太陽エネルギー利用熱電子発電器の出力向上に関する研究

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太陽エネルギー利用熱電子発電器の出力向上に関する研
究
荻野, 明久
静岡大学大学院電子科学研究科研究報告. 24, p. 95-99
2003-03-28
http://hdl.handle.net/10297/1439
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氏名 0(本 籍)
荻
野
明
学位 の 種 類
博
士
(工
学位 記 番 号
工博 甲第
学位授与の日付
平成 14年 3月 23日
学位授与の要件
学位規程第 5条 第 1項 該当
・
専攻の名称
研究科
電子科学研究科 電子材料科学
太陽 エネル ギー利用熱電子発電器 の出力向上に関する研究
学位論文題目
論文審査 委員
(委 員長
)
久 (京 都府)
学)
225
号
教授
江
間 義 則
教 授
窪 野 隆 能
教 授
永 津 雅 章
教 授
神 藤 正 士
論
文
内
容
の
要
旨
わが 国の太陽光発電 の研究開発 は、1974年 度 か らサ ンシャイン計画 (1993年 度 か らはニ ューサ ン
シャイ ン計画)の 一部 として実施 され、二酸化炭素排出削減の観点から、1999年 度実績20.5万 kWに 対
して、2000年 度 目標 は40万 kW、 2010年 度 目標 は500万 kWと い う高 い導入 目標が掲げられている。そ
して、1992年 以来、補助金による導入助成事業が実施 され太陽電池な どの導入が盛 んに展開 されてい
る。 しか し、現時点では既存 の電源 に比べ て コス トが割高なこともあ り、日標 の達成 は予断 を許 さな
い。太陽光利用熱電子発電器の開発 は、 この 目標達成へ の一助 になると共 に地球環境 の保全に幾 ば く
かの貢献が期待 される。
熱電子発電 は高温動作 に特徴があ り、理論的な発電効率 は15∼ 20%と 高 い。本研究の 目的は太陽エ
ネルギーを熱源 とす る高効率 の熱電併給型熱電子発電器"Solar WE"の 実用化 である。熱電子発電器
には、通常 セシウムが封入 される。 これによって、1)冷 却 して使 われるコレクタの表面 にセシウム
皮膜 が形成 されて コレクタの実質的な仕事関数が低下 し、発電器 の出力電圧 を高 くす る、2)高 温 の
エ ミッタ面上での接触電離 または電極間空間での累積電離 によ り生成 されるセシウムイオンがエ ミッ
タか ら大量 に放出される熱電子が形成す る負 の空間電位 を緩和 し、発電器の出力電流 を増大 させる、
の 2つ の効果が発揮 され、発電効率が改善 される。周知 の通 リセシウムの電離お よび励起電圧はあ
らゆる元素中で最 も低 く、太陽光でもセシウム原子 の光励起・電離が可能である。 また、光励起 ・電
離 に寄与 しない太陽光成分 はエ ミッタと発電容器 の加熱 に利用できる。熱電子発電器の出力増大 と発
電効率の向上を図るにはエ ミッタの高温加熱 と同時 にセシウムイオ ンの生成が必要であるが、太陽光
-95-
はこの 2つ の要請 に同時 に応えることができる。Solar TECで は、太陽光 の全ての波長成分がセシウ
ムの励起 とエ ミッタ加熱 に有効 に活用 で きるので、高効率 の太陽エ ネルギー利用が期待 され る。 ま
た、 この発電原理 は他 の放射エネルギーにも適用す ることができる。必要 に応 じて都市 ガスの燃焼熱
を併用す れば、常時発電 も可能 となる。
本研究 は太陽光利用熱電子発電器 の出力特性 を解析 し、太 陽光利用 に最適 な動作条件等 を検証 し
た。本論文 を各章毎 にまとめると、以下 の通 りである。
第 1章 では熱電子発電器 の研究 の歴史 を簡単 に紹介 し、本研究 の 目的並 びに本論文 の構成 を述べ
た。
第 2章 では熱電子発電器の主要 な物理現象 である熱電子放出、表面電離、仕事関数等 の基本概念
を紹介 し、熱電子発電器の原理 と特徴 を説明 した。次いで、 プラズマの生成及び消滅過程 について述
べ 、それらに関係する諸パ ラメー タを紹介 している。更 に、熱電子発電器で重要 な空間電荷中和度 を
