センターだより滋賀第1号(PDF:383KB) - 滋賀県

第
センターだより滋賀
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2
号
−編集・発行−
滋賀県立精神保健福祉センター
−発行日−
2008年
所長あいさつ
滋賀県立精神保健福祉センター所長
辻
1月
元宏
仏教では、人身は地・水・火・風の和合から成り、その調和がないときは、それぞれに
101種の病が起こり、計404の病気が生ずるために、人間のかかる病気全てを四百四
病(シヒャクシビョウ)といいます。ただし、恋わずらいだけは例外で、四百四病には入
っていません。これが、「お釈迦様でも、草津の湯でも・・・」という有名な歌の由来で
す。
しかし、現代に至り病気はますます複雑化し、例外は、恋わずらいに留まらなくなくな
ってきました。
ハンス・セリエ博士は、有害刺激を「ストレッサー」、ストレッサーにより生物の身体
が変化の必要に応じて対応することを「ストレス」と定義し、有害刺激が強すぎると、汎
適応症候群になるという、ストレス学説を 1936 年「ネイチャー」誌に提唱しました、症
候群には、3 段階があり、段階1.ショックを受ける(心機能・血圧・血糖値・体温・意識
の低下や、骨格筋の弛緩など)。段階2.ストレッサーに適応できるように体勢を整える(心
機能・血圧・血糖値・体温の上昇、緊張感の上昇、骨格筋の緊張など)段階3.ストレスの
状態が長く続くと、生体機能が破綻し、恒常性が失われて、やがて死に至る。
社会機構の複雑化と共に、ストレス過多が多様化・一般化しているのが現代の「ストレ
ス社会」です。これらに対する、対処法のひとつは、慢性のストレス・ホルモン過多によ
って損害を受ける生化学的なバランスを維持、あるいは回復させるビタミンやミネラル成
分を補給する方法です。この方法は 1979 年、セリエ博士らの研究・実験で実証されてい
ます。
総理府の調査によれば、全体の 55%の人が「精神的疲労やストレスを感じている」と
答え、特に 20 代後半の女性では 70%以上の人がストレスを感じているという結果が出て
います。過度のストレスが原因で、多くの人が頭痛に悩まされたり、様々な心身の異常を
訴えたりしています。
特に、日本においては、国民栄養調査で唯一慢性的に不足しているカルシウムは、自然
の安定剤として機能するミネラルであり、経口で補給し、血中カルシウム濃度を安定させ
ることは、ストレスによる精神疾患の予防につながるばかりか、認知症や骨粗鬆症の予防
にも大変重要です。
カルシウムは、自然の安定剤、十分にカルシウムを摂ってストレスに強い心と体をつく
り、「ストレスと、うまくつきあう」ことが、快活に人生を生き抜くヒントではないでし
ょうか。
内
容
所長あいさつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
うつ対策(自殺予防)事業について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
震災や事件・事故後のこころのケアについて・・・・・・・・・・・・・・・・3
新設施設の紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
こころの健康フェスタ2007
・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
講演会の案内
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
特別寄稿
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
滋賀県立精神保健福祉センターのご案内・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
-1-
うつ対策(自殺予防)事業について
〈自死遺族支援のための全国キャラバン:いのちの尊さを考えるシンポジウム〉
年間の自殺者数が3万人を超えるなか、平成18年10月に「自殺対策基本法」が施行されまし
た。基本法では、自殺の背景には様々な社会的な要因があり、また、家族やその周りの人々に、
大きな悲しみと生活上の困難をもたらすことが強調されています。
滋賀県内では、5年連続して300人を超える方が自殺で亡くなっておられます。
