ガチフロキサシンの血糖異常と市場回収の必要性について

昭和 61 年7月4日第三種郵便物認可
第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
(毎月1回 28 日発行) 49
Jun. 2006 Vol.21 No.6
ガチフロキサシンの血糖異常と市場回収の必要性について
は可逆的だが長期使用の影響は不明で
あったため,「糖尿病には禁忌」とされ,
浜 六郎 * また心毒性については,QT 延長と不整
フルオロキノロン剤ガチフロキサシン(商品名ガチフロ:杏林製薬,大日本住友製
脈の危険性を「禁忌」と「注意事項」に
薬)が,他のフルオロキノロン剤に比較して際立って血糖異常の害が大きいことを示
記載することが決められた.
1)
す詳細な疫学調査の結果が 2006 年 3 月 NEJM 誌に発表された .
一方,有効性についても厳しい論議が
メーカー(Bristol-Myers-Squib)は4月 28 日に米国での製造を中止すると公表し
あった上に,メーカー自身が申請適応症
たが 2),在庫がある限り販売するという 3).米国で活発な医療市民活動を展開してい
の一部を取り下げたこともあって,最終
る Public Citizen Health Research Group は,FDA に対して「即時中止」を求める請
的に承認された適応症は,ペニシリンや
願を発表している 4).一方,日本のメーカー(開発元でもある杏林製薬と大日本住友
エリスロマイシンに耐性の肺炎連鎖球菌
製薬)は製造中止も販売中止も行っていないし,国も緊急安全性情報の配布と添付文
と複雑性尿路感染症(前立腺炎と副睾丸
書改訂を指示した以外は何ら新しい規制措置をとろうとはしていない.ガチフロキ
炎を除く)のみとなった 9-a).
サシン使用初期にみられる血糖低下作用と,その後の高血糖は,SU 剤類似の害作用
さらに,承認にあたっては付帯条件が
であるが,そのことは,日本での承認前に,動物でもヒトでも判明していたことだっ
付され,膵β細胞への影響が不可逆的で
た.これらの事実を振り返ってみると,ガチフロキサシンはもともと製造販売を承
ないかどうかの検討など 8 項目にわたる
認されるべきでない薬だったと言える.
新たな実験を実施することが求められた
上 に,委 員 の う ち 8 人(英 2 人,ノ ル
(1)ガチフロキサシンについて
ンド,ノルウェー,スウェーデン,英国
ウェー2人など)は,承認2疾患につい
欧米では
では申請者自身が申請を取り下げてしま
ても,QT 延長と血糖異常の害が利益を
ガチフロキサシンは杏林製薬が開発
い,MRP は 4 月 9 日に終了した.審議会
上回るとの判断から,委員会の決定には
し,Bristol-Myers-Squib 社により,まず
では,市中肺炎,慢性気管支炎の急性増
賛成できず,市販の承認は取り消すべき
米国において 1999 年に販売が開始され
悪,急性細菌性副鼻腔炎(適切に診断さ
であると述べて署名を拒否した 9-a).
たフルオロキノロン剤である.メーカー
れたもの),複雑性尿路感染症(前立腺炎
こうした数々の疑問を抱えての承認で
によれば,肺炎球菌,肺炎マイコプラズ
と副睾丸炎を除く),単純性尿路感染症,
あったこともあり,欧州における実際の
マ,クラミジアなどの呼吸器感染症起炎
単 純 性 淋 病 を 適 応 症 と し,1 日 200 ∼
ガチフロキサシンの使用は日本に比べる
菌に in vitro で優れた抗菌力があり,高
400mg で 14 日を越えない範囲内での使
と非常に少ない.たとえば最初に承認さ
い血中濃度が得られ各種感染症に優れた
用が検討されたが,とりわけ問題とされ
れたドイツにおける 2003 年 6 月までの
効果があるとされている.発売当初は,
たのは膵β細胞への影響と心毒性であっ
処方は 26.4 万件であり 9-a),フィンラン
「第4世代のキノロン剤」とも呼ばれて
た.結局,膵β細胞への影響は,単回で
ド,アイスランド,オランダ,ポルトガ
7)
期待されたようであるが ,QT 延長や血
糖値への影響がありうることはすでに
2001 年頃から指摘されており 8),到底第
一選択とはなり得ないものだった.
ヨーロッパでは,2001 年 10 月にドイ
ツで販売が承認された 9a-c).2002 年 3 ∼
4月にはドイツと他の EU 加盟 14 カ国,
およびノルウェー,アイスランドによる
相 互 承 認 手 続 き(Mutual Recognition
Procedure:MRP)が 実 施 さ れ た.し か
し,この手続期間中に,ベルギー,デン
マーク,フランス,ギリシャ,アイスラ
アトルバスタチン
59
アミオダロン
58
アロキサン
51
インスリン
51
インフリキシマブ
59,60
インターフェロンα
58
インターフェロン
アルファコン-1
59
SU剤
51
エタネルセプト
58
NSAIDs
57
エルロチニブ
56
ガチフロキサシン
49,59
カルボプラチン
56
ケトコナゾール
57
ゲフィチニブ
56
ゲムシタビン
56
ジクロフェナク
60
シスプラチン
56
シプロフロキサシン 50,54
シルデナフィル
59
シンバスタチン
58
スルフォニルウレア
51
セチリジン
59
セファロスポリン
50
トルブタミド
51
パクリタキセル
56
非ステロイド抗炎症剤 57
ピルジカイニド
59
フルオロキノロン剤
49
プロピルチオウラシル 59
ペメトレキセド
58
マクロライド
50
メトトレキサート
58
メフェナム酸
60
免疫グロブリン
60
モキシフロキサシン
50
リファンピシン
57
レボフロキサシン
50
ロイヤルゼリー
59
ワルファリン
57,59
目 次
ガチフロキサシンの血糖異常と市場回収の必要性について……………………………………………49
非小細胞肺癌に対するエルロチニブ………………………………………………………………………56
*NPO 法人医薬ビジランスセンター
CAPSULE………………………………………………………………………………………………58
第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
50
ルでは国が市販を許可したにも拘わら
表1:血糖異常による病院受診と最近の抗生剤・抗菌剤使用との関係 ず,2003 年 9 月現在まだ市販はされてい
ないし,他の国(オーストリア,イタリ
ア,ルクセンブルグ,スペイン)では承
認が保留されている 9-a).
日本では
日本では,2002 年1月 15 日に審査セ
ンターの審査を終え 10-a),薬事・食品衛生
審議会医薬品第二部会の審議を経て薬
事・食品衛生審議会薬事分科会において
報告,4月 11 日承認され,2002 年6月
発売が開始された(薬価基準収載 : ガチ
フロキサシン添付文書).承認された効
能・効果は,ブドウ球菌以下 20 余の菌
種に起因する 30 以上の疾患が記載され
ており,EU で問題とされた慢性膿皮症・
(Park-Wyllie LY らによる)
低血糖:調整したオッズ比
高血糖:調整したオッズ比
(95% 信頼区間)
(95% 信頼区間)
全患者 糖尿病患者 非糖尿病患者 全患者
糖尿病患者 非糖尿病患者
4.3
4.2
9.0
16.7
23.6
12.8
ガチフロキサシン
(2.9-6.3) (2.8-6.3) (1.3-63.4) (10.4-26.8) (12.4-44.6) (5.9-27.8)
1.5
1.5
2.1
1.3
1.6
1.0
レボフロキサシン
(1.2-2.0) (1.2-2.0) (0.7-6.0) (0.9-1.9) (1.0-2.5) (0.5-1.8)
0.8
0.8
1.7
1.7
1.7
1.6
モキシフロキサシン
(0.5-1.3) (0.5-1.3) (0.2-11.8) (1.0-3.0) (0.8-3.9) (0.7-3.9)
0.9
0.9
1.2
1.1
1.3
0.9
シプロフロキサシン
(0.8-1.1) (0.7-1.1) (0.5-2.9) (0.9-1.5) (0.9-1.8) (0.6-1.6)
0.9
0.8
2.3
1.2
1.0
1.5
セファロスポリン
(0.6-1.2) (0.6-1.1) (0.8-6.7) (0.8-1.7) (0.6-1.7) (0.8-2.7)
マクロライド
1.0
1.0
1.0
1.0
1.0
1.0
表2:日本におけるガチフロキサシンによる血糖異常の報告数(年次別)
副作用症状
慢性呼吸器疾患などの慢性感染症(これ
らの疾患では治癒率が低く,繰り返し使
用される恐れがあるため,膵β細胞への
影響が懸念される)も除外されてはいな
い.承認経過や結果として承認された適
応症を比較しただけでも,日・欧の差は
歴然としており,日本の承認審査が緩や
かに過ぎて,メーカーの主張をほとんど
丸呑みにしていることがよく分かる.
日本における血糖異常に対する措置
ガチフロキサシンは米国での販売が先
行し,血糖異常が承認審査の段階から判
(毎月1回 28 日発行)
報告年
2003
2002
高血糖症
糖尿病
高浸透圧状態
高血糖
糖尿病性昏睡
糖尿病性高浸透圧性昏睡
高血糖小計
低血糖症
低血糖
無自覚性低血糖
低血糖昏睡
低血糖症小計
血糖異常報告合計※
合計
2004
2
5
7
1
15
36
19
3
16
1
39
70
3
1
82
64
11
75
91
27
76
1
18
77
116
18
45
158
1
11
170
252
明していたため,日本では当初から「重
※ 上記血糖異常合計件数は,同じ年内に重複がありうる
大な副作用」に血糖異常が記載されてい
件の血糖異常(高血糖が 132 例,低血糖
ライド抗生物質(たとえばアジスロマイ
た.それにも拘わらず,市販後すぐ低血
が 256 例)の害(米国では有害事象報告
シン)と比べると,ガチフロキサシンは
糖,高血糖例が報告されたため,同年 10
AER)が報告されている.100 万処方あ
低血糖症(調整後オッズ比 4.3,95%信頼
月には添付文書の「慎重投与」の項に
たりの血糖異常の害反応例は 32.0 とな
区間 2.9 − 6.3)と高血糖症(調整後オッ
「糖尿病」を記載する注意書きの変更が
り,他のフルオロキノロン剤の 10 ∼ 50
ズ比 16.7,95%信頼区間 10.4 − 26.8)の
行われた.ところが,その後も低血糖,
倍,アジスロマイシンの 160 倍であっ
オッズが高かった(表1).非糖尿病患者
高血糖例が多数報告され(重篤な低血糖
た.
