第六回目 鉄鋼の熱処理の基礎 材料工学Ⅰ - 同志社大学生命医科学部

表7-1
純鉄:C 0.006%
以下
鋼:C 0.006%以
上から2%程度
第六回目
鉄鋼の熱処理の基礎
生命医科学部 医工学科
バイオメカニクス研究室(片山・田中研) IN116N
田中 和人
E-mail: [email protected]
内線: 6408
材料工学Ⅰ
Biomechanics Laboratory
b.過冷オ-ステナイトの変態と組織
(i)変態点におよぼす冷却速度の影響
変態:平衡状態図の温度(Ae)とは
異なる
過熱(Ac)
過冷(Ar)
パ-ライト変態点が低下
マルテンサイト変態(Ms点):原
子の拡散なし
鉄鋼材料
Biomechanics Laboratory
b. マルテンサイト変態
マルテンサイト変態:拡散を伴わないで他の結晶構造へ変化す
る変態
鋼の場合:オーステナイト相(fcc)からマルテンサイト相(bccま
たはbct)へ変態
マルテンサイト変態の特徴
(1)単相から単相への結晶構造の変化,可逆的
(2)無拡散のせん断機構による変態,組成の変化なし(無拡散変
態)
図1.6 共析炭素鋼の熱膨張曲線に及
ぼす冷却速度の影響
1・3 鉄鋼の熱処理の基礎
Biomechanics Laboratory
4・4 相変態 P.57
Biomechanics Laboratory
b.過冷オ-ステナイトの変態と組織
(ii)過冷オ-ステナイトの恒温変態と恒温変態線図
恒温変態(または等温変態)(isothermal transformation):過冷オ
-ステナイトを一定温度に保持した時におこる変態
恒温(または等温)変態線図(isothermal transformation
diagram),TTT線図(time-temperature-transformation
diagram):共析炭素鋼をオ-ステナイト状態からAe1点以下の種々
の温度に急冷,その温度に保持して変態の開始時間および終了
時間を測定したもの
S曲線,C曲線
550℃付近S曲線の鼻(nose)
300℃付近入江(bay)
Ms点(共析炭素鋼の場合)220℃
付近
図1.7 共析炭素鋼の恒温変態線
図(TTT線図)
1・3 鉄鋼の熱処理の基礎
図1.7 共析炭素鋼の恒温変態線
図(TTT線図)
Biomechanics Laboratory
(iii)オ-ステナイトの連続冷却変態
と連続冷却変態線図
連続冷却変態線図(continuous
cooling transformation diagram),
CCT線図:オ-ステナイトを種々
の一定速度で冷却,変態の開始
点と終了点を測定,温度と時間
の関係を図示したもの
Psパーライト変態の開始線
Pfパーライト変態の終了線
Msマルテンサイト変態開始温
度
図1.9 共析炭素鋼の連続冷却
連続冷却変態の場合ベイナ
変態線図(CCT線図)
イト変態はおこらない
(TTT線図も併せて示してある)
b.過冷オ-ステナイトの変態と組織
(ii)過冷オ-ステナイトの恒温変態と恒温変態線図
パ-ライト変態: 層状セメンタイト間隔(ラメラ間隔)は
変態温度が低くなるほど小,硬さや強さが上昇,微細パー
ライトという
ベイナイト(bainite)変態
羽毛状の上部ベイナイト(upper bainite)
針状の下部ベイナイト(lower bainite)
Biomechanics Laboratory
b.過冷オ-ステナイトの変態と組織
(iii)オ-ステナイトの連続冷却変態と
連続冷却変態線図
冷却曲線(2)(下部臨界冷却速度)
より遅く冷却
Ps線でパ-ライト変態
Pf線で完了,全面パ-ライト組織
冷却曲線(4)(上部臨界冷却速度)
より速く冷却
オ-ステナイトはMs点まで過冷,
マルテンサイト変態を開始,全面
マルテンサイト組織
焼き入れ硬化
冷却速度(3):パ-ライト+マルテン
サイト
Biomechanics Laboratory
図1.10 共析炭素鋼の
CCT線図の説明図
b.過冷オ-ステナイトの変態と組織
Biomechanics Laboratory