定義 し、電極間の空間電位分布 との関係 を述べ た。
第 3章 では、発電器 の製作 および発電実験 を行 うにあた り、太陽光 によるエ ミッタ加熱特性 を計
算 ならびに実験 の両面 から検討 した。 この加熱実験 よ り得 られた結果 を利用 し、Razor等 の解析方法
を参考 にして太陽光利用熱電子発電器の発電効率の評価 を行 った。熱電子発電器の理論 によると、発
電器内部での電圧降下の指標であるバ リアインデックス yBお よび太陽光の入射電力 olが 一定の時、
発電効率 ηはエ ミッタの仕事関数Eと その温度 亀 ならびにセシウム蒸気圧 PQに 依存す る。 また、
φEは ■ とPCsの 、■ は φEヽ 2hお よびエ ミッタ表面積 SEの 関数である。 ηはある φEの 値 に対 し
て最大値 ηnExを とり、 この φEに 対応 して ■ とPcsが 定 まる。chが 一定でも、SEを 小 さくしエ
ミッタの光吸収率 を高めれば ηmxは 上昇す る。試算 によると、ch=1000W、 yB=2.2 eVで レンズ
3)を 用いると、
8、 放射率Ю。
の集光率が85%の 時、SE力 %Cm2の 光 トラップ付 きエ ミッタ(光 吸収率Ю。
φE=3.4 eVお よび 亀 =2300Kの 時 ηmax=14%で あつた。
B"を 製作 してその出力特性
Solar TEC A"お よび“
第 4章 では、2種 類 の太陽光利用熱電子発電器“
について述べ た。Solar■EAは 、電極間空間への光照射の有無 による出力特性 を比較す ることがで
きる構造 を持 っている。 また発電領域での点火モー ド動作 を目指 して Solar TEC Bを 設計 した。 こ
の発電器では、発電容器が コレクタを兼ねることで、発電器構造が簡略化できると共 に、エ ミッタ‐
コレクタ間のギャップを縮小 して電子の拡散 によつて生ずる出力電流の減少 を抑制できる。 これらの
発電器から次 のような結果 を得 た。
1)非 点火お よび点火モー ド動作の両モー ドにおいて光照射 によって出力電流が増大す ることが分
かった。 これは光照射 によつて、セシウム原子が励起 0電 離 された結果、負の空間電荷が中和 され、
エ ミッタ前面 に存在する負の空間電位障壁が緩和 ・解消 されたことによるものと考 えられる。特 に空
間電荷中和度 βく1と なる動作条件では、光照射 による電流増大効果が大 きいことが実験 により判明
した。
2)定 常動作時 の点火開始 お よび点火消滅時 の出力電圧 は、光照射 によ り0.25∼ 0.27V増 大 した。 こ
れは、電極 間空間でのプラズマ生成 を電子 と封入気体原子 との体積電離 のみに依存せ ず、補助放電 に
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よ リプラズマ を生成す ることで、 プラズマの維持 に必要な電圧損失が低減 したためであ ると考 えられ
る。
3)出 力電流 は、 φEお よび■ に敏感 に応答す る。 ■ が低い時、 ■ を上昇 してもφEの 変化が少
ないためにエ ミッタか らの熱電子電流が増大 し出力電流 も増大す る。 しかし、さらに■ が上昇す る
と、 φEが 増大す るため ■ が上昇す ることによる出力電流の増大 よ りもφEの 増大 による出力電流
の減少効果が顕著 に現れるようになる。また点火モー ド動作時の出力電流 は空間電荷中和度の影響 を
受け、 β ∼ 1の 条件の時、出力が最大 となった。 この時の短絡電流密度 は0。 73A、 VBは 2.4Vで あっ
た。出力が最大 となるこの動作条件 は、効率計算 から得 られる最適動作条件 と比較的良 く一致するこ
とから、さらに出力 を増大させるには、エ ミッタ温度 を上げることが必要 となる。以上より、効率の
高い集光 システム と光吸収率の高いエ ミッタの開発が、高い発電効率 を得 る上で重要であることが
判 つた。
最後 に第 5章 で本論文の内容 を各章毎 に要約 し、まとめとした。
-97-
論
文
審
査
結
果
の
要
旨
本論文 は、太陽エネルギーを熱源 として発電す ると同時 に温水 を製造 して、 コジェネ レーションシ
