第 1 部 ITスキル標準とは - IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

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第1部
ITスキル標準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
図1●IT投資の変化
第1部では、ITスキル標準が誕生した背景、ITスキル標準の概要、
I
Tの用途は、財務・人事管理、帳票処理など社内の特定業務から、商取引、顧客管理、市場戦
略立案など前線業務へと急拡大。また、産業はもとより、教育・医療などの公共分野、民生分野
などへと裾野を広げており、
I
Tへのニーズも急速に多様化している。
ITスキル標準に対応した研修ロードマップの考え方、海外のスキ
ル標準の動向などを交えて、ITスキル標準の意義と全体像につい
(経理・財務管理 人事・労務管理 生産・流通管理 SCM、SFA CRM、KM 決済 商取引 広告)
て解説します。
軍需
CALS/EDI
計算処理
1-1 なぜITスキル標準が必要なのか
ITは今や社会のインフラとして位置付けられ、ビジネス、政治、
家庭といったあらゆる局面で活用されています。一方で、ITを産
学術
バックヤード
制御
通信
金融
業としてみた場合、国際的な競争がますます激化しつつあり、日本
のIT業界は早急に競争力を強化することが求められています。こう
年
70
19
代
大型計算機
計算機室の中
定型事務処理
の合理化
電力・ガス
交通機関
した社会におけるITの位置付けや、ITを取り巻く環境の変化に対
応するために、ITスキル標準が策定されました。
製造業
鉄鋼
自動車
:
汎用機、
オフコン
非互換
一定の事務処理
代
年
90 ∼
19 半
後
■ 変化した市場の人材ニーズ
IT技術者に求められるスキルは、多様化、高度化の一途をたどっ
ています。汎用コンピュータの時代は、システム化の対象は事務合理
化のための定型業務であり、各メーカー独自の技術の上でシステム
サービス業
物流
小売
運輸
電子政府
が構築され、運用されていました。開発手法や開発言語など、システ
ム構築の基本となる技術の進展もゆるやかで、IT技術者は一度身に
付けた知識や技術を長期間にわたって活用することができました。
ハード/ソフトの
用途/技術が
急速に多様化
イ
ン
タ
電ー
子ネ
商ッ
取ト
引を
通
じ
た
PC、携帯、家電…
インターネット
ユビキタス
(Anytime, Anywhere)
医療福祉
教育
しかし、1990年代に入り、ITを取り巻く状況は大きく変化しました。
個人
その主な要因となったのが、UNIXを中心としたクライアント・サー
バシステムの普及やダウンサイジングの進展です。システムのオープ
テレビ
携帯
ネット
:
ン化と歩調を合わせるように、IT技術も急速に多様化し、
より細分化、
6
7
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第1部 I T スキル 標 準とは
高度化していきました。
I T スキル 標 準とは 第1部
て、個人の能力や実績に基づいて7段階のレベルを規定しています。
また、ITの適用範囲が広がり、エンドユーザー主導でシステムが
IT業界がITスキル標準を取り入ることで、効果的に人材育成を推
構築されるようになりました(図1)。エンドユーザーのシステム化の
進し、人材不足を解消するとともに、IT技術者個人がキャリアパスを
ニーズに対応するために、IT技術者には様々な技術、業務知識だけ
確立できるようになることなどが期待されています(図2)。
でなく、業務プロセスの改革につながるような視点も求められます。
ITスキル標準はIT業界の「共通言語」
(ものさし)だと言うことがで
こうした変化に伴って、IT技術者の人材ニーズも多様化していきま
きます。従来はIT技術者の職種やレベルの基準が統一されていなか
した。しかしその結果、人材の供給が追いつかないという深刻な需
ったために、ユーザー企業はIT技術者のスキルを客観的に判断でき
給ギャップが生まれています。
ませんでした。ITスキル標準の導入によって、ITサービスを提供す
る企業とユーザー企業との取引の円滑化も可能となります。
■ 不足する人材を育成するITスキル標準
IT産業を取り巻く環境の変化として、海外との競争激化も見逃す
図2●ITスキル標準が登場した背景
ことができません。中国やインドなどが安価な人件費などを背景に
IT産業に進出しています。国際的な分業や競争の中で、わが国のIT
産業が競争力を高めて優位なポジションを確立するためには、高度
企業
個人
高度なIT人材が圧倒的に不足している
高等教育において実践的な専門教育を
受ける機会が少ない
必要なスキルを持った
人材の把握、
育成が困難
必要なスキルの把握、
効果的な習得方法が分からない
なIT技術者の育成は喫緊の課題となっています。
IT業界の多くの企業は、高度なITスキルを持った人材の不足を強
く認識していますが、これを一朝一夕に解消することはできません。
これまで大手各社は独自の研修教育制度やキャリアパスを設け、人
情報サービス業においては、様々なサービスの種別が存在
材育成に取り組んできました。しかし体系的な教育ができているとは
言い難く、また体力のない中堅中小規模の企業では十分な教育体制
必要なスキルも、
それぞれのサービスごとに専門化、
深化
を整えられないのが現状です。
こうした状況の中で、IT技術者に求められるスキルを整理、体系
化したのが「ITスキル標準」です。ITスキル標準は、各種のIT関連
サービスの提供に必要な実務能力を体系化した指標であり、対象職
ITサービスの提供に必要な実務能力を体系化した指標
「ITスキル標準」の策定・普及が必要
種を11職種に分類し、それぞれをさらに複数の専門分野に細分化し
8
9
