飯田ダムでの実験2002_698KB - 環境測定サービス

茨城県那珂水系ダム建設事務所
殿
ダム対応型エコフロー(低速回転水循環装置)の設置
ならびに垂直循環流の水質影響調査報告書
平成 14 年 11 月
株式会社CTIサイエンスシステム
東京都中央区日本橋小伝馬町 1-3
水環境室:千葉県柏市明原 1-2-6
株式会社
環境測定サービス
水 戸 市 笠 原 町 238-4
筑波研究所:土浦市北神立町 7-22
1.はじめに
飯田ダムは那珂川水系涸沼支川飯田川の茨城県笠間市飯田地先に建設された
多目的ダムであり、総貯水量 2,440,000m3、有効貯水容量 2,240,000m3 で洪水
調整や流水の正常なる機能の維持等を目的としている。
貯水池としての役割を担うダム湖において、近年、流入水源量の減少や面源
負荷による窒素・リン等の流入によって富栄養化現象(水質低下,悪臭の発生
など)を招いたり、また、降雨時の濁水混入での土砂の堆積による有効貯水量
の低下が問題視されている。特に夏季時期等の水温上昇にともなう水温成層(密
度躍層)の形成や停滞化等の影響で、湖水の底層水は貧酸素状態を招き、栄養
塩類や重金属類の溶出で、有効水量はより減少してしまうことが知られている。
2.目 的
飯田ダムに、ダム対応型エコフロー(低速回転水循環装置)を設置して連続
的垂直循環流を発生させ水質改善を行い有効水量を増加させること、そして、
その改善状況等水理挙動把握のために、各種センサーを使用した自動計測装置
を設置し、ダム湖の水質保全対策における基礎資料を得ることを目的とした。
3.ダム湖対応型エコフロー(低速回転水循環装置)の概要
ダム湖等の閉鎖性水域の水質浄化をはかるためには、その対象とする水域内
で浄化を促進させる必要があり、直接浄化法と呼ばれる方法が知られている。
この直接浄化法は直接現場法と間接現場法(バイパス法)に分けられ、代表的
な方法として、直接現場法には深層エアレーション法、流動床生物ろ過法、浚
渫法が挙げられる。
一方、間接現場法としては電気化学処理法や浮揚凝集法などが知られている。
直接現場法は、ダム湖に形成されている生態系を本質的に改善できる能力を有
しており、永続的な環境改善効果が期待できる。本装置は直接現場法に位置し、
湖表面に浮かべ連続的に低速回転する羽根が底層水を表面まで引き上げ、大気
に接触させ酸素を取り込む(再曝気)ことによって、全層にわたり好気的な状
態を維持・達成する方法で水質浄化を行うものである。(図1)
エコフロー(低速回転水循環装置)は、低速で回転する特殊形状二段羽根に
よって、省エネルギーで効率良く底層水を表層に引き上げ循環させる方式であ
る。ダム対応型駆動モーターは現在 90W(100V)を1台使用し、毎分約 4∼8
回転の可変とし、浮力体であるフロートは頂角径 3.6m の六角形で、フレームは
アルミニウム、浮力担体は発泡ポリエチレンを使用している。また、回転する
特殊形状二段羽根は直径 2m のオールステンレス製としており、すべてにおい
− 1 −
DO・水温・プランクトン
p p p
p p p
p p pp p
p
p p p pp p
p
p
p p p p p
p
p
p
p p
p
p
p p p
p
p
p
p
p
p
p
p
p
p
p p p p
p p p
p p p p
p
p
p
p
p
p
水温
生産層(有光層)
DO
p
p
水温成層
藻類プランクトン
p
p
p
p
p
p
p
p
p
p
水深
p
p
p
p
p
p
p
p
p
分解層(無光層)
p
p
p
p
p
マンガン
p
鉄
アンモニア
鉄・マンガン・アンモニア
【ダム湖等停滞水水域における現象(特に夏季が多い)】
エコフロー(低速回転水循環装置)
水面
水面
水の流れ
p水の流れ
p
DO・水温・プランクトン
DO
p
p
p
p
p
水温
p
左回転で水を持ち上げる
p
p
p
p
水深
p
p
p
藻類プランクトン
p
p
p
p
【直接浄化方式に分類されるエコフローの底層水を引上げる垂直循環方式】