では,マクロライド抗生物質と比較し
75 例,高血糖 14 例)
,なかでも糖尿病患
2)カナダにおける疫学調査結果 1)
て,ガチフロキサシンは低血糖症(調整
1)
者が多かったことから(低血糖で 58 例,
パーク・ワイリーらの症例対照研究
高血糖で 11 例)
,2003 年3月 7 日には,
は,2 つの population-based nested 症例
63.4)と高血糖症(調整後オッズ比 12.8,
糖尿病患者を「禁忌」とする等の添付文
対照研究であり,種々の抗生物質(抗菌
95%信頼区間 5.9 − 27.8)のオッズが高
書改訂,緊急安全性情報の配布がメー
剤)と血糖異常との関連を調べたもので
かった.これらの結果はすべて統計学的
カーに指示された 11,12).しかし,その後
ある.対象はカナダ,オンタリオ在住の
に有意であった.レボフロキサシンも低
も適応症の見直しや制限は行われておら
65 歳以上の約 140 万人である.抗生物質
血糖症に関して統計学的に有意の関連を
ず,本剤により血糖異常をきたした症例
治療を開始して 30 日以内に,788 人が低
認めたが,ガチフロキサシンに比べると
の報告は続いているというのが現状であ
血糖症を,470 人が高血糖症を経験した.
関連性は低かった(調整後オッズ比 1.5,
る.
解析に際しては,血糖値に影響する種々
95%信頼区間 1.2 − 2.0).しかしモキシ
後 オ ッ ズ 比 9.0,95% 信 頼 区 間 1.3 −
の因子で調整がされた(過去 2 年間に血
フロキサシン,またはシプロフロキサシ
(2)欧米および日本におけるガチフロ
糖異常により入院した回数,理由を問わ
ンでの治療後には,低血糖症のオッズは
キサシンによる血糖異常の害の規模と推
ず過去に入院をした回数,過去に内分泌
高くなかった.高血糖については,ガチ
移
専門家,内科医,または家庭医を受診し
フロキサシン以外のフルオロキノロン剤
1)米国,カナダにおける報告
た日数とともに,肝臓病,腎障害,アル
は(マクロライドと比べて),オッズ比に
Public Citizen Health Research Group
コール乱用,過去 180 日以内のインスリ
有意差はみられなかった.この結果は,
ン,経口血糖降下剤使用など)
.マクロ
ガチフロキサシンがほかのフルオロキノ
5)
の調査 によると,米国ではこれまで 388
(毎月1回 28 日発行)
第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
51
ロンやマクロライド,セファロスポリン
よりも高い割合で,血糖異常イベントに
関連があることを強く示している.医薬
品医療機器総合機構の情報 17)では,2002
年∼ 2004 年に合計高血糖 82 件,糖尿病
7 件,糖尿病性昏睡4件が報告されてい
る.低血糖は 170 件,低血糖性昏睡は 11
件報告されている
(表2).死亡例につい
ては不明である.
日本では処方件数が不明であるため,
処方件数あたりの害反応の頻度は不明で
あ る が,医 薬 品 医 療 機 器 安 全 性 情 報
No18813) による発売(薬価収載 2002 年 6
月 7 日)から 2003 年 2 月末日までの服
用者数(420 万人),およびそれ以後の市
場規模から計算すると 14),100 万人あた
りの血糖異常の頻度は約 50 人と推定さ
図1:膵β細胞におけるインスリン分泌調節の機序を示す模式図
GLUT2:グルコーストランスポーター,SUR1:スルフォニルウレア受容体
れ,米国における頻度よりやや多くな
上昇すると,グルコースは膵β細胞のグ
れない.SU 剤は一般に,インスリン分
る.実際の害反応のうちの一部しか報告
ルコーストランスポーター(GLUT2)に
泌顆粒に傷害を与えることで,長期的に
されていないことを考慮すれば,実態は
より細胞内に取り込まれ,ミトコンドリ
は膵β細胞の減少を招き,より早期に耐
もっと多いであろう.
アで ATP が産生される.ATP 濃度が上
糖能異常を促進させる危険性が指摘され
+
昇すると,ATP 感受性 K チャネルが閉
+
ている 21).
(3)ガチフロキサシンによる血糖への
じる.K チャネルが閉じると,細胞膜
SU 剤の中では承認が最も新しい,グ
影響と異常発現の機序
の脱分極が生じ,これが電位依存性 Ca
リメピリド(アマリール 1999 年承認)
++
ガチフロキサシンでなぜ血糖異常が起
チャネルを開き,Ca
が細胞内に流入
の新薬承認情報集 21)(p136)を見ても,
こるかを考えるには,まず SU 系経口血
し,これがインスリンの分泌を促進す
ラットでは3か月目には 1mg/kg 群で血
糖降下剤の作用について知っておく必要
る.インスリンはβ細胞内に貯蔵されて
糖値が上昇している.オスでは有意では
がある(図1)
.
いるインスリン分泌顆粒からβ細胞外に
ないが増加傾向(対照血糖値 5.0mmol/L
1)
SU 剤系経口血糖降下剤の作用と毒性
放出される.SU 剤はスルフォニルウレ
vs 1mg/kg 群 6.2mmol/L)があり,
SU剤は,
サルファ剤(p-amino-benzene-
ア受容体(SUR1)に結合し K+ チャネル
メ ス で は 有 意 で あ っ た(対 照 血 糖 値
sulfonamido-isopropylthiadiazole)を 使
を阻害(閉鎖)するため,細胞膜の脱分
4.6mmol/L vs 1mg/kg 群
用中の腸チフス患者の血糖値が低下した
極を生じるから,以下はグルコースがβ
6.3mmol/L).6 か月目にはオス,メスと
(1942 年)ことがきっかけで発見された
細胞内に取り込まれたときと同様な反応
も有意に上昇した.そして,その1段階
薬剤であり,このことは動物実験でも確
を引き起こし,最終的にはインスリンが
上の用量(50mg/kg)では,明らかなβ
認されていた 15,16).
分泌される 16).(註 a)
細胞のインスリン分泌顆粒減少を認めて
SU 剤は一般に,使用開始後短期間は
膵臓インスリン含有量は,膵β細胞の
い る.1mg/kg も 体 表 面 積 あ た り 用 量
15)
血糖降下作用を発揮するが,長期間使用
顆粒の量によく比例し ,膵臓 80%除去
は,ヒトでの 0.17mg/kg に相当し,ヒト
するに従い,徐々に効果が減退し,つい
で糖尿病が急速に発生し,進展程度は残
用量 0.1mg/kg に近い.
には無効になり血糖が逆に上昇し始め
余膵のβ細胞の変性程度によく比例す
イヌ(体重 15kg 程度を用いた6か月実
15)
る.い わ ゆ る 二 次 性 無 効(secondary
る .β細胞を選択的に変性させる物質
験)では 0.8mg/kg でオス,メスともに
failure)の現象である 17,18).また,トルブ
が糖尿病を起こしやすい.これらの物質
β細胞のインスリン分泌顆粒の減少を認
タミドの長期ランダム化比較試験
として有名なアロキサン(註 b)の他,
めている.この用量は体表面積換算でヒ
(UGDP)では,予想に反し循環器死亡
尿酸やディアルリン酸,デヒドロアスコ
トの 0.4mg/kg と同じであり,これより
が有意に増加,総死亡も低下するどころ
ルビン酸,ストレプトゾシン,マグネシ
低用量ではイヌの実験は実施されていな
か,むしろ増加する傾向が認められた
ウムとともに,キノロン剤がこの性質を
いので,もっと低用量でも,すなわちヒ
(プラシーボ群 10.2% vs トルブタミ
15)
有する物質としてあげられている .
ド群 14.7%,p=0.17)19).
ト用量でもイヌと同様のβ細胞のインス
リン分泌顆粒の減少が起こりうると考え
現在も SU 剤は使用されてはいるが,
SU 剤によるインスリンの枯渇:SU 剤は
られる.これがいわゆる,二次性無効の
UKPDS 研究でも結果の解釈は容易では
一般にインスリン分泌を促進し,血糖値
原因と考えられている.
なく,明瞭に寿命延長が得られるとの証
を低下させる一方,長期間投与し続ける
拠は得られていない 20).
と,膵β細胞内に貯蔵されている成熟し
2)ガチフロキサシンの血糖値に対する
たインスリン分泌顆粒を減少させ,イン
作用と毒性(動物)
膵β細胞からのインスリン分泌や SU
スリンの枯渇状態を生じさせる.そのた
動物の膵β細胞の試験管培養の研究に
剤の血糖降下作用の機序は次のように考
め,インスリンが枯渇した状態でさらに
よると,ガチフロキサシンは膵β細胞A
えられている.血中のグルコース濃度が
SU 剤を投与してもインスリンは分泌さ
TP感受性K+チャネルを阻害するため,
第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
52
表3-a:4 週使用後の糖負荷試験(GTT)
−血糖値 (mg/dL)
前
30-45 分
80 分
120-140 分
対照
126 ± 9
141 ± 22
191 ± 50
172 ± 66
270mg/kg
144 ± 17
244 ± 35
212 ± 56
199 ± 21
810mg/kg
225 ± 90*
460 ± 101*
391 ± 140*
431 ± 158*
(毎月1回 28 日発行)
日よりも相当低いと考えられる.
