JP 2005-210952 A 2005.8.11 (57)【 要 約 】 【課題】 2−メチル酪酸エチルの甘く、フルーティでかつ従来にない新規な青りンゴ様 の香味特徴を有する、焼酎、清酒を提供する。 【解決手段】 2−メチル酪酸エチルを有効成分とする焼酎又は清酒の香味改良剤。2− メチル酪酸エチルを有効量以上含有する製品が得られるように、前記の香味改良剤を添加 してなる焼酎又は清酒。焼酎又は清酒を製造する方法において、2−メチル酪酸エチルを 有効量以上含有する製品が得られるように、前記の香味改良剤を添加する工程を包含する ことを特徴とする焼酎又は清酒の製造方法。2−メチル酪酸エチル源としては、当該標品 、又は該エステルを含有する香味料、果実類、微生物培養物等がある。 【選択図】 なし 10 (2) JP 2005-210952 A 2005.8.11 【特許請求の範囲】 【請求項1】 2−メチル酪酸エチルを有効成分とすることを特徴とする焼酎又は清酒の香味改良剤。 【請求項2】 2−メチル酪酸エチルを有効量以上含有する製品が得られるように、請求項1に記載の 香味改良剤を添加してなる焼酎又は清酒。 【請求項3】 請求項2における有効量が、37.0μg/Lである甲類焼酎。 【請求項4】 請求項2における有効量が、30.1μg/Lである乙類焼酎。 10 【請求項5】 請求項2における有効量が、18.7μg/Lである清酒。 【請求項6】 焼酎又は清酒を製造する方法において、2−メチル酪酸エチルを有効量以上含有する製 品が得られるように、請求項1に記載の香味改良剤を添加する工程を包含することを特徴 とする焼酎又は清酒の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、2−メチル酪酸エチルを有効成分とする焼酎又は清酒の香味改良剤及び該香 20 味改良剤を添加する焼酎又は清酒の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 2−メチル酪酸エチルは、デリシャスリンゴの特徴香気成分として知られており〔おい しさの科学、第127頁、発行所(株)朝倉書店、1994年6月10日初版発行〕、そ のリンゴを連想させる甘く、フルーティな香気特徴を有する。 2−メチル酪酸エチルの酒類における存在は、ビール、シードル、ワイン、ブランデー 、コニャック、ラムについて報告されており〔アロマ オブ ビール,ワイン アンド ディスティルド アルコーリック ビバリッジズ(Aroma of Beer,Win e and Distilled Alcoholic Beverages)、ディー 30 .ライデル パブリッシング カンパニー(D.REIDEL PUBLISHING COMPANY),p.182,1983年〕、ブランデーではその含量の報告もある〔 ジャーナル オブ アグリカルチュラル アンド フード ケミストリー(Journa l of Agricultural and Food Chemistry),Vo l.27,No.2,pp.365−372,1979年〕。更に、ワインでは、本成分 が熟成ワインに多いという記載もある〔アナリシス オブ テイスト アンド アロマ( Analysis of Taste and Aroma),スプリンガー(Spri nger),p.99,2002年〕。しかし、これらは酒類の種類と2−メチル酪酸エ チルの含有との関連を明らかにしたものに過ぎず、それぞれの酒類において、2−メチル 酪酸エチルの香気特性が酒類の特徴として認識され、更に酒類の香味を改良しうる適切な 40 濃度についての公知の証拠は得られていない。 【0003】 一方、新鮮な香味と著しい匂い立ちを与える新規な香味改善剤及び改善された香味を有 する飲食物が知られている〔特開平7−143859号公報〕。これは、(S)−(+) −2−メチル酪酸及びそのエステル類からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物が 、光学純度70%e.e.以上で含有されていることを特徴とする香味改善剤、並びに光 学純度が70%e.e.以上の(S)−(+)−2−メチル酪酸及びそのエステル類から なる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を、飲食物に対して、光学純度100%に換 算して1∼150ppmの割合で含有することを特徴とする改善された香味を有する飲食 物であり、果汁飲料、食品等の飲食物に添加することによって、飲食物の香味の質及び匂 50 (3) JP 2005-210952 A 2005.8.11 い立ちを改善することができるとしている。