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第1部 I T スキル 標 準とは
■ ITスキル標準策定に至る歩み
ITスキル標準策定への取り組みは、2001年夏から始まりました。
I T スキル 標 準とは 第1部
1-2 ITスキル標準の内容 ITスキル標準では、IT技術者を「SE」、
「プログラマ」といった名
まず経済産業省内部で検討を開始し、2002年5月には産業界、学識
称で包括的にくくるのではなく、ビジネスの実状に沿うように職種や
経験者などから成るITスキル・スタンダード協議会が開催されまし
専門分野を分類・定義し、それぞれに対してレベルを評価する尺度
た。その後、同協議会での議論・検討を経て、2002年12月にITス
を多面的に提供しています。
キル標準・Ver.1.0が発表されました。
今後も、定期的に内容を見直していくとともに、研修ロードマップ
やベストプラクティスの公開など、より実践的な普及に向けての活
動が行われていく予定です。
■ ITスキル標準のフレームワーク
ITスキル標準では、職種を「コンサルタント」や「プロジェクトマ
ネジメント」、
「ITスペシャリスト」など11に分類し、各職種ごとに全
部で38の専門分野を設けています。また、それぞれの専門分野に
対応して、IT技術者個人の能力や実績に基づいて7段階のレベル
を規定しています(図3)。
7段階のレベルは、キャリア開発を設計するベースとして検討し
た結果、英国のスキル標準である「SFIA(Skills Framework for
the Information Age)」などを参考に定められました。ITスキル
標準ではレベルごとに求められる経験・実績や習得しているべき
スキルを定義しており、レベル1、2を「エントリレベル」、レベル3、4
を「ミドルレベル」、レベル5、6、7を「ハイレベル」と呼びます。
10
11
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第1部 I T スキル 標 準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
図3●ITスキル標準のスキル・フレームワーク
職種
マ
ー
ケ
テ
ィ
ン
グ
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
販
売
チ
ャ
ネ
ル
戦
略
マ
ー
ケ
ッ
ト
コ
ミ
ュ
ニ
ケ
ー
シ
ョ
ン
セールス
訪
問
型
コ
ン
サ
ル
テ
ィ
ン
グ
セ
ー
ル
ス
訪
問
型
製
品
セ
ー
ル
ス
コンサルタント
メ
デ
ィ
ア
利
用
型
セ
ー
ル
ス
B
T
︵
BusinessTransformation
専
門
分
野
マーケティング
︶
I
T
パ
ッ
ケ
ー
ジ
適
用
ITアーキテクト
ア
プ
リ
ケ
ー
シ
ョ
ン
デ
ー
タ
サ
ー
ビ
ス
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
セ
キ
ュ
リ
テ
ィ
プロジェクトマネジメント
シ
ス
テ
ム
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
シシ
スス
テテ
ムム
イ開
ン発
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シケ
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シ
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ン
開
発
/
ア
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シ
ン
グ
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ク
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ー
ビ
ス
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ビ
ジ
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ソ
リ
ュ
ー
シ
ョ
ン
アプリケーション
スペシャリスト
ITスペシャリスト
ソ
フ
ト
ウ
ェ
ア
開
発
プ
ラ
ッ
ト
フ
ォ
ー
ム
シ
ス
テ
ム
管
理
デ
ー
タ
ベ
ー
ス
ネ
ッ
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ー
ク
分
散
コ
ン
ピ
ュ
ー
テ
ィ
ン
グ
セ
キ
ュ
リ
テ
ィ
業
務
シ
ス
テ
ム
業
務
パ
ッ
ケ
ー
ジ
ソフトウェア
デベロップメント
基
本
ソ
フ
ト
ミ
ド
ル
ソ
フ
ト
応
用
ソ
フ
ト
カスタマー
サービス
ハ
ー
ド
ウ
ェ
ア
ソ
フ
ト
ウ
ェ
ア
オペレーション
フ
ァ
シ
リ
テ
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マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
シ
ス
テ
ム
オ
ペ
レ
ー
シ
ョ
ン
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
オ
ペ
レ
ー
シ
ョ
ン
カ
ス
タ
マ
ー
サ
ポ
ー
ト
エデュケーション
研
修
企
画
イ
ン
ス
ト
ラ
ク
シ
ョ
ン
レベル
7
ハ
イ
レ
ベ
ル
レベル
6
レベル
5
レベル
4
ミ
ド
ル
レ
ベ
ル
レベル
3
エ
ン
ト
リ
レ
ベ
ル
レベル
2
レベル
1
ハイレベル:
社内において当該職種/専門分野に係るテクノロジやメソドロジ、