企 業 は 申 請 概 要 に お い て,
「市 販 の
ニューキノロン系抗菌剤の中には,イヌ
での無毒性量が臨床用量とほぼ同等なも
のとして,オフロキサシンやレボフロキ
サシンが,臨床用量を下回るものとし
表3-b:4 週使用後の糖負荷試験(GTT)
−インスリン (ng/mL)
て,スパロフロキサシンが知られてい
対照
前
0.658 ± 0.231
30-45 分
2.108 ± 1.438
80 分
1.119 ± 0.614
120-140 分
0.843 ± 0.546
* 対照に対して p<0.05
る」とし,安全であると主張しようとし
270mg/kg
0.616 ± 0.186
1.107 ± 0.606
0.833 ± 0.465
0.866 ± 0.576
810mg/kg
0.846 ± 0.606
0.465 ± 0.269*
0.971 ± 0.690
0.956 ± 0.763
ていないことについての特別のコメント
はない.
さらに,その作用機序からしてガチフ
図2:ガチフロキサシン 4 週使用前後の糖負荷試験(ラット)
a) 血糖値
ているが,ラットの無影響量が決められ
b)インスリン
ロキサシンの血糖異常が決定的であるた
め,メーカーではガチフロキサシンを4
週間投与後に糖負荷試験を実施し,血糖
値とインスリン値の変化を調べた 10-b).
表3-a,-b,図2-a-b はその結果である.
30 分∼ 45 分後の血糖値が対照群に比し
て高く,30 分∼ 45 分後のインスリン値
は有意ではないといっても,対照群に比
して半分に過ぎない.また,膵β細胞内
の空胞変性やインスリン染色,C−ペプ
チド染色による染色性の低下などは対照
群には全くなく,810mg/kg 群に著明に
表れた形態学的変化が,270mg/kg 群に
も多くの動物に認められた(6匹中6匹
ないしは4匹など)
.すなわち,インス
リン分泌顆粒内のインスリン量やその前
駆物質であるC−ペプチドの減少が明瞭
インスリンの分離を促し,SU 剤と同様
の機序で低血糖症を引き起こす
22,23)
.
(1 日 400mg)を大幅に下回っている.
であった.
最高血中濃度(C max)で比較しても,
アポトーシスを起こした細胞の識別に
一方,ガチフロキサシンの申請資料概
イヌ 26 週の最大無影響量 6mg/kg では
用いられる TUNEL 陽性細胞を有する膵
要(新薬承認情報集)10-b) では,膵β細
1.62 ∼ 2.10 μ g/mL,ヒト 200mg の単回
島の割合(%)にも有意差はなかったと
胞の空胞変性,インスリン分泌顆粒の減
投与では 1.44 ∼ 1.71 μ g/mL であるの
しているが,陽性細胞が1個あった膵島
少を引き起こし,インスリン分泌を減少
で,ほ ぼ こ の 用 量 に 相 当 し,1 日 用 量
の割合は,対照群 0.7 ± 0.8%,270mg/kg
し,高血糖症を引き起こすことが明瞭に
(400mg)での血中濃度を大幅に下回っ
群 1.8 ± 2.5%,810mg/kg 群 5.3 ± 4.7%
記載されている.サルの 13 週反復毒性
ている.
であり,陽性細胞が少なくとも1個あっ
試験(亜急性毒性試験),ラットおよびイ
ラットでは,最低用量である 30mg/kg
た 膵 島 は,対 照 群 1.4%,270mg/kg 群
ヌの 26 か月反復毒性試験(慢性毒性試
(ヒト相当量 5mg/kg:250mg)という
1.8%,810mg/kg 群 5.6%であり,有意の
験)では,膵β細胞の空胞化だけでなく,
ヒト常用量よりはるかに低い用量でも,
差ではないにしても,用量反応関係の傾
インスリン分泌顆粒の減少を認めてい
膵β細胞の空胞変性やインスリン分泌顆
向が明瞭である.わずか4週間でこの程
る.そして,その反応は,どの動物,ど
粒の減少を認めているため,安全量が決
度の変化であれば,もう少し長期間使用
の期間でも用量- 反応関係が認められて
められていない.したがって,安全量は
すれば有意の差が出る可能性は高いと思
いる.
ヒト臨床用量よりもはるかに低いと考え
われる.
サル 13 週でインスリン分泌顆粒減少
られる.
ラットにおける 270mg/kg は,ヒトで
が認められた最低用量は 15mg/kg(ヒト
ラットの 10mg/kg 投与 14 日目では,
はほぼ 45mg/kg に相当する.無影響量
体表面積換算 5mg/kg),ラット 26 週で
C max は 0.90 μ g/mL である(1 日目 0.76
はさらに少ないはずである.体重の少な
認められた最低用量は 30mg/kg(ヒト体
μg/mL).血中濃度の上昇は用量に比
い人ではヒト用量は 10mg/kg であるか
表面積換算 5mg/kg),イヌ 26 週で認め
例する(線形の体内動態を示す)ため,
ら,確実な影響が,ヒト用量の 4.5 倍で
られた最低用量は 12mg/kg(ヒト体表面
30mg/kg で は 2.7 μ g/mL(1 日 目 2.3
も動物に認められている.しかも,わず
積換算 6mg/kg)
,イヌ 26 週で認められ
μg/mL)と推定される.この濃度はヒ
か4週間で少数の動物を用いて証明でき
なかった最高用量は 6mg/kg(ヒト体表
ト 200mg の単回投与でのC max(1.44
たのであるから,長期の使用ではさらに
面積換算 3mg/kg)
であった.3mg/kg は
∼ 1.71 μg/mL)を2倍した濃度(2.88
少量で同様の毒性変化が起きるであろ
体 重 50kg の ヒ ト で は 150mg / 日,
∼ 3.42/ μL)よりも少ない.ヒトでの安
う.ヒトで多数が使用すれば,常用量で
5mg/kg は 250mg /日であり,臨床用量
全な量は,常用量とされている 400mg /
も大きな影響が現われることは当然予測
(毎月1回 28 日発行)
第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
53
80mg/dL 対して,800mg 群は 100mg/dL
3A
血糖値
を超えており血糖値の上昇傾向を認めて
いる.
また,第 IV 相試験においては,経口血
血
糖
値
︵
mg
糖降下剤服用者も非服用者も3日目以降
平均で 40mg/dL 空腹時血糖値が上昇し
ているとされる 5).
/
dL
︶
②おそらく日本において実施された静脈
内投与第Ⅰ相試験
ガチフロキサシンの申請資料概要に
は,静注によるヒト第Ⅰ相試験の結果が
3B
ごく簡単に紹介されている(註 c).この
インスリン値
第Ⅰ相試験は,健常者に30分間かけて単
回静脈内投与した際の空腹時血糖値およ
イ
ン
ス
リ
ン
値
︵
μU
びインスリン濃度が用量別に調べられて
mL
︶
を除く 100mg 以上群(100mg,200mg,
いる.表4はガチフロキサシンの申請概
要(新薬承認情報集)6-a)の表ト‐5(p401)
から,血糖値の変動を抜き出したもので
ある.プラシーボ群がないが,50mg 群
/
300mg)において,血糖値が前値に比較
して有意に低下した.
この表のままでも,用量の増加にした
図3:ガチフロキサシン 200mg(10mg/mL),200mg(1mg/mL),400mg(2mg/mL),
600mg(2mg/mL),800mg(2mg/mL) を連日静脈内投与した 17 日目の,
平均空腹時血糖値 ( 3A ),平均空腹時インスリン値(3B)
訳註(A)
:プラシーボ群以外すべてのガチフロキサシン群で点滴静注終了時(1時
間後)の血糖値が低下
(B)
:プラシーボ群および 200mg(1mg/mL)
(→)以外,すべてのガチフロキ
サシン群で点滴静注終了時(1時間後),インスリン値が上昇
がって血糖値が低下している傾向が認め
られるが,血糖値の前値との差(⊿)の
前値に対する%(%⊿)でみると,用量
との関係は一層明らかとなる.ガチフロ
キサシンの用量(対数値)と%⊿との関
係をみたものが図4だが,有意の相関が
認 め ら れ る(相 関 係 数 r = 0.98939,
できたと考える.
ない.単に精度の悪いグラフが示されて
p<0.02).なお,常数を用いた用量との
また,アロキサンと同様の作用を有す
いるだけだが,このグラフ(図3 A,B)
相 関 も 有 意 で あ っ た(r = 0.95551,
る物質としてある種のキノロン剤があげ
をみる限り,800mg 群では平均血糖値が
p<0.05).経口剤使用時と,1 時間で点滴
られていることもその機序の可能性を考
90mg/dL から 70mg/dL 程度まで低下し
静注時の薬物動態(C max,T max,
える上で重要である.したがって,SU
ているので,有意であった可能性があ
AUC,T 1/2 など)は,使用量が同じで
剤と同様に,ガチフロキサシンもATP
る.
あれば,ほぼ同じであることが米国の添
依存性K+チャネルやCa2+チャネルに
インスリン値は,プラシーボ群が8
付文書 26) で示されている.したがって,
影響を与えることにより低血糖を引き起
μ U/mL,に 比 し て 800mg 群 で は 4
30 分かけて静注した場合,1時間かけた
こすと同時に,短期間の使用でも(3日
μ U/mL 未満であり,プラシーボ群は 1
場合よりは,やや最高血中濃度(C max)
以降には)高血糖を引き起こす可能性が
時間後には低下しているが,ガチフロキ
が増加すると思われるが,経口使用した
あることは,動物実験から十分予測でき
サシン群は 200mg 群を除いて,すべての
場合とそれほど大きく異なることはない
たと言える.
群で投与前に比較して上昇している.
はずである.