ステムを構築す るための熱電併給型熱電子発電器 (Solar¶ E)の 実用化 を目指す研究 を纏 めたもので
ある。
第1章 の序論 では、 これまで行 われてきた原子カエネルギー及 び燃焼熱 を熱源 とす る熱電子発電器
研究の歴史的経緯 と現状 の紹介があ り、太陽エ ネルギーを利用す る Solar TECの 位置づ けがなされて
いる。第 2章 は熱電子発電の動作原理 を述べ てお り、電極での表面現象および電極間空間でのプラズ
マ現象 とを関連づ けながら、熱電子発電の動作原理が述べ られている。 また、熱電子発電 を行 うには
コレクタ電極 を冷却する必要があるが、 このとき発生す る温水 の利用が太陽エネルギーの総合的利用
効率 を高 めることを述べ てい る。
第 3章 では、Rasorら の手法 を適用 して熱電子発電器の発電効率 を理論的 に評価 し、最適 な動作条
件 を明 らかにしている。 これから、発電効率の向上には、エ ミッタ温度 を2000K以 上に高 めることが
必要であ ることを明 らかにす るとともに、Solar賢℃ では、エ ミッタ電極が太陽光で加熱 されるため
に、エ ミッタの太陽光吸収率の向上が発電効率の向上に必須であることを述べ ている。 このための手
段 として光 トラップ付 エ ミッタを新 たに提案 し、入射光 を補足す るとともに放射損失の低減が可 能 と
なることを示 した。直径 1511m、 高 さ5mmの 中空円筒 の中心部 に円錐状 の トラップを設けたエ ミッタ
での実験 では、光吸収率 力ヽ3%か ら51%に 上昇 し、エ ミッタ温度が1300Kか ら1450Kま で上昇す るこ
とを確認 してい る。エ ミッタの光吸収率 を80%台 まで高 めることがで きれば、Solar■Eの 発電効率
は10%台 に上昇す ることを示 した。
第 4章 では試作 した 2種 類 の S01ar TECを 用 いて太陽光照射 による発電実験 を行 った。 1枚 のエ
ミッタとこれを挟 んで同一形状 の円錐台状 コレクタからなる Solar■ К の片側から、透明サ ファイヤ
窓 を通 して105cm× 70cmの フレネルレンズで集光 した太陽光 を照射 した。 この装置 では、太陽光が
コレクタ内に存在す る場合 とそうでない場合 の出力特性 を同時測定でき、セシウムの光励起 0電 離 の
出力特性 に及 ぼす効果 を調べ ることができる。測定 は、照射開始から10分 間にわたつて行 い、出力電
流、 コレクタ温度、 日射量 を同時測定 した。 この実験結果から、太陽光がプラズマ に当たつてい る場
合の出力 は、太陽光照射のない場合 に比べ て数倍程度大 きくなったが、 これは太陽光がセシウム原子
の励起 ・電離 に寄与 した結果 であ ることを述べ てい る。
次 に、円錐台状 コレクタとその底部 に l Hlm離 して設置 したエ ミッタからなる Solar HEを 使 って
出力特性 を測定 した。 この S01ar TECは 電極間隔が短 いので大 きな出力が得 られる構造 となってい
る。光照射開始後 の出力特性 は定常状態 に至るまでに刻 々変化す る。照射開始後 の最初 の 1分 間以内
では、エ ミッタは温度 が低いためにセシウム付着 により仕事関数が低 く抑 えられているために、熱電
子放出は多いが出力電圧が低いために出力 は低 いが、その後 は、エ ミッタ温度の上昇 に伴 い出力電圧
が上昇す るとともに発電領域で点火モー ド動作が生 じ、出力の増大が確認 された。出力特性 の時間変
化 に関す る考察が加 えられ、発電特性向上、 の指針が与えられている。第5章 は結論 であ り、研究成
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果 の纏 め と今後 の研究課題 が述べ られてい る。
本論文 は燃焼熱等 を熱源 とす る熱電子発電器 を太陽エネルギーカ滞U用 で きるように発展 させた Solar
TECに 関す る研究であ り、十分な学術的内容 を具備 している。 よって、博士 (工 学)を 授与す るに十
分な ものであ ることを認 める。
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