ビジネスをリードするレベル。特にレベル7は、市場全体から見ても先進的なサービスの開拓
や市場化をリードする。スキル開発においても、社内戦略の策定・実行に大きく貢献することが求められる。
ミドルレベル:
スキルの専門分野が確立し、
自らのスキルを駆使することによって、業務上の課題の発見・解決をリードすることができるレベル。スキル開発においても、
自らの
スキルの研鑽を止めることなく、
また、下位レベルの育成に積極的に貢献することが求められる。
エントリレベル:
スキルの専門分野が確立するにはいたっておらず、当該職種の上位レベルの指導の下で、業務上における課題の発見・解決を行うことができるレベル。スキル
開発においては、
自らのキャリアパス実現に向けて積極的なスキルの研鑽が求められる。
12
13
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第1部 I T スキル 標 準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
図4●IT投資の局面と活動領域の関係
■ 各職種の定義と活動領域
IT投資の
局面と
活動領域
ITスキル標準では、IT投資の様々な局面ごとにIT技術者に求めら
れる活動内容を明らかにすることで、各職種を定義しています(図4)。
例えば、戦略的情報化企画というIT投資の局面には、
「課題の整理/
分析」
という活動領域があります。この活動領域において、ビジネス課
経営戦略策定
戦略的情報化企画
開発
運用・保守
経営目標/
ビジョン策定
ビジネス戦略
策定
課題整理/分析
(ビジネス/IT)
ソリューション設計
コンポネント設計
ソリューション構築 ソリューション運用 ソリューション保守
(構造/パターン) (システム/業務) (開発/実装) (システム/業務) (システム/業務)
セールス
目標/ビジョン
の確認
ビジネス戦略
の確認
ビジネス課題
ソリューション提案
コンサルタント
目標/ビジョン
の提言
ビジネス戦略
策定の助言
ソリューション策定
のための助言
ソリューション
の設計
ITアーキテクト
ソリューション
の枠組み策定
ソリューション
アーキテクチャー
の設計
コンポネント
の設計
ソリューション
の構築
プロジェクト
マネジメント
プロジェクト
基本計画の策定
プロジェクト
の管理/統制
プロジェクト
の管理/統制
プロジェクト
の管理/統制
プロジェクト
の管理/統制
プロジェクト
の管理/統制
ITスペシャリスト
システム
構築計画の策定
システム・
コンポネントの設計
システム・
コンポネント
の導入構築
システム・
コンポネント
の運用支援
システム・
コンポネント
の保守
アプリケーション
スペシャリスト
アプリケーション
開発計画の策定
アプリケーション
コンポネント
の設計
アプリケーション
コンポネント
の開発
アプリケーション
コンポネント
の運用
アプリケーション
コンポネント
の保守
導入計画
の策定
ハードウェア
ソフトウェア
の導入
ハードウェア
ソフトウェア
の保守
ハードウェア
ソフトウェア
の保守
運用計画/
運用管理
の策定
システム
の運用と管理
システム
の運用と管理
職種
題の整理とソリューションの提案を行うのが「セールス」、ソリューショ
ン策定のための助言を行うのが「コンサルタント」、ソリューションの枠
組みを策定するのが「ITアーキテクト」
ということになります。
ITスキル標準で定義している各職種の概要を以下に示します。
《セールス》
経営戦略策定局面における顧客の経営目標/ビジョン/ビジネス戦略
を確認し、戦略的情報化企画局面におけるビジネス上の課題を分析
しソリューションを提案する。
《コンサルタント》
経営戦略策定局面における顧客の経営目標/ビジョン/ビジネス戦略
策定の提言/助言をし、戦略的情報化企画局面におけるソリューショ
ン策定の助言を実施する。
《ITアーキテクト》
戦略的情報化企画局面におけるビジネス/IT上の課題を分析し、ソ
リューションの枠組みを策定すると共にソリューションアーキテクチ
カスタマ
サービス
ャー(構造)を設計する。
《プロジェクトマネジメント》
オペレーション
戦略的情報化企画局面/開発/運用・保守局面においてプロジェクト
マネジメント全体を管理/統制する。
主たる活動局面
従たる活動局面
《ITスペシャリスト》
14
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第1部 I T スキル 標 準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
図5●ITスキル標準の構成要素
開発/運用・保守局面においてシステムコンポネント(HW、SW等)
スキル領域
の設計/導入・構築/運用・保守を実施する。
《アプリケーションスペシャリスト》
開発/運用・保守局面においてアプリケーションコンポネント(適用
業務等)の設計/開発/運用・保守を実施する。
職種
専
門
分
野
プロジェクトマネジメント
シアシ
スプス
テリテ
ムケム
イー開
ンシ発
テョ
グン
レ開
ー発
シ
ョ
ン
ア
ウ
ト
ソ
ー
シ
ン
グ
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ビ
ジ
ネ
ス
ソ
リ
ュ
ー
シ
ョ
ン
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
サ
ー
ビ
ス
・職種毎の共通の
スキル項目定義
ソ
フ
ト
ウ
エ
ア
開
発
(全専門分野と全レベル共通)
・専門分野固有スキルの定義
《カスタマサービス》
スキル領域
専門分野
開発/運用・保守局面においてハードウェア/ソフトウェアの導入・保
守を実施する。
職種共通スキル項目 専門分野固有スキル
レベル
7
システム開発
アプリケーション開発
システムインテグレーション
職種の概要
《オペレーション》