なお,20 日
(連日点滴静注終了3日目)
この試験のインスリン値の変動を同様
の 空 腹 時 血 糖 値 は,プ ラ シ ー ボ 群 の
に表5に示した.300mg 群では前値と
3)ヒト第Ⅰ相試験におけるガチフロキ
サシンの血糖値への影響
① 1 時間静注反復試験
図3は,健康人を対照とし,ガチフロ
表4:ガチフロキサシン点滴静注後の血糖値(空腹時血糖,30 分で点滴静注)
ガチフロキサシン
前
直後 ※
翌日
(24 時間後)
キサシンを1時間で点滴静注を 14 日間
用量
人数
値 %⊿
連日実施し,最終日の血糖値(2A)と
50mg
n=2
93
85
-8.6
95.5
100mg
インスリン値(2B)の時間的推移を示
したものである.血糖値の推移は,17 日
目(1日1回点滴静注 14 日目)のデー
タしか示されていない上に,数値データ
や有意差の有無などは一切記載されてい
n=6
102.0 ± 6.1
86.0 ± 3.2 *
-15.7
97.5 ± 5.6
200mg
n=6
96.0 ± 9.8
77.7 ± 9.1 *
-19.1
96.8 ± 5.1
300mg
n=6
99.8 ± 7.9
76.4 ± 11.6 *
-23.4
101.0 ± 8.8
平均値 (mg/dL) ±標準誤差 *:p<0.05 (前値に対して,対応のある t 検定)
※直後:30 分かけて点滴静注終了直後 第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
54
(毎月1回 28 日発行)
比較して有意に増加していた(p<0.05)
.
図4:ガチフロキサシン用量と血糖低下割合(%)との相関
200mg 群でも有意ではないものの大き
く上昇していた.200mg 群の平均値の
変動幅(39.1%増)は 300mg 群(33.3%
増)よりも大きく,点滴静注終了直後の
標 準 誤 差 も 大 き い(4.1 vs 1.9)
.し た
がって,大きく変動した人が 200mg 群に
いた可能性がある.最も血糖値の低下し
た高用量群においては,インスリン濃度
が上昇していた.
4)血糖に対するガチフロキサシンと他
のフルオロキノロン剤の違い(ヒト)
2000 年に公表された論文 25)では,2型
糖尿病患者(空腹時血糖値が 126mg/dL
表 5:インスリン
(IRI)
に対するガチフロキサシン点滴静注の影響
(30 分でガチフロキサシン点滴静注前後)
ガチフロキサシン
用量
前
人数
50mg
n=2
6
100mg
n=6
7.7 ± 1.6
200mg
n=6
300mg
n=6
直後 ※
値 5.7
%⊿
∼ 170mg/dL 糖尿病以外は健康なヒト)
を対象として,プラシーボ,ガチフロキ
翌日
サシン,シプロフロキサシンの経口剤の
(24 時間後)
影響が調べられた(図5).シプロフロキ
-5.0
7.8
サシン群(下段)におけるインスリンの
6.7 ± 1.5
-13.0
8.0 ± 1.1
変化,血糖値の変化は,プラシーボ群(上
6.4 ± 2.7
8.9 ± 4.1
39.1
7.2 ± 3.0
段)と全く同様であり,血糖値やインス
7.2 ± 1.6
9.6 ± 1.9 *
33.3
7.8 ± 1.8
リン値に対して何の影響もないことがわ
平均値 ( μ U/ m L) ±標準誤差 *:p<0.05
(前値に対して;対応のある t 検定)
※直後:30 分かけて点滴静注終了直後
A 血糖値
B インスリン値
プ
ラ
シ
ー
ボ
かる.しかし,ガチフロキサシン群(中
段)は 1 日目も 10 日目も,1 時間後イン
スリンが上昇し,血糖値が低下した(低
下の程度がプラシーボ群より大きい傾向
が見られるが,有意かどうかは不明)
.
ここで重要なことは,1 日目と 10 日目の
違いである.インスリンの上昇は,1日
目が大きく,10 日目に減退し,血糖値は
1日目の低下が大きく,10 日目の低下程
度が小さい.わずか 10 日でインスリン
ガ
チ
フ
ロ
キ
サ
シ
ン
分泌能が低下の傾向を認めていることは
長期使用による重大な影響を予測させる
(特に糖尿病患者に対して).
(4)まとめと承認審査の問題点
1)動物実験
SU 剤における低血糖発生と,二次性
シ
プ
ロ
フ
ロ
キ
サ
シ
ン
無効による高血糖の誘発は,十分に確立
している.ガチフロキサシンは,SU 剤
と同様の機序でインスリン分泌顆粒から
インスリンの遊離を促し,血中インスリ
ン濃度を高めて血糖値を低下させる.短
期間ではインスリン分泌能および耐糖能
は可逆的であるが,長期使用により,イ
図5:2型糖尿病患者に対するガチフロキサシン、シプロフロキサシン、
プラシーボ経口投与が血糖値,インスリン分泌におよぼす影響
ガチフロキサシンは 400mg を1日1回,シプロフロキサシンは 500mg を1日2回使用.投与後の
(A)血糖値と(B)血中インスリン値を,服用後6時間まで追跡したものであり,実線は投与1日目,
ンスリン分泌能および耐糖能の用量依存
的な低下を認めた.また,形態学的にも
不可逆性の変化(アポトーシスの増加)
を起こしうると考えられた.
点線は 10 日目の変化を示している.シプロフロキサシン群ではプラシーボ同様,血糖やインスリン値
に何の影響もないが,ガチフロキサシンの場合は投与後1日目のデータをみると,投与1時間後にイ
ンスリンが上昇し,血糖値は低下している.しかし,10 日目の曲線をみると血糖値の低下は少なくな
2)ヒト臨床試験
り,服薬1時間後にみられたインスリン分泌の高まりは少なくなっている.わずか 10 日でインスリン
ヒトでもランダム化比較試験(第Ⅰ相:
分泌能に重大な影響を与えていることがみてとれる.
30 分で静脈内注射直後)で,血糖値を有
(毎月1回 28 日発行)
第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
意に低下させ,その低下の程度は用量依
させることによる血中インスリンレベル
存性が明瞭であった.インスリンについ
を増加させる作用も指摘されている 16).
てはややばらつきがあるが,高用量では
註 b:アロキサンは,健康な動物に,人
血糖値の低下に応じてインスリン濃度が
工的にインスリン欠乏性糖尿病を作成す
上昇していた.
る手段として便利な方法として極めて有
第Ⅰ相試験で 14 日間連日使用した場
名である 18).
合には,高用量群で空腹時血糖が上昇し
註 c: 日本で実施されたかどうかは記載
ている可能性があった.
されておらず不明である.ただし,米国
2型糖尿病患者では,10 日間経口後,
におけるガチフロキサシン(Tequin)の
インスリン分泌能の低下傾向と,空腹時
添付文書記載の静注法による薬物動態
血糖値の上昇傾向を認めたため,長期使
は,1 時間かけた方法(Gajjar ら [32] と
用による重大な影響を予測させるデータ
基本的に同じ方法)が記載されている.
が,承認前に揃っていた.
したがって,30 分での静注は日本で実施
されたものと思われる.
3)危険であると判断できたので承認す
べきでなかった
以上のように,ガチフロキサシンの低
血糖と二次性高血糖の害は,承認前に十
分に判明していた.しかし日本では,低
血糖については一時的で程度は軽く,高
血糖についても,他のフルオロキノロン
剤と余り変わらず,可逆的な変化と解釈
されて承認された.
審 査 報 告 書 は た と え ば,
「サ ル の 60
mg/kg 投与群にみられた血糖減少傾向
の原因について,(中略) 申請者より
(中略)インスリン分泌顆粒の減少(中
略)の所見と血糖値低下との関連性は薄
いと考えられる.また,60mg/kg 投与群
では,軟便,体重の増加抑制傾向,血中
脂質の低下傾向が認められており,低栄
養状態との関連も考えられるとの回答を
得,了承した」6-b)としている.メーカー
の説明を審査センターは何の疑問もなく
受け入れ,承認してしまった.ガチフロ
キサシンによる低血糖 / 高血糖の害は,
他のフルオロキノロン剤よりはるかに著
しいものであり,利益が害を上回るとは
到底考えられない.承認されるべきでな
かったと結論する.
(5)現時点でとるべき措置
市販が継続されることにより,非糖尿
病患者が糖尿病を発症する危険性があ
り,慢性疾患に対する使用などで不可逆
的変化を生じるおそれもある.たとえ欧
州のように適応症を限ってみても,この
適応症に対しては,より安全な薬剤が存
在する.
したがって,現時点で使用中止の措置
が必要であり,回収も必要であると考え
る.
註 a: SU 剤にはこの主な作用のほか,イ
ンスリンの肝臓でのクリアランスを低下
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く下記の時期に発行されたものと思われ
るが,出所不明:確認中として添付する)
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press/pr/448203en.pdf
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http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/03
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12)厚生労働省医薬局,ガチフロキサシン水和
物による重篤な低血糖,
高血糖について,
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薬品医療機器安全性情報 No188, 2003 年
4月
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/04
55
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13)
医薬品医療機器総合機構
b)ガチフロキサシン水和物 内服薬 件数
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menu_fukusayou_base.jsp
この 2004 年,2003 年,2002 年の報告件数
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20where%20PPI_SEQ=97 & key=PPI
第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
56
(毎月1回 28 日発行)
【EU における適応承認】局所進行性ま
非小細胞肺癌に対するエルロチニブ
たは転移性非小細胞肺癌で,少なくと
――ゲフィチニブ同様,確かな利点は未だ証明されていない――
* Erlotinib: Non small-cell lung cancer : like gefitinib, no established advantage
**Prescrire International 2006; 15(83): 86-89. も 1 回は化学療法レジメンを試みて失
敗したことのある患者が適応となる.
プレスクリール誌(仏)による評価:
局所進行性あるいは転移性の非小細胞
エルロチニブとゲフィチニブとを比較し
肺癌に対する化学療法の効果はまだほと
た論文はまだないが,両剤はほぼ同時に
んどない.
