第二東名 梅平高架橋の施工〜ストラット付PRC8 径間連続ラーメン橋〜

論文・報告
第二東名 梅平高架橋の施工
〜ストラット付 PRC8 径間連続ラーメン橋〜
Construction of the Umehira Viaduct
吉田 純
Jun YOSHIDA
高谷 貴公
Takatomo TAKAYA
菅澤 文博
Fumihiro SUGASAWA
川田建設㈱東日本統括支店
名古屋支店事業推進部課長
川田建設㈱東日本統括支店
事業推進部係長
川田建設㈱東日本統括支店
名古屋支店技術課課長
林 純夫
Sumio HAYASHI
新川 敦士
Atsushi SHINKAWA
篠崎 英二
Eiji SHINOZAKI
川田建設㈱東日本統括支店
名古屋支店事業推進部
川田建設㈱東日本統括支店
名古屋支店事業推進部
川田建設㈱技術部技術課
本工事では,2橋のPRC連続箱桁橋の施工を行った。そのうち「梅平高架橋」は,上部構造の軽量化
によるコスト縮減を目的として発注時の2室箱桁からストラット付1室箱桁に変更した。PC鋼材の配置
形式は内外併用ケーブル方式である。また,ひび割れ防止対策として2橋のコンクリート施工方法は「全
断面一括打設」を採用した。なお,ストラットは川田建設那須工場において製作し,支保工材は主に社内
保有機材を使用した。
キーワード:ストラット,全断面一括打設,外ケーブル(半透明シースを使用したグラウトタイプ)
1. はじめに
引佐ジャンクション全景
本工事は,静岡県浜松市北区引佐町に位置し,第二東
名高速道路引佐ジャンクションにつながる連絡橋(梅平
高架橋)とランプ橋(引佐ジャンクション A ランプ第
梅平高架橋
二橋)の 2 橋の PRC 連続箱桁橋新設工事である。
梅平高架橋は,詳細設計段階において主桁断面形状の
ランプ橋
最適化の検討を行い,発注時の「2 室箱桁」を「ストラッ
ト付 1 室箱桁」に変更することでコンクリート体積を
28%,
PC 鋼材重量においては 26%低減することができた。
写真 1 施工場所
一般的に PC 箱桁の施工にはウエブと上床版の間に水
されているが,乾燥収縮差により 2 回目に打設した部材
にひび割れの発生が予想されたため,本工事では,ひび
割れ防止を目的として打ち継ぎ目地を縦方向に設ける
梅平高架橋 橋長 320 000
230
PC8径間連続ラーメン箱桁 319 540
230
870 35900
37 500
41 500
41 500
870
37 000
42 000
41 500
40 900
A1
E
P1
E
P2
R
P3
R
「全断面一括打設」を行った。
く落防止として繊維材を混入した。
また,半透明シース内へのグラウト注入に先立ち試験
445
810
7 000
3 500
3 500
施工を実施し,充填性および内部可視性を確認した。
本文では,以上の特徴を有する梅平高架橋の施工方法
について報告する。
61°
ストラット□300×300
ctc 3 500
664
5 406
6 070
300
P5
R
19 010
18 120
2 500
1 000
750
260
なお,ストラットは工場製作とし,コンクリートのは
P4
R
P7
P6
R
E
7 000
3 500
3 500
A2
E
445
810
750
280 2 460 260
3 000
平打ち継ぎ目地を設ける,いわゆる「2 回打設」が採用
5 900
6 500
65°
(単位:mm)
300
5 391
6 070
679
図 1 梅平高架橋 断面図
72
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定している。この時,ストラット接合部の形式は,上床
2. 橋梁概要
版側を連続した梁部材(エッジビーム)に接合する形式
2.1 橋梁諸元
を採用し,下床版側は連続性を持たせない突起形状を採
橋 名:梅平高架橋
用した。これら各部材の形状は,主に 3 次元 FEM 解析
構造形式:PC8 径間連続ラーメン
を実施することにより決定した。
3.1 主桁断面形状の決定
ストラット付箱桁橋