図1
− 2 −
て、現地で組立施工することが可能で、運搬を容易にしている。(図2)
4.係留方法ならびに装置概要
4.1 係留方法概要
設置方法はロープまたはワイヤーによる護岸係留もしくはアンカーのいずれ
かにより係留固定することが可能で、本実験に際しては4方向からのアンカー
係留固定とした。今回の設定での特殊形状二段羽根の回転速度は約 4∼8 回転/
秒(可変)とした。回転する特殊形状二段羽根の最外周部の速度は約 0.4∼0.8m
/秒であるため、係留に係る張力もさほど強力ではなく、水位の変動にもある
程度対応することができる。また,魚類等水生生物が巻込まれたりする心配も
なく、移動も比較的楽にすることができる。
4.2 アンカーによる係留
本実験における係留方法は、約 20kg のアンカー(ダンホース型アンカー)を
用いて四方より係留固定する方法を採用した。係留に使用するロープは直径
12mm のポリエステルロープを用い、アンカー接続の部分にステンレスチェー
ンを使用することによりアンカーの安定性を増すこととした。
アンカー用ロープが水深 5m付近におけるブイによる危険表示をすることと
し、アグリ用フロートにより危険区域を表示することとした。(図3)
4.3 装置概要
装置は大きく分けて、フロート部、計測ハウス建屋部、計測器、そして駆動
部の3つであり、その概略を図に示した。(図4)
4.3.1 フロート部
フロート部はアルミニウム L アングルによって組まれた枠内に、発泡ポリエ
チレンを浮力体として挿入したもので、6台組み合わせることによって構成さ
れる。そして、そのフロートの中心に駆動部台座と回転羽根ならびに駆動モー
ターが設置される。
4.3.2 計測ハウス建屋部
骨組みはステンレス製の 60 度アングルフレームで、壁面及び屋根材は軽量で
強度のあるアルミ樹脂複合版を使用した。出入り口を1ヵ所設け、建屋内には、
計測装置を置き、換気用ファンを設置した。
− 3 −
147
58
115
920
20
58
50
65
780
50
70
10
70
95
70
360
200
110
50
28
125
125
580
580
230
230
アルミ−50×50×4
1130
600
50
400
200
3600
1160
1380
アルミ縞板
600
920
50
200
50
400
16
00
FB
300
50
50
浮力体
1290
50
50
50
1800
右:エコフロー側面図】
147
【左:フロート組立図
58
115
20
58
50
65
50
70
電源供給位置
10
モーターコントローラー
70
110
200
換気扇
50
95
70
28
125
125
データーロガー
230
出入口ドア
230
計測器センサー位置
換気口
計
測
器
400
換気口
駆動モーター位置
600
1290
0
フロート部分
11
0
電源
電源供給位置
1100
BOX
370
3600
300
換気口
50
出入口(ドア)
400
200
湖内へ
回転羽根
【建屋平面図】
【建屋等側面】
【左:建屋内配置平面図
右:エコフロー側面図】
図2
− 4 −
立屋(駆動部格納,水質自動計測可能)
エコフローのフロート部
危険区域表示
水面
ブイ
水深5m
アンカーへ
エコフロー
危険区域表示
ブイ
水面
水深5m
アンカーへ
ブイ
水の流れ
ブイ
係留ロープ
【平面図】
アンカーへ
係留ロープ
アンカーへ
水深約15m
チェーン約1m
アンカー
約20kg
チェーン約1m
アンカー
約20kg
湖底
湖底
【ダム湖内実験施設配置
断面図】
アンカー
アンカー
略
22
25m
ロープ
アグリ用フロート
(約2m間隔)
25m
ロープ
水深5m以内障害物あり
危険区域表示
7.2
m
7.2
水深5m以内障害物あり
危険区域表示
1.8
m
m
1.8
エコフロー
建屋部分
水深5m以内障害物あり
危険区域表示
13
m
3.6m
フロート部分
m
1.8
1.8
m
7.
