ホテル向け自動精算機 MEDIASTAFF VC モデル - PFU

Automatic Account Settling Machine for Hotel Use - MEDIASTAFF VC Model
潮地良明 *
背戸邦夫 **
Yoshiaki Shiochi
Kunio Seto
*
**
システムソリューショングループ 第二システム事業部 ProDeS グループ ProDeS 事業部 第二技術部
MEDIASTAFF の新シリーズとして,ホテルの「チェックイン/チェックアウト時の混雑緩和による快
適さの追及」や「フロント業務の省力化によるローコスト・オペレーション」を実現するホテル向け自動精
算機『MEDIASTAFF VC
MODEL』を製品化した.
カードキーの自動発行回収機能を備えた自動チェックイン,現金精算やクレジット決済機能を搭載した先
進の自動精算端末である.
As a new addition to the MEDIASTAFF series, an automatic account-settling machine for
hotel use called "MEDIASTAFF VC MODEL" has been introduced to the market. This
machine is intended for "enhancing guest comfort by reducing check-in and check-out
congestion" and "realizing low-cost operation by reducing front desk work".
It is a cutting-edge automatic account-settling terminal with such features as automatic
check-in that also performs automatic cardkey issuance and collection, and cash and credit
card account settlement.
1
まえがき
カウンター,ホテルの利用料金の会計を行うフロントキ
ホテルはホテルが提供するサービスの提供形態によ
ャッシャー,ルームキーや郵便物の管理と利用客への情
って分類される.ホテルが提供するサービスには,宿泊,
報提供を行うインフォメーション(キー・メール)デス
料飲(レストラン)
,宴会サービスがあり,これら全て
クなど,その業務は多岐に渡っているが,これまで自動
を提供する都市型のシティホテルと観光地型のリゾート
精算機は,主に,利用料金の会計を行うフロントキャッ
ホテル,ビジネスユースの宿泊を主体としたビジネスホ
シャーの効率化を行うものであった.
テルと宿泊に特化したバジェットホテルに大別される.
近年,徹底したローコストオペレーションによって,
MEDIASTAFF-VC モデル(以降 VC モデル)の
開発にあたっては,フロントキャッシャー業務だけで無
低料金を実現したバジェットホテルがビジネスマンのニ
く,レセプションカウンターおよびインフォメーション
ーズをうまく掴み急激に拡大している.しかしながら,
(キー・メール)デスクについても焦点をあて,フロン
人手によるサービスではローコストオペレーションにも
トオフィス全般の効率化を目指すことにした.
限界があり,カードキーシステムや宿泊料金の自動精算
機など,フロント業務の自動化が急速に進められている.
一方で,人手による対面サービスを重要視するシテ
ィホテルやリゾートホテルにおいても,チェックイン,
チェックアウト時の混雑緩和など,人手による対面サー
ビスの限界を補うことを目的としたフロント業務の自動
化が試行され始めている.
ホテルのフロントは,予約確認を行うレセプション
8
2
ハードウェアの開発
VC モデルの外観を図−1にハードウェア仕様を
表−1に示す.
VC モデルのハードウェア開発においては,弊社
KIOSK 製品である MEDIASTAFF-HR モデル 参1)の
開発資産を有効活用すること,また自動精算機能が必要
PFU Tech. Rev.,17, 2,pp.8-13(11,2006)
ホテル向け自動精算機 MEDIASTAFF VC モデル
な他業種への展開も睨み,MEDIASTAFF 機能と現金
種類のルームキーに対応するかが課題であった.調査の
決済機能,及びホテルカードキーシステムを効率的に融
結果,自動精算機のターゲット市場であるバジェット,
合させることを念頭に開発を進めた.
ビジネスホテルでは,シリンダーキー利用のホテルがま
だ主流であり,一方,新築・改装時にカードキーへの切
2.1 操作性,拡張性に配慮したデザイン,ユニッ
トレイアウト
り替えが増えてきていることが判った.したがって,ル
VC モデルのデザインについては,ホテルロビーに設
対応可能なユニット構成とすることとした.シリンダー
ームキーとしてはシリンダーキーとカードキーの双方に
置しても違和感のないフォルムと温かみのあるブラウン
●表−1 VC モデルハードウェア仕様●
系の色調を配色したカラーリングにより,高級感と使い
やすさに配慮している.またユニットレイアウトについ
ては,VDR(Vertual Design Review)及びモック
アップによる事前検証を行い,画面の高さや角度はもと
より,自動精算機機構を装置中央に,またカードキー発
行及び回収機構を装置右上方に配置するなど,エルゴノ
ミクスに配慮した設計を実施している.その他,小物用
テーブル台,落下コイン防止用アンダースカート等,操
作者へのきめ細やかな配慮も盛り込んでいる.また,カ
ードキーユニットについては,今後の拡張性も考慮し,
装置右上方に 1 元配置している.これにより,他業種
への展開時はカードキー部のみを変更することで容易に
対応を図ることができる.
