研究課題:「家族性大腸腺腫症に対する大腸癌予防のための内視鏡介入試験」 に関する計画書 埼玉医科大学総合医療センター 研究実施責任者 消化管·一般外科 石田 秀行 1.背景,意義,目的 背景・意義:大腸内視鏡検査の普及により大腸に腺腫の多発する患者が多く診断され るようになってきた.併せて,内視鏡的治療技術の向上により,かなり多数の腺腫が摘 除可能となり,一般臨床の場において,多数の大腸腺腫を摘除する機会が増えてきてい る. 以前は,家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis: FAP)患者は大腸癌を発症 したり腺腫が大きくなったりすることにより,下血や貧血,腹痛などの症状が発生し診 断されることが多かった.しかし,大腸癌検診の普及により大腸内視鏡検査の受検機会 が増えたことや,FAP の遺伝診療体制の充実により血縁者のサーベイランスがされるこ とにより,未症状にて腺腫が小さな段階で診断される FAP 患者が増えてきている. このような背景から日本の診療現場では,大腸腺腫数が比較的少ない場合や,大腸腺 腫が小さい場合には,FAP と診断されても,すぐに手術をするのではなく,大きな腺腫 を内視鏡的に摘除し経過をみることも行われている.多施設共同研究の研究代表者であ る石川秀樹は,手術を希望しない FAP 患者に対して,積極的に内視鏡により大腸腺腫 を摘除.1986 年から 2010 年までに,手術を希望しない 87 人の患者に対して,最大 19 回,平均 5.2 回の大腸内視鏡検査により,平均 353 個,最大 1,522 個の大腸腺腫を摘除 し,平均 4.1 年,最長 16 年の経過(353.6 人年)を観察しているが,これまでに1例も 大腸癌の発生を認めていない.また,内視鏡的摘除により穿孔や輸血を要するような出 血を認めていない.このことにより,大腸腺腫を内視鏡検査で徹底的に摘除することは 比較的安全であり,さらに手術を回避できたり,遅らせることができたりする可能性が 期待される. しかし,この結果は1人の内視鏡医による1施設での成績である.また現在,FAP に 対する標準治療は大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術であり,直腸に腺腫が少ない症例 (腺腫が直腸に 20 個以下かつ大腸に 1000 個以下の場合)には結腸全摘・回腸直腸吻合 術(直腸温存手術)が奨励されている.以上の事から,非密生型の FAP に対して結腸 全摘・回腸直腸吻合術を施行した症例で同様の成績が得られるか否かを検討する事とし た. 目的:家族性大腸腺腫症に対し結腸全摘・回腸直腸吻合術を施行した症例の残存直腸 に発生した腺腫対する内視鏡的ポリープ摘除の有用性と安全性を検討し,発癌予防研究 の基盤整備を行う. 2.方法 本研究は厚生労働省第3次対がん総合戦略研究事業におけるがん化学予防剤の開発に 関する基礎研究及び臨床研究のなかで実施される多施設共同研究である.多施設共同研 究では,非密生型のFAP症例で手術を望まなかった症例および大腸の一部を手術したが 大腸は10cm以上残存している症例が対象であるが,当センターではFAPの標準治療とし ての結腸全摘・回腸直腸吻合術(直腸温存手術)をうけた症例のみを対象とする.これ らの症例に対して,別紙(参加者情報カード,生活習慣に関するアンケート,内視鏡結 果報告書,有害事象報告書および中止報告書)に従って,臨床情報を調査し登録する. 尚,すべての調査において,調査患者の同定ができないよう「登録番号」欄は予め事務 局で割り振った識別番号(各施設の該当症例に連結可能な任意の番号にて報告)を使用 する.内視鏡検査および治療手順は以下の通りである.研究事務局からの調査患者の同 定や照会は,この識別番号を用いて行い,調査患者個人を特定する情報は一切,各施設 から外部には出ないよう厳重に管理する. 本研究は介入研究であるが,非密生型FAP症例に対して標準的治療として直腸温存手 術を行った症例に対するフォローアップのなかで行われるものである.本研究が終了後 も通常の残存直腸に対する術後のフォローアップを受けるものである. ※多施設共同研究代表施設で用いている「参加者資料」は個人情報を含むため当セン ターでは使用しない. 