しかしながら、焼酎又は清酒における2−メ チル酪酸エチルの効果についての記載はない。 【0004】 焼酎、清酒においては2−メチル酪酸エチルの存在が報告されておらず、その焼酎、清 酒中での効果については知られていない。本成分の存在が認められていない焼酎、清酒で は、香味の改良について2−メチル酪酸エチルがどのような効果を持つかは不明であり、 その良好な官能特性が発現する濃度についての公知の証拠もないのが現状である。 【0005】 【特許文献1】特開平7−143859号公報 【非特許文献1】おいしさの科学、第127頁、発行所(株)朝倉書店、1994年6月 10 10日初版発行 【非特許文献2】アロマ オブ ビール,ワイン アンド ディスティルド アルコーリ ック ビバリッジズ(Aroma of Beer,Wine and Distill ed Alcoholic Beverages)、ディー.ライデル パブリッシング カンパニー(D.REIDEL PUBLISHING COMPANY),p.18 2,1983年 【非特許文献3】ジャーナル オブ アグリカルチュラル アンド フード ケミストリ ー(Journal of Agricultural and Food Chemi stry),Vol.27,No.2,pp.365−372,1979年 【非特許文献4】アナリシス オブ テイスト アンド アロマ(Analysis o 20 f Taste and Aroma),スプリンガー(Springer),p.99 ,2002年 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、上記従来技術にかんがみ、その目的は、2−メチル酪酸エチルが焼酎、清酒 に甘く、フルーティな香味特徴を向上させること、また、その酒類中での適切な濃度を明 らかにすることであり、2−メチル酪酸エチルの甘く、フルーティでかつ従来にない新規 な青リンゴ様の香味特徴を有する、焼酎、清酒を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 30 【0007】 本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、2−メチル酪酸エチルを有効成分とする 焼酎又は清酒の香味改良剤に関し、本発明の第2の発明は、2−メチル酪酸エチルを有効 量以上含有する製品が得られるように、2−メチル酪酸エチルを有効成分とする焼酎又は 清酒の香味改良剤を添加してなる焼酎又は清酒に関する。また、本発明の第3の発明は、 前記有効量が37.0μg/Lである甲類焼酎であり、本発明の第4の発明は、前記有効 量が30.1μg/Lである乙類焼酎であり、本発明の第5の発明は、前記有効量が18 .7μg/Lである清酒である。更に、本発明の第6の発明は、焼酎又は清酒を製造する 方法において、2−メチル酪酸エチルを有効量以上含有する製品が得られるように、上記 第1の発明の焼酎又は清酒の香味改良剤を添加する工程を包含する焼酎又は清酒の製造方 40 法に関する。 【0008】 本発明者らは、焼酎又は清酒に2−メチル酪酸エチルを特定の有効量含有させることに よって、前記課題を解決することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完 成させた。 【発明の効果】 【0009】 本発明は、焼酎、清酒に、甘く、フルーティな香味特徴を向上させることができる極め て優れた焼酎又は清酒の香味改良剤である。また、本発明では、2−メチル酪酸エチルを 有効成分とする焼酎又は清酒の香味改良剤を添加することにより、焼酎、清酒には従来な 50 (4) JP 2005-210952 A 2005.8.11 かった甘く、フルーティな芳香を有する高品質の焼酎、清酒として認識されるものを得る ことができる。2−メチル酪酸エチルの標品、香味料、微生物培養物を添加する方法によ り、容易に本発明の焼酎又は清酒を提供することができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0010】 以下、本発明を具体的に説明する。 