開発された薬であり,ゲフィチニブの方
二次/三次治療薬と
化学療法は,局所進行癌の放射線治療
は既存治療と比べて利点が証明されてい
し て,エ ル ロ チ ニ ブ
に対する補助療法としてみた場合,その
ないのだから,これは当然予想されるこ
の効果は限られてお
5 年生存率を絶対量として2%増やすに
とである.
り,そ の 臨 床 的 価 値
NOTHING NEW
非小細胞肺に対する
過ぎない.転移癌に対しては,一般に 2
は副作用の頻度が高
種類の細胞毒性剤を組み合わせて用い
2カ月の生存期間延長:これは過去に1
る.第一選択はシスプラチンだが,これ
−2回の化学療法レジメンを受けたが奏
と組み合わせる他剤に関しては一致した
功しなかった進行性転移性非小細胞肺癌
1件は 1079 人の患者を対象にエルロチ
見解がない.ある臨床試験では,シスプ
731 人を対象としたランダム化比較試験
ニブ+カルボプラチン+パクリタキセル
ラチンを基本とした化学療法が奏効しな
(RCT)である 3-6).患者はプラセボか経
とプラセボ+カルボプラチン+パクリタ
かった場合,ドセタキセル(75mg/m2)
口エルロチニブ 150mg/ 日のいずれかを
キセルとを比較したもの,もう1件は
が緩和ケアよりも約 3 カ月だけ生存期間
投与された(註b).
1172 人の患者を対象にエルロチニブ+
中央値を延ばす(7.5 カ月 vs 4.6 カ月)
生存期間の中央値はエルロチニブのほ
シスプラチン+ゲムシタビンとプラセボ
という結果をしめした(註 a)
.最近のい
うがプラセボよりも有意に長かった.
+シスプラチン+ゲムシタビンとを比較
くつかの治療ガイドラインでは,ドセタ
いくつかのサブグループ解析で反応率が
したものである.いずれも生存期間の中
キセルを基本にした化学療法は全身状態
高かったのは女性(14.4% vs 男性 6%)
,
央値でみると,2 群間に有意の差はな
の良い患者に限って考慮すべきだとして
腺癌患者(13.9% vs 他の組織型 4.5%),
かった(それぞれ 324 日 vs 319 日と,301
日 vs 309 日)
.
1)
いため減殺される.
いる .
非喫煙者(24.7% vs 喫煙者 3.9%).しか
上皮成長因子受容体(EGFR)は腫瘍
し,このような事後処理的に行ったサブ
の増大と関係していると見られており,
グループ解析が提供するエビデンスはき
Ⅱ.ゲフィチニブと同様な副作用
ゲフィチニブはこの EGFR のチロシンキ
わめて低く,特別に企画された試験で確
ゲフィチニブで知られている主な副作
ナーゼ活性を阻害する 2) とみられてい
認しなければならない.
用は皮膚,消化器および肺上皮を冒すも
た.フランスでは非小細胞肺癌の三次治
のである.ゲフィチニブ単独治療の臨床
療薬として,ときにゲフィチニブの例外
EGF 受容体の状態:エルロチニブを三次
試験では,約 15%の患者が有害事象のた
的使用(compassionate use)が行われて
治療薬として検討したプラセボとの比較
めに試験を中止している 2).最も頻繁に
いる.このような使用の効果は証明され
試験では,約3分の2の症例で患者の腫
みられるのは消化器症状(下痢 48%,嘔
4,5)
.
気 13%,嘔吐 12%);皮膚粘膜症状(非
ておらず,重大な副作用(特に間質性肺
瘍細胞の EGFR の状態は不明だった
炎)を引き起こす場合がある.米国では
従って反応が EGFR の存在と相関するか
特定の皮疹 43%)や乾皮症(13%)
,座
ゲフィチニブ承認時の適応を制限するた
どうかはきめられない.メーカーはま
瘡(25%)であった.間質性肺炎は約 1%
め,2005 年にゲフィチニブの添付文書が
た,腫瘍細胞が EGFR を発現している患
の患者に起こり,うち 3 分の 1 は致死的
改訂された.エルロチニブ #( 日本では
者 57 人を対象とした非比較試験(single
である(訳注:日本のプロスペクティブ
承認申請中 ) も EGFR のチロシンキナー
arm trial)の結果を報告しているが,そ
調査では,発症率 5.8%,死亡率 2.5%で
ゼ活性を阻害する薬剤であり,非小細胞
の反応率は 12.3%,生存期間の中央値は
あった).ゲフィチニブはまた視力減退
肺癌に対する二次治療薬として欧州中央
8.4 カ 月(95% 信 頼 区 間:4.8 ∼ 13.9 カ
(ゲフィチニブ単独治療で 2%)や結膜
化市販承認手続きにより承認された薬で
月)だった.これらの結果はゲフィチニ
炎,角膜びらんなどの眼科的障害も引き
ある.本論では,このような条件下でみ
ブとドセタキセルを二次治療薬として用
起こす 2).
5)
ても,エルロチニブの有益性が有害作用
いた場合の成績と類似している .
エルロチニブの副作用プロフィール
を上回るか否かを検討してみる.
2005 年 11 月 3 日づけの欧州認可委員
は,二次∼三次治療に関するプラセボと
会における科学的討議によれば,現在進
の比較試験をもとに考えると,ゲフィチ
Ⅰ.2 カ月の生存期間延長― 1 臨床試験
行中の2件の試験が,EGFR の状態やこ
ニブのそれと類似しているように思われ
の結果
れら受容体の変異の可能性に基づいて,
る.
非小細胞肺癌に対するエルロチニブの
3)
エルロチニブの効果を判定中である .
評価としては,二次ないし三次治療薬と
消化器障害――下痢など:下痢はエルロ
しての効果をみたプラセボ比較試験 1 件
一次治療―― 2000 人以上の患者を対象
チニブ治療を行った患者の 54%に(重篤
と,他の化学療法との併用による一次治
とした2件の試験ではプラセボと違いの
なものは 7%)
,プラセボ群の 18%にみ
療薬としての効果をみたプラセボ比較試
ない結果:まだ化学療法を受けたことの
られる.その他の消化器副作用としては
験 2 件がある.
ない非小細胞肺癌の患者を対象とする2
嘔気(33% vs 24%)嘔吐(23% vs 19%),
非小細胞肺癌に対する三次治療として
件のランダム化二重遮蔽試験
4,5,7)
がある.
口内炎(17% vs 3%)(但し重症の口内
(毎月1回 28 日発行)
第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
ゲフィチニブ:期待外れの結果
日 本 で は 3,350 人 の 患 者 を 対 象 に,
57
炎は 1%)などがある 4).
2003 年 6 月∼ 2004 年 3 月にかけてプロス
非小細胞肺癌に対するゲフィチニブの
ペクティブな研究が行われた 10).ゲフィ
皮膚粘膜反応は頻:発疹はエルロチニブ
使用について,プレスクリール誌が論評
チニブ治療を開始して最初の 8 週間の観
で治療した患者の 75%(重症例は 9%),
を行ったのは 2004 年だが ,それ以後も
察で,間質性肺炎の頻度は 5.45%と算出
プラセボ群の 17%にみられる.そう痒
さらに多くの臨床データが集まった.
された.
症は 13%(プラセボ群では 5%)
,乾皮
プラセボとの比較試験:結果は期待外れ
男性,喫煙,特発性肺線維症という 3
進行性あるいは転移性非小細胞肺癌
つのリスクファクターが同定された .
で,すでに 1 ∼2の化学療法レジメンを
急性前骨髄球性白血病のリスク増大?
結膜炎とドライアイ:結膜炎はエルロチ
受けた患者 1692 人を対象にランダム割
2001 年 11 月 ∼ 2004 年 12 月 の 間 に,
ニブを投与された患者の 12%に,プラセ
付を行い,二重遮蔽法によりゲフィチニ
日本の研究チームが行ったレトロスペク
ボ群では 2%に見られる.ドライアイは
ブ(250mg/ 日)またはプラセボの投与
ティブな研究によれば,非小細胞肺癌に
エルロチニブ使用患者の 12%に,プラセ
を行った.いずれの群に対しても適切な
対してゲフィチニブを投与された患者
緩和ケアが追加された 2).生存期間の中
108 人のうち 3 人に急性前骨髄球性白血
央値はゲフィチニブ群では 5.6 カ月,プ
病が見つかった 11).これらの患者は治療
ラセボ群では 5.1 カ月であり,両者間に
開始後 15 ∼ 25 カ月で白血病を発現して
有意差はなかった.東洋人の非喫煙者で
いた.【編集部註:詳細は TIP 誌 2006;
は生存期間が長いように見受けられた
21: 13 に詳しく紹介したので省略する】
(訳注:背景因子がゲフィチニブ群に有
実地診療上:臨床試験だけで使用すべき
利なためと考えられる:TIP 誌 2005 年3
最近の臨床研究ではゲフィチニブの使
(0.8%)に間質性肺炎が起こり,うち 1
月号)全体としての有意差はなかったこ
用を支持するデータはない.正当化でき
人が死亡している 4).
とを考慮すれば,これらのサブグループ
ることと言えば,せいぜい,肺癌患者の
全般的に言えば,臨床試験でエルロチ
解析結果に関しては特別に計画した臨床
中から中長期に使用して害が比較的少な
ニブを投与された患者の 0.6%が間質性
試験を行って確認することが必要であ
く数ヵ月以上の延命効果が得られるサブ
肺 炎 を 起 こ し,プ ラ セ ボ 投 与 群 で は
る.
グループを見出すための臨床研究として
0.2%だった 3).
2000 年 8 月から 2003 年 3 月の間に,
用いることぐらいである.
米国では 21,064 人の患者がゲフィチニブ
訳註:SWOG 試験 14) ではゲフィチニブの方が
生存期間を短縮するという更に不利な結果
だった.
註 a: この臨床試験の後,米国ではゲフィチ
ニブの添付文書が改訂された.ゲフィチニブ
をすでに使用中で臨床的に改善のあった患者
以外は,もはや臨床試験外での使用ができなく
なった(文献 12).スイスでは,ゲフィチニブ
の使用は既に同薬で改善の見られた患者や他
に代替薬のない患者(個別承認手続きが必要)
だけに限定された.