当センターでは18年度から、自死遺族の支援を中心に啓発や研修等の事業を展開しており、
「自死遺家族支援のための全国キャラバン」の一環として、平成19年10月8日に長浜文化芸術
会館において、県民と行政が自殺の現状を認識し、地域の課題としてとらえ、地域ぐるみで自殺
を考える人の苦しみや大切な人を亡くした悲しみについて考えるため、下記の内容で開催しまし
た。県内外より約300名の参加者があり、この問題に関する関心の高まりを感じることができまし
た。
【第一部】13:35∼14:30
基調講演『自殺の社会的要因をさぐる』
講師 清水 新二氏(奈良女子大学教授)
【第二部】14:40∼16:30
シンポジウム『地域ぐるみでいのちの大切さを考える』
コーディネーター
清水 新二氏(奈良女子大学教授)
シ ン ポ ジ ス ト 西尾 由記子氏(NPO法人国際ビフレンダーズ東京自殺
防止センター:設立者)
尾角 光美氏(NPO法人ライフリンク:自死遺児)
弘中 照美氏(多重債務による自死をなくす会:代表幹事)
辻本 哲士氏(県立精神保健福祉センター次長:精神科医)
第一部では、『自殺の社会的要因をさぐる』と題して、奈良女子大学の清水新二先生よ
り、自殺企図者は100人に2人以上、自殺者数は交通事故による死者の4倍以上、世界
的にも自殺大国であり、自殺の現状、経緯、原因などから、予想外に親しい人の自殺があ
る日本の現実について、お話がありました。社会問題として自殺の予防、防止の対策の有
効性や、自殺が社会に及ぼす影響の深刻さから、社会から失われるものの大きさと対策の
必要性が、実感できるお話が伺えました。
第二部の『地域ぐるみでいのちの大切さを考える』では、
「自殺防止の電話」について、
多重債務の問題、遺族の方々の思いや遺族支援の現状について、当事者や支援者、医師の
立場からのお話がありました。
また、会場ロビーでは滋賀県司法書士会による多重債務の相談や、ライフリンクによる
自殺に関するパネル展示が行われました。
-2-
〈10月に自死遺族のつどい「凪(なぎ)の会」が発足!〉
平成18年9月に開催された自死遺族支援のためのフォーラムを契機に、数人のご遺族が
中心となり「分かちあいの場」の発足に向けて、準備会を発足されました。その後、研修
や話し合いを重ね、19年4月からは定例で開催されることになりました。そして、10月には会の名
前も決まり、一人でも多くの遺族の方が亡くなった人のこと、自身のこれからのことを穏やかに考え
ていけるようにと「凪の会」が発足しました。
発足後、初めての10月20日(土)の会合では、シンポジウムに参加された方も含め、会の進行
にとまどいながらも、遺族を中心に会を開催されました。
今後、偶数月の第3土曜日に開催される予定です。問合わせは当センターまでお願いします。
次期滋賀県保健医療計画(平成20年4月1日∼平成25年3月31日)に、震災や事
件・事故後のこころのケアについて記載されます。(次期滋賀県保健医療計画より抜粋)
【現状と課題】
○ 県内においても、学校等において生徒・児童を巻き込む事件や事故、いじめ等によ
る自殺等の事案が発生し、精神的な二次被害拡大防止のための、こころのケアの体制
整備が必要とされる様になってきました。
○ 地震等の大規模災害時おいても、生命や財産の損害への対応とともに、こころのケ
アの視点が重要です。災害ストレスによるPTSD(心的外傷後症候群)等への対応で
きる体制を準備し、被災者の回復を助けると共に、災害による精神的な二次被害拡大
防止が必要です。
【施策の基本的方向と目標】
○ 学校等における生徒・児童を巻き込む事件や自殺等の事案による、精神的な二次被
害拡大防止のための、こころのケアの体制整備を行います。
○ 地震等の大規模災害時、災害ストレスによるPTSD(心的外傷後症候群)等への対
応ができる体制を整備します
【施策の内容】
① 震災や事件・事故後のこころのケアマニュアルの整備
市町、県、保健所等の関係機関が効果的に連携できるマニュアルを整備します。
・「滋賀県災害時こころのケアマニュアル」
・「滋賀県災害時こころのケアチーム派遣事業実施マニュアル」
② 震災や事件・事故後のこころのケア支援体制の整備
震災や事件・事故後のこころのケアに必要な啓発、研修を実施し支援体制の整備を
図ると共に、 滋賀県立精神保健福祉センターを中心にCIT(クライシス・インター
ベション・チーム)の整備を行います。