本発明で使用する改良剤は、2−メチル酪酸エチルの標品(単品)でよく、またそれを 含有する香味料、果実類、微生物培養物でもよい。 【0011】 本発明の香味改良剤を焼酎又は清酒に添加する時期は、焼酎、清酒の製造工程中のいず 10 れかの時期であればよい。製品への添加でもよいが、例えば、焼酎であれば蒸留前の醪に 、清酒であれば上槽前の醪に添加することが望ましく、これにより、蒸留後の焼酎、上槽 後の清酒に2−メチル酪酸エチルを多く含有させることができる。2−メチル酪酸エチル を多く含有させることにより、焼酎、清酒の官能評価で良好であると認識されるフルーテ ィな香気特徴、すなわち、芳香、果実様、フルーツ様、エステリ(estery、エステ ルの香りを感じる)、さわやか、フレッシュ、かろやか、花様、メロン様、柑橘様等の香 気特徴を増強することができ、また、甘さを示す香味特徴、すなわち、やわらかい、甘い 、ふくらみのある、ソフト、マイルド、深み、丸い、なめらか等の香味特徴も増強するこ とができる。更に得られた焼酎、清酒は、従来にない新規な青リンゴ様のフルーティさが 付与された香気となって、従来の焼酎や清酒より品質が向上したものとなる。本発明の改 20 良剤で用いる香味料としては、2−メチル酪酸エチルを含有し、香味を付与するものであ れば特に限定はない。例えば、香料、香味液等が挙げられる。本発明の改良剤で用いる果 実類としては、2−メチル酪酸エチルを多く含有しているものであれば特に限定はない。 例えば、リンゴ、ドリアン等が挙げられる。それらの抽出物を用いることもできる。また 、本発明の改良剤で用いる微生物培養物の微生物や培養方法に特に限定はないが、好まし くは酵母、特にディポダスカス(Dipodascus)属の酵母を用いることが好まし い。例えば、文献〔ツァイトシュリフト フュア レーベンスミッテル−ウンターズーフ ンク ウント−フォルシュンク(Zeitschrift fur Lebensmit tel−Untersuchung und−Forschung),Vol.177, pp.336−338,1983年〕記載の酵母が挙げられる。該酵母を用いて麹汁培地 30 などで培養を行うと、2−メチル酪酸エチルが多く生産される。また、麹汁培地や穀物原 料の糖化液のように、特殊な栄養素を必要とせず、酒類の製造時において手軽にかつ普遍 的に得られる培地での培養が可能である。次に、この微生物培養物を焼酎や清酒の醪に添 加して蒸留又は上槽すると、本来の焼酎や清酒の香味を残しながらも青リンゴ様の新規な フルーティさが付与されてバランスのとれた香味良好な焼酎や清酒を得ることができる。 2−メチル酪酸エチルを生成する微生物の例としては、前記した酵母以外に、ゲオトリ カム(Geotrichum)属、ノイロスポラ(Neurospora)属の微生物が 挙げられる。これら微生物の培養液そのもの、あるいは培養液から回収した香味液は、本 発明の香味改良剤として用いることが可能である。また、培養時にイソロイシンを添加す ることにより、2−メチル酪酸エチルを高生成させることもできる。 40 【0012】 本発明でいう焼酎とは、焼酎、スピリッツ等が挙げられる。焼酎、スピリッツの原料に 特に限定はない。本発明でいう清酒とは、清酒、合成清酒等が挙げられる。清酒、合成清 酒の原料は、米、米麹及びその他通常清酒に用いられているものであれば特に限定はない 。また、発酵方法、蒸留方法にも特に限定はない。 【0013】 本発明の甲類焼酎における2−メチル酪酸エチルの有効量は、37.0μg/Lである 。2−メチル酪酸エチルを37.0μg/L以上含有すると、青リンゴ様のフルーティな 香気や花様の芳香が強くなり香味良好となるが、37.0μg/L未満では、それらの良 好な香気は感じられず、本来甲類焼酎のもつ香気だけになってしまう。 50 (5) JP 2005-210952 A 2005.8.11 本発明の乙類焼酎における2−メチル酪酸エチルの有効量は、30.1μg/Lである 。2−メチル酪酸エチルを30.1μg/L以上含有すると、フルーティで香味良好とな るが、30.1μg/L未満では、良好な香気は感じられず、本来乙類焼酎のもつ香気だ けになってしまう。 本発明の清酒における2−メチル酪酸エチルの有効量は、18.7μg/Lである。2 −メチル酪酸エチルを18.7μg/L以上含有すると、フルーティで良好な香気が強く なり好ましいが、18.7μg/L未満では、本来清酒のもつ香気だけになってしまう。 