鋼のマルテンサイト
Cが過飽和に固溶
転位密度が高い
非常に硬くて強い
固溶C量によって決まる(図1.11)
構造
bccまたはbct(体心正方晶:body
centered tetragonal)構造のα‘マ
ルテンサイト
hcp構造のεマルテンサイト
旧オーステナイト粒界
ラス(lath)
パケット(packet):平行に並んだ(つ
まり,同じ晶へき面の)多くのラスの
集団からなる領域
ブロック(block):同じ晶へき面かつ
同じ結晶方位をもつ(つまり,同じバ
リアントの)ラスの集団からなる領域
図1.11 マルテンサイト
の硬さとC量の関係
c.鋼のマルテンサイト変態
Biomechanics Laboratory
残留オ-ステナイト(retained austenite)
焼入鋼の硬さが低下,硬さ不足
対策
サブゼロ処理(subzero treatment)または深冷処理:室温以
下の温度に冷却してマルテンサイト変態させる
図1.10 共析炭素鋼の
CCT線図の説明図
c.鋼のマルテンサイト変態
図1.13 0.2%C鋼ラスマルテンサイト
c.鋼のマルテンサイト変態
Biomechanics Laboratory
f.焼もどし(tempering)
焼入れしたマルテンサイト組織:もろい
焼入鋼をA1点以下の適当な温度に加熱して組
織と性質を調整する処理
調質ともいう
図1.19 焼入炭素鋼の焼もどし過程
Biomechanics Laboratory
f.焼もどし(tempering)
Biomechanics Laboratory
焼なまし(annealing)
加熱してオ-ステナイト,十分な時間
加熱後,炉中にて徐冷
均質化焼なまし(拡散焼なまし)
軟化焼なまし(完全焼なまし)
球状化焼なまし:炭化物(主としてセメ
ンタイト)の球状化
• 塑性加工性,被削性の向上,高炭
素鋼(工具鋼など)のじん性向上
ひずみとり焼なまし(応力除去焼なま
し)
• 鋳造,溶接,塑性加工,焼入れな
どによって発生した残留応力を除
去,550~700℃の比較的低温で
焼なまし
焼ならし (normalizing)
粗大で不均一な結晶粒,局部的に
粗大化した炭化物など好ましくない
組織を改善.微細な整粒組織を得て
機械的性質の改善
A3点またはAcm点以上の適当な温
度(通常,A3,Acm以上40~60℃)
に加熱して一様なオ-ステナイトに
した後空冷
g.鋼の焼なましと焼ならし
Biomechanics Laboratory
基本的な強化機構:転位の運動を妨害
(1)転位密度上昇による転位強化(加工強化)
(2)結晶粒微細化強化 Hall-Petchの式
σ s = σ 0 + kd
−
図1.20 各種焼なまし
および焼ならしの温
度とC量の関係
図1.20 各種焼なまし
および焼ならしの温
度とC量の関係
1
2
(3)合金元素による固溶強化 強化作用:侵入型元素>置換型
元素
(4)析出強化および分散強化
マルテンサイト:上記4つを含む
Cが過飽和に固溶,高密度の転位,組織が微細,焼もどし時
の析出物
h.鋼の強化法およびじん化法
Biomechanics Laboratory
g.鋼の焼なましと焼ならし
Biomechanics Laboratory
高じん性化の方策
(1)有害不純物や非金属介在物の除去:鋼中にP,S,H,Oなどの
不純物
(2)結晶粒の微細化:延性-ぜい性遷移温度が低温側
(3)オ-スフォ-ムや制御圧延などの加工熱処理の利用:組織の微
細化
(4)残留オ-ステナイトの利用:強いマルテンサイト地にオ-ステナ
イトを少量分散させた組織
(5)変形中のひずみ誘起マルテンサイト変態の利用:準安定オ-ス
テナイトを変形すると,応力によってマルテンサイトが生成,大きな
伸び,マルテンサイト変態誘起塑性またはTRIP (Transformationinduced plasticity)現象
(6)力学的じん化:圧縮残留応力による疲労強度上昇
h.鋼の強化法およびじん化法
Biomechanics Laboratory
表7-2
金属材料の熱処理
Biomechanics Laboratory