運用・保守局面においてシステムの運用・管理を実施する。
《エデュケーション》
レベル
6
●統合マネジメント
●ソリューション設計
●タイムマネジメント
専門分野別のレベル範囲と
専門分野の説明記述
レベル
5
レベル
4
研修コース・講座の企画/開発/提供を実施する。
《マーケティング》
市場を予測し戦略を立案する。
《ソフトウェアデベロップメント》
レベル
3
レベル
2
レベル
1
達成度指標
開発/運用・保守局面においてパッケージを含むソフトウェア製品
スキル熟達度
職種・専門分野の
レベル毎に要求される
経験と実績の定義
の設計/開発/保守を実施する。
スキル項目に対する
レベル毎のスキル熟達度
(XXXが出来る)
(XXの経験・実績を有する)
■ ITスキル標準の構成要素
ITスキル標準の構成要素には、専門分野の内容の説明を記述した
「職種の概要」
、職種・専門分野ごとのスキルを定義した
「スキル領域」、
IT技術者のレベルの指標となる
「達成度指標」
と
「スキル熟達度」があ
ります。達成度指標はIT技術者の経験・実績を評価するものであり、
スキル熟達度はIT技術者が備えている実務能力を表します(図5)。
専門分野
達成度指標
スキル項目
スキル熟達度
●システム開発
アプリケーション開発
システムインテグレーション
レベル
7
●統合マネジメント
レベル
7
aaaが出来る
レベル
6
bbbが出来る
レベル
5
cccが出来る
レベル
4
dddが出来る
レベル
3
eeeが出来る
●責任性
●複雑性
●サイズ
●タスク特性
知識項目
ただし、職種や専門分野によってはすべてのレベルが存在するわけ
16
17
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第1部 I T スキル 標 準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
ではありません。市場ニーズや実務遂行能力などを鑑み、高いレベ
ルや低いレベルが定義されていない職種もあります。
「責任性」は実施した業務においてどのような役割を担っていたか
が尺度になり、
「複雑性」はそのプロジェクトのリスクの高さ、つまり
難易度によって決まります。
「サイズ」はビジネス規模(金額)やプロジ
■ 経験と実績を見る達成度指標
ェクトの規模(人数)でレベル分けを行い、
「タスク特性」は業務を遂
レベルの評価自体は、あくまでも経験や実績に基づく
「達成度指標」
によって行うのがITスキル標準の特色です。達成度指標はレベルごと
に要求される経験と実績を定義したもので、
「責任性」、
「複雑性」、
「サ
イズ」、
「タスク特性」の4つの指標からレベルを判断していきます。
図6●達成度指標の考え方(タスク特性)
とになります。
「タスク特性」では、専門的な能力をどれだけ生かせたのかという
視点だけでなく、プロフェッショナルとしての社外でのコミュニティ活
図7●達成度指標の考え方(複雑性)
■複雑性:業務遂行の難易度/困難度を示す業務内容・環境と同等のプロジェクトを成功裡に完遂するために必要な経験・実績数を規定
■タスク特性:プロフェッショナルとして要求される専門性の活用に関する規定
プロジェクト内
専門性活用
行する際に、どれほど専門性を生かすことができたかが問われるこ
外部(コミュニティー)
活動・論文
社内(コミュニティー)
活動・論文
超高度複雑性
プロジェクト
後進の指導・育成
中度複雑性
プロジェクト
低度複雑性
プロジェクト
レベル7
レベル7
プロジェクト全体責任
レベル6
レベル6
サブプロジェクト責任
プロジェクト全体責任
レベル5
レベル5
チームリーダーとしての
実施責任
サブプロジェクト責任
プロジェクト全体責任
レベル4
メンバーとしての
実施責任
チームリーダーとしての
実施責任
サブプロジェクト責任
プロジェクト全体責任
レベル3
メンバーとしての
実施責任
メンバーとしての
実施責任
チームリーダーとしての
実施責任
サブプロジェクト責任
レベル2
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
レベル1
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
レベル4
レベル3
レベル2
レベル1
3つの色は濃い部分から順に、 「第一人者として認知されている状態」、 「自立している状態」、 「参加している状態」を表す 18
高度複雑性
プロジェクト
19
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第1部 I T スキル 標 準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
動や論文などを通して外部からどう認知されているのか、後進の指
るとレベル5ということになりますが、通常よりも複雑性の高い業務を
導・育成にあたっているかなど、社内外に対する影響度合も考慮さ
成功裏に達成したということであれば、レベル6
(もしくは7)
と評価す
れます(図6)。
ることができるのです。
実際にIT技術者のレベルを評価する際には、これらの4つの指標
を組み合わせて総合的にレベルを判断することになります。つまり、
■ 求められる実務能力を定義するスキル領域 プロジェクト全体の責任者として業務を遂行しても、プロジェクトの
「スキル領域」は、技術者に求められる実務能力をスキル項目とし
規模、複雑性(プロジェクトの難易度)によりレベルが上下します。例
て定義したもので、職種ごとに共通のスキル項目と専門分野固有の
えば中規模プロジェクトのプロジェクト責任者という観点から評価す
スキル項目から構成されます(図9)。
図8●達成度指標の考え方(サイズ)
図9●ITアーキテクトのスキル領域
■サイズ:ビジネス規模やプロジェクト規模を規定
スキル領域
超大規模
プロジェクト
レベル7