CIT(クライシス・インタ−ベーション・チーム)とは、重大な事件・事故等が県
内で発生した場合、各関係機関(精神保健福祉センター・保健所・障害者自立支援課等)
が、多職種(医師、保健師、心理士等)で「こころのケアチーム」を編成し、組織的か
つ継続的な積極的危機介入をおこない、精神的な二次被害(被害者等が、被害後に周囲
の対応により、さらに心の傷を深めてしまうこと等)の拡大防止のため、必要な援助を
行うチームをいいます。
★☆★新施設紹介★☆★
□名称
なかじまクリニック
・所在地 大津市西の庄 5 番 25 号アメニティ膳所 203 号
JR膳所駅(琵琶湖線)・京阪膳所駅から徒歩約 10 分湖岸道路沿い(関電・メルセ
デス斜め向い)Tel/Fax 077-521-0701 URL http://www.snakajima.com/
-3-
・施設からひとこと
2007 年 5 月開院しました。今のところ比較的ゆったりと診療できていると思います。
さまざまな要因から心身の不調をきたし、健康な社会生活をおくることが困難となるケ
ースが非常に増えています。メンタルヘルスの普及は進んできましたが、まだまだ十分
とはいえないのが現状です。
当クリニックでは、様々な心の不調をかかえておられる方々、身体的な症状があるにも
かかわらず、検査では異常がないといわれ困っている方々など、お悩みのみなさんが笑顔
でよりよく生きることができるように、専門的見地からサポートいたします。
□名称
・所在地
ひつじクリニック
〒525-0037 草津市西大路町4-1 YAO-Qビル2F
JR琵琶湖線草津駅より徒歩2分 電話:077-565-2625
・施設からひとこと
社会構造の変化に伴い日本人の働き方や生活様式が大きく変化し、ストレスから心身の
不調を感じる方が年々増加しています。特に働く世代のメンタルヘルスは、その方の人生
だけでなく会社や家族など社会全体に重大な影響を及ぼす問題です。
当クリニックでは、働く世代をこころの病気から守ることを目標に掲げうつ病・パニッ
ク障害・社会不安障害・不眠症などの治療に取り組んでいます。
院内にワークトレーニングルームを設置し、うつ病の復職リハビリテーションを実施して
います。産業メンタルヘルス講演や産業医活動もご相談下さい。
□名称
・所在地
びわこダルク(グループホーム)
〒 520-0813 滋賀県大津市丸の内町8番9号 びわこダルク 京阪電鉄 膳所
本町駅より徒歩5分 電話 077-521-2944 FAX 077-521-2977
・施設からひとこと
平成19年の5月からグループホームをはじめました。現在、滋賀県では唯一の薬物依
存症者の回復施設です。仲間との共同生活をしながら薬物で壊れてしまった心と体を癒し
て行く施設です。1日2回のミーティングと昼間はスポーツで汗を流します。夏はサーフ
ィン冬はスノーボード、週に1度の筋トレプログラムなど、様々なプログラムがあります。
薬物依存症は家族の方も、なかなか相談出来る窓口が少ないのが現状です。是非一度、び
わこダルクに相談に来てください、同じ悩みに苦しむ薬物依存症者、家族、沢山の仲間が
お待ちしています。
《こころの健康フェスタ2007》
平成19年12月2日の日曜日、南彦根のひこね燦パレスで「こころの健康フェスタ200
7」が200名を越える参加者を迎え開催されました。
はじめに、本年、新たに滋賀県精神保健福祉協会会長に就任された滋賀医科大学精神医
学講座の山田教授のあいさつと、獅山彦根市長の祝辞があり、メンズサタデーズ(NPO
法人サタデーピアのお笑いコンビ)による漫才が披露され、笑いの余韻が残る中、「ここ
ろとカルシウム」をテーマに、滋賀県立精神保健福祉センター辻所長による講演が行われ
ました。
こころの病気も身体の病気も、骨そしょう症、こむらがえ、認知症に至るまで数多くの
病気にカルシウムの異常が関連し、神経情報伝達に関する最先端の研究でもカルシウムが
重要な役割を果たしていることを紹介され、また、 カルシウムパラドックス のお話で
は、動脈硬化病巣におけるカルシウムの沈着あるいは内臓諸器官に現れるカルシウム結石
は、血中カルシウム濃度の低い人ほど現れやすく、それは血中の低カルシウムを補うため
に骨のカルシウムが動員され、異常なカルシウム蓄積が行われることなど、カルシウム代
謝の不思議を示しています。
引き続き行われたシンポジウムは、「カルシウムが足りない!!」をテーマに、滋賀県