道路規格:ジャンクション 1 級
主桁断面形状は,以下の方針によって決定した。
荷 重:B 活荷重
1)ストラット角度とストラット上端と上床版の接続
橋 長:320.000m
位置をパラメータとして,下図に示すような全 11 ケー
総 幅 員:19.010m
スにて FEM 解析による比較検討をおこなった。
有効幅員:[email protected] = 17.120m
2.2 使用材料
θ
a
コンクリート:σ ck = 36N/mm2 3 925m3
鉄 筋:1,096t(下部工含む)
張出長:a
0.0m
0.5m
1.0m
1.5m
3.0m
P C 鋼 材 :19S15.2B(外ケーブル)
12S15.2B(内ケーブル)
1S28.6(床版横締め
・エッジビームケーブル)
ス ト ラ ッ ト :σ ck = 40N/mm2 184 本
ストラット角度:θ
60°,62.5°,65°
60°,62.5°,65°
60°,62.5°,65°
45°
45°
図 2 主桁断面形状の比較検討ケース
3. 設計概要
2)モデルに死荷重と活荷重を載荷して,上床版に発
設計実施にあたり,主桁断面形式を下記の 3 ケースに
生する正負曲げモーメントの発生状態(モーメントバラ
ついて概略経済比較検討を実施した結果,②のストラッ
ンス)を比較検討した結果,張出先端からの長さ a =
ト付コンクリートウエブ箱桁が最も経済的であることを
1.0m,ストラットの角度θ= 62.5°が最適ケースである
確認できたため,以後はこの形式の断面形状を詳細に決
と判断した。最適ケースでの活荷重時におけるストラッ
定することとした。
ト位置での曲げモーメント分布を下図に示す。
表 1 主桁断面形式の比較
-300
直接工事費 判定
①コンクリートウェブ2室箱げた
160 000
円/ m2
−
②ストラット付きコンクリートウェブ箱げた
150 000
円/ m2
曲げモーメント(kN・m)
比較ケース
活荷重時(最小値) -191
〃 (最大値)
-200
-100
-187
-72
0
100
200
1.0m
64
5.244m
3.111m
72
◎
図 3 最適ケースでの曲げモーメント分布
③ストラット付き波形鋼板ウェブ箱げた
155 000
円/ m2
−
3)最適ケースでの主桁形状をもとにストラット本体
や接合部の配筋や形状の検討を詳細に行い,最終的に断
面を決定した(図 1)。
次に,本橋と同等以上の幅員幅を有するストラット付
3.2 ストラット接合部の設計
PC 箱桁の実績が無かったため,ウェブ間隔やストラッ
ストラット接合部は,伝達される軸力により発生する
ト角度などの違いにより場合分けした断面を比較検討し
割裂応力に対する設計とエッジビーム本体の設計を実施
た。ストラットの橋軸方向の取付間隔やストラットの接
し,これらは FEM 解析により算出した断面力によって
合部形状についての検討をおこない,主桁形状を最終決
PRC 部材として検討した。
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上床版部接合部には,割裂鉄筋として D22,エッジビー
ム本体には,縦締め PC 鋼材 1S28.6 と補強鉄筋 D25 を
4. 施工概要
配置した。(図 4)
施工順序を以下に示す。
下床版接合部は突起形式を採用し主桁自重を軽減し,
① ラーメン橋脚頭部の施工
FEM 解析により算出した引張力に対して補強鉄筋を配
② 支承工
置した。(図 5)
③ 基礎工・支保工
④ 橋体工の施工
1S28.6
D22
D22
D19
D16
D19
D22
D25
D25
ストラット軸筋(D16)
ストラット軸筋
(D16)
D19
図 4 上床版接合部
図 5 下床版接合部
(エッジビーム形式)
(突起形式)
1)ストラット工
2)型枠工
3)コンクリート工
4)PC 工
4.1 支承工
側径間は連続桁としているため A1,A2 橋台と P1,
P7 橋脚には支承が設けられている。
主桁断面の 2 室箱桁から 1 室箱桁への変更に伴い,下