大規模
プロジェクト
中規模
プロジェクト
小規模
プロジェクト
専門分野
プロジェクト全体責任
アプリケーション
レベル6
サブプロジェクト責任
プロジェクト全体責任
データサービス
レベル5
チームリーダーとしての
実施責任
サブプロジェクト責任
プロジェクト全体責任
レベル4
メンバーとしての
実施責任
チームリーダーとしての
実施責任
サブプロジェクト責任
プロジェクト全体責任
レベル3
メンバーとしての
実施責任
メンバーとしての
実施責任
チームリーダーとしての
実施責任
サブプロジェクト責任
ネットワーク
セキュリティ
20
レベル2
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
レベル1
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
上位者の指導のもとで
メンバーとしての
実施責任
システムマネジメント
職種共通スキル項目
専門分野固有スキル項目
●アーキテクチャ構築
ソリューションアーキテクチャ構築、代替ソリューショ
ン分析、要件定義
●デザイン
モデリングテクニックの活用と実践、IT標準の適用、
再利用テクニックの活用と実践、技術的検証、
デー
タモデリングの適用、
プロセスモデリングの適用
●テクニカル
プラットフォーム/要素技術の比較、
システム運用
技術の検証、技術的問題の解決
●メソドロジ
メソドロジ選択と適用
●コンサルティング
コンサルティングテクニックの活用と実践
●プロジェクトマネジメント
プロジェクト計画策定と実施、変更管理
●インダストリ
業界ビジネス/技術/競合動向に関する提言、
イ
ンダストリアプリケーションに関する助言
●リーダーシップ
チームリード、技術的指針の提示、
リーダーシップス
タイルの適応
●コミュニケーション
効果的かつ効率的な文書力及び会話による顧客
関係の維持
●ネゴシエーション
指針の提供、成功要件の提供
●アプリケーション機能デザイン
機能配置、
アプリケーションの選択、
要件確認と調整、
アプリケーション開発メソドロジ活用、設計とコード
インスペクションの実施
●データ構成要素デザイン
データ共用と再利用の実施、データ配置、
キャパシ
ティ計画策定、
ストレージ管理計画策定、データモ
デリング技術活用
●ネットワークデザイン
既存ネットワーク検証及び環境の検証、
トポロジ選
択実施、
ネットワーク戦略構築、
ネットワーク標準策
定
●セキュリティデザイン
セキュリティメカニズム設計、
オペレーショナルセキ
ュリティ定義の実施、
セキュリティソリューション検定、
セキュリティプロトコルの把握
●システム運用管理デザイン
必要キャパシティ検証、問題管理、変更管理、回復
管理、
セキュリティソリューション設計
21
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第1部 I T スキル 標 準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
それぞれのスキル項目に対して、どのレベルにあるかを表現する
り、ある職種のレベル5に該当する技術者ならば、
「このスキル項目に
のが「スキル熟達度」
(図10)です。スキル熟達度はすべて「∼するこ
ついてこれだけのことを行えるはずだ」というガイドラインを示すの
とができる」という基準によってスキルの有無を問うもので、当該レ
が、スキル熟達度の意義です。
ベルに達していることの裏づけとなる要素として捉えられます。つま
また各スキル項目には、そのスキルを身に付けるために前提とな
る知識を「知識項目」として明記し、スキルに対応した知識習得の指
針として活用できるようになっています。
図10●プロジェクトマネジメントのスキル熟達度
知識項目
専門分野:
システム開発/
アプリケーション開発/
システムインテグレーション
●統合マネジメント
スキル熟達度
レベル7
レベル6
レベル5
知識項目
ピーク時の要員数500人以上、
または年
間契約金額10億円以上規模のプロジェ
クト責任者として、
プロジェクト計画策定、
計画実施、変更管理を行い、
プロジェクト
を成功裡に遂行することができる
また当該テーマに関して学会や講演等で
発表することができる
ピーク時の要員数50人以上500人未満、
または年間契約金額5億円以上規模の
プロジェクト責任者として、
プロジェクト計
画策定、計画実施、変更管理を行い、
プ
ロジェクトを成功裡に遂行することができ
る
─プロジェクト計画策定
─統合変更管理
─ソフトウェアエンジニアリング
サイズ
+
責任性
(責任者)
1-3 研修ロードマップ ITスキル標準に対応して修得すべき研修科目を職種ごとに明示し
─文書作成
たのが、
「研修ロードマップ」です。IT企業における人材育成のガイド
─コミュニケーション
ラインとして活用できるだけでなく、IT技術者自身が自らのキャリアプ
─IT知識
ランと照らし合わせて効率的にスキルアップできるようになっています。
■ 5つの分野で7段階のレベルを設定
ピーク時の要員数10人以上50人未満、
ま
たは年間契約金額1億円以上のプロジェ
クト責任者として、
プロジェクト計画策定、
計画実施、変更管理を行い、
プロジェクト
を成功裡に遂行することができる
研修ロードマップでは、全職種とも「テクノロジ」、
「メソドロジ」、
「プロジェクトマネジメント」
、
「ビジネス/インダストリ」、
「パーソナル」
という5つの分野を設定しています。どの職種であっても、これらの5
レベル4
ピーク時の要員数10人未満のプロジェク
トのプロジェクトリーダとして、
プロジェクト
計画策定、計画実施、変更管理を行い、
プロジェクトを実施することができる
つの分野で何らかの知識の修得が必要になると考えられるからで
サイズ
す。具体的な研修科目は各職種によって異なってきます。
研修ロードマップにおいて、レベルはITスキル標準の評価モデル