臨床心理士会理事の上ノ山さんが話されました。カルシウムが心身の健康に重要な栄養素
-4-
であるという講演の主旨を比喩して、心にもカルシウム(栄養)を与えましょうと訴えま
した。心にカルシウム(栄養)を最も効率よくためるためには、人間関係をもつことがあ
ると話されました。彦根保健所管理栄養士の山本さんからは、貴重なカルシウムを体にた
めるためには日頃の食事をどのように工夫すればよいかということ栄養士の立場から話し
ていただきました。
誰でも知っている様で実はよく知らないカルシウムを取り上げたこともあって、会場か
ら多くの質問と意見が出されました。予定の時間を超えてやりとりが行われて、楽しいひ
とときを共有でき、盛会のうちに2007年のシンポジウムは閉会しました。最後に湖東地域
振興局の堀正基局長より「こころの健康フェスタ2007」の閉会の挨拶がありました。
<平成19年度精神障害者家族会等研修会開催のおしらせ>
『報道と精神障害を考えるシンポジウム ∼アンチスティングマ(反障害者差別)とは∼』
報道は、社会における精神障害に対する偏見と差別に強い影響があります。
しかし、「国民の知る権利」等との関係もあり、どのような報道のあり方が、「国民の知
る権利」と「精神障害の人権」との間で、バランスがとれた公正で公平なものであるかは、
複雑な問題です。精神障害の社会参加を促進するために、精神障害に対する偏見と差別の
是正は、なかなか具体的に取り上げられる機会がなかった。県民および関係機関の職員等
を対象に『報道と精神障害を考えるシンポジウム』を開催します。
日 時 平成20年 3月 5日(水) 午後1時30分∼午後4時30分
場 所 フェリエ南草津5階 (JR南草津駅より、徒歩約3分)
『精神障害をめぐる報道と人権 ―社会復帰の利益に対する法的アプローチの試み−』
講 師:渕野 貴生 氏(立命館大学大学院法務研究科 准教授)
シンポジウム『報道と精神障害を考える』
コーディネーター
辻 元宏氏( 滋賀県立精神保健福祉センター所長)
シンポジスト
井手 雅春氏(朝日新聞社記者)
渕野 貴生氏(立命館大学大学院法務研究科 准教授)
主催 滋賀県立精神保健福祉センター・滋賀県精神障害者患者家族会連合会「鳰の会」
<特別寄稿> 前滋賀県立精神保健福祉センター所長より特別寄稿を頂きました。
名古屋刑務所医務部長・法務技官 波多野和夫 氏
平成 19 年 4 月から名古屋刑務所の医務室に勤務しております。滋賀県の皆さまには 4
年間大変にお世話になりました。ありがとうございました。以前より刑務所と受刑者には
強い興味があり、いつか実際に体験してみたいと思っておりました。塀の中は予想通り非
常に興味深い世界であります。
名古屋刑務所は約 2400 人の懲役受刑者を収容しています。男だけ。それも何度も刑を
重ねた累犯ばかり。つまり専門用語で言う「犯罪性が進んだ状態」の者ばかりです。こう
いうのを B 級と言います。これに対して A 級というのは初犯で、更正の可能性が高く、
社会復帰が十分に期待される受刑者のことです。A 級と B 級の受刑者は「朱に交われば
赤くなる」ので別の刑務所に入れます。B 級は再犯率も高く、出所しても 5 年後には 6 割
近くがまた犯罪を犯して刑務所に戻って来るという統計があります。当所の受刑者の平均
は、執行刑期が懲役 3 年 0 ヶ月、入所度数は 4.0 入です。最高は 27 回入です。信じられ
ますか。1 回の懲役が 2 年とすれば 54 年も刑務所にいるのです。
年齢については、受刑者の平均年齢は 44.5 才、最高齢は何と 87 才です。少年院は原則
として少年または未成年の矯正施設です。これとは別に 20 才代の懲役には少年刑務所と
いうのがあります。若者は更正の可能性が高く、中高年の犯罪のベテランと一緒にしない
という意味があります。昨今の裁判所の判決は厳罰化していると言われます。刑罰を重く
すれば犯罪が減少するだろうという考えがあり、また被害者感情を考慮すれば厳罰化はや
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むを得ないともいわれます。その結果、刑務所には人があふれどこも過剰収容です。また
一方で受刑者の高齢化も進んでしまいました。
高齢受刑者が出所したとき、帰る家があるとは限りません。むしろ家族も親戚も誰も相
