1-2 分子発生 高 田 慎 治(教授) 1)専門領域:発生生物学 2)研究課題: a)脊椎動物の体節形成機構に関する研究 b)脊椎動物の鰓弓の発生機構に関する研究 c)脊椎動物の発生過程における細胞間シグナルの機能に関する研究 3)研究活動の概略と主な成果: a)脊椎動物の体節は頭部側から尾部側にかけて逐次,周期的に形成される。個々の体節ユニットが時間経過と ともに順次形成されていく仕組みは,すでにその理解が進んでいる多くの発生現象には認められていない独特 なものであり,その解明には興味がもたれる。本研究では体節の形成と維持の機構を解明することを目的とし て,そこに関与する遺伝子の探索と機能解析を2つのアプローチにより行ってきた。 その一つはゼブラフィッシュの体節前駆細胞に特異的に発現する遺伝子の探索とその機能解析である。我々 はこれまでに in situ hybridization により,ゼブラフィッシュの体節前駆細胞に特異的に発現する遺伝子を数 多く同定してきた。今年度は,そのような遺伝子の一つ ripplyに着目し,その作用機構についての研究を進 めた。その結果,ripplyは発生等さまざまな生命現象を制御する転写制御因子である Tbx と結合し,この因 子を転写活性化因子から抑制因子へと変換していることを突き止めた。一方,このような研究と平行して, 我々は体節などの体幹部の形態形成に異常をきたす突然変異体を複数系統樹立しており,今年度はそのうちの 数系統において原因遺伝子の同定に成功した。さらにそれら遺伝子がコードするタンパク質の機能解析にも着 手し,体節形成の分子機構の解明に向けて研究を進めている。 b)鰓弓は体節と同様に頭部側から尾部側にかけて逐次,周期的に形成されることが知られている。したがって, 体節形成と鰓弓形成の間には何らかの共通する分子メカニズムが存在するのではないかと考えられるが,その 実体は全くわかっていない。また,鰓弓内胚葉から派生する胸腺,副甲状腺などの器官は,上皮組織である鰓 弓内胚葉が括れ切れることにより作られるが,上皮のシートが括れ切れるメカニズムも全く明らかになってい ない。我々はマウスの3つの ripply遺伝子うち,ripply1,2が体節形成過程で発現するのに対し,ripply3は鰓 弓で発現することを見いだした。そこで,鰓弓の分節形成や鰓弓から派生する器官の発生にこの遺伝子がどの ように関わるのかを明らかにするため,ノックアウトマウスを作成して機能解析を行った。さらに鰓弓形成の 分子機構を調べるため,ゼブラフィッシュ胚を用いて鰓弓に発現する遺伝子の同定を試みている。 c)形態形成が正しく進行するためには,分泌性シグナルタンパク質の分泌や拡散が厳密に制御される必要があ る。特に,受容する細胞が分泌タンパク質の濃度に応じて作用を異にする場合,すなわち組織の部域化と呼ば れるような現象が引き起こされる場合には,その濃度勾配の傾斜と広がりの程度が組織の形態形成や機能分化 に大きな意味をもつ。我々は,Wnt タンパク質が効率良く分泌される培養細胞系を見い出し,この系を用いて Wnt タンパク質の分泌に必要な分子機構について研究を進めている。これまでの研究から,Wnt タンパク質に 10 研究領域の現状 は特殊な不飽和脂肪酸が付加していることを見いだし,この脂肪酸付加が Wnt の分泌には必要であることを 明らかにした。この成果は,分泌性シグナルタンパク質の分泌機構を解明する上で,大きな意義をもつものと 考えられる。今年度はこのような成果をふまえ,分泌された Wnt タンパク質の実体を生化学的に解析すると ともに,脊椎動物の発生過程において実際に Wnt の分泌がどのように制御されているのかを調べるため,Wnt の分泌に関わると考えられるいくつかの因子に着目し,ゼブラフィッシュ胚を用いた機能阻害実験を行った。 4)学術論文 Wnt canonical pathway restricts graded Shh/Gli Alvarez-Medina, R., Cayuso, J., Okubo, T., Takada, S., & Marti, E. “ patterning activity through the regulation of Gli3 expression”Development 135, 237-247 (2008) Takada, I., Mihara, M., Suzawa, M., Ohtake, F., Kobayashi, S., Igarashi, M., Youn, M-Y, Takeyama, K., Nakamura, T., Mezaki, Y., Takezawa, S., Yogiashi, Y., Kitagawa, H., Yamada, G., Takada, S., Minami, Y., Shibuya, H., Matsumoto, K. & Kato, S. “ A histone lysine methyltransferase activated by non-canonical Wnt signalling suppresses PPAR-gamma transactivation.”Nat. Cell Biol. 9, 1273 - 1285 (2007) Akanuma, T., Koshida, S., Kawamura, A., Kishimoto, Y., & Takada, S. “ Paf1 complex homologes are required for Notch-regulated transcription during somite segmentation.”EMBO Rep, 8, 858-863 (2007) Ishioka, T., Katayama, R., Kikuchi, R., NIshimoto, M., Takada, S., Takada, R., Matsuzaka, S., Reed, J.C., Tsuruo, Impairment of the ubiquitin-proteasome system by cellular FLIP.”Genes Cells, 12, 735-744 (2007) T. & Naito, M. “ 5)著書,総説 高田律子「分泌性シグナルタンパク質の脂質修飾と,その意義」生化学 79 ,888-892(2007). 高田慎治,高田律子「Wnt タンパク質の分泌と濃度勾配形成」細胞工学 高田慎治,高田律子「Wnt タンパク質の修飾とその意義」実験医学 26 ,1153-1156(2007). 26,361-366(2008) . 6)国際会議発表リスト Wnt proteins are secreted as high-molecular-weight complexes from cultured cells” Ritsuko Takada & Shinji Takada “ Wnt signaling in Development and Disease” , Berlin, Germany, Sep 12-15 (2007) in International conference “ 7)招待講演 Transcriptional repression of mesp gene via Groucho/TLE-associated mediator Ripply.”in Satellite Shinji Takada “ meeting to the 66th Annual Meeting of the Society for Developmental Biology ans the First Pan-American Congress in Developmental Biology: Somitogenesis: from models to Therapeutics, Cancun (Mexico), June 16 (2007). Wnt protein requires an unexpected type of lipid modification for its secretion.”in Joint Meeting of the Shinji Takada “ Japanese Society of Developmental Biologists & the Japan Society for Cell Biology, Fukuoka, May 28-30 (2007). Unsaturated Fatty Acid Modification is Required for Wnt Secretion”in the 5th NIBB-EMBL Symposium Shinji Takada “ on Cell and Developmental Biology, Okazaki, May 24-26 (2007). Wnt protein require lipid modification for its secretion.”in Korea-Japan Joint Meeting on Cellular Shinji Takada “ Signaling and Molecular Imaging, Seoul, (2007). 研究領域の現状 11 Tadashi Okubo “ New aspects of development and maintenance of taste bud cells”in Joint Meeting of the Japanese Society of Developmental Biologists & the Japan Society for Cell Biology, Fukuoka, May 28-30 (2007). 大久保直「味蕾細胞の分化と維持の分子機構」:シンポジウム「口腔内感覚の発生機構」,日本味と匂学会, (東京,2007年7月) 高田律子「Wnt 蛋白質の新規脂質修飾」:大阪大学蛋白質研究所セミナー「蛋白質翻訳後修飾」(大阪,2008 年1月) 8)学会および社会的活動 日本発生生物学会,日本分子生物学会 Society for Developmental Biology(U.S.A) . The 2nd NIBB International Practical Course, Organizer. 12 研究領域の現状
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