プロジェクトメンバとして、
プロジェクト計画
策定、
計画実施、
変更管理を行い、
プロジ
ェクトを実行することができる
レベル3
と同様に1から7まで設けられています。より上位のレベルを目指す
ために修得しておくべき研修科目が、レベルごとに配置されています
(図11)
。
22
23
006~033/ch01_2版 04.3.22 18:26 ページ 24
第1部 I T スキル 標 準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
■ 具体的なコース設定と研修内容の提示 って参加型の研修を行うことを推奨しています(図12)
。
研修ロードマップでは職種ごとに具体的な研修コースを提示して
また、企業の教育部門や研修・教育事業者がコースを開設する際の
おり、コースごとに望ましい研修方法や期間が設定されています。未
参考となるように、各コース群について推奨モデルコースも提示していま
経験レベルやエントリレベルを対象としたコースでは、eラーニング
す。このモデルコースでは、コース概要、受講対象者、受講の前提条件、
や講義を中心に行い、レベルが上がるに従って、ワークショップによ
研修終了後のスキル修得目標などが提示されています
(図13)
。
図11●アプリケーションスペシャリストの研修ロードマップ
エントリレベル
ミドルレベル
ハイレベル
未経験レベル
レベル1
レベル2
レベル3
レベル4
レベル5
レベル6
レベル7
最新技術動向
テクノロジ
システム開発基礎
I
T
基
本
2
要素技術基礎
要素技術上級
システム設計
システム設計上級
システム構築
システム構築上級
システム運用/保守
システム運用/保守上級
業務パッケージ基礎
業務パッケージ製品別
メソドロジ
システム開発メソドロジ
コミュニティ活動
システム要件定義技法
I
T
基
本
1
コンサルティングメソドロジ
プロジェクトマネジメント
基礎
プロジェクトマネジメント
ビジネス/インダストリ
インダストリ
業務知識の基礎
パーソナル
:職種共通
24
:専門分野別選択
インダストリアプリケーション動向
最新ビジネス動向
リーダーシップ基礎
アプリケーションスペシャリストのリーダーシップ
コミュニケーション基礎
アプリケーションスペシャリストのコミュニケーション
ネゴシエーション基礎
アプリケーションスペシャリストのネゴシエーション
未経験レベル:ITスキル標準で示す各職種を目指す者
25
006~033/ch01_2版 04.3.22 18:26 ページ 26
第1部 I T スキル 標 準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
図12●アプリケーションスペシャリストの研修コース一覧
コース群
の種類
研修方法
コース群
IT基本2
リーダーシップ基礎
職
種
共
通
上
級
講
座
特
別
講
座
26
IT入門
パーソナルスキル入門
システム開発基礎
基
礎
講
座
コース名
eラーニング
IT基本1
入
門
講
座
図13●研修コースの設定例
講義
○
○
コース名
期間
I
T基本2
:ITエンジニアの基礎
eラーニング
クラス
ワークショップ
(標準時間)(標準日数)
60
○
○
12
ITエンジニアの基礎
○
プログラミングの基礎
○
アプリケーション開発の基礎
○
24
○
○
36
○
30
データベースの基礎
○
12
ネットワークの基礎
○
24
セキュリティの基礎
○
18
リーダーシップ基礎
○
○
9
3
1
コミュニケーション基礎
○
○
9
1
ネゴシエーション基礎
ネゴシエーション基礎
○
○
9
1
システム設計
システム設計の基礎
○
○
30
5
主要アプリケーション設計(業種共通)
○
主要アプリケーション設計(インダストリ)
○
システム構築
システム構築
○
システム運用/保守
システム運用/保守
○
講座分類
■入門講座 □基礎講座 □上級講座 □特別講座
対象専門分野
■アプリケーションスペシャリスト共通 □業務システム □業務パッケージ
コース概要
当コースは、
「I
T基本2」コース群の一つとして、
情報システムに関して基本的・普遍的に必要とされる技術的知識の習得を目的とする。
5
コミュニケーション基礎
○
研修コースの内容
○当コースでは、
テクノロジ、
メソドロジの領域に関して、
コンピュータシステムの基本となる事項から、
データ構造、
アルゴリズム、
ソフトウェアエンジニアリングや、外部設計、内部設計、
プログラム設計、
オブジェクト指向開発などを学習する。
受講対象者
I
Tスキル標準で示す各職種(セールスを除く)への就職を目指す者、
本コースで示す内容を十分に学習しないまま就職したエントリレベル(レベル1)の者
受講前提
「I
T基本1」コース群を修了していること、又は同等の知識を有していること
研修方法
eラーニング(受講者の状態や企業方針等を踏まえて、適宜、
ワークショップを付加することを推奨する)
期間
36時間(eラーニング 1日6時間×6日)、
(付加したワークショップに係る期間)
研修修了後のスキル修得目標
開発チームメンバ、技術メンバとして、情報システム全般に関する技術的な基礎知識を活用し、
情報システム開発プロジェクトの各局面に参加することができる。
6
6
○
○
60
5
○
30
5
インダストリ業務知識の基礎
インダストリ業務知識の基礎
○
システム要件定義技法
システム要件定義技法
○
○
12
3
コンサルティングメソドロジ
コンサルティングメソドロジ
○
○
12
2
プロジェクトマネジメント基礎
プロジェクトマネジメント基礎
○
アプリケーションスペシャリストのリーダーシップ
アプリケーションスペシャリストのリーダーシップ
○
3
12
30
アプリケーションスペシャリストのコミュニケーション
アプリケーションスペシャリストのコミュニケーション
○
3
アプリケーションスペシャリストのネゴシエーション