部工 1 基当たりの支承数が 3 基から 2 基に変わった。既
設の橋座面位置のはつりにはマイクロクラックの発生を
防止するため,ハンドガンを使用したウォータージェッ
写真 2 上床版接合部配筋
写真 3 下床版接合部配筋
縦締め PC 鋼材 1S28.6 用の接続具(図 6)は,分割施
工継ぎ目部に使用し,あらかじめ性能試験により定着性
トによる方法を採用した。
はつり箇所は,既設の橋座位置で必要な耐力を確保す
るために,補強鉄筋を配置した。
施工箇所付近にゲンジボタルの生息する的場川がある
能,防錆材の良好な充填状況を確認した。防錆材として,
ことを考慮し,はつりにより発生した汚濁水は SS(浮
カプラーシースと接続具との隙間に熱硬化型超高温タイ
遊懸濁物質)処理,および pH 処理を行い,最終沈殿スラッ
ププレグラウト樹脂を注入した。
ジは産業廃棄物処理施設にて処分した。
充填確認はカプラーシースの上部 3 箇所と下部 2 箇所
に設置されたフロートの内部状況目視により行う。
ウォータージェット施工時の主要機械を以下に示す。
なお接続具は製造工場において全数引張試験を行い
0.7Pu(Pu:引張強度)以上であることを確認した。
500
ハイカプラ
W型スリーブ
センタ ープラグ C型スリーブ
コンプレッショングリップ
フロート
・超高圧水発生装置
1台
・ハンドガン(最大使用圧力 245Mpa)
4台
・汚泥吸引車
1台
・汚泥処理装置
1台
・濁水用水槽,散水車
他1式
83
165
83
底版
ウェッジ
カップラーシース本体 エルボプラグ
図 6 縦締め PC 鋼材用接続具概略図
写真 4 性能試験および縦締め PC 鋼材接続具設置状況
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写真 5 ハンドガン使用によるはつり状況
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4.2 基礎工・支保工
支保工の基礎形式は,現地にて地耐力を確認後決定
現 地 で の ス ト ラ ッ ト 設 置 は 移 動 式 ク レ ー ン(25 〜
100t 吊り)を使用した。
した。
基本的にコンクリート基礎を採用し,支持力を確保で
きない箇所については,試験杭を打ち込みプレボーリン
グ工法(ダウンザホールハンマ,アースオーガ使用)に
よる杭基礎を施工した。
写真 8 100t 吊りクレーンによるストラット設置状況
写真 6 ダウンザホールハンマ施工状況(中間支柱部)
支保工形式は現場条件より主に支柱式とし,社内保有
機材およびリース材を併用した。支柱の高さは約 30m
であり,組立解体は移動式クレーン(25 〜 200t 吊り)
を使用した。
A1 〜 P1 径間においてはクレーン設置場所が限定され
るため,枠組支保工形式を採用した。
写真 9 ストラット設置位置の微調整
4.4 型枠工・コンクリート工
従来,PC 箱桁の打設方法は,床版ハンチ下側で水平
方向に施工継ぎ目を設ける「2 回打設」が一般的であるが,
2 回目に打設した部材に乾燥収縮差によるひび割れ発生
が予想され,また本工事におけるストラット付形式がひ
び割れ発生を助長することも考えられたため,ひび割れ
防止を目的として打ち継ぎ目地を縦方向に設ける「全断
面一括打設」とした。
なお,上記の打設方法を採用するにあたり,ひび割れ
に対する主桁断面照査をあらかじめ施工計画段階におい
写真 7 支保工組立状況
て実施している。
架設時における主桁曲げモーメントを主桁と支保工梁
4.3 ストラット工
を重ね梁としたフレームモデルにて算出し,ひび割れ発
ストラットは一辺が 300mm の矩形断面であり,那須
生モーメント以下であることを確認することによりひび
工場において 184 本製作後,トレーラーにて現場まで運
搬した。
照査の結果,プレストレスによる軸圧縮力がなくても
はく落防止としてあらかじめコンクリートに合成短繊
維材を 4.55
割れの有無を照査した。
kg/m3
添加している。
ひび割れが発生しないことを確認できた。これは,架設