2m
m
7.2
25m
ロープ
危険区域表示
水深5m以内障害物あり
略
略
25m
ロープ
略
アンカー
アンカー
【ダム湖内実験施設配置
図3
− 5 −
平面図】
データの送信
多項目計測演算装置
ハウス
センサー
駆動モーター
携帯電話
データロガー
電話+モデム
パーソナルコンピュータ
【エコフロー側(ハウス内)】
【事務所側(陸地側)】
駆動モーター約4∼約8回転/分の制御
図4
− 6 −
フロート
回転羽根
PC
アルミフレーム,浮力体ポリエチレン
特殊形状2段羽根(オールステンレス)
ダム対応型エコフローのハウス及び自動計測フロー
(株)環境測定サービス
4.3.3 計測部
計測器は C680 型多項目水質計(㈱CTI サイエンス社製)を用いて自動計測
し、フロート部の中心付近にセンサーを設置して、引き上げられた底層水を表
層にて一定時間毎に水温・濁度・EC(電気伝導率)
・DO(溶存酸素)の4項目
を測定した。他に比較対照用として,エコフロー設置位置から一定距離離れた
位置で水温のみを他の種類のセンサーを用いて鉛直方向に 1m、3m、5m、10m
そして 15m(または最深部)の5水深で計測した。(図5,図6)
4.3.4 係留部
係留は前述の通り、ポリエステルロープとステンレスチェーンを組み合わせ
て使用し、アンカーの安定性を増す方法とした。使用するアンカーはダンホー
ス型アンカーとし、またブイには直径 363m/m 浮力 21kg の物を使用した。
4.3.5 電源供給部
電源(電圧)は 100V を必要とし、駆動モーターが 90W、計測器(携帯電話
電源を含み)が約 100W そして換気扇が 40W の合計で 230W であった。湖上の
エコフローに供給される電力は水中ケーブル(スチールコルゲートケーブル)
を湖底に這わせ供給した。一方岸側では、配電盤を設置する小さな小屋を設け、
その中に、漏電ブレーカーとコンセントを格納した。
合計の電力量は最大で 230W であるので、1カ月当り(30 日として計算)の
電力量を計算すると,165.6kWh となり使用する電気もわずかである。
なお、一次側電源供給を電柱から新たに供給するために、東電柱よりの電線
の引き込みに際しては略図のように実施した。(図7)
− 7 −
図5
− 8 −
係留ブイ
水面
水深1m WT
水深3m WT
水温センサー
水深5m WT
比較対照地点
温度センサーによる計測
水深10m
WT
ワイヤー
小アンカー
水深15m WT
アンカー
湖底
【比較対照地点3ヵ所
水温センサーによる垂直分布自動計測図】
図6
− 9 −
東電柱よりの引込み略図
別添図2
2kW仮設での引込み
(橋の下を通す)
フェンスに這わせ固定する
(CV22゚-2C FEP保護)
CV-MA2V 14゚-2C
羽衣183号柱
植栽
フェンス
配電盤・受信装置等の小屋を設ける
(トランス乗せる)
管理事務所
道路
182号柱
ダム堤
駐車場
【平面図】
WC
2DV-2.6m/m線
橋の下を通す
羽衣183号柱
フェンス
道路
CV22゚線FEPパイプ保護
小屋
CV-MA2V線
湖面装置へ
保護管による固定
【立面図】
【東電引込図】
換気口
換気口
(換気用ファン駆動用)
一次側電源
(電源供給)
エコフロー側へ
(電源供給)
コンセント
漏電ブレーカー
【陸地側電源引込小屋概略図】
図7
−10−
5.水質調査
5.1 水質自動計測装置の概要
ダム湖内にダム対応型のエコフローを設置し、その効果を把握するために多
項目水質自動計測器(C680 型多項目水質計)を設置し,水質項目の変化状況を
リアルタイムに監視した。また、比較対照用地点(A,B,C の 3 地点)に水温セ
ンサーを鉛直(深度)方向に 1m,3m,5m,10m そして 15m(または最深部)の
5個設置し、エコフローの底層水引上げ効果による湖内への影響を、水温を指
標として把握するためのデータ収集を行った。
5.1.1 C680 型多項目水質計設置の概要
① 装置の概要
本装置では各種水質項目(水温,濁度,EC(電気伝導度),DO(溶存酸素)
の計 4 項目)をエコフローにより引上げられた地点にて自動で計測を行い、
水質の変化状況を監視した。計測データは、データロガーに蓄積され、携帯
電話を通じ電話回線を通して、回収することができ、離れた位置にいながら
