新有機超伝導体の開発 岡山大学 大学院自然科学研究科(理学部物理学科) 准教授 神戸高志 岡山大学 大学院自然科学研究科(界面科学研究施設) 教授 久保園芳博 1 研究背景 有機半導体を用いたエレクトロニクスの著しい進展 有機電界発光素子(EL)、 電界効果トラ ンジスタ(FET)、太陽電池など 炭素材料、有機材料を中心とする軽元素材料は、 元素戦略(レアメタルフリー)の基幹に位置する材料 多種多様な電子材料への応用が期待できる 有機半導体や有機金属・超伝導体、あるいはフラーレン、カーボ ンナノチ ューブ、グラフェンなどナノ炭素材料の電子物性研究は 極めて重要である 2 π-電子 ネットワーク物質における超伝導体 Graphite intercalation compounds Tc = 0.14 K PRL 14, 225 (1965) KC8 CaC6 Tc = 11.5 K PRL 14, 225 (2005) Organic superconductor κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl Tc = 12.8 K β -(BEDT-TTF)2ICl2 PRB 44, 4666 (1991) Tc = 14.2 K (82 kbar) JPSJ 72, 468 (2003) C60 superconductor RbCs2C60 Cs3C60 Tc = 33 K Nature 352, 222(1991). Tc = 40 K (15 kbar) Solid State Commun. 93, 327 (1995). Nature Mat. 367, (2008), Science 323, 2585 (2009) • 新たな 高温有機超伝導体は、過去10年間見つかっていない. 3 炭素系πネットワーク物質における超伝導 − ダイヤモンド、フラーレン、グラファイト、ナノチューブ − • ダイヤモンド 2004年 ホウ素ドープ Tc∼4K • フラーレン ダイヤモンド フラーレン(C60) 1991年 RbCs2C60 Tc∼33K 2009年 Cs3C60 Tc∼40K(圧力) • グラファイト 2005年 CaC6 Tc∼11.5K グラファイト 学術的な話題を提供 ナノデバイスへの進展 ナノチューブ • ナノチューブ 2001年 Tc<1K 統一的な理解は得られていない 炭素系材料の研究展開の重要性 4 芳香族炭化水素ピセン グラフェンシートを切り取った構造 ピセン ピセン 有機トランジスタ材料で 使用されるペンタセンと 同数(5個)のベンゼン環 ペンタセン グラフェン 結晶構造は2次元層状構造 a-b面のレイヤー がc軸方向に積層c 5 芳香族炭化水素ピセン ピセンとは、 芳香族多環縮合炭化水素の一種 泥炭・原油などを蒸留したときにでるピッチ中に存在 ピセンはワイドギャップ半導体 ピセン ペンタセン 1.8 eV ペンタセンなどのアセン系列よりも 安定な電子構造 空気中でも安定 3.3 eV 良い電界効果トランジスタ特性 ガスセンシング効果 6 芳香族炭化水素初の超伝導体 ピセンへのアルカリ金属原子のドーピングにより、 超伝導転移温度18 K(マイナス255℃) の新しい有機超伝導物質を発見 この超伝導転移温度は有機物超伝導体 としては世界最高の温度 7 芳香族炭化水素初の超伝導体 ピセン ありふれた化合物 コールタール 超伝導体の塊? 日本経済新聞 8 酸化 物 新芳香族超伝導体の転移温度の位置づけ Tc (K) 鉄系 有機化 合物 ピセン year 201 0 ピセン超伝導体の超伝導転移温度は有機物 超伝導体としては世界最高の温度 9 アルカリ金属原子(K、Rb)、アルカリ土類金属 原子(Ca) ドープ 新ピセン超伝導体 Tc Tc Tc において磁化の急激な 減少が観測される Tc Tc 超伝導体 K3ピセン Tc~7.1K , 18K 超伝導体 Rb3ピセン Tc~6.9K 超伝導体 Ca1.5ピセン Tc~7.1K ピセン超伝導体の磁化率の温度依存性 10 アルカリ金属原子 K ドープ ピセン超伝導体の 温度磁場相図 20 K K3ピセン超伝導体 下部臨界磁場 Hc1 = ~ 400 Oe 上部臨界磁場 Hc2 = ~ 104 Oe Hc1 – T 曲線 Hc2 – T 曲線 11 ピセン超伝導体の磁気特性 金属原子 超伝導転移温度 (K) 超伝導 フラクション (%) 下部臨界磁場 (Oe) 上部臨界磁場 (Oe) K 7.1 20 15 1.1 (pellet) (pellet) 300 400 >10000 >10000 Rb Ca 7 7.1 10 1.2 80 150 1000 1000∼10000 コヒーレンス長 (Å) 180 180 570 180∼570 磁場侵入長 (Å) 950 770 1300 1000∼1600 320 150 結晶粒径 (Å) 135 12 ピセン超伝導体の材料としての特徴 • 芳香族炭化水素の一種 • 軽元素材料(炭素、水素のみ)で希少金属は含まない、レ アメタルフリー • ありふれた材料 • 有毒性の元素を一切含まない低環境負荷材料 • 有機化合物の中で最も高く、金属間化合物Nb3Snに匹 敵する超伝導転移温度 • 構造柔軟性 芳香族炭化水素分子は 多様で拡張性の高い構造 新芳香族炭化水素超伝導体の開発 13 従来の超伝導材料との比較 従来 新材料 •コスト •芳香族炭化水素はありふれた 材料 •希少金属 •軽元素材料(炭素、水素のみ) •環境負荷が大きい •有毒性の元素を一切含まない レアメタルフリー(カリウムは人 体に多く含まれる) 14 想定される用途と業界 • 有機物特有な軽量かつフレキシブル、 • 塗布も可能であり、コーティングにより超伝導材料を何らかの基 板上に貼って使用できる。線材やシート/テープ化。 • 超伝導フレキシブルワイヤ・テープ • SQUID超伝導デバイスのワイヤ等のフレキ ブル性が要求される部分のワイヤとして使える。 • 脳内に入れ込むSQUIDセンサのワイヤ 電機メーカー 線材メーカー 医療機器メーカー(生体用超伝導デバイスーSQUIDセンサー) 化学メーカー(新規な超伝導材料として売っていくため)−すでに東京化成が piceneを販売中。 15 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :有機物超伝導体及びその 製造方法 • 公開番号 :特開2010-231894号 • 出願人 :岡山大学 • 発明者 :久保園芳博、神戸高志、 岡本秀毅、池田直 16 お問い合わせ先 ● 技術内容に関するお問い合わせ 岡山大学 知財プロデューサー 氏名 :平野 芳彦 連絡先 :086−251−8961 E-mail : [email protected] 岡山大学 産学官連携プロデューサー 氏名 :遠藤 隆 連絡先 :086−251−7151 E-mail : [email protected] ● 特許に関するお問い合わせ 岡山TLO 特許流通アドバイザー 氏名 :上田 文明 連絡先 :086−286−9711 E-mail : [email protected] 17
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