時において主桁に発生する曲げモーメントは負の曲げ
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モーメントが卓越していることと,ストラット付箱桁は
上床版の断面積が大きく,負の曲げモーメントに対する
ポンプ車 上床版担当職員
耐力が大きいことによる。
生コン出しの指示
以上の検討を実施したことにより,実施工において主
ポンプオペレーター
φ50 先行バイブ
3名
「全断面一括打設」を行うためには一度に型枠を組み立
φ40 後追いバイブ
1名
を製作し配置した。
レディーミクストコンクリートは橋脚頭部ラーメン
部,ストラット近傍の鉄筋配置が密な箇所への充填性,
およびポンプ打設によるスランプロスを考慮し,高性能
AE 減水剤を使用したスランプ 12cm の配合とした。
事前に内型枠にバイブレータ挿入孔・点検孔を設置し,
充填状況を確認しながら打設を行った。
打設箇所の指示、バイブ掛け具合の指示︵無線︶
桁のひび割れ発生を防止することができた。
てる必要があり,内部支保工材下部には専用スペーサー
打設箇所、
バイブ掛け具合指示
上床版打設責任者
打設箇所、
バイブ掛け具合指示
2名
手元
筒先挿入
後追い
ストラット φ40
φ30
筒先
φ50
②
①
③
スペーサー部
ハンチ部
(支柱1本目)
(支柱2本目)
ポンプ車
下床版担当職員
打設箇所、
バイブ掛け具合 指示
φ50 先行バイブ
1名
φ40 後追いバイブ
1名
打設箇所、
バイブ掛け具合
下床版打設責任者
打設箇所、
バイブ掛け具合 指示
φ30 ストラットバイブ 1名
手元
1名
図 7 コンクリート打設手順
写真 10 内部支保工組立状況
4.5 PC 工
主ケーブル配置は内外併用方式を採用した。
外ケーブル用シースは半透明タイプのポリエチレン
製,内ケーブルについては波付き黒色ポリエチレン製を
使用した。
グラウト注入に先立ち,屋外にて実物大ケーブル配置
により試験施工を行った。
写真 11 内部支保工材下部専用スペーサー
コンクリート打設前に図 7 に示す連絡体制,作業手順
を職員・作業員が周知することで,確実なコンクリート
充填を行った。
写真 12 外ケーブル配置状況
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写真 13 主ケーブル緊張状況
写真 16 シース除去後の充填状況確認
試験施工の確認項目を以下に示す。
①外ケーブル用半透明シースに発生が考えられる残留
気泡の可視性の確認
②適切な排気位置の選定
③内ケーブルシース内のグラウト充填性の確認
(目視及びセンサー使用による)
試験ケーブルは,最長の外ケーブルと上床版部と下床
版部の内ケーブルをタイプ別に選定し,合計 8 本につい
写真 17 気泡発生状況(外ケーブル)
て行った。その結果,良好な品質をえられることを確認
できた。なお内ケーブルは目視で充填状況が確認できる
ように試験時のみ半透明シースを使用した。
以上の確認事項を反映させることで,実施工において
確実なグラウト充填を行うことができた。
また,発注者の規定により,残留気泡の許容寸法はシー
スの延長方向で 20cm,その直角方向で 5cm であったが,
実施工においては延長方向で 10cm 程度,直角方向で
写真 14 試験施工状況
3cm 程度の気泡について市販の注射器を使用しグラウト
材を注入することで対応した。
5. まとめ
今回紹介した工事は,施工実績の少ないストラット付
PC 箱桁の施工であり,また総幅員 19m は日本でも最大
規模の実績となった。
全断面一括打設を採用したことで,構造物のひび割れ
防止という当初の目的を達成することができた。
本工事の設計,施工にあたり,中日本高速道路株式会
社 東京支社および浜松工事事務所の皆様方ならびに多
数の関係各位に,多大なご指導ご協力を賜り厚く御礼申
し上げます。
写真 15 センサーによる充填確認状況
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