手にしてくれず、所持金を使い果たしてしまえば、ホームレスになるしかないという人が
かなりいます。ホームレスで生きるには相当に根性が必要です。例の段ボール製「ソフト
ハウス」は冬は寒く夏は暑く、人に嫌われたりいじめにあったり大変です。そうするとコ
ンビニで弁当を一つ盗むとか(窃盗)、大衆食堂で無銭飲食をするとか(詐欺)、簡単に
警察に捕ってまた刑務所に戻ってきます。こういう人は決して芯からの悪人ではなく、社
会福祉がもうちょっと整備されれば、刑務所のリピーターにならずにすむのです。社会的
弱者としかいいようがない人たちですが、その最後の受け皿が刑務所だというわけです。
刑務所が福祉施設になっている例です。
老人が多いと当然老人の病気が発生します。糖尿病、高血圧などの生活習慣病もたくさ
ん見られます。脳卒中、がん、心臓病、こういう病気も数多くあります。認知症も時々診
察します。アルツハイマー病もピック病も見つけました。自分がいるここはどこか、何故
ここにいるのか、そういうことを自分では理解も説明もできない人です。本来刑務所は矯
正教育をする施設ですので、こういう人はいても意味がないのですが、仮釈放や(懲役の)
執行停止をしても引き取ってくれるところがありません。刑務所は期限付きの老人ホーム
でもあるのです。めでたいはずの満期出所時に、自力歩行のできない認知症老人がおりま
す。一般社会の認知症老人ですらすぐには施設が見つからない現状では、刑務所から直行
できる老人施設を探すのも難しいのです。
がんが見つかった場合も、一般社会と同じ水準の医療を行います。そのために外部の専
門病院へ一時的に入院させることもしばしばあります。外科手術も抗癌剤治療も放射線療
法も行います。がん性疼痛が強い終末期には、疼痛緩和医療として強力な鎮痛剤を使用し
ます。刑務所はホスピスでもあるのです。そして薬石の効なく亡くなった場合、遺族がい
ない時には所長以下の幹部が霊安室に集まってお葬式をします。その人の宗派に合わせて、
お坊様に来ていただきます。遺族が遺骨の引き取りを拒否した時には、刑務所が持ってい
る墓地(お寺の)に埋葬します。これらの医療は全て国費(税金)でまかなわれます。
精神医療との関係では、受刑者 2400 人のうち覚醒剤犯が 700 人弱いることが注目され
ます。覚醒剤後遺症による幻聴、幻視、妄想、フラッシュバック、不眠、不安、抑うつ、
等々の精神障害者もいちいち数え切れぬほどおおぜいおります。壁の中から赤い小人がつ
ながって出てきたとか、天井から大きな蜘蛛が顔の上に降りてくるとか、そういう幻覚妄
想体験は精神医学的にも非常に興味深いのですが、あまり多いのでゆっくり聞いている暇
がありません。こういう異常体験は基本的には経過と共に軽快していくのですが、中には
強固に持続的で向精神薬にも反応せず、いつまでも続く例があります。覚醒剤が脳に及ぼ
した破壊的影響が特に強かったと思われる患者もいますし、もともと統合失調症の素因が
あってその上に覚醒剤精神病が重なっているのではないかと疑われる例もあります。それ
と覚醒剤の回し打ちや入れ墨を入れたことによる C 型肝炎や B 型肝炎も、全体の数がつ
かめぬほどたくさんおります。結局最後は肝硬変から肝がんになるわけで、これも厄介な
問題です。
日本の国際化は刑務所にも顕著に現れています。外国人の受刑者が 400 人弱おります。
スワヒリ語とかウルドウ語とか、いったいどこの言葉だと不思議に思うような言葉が飛び
交っています。こういう人の診察は時に漫才のようになります。下痢してますかという問
診の時には、医者が中腰になって尻に手を当てて「シヤー」というと、たいてい分かって
くれます。外国人受刑者の中には、日本人とちがって、軍隊経験または戦闘体験を持つも
のがおります。中には訓練を受けているので 4.5m の塀を越えてしまう者もいるらしいで
す。風俗習慣宗教の違いによって、刑務所の食事は常に宗教食を用意します。豚肉を使っ
ていない副食、野菜だけのおかず、などです。
まだまだ面白い話がありますが、予定の紙数になりましたので、とりあえずこの辺でお
終いにします。
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○ 滋賀県立精神保健福祉センターのご案内 ○
滋賀県立精神保健福祉センターでは、主に次の業務を行っています。
●
教育研修
県内の精神保健福祉業務に従事する職員等を対象として、その資質の向上を図る