1)
による治療を受けている .メーカーか
3)
らの報告によれば,生存期間の中央値は
約 5.3 カ月であり,比較試験や用量設定
試験で得た結果と同じ成績を保っている
(註 a および訳註).
仮説──確かなデータの必要性
臨床試験でゲフィチニブを投与された
患者のうちの 10 ∼ 20%はより長期の生
である .3 件の予備的研究(うち 2 件は
4)
レトロスペクティブな研究)により,ゲ
フィチニブに反応した患者の多くは,そ
の 腫 瘍 の EGF 受 容 体 に 遺 伝 子 変 異 を
持っていた可能性があることが示唆され
ている.これらの患者の中には女性,東
洋人,非喫煙者が含まれていたが,これ
らの研究では生存期間を調べていない.
この仮説を検証するため現在プロスペ
クティブな試験が進行中である
.
5-7)
間質性肺炎の危険性:1 ∼ 5%
米国では,ゲフィチニブを使用した
21,064 人の患者中 2.3%が治療に起因す
る重篤な有害事象を経験し,0.3%はゲ
フィチニブに起因して死亡している .
3)
2003 年 9 月現在,ゲフィチニブによる
治療を受けた患者 92,750 人中の間質性肺
炎の頻度は 0.99%であり,その約 3 分の
1(0.36%)が死亡している 8).日本での
報告頻度は他の国々よりも高い(1.86%
vs 0.34%)8,9).
ボ群の 3%にみられる 4).
間質性肺炎:あるプラセボとの比較試験
ではエルロチニブ使用患者の4人
(0.8%)に間質性肺炎が起こり,うち 1
人 は 死 亡 し た.プ ラ セ ボ 群 で は 2 人
感染症:エルロチニブ投与患者の 32%
に,プラセボ投与患者の 20%に非特定感
染症が起こる.これら感染症ケースの多
くは好中球減少を伴わない 4).
CYP 3 A4:エルロチニブは,ゲフィチ
ニブと同様に,肝臓で主としてチトク
ローム P450 アイソザイム CYP34 により
代謝されるため,薬物相互作用を引き起
存期間が得られたが,この違いが治療の
結果なのか自然経過によるものかは不明
症は 12%(プラセボは 4%)に起こる 4).
9)
文 献
1)Prescrire Editorial Staff "Gefinitib"
Prescrire Int 2004; 13(73): 168.
2)Thatcher N et al. Proc Am Assoc
Cancer Res 2005; 46: abstr. L-6 + 17
shides.
3)Ochs J et al. J Clin Oncol 2004;22
(14
suppl)
:7060.
4)Madelaine J et al. Rev Mal Respir 2004;
21: 881.
5)Guillermo Paez J et al. Science 2004;
304: 1497.
6)Lynch TJ et al. N Engl J Med 2004; 350
(21): 2129.
7)Huang SF et al. Clin Cancer Res 2004;
10(24): 8195.
8)
Frampton JE et al. Drugs 2004; 64
(21|:2475.
9)Seto T et al. J Clin Oncol 2004; 22
(USuppl.):7064.
10)"Japanese Iressa study sheds light on
risk factors" Scrip 2004;(3015): 22.
11)Uchida A et al. Amer Society of Clinical
Oncology (ASCO)Annual Meeting
2005; abstr 7189(1 page)
12)"Astra Zeneca annouces US label change
for Iressa(gefitinib)and new distribution program")Press release 17 June
2005: 3 pages.
13)Astra Zeneca "Informatios relatives a
Iressa en Suisse" 28 Nov 2005: 2 pages.
14)http://www.asco.org/portal/site/ASCO
こすリスクが高い 7).したがって,ケト
コナゾール(CYP3A4 阻害作用あり)と
の併用でエルロチニブの生体利用効率は
86%だけ高まる.一方,エルロチニブを
リファンピシン(CYP3A4 誘導作用あ
り)を併用した場合はエルロチニブの生
体利用効率は 69%だけ減少する.
臨床試験では INR の上昇と出血(特に
消化管出血)が報告されており,これら
のうちの一部はエルロチニブをワルファ
リンや非ステロイド抗炎症剤と併用した
ときに起こっている 8).
Ⅲ.実地診療上:その益はリスクにより
減殺
他の多くの新薬の例と同様に,エルロ
チニブに関しても,非小細胞肺癌に対す
る二次ないし三次治療薬としての価値を
検討した比較試験はまだ 1 件しかない.
入手しうる当該研究がプラセボとのラン
ダム化二重遮蔽試験であったとしても,
58
たった 1 件の臨床試験から確実な結論を
引き出すことは困難である.この試験で
は,対象患者は1ないし2種の化学療法
第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
Tarceva" 25 April 2005: 10 pages.
9)Prescrire Redaction Rev Prescrire 2005;
25(264): 572.
レジメンを既に受けており,適切な緩和
ケアも受けているのだが,エルロチニブ
による生存期間の延長は平均僅か 2 カ月
に過ぎないし,生存の質(quality of survival)も改善していない.一方,エルロ
チニブには多くの副作用がある.それま
で未治療の患者を対象として含む 2 件の
臨床試験では,エルロチニブを他の化学
療法剤に追加してみても,プラセボに勝
る利点は示されなかった.
要約すると,エルロチニブの危険対益
バランスは,これと化学的関連を有する
ゲフィチニブのそれと比べても勝るとは
思われない.エルロチニブをルーチンの
臨床条件で用いる正当性はない.現在進
行中の臨床試験では,この薬を使うこと
で利益の期待できる“レスポンダー”を
探すための試みが行われている.
註 a:欧州では,非小細胞肺癌の二次治療
薬としてペメトレキセドも承認されてお
り,これはメトトレキサートに似た葉酸
代謝拮抗剤の一種.この薬に関して入手
できるドセタキセルとの比較試験は 1 件
しかないが,この薬がドセタキセルより
勝るということは証明されていない(文
献 9 参照)
.
註 b:一部の専門家の中には,癌患者に対
して二重遮蔽試験を実施するのは困難だ
と信じている者もいるが,本試験はその
ような研究が実現可能なことを示してい
る.
文 献
1)Prescrire Redaction Rev Prescrire 2004;
24
(250): 369.
2)Prescrire Editorial Staff "Gefitinib"
Prescrire Int 2004; 13(73): 168.
3)
European Medicines Agency - Committee
for Human Medicinal Products "European
Public Assessment Report Tarceva Scientific discussion": 44 pages, placed
online on the EMEA website on 3
November 2005.
4)
U.S. Food and Drug Administration Center for Drug Evaluation and Research
"Application number 21-743. Medical
review" & October 2004: 96 pages.
5)
U.S. Food and Drug Administration Center for Drug Evaluation and Research
"Application number 21-743. Statistical
review" 7 October 2004: 50 pages.
6)
Shepherd FA et al. N Engl J Med 2005;
353(2): 123-132 +letters 353(16): 1739.
7)Herbs! RS et al. J Clin Oncol 2005; 23
(25)
; 5892
8)French Health Products Safety Agency
"Resumedes caracterisiiques du produit -
アミオダロン(アンカロン)による肺胞出
血
冠動脈疾患,発作性心房細動,うっ血性
心不全の既往があり,心室性頻拍症で除細
動器を埋め込んでいる 69 才男性がアミオ
ダロン 200mg/day の投与を受けた.約8
カ月後,激しい進行性の呼吸困難を訴えて
来院,全身の脱力,体重減少,乾性咳嗽が
見られた.発汗,頻呼吸を示し,体温 38.6
℃,血圧 100/64mm Hg,呼吸数 24 回 / 分
で,右下肺にクラックルを聴取した.胸部
X-p では,右上肺に浸潤影を認めた.気管
支ファイバーで得られた分泌物からは,細
菌は分離されなかった.TBLB 所見は,肺
胞出血に合致し,BAL では,多量のヘモジ
デリンを貪食したマクロファージが見られ
た.アミオダロンを中止し,IV 副腎皮質ホ
ルモン投与を行って,4日後には酸素濃度
は正常化して症状も軽減した.その後1年
間の follow-up で,特に異常を認めない.
Iskandar SB et al. Southern Med.J. 99:
383, 2006
アミオダロン(アンカロン)/シンバスタ
チン(リポバス)併用時に見られた横紋筋
融解と肝および腎機能障害
糖尿病,高血圧症,高脂血症および軽い
腎不全を有し,以前にフルバスタチンやプ
ラバスタチンを服用したことがあり,特に
副作用を認めなかった 72才男性が,冠動脈
バ イ パ ス 術 を 受 け,ア ミ オ ダ ロ ン
200mg/day の内服を開始した.約1カ月
経って,シンバスタチン 80mg/day を開始
したところ,1カ月後に,大腿の痛みと脱
力,褐色尿を来して入院した.CPK 19,620
U/L(normal:60 ∼ 224)
,BUN 50mg/dl,
AST 912,ALT 748,ク レ ア チ ニ ン
2.6mg/dl,血清ミオグロビン 13,877 μg/L
(<110)
,尿中ミオグロビン 71,100
(<50)
であった.シンバスタチンを中止し,補液
と強制アルカリ利尿を行い,2週間後,
CPK 323,AST 37,ALT 145,クレアチ
ニ ン 1.7mg/dl に 改 善 し た.3カ 月 後,
AST 32,ALT 49,CPK 640 であった.甲
状腺機能は正常であった.