アプリケーションスペシャリストのネゴシエーション
○
3
最新技術動向
最新技術動向
インダストリアプリケーション動向
インダストリアプリケーション動向
○
○
12
2
最新ビジネス動向
最新ビジネス動向
○
○
3
0.5
コミュニティ活動
コミュニティ活動
─
─
─
─
○
1
─
27
006~033/ch01_2版 04.3.22 18:26 ページ 28
第1部 I T スキル 標 準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
1-4 英米のスキル標準との違い
ンダードを取り上げ、日本のITスキル標準との違いについて解説し
英国や米国では、IT技術者向けにスキルスタンダードが策定され、
ます。
活用されています。ここでは英国と米国のIT職種向けのスキルスタ
図14●SFIAのフレームワーク
責務のレベル
責務のレベル
7
6
5
4
3
仕事の領域
情報管理
助言と指導
2
7
1
戦
略
と
計
画
4
ビジネスプロセスの改善
システム設計
開
発
と
設
置
情報システム戦略と計画
システム・
アーキテクチャ
データベース設計
プログラミング/ソフトウェア作成
システムテスト
ヒューマンファクター
システムの人間工学的評価
メディア製作
設置と統合
新技術の監視
システム統合
手法とツール
システムの設置と解体
教育と訓練
ネットワーク計画
供給管理
契約管理
教育&訓練の管理
開発&訓練
調達
訓練用具の作成
プログラム管理
教育&訓練の提供
基盤
プロジェクト管理
プロジェクトオフィス
品質管理
品質管理
品質保証
準拠性
資源管理
サ
ー
ビ
ス
提
供
容量管理
セキュリティ管理
運用
資産管理
情報通信技術の運用
サービス品質保証管理
ユーザー支援
情報通信技術管理
ネットワーク管理&支援
ユーザー支援
サービス提供管理
28
アプリケーション&システム支援
データベース管理
情報システム・コーディネーション
販売とマーケティング
構成管理
ネットワーク制御
システム開発管理
販
売
と
市
場
開
拓
1
データ分析
変更管理
経
営
と
管
理
2
技術の専門家
ビジネスの継続性の計画
プロジェクト管理
3
ビジネス分析
コンサルタント
ビジネスリスク管理
技術戦略と計画
5
システム開発
情報資源管理
技術的専門性
ビジネス/
情報システム戦略と計画
6
仕事の領域
会計管理
マーケティング
販売
販売支援
29
006~033/ch01_2版 04.3.22 18:26 ページ 30
第1部 I T スキル 標 準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
■ 英国のSFIA
英 国 で は「 職 業 訓 練 機 構 」
( N T O:N a t i o n a l
策定しているNTOである「e-skills UK」が、IT産業振興のために設
Training
立された組織、
「AISS(Alliance for
Information System Skills)」
Organization)が職業ごとのスキルスタンダードを策定し、その内容
と2001年に共同で作成したシステム開発者向けのスキルスタンダード
に沿って公的な職業資格の認定が行われています。IT分野の標準を
が「SFIA(Skills Framework for the
Information Age)」です。
SFIAは公的な資格ではありませんが、英国では電子政府化推進の
図15●SFIAで定義されているスキルセットの例(プロジェクト管理のレベル6)
ために職員のスキルをSFIAによって評価するなど、国家的にも活用
されています。
プロジェクト管理
レベル:6
ビジネス目的に基づいてプロジェクト管理プロセスを統括する。チームの上級リーダーとして責任を負う。IT
の実務者である場合が多く、大人数のチームや複雑で戦略的な問題を管理した経験を持つ。
主たる責務:目標を立てる
SFIAは「フレームワーク」と「スキルセット」によって構成されます。
「フレームワーク」には、仕事の領域によって5つのカテゴリがあり、
その下に14のサブカテゴリが置かれています。そしてサブカテゴリ
コアスキル
ごとに「職務」が定義されています。職務に対して7段階までの責務
<責任範囲> 技術面や経済的な側面、品質面など情報システム業務の重要な分野に対するあらかじめ定
められた権限と責任を持つ。組織としての目的を設定し、業務を委譲する。自分自身で決めた行動や下した判
断、
および部下の行動や判断に対して結果責任を負う。
レベルが設定され、それぞれの「責任範囲」、
「関係範囲」、
「総合力」、
<関係範囲> ビジネス目的に対する専門化がどのように寄与するか、
その政策形成に影響を与える力を持
つ。社内では部門レベルで物事を左右する力があり、経営陣レベルでは顧客、
サプライヤ、業界などに影響を
与える力を持つ。判断によって、所属する組織の情報システム業務や組織としての目的の達成度、経済的な
実績などに影響が現われる。顧客、
サプライヤ、業界のリーダーたちと高いレベルでの関係を構築する。
<総合力> 技術面や経済的な側面、品質面などの非常に複雑な業務を担当し、情報システム戦略の立案
に参加する。その仕事には、広範囲かつ技術的な基本方針や経営方針を革新的な手法で実行することも含
まれている。
<ビジネス能力> 複雑な技術情報を十分に理解し、技術系の人とも技術系でない人とも、
すべてのレベル
で何不自由なく意思の疎通を図ることができる。リスクの有無を調べその程度を測ることができ、新しい技術の
可能性を理解することができる。リーダーとしての力を実際に示し、他の人を指導し説得することができる能力
を現場で示すことができる。情報システムのあらゆる面に関する広い知識を持ち、
自らの専門分野では深い知
識を持つ。所属する組織における情報システムの役割と重要性を理解し、
それを他の社員に伝えることができ
