水稲育苗ハウスを利用したブドウのアーチ栽培技術

Ⅲ.水稲育苗ハウスを利用したブドウのアーチ栽培技術
1.樹形完成(3年)まで
・
目冬
標季
とせ
すん
る定
主で
枝
長
で
せ
ん
除
・
棚
面
に
5 棚
0 面
に
6 誘
0 引
c で
m き
る
全程
体度
での
約長
2 さ
m
・
棚
面
ま
で
1
5
0
(
~
~
、
芽
を傷
実処
施理
1
7
0
c
m
・主枝延長枝以外は着房可能
・発生する新梢は
30cm間隔で配置
)
植え付け時
(植付後、3芽に切詰め)
2年目夏
(一般管理は短梢無核栽培に準ずる)
1年目冬
図 10
定植2年目までの樹形イメージ
1)定植
植栽計画に従い苗木を植え付けます。苗木の植え付けは 11~12 月頃になりますが、積雪
があり土壌条件が悪い場合は消雪を待って植え付けます。植え穴はハウス部材が近いので
幅 30cm 深さ 30cm 程度で十分です。植え付け時には堆肥を混和して埋め戻します。
植え付けた苗木は初期生育を確保するため、3芽に切り詰めます。 参考資料 図 38
600
苗木1年枝長(cm)
500
503
3芽
10芽
400
300
200
100
0
5
34
植え付け時
図 11 3芽で切り詰めて植栽した苗木
452
図 12
- 11 -
1年目落葉後
植え付けた苗木の生育状況(ピオーネ)
切り詰めた切り口には保護剤を必ず塗布しましょう。切り詰めた苗木は植え付け当初貧
弱に感じますが発芽後は順調に生育し5m程度まで伸長します。
2)定植1年目
(1)発芽後の管理(4月)
主芽
定植後のブドウ苗木は、水稲育苗中に発芽してき
副芽
ます。1 つの芽の中にも主芽と副芽がありますが、
芽がふくらみ判別できるようになったら、主芽を
残し副芽はかきとります。その後、葉数3~4枚
目までに、発芽した芽のうち生育良好なものを1
芽選び、残りは切除します。ハウスの被覆時期に
先端
図 13 芽かきが可能なら実施
より発芽の早さが多少異なりますが、3月下旬被覆の場合、4月中旬には発芽し育苗
終了時には新梢長35cm程度、葉数5枚程度まで生育します。発芽した枝を欠かな
いように随時枝をパイプ支柱に沿って誘引します。新梢の誘引作業はサイドを開けて
ハウスの外側から行うと水稲育苗箱があっても誘引することができます。
水稲育苗期間中のハウス温度管理は基本的に水稲育苗に従いますが、水稲出芽期の高
温管理がブドウの発芽期と重なりますので、特に1年目はハウス内温度が過度な高温
にならないよう注意するとともに、ブドウの生育をよく観察します。
(2)水稲育苗箱搬出後の管理(5月)
水稲育苗箱搬出後に本格的にブドウの管理作業を
行います。伸びてきた新梢はねじれないようにパイプ
支柱に沿って誘引します。棚面まで到達したら水平に
誘引し、まっすぐに伸ばしましょう。樹勢が旺盛だと
副梢の発生が多くなります。そのまま放任すると強勢
副梢の葉を 1~2 枚残し
て切除
となり主枝の生育を妨げますので、大きくならないう
ちに1節残して切除します。
ブドウ定植1年目の水稲育苗ハウスは育苗終了後
に除覆します。除覆することにより主枝の伸長と充実
を図ります。
参考資料
表6
- 12 -
図 14 副梢の切除
(3)せん定(12月)
参考資料
表6
落葉後、11月下旬頃からせん定をします。生
育が順調であれば主枝は3m以上伸長しているは
~
~
、
1
7
0
c
m
1年目冬
)
して全長2m程度のところで切り返します。
・
棚
面
ま
で
1
5
0
(
ずですので、枝が茶色く木化していることを確認
・
棚
面
に
5 棚
0 面
に
6 誘
0 引
c で
m き
る
全程
体度
での
約長
2 さ
m
図 16 せん定のイメージ
図 15 1 年目冬(せん定前)
3)定植2年目
(1)芽傷処理(1~2月)
アーチ栽培ではハウス側面部へも枝を誘引するので、主枝の側面部にあたる部分から
の発芽を確保する必要があります。確実に発芽させるためには側面部の芽に芽傷処理
を行います。処理時期は1~2月が目安ですが、早すぎると枯れ込みが入る場合があ
りますし、遅いとブドウの樹液が溢出し芽が腐敗する場合がありますので注意が必要
です。芽傷は全部に入れる必要はありません。
枝間隔 20cm 程度になるように側面部片側4~5ヵ所を目安に処理します。具体的な
母枝での芽傷位置
図 17 芽傷処理方法と芽傷ハサミ
- 13 -
方法としては発芽させたい芽の先1cm 程度のところを木質部にとどく深さで切り込
みを入れます。専用の芽傷ハサミが市販されていますので利用するとよいでしょう。
(2)芽かきと新梢管理(5月~)