2−メチル酪酸エチルは、焼酎、清酒に多量に含有していても問題はないが、官能的な 上限の値は10mg/L、好ましくは1mg/Lである。10mg/Lを超えると、試薬 的、人工的な香気が強くなりすぎて、焼酎、清酒が本来持っている良好な香味を損なうこ 10 とになる。 【0014】 以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限 定されるものではない。 【実施例1】 【0015】 甲類焼酎での効果的濃度 実施例1から実施例3の標品添加に使用したベースの公知の酒類では、2−メチル酪酸 エチルの含量が、いずれも、以下の方法で測定した2−メチル酪酸エチルの検出限界の下 限値0.1μg/Lに、希釈倍率10を乗じた1μg/L以下の含量であることを確認し 20 た。 すなわち、サンプル1mlに蒸留水9mlを加え、1μlの0.1%(v/v)シクロ ヘキサノール/エタノール溶液を内部標準として更に加えた10倍希釈溶液から、ポリジ メチルシロキサンをコートしたスターラーバー ツイスター(Twister T M )〔ゲ ステル(GERSTEL)社製〕を使用し、2−メチル酪酸エチルを抽出した。抽出条件 は攪拌(室温、1時間)とした。更に、スターラーバーに抽出した香気成分を熱脱着させ た後、ガスクロマトグラフ アジレント(Agilent)6890N〔横河アナリティ カルシステムズ(株)製〕に導入し、常法により分離後、質量選択型検出器 アジレント (Agilent)5973〔横河アナリティカルシステムズ(株)製〕で検出し、クロ マトグラムを得た。内部標準法を用いて定量計算を行った。 30 一方で、2−メチル酪酸エチルの標準品を上記抽出法及び分析法にて分析し、S/N比 3であった0.1μg/Lを検出限界の下限値とした。 25%(v/v)アルコールの甲類焼酎である宝焼酎〔宝酒造(株)製〕に2−メチル 酪酸エチル標品〔東京化成工業(株)製〕を添加し、2−メチル酪酸エチルの濃度が12 .0、33.0、66.0μg/Lとなるように調整したものと添加していないものを呈 示サンプルとして調製した。これらのサンプルを試料濃度が上昇系列となるようにパネラ ー11名に呈示し、3点識別法により添加されたサンプルを判別させた。 生の正答率Poを(Po−p)/(1−p)と補正したもの(pは偶然の正答率1/3 を使用)を真の正答率Piとして濃度と正答率のグラフにプロットし、最小自乗法で近似 した直線において真の正答率が0.5となる濃度を2−メチル酪酸エチルの効果の認識閾 値とした。結果を表1に示す。 【0016】 40 (6) JP 2005-210952 A 2005.8.11 【表1】 10 【0017】 真の正答率Piが0.5となるとき、2−メチル酪酸エチルの濃度は37.0μg/L であった。この濃度が甲類焼酎において2−メチル酪酸エチルの効果が認識される閾値で ある。 20 【0018】 次に、2−メチル酪酸エチルを含有する甲類焼酎と含有しないものについての比較を行 った。すなわち、25%(v/v)アルコールの甲類焼酎である宝焼酎〔宝酒造(株)製 〕に2−メチル酪酸エチル標品〔東京化成工業(株)製〕を添加し、2−メチル酪酸エチ ルの濃度が37.0μg/Lとなるように調整したもの(本発明1)と添加していないも の(比較例1)を呈示サンプルとして調製し、11名のパネラーにより5点評価法(1: よい、5:悪い)で官能検査を行った。官能検査の評点は平均値で表した。結果を表2に 示す。 【0019】 【表2】 30 40 【0020】 本発明によれば、2−メチル酪酸エチルを含有していない甲類焼酎の品質を向上させ、 果実、甘い、リンゴ、エステリ、花様、フルーツ、青リンゴと描写される好ましくさせる 特性を有していた。なお、表中の青リンゴ(2)の意味は同じ特性描写をしたパネラーが 2名であることを示す。 【実施例2】 【0021】 乙類焼酎での効果的濃度 50 (7) JP 2005-210952 A 2005.8.11 25%(v/v)アルコールの乙類焼酎である本格焼酎「よかいち」<麦>〔宝酒造( 株)製〕に2−メチル酪酸エチル標品〔東京化成工業(株)製〕を添加し、2−メチル酪 酸エチルの濃度が6.7、16.6、22.7、45.0μg/Lとなるように調整した ものと添加していないものを呈示サンプルとして調製した。これらのサンプルを試料濃度 が上昇系列となるようにパネラー8名に呈示し、3点識別法により添加されたサンプルを 判別させた。効果の認識閾値の求め方は実施例1に準じて行った。