資 料 特殊環境用直動軸受について 鶴 和夫 Linear Motion Bearings for Extreme Special Environment K. TSURU Koyo EXSEV Bearings are widely used in special environment such as semiconductor and LCD. equipment. This paper presents particle life test results of linear ball bearings and linear ball guides, which are belong to linear motion bearings. Four kinds of linear ball bearings were used for the particle life tests (A : Clean Pro3 on the whole surface of bearings, B : PTFE coating on retainer, C : Ag ion-plating on balls, D : No lubricant). The test results show that the particle life order is A which is the longest life and B, C, D sample. Three kinds of linear ball guides were used for the particle life test (A : Clean Pro3 on the whole surface of bearings with ceramic balls, B : Clean Pro3 on the whole surface of bearings with stainless steel balls, C : No lubricant). The test results show that the particle life order is A which is the longest life and B, C sample. Clean Pro3 linear bearing, as well as Clean Pro3 ball bearing, shows the longest life under particle test. 1.はじめに 2.直動軸受の種類と構成 3.リニア玉軸受の発塵性能について 3.1 試験方法 3.2 試験用リニア玉軸受 3.3 試験結果 1.はじめに 4.リニアボールガイドの発塵性能 について 4.1 試験方法 4.2 4.3 試験用リニアボールガイド 試験結果 5.おわりに 2.直動軸受の種類と構成 当社では,他社に先駆けて特殊環境用転がり 要素を商品化し (EXSEV軸受シリーズ) ,その高 性能化,改良に取り組んでいる. 転がり要素の一つである玉軸受については, 当社で現在商品展開中の直動軸受の種類と構 成の代表例を表1に示す2)∼5). 軌道部や玉の材料としては基本的にはマルテ ンサイト系ステンレス鋼 (SUS440C) が使用され 半導体・液晶製造装置をはじめ繊維,化学,薬 るが,高温用,耐食用および非磁性用途には, 品,医療,食品関係などを含めた最先端技術分 セラミックなどが使用される場合もある. 1) 野に広く実績を築いてきた . 現在,これらの豊富な経験と実績をもとに直 動軸受要素へも展開推進中である. 保持器,側板の材料としてはオーステナイト 系ステンレス鋼や樹脂が使用される. 潤滑剤としては真空用 (低発塵) グリースと固 ここでは,現在対応中の直動軸受の代表例と 体潤滑剤があり,固体潤滑剤としてはPTFE,二 大気雰囲気中での発塵性能 (リニア玉軸受とリニ ,銀 (Ag) ,特殊ふっ素高 硫化モリブデン (MoS2) アボールガイド) について紹介する. 分子 (クリーンプロ処理,当社開発の処理) 等が 使用される6), 7), 8). KOYO Engineering Journal No.154 (1998) 59 資 料 −特殊環境用直動軸受について− 表1. 直動軸受の種類と構成例 Examples of EXSEV linear motion bearings components ◆リニア玉軸受 品 材 料 潤滑剤 外 筒 部 SUS440C 特殊ふっ素高分子 玉 SUS440C,セラミックス PTFE,MoS2 保 持 器 SUS304 Ag 側 SUS304 低発塵グリース 板 SUS440C 軸 ◆リニアボールガイド 部 品 材 料 潤滑剤 ブロック SUS440C 特殊ふっ素高分子 レ ー ル SUS440C PTFE,MoS2 玉 SUS440C,セラミックス Ag SUS304,樹脂 低発塵グリース 側 板 ◆リニアローラウエイ 部 品 材 料 潤滑剤 レ ー ル SUS440C 特殊ふっ素高分子 ロ ー ラ SUS440C PTFE,MoS2 リテーナ SUS304 低発塵グリース Ag ◆ボールスプライン 部 品 材 料 潤滑剤 外 筒 SUS440C 特殊ふっ素高分子 玉 SUS440C,セラミックス PTFE,MoS2 樹 脂 Ag リテーナ SUS304 低発塵グリース 軸 SUS440C 側 板 注)セラミックスはSi3N4を示す. 3.