現地水質データを確認することを可能とした。
② 設置方法
設置は、エコフローのフロート上部を利用して行い、フロート上部に設け
られたハウス(立屋)内に計測制御用データロガー及び携帯電話アンテナ等
の通信装置を設置した。電源はエコフロー用の AC 電源を流用することとし
た。以下に本計測装置の仕様を示した。
●C680 型 多項目水質計仕様
名
称
測定項目
記録方式
電
源
・C680 型
多項目水質計
・水温,濁度,EC(電気伝導度),DO(溶存酸素)
・ 無線通信により事務所内PCのHDに記録
・ データロガー部 RAM カード(64KB)記録
(※RAM カードはバックアップデータとして記録)
・AC100V 入力端子(消費電流量 1Ah 以下)
計測間隔
・5,10,30,60 分より任意設定可能
送信装置
・特定省電力データ通信用無線機使用(単方向通信、400M
帯、空中線出力 10mW),見通し範囲 1∼2km で通信可能
受信装置
・ C28 計測受信装置(CTIS 製)を介して、汎用PC(別売)
にデータを転送。(RS232C 出力)
データロガー部形状
・ ポ リ カ ー ボ ネ イ ト 製 ケ ー ス 入 り , 300mm × 400mm ×
170mm 重量 4.5kg
−11−
●センサー部仕様
測定項目
※
測定方式
測定範囲
精度(以内)
最小表示
水
温
半導体センサ-
-5∼-50℃
±0.2℃
0.1℃
濁
度
積分球式
0∼500ppm
FS の 2%
0.1ppm
電気伝導度
交流 4 極
0∼10S/m
FS の 2%
1μS/cm
溶存酸素
ポーラロ電極
0∼20ppm
FS の 1%
0.1ppm
写真は資料集に掲載
③ データ通信の方法
[遠隔地からのリアルタイム監視]
計測データは計測器のデータロガー部に蓄積される。遠隔地外部のパソコ
ンからのデータ収集には、携帯電話にモデムを介して接続する事により、NTT
回線を通じてデータ確認が可能である。通信制御は,受信用ソフトウェアに
より行う。
携帯電話から
C680 多項目水質計
データ取得
データロガー部
携帯電話
電話回線
アナログ
汎用パーソナル
モデム
コンピュータ
電源(AC100V)
NTT 回線を通じて
水質センサー
【エコフロー側】
【事務所側】
−12−
遠隔地PC
のデータ通信
5.1.2 水温多層計測ブイ設置の概要(比較対照地点)
① 装置の概要
試験区周辺の比較対照地点(A,B,C の 3 地点)に自記水温センサーを鉛直
(深度)方向に 1m,3m,5m,10m,15m(または最深部)に設置し、多層にわた
る水温の自動計測を行った。
(3 地点×5 深度=計 15 点)データはセンサー内
部 RAM に記録されるので、定期的(1回/3 ヵ月程度)にデータ回収作業を
行い、水理挙動把握のための解析用データとして使用した。
② 設置方法
比較対照地点に固定用アンカー及びブイを用いて設置した。電源は内蔵電
池を使用するため、商用電源の敷設や護岸からの係留用ロープ等を用いずに
設置できるものである。
③
仕様
●水温多層計測ブイの仕様
名
称
計測項目
水温多層計測ブイ
水温
計測方式(計測範囲) 熱伝対センサー(-5∼37℃)
電
源
内臓リチウム電池
記録方式
内臓 RAM(連続 8000 データ記録可能)
計測間隔
30 分∼48 時間(任意に設定可能)
センサー寸法
設置方式
30mm×40mm×16mm(※1 個辺り)
係留部
センサー
固定部
大型船舶用重量アンカー,係留用ブイ
及びワイヤーロープ
多段式センサー一体型ワイヤー
④ データの回収方法
水温データは各センサー部の内臓 RAM に記録されるため、メンテナンス作
業時(3 ヵ月毎)に各センサーとノート PC をケーブルで接続し、データを回
収を行った。
−13−
5.1.3 メンテナンス作業について
各計測装置を安全に管理するために、1回/3 ヶ月の間隔で、定期的にメ
ンテナンス作業を行いセンサー部の洗浄、整備そして通信装置の点検等を実
施した。なお、異常が発見された場合は速やかに対処を行うこととした。
計測補助地点の水温多層計測ブイについては、直接データ回収を行う必要が
あるため、一度センサー部を引き上げデータ回収後再設置を行った。
5.2 定期水質調査
事前調査により得られた資料を元に、エコフローのフロート脇位置で表