内視鏡検査および治療手順 大腸に 1cm 以上のポリープを認める場合,4ヶ月以内の間隔にて 1cm を越える大き なポリープをすべて摘除する.1cm 以上の病変は原則すべて回収し病理診断を行う. 1cm 以上のポリープがなくなれば,1cm 未満のポリープをできるだけ多数摘除する.癌 を疑う病変は回収し病理検査をおこなうが,すべての病変の病理検査は必要としない. 5mm 未満のポリープも可能な範囲で摘除を心がける. 5mm 以上のポリープをすべて摘除できたと考えた場合,検査間隔を4ヶ月以上あけて も良いが,1年以上は間隔をあけないこととする. 経過観察中の内視鏡検査では,5mm 以上のポリープはすべて摘除し,5mm 未満のポリ ープも可能な限り摘除するよう心がける.5mm 以上のポリープが残ったと考えた場合, 次回の間隔を4ヶ月以内とする. ここで示すポリープの大きさは内視鏡検査時の大きさとし,鉗子やスネアの大きさから, ポリープの大きさを判定する. ポリープ摘除方法については術者の使い慣れた方法(バイポーラスネアー,モノポーラ スネア,ホットバイオプシー,アルゴンプラズマ凝固(APC)法)のいずれを用いても良 い. 大腸内視鏡検査時に,数カ所にインジゴカルミン色素の散布を必ず行い,ポリープの詳 細な観察を行う.狭帯域光観察(NBI)や拡大内視鏡観察は必須としない. 腸管洗浄法,鎮静剤,鎮痙剤の使用方法などに制限はない. 内視鏡検査,治療は保険診療内で実施する. 内視鏡治療を担当する医師は,内視鏡治療に関する保険に加入し,内視鏡治療技術に秀 でた専門医が担当することとする. 3.研究期間 症例登録期間:倫理委員会承認後~2014 年 9 月 25 日 研究期間:倫理委員会承認後~2019 年 9 月 25 日(症例登録より 5 年間) 4.予定症例数 全体:200 例 当センター:10 例 5.研究実施場所 消化管・一般外科外来または病棟 6.患者の選択基準・除外基準,研究に参加されなかった場合の治療について <選択基準> 大腸に腺腫が 100 個以上あり,結腸全摘・回腸直腸吻合術(ileorectal anastomosis:IRA) をうけ直腸が 10cm 以上残存している者で,かつ 16 歳以上(20 歳未満は保護者の同意 を必要とする)の者. ※ 試験参加時において,手術や内視鏡により腺腫が摘除されたことにより,大腸の腺 腫が 100 個以下であっても,摘除された腺腫を合わせて 100 個以上であると考えられれ ば,対象条件に合致したとする. ※ 倫理委員会申請以前,旧外科系診療科(1986.6‐2005.3)および消化管・一般外科 (2005.4~)で手術を施行され症例登録時既に IRA 術後状態の症例および,研究期間内 に IRA 手術を施行された症例を対象とする. <除外基準> 1) 他臓器に重篤な疾患がある,抗血小板薬が中止できないなど,主治医が参加困難と考 える症例 2) 抗癌剤投与中症例 3) 密生型の症例 4) 厳重な経過観察が困難な症例 ※ 密生型の定義 十分に粘膜を進展させた状態で粘膜を観察し,正常粘膜より腫瘍の方が粘膜占拠面積の 多い場合を密生型とする 研究に参加されなかった場合の治療について 研究に参加されなかった場合は、通常の家族性大腸腺腫症の術後経過観察を行う.具 低的には担癌状態で手術を行った場合には再発の有無検索の為,数か月ごとの血液検査, 年に数回の CT 等の画像検査および年に数回の大腸内視鏡検査を行う.担癌状態でなか った場合には年に数回の大腸内視鏡検査を行う. 7.期待される利益および不利益,危険性 本研究に用いられる治療,薬剤はすべて厚生労働省の認可の範囲内で行われるもの であり,本試験の治療内容が日常診療の範囲を超えるものではない.試験の実施により 医師の通常の業務が妨げられる恐れはない. 本介入研究では,内視鏡治療により大腸癌の発生が抑制できるか検討するものであり, 患者にとって本研究に参加することにより残存大腸癌発生を抑制できる可能性がある が,内視鏡治療の回数が通常より多くなる可能性がある.本研究参加によって発生する 特別な検査・治療は規定しておらず,すべて通常診療で行う. 8.