ため精神保健福祉に関する専門知識や技術に関する研修を行っています。
●
健康教育(講師派遣)
県内の保健所などとも連携を取りながら、県民の精神保健福祉に関する知識を深
めることを目的に、必要に応じて講師派遣を行っています。
●
自立支援医療および精神障害者保健福祉手帳の審査および交付
障害者自立支援法に基づく自立支援医療(精神通院)と精神保健及び精神障害者
福祉に関する法律にもとづく精神障害者保健福祉手帳の申請に対して、当センター
外部の医師を加えた審査委員会を設置し判定業務および受給者証、手帳交付事務を
行っています。
●
精神医療審査会
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づき、精神医療審査会が各都道府
県に設置されている。当センターでは、審査会開催事務や審査遂行上必要な調査そ
の他審査会に関する事務を行っています。
●
相
談
◎精神保健福祉相談
ご本人やご家族を対象としてアルコールや薬物、摂食に関する問題、不登校や
ひきこもり、対人関係やストレス等の悩みについて保健師等による電話相談と面
接相談を行っています。
受付時間:月∼金(祝日・年末年始除く)9:00∼16:00
電話相談 077−567−5010
面接相談 電話によりご予約の上お越し下さい。
◎こころの電話相談
家族のこと、仕事のこと、その他心の健康に関すること等についての悩みを専
門の相談員がお聞きしています。
受付時間:月∼金(祝日・年末年始除く)10:00∼12:00
こころまる 13:00∼21:00
専用電話:077−567−5 5 6 0
●
講座・教室・交流会
等
◎アルコール講座
アルコール依存症について、正しい知識を学ぶために8回1クールで繰り返し
実施している講座です。本人、家族、関係者等、どなたでも参加可能です。
◎家族向け薬物講座
シンナー、覚せい剤、処方薬など薬物問題で悩んでいるご家族を対象に実施し
ている学習と交流の場です。
実施時期についてはお問い合わせ下さい。
-7-
◎社会的引きこもり家族教室
ひきこもっている子どもさんを持つご家族が、正しい知識を学ぶと共に同じ悩
みを持つ者が集い、互いに支え合いながら家族の対応について学び合う場として、
4回1クールで実施しています。
高校生以上から20歳くらいまでのお子さんを持つご家族と20歳以上35
歳未満のお子さんを持つご家族を分けて開催しています。詳しくはお問い合わ
せ下さい。
◎社会的引きこもり家族交流会
高校生から20歳未満までの社会的引きこもりのお子さんを持つご家族を対
象に月1回交流の場を持っています。
◎摂食障害家族交流会
主に摂食障害家族教室に参加したご家族を対象に、月1回交流の場を持ってい
ます。
◎社会的引きこもり仲間のつどい
社会的引きこもりの本人の集いの場として月1回開催しています。
◎社会的引きこもり親の会(とまとの会)
20歳以上の社会的引きこもりのお子さんを持つご家族の自助グループです。
家族の支え合い、話し合いの場として月1回の交流会や当センターと共に学習会
や研修会なども開催しておられます。
●
滋賀県立精神保健福祉センターのホームページを開設しています。
滋賀県ホームページより、ご覧下さい。近々に開催する講演会などの情
報をお知らせしています。
メールアドレス http://www.pref.shiga.jp/e/seishinhoken/index.html
☆
詳しくは、滋賀県立精神保健福祉センター(077−567−5010)まで
お問い合わせ下さい。
編集後記
世界精神医学会(WPA:World Psychiatric Association)は、「アンチスティングマ」
として、1996 年から「精神分裂病に対する偏見と差別と闘う世界プログラム」をスタ
ートさせました。
「アンチスティングマ」を推進するためには、「精神疾患」「精神障害」に対する「理
解不可能な」あるいは「特異な」疾患や障害であるという、誤解や偏見に基づく疾患概
念のパラダイム転換が必要です。
当事者、家族、医療・福祉関係者がまず、「精神疾患は生活障害を伴う非特異的疾患
である。」というこの非特異的疾患概念を理解し、一般化することが必要です。
佐保田
滋賀県立精神保健福祉センター
〒525-0072
滋賀県草津市笠山八丁目4番25号
電 話(077)567−5010
FAX(077)567−5033
-8-