1年目と同様に水稲育苗期間中に発芽展葉してきます。水稲育苗箱が搬出されるま
で本格的な管理作業が行えませんが、新梢の発生にともなって主枝がねじれる場合が
ありますので、誘引可能な場所はできるだけ管理します。
水稲育苗箱搬出後に新梢を整理します。主枝先端部は 1 本をまっすぐに棚線に沿っ
て誘引し、その他の芽は主枝に対して出来るだけ垂直となるような枝を選んで誘引し
ます。発生する副梢は葉1枚を残して随時切除します。
誘引
図 18
新梢の誘引
(3)着果管理(6月)
発生した新梢に着穂するものもありますので、
主枝先端の新梢以外は積極的に着果させます。
20cm
※花穂整形方法は樹形完成後の管理P16 を参照
(4)温度管理(4月~)
ハウスの温度管理は1年目と同じく、水稲育
苗期間は水稲に合わせ、水稲育苗箱搬出後はサ
イドを開放管理とします。6月までは夜間のサ
イドを閉じて保温すると初期生育が良好となり
ます。しかし、ハウスの開放を忘れると高温障
主枝に対して垂直になるよう
に誘引する
害で大きなダメージ受け最悪枯死してしまいま
すので、無理せず開放管理にしましょう。
参考資料
図 39
- 14 -
図 19
新梢の誘引(下部から)
2.樹形完成後の管理(3年目以降)
1)樹形完成時の収量構成要素
樹形が完成すると毎年ほぼ同じ管理で樹形を維持していくこととなります。以下にハウ
ス間口 5.4m(3間)における管理目標値を示しますので参考にしてください。着果過多や
着粒過多になると着色が劣ってきますので、注意が必要です。 参考資料 表7
表1 成木における収量構成要素(巨峰)
収穫
着穂
主枝
新梢数
房数
新梢率
総延長
cm
本
房
商品果
収量
%
g
上面
側面
-
16.4
14.4
88.1
5697.0
-
14.9
12.2
83.9
3849.0
1樹当たり 400.0
31.3
26.7
86.0
9546.0
※樹齢5~7年生までの3カ年間における3樹平均値
平均
平均
平均
果房重 着粒数 1粒重
g
400.7
356.2
378.4
粒
28.6
27.4
28.0
g
13.4
12.5
13.0
糖度
酒石酸
含量
%
18.0
18.6
18.3
%
0.49
0.50
0.50
2)新梢管理(5月)
水稲育苗終了後に1回目の新梢管理を行います。発芽した新梢は1本に整理し、棚線に
誘引します。新梢の選択は、樹勢不足や着穂不良でない限りは出来るだけ基部に近いもの
を選びます。新梢間隔は片側 20cm 程度が目安です。三間のハウスであればハウス中間部ま
での棚上主枝片側に8~10 本の枝を配置できます。新梢の誘引作業は棚線に到達する都度
行い、3本目の棚線(隣の樹との中間)に到達し
た後は、摘心します。
図 17 新梢の摘心
摘心すると副梢が発生してきます。副梢は葉1
~2枚を残して切除します。副梢を放任しておく
と日陰を作り、果実の着色不良や肥大不足となる
棚線に誘引した
後、摘芯します。
場合がありますので適宜管理します。
図 21
誘引後、摘芯
側面部の新梢はできるだけ水平となるよう、ハウス支柱
に誘引します。テープナーで固定が難しいときは誘引ひも
などを使ってハウス支柱に結束します。摘芯や副梢の管理
についても棚上部と同様に適宜行います。
図 22
側面部の新梢誘引
- 15 -
3)花穂整形(6月)
開花直前~開花初期に花穂整形を行います。花穂整形とは開花数を制限し、収穫時の房
型を決定する重要な作業です。ピオーネの場合、花穂先端部 3.5cm を残して残りは切除し
ます。1新梢に2花穂ありますが、奇形などの問題がなければ基部の花穂を整形し、2番
目の花穂は除去します。
整形後
初めて整形すると、かなり短く感じますが
房先以外は全て切除します。
十分な着粒がありますので大丈夫です。
図 23 花穂の整形方法(ピオーネ)
4)ジベレリン処理
ジベレリンは各品種に対応した濃度と時期に行いますが、満開期を見誤り開花始め頃の
処理では花穂の先端がわん曲したり、小粒果が着粒しやすくなります。十分に開花してか
ら処理するのがポイントです。湿度が低く処理後すぐに乾燥してしまうとジベレリンの効
果が不安定となりますので、乾燥している場合は散水をして湿度を高めてから処理します。
5)摘粒作業
花穂整形と同じく房型を決める作業になります。最初の摘粒(予備摘粒)はジベレリン1
回目処理から2回目処理の間に行いま
す。果房上部と先端部を中心に摘粒しま
すが、同時に小粒果、変形果、内向きの
果粒などを除去しておくと、後の摘粒作
業が楽になります。
この後は果粒が肥大し始めた頃から
図 24 予備摘粒の前後(ピオーネ)
2〜3回に分けて行います。混み合って