リニア玉軸受の発塵性能について 直動軸受のうち,リニア玉軸受について大気 クリーンエア 雰囲気中での発塵量を比較評価した. 3.1 試験方法 9) 試験軸受 アクリル材のケース 軸 ハウジング 発塵試験装置の概略を図1に示す.ハウジン グの自重と重錘によりラジアル荷重を与えた1 個の試験リニア玉軸受をモータにより往復運動 重錘 させ,リニア玉軸受からの発塵をパーティクル カウンタで計測できる構造となっている.パー ティクルカウンタは光散乱方式のもので,0.3μ m以上の粒子径のものを計測できる. 試験条件を表2に示す.各試験軸受とも発塵 寿命 (発塵粒子数が1 000個/0.1cf以上となった 支持板 支持板 時点) に至るまで試験を行ない比較評価した.試 パーティクルカウンタ 験装置はクラス10のクリーンベンチ内に設置さ 図1 試験装置概略図 Test equipment れており,試験軸受以外からの発塵がほとんど なく試験結果に影響を与えないことを事前に確 認した. 60 KOYO Engineering Journal No.154 (1998) 資 料 −特殊環境用直動軸受について− 表2 試験条件 Test conditions SESDM10ST5 (φ10×φ19×29) 雰 囲 気 大気 (クラス10) 荷 度 室温 重 50N(ラジアル) 最大接触面圧 2 000 MPa 移 30mm/sec 動 速 度 3.2 定 40 20 :SESDM10ST (内径10) :大気 (クラス10) ,室温 :50N (ラジアル) :30mm/sec :90mm 30 65 4 1 0 90mm 外 筒 SUS440C 粒子径0.3μm以上 玉 SUS440C 保持器 SUS304 ス ト ロ ー ク 測 60 発塵寿命比 試験軸受 温 試験軸受 雰 囲 気 荷 重 移動速度 ストローク 80 試験用リニア玉軸受 試験用リニア玉軸受の仕様を表3に示す.軸 SUS440C SUS440C +Ag SUS304 SUS440C SUS440C SUS304 +PTFE SUS440C +特殊ふっ素高分子 SUS440C +特殊ふっ素高分子 SUS304 +特殊ふっ素高分子 図2 リニア玉軸受の発塵寿命 Comparison of particle life ratio of linear ball bearings 受は潤滑剤を使用しない脱脂した無処理軸受と 固体潤滑剤 (特殊ふっ素コーティング,PTFE, Ag) を使用した3種の合計4種とした. 外筒,玉に使用したステンレス鋼はマルテン サイト系,保持器に使用したステンレス鋼はオ 以上のように,リニア玉軸受においても発塵 性能は玉軸受と同様の傾向を示し,ここでもク 7), 8) リーンプロ処理の優位性が確認された . 4.リニアボールガイドの発塵性能について ーステナイト系である. 直動軸受のうち,リニアボールガイドについ 表3 試験軸受の構成と潤滑剤 Components material and lubricant of linear ball bearings 軸受構成 試料№ 1 2 3 4 外筒 玉 保持器 SUS440C+ SUS440C+ SUS304+ 特殊ふっ素高分子 特殊ふっ素高分子 特殊ふっ素高分子 SUS304 SUS440C SUS440C +PTFE SUS440C SUS440C SUS304 +Ag SUS440C SUS440C SUS304 て大気雰囲気中での発塵量を比較評価した. 4.1 試験方法 8) 試験方法はリニア玉軸受の場合とほぼ同様で 潤滑剤 特殊ふっ素 高分子 PTFE あるが,試験装置と粒子径0.1μm以上の発塵が 測定出来るパーティクルカウンタを使用したこ とが異なる. 試験条件を表4に,発塵試験装置の概略を Ag 図3に示す.ブラケット自重によりモーメント 無処理 (ドライ) 荷重を与え,ステップモータとベルトにより2 個のリニアボールガイドブロックを往復運動さ せ,リニアボールガイドからの発塵をパーティ 3.3 試験結果 クルカウンタで計測できる構造となっている. 発塵寿命比較結果を図2に示す. 玉にAg ( 銀) のイオンプレーティングを施した 表4 試験条件 Test conditions リニア玉軸受は無処理のものと比べて4倍の発 塵寿命を示した. 