2.2 ホテル要件に柔軟に対応するユニット構成
装置仕様検討の過程においては,ホテル業界の市場
項 目
仕 様
OS
Microsoft 注1) WindowsXP 注2) Professional
CPU
Intel 注3) Celeron 注4) M 1.3 GHz
内部メモリ
標準 512 MB(最大 1 GB)
搭載ディスク
40 GB HDD
USB メモリ(取引データバックアップ用)
ディスプレイ
15 インチカラー LCD モニター
タッチパネル
抵抗膜方式
外部
10BASE-T / 100BASE-TX
インターフェース
USB2.0
音声出力
ステレオスピーカ
磁気カードリーダ
JIS1 / JIS2 カードリーダ
レシートプリンタ
サーマルプリンタ(用紙幅 80 mm)
対人センサー
赤外線近接検知センサー
動向を調査し,業務運用パターンと求められる機能を整
取扱金種:日本銀行券現行 4 種
理し,搭載するユニットの機能及び構成を決定した.
(10 000 / 5 000 / 2 000 / 1 000)
ユニット選定の際は,自動精算機として,特にどの
現金処理部
国内発行硬貨現行 6 種
(500 / 100 / 50 / 10 / 5 / 1)
紙幣硬貨一括投入方式
紙 幣:50 枚,硬貨:50 枚
カードキー発行部
PET 方式カード(ロイコリライト印字)
(オプション)
スタッカ部収容枚数:120 枚
カードキー回収部
PET 方式カード(ロイコリライト印字)
(オプション)
回収 BOX 収納枚数:120 枚
バーコードリーダ
(オプション)
2 次元バーコードリーダ
プライバシーフィルタ
その他オプション
ピンパッド
UPS
外形寸法(mm)
700(W)× 730(D)× 1 420(H)
突起物含まず
注1)Microsoft は,米国 Microsoft Corporation の米国およびその他の国に
おける登録商標である.
注2)Windows は,米国 Microsoft Corporation の米国およびその他の国に
おける登録商標である.
●図―1 VC モデル外観●
(Fig.1-External view of the VC model)
PFU Tech. Rev.,17, 2,(11,2006)
注3)Intel は,Intel Corporation の登録商標である.
注4)CELERON は,Intel Corporation の登録商標である.
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ホテル向け自動精算機 MEDIASTAFF VC モデル
キーへの対応としてはキーにバーコードタグを貼付し,
ードキーリサイクル方式」の運用イメージを図−2に示
バーコードリーダでの読取により部屋番号の認識を行う
す.
「カードキーリサイクル方式」は,フロントでのカー
対応とした.
またバーコードリーダは,ルームキーの読取りの他
ドキーオペレーションが不要となることより,業務効率
に,フロントでの受付票や,携帯電話に表示される QR
化に向けた,VC モデルの差別化機能の大きなアピール
コードの読取り等,今後の用途拡大を考慮し,2 次元バ
ポイントとなっている.
この他,フロントで会計した後,ルームキーの引換
ーコードリーダを採用している.
カードキーへの対応としては,カードキーは現在紙
券を発行する「ルームキー引換方式」の場合は,発行ユ
カードと PET カードが利用されているが,昨今,運用
ニットのみを搭載し,チェックイン時に端末でルームキ
コストの観点より PET カードの導入が主流となってい
ーの発行を行う.
ることから,PET カードを選定した.カードキーには
一方,フロントでルームキーを引渡し,端末で会計
発行時に部屋番号情報の印刷が必要であるが,PET カ
のみを行う「フロント発行方式」の場合は回収ユニット
ードは,ロイコ印字によるリライト機能により,カード
を搭載し,チェックアウト精算時にカードキーの回収を
キー自身のリサイクル使用が可能であり,急速に普及が
行う.
といったように,ホテルの運用にあわせて,ユニッ
進んでいる.
PET カードユニットについては,発行ユニットと回
ト構成の選択が可能である.
収ユニットを各々独立に搭載可能とし,ホテルのルーム
キー運用に柔軟に対応できるようにしている.
2.3 セキュリティ対策
VC モデルでは,発行ユニットと回収ユニットの両方
自動精算機では,現金やクレジットカードを扱った
を搭載することにより,チェックイン時のカードキーの
り,チェックイン時に,本人確認のための個人情報を画
発行とチェックアウト時のカードキーの回収を自動化す
面に表示したりするため,セキュリティ対策を十分施す
る「カードキーリサイクル方式」を実現している.