- 16 -
いる部分の果粒を除き、1房 30〜35 粒程度を目標に摘粒します。摘粒する果粒は内向きの
ものや房から飛び出しているような果粒です。
房の内側に入り込む果粒を外側に出したり、果梗が交差している果粒を並び替えて、果
実表面の凹凸がなくなるように果粒を並べ替えると、間引く果粒がよくわかります。
摘粒するときは、果梗の基部からきれいに切り落とします。果梗が残っていると、果粒
が肥大したときに切断面に当たり、裂果の原因となります。
図 25 摘粒の前後と収穫時の果房(ピオーネ)
6)収穫(10 月)
収穫は果実の着色や糖度、酸の抜け具合を目安に行います。ピオーネであれば十分に着
色したものから収穫し、収穫初期には必ず食味を確認しましょう。収穫上の留意点として
は、収穫作業は果実温の低い午前中に済ませ、選別調整や箱詰めをします。ブドウは果粉(果
粒表面の白い粉)がとれると商品価値が落ちますので、直接手が触れないように穂軸を持っ
て扱います。収穫した果房は裂果や障害果を除き、出荷用のセロハン袋に入れ箱詰めしま
す。無核栽培では果粒が脱粒し易くなりますので、特に丁寧に扱う必要があります。
図 26
穂軸を持ってセロハン袋にいれる
- 17 -
図 27
販売姿(2kg 箱)
6)せん定(11~12 月)
せん定は雪の降る前の 11 月中旬から 12 月にかけて行います。あまり遅いと雪害の危険
性がありますので注意が必要です。あまり遅くなると樹液が流れ始め、樹体への影響が大
きくなりますのでる3月上旬までには終えるようにしましょう。
短梢せん定では2芽を残したせん定になります。短梢せん定では発芽する部分がだんだ
ん主枝から離れていきますので、出来るだけ主枝に近い枝を選びます。写真では横方向に
伸びた枝の方が基部に近いので上方向の枝は切除します。残った横方向の枝は3芽目の節
で切ります。残す芽より1芽先の芽の基部付近で切ることにより枯れ込み防止になります。
図 28 短梢せん定
図 29
短梢せん定後の樹
- 18 -
側枝や結果母枝が不発芽により欠損した場合は、返し枝を使って不足した結果部位を補い
ます。写真のように5~6芽の枝を先端から基部に向けて主枝に沿うように誘引し、利用
します。
参考資料
表8~10
2芽せん定
せずに長めに残す
側
枝
の
欠
損
部
下
向
き
に
誘
引
欠損部をカバー
せん定時(冬)の状態
翌年、発芽後の状態
点線でせん定
図 30 返し枝の利用(模式図)
側
枝
の
欠
損
部
図 31 せん定後(左)と翌年のイメージ(右)
- 19 -
3.着色向上技術(補完技術)
1)ハウスビニールの除覆と環状はく皮を組み合わせた着色向上技術
育苗ハウスを利用したアーチ栽培では夏場の温
8.8
度管理が難しく高温状態となってしまう為、着果
8.6
量や新梢管理に注意していても着色不良となる場
8.2
除覆無し
除覆有り
着色(c.c.)
8.4
合があります。着色不良が心配される場合は、6
F=11.1**
8.0
7.8
月までハウスビニールによる被覆を継続し7月か
7.6
ら除覆して露地条件とします。ただしこの場合、
7.2
7.4
7.0
病害虫の発生が予想されますので計画的な防除の
あり
なし
はく皮処理
実施が必要となります。さらに主幹部に環状はく
図 32
皮処理を行うことにより着色促進効果が得られます。
ハウスビニールの除覆と環状はく皮
が着色に及ぼす影響(ピオーネ)
2)環状はく皮の方法
参考資料
表 11
環状はく皮とは維管束を含む表皮を木質部のみを残して切除
することにより、一時的に樹液の流動を遮断する処理のことです。この処理により果粒の
着色促進効果が認められ、アーチ栽培においてもその効果が確認されました。
はく皮時期は満開 30~35 日後で、主幹部の表皮を一周 5mm の幅で切除します。切除には
小刀やカッターなどを用い、木質部まで切り込みを
主幹部
入れながら表皮を剥いでいきます。切除部分はでき
るだけ表皮のゴミなどが残らないようにきれいにし
て、ビニールテープを巻きます。切除部分は落葉期
までにはカルスが発達し
ヵ
発
芽
部
位
を
避
け
て
1
癒合してしまうため、翌年
への影響はほとんどあり
ません。またこの環状はく
切除幅は 5mm
皮処理は毎年実施します
が、癒合不良を発生させな
。
所
に
環
状
は
く
皮
す
る
いために切除部分は上下
図34 環状はく皮処理位置
注)環状はく皮は基部に近い所に処理した
方が効果的だが、側面部の着色は比較的良
好である為、はく皮位置は作業性の良い目
通りの高さでよい。
図 35 環状はく皮
に移動して同じ場所で連用し
ないようにします。
- 20 -