層水・底層水の採水分析並びに水温鉛直分布調査、そしてダムからの放流
水について調査を実施した。以下に、月1回の定期水質調査項目を示した。
定期水質調査項目一覧表
時刻
天候
気温(℃)
水温(℃)
色相
臭気
透視度(度)
透明度(m)
pH(水素イオン濃度)
EC(電気伝導率)
DO(溶存酸素)
BOD(生物化学的酸素要求量)
COD(化学的酸素要求量)
SS(浮遊物質量)
大腸菌群数
濁度
T-N(全窒素)
NH4-N(アンモニア性窒素)
NO2-N(亜硝酸性窒素)
NO3-N(硝酸性窒素)
T-P(全リン)
Chl-a(クロロフィル a)
なお、水温多層計測ブイの概略図及び実験設置位置概略図は、前記の図
5、図6に示した通りである。
−14−
6.工程表
作業工程は以下の通りとした。
設置並びに調査等工程表
2001
10 月
11 月
12 月
2002
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
事前調査
設置準備
稼動開始
水質調査
計 器
メンテナンス
中間報告
終了回収
7.安全対策
安全対策のため想定される事項を以下に記載して充分に留意し、実験期間
中を通じ事故の発生がないように努めることとした。
1)装置点検ならびに水質調査時には周辺等に異常がないことを確認し、異常
が発生した場合には速やかに管理事務所に連絡を取り対処すること。
2)装置ならびに周辺等に異常を発見した場合には、直ちに連絡体制に基づき
連絡を行いその内容に応じた対処を実施すること。
3)集水地域ならびにその上流部の降雨に注意を払い、台風等出水時やその他
必要に応じて、迅速に漁業区域外の岸辺に避難できる体制をとること。
8.連絡体制
緊急時等を含め連絡体制は以下の通りとした。
会社名等所属
㈱環境測定
サービス
㈱CTI サイエンス
システム
飯田ダム管理所
部
署
氏 名
本
社
宮本卓之
営業開発室
宮松敏一
茨城県水戸市笠原町 238-4
筑波研究所
柴田誠
環境調査課
塚原憲雄
茨城県土浦市北神立町 7-22
平日連絡先
TEL029-243-2611
FAX029-243-2612
土日祭日連絡先
090-9366-4780(宮本)
090-9815-4227(宮松)
TEL0298-31-4155
FAX0298-31-4156
090-3438-1069
古野亨
TEL0471-47-4830
FAX0471-47-4891
090-3231-7047(古野)
笠間市飯田字梨木平 1125-12
TEL0296-72-7950
FAX0296-72-7956
水環境室
千葉県柏市明原 1-2-6
−15−
10 月
9.調査結果
9.1 定期点検
定期点検内容をまとめ一覧表とした。(P.24∼P.27)
9.2
水質調査結果
定期水質調査は、湖内(表層)、湖内(底層)そして放流水についてそれ
ぞれ一覧表及びグラフとして表した。(P.28∼P.31)
9.3 自動計測結果
9.3.1 C680 での自動計測結果
C680 による自動計測結果は、水温、EC(電気伝導率)、濁度、DO(溶
存酸素)の4項目を1時間毎に計測してあり、DO は 6 月 21 日からの計
測になる。データは資料集に2月から9月までを月毎にグラフ化として
表した。(P.32∼P.39)
9.3.2
水温センサによる自動計測結果
水温センサによる自動計測結果は、3地点(A 地点、B 地点、C 地点)
において垂直方向に5水深(1m,3m,5m,10m,15m または最深部)を1時
間毎に計測した結果であり、データは抜粋し地点毎にグラフとして表し
た。(P.40∼P.45)
10.まとめ
10.1 定期水質調査時の水質データ
10.1.1 pH(水素イオン濃度)
表層水の pH は水温が高くなってくる時期である4月頃から上昇し始
め、7月には 9.0 まで高くなった。一方、底層水の pH は表層水とは対照
的に、水温の上昇にともない徐々に低下して行く傾向が見られた。
表層水の水温の上昇時期にあわせ、底層水もほんの少しずつではある
が水温上昇が起きる時期であり、それにともない底層水における有機物
等の分解が生じて pH の低下を招いているものと推測された。
10.1.2 DO(溶存酸素)
表層水の DO は、概ね 8 mg/L∼10 mg/L の間で推移したが、底層水の
DO は、4月から徐々に低下をたどり7月調査時には 1 mg/L 以下
