⑧ ⑩⑫ ①一汽VW ②上海VW ③上海GM ④上海GM五菱 ⑤四川一汽トヨタ ⑥天津一汽トヨタ ⑦広州トヨタ ⑧東風日産 ⑨鄭州日産 ⑩広州ホンダ ⑪東風ホンダ ⑫本田汽車(輸出) ⑬湖南長豊 ⑭重慶長安スズキ ⑮重慶フォードマツダ ⑯江西晶河スズキ ⑰北京現代 [調査部(経済調査担当)和田 敬記、(産業調査担当)寺崎 友芳] ______________________ お問い合わせ先 日本政策投資銀行調査部 Tel: 03-3244-1840 E-mail: [email protected]
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