「カ
必要がある.
ホテル
フロント
ホテルシステム
MEDIASTAFF VC モデル
注1)
回収 BOX
プリンタ
バーコード
リーダ
カード
リーダ
現金処理部
発行 BOX
カード回収 カード発行
ユニット ユニット
客室
登録
カード
チェック
イン
受付票
カード
キー
会員
カード
カード
キー
カード
キー
チェックアウト
注1)回収したカードキーは,カード面のチェックを行い,発行ユニット機に再セット
●図―2 カードリサイクル方式の運用イメージ●
(Fig.2-Concept of how card recycling operates)
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PFU Tech. Rev.,17, 2,(11,2006)
ホテル向け自動精算機 MEDIASTAFF VC モデル
VC モデルでは,横からの覗き込み防止を考慮し,端
支払う途中精算も多くある.
末両サイドにパーティション用のサイドパネルを標準装
こうしたことを踏まえて,バジェット・ビジネスホ
備している.また,画面視野角を規制する専用プライバ
テル,シティ・リゾートホテルのそれぞれに対応するこ
シーフィルタ,クレジット決済時の暗証番号入力を手元
とができるように,前払い,途中精算,後払い,とそれ
で行えるピンパッドをオプションとして準備し,セキュ
ぞれを組み合わせた支払い形態に対応できるようにし
リティ対策に万全を期している.さらに,端末操作時に
た.
後方を確認できる後方確認ミラーの搭載も可能な様,筐
体構造についても配慮している.
(2)支払い方法への対応
支払い方法としては,現金,クレジット,売掛けに
対応させた.クレジットについては,オムロン 1 が提
2.4 取引データの保護
供するクレジット決済サービスを利用することによって
VC モデルでは,現金やクレジット決済などの取引を
実現している.オムロン 1 が提供するクレジット決済
行うため,取引データの保護については注意を払う必要
サービス(OTAC-LINK)は,CAFIS および JCN の
がある.また,商法や法人税法では領収書情報の 7 年
二大クレジットネットワークに接続することができるた
間の保管が義務づけられており,データ保管への対応も
め,クレジットカード会社を選ぶことなく接続できるこ
必要である.これら課題への対応として,万が一ディス
とが強みとなっている.図−3にクレジット決済時のネ
クがクラッシュした場合でも容易にデータの復旧ができ
ットワーク構成を示す.
るよう取引データのバックアップ用に USB メモリを
内蔵している.また,データの外部媒体へのバックアッ
3.2 レセプションカウンターの効率化
プ用に運用管理者が使用可能な USB ポートを準備し
レセプションカウンターの主なる業務は,予約情報
ており,CD や DVD 等の外部媒体へのデータ移出が
の確認と部屋割りである.従来の自動精算システムは,
容易に行えるようになっている.
宿泊客に予約番号やカナ氏名をタッチパネルにて手入力
させていたが,この方法は,宿泊客が入力を間違えると
3
ホテル向けアプリケーションの開発
ホテル向けアプリケーションの開発にあたっては,
ビジネスホテル,バジェットホテル,シティホテル,リ
他の宿泊客の予約情報が見えてしまう可能性があり,個
人情報保護法に抵触する恐れがあった.また,宿泊者名
簿を記入せずにチェックインできてしまうこともあり,
旅館業法にも抵触する恐れがあった.
ゾートホテルのそれぞれのフロントキャッシャーに対応
また,この問題を回避するために,フロントでカー
できるようにすることと,フロントキャッシャーのみな
ドキーを発行し,そのカードキーを用いて利用料金を精
らず,レセプションカウンターおよびインフォメーショ
算する方法をとっている自動精算機もあるが,この方法
ン(キー・メール)デスクの省力化に留意した.
では,フロントでチェックインを済ませねばならず,そ
さらにホストシステム(ホテルシステム)との接続
を容易にするためにインターフェースの簡素化にも留意
した.
もそもレセプションカウンターの効率化は望めない.
そこで,ホテル向けアプリケーションでは,予約番
号やカナ氏名など,予約情報との照会キーをエンコード
したバーコードにて宿泊客を受け付けるようにした.バ
3.1 様々なホテルのフロントキャッシャーへの
対応
(1)支払い形態への対応
ホテルの利用料金の支払形態としては,バジェット
ホテルはチェックイン時に支払う前払い.ビジネスホテ
ーコードで受け付けることによって,誤入力を防止する
とともに,チェックインする前にチェックポイントを設
けられるため,個人情報保護法および旅館業法を遵守し
ながらも,レセプションカウンターの省力化を図れるよ
うにした.