結果を表3に示す。 【0022】 【表3】 10 20 【0023】 真の正答率Piが0.5となるとき、2−メチル酪酸エチルの濃度は30.1μg/L であった。この濃度が乙類焼酎において2−メチル酪酸エチルの効果が認識される閾値で ある。 【0024】 次に、2−メチル酪酸エチルを含有する乙類焼酎と含有しないものについての比較を行 った。すなわち、25%(v/v)アルコールの乙類焼酎である本格焼酎「よかいち」< 麦 > 〔 宝 酒 造 (株 ) 製 〕 に 2 − メ チ ル 酪 酸 エ チ ル 標 品 〔 東 京 化 成 工 業 ( 株 ) 製 〕 を 添 加 し 、2−メチル酪酸エチルの濃度が30.1μg/Lとなるように調整したもの(本発明2 )と添加していないもの(比較例2)を呈示サンプルとして調製し、8名のパネラーによ り5点評価法(1:よい、5:悪い)で官能検査を行った。官能検査の評点は平均値で表 した。結果を表4に示す。 【0025】 30 (8) JP 2005-210952 A 2005.8.11 【表4】 10 【0026】 本発明によれば、2−メチル酪酸エチルを含有していない乙類焼酎の品質を向上させ、 フルーティ、やわらかい、やや甘い香りと描写される好ましくさせる特性を有していた。 なお、表中のフルーティ(2)の意味は同じ特性描写をしたパネラーが2名であることを 20 示す。 【実施例3】 【0027】 清酒での効果的濃度 15%(v/v)アルコール以上、16%(v/v)アルコール未満の清酒である松竹 梅 上撰〔宝酒造(株)製〕に2−メチル酪酸エチル標品〔東京化成工業(株)製〕を添 加し、2−メチル酪酸エチルの濃度が0.6、11.6、35.3μg/Lとなるように 調整したものと添加していないものを呈示サンプルとして調製した。これらのサンプルを 試料濃度が上昇系列となるようにパネラー12名に呈示し、3点識別法により添加された サンプルを判別させた。効果の認識閾値の求め方は実施例1に準じて行った。結果を表5 30 に示す。 【0028】 【表5】 40 【0029】 真の正答率Piが0.5となるとき、2−メチル酪酸エチルの濃度は18.7μg/L 50 (9) JP 2005-210952 A 2005.8.11 であった。この濃度が清酒において2−メチル酪酸エチルの効果が認識される閾値である 。 【0030】 次に、2−メチル酪酸エチルを含有する清酒と含有しないものについての比較を行った 。すなわち、15%(v/v)アルコール以上、16%(v/v)アルコール未満の清酒 である松竹梅 上撰〔宝酒造(株)製〕に2−メチル酪酸エチル標品〔東京化成工業(株 )製〕を添加し、2−メチル酪酸エチルの濃度が18.7μg/Lとなるように調整した もの(本発明3)と添加していないもの(比較例3)を呈示サンプルとして調製し、12 名のパネラーにより5点評価法(1:よい、5:悪い)で官能検査を行った。結果を表6 に示す。 10 【0031】 【表6】 20 【0032】 本発明によれば、2−メチル酪酸エチルを含有していない清酒の品質を向上させ、フル ーティ、さわやか、かろやか、ふくらみ、フレッシュ、さわやかなエステルの香り、青リ ンゴ、やや甘い香り、花様と描写される好ましくさせる特性を有していた。なお、表中の 30 フルーティ(2)の意味は同じ特性描写をしたパネラーが2名であることを示す。 【実施例4】 【0033】 ディポダスカス マグヌシイ(Dipodascus magnusii)培養物から 回収した香味液を添加して調製した甲類焼酎 2−メチル酪酸エチルを含有させる方法として、2−メチル酪酸エチルを生成する微生 物の培養液から香味液を回収し、これを添加する方法を実施した。 Dipodascus magnusii NBRC10808株を121℃、15分 間のオートクレーブ滅菌したブリックス度10の麹汁培地100mlに接種し、25℃、 5日間培養して培養液を得た。次に、これに99.5%(v/v)エタノール〔ナカライ 40 テスク(株)製〕を20ml加え、40℃の湯浴、0.95MPaの減圧下で蒸留し、3 0mlの蒸留液を得た。また、焼酎用協会2号酵母〔(財)日本醸造協会製〕を同様に培 養、蒸留して得た蒸留液も準備した。なお、これらの蒸留液中の2−メチル酪酸エチル含 有量は実施例1に記載の方法に従って測定した。Dipodascus magnusi i NBRC10808株を用いて得た蒸留液は541μg/Lであり、焼酎用協会2号 酵母を用いて得た蒸留液は検出限界の下限値より低いものであった。 