Ricaurte B et al. Ann.Pharmacotherapy
40: 753, 2006
エタネルセプト(エンブレル)による感染
性関節炎
関節リウマチに対して,プレドニゾロン
(毎月1回 28 日発行)
とメトトレキサートによる治療を受けてい
たが 66 才男性の処方にエタネルセプト
25mg を追加した.2年後,右膝の痛みで来
院,関節液の穿刺で,グラム陽性菌を認め,
MRSA と判明した.エタネルセプトとメ
トトレキサートを中止,関節鏡による洗浄
を行い,セフトリアキソン IV 投与を行っ
た.患者は,忠告に反して,関節リウマチ
の症状の悪化に対して,エタネルセプト治
療を病院の外で再開した.セフトリアキソ
ン治療を始めて4週間後,関節の穿刺液の
培養で菌が検出されず,8週間のセフトリ
アキソン治療の後,退院した.2週間後,歩
行可能となったが,右膝と手頚の圧痛と腫
脹が見られるようになり,手関節と膝関節
の穿刺で,膿状の関節液が採取され,培養
で,MRSA の発育を認めた.CRP 143mg/
L
(normal < 3)
,Hb 9.0g/dl で,血 沈
107mm/h であった.レントゲンで,両側
手根間の狭細化と右膝に多量の滲出液が認
められた.再び,エタネルセプトを中止
し,膝と手関節に対して外科的治療を行っ
た.術後,セフトリアキソン IV 投与を
行って退院,長期に亘る dicloxacillin 内服
を開始した.4カ月後,感染の再発を認め
ない.
Mor A et al. J. Clin. Rheumatol. 12: 87,
2006
エタネルセプト/メトトレキサートによる
膿瘍
11 才女児が,若年性関節リウマチに対し
て SC メトトレキサート 25mg 週1回の治
療を開始し,2カ月経ってエタネルセプト
25mg 週2回を開始した.2カ月後,虫刺さ
れの後,8 × 10cm の紅斑,38.9℃ の発熱,
左側腹部の圧痛で来院した.クリンダマイ
シンを内服したが,入院後,紅斑と圧痛が
急速に広がった.MRI 所見は壊死性筋膜
炎に合致,肝下面から腸骨の高さまで病変
が見られ,切開排膿した.筋膜生検では炎
症を示し,培養で MRSA の発育を認め,バ
ンコマイシンとクリンダマイシン投与を行
い,引き続き2週間,コトリモキサゾール
を投与した.この間,エタネルセプトとメ
トトレキサートは中止した.抗菌剤治療を
終了した後,メトトレキサートを再開し,
エタネルセプトは adalimumab に変更し
た.
Fitch PG et al. J.Rheumatol. 33:825,2006
インターフェロンα(スミフェロン)によ
るサルコイドーシス
40 才男性が,慢性 C 型肝炎に対してイン
ターフェロンαとリバビリンによる治療を
11 カ月間受けた後,倦怠感,食思不振,関
節痛,進行性の呼吸困難および咳嗽で来
院,両下肢に結節性紅斑様の皮膚病変を認
めた.WBC 3500/mm3,胸部 X-p と胸部
CT 上,両肺に間質陰影と肺門部リンパ節
(毎月1回 28 日発行)
腫大を認めた.TBLB の所見はサルコイ
ドーシスに合致した.インターフェロンα
とリバビリンを中止し,症状は徐々に改善
し,インターフェロンαを中止して12カ月
後,胸部X-p の異常所見は完全に消失した.
Alazemi et al. International J. Clin.
Practice 60: 201, 2006
ピルジカイニド(サンリズム)/セチリジ
ン(ジルテック)併用時に見られた不整脈
慢性腎不全(クレアチニン 12mg/dl)を
有 し,心 房 細 動 で ピ ル ジ カ イ ニ ド
150mg/day を服用している 72 才女性が,
椎間板ヘルニアで入院した.アトピー性皮
膚炎に対してセチリジン 20mg/day の内
服を始めたところ,
3日後,血圧 94/56mm
Hg で,めまいを訴えた.心電図では,洞
徐脈に,心室性期外収縮と幅の広い QRS
を 伴 っ た.QTc 間 隔 が,413msec か ら
587msec に,QRS の 幅 が 112msec か ら
256msec に延長していた.ピルジカイニ
ドを直ちに中止し,3日後,症状は完全に
消失し,心電図も以前のパターンに戻っ
た.ピルジカイニドの血中トラフ濃度を分
析したところ,セチリジンを併用する以前
の治療域の濃度(0.2 ∼ 0.9 μ g/ml)に比
べ,高値を示し,不整脈が出現した時には,
6.5 μ g/ml にまで上昇していた.
Tsuruoka S et al. Clin.Pharmacol. &
Therapeut. 79: 389,2006
ワルファリン/ロイヤルゼリー併用時に見
られた血尿
非ホジキン悪性リンパ腫,心房細動およ
び高血圧症を有する 87 才男性が,ワル
ファリン 2.5mg/day,フェロジピン,リシ
ノプリル / ヒドロクロロチアジド,オキシ
コドン,ジルチアゼム徐放剤および KCl の
投与を受けており,この3カ月の INR は,
1.9 ∼ 2.4 であったが,4週間経って,血尿
で来院した.患者は,ワルファリンの増量
や OTC 薬,漢方薬などの内服を否定した
が,入院時,INR が 6.88 で,入院中に 7.29
にまで上昇し,1週間前からロイヤルゼ
リーを摂取していたことを認めた.ビタミ
ン K 内服と輸液により,退院前には INR
は 3.2 に下がり,退院後,INR は安定して
いる.本症例の INR の上昇と血尿は,ワ
ルファリンとロイヤルゼリーの相互作用に
よって惹き起こされたものと思われる.
Lee NJ et al. Pharmacotherapy 26: 583,
2006
アトルバスタチン(リピトール)による悪夢
高血圧症,心不全,甲状腺機能低下症お
よび慢性腎不全の既往を有する 72 才女性
が,高コレステロール血症に対してアトル
バスタチン 10mg/day の内服を開始し,5
日後より2週間に亘って毎晩,悪夢を見
た.アトルバスタチンの副作用が疑われ,
第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
アトルバスタチンの休薬により悪夢を見な
くなった.その後,再度,アトルバスタチ
ンの内服を試みたところ,その夜,再び悪
夢を見た.アトルバスタチンを中止して,
夢を見なくなった.
SMak Gregoor PJH BMJ;332:950, 2006
インフリキシマブ(レミケード)による脱
髄疾患
46 才男性が,クローン病の進行に対して
インフリキシマブ 5mg/kg の IV 投与によ
る治療を開始した.インフリキシマブの投
与は,0週目,2週目,6週目に行い,以後
8週間毎に行った.計9回のインフリキシ
マブ IV 投与と平行してブデソニドを併用
し,症状が改善した後,ブデソニドを中止
した.最後のインフリキシマブ投与の直後
に,右手足の知覚鈍麻,脱力および進行す
る倦怠感を来し,症状が増強して入院し
た.神経学的に,右手足の知覚および運動
の低下を認め,筋電図では,脱髄の過程に
合致した.抗核抗体 640 倍陽性で,髄液
は,多数の炎症細胞を含んでいた.2週間
に亘って,IV 免疫グロブリン投与を行い,
症状は完全に消失し,6カ月後の followup で無症状である.
Dubcenco E et al. Europ.J.Gastroenterol.
& Hepatol. 18:565,2006
インターフェロンアルファコン-1(アドバ
フェロン)による間質性肺炎
以前にインターフェロンα-2b,ペグイ
ンターフェロンα-2b の投与を受けたこと
があり,呼吸器症状を認めなかった 68 才
女性が,C 型肝炎に対して SC インター
フェロンアルファコン-1(9 μ g/day)に
よる治療を開始,
6週間経って,筋肉痛,倦
怠感,めまいを訴えた.SC エリスロポエ
チンを開始し,インターフェロンアルファ
コン-1 の用量を 9 μ g 週3回に減量した
が,
8週間後,呼吸困難で来院,両下肺にク
ラックルを聴取し,胸部-Xp で両肺に間質
浸潤影を認めた.治療 12 週目の肺機能検
査で,拘束性障害を示した.胸部 CT で,
肺野の末梢を中心に,間質浸潤影を示し,
気管支鏡では,中等度の粘液分泌を認め,
TBLB では,慢性の粘膜下組織の炎症が認
められた.14 週間のインターフェロン治
療の後,肺機能はさらに低下し,インター
フェロンを中止して,プレドニゾロン内服
を行った.6週間後,肺機能の改善を示し,
中止して7週間後,呼吸器症状も殆ど消失
した.
Hillier AE et al. Amer.J.Gastroenterol.
101: 200, 2006
プロピルチオウラシル(チウラジール)に
よる ANCA 関連血管炎および関節炎
8カ月前に甲状腺機能亢進症の診断を受
け,プロピルチオウラシル 100mg 1 日2回
59
を内服している 22 才女性が,微熱,倦怠
感,筋肉痛,腹痛および関節痛で入院した.
体温 37.8℃ で,甲状腺腫大,両側上鞏膜
炎,舌の潰瘍,関節炎を認めた.感染を
疑って,セフロキシムとドキシサイクリン
内服治療を行ったが,血液,尿,糞便の培
養は陰性で,ナプロキセン内服による治療
の後に症状が改善した.その後も4カ月
間,間欠的に症状の再燃を認め,そのうち
2回は入院した.2回目の入院で,ANCA
関 連 血 管 炎 が 疑 わ れ,MPO-ANCA
172.7RU/ml(normal:0 ∼ 20)を示した.
プロピルチオウラシルを中止し,2週間以
内に症状は消失した.甲状腺の亜全摘を行
い,プロピルチオウラシルを中止して2カ
月以内に,抗核抗体が,318% から 173%
に 下 が り,MPO-ANCA の 抗 体 価 も 下
がったが,16 カ月後の follow-up でも高値
が続いている.
Tan F et al. Singapore Med. J. 47: 163,
2006
シルデナフィル(バイアグラ)による群発
頭痛
群発頭痛の既往を有しスマトリプタン
SC やリチウム投与を受けている 54 才男性
が,頭痛の寛解期にシルデナフィル 50mg
を服用したところ,20 分経って典型的な群
発頭痛の発作が起こった.スマトリプタン
SC 投与を受けたが,発作は2時間持続し
た.1カ月後,再度シルデナフィルを服用
した際にも同様の頭痛の発作が起こった.