(0.9mg/L)まで低下し 10 月調査時まで回復しなかった。pH と同様に、
有機物等の分解にともなう酸素消費による低下であると考えられる。
−16−
10.1.3 COD(化学的酸素要求量)と BOD(生物化学的酸素要求量)
COD 値は水温上昇にあわせ表層水・底層水ともに、若干の上昇傾向で
推移したが、BOD 値は表層水が水温上昇にあわせ徐々に低下傾向を示し
たものの、底層水は傾向が見られなかった。
一般的に、表層水は植物プランクトンの光合成による内部生産の結果
として、DO や COD の上昇傾向が得られることが知られているが、本ダ
ム湖においても COD の上昇傾向が見られた。
10.1.4 全窒素中の無機態窒素の割合
底層水の全窒素中の無機態窒素の割合は、水温上昇時期にあわせるよ
うに低下している。酸素が豊富に存在する表層水などは、水温上昇時期
にともない無機態窒素の割合が増加し、有機態窒素の割合が減少するの
が一般的である。また、底層水は水温上昇にともない、徐々に DO(溶存
酸素)が低下しており、好気性微生物による酸化分解等にともなう酸素
消費であり、有機態窒素の酸化(硝化)も進行していないことになる。
10.1.5 計測装置による水温の垂直分布計測
定期水質調査時にエコフロー脇において、垂直方向(底方向)に 1m 間
隔で水温を計測した。その結果を P.23 に示した。これは、定期水質調査
の月毎の水温垂直分布をそれぞれにグラフ化したもので、3月には水深
6mまでの水温が上昇し始め、4月にはすでに水深0∼4mと水深8m
付近の水温差は 10℃近くなっている。
4月のグラフでは、エコフロー脇と地点 A(エコフローの中心から約
20m離れた地点、図5位置図参照)を併せてあり、地点 A における底層
水(8m付近)を引上げていることが分かる。
また、7月のグラフには、エコフローを一旦停止させ、稼動前と稼動後
(稼動開始から 30 分後)の水温の違いを表している。このグラフでは水
深3mまでの水温の違いが顕著になっているが、それより深い位置から
の引上げがあることは確実である。
10 月には、ほぼ3月の時のような水温曲線に戻っている。今回の調査
におけるこの調査地点の現象は、3月頃から徐々に表層から水深6m付
近までの湖水が暖められ、4月からは急激に上昇し始め5∼9月へと継
続し、10 月には再び3月頃の状態に徐々に推移したことが分かる。
−17−
10.2 その他の計測からの効果
10.2.1 エコフロー稼働による引上げ効果
稼働開始からの表面の水温の変化について調べた結果を図8に示し
た。
水温(℃)
31.0
稼働開始からの表面水温推移
稼働開始
30.5
30.5
30.0
10分後
5分後
29.5
29.0
28.5
28.5
28.3
28.0
27.5
27.0
11:30
11:35
11:40
時刻
図8 表面水温の推移
7月調査時のデータから、稼働開始時には表層水の水温は 30.5℃で
あったにもかかわらず、5分後には 28.5℃まで低下した。確実に短時
間で底層水が引上げられていることが分かった。
また、底層水の引上げられている状況を図9に示した。稼働から 30
分後の水温垂直分布グラフにおいて、水深 4.5m∼7.5m にかけて明ら
かに湖水が引上げられている状況があることが分かった。
水温垂直分布 2002.7.31
10.0
0.0
12.5
15.0
17.5
20.0
22.5
25.0
27.5
水温
30.0
1.0
表層では
2.0
より顕著
3.0
4.0
底層水の
5.0
引上げ
6.0
7.0
8.0
9.0
稼働前
稼働30分後
底 13.35m
水深
10.0
図9
稼働前・後の水温垂直分布
−18−
次に8月調査時の水温とDO(溶存酸素)の垂直分布を図 10 に示し
た。この時期において水温が 13∼14m の地点にも係らず、水深 7m で
すでに DO(溶存酸素)は0(ゼロ)の状況であった。
この図から分かるように、水温成層位置付近と溶存酸素がゼロにな
る付近の水深がほぼ同じになっている。
水温成層の下,水
水温とDOの垂直分布 2002.8.29
水温(℃)DO(mg/L)
0.0
深 7mではすでに
0.0
溶存酸素がゼロ
1.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