これらを25%(v/v)アルコールの甲類焼酎である宝焼酎〔宝酒造(株)製〕90 mlに対し10mlの割合で添加し、Dipodascus magnusii NBR C10808株を用いて得た蒸留液を添加したものを本発明4、焼酎用協会2号酵母を用 いて得た蒸留液を添加したものを比較例4とし、12名のパネラーにより5点評価法(1 50 (10) JP 2005-210952 A 2005.8.11 :よい、5:悪い)で官能検査を行った。更に、12名のパネラーの評点について対応の ある場合のt検定で有意差があるかを確認した。結果を表7、表8に示す。 【0034】 【表7】 10 【0035】 【表8】 20 30 【0036】 表7、表8より、甘い、メロン様、洋ナシ様、フルーティ、甘味、華やか、ラム酒様、 まとまりのある、青リンゴ様、さわやか、すっきりした、軽いという評価を得た焼酎であ る本発明4が得られ、更に、本発明4と比較例4は5%水準で有意差が認められた。 【実施例5】 【0037】 Dipodascus magnusii培養液から回収した香味液を添加して調製し た清酒 実施例4に準じて得られた培養液を13%(v/v)アルコール以上、14%(v/v )アルコール未満の清酒である松竹梅 天〔宝酒造(株)製〕90mlに対し10mlの 割合で添加し、Dipodascus magnusii NBRC10808株を用い て得た蒸留液を添加したものを本発明5、焼酎用協会2号酵母〔(財)日本醸造協会製〕 を用いて得た蒸留液を添加したものを比較例5とし、13名のパネラーにより5点評価法 (1:よい、5:悪い)で官能検査を行った。更に、13名のパネラーの評点について対 応のある場合のt検定で有意差があるかを確認した。結果を表9、表10に示す。 【0038】 40 (11) JP 2005-210952 A 2005.8.11 【表9】 【0039】 10 【表10】 20 【0040】 表9、表10より、バランスよい、果実香、上品、重み、甘さ、まろやかな香り、甘い 香り、やわらか、さわやか、軽快なという評価を得た清酒である本発明5が得られ、更に 、本発明5と比較例5は5%水準で有意差が認められた。 30 【実施例6】 【0041】 Dipodascus magnusii培養液を添加して調製した乙類焼酎 2−メチル酪酸エチルを含有させる方法として、2−メチル酪酸エチルを生成する微生 物の培養液を添加する方法を実施した。 醪を以下のように調製した。65%(w/w)精白麦200gを浸漬し、吸水率120 %としたものを蒸し器で蒸きょうした。これを乾熱滅菌済み1L綿栓つき三角フラスコへ 移し、焼酎用K型菌〔(株)ビオック製〕を接種した後、30℃一定温度で2日間培養し て麹とした。また、焼酎用協会2号酵母〔(財)日本醸造協会製〕をブリックス度10の 麹汁培地10mlに培養し、30℃一定温度で2日間培養した。次に、この2日間培養し 40 た酵母、麹を合せたものに水240mlを加え、30℃で5日間発酵させた。 並行して、Dipodascus magnusii NBRC10808株を121 ℃、15分間のオートクレーブ滅菌したブリックス度10の麹汁培地100mlに接種し 、25℃、5日間培養して前培養液を準備し、前記した30℃、5日間発酵させた醪に加 え、これに上述の麹と同様の原料処理を行った処理前原料400g分の蒸し麦と550m lの水を加えて更に14日間発酵させ、熟成醪とした。 得られた麦焼酎熟成醪600mlを2L容のガラス製蒸留機で常圧蒸留することにより 200mlの蒸留液を回収し、これを脱イオン水で25%(v/v)アルコールに希釈し て乙類焼酎(本発明6)とした。 一方、上述の工程において、Dipodascus magnusii NBRC10 50 (12) JP 2005-210952 A 2005.8.11 808株の前培養液を加える代りに、焼酎用協会2号酵母〔(財)日本醸造協会製〕を培 養した麹汁培地を加えて同様に熟成醪を製造し、これを蒸留することにより得られた蒸留 液を、脱イオン水で25%(v/v)アルコールに希釈して乙類焼酎(比較例6)とした 。 なお、本発明6及び比較例6の2−メチル酪酸エチル含有量は実施例1に記載の方法に 従って測定した。本発明6は38.0μg/Lであり、比較例6は検出限界の下限値より 低いものであった。 