有害事象への対応 本研究に参加している期間中または終了後に,合併症などの健康被害が生じる場合が あるが,その場合通常の診療における健康被害に対する治療と同様に適切な対応をする. ただし,通常の治療と同様に保険診療として治療するため,治療費に関しては患者負担 となる. 9.費用について 診療費はすべて患者の健康保険および自己負担によって支払われるため,通常診療に 比べて経済上の利益も不利益も生じない. 10.試料の取り扱い 日常診療で行う以外の採血・病理等の試料はない. 11.人権への配慮と個人情報の保護 「ヘルシンキ宣言」 , 「臨床研究に関する倫理指針」に従って人権擁護の配慮に努める. 本研究計画への参加を承諾するか否かについては,提出した研究計画書にのっとり,文 書および口頭による説明を行い,十分理解を得た上で,披験候補者本人の自由意志で決 定される.この決定は,臨床上の取り扱いになんら影響を与えるものではないことも文 書により説明する.また同意後であっても,被験者本人の意思によりいつでも中止が可 能であることを説明し文書にも明記・保存する.本研究の結果は個人が同定できる形で は,いかなる状況においても公表せず,消化管・一般外科で本研究に直接関与しない芳 賀紀裕准教授のもとで連結可能匿名化された後,当院個人情報管理責任者である病理部 田丸淳一教授のもとで厳重に管理・保存される. 12.利益相反 本研究に利益相反(COI)はない. 13.知的財産権 本研究の知的財産権については,本研究 Group に属する. 14.対象者に理解を求め同意を得る方法 「家族性大腸腺腫症に対する大腸癌予防のための内視鏡介入試験」の提示と説明を研 究責任者あるいは研究実施者から受けたうえで,同意書に署名を行いことにより行う. 同意の取得は,外来あるいは病棟のプライバシーが保たれた場所で行う. 15.医学上の貢献の予測 FAP に対する標準手術である結腸全摘・回腸直腸吻合術後の残存直腸内に発生する ポリープを早期に切除することにより,新たな発癌を抑制し,ひいては残存直腸切除の 回避・生存率の上昇に寄与する可能性がある. 16.研究代表者・実施者 多施設共同研究 研究代表者 : 京都府立医科大学 分子標的癌予防医学 〒541-0042 大阪市中央区今橋 3-2-17 TEL:06-6202-5444 大阪研究室 石川秀樹 緒方ビル 2F FAX:06-6202-5445 当センター研究責任者: 埼玉医科大学総合医療センター 消化管一般外科 教授 石田秀行 実施者: 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 准教授 石橋敬一郎 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 講師 馬場裕之 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 講師 隈元謙介 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 助教 傍島 潤 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 助教 桑原公亀 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 助教 石畝 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 助教 松澤岳晃 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 助教 幡野 哲 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 助教 鈴木興秀 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 助教 今泉英子 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 助教 田島雄介 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 助教 近 亨 範泰
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