る。自分自身と部下の技能の向上に率先して努力し、情報システム業界の展開に常に注意を払っている。
「ビジネス能力」といった項目ごとに必要な能力が定義されています。
また、これにサブカテゴリごとに必要とされるスキルをまとめた「ス
キルセット」も定義されています(図14、図15)。
SFIAのフレームワークの完成度は大変高いものですが、専門分野
ごとに詳細にスキル項目を設け、研修ロードマップも作成した日本の
ITスキル標準の方が研修・教育を行う際にはより実用的で、情報量
は多いものとなっています。
技術的なスキルと職務
<プログラム管理> 活動を計画、指導、調整して、契約や提案案件の当初から最終的な実行段階までの
相関関係にあるプロジェクトを管理し、実行する。プログラムに関連する活動を計画し、予定を立て、
モニターし、
報告し、
プログラム担当チームを指導して顧客に必要な条件を定め、
それを実行計画にまとめ上げる。プログラ
ム費用、実行予算、必要な人員、
プログラムに必要なリソース、
プログラム・リスクなどのプログラムの経済面を
すべて決定し、
モニターし、再検討する。ビジネス上の利益を最大化できるようにプログラムが管理されるように
し、情報システムおよび電気通信業界の最先端を行く技術開発の状況がプログラム管理に報告されるように
する。
(SFIA Foundation……http://www.sfia.org.uk/)
<プロジェクト管理> 会社のプロジェクトの計画、
スケジュール、
モニター、報告などの活動を率先して行う。
健全なプロジェクト管理技術のアプリケーションを開発し、提案し、促進する。小規模のプロジェクトを管理する
権限を与える。現実性のあるプロジェクトや品質、
リスク回避計画の準備や維持管理を左右する力を持つ。
30
31
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第1部 I T スキル 標 準とは
I T スキル 標 準とは 第1部
■ 米国のNWCET
「技術知識」、
「実務能力」などが記述されています(図16、図17)。
米 国 で は「 N W C E T( National Workforce Center for
NWCETはコミュニティ・カレッジ向けにスキルスタンダードに沿っ
Emerging Technologies)」が開発したスキルスタンダード「Skill
た教育カリキュラムを開発しています。企業に在籍し、高い実務能力
Standards for Information Technology」がIT職種の事実上の標
を持つIT技術者の育成に重点を置く日本のITスキル標準とは違い、
準と言われています。
学校等教育機関におけるIT技術者の教育目的が色濃いスキルスタン
このスキルスタンダードでは代表的な職名をグループ化した「キャ
リア群」を8つ定義し、それぞれのキャリア群に複数の職務を定義し
ています。各職務において発生する仕事内容に対して「達成度指標」
、
図16●NWCETのスキルスタンダードで定義されているキャリア群と職名
職名キャリア群
データベースの開発と管理
職名
データ・アナリスト、
データベース・アドミニストレータ、
データベース・アナリスト、
データベー
ス開発者、
データ・アーキテクト、
データ・モデラー、
ナレッジ・アーキテクト
ディジタル・メディア
アニメータ、2D/3Dアーティスト、バーチャルリアリティ・スペシャリスト、
マルチメディア・オ
ーサー、
メディア・スペシャリスト、
メディア/インストラクショナル・デザイン、
プロデューサ
エンタープライズ・システムの分析と統合
システム・アナリスト、
システム・インテグレータ、電子商取引スペシャリスト、電子トランザ
クション実施担当者、
データ・システム・マネジャー、
データ・システム設計担当者、
インフラ
・アナリスト、
ビジネス連続性アナリスト、情報担当役員
ネットワークの設計と管理
ネットワーク技術者、
ネットワーク・エンジニア、
ネットワーク・オペレーション・アナリスト、
デ
ータ通信アナリスト、
ネットワーク・アーキテクト
ダードだと言えるでしょう。なお、このスキルスタンダードは2003年9
月に改訂版が発行されています。
(NWCET……http://www.nwcet.org/)
図17●NWCETにおける職務、タスクと達成指標、技術知識、エンプロイアビリティ・スキルの関係
職務
A1:調査を実施し要求事項を分析する
A:データベースの分析と設計
タスク
●ビジネス目標とプロジェクトの
A1:調査を実施し要求事項を分析する
ゴールが明確に定義されている
A2:概念、論理データ・モデルを作成し
●必要なプロジェクト情報が完全、
練り上げる
プログラミング/ソフトウエア・エンジニアリング
ソフトウエア・エンジニア、
ソフトウエア・テスター、
ソフトウエア・アプリケーション・スペシャ
リスト、
ソフトウエア開発エンジニア、
プログラマ/アナリスト、
ソフトウエアQAスペシャリス
ト
テクニカル・サポート
テクニカル・サポート担当者、
カスタマ・サービス担当者、ヘルプデスク・テクニシャン、PC
サポート・スペシャリスト、
セールス・サポート技術者、保守技術者
テクニカル・ライティング
Webの開発と管理
32
正確で矛盾がない
A3:データモデル用にハイレベルの
ビジネスルールを識別する
技術知識
●基本的なビジネス目標と
要求分析についての知識
●データベース設計原則についての知識
エンブロイアビリティ・スキル
●重要ソースを識別する能力
テクニカル・ライター、文書スペシャリスト、電子出版スペシャリスト、
テクニカル・パブリケ
ーション・マネジャー
Webページ開発者、Webサイト開発者、Webマスター、Webアーキテクト、Webアドミニス
トレータ、Webデザイナー
達成度指標
●情報の正確性と整合性を識別する能力
キャリア群ごとにいくつかの職務が定義されており、
さらに職務ごとにタスクが定義されている
33