得られた乙類焼酎を18名のパネラーに提示し、3点評価法(1:よい、3:悪い)で 官能検査を行った。更に、18名のパネラーの評点について対応のある場合のt検定で有 意差があるかを確認した。結果を表11、表12に示す。 10 【0042】 【表11】 20 【0043】 【表12】 30 【0044】 40 表11、表12より、華やか、香り丸い、香り軽い、少しスモーキー、メロン様香気、 マイルド、甘く華やか、甘い、ソフト、さわやか、華やか、深み、さわやか、柑橘系、す っきり、芳香、強いエステルの香り、なめらかという評価を得た焼酎である本発明6が得 られ、更に、本発明6と比較例6は5%水準で有意差が認められた。 なお、表11中の華やか(2)、さわやか(2)の意味は同じ特性描写をしたパネラー が2名であることを示す。 【実施例7】 【0045】 2−メチル酪酸エチルを含有する米アルコールを添加して調製した清酒 2−メチル酪酸エチルを含有させる方法として、2−メチル酪酸エチルを含有する添加 50 (13) JP 2005-210952 A 2005.8.11 アルコールを調製し、それを使用した清酒製造を実施した。 実施例6に準じて添加アルコールとしての米アルコールを得た。醪を以下のように調製 した。75%(w/w)精白米200gを浸漬し、吸水率120%としたものを蒸し器で 蒸きょうした。これを乾熱滅菌済み1L綿栓つき三角フラスコへ移し、焼酎用K型菌〔( 株)ビオック製〕を接種した後30℃一定温度で2日間培養して麹とした。また、焼酎用 協会2号酵母〔(財)日本醸造協会製〕をブリックス度10の麹汁培地10mlに培養し 、30℃一定温度で2日間培養した。次に、この2日間培養した酵母、麹を合せたものに 水240mlを加え、30℃で5日間発酵させた。 並行して、Dipodascus magnusii NBRC10808株を121 ℃、15分間のオートクレーブ滅菌したブリックス度10の麹汁培地100mlに接種し 10 、25℃、5日間培養して前培養液を準備し、前記した30℃、5日間発酵させた醪に加 え、これに上述の麹と同様の原料処理を行った処理前原料400g分の蒸米と550ml の水を加えて更に14日間発酵させ、熟成醪とした。 得られた米焼酎熟成醪600mlを2L容のガラス製蒸留機で常圧蒸留することにより 200m1の蒸留液を回収し、これを添加アルコールとした。 一方、上述の工程において,Dipodascus magnusii NBRC10 808株の前培養液を加える代りに、焼酎用協会2号酵母〔(財)日本醸造協会製〕を培 養した麹汁培地を加えて同様に熟成醪を製造し、これを蒸留することにより得られた蒸留 液を、対照の添加アルコールとした。 更に、一般的な仕込配合の清酒醪を調製して2分割し、先のDipodascus m 20 agnusii NBRC10808株を利用して得られた添加アルコールを加えて上槽 したものを本発明7、対照の添加アルコールを加えて上槽したものを比較例7として清酒 を製造した。 なお、本発明7及び比較例7の2一メチル酪酸エチル含有量は実施例1に記載の方法に 従って測定した。本発明7は20.0μg/Lであり、比較例7は検出限界の下限値より 低いものであった。 得られた清酒を18名のパネラーに提示し、3点評価法(1:よい、3:悪い)で官能 検査を行った。更に、18名のパネラーの評点について対応のある場合のt検定で有意差 があるかを確認した。結果を表13、表14に示す。 【0046】 30 【表13】 【0047】 40 (14) JP 2005-210952 A 2005.8.11 【表14】 10 【0048】 表13、表14より、バランスよい、果実香、上品、重み、甘さ、まろやかな香り、甘 い香り、やわらか、さわやか、軽快なという評価を得た清酒である本発明7が得られ、更 に、本発明7と比較例7は5%水準で有意差が認められた。 【産業上の利用可能性】 【0049】 本発明によれば、焼酎、清酒に従来なかった甘く、フルーティな芳香を有する高品質の 焼酎、清酒を提供することができる。 20 (15) JP 2005-210952 A 2005.8.11 フロントページの続き (72)発明者 ▲吉▼浜 義雄 滋賀県大津市瀬田3丁目4番1号 宝酒造株式会社内 Fターム(参考) 4B015 AG07 AG17 CG07 CG17 GG15 GG16 LG01 LG02 LG03 LH10 LH11 MA03 MA04 NP01
© Copyright 2024 ExpyDoc