試験軸受 3NCLGBK9L2PR/300 (レール幅9mm,玉セラミック) 雰 囲 気 大気(クラス10) 温 度 室温 荷 重 10N (モーメント) 玉にAgをイオンプレーティングした軸受に比 べ,PTFE (焼付け法) を保持器に処理したリニア 玉軸受の発塵寿命は約30倍と良好な発塵性能を 示した. さらにクリーンプロ処理 (特殊ふっ素高分子) したリニア玉軸受はPTFE処理したものに比べ て,発塵寿命は約2倍以上と極めて良好な発塵 寿命を示した. KOYO Engineering Journal No.154 (1998) 移 動 速 度 130mm/sec ス ト ロ ー ク 160mm 測 定 粒子径0.1μm以上 61 −特殊環境用直動軸受について− 資 料 アイドラ 駆動プーリ 従動プーリ ベルト 試験ガイド ブラケット レール ステップモータ ブロック 図3 試験装置駆動部 Test equipment 4.2 試験用リニアボールガイド 試験用リニアボールガイドの仕様を表5に示 250 す.軸受は潤滑剤を使用しない脱脂した無処理 200 したガイド2種の合計3種とした. ブロック,レール,玉に使用したステンレス 鋼はマルテンサイト系,転動体に使用したセラ 発塵寿命比 ガイドと固体潤滑剤 (クリーンプロ処理) を使用 試験軸受 :3NCLGBK9L2PR/300 (レール幅9mm,長さ300mm) 雰 囲 気 :クラス10,室温 荷 重 :10N (モーメント) 移動速度 :130mm/sec 150 100 ミックスはSi3N4である. 35 50 側板は樹脂とした. 1 表5 試験軸受構成と潤滑剤 Components material and lubricant of linear ball guides 試験軸受構成 試験軸 試料№ ブロック 1 レール SUS440C SUS440C 220 玉 側板 潤滑剤 Si3N4 樹脂 特殊ふっ素 高分子 2 SUS440C SUS440C SUS440C 樹脂 特殊ふっ素 高分子 3 SUS440C SUS440C SUS440C 樹脂 無処理 (ドライ) 0 レール・ ブロック 玉 潤滑剤 SUS440C SUS440C SUS440C SUS440C Si3N4 SUS440C (ドライ) 特殊ふっ素高分子 特殊ふっ素高分子 無潤滑 図4 リニアボールガイド発塵寿命 Comparison of particle life ratio of linear ball guides 以上のように,リニアボールガイドにおいて も玉軸受の場合と同様に,クリーンプロ処理の 4.3 試験結果 発塵寿命に至るまでの全発塵量比較結果を 図4に示す. クリーンプロ処理 (特殊ふっ素高分子) したリ ニアボールガイドを無処理品と比べると,転動 体がステンレス鋼のものは発塵寿命が約35倍, 転動体がセラミックスのものは,発塵寿命が約 優位性が確認され7),転動体をセラミックスにし たものはステンレス鋼製に比べ約6倍の発塵寿 命を示した. 5.おわりに 特殊環境用直動軸受の構成と性能の一例につ いて簡単に紹介した. 220倍と極めて良好な発塵寿命を示した. 62 KOYO Engineering Journal No.154 (1998) 資 料 −特殊環境用直動軸受について− 直動軸受の場合においても,玉軸受の場合と 同様クリーンプロ処理品は低発塵で長寿命性を 示すことが確認できた. 今後,さらに試験を行なってデータの充実を はかり,改良・長寿命化を進めて行く所存であ る. 参考文献 1)光洋精工 (株) :EXSEVベアリング特殊環境 用軸受シリーズCAT NO. 293. 2 ) 光 洋 精 工( 株 ): 特 殊 環 境 用 リ ニ ア 玉 軸 受 CAT NO. 103. 3)光洋精工 (株) :特殊環境用リニアボールガ イドCAT NO. 104. 4)光洋精工 (株) :特殊環境用リニアローラガ イドCAT NO. 105. 5)光洋精工 (株) :特殊環境用リニアローラウ ェイCAT NO. 106. 6)KOYO Engineering Journal,145 (1994) 8. 7)光洋精工 (株) :EXSEVベアリング CLEAN 3 PRO ベアリングCAT NO. 107. 8)クリーンプロベアリング:KOYO Engineering Journal,152 (1997) 85. 9)山元賢二,林田一徳,豊田泰:KOYO Engineering Journal,145 (1994) 117. 筆 者 鶴 和夫* K. TSURU * KOYO Engineering Journal No.154 (1998) 軸受事業本部 EXSEV推進室 63
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