ルはチェックイン時に宿泊料金を支払い,チェックアウ
ト時にルームサービスなどの費用を支払うケースが大半
を占めている.これに対してシティホテルやリゾートホ
3.3 インフォメーションデスクの効率化
ルームキー(カードキー)の管理,郵便物の受け渡
テルは,チェックアウト時に支払う後払いが主流である.
し,宿泊客への情報提供が主たる業務となるインフォメ
また,長期滞在型のホテルでは,滞在中に定期的に
ーションデスクの効率化にあたっては,今回は,ルーム
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ホテル向け自動精算機 MEDIASTAFF VC モデル
ホテル
OTAC注1)センター
客室
カードキー
システム
カード
キー
ホテル
システム
JCN
JCN クレジット・サーバ
Super
OBN
CAFIS
CAFIS クレジット・サーバ
MEDIASTAFF VC モデル
G-CAT
G-CAT
注1)OTAC センターを介して,JCN および CAFIS に接続
●図―3 ネットワーク構成(クレジット決済時)●
(Fig.3-Network configuration (for credit settlement))
キー(カードキー)受け渡しと,宿泊客への情報提供を
ることにより,マルチリンガルでの動作を実現している.
テーマとして開発に取り組んだ.
アプリケーションとしては,日本語,英語はもとより,
(1)ルームキー(カードキー)の受け渡し
前述したとおり VC モデルにカードキーの発行・回
収機構が搭載可能なため,チェックイン時には,カード
中国語,韓国語を含めた 4 か国語を基本でサポートし
ている.さらに言語毎にコンテンツを追加することによ
り,最大 10 か国語までの拡張を可能としている.
キーを発行し,チェックアウト時にはカードキーを回収
できるようにした.また,カードキーの回収率を高め,
さらなるローコストオペレーションを図るため,キーデ
ポジット注1)への対応も考慮した.
(2)宿泊客への情報提供
チェックインおよびチェックアウト時に宿泊客への
情報提供手段としてメッセージシートを出力できるよう
3.5 ホスト(ホテルシステム)インターフェース
VC モデル用アプリケーションは,これまで述べてき
たように豊富な機能を実装しているが,通信電文の汎用
化と共通化をすすめ「請求」と「入金」という二つのイ
ンターフェースだけで運用できるようにし,ホスト(ホ
テルシステム)との接続性を確保している.
にした.メッセージシート出力機能の開発にあたっては,
これまで流通業向けのクーポンチケット発券機能の開発
で培ってきたノウハウを充分に活かし,メッセージ内容
を容易に変更できるようにした.
4
むすび
筆者らは MEDIASTAFF の新シリーズを開発する
にあたって,既に市場投入している MEDIASTAFF-
3.4 マルチリンガル対応
VC モデルは国内使用を前提としているが,外国人宿
泊客が増えている昨今,マルチリンガル対応は必須であ
HR にいかに付加価値をつけるかということを,常に考
えている.今般,その付加価値として現金精算機能を持
たせることによって,精算業務の自動化を実現した.
る.VC モデル用アプリケーションでは,静的な画像や
今回の開発モデルでは,ホテルへの展開ということ
ガイダンス音声などのコンテンツを切り替えて動作させ
で,そのキーコンポーネントは,部屋の鍵であり,それ
をカードキーというホテルと宿泊客を結びつける一つの
注 1)チェックイン時に預かるルームキーの保証金.
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媒体を MEDIASTAFF に発行回収機能を実現して取
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ホテル向け自動精算機 MEDIASTAFF VC モデル
り扱い可能とし,さらには,そのカードキーの発行及び
行を行うユニットがあげられる.これらユニットの交換
回収のタイミングで料金の精算をして頂くことにより,
と合せて,アプリケーションのパッケージの一部をその
ホテルを利用されるお客様と MEDIASTAFF を結び
ユニット用に変更したものに交換することにより,VC
つけ,導入されるお客様のビジネスモデルと
モデルと多様なビジネスモデルとを結びつけ,精算業務
MEDIASTAFF を結び付けた.
の自動化を推進していく.
つまり,カードキーをホテルと MEDIASTAFF の
これからの MEDIASTAFF の活躍にご期待下さい.
インターフェースと考えたのである.
これらのユニットを搭載している部分は,業種対応
ユニットエリアとして,ビジネスモデルに応じた交換が
参考文献
参1)浅沼ほか:情報キオスク端末 MEDIASTAFF − HR モデ
ル,PFU Tech.Rev.,16,1,pp.14-19(2005).
可能である.例えば,チケット,商品券などの認証や発
PFU Tech. Rev.,17, 2,(11,2006)
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