水温成層位
2.0
置付近
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0
10.0
水温(℃)
DO(mg/L)
水深
図 10 水温と DO(溶存酸素)垂直分布(8 月)
9月調査時には同様な実験を行い、その時は回転数を 5.5 回転/分とし
た。その結果を図 11 に示した。図 10 と同様に溶存酸素と水温の垂直分
布曲線は類似しており、水温の垂直分布を調査さることによって DO の
垂直分布を推測することができる。
水温垂直分布(5.5回転)
2002.9.26
水温(℃)DO(mg/L)
水温成層の下,
水深 8.5mでは
溶存酸素がゼロ
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
0.0
1.0
水温成層
2.0
位置付近
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0
10.0
水温(℃)
DO(mg/L)
水深
図 11 水温と DO(溶存酸素)垂直分布(9 月)
−19−
10.2.2
回転数による違い
底層水を引上げるための羽根の回転数を変化させ、毎分当たりの回
転数の違いによる水質変化をグラフとし図 12 に示した。
2002.9.26 垂直分布比較(4.2回転及び5.5回転)
0.0
5.0
10.0
15.0
水温(℃) DO(mg/L) EC(mS/m)
20.0
25.0
0.0
DO
W-Temp
EC
5.5 回転
2.0
4.2 回転
5.5 回転
4.0
4.2 回転
6.0
4.2 回転
8.0
5.5 回転
10.0
水温4.2
DO4.2
EC4.2
水温5.5
DO5.5
EC5.5
12.0
底 13.25m
14.0
水深
図 12 回転数による比較
4.2 回転/分と 5.5 回転
DO(溶存酸素)、EC(電気伝導率)そして W-Temp(水温)の3項目
において、4.2 回転/分の時と 5.5 回転/分の時の値をそれぞれ計測した
もので、回転数がわずかでも上昇すれば底層への影響も大きくなること
が分かった。
−20−
10.2.3
底層水の引上げ循環
底層水の引上げ状況を図 13(P.22)に示した。前記より水温成層は概ね
7m前後から生成していることが分かっており、その付近より深い湖水
の引上げが認められている。
また、それは、水位の低下している時期は越流水はないが、概ね表
層に近い位置から放流されていると考えるならば、定期水質調査結果
の中で顕著な推移を呈している水温・pH に表されるように、放流水の
値は表層水と底層水のちょうど中間に位置している。これは、越流側
であるダムサイトへの定常的な湖水の流れによる移動(移流)によっ
て、引上げられた底層水は図 14(P.23)のように流出することが示唆さ
れるものであり、循環による効果であることが推測される。
したがって、ダム湖水の定常的な流れを調査して本装置を複数台数
配置することによって、より広範囲の循環を期待することができ、そ
の循環によって浄化を促進させることができるものと考えることがで
きる。図 15(P.24)
11.おわりに
今回の実験において、当初の目的である①水質改善を行い有効水量を増
加させることについては、限られたスペースと台数であるためダム湖全体
を水質改善の対象として捉えるにはいたらなかった。次に、②ダム湖水水
質改善等水理挙動把握についてまとめると、ダム湖で称される水温成層(密
度躍層)は実験地点においては概ね7m前後で生成し、3月から4月頃徐々
に発生し 10 月には再び循環期に戻るが、かなり浅い水深で生じていること
が分かった。しかしながら、本装置によって徐々にゆっくりと引上げられ
た底層水は、酸化分解並びに硝化を受け浄化に向かうことが示唆された。
本装置においては、まだ未完成な部分も多く存在すると考えられるが、
毎分4∼5回転程度に低速で回転する羽根によって、簡単に底層水は引上
げることができる。徐々に引上げられた酸素を全く含んでいない底層水は
酸化を受け、また好気性微生物等の有機物分解を受け浄化される。
今後の課題としては、より安全で効率的な羽根の回転数の決定、配置方
法などが残るが、一層の研究と努力によって完成することができると確信
する。
以上
−21−