3カ月後,典型的な群発頭痛の発作が始ま
り,この間はシルデナフィルを摂取するこ
とはなかった.寛解期に入り,シルデナ
フィルの内服を試みたところ,30 分以内に
頭痛の発作が起こった.その後,シルデナ
フィルの内服を3回,プラセボの内服を2
回,別々な日に行ったところ,シルデナ
フィル内服の度に前回同様の頭痛が起こ
り,スマトリプタン SC 投与を行ったが約
2時間持続した.一方,プラセボ内服の際
には頭痛は起こらなかった.
de L Figuerola M et al. Cephalalgia
26:617, 2006
ガチフロキサシン(ガチフロ)による譫妄
および精神症状
Folstein Mini-Mental State
Examination(MMSE)スコアが 26/30 の
軽度の認知症を有する 89 才女性が,肺炎
に対してガチフロキサシン 400mg 1日お
きの内服治療を受けた.ガチフロキサシン
を 開 始 し て 2 日 後,MMSE ス コ ア が
17/29 を呈し,リスペリドンを開始した.
ガチフロキサシン治療6日目に,妄想を来
してスタッフに物を投げつけたりし,ガチ
フロキサシン治療が終了して3日後には錯
乱,幻覚が見られた.3日経って,精神科
の診察時,MMSE スコアが 23/30 で妄想
60
は見られなかったが,しばらくして感染に
対して誤って,IV ガチフロキサシン投与
とガチフロキサシン内服投与を行った際
に,妄想と幻覚が出現し,ガチフロキサシ
ン中止によって妄想は消失した.
Satyanarayana S et al. J. Amer.
Geriatrics Society 54:871,2006
免疫グロブリンによる脳梗塞
3才男児が入院して,川崎病と診断され
た.IV 免疫グロブリン 1g/kg を2日間受
け,同時にアスピリンの内服を行った.4
日経って,右半身麻痺を来し,他の病院へ
移された.神経学的に,失語症,右半身麻
痺,腱反射亢進を認めた.脳の画像診断
で,主として頭頂∼側頭葉と左基底核を冒
す脳梗塞が認められた.54 日目に退院,12
カ月後には,失語症と半身麻痺は消失して
いたが,頭部 MRI では,当初の病変の部分
の皮質に萎縮を認めた.
Wada Y et al. J.Pediatrics 148:399,2006
インフリキシマブ(レミケード)による間
質性肺炎
クローン病に対し,プレドニゾロン,メ
サラジンおよびアザチオプリンの投与を受
け,大腿骨頭壊死の既往を有する 22 才女
性が,インフリキシマブによる治療を開始
した.最初のインフリキシマブ IV 投与の
後,咳嗽が出現した.2週間経って,
2回目
のインフリキシマブの IV 投与を受け,咳
嗽はさらに増強した.抗菌剤に反応せず,
インフリキシマブ治療は延期された.イン
フリキシマブを開始して5週間後に,進行
第 21 巻6号 2006(平成 18)年6月 28 日発行
する呼吸困難で入院したが,入院時,両側
上胸部にクラックルを聴取し,room air
下,SpO2 95% で,胸部CTでは広範囲にス
リガラス様陰影を呈し,右肺尖部に異常陰
影を認め,肺機能は拘束性障害を示した.
気管支鏡施行後に発熱を来し,セフロキシ
ムを開始してアザチオプリンを中止した.
抗菌剤治療後も肺機能の悪化が続き,イン
フリキシマブによる間質性肺炎を疑った.
プレドニゾロンを開始して2週間後,咳嗽
と呼吸困難は完全に消失した.プレドニゾ
ロンを漸減して2カ月後に中止,その後,
肺機能は良好である.
Weatherhead M et al. Inflammatory
Bowel Diseases 12:427,2006
(毎月1回 28 日発行)
域 を 認 め た.血 圧 は 178/84mm Hg で
あった.高血圧性脳症と診断して,ニカル
ジピンとチオペンタール Na 投与を受け,
血圧は 140mm Hg 以下に,痙攣もコント
ロールされた.入院 19 日目の頭部 MRI で
は,後頭部の高輝度領域は消失し,22 日目
に退院した.
Yokobori S et al. Pediat. Neurol. 34: 245,
2006
TIP データベース「クスリのガイド」
パスワード
最終有効年月日 201012 oEZ
The Informed Prescriber
(邦文誌名:「正しい治療と薬の情報」)
ジクロフェナク
(ボルタレン)/メフェナム
酸(ポンタール)による急性間質性腎炎お
よ び posterior leucoencephalopathy
syndrome
10 才男児が,背部痛に対してジクロフェ
ナク 12.5mg/day とメフェナム酸 260mg/
day を服用し,翌日,浮腫と乏尿を来して
小児科を受診した.血圧 132/88mm Hg
で,軽い頭痛と腹部不快感を訴えた.クレ
アチニン 1.98mg/dl,BUN 37.9mg/dl,尿
蛋 白(+)
,β 2 ミ ク ロ グ ロ ブ リ ン 670
μ g/L で,急性腎不全の診断で入院した.
入院2日目,血圧は 150mmHg に上昇,ク
レアチニン,BUN が,さらに上昇し,不穏
状態となって,突然頭痛と視力障害を訴え
た.入院3日目に痙攣が見られ,頭部 CT
で両側後頭葉の脳浮腫を認め,MRI の,
T2 強調画像で,後頭葉と小脳に高輝度領
報告会「
“患者の語り”データベースの可能性を探る:DIPEx について」
DIPEx-JAPAN 設立準備のための集会
日時:2006年7月 16 日(日) 午後 1 時∼4時
場所:東京大学本郷キャンパス 薬学部講堂(薬学系総合研究棟2 F)
地下鉄 丸の内線 本郷3丁目下車 徒歩 10 分 DIPEx については,TIP 誌(TIP 2001;16(9):86-90)でも以前に紹介しまし
たが,各種癌・うつ病・心疾患・慢性疼痛・認知症などさまざまな病気を抱えた多
くの患者さんが自分たちの声で,その経験を語っているホームページで,患者・家
族はもとより,医療専門家からも熱い視線を集めている英国の人気のサイト
(http://www.dipex.org)です.私たちは,こうした活動を日本でも立ち上げたい
と考えており,いまボランティアを募っているところです.
当日は,オックスフォードにある DIPEx 本部を訪問して,その活動状況を見学し
てきた佐藤(佐久間)りか氏(お茶の水女子大学ジェンダー研究センター/社会学)
の詳細な報告があり,また会場内でインターネットを用いた DIPEx のホームペー
ジをみながらのデモが行われ,準備会のメンバーである京都大学大学院 健康情報
学分野の中山健夫教授や,日本での DIPEx 立ち上げに協力を申し出て下さった何
人かのボランティアの方々も参加されます.
入場無料で,どなたでもご自由に参加できます.会場は十分に広いので,事前予
約は特に要りませんが,資料準備の都合上,出席が確実な方はファックス(042636-1553)またはメイル([email protected])等でご連絡下さい.
なお,日本語で DIPEx の活動の概要をつかんでいただくために,下記のようなサ
イト http://homepage2.nifty.com/dipex-j/ を用意しましたので興味のある方は
ご覧下さい.
DIPEx-JAPAN 準備会
医薬品・治療研究会 共催
編集長 別府宏圀(新横浜ソーワクリニック)
副編集長 浜 六郎(医薬ビジランス研究所)
編集委員
相沢 力(神奈川・湘南中央病院内科)
榎本 武(東京・えのもと小児科) 川合 仁(京都・川合診療所)
谷岡 賢一(京都・日本バプテスト病院小児科)
福島 雅典(京都・京大探索医療センター)
松浦美喜雄(東京・府中病院整形外科)
宮田 雄祐(大阪・医真会八尾総合病院)
藤田 民夫(愛知・名古屋記念病院泌尿科)
村井 直樹(福岡・小文字病院内科)
森 久美子(大阪・阪南中央病院薬剤科) 山田 真(東京・八王子中央診療所小児科)
柳 元和(大阪・帝塚山大学)
編集協力者・アドバイザー
青木 敏之 青木 芳郎 跡部 正明
阿部 和史 雨森 良彦 石井 明
泉 早苗 上野 文昭 松岡晃一郎
大島 明 大津 史子 大西 昇
岡本 祐三 金森 憲明 川幡 誠一
木村 健 久保田英幹 倉田 義之
栗田 敏子 小塚 雄民 酒井 天栄
坂上 章子 阪田久美子 清水 純孝
清水 裕幸 庄司 紘史 瀬川 昌也
関 顕 高木 徹 高木 宏子
高須 俊明 田口 博國 丁 元鎮
塚本 泰 堂川 嘉久 豊島協一郎
西端 義広 西村 嘉郎 等 泰三
福井 直仁 福本真理子 藤野 武彦
藤村 正哲 細田 真司 増田寛次郎
松田 圭子 水野 正浩 溝口とく子
宮城征四郎 村田 三郎 矢尾板英夫
山本 敬 横山 正夫 他9名
編集・発行 医薬品・治療研究会
代表 別府宏圀
事務局 〒160-0022 東京都新宿区新宿1-14-4
AMビル5階
担当 宮下郁子,田口里恵
TEL 03(3341)7453 FAX 03(3341)7473
年間購読会費 個人・病院・医院・薬局 6000円
(送料込) 製薬企業 12,000円
購読申し込みについては,事務局宛直接お問い
合わせ下さい。
銀行口座 とみん銀行西国分寺支店
(普)No.0014863
郵便振替 00140 −8 −74435
※名義はいずれも,
医薬品・治療研究会代表別府宏圀
〒543-0062 大阪市天王寺区逢阪2−3−2−402
医薬品・治療研究会大阪事務局
担当 坂口啓子・中村朱里
TEL 06(6771)6345 FAX 06(6771)6347
2006年6月28日発行 第21巻6号
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