トランジスタの静特性(ベース接地・エミッタ接地) 目的:バイポーラ・トランジスタの静特性を測定して,その動作原理,動作特性を理解する。 1 原理 トランジスタは,その動作原理からバイポーラ・トランジスタ(bipolar junction transistor)と電 界効果トランジスタ(field effect transistor; FET)とに大別され,一般にバイポーラ・トランジスタ をトランジスタ,電界効果トランジスタをFETと呼んでいる。 1.1 半導体の種類と接合 シリコン(Si)などの半導体結晶は,僅かな量の不純物を加えることでマイナス(-)の電荷を持 つ電子をキャリアとするn型半導体あるいはプラス(+)の電荷を持つホールをキャリアとするp 型半導体に変えることができ,前者の不純物をドナー,後者の不純物をアクセプターと呼んで いる。p形半導体とn形半導体を接合させることをp-n接合(p-n junction)と呼び,図1のようにp-n 接合を一つもつ2端子素子をp-n接合ダイオードと呼んでいる。ダイオードのp形半導体側の電 極が正に,n形半導体側の電極が負になるように電圧を印加すると,電子とホールが接合界面を 横切ってそれぞれ正極(左)と負極(右)へ向かって移動できるためダイオードには電流が流れ易 くなる。これとは逆に,p形半導体側の電極が負に,n形半導体側の電極が正になるように電圧 を印加すると,電子とホールは互いに接合界面から遠ざかり,それぞれ正極(左)と負極(右)へ向 かって移動するためダイオードには電流が流れ難くなる。このようにダイオードには,p-n接合 によって,p型半導体からn型半導体の向き(順方向)には電流が流れやすく抵抗値が低いのに対 して,その逆の向き(逆方向)には電流が流れ難く抵抗値が高いという性質(整流特性)がある。 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + p++ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + - - - n-- - - - 図1 p-n 接合の模式図とダイオードの回路記号 1.2 バイポーラ・トランジスタの構造と特性 バイポーラ・トランジスタはpn接合の特性をうまく利用した3端子素子で,図2(a)のように 2つのpn接合を背中合わせに接合したnpnまたはpnpの構造を持っている。図2(b)は,平面型バイ ポーラ・トランジスタの構造を模式的にしてしている。npnあるいはpnpの各領域はエミッタ (emitter),ベース(base),コレクタ(collector)と呼ばれ,ベース領域の厚さは非常に薄い。,エミ ッタ・ベース間とベース・コレクタ間のpn接合は,それぞれエミッタ接合,コレクタ接合とも 呼ばれる。 npn(pnp)トランジスタでは,ベース・コレクタ間にコレクタが正(負)になるように電圧を印加し ても,コレクタ接合が逆方向にバイアスされるため,電流はほとんど流れないが,エミッタ・ ベース間にベースが正(負)になるように電圧を印加すると,エミッタ接合が順方向にバイアス され,n(p)形のエミッタからp(n)形のベースへ電子(ホール)が流れ込む。このように多数のホー ルがキャリアとして働くp形半導体に電子,または多数の電子がキャリアとして働くn形半導体 にホールが流れ込むことを少数キャリアの注入と言う。エミッタ接合を順方向にバイアスし, コレクタ接合を逆方向にバイアスすると,ベースに注入された少数キャリアはコレクタ接合に 印加された逆方向電界で加速されてコレクタに流れ込み,エミッタ・コレクタ間に電流が流れ る。ベース領域の幅を非常に薄くし,ベース領域の不純物密度をエミッタ領域の不純物密度よ り低くすると,ベースに流れ込んだ少数キャリアの大部(98~99%)をコレクタに流れ込ませるこ とができる。このとき,エミッタ電流,ベース電流,コレクタ電流をそれぞれIE,IB,ICとする と, (1) IE=IB+IC となるので,ベース電流IBはコレクタ電流IC(≈IE)よりはるかに小さくなる。このとき,コレ クタ接合には逆方向の高い電圧が印加できるので,コレクタ側の回路からは大きな電圧を取り 出すことができる。こういったバイポーラ・トランジスタの特性を利用することで電流や電圧 を増幅することが出来る。 pnp Transistor a) Collector + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + p++ + + + + + + + + ++++++- ++++++- - - - -n- - - -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ + + p++ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + C E Emitter B Base Collector - - - n- - -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ -+ + + + + + + p + + + + + + ++++++- npn Transistor ++++++- ++++++- n- - - - C E Emitter B Base b) Emitter Base Collector 図2 (a)pnp および npn バイポーラ・トランジスタの接合模式図,回路記号と(b)素子の構造 1.3 トランジスタ回路 3端子素子であるトランジスタを使用するときには,1つの端子を共通に(接地)して他の 2つの端子に電圧を印加する。どの端子を共通にするかによって,例えば npn トランジスタな らば共通(接地)にする端子によって図3(a)~(c)のように3種類の回路がある。 (a)ベース接地回路 ベース接地回路の特性は,出力側コレクタ回路の電流-電圧特性(IC-VCB特性)と入力側エミ ッタ回路の電流-電圧特性(IE-VEB特性)で表される。通常これらは,エミッタ電流IEをパラメ ータとしたIC-VCB特性曲線群とVCBをパラメータとしたIE-VEB特性曲線群で示される。ベース 接地増幅回路において,IE=0のときにコレクタ回路に流れる電流をコレクタ遮断電流ICBOとする と,コレクタ電流ICは, IC=αIE+ICBO (2) となる。αはベース接地電流増幅率と 呼ばれ,0.98~0.999の値を持つ。し たがって,ベース接地回路は電流を増 幅できず,電圧増幅に用いられる。ベ ース接地回路の入力インピーダンス は小さく,出力インピーダンスは大き い。 a)ベース接地回路 IE IC VCE VBE (a) エミッタ接地回路 エミッタ接地回路の特性はIBをパ ラメータとしたIC-VCE特性とVCEを パラメータにしたIB-VBE特性の曲線 群で表される。エミッタ接地増幅回路 ではコレクタに流れる電流ICは入力側 のベースに流れる電流IBとの間に次の ような関係がある。 b)エミッタ接地回路 IC VCE IB VBE IC=βIB+(1+β)ICBO (3) βはエミッタ接地電流増幅率と呼ばれ, β=α/(1-α)で表される.β は50から 1000程度のかなり大きい値となるた め,エミッタ接地回路は電流と電圧を 増幅できる。また,この回路の入力イ ンピーダンスは比較的大きく,出力イ ンピーダンスが低いことから一般的 な増幅回路に広く用いられている。 c)コレクタ接地回路 IE VCE IB VBE (b) コレクタ接地回路 図3 npn トランジスタを使った 3 種類の接地回路 コレクタ接地増幅回路はエミッ タ・フォロワ回路とも呼ばれ,ベース が入力側回路,エミッタが出力側回路になるので電圧を増幅できないが, IE=(1+β)IB+(1+β)ICBO (4) となるので,電流増幅や電力増幅に用いられる他,入力インピーダンスは非常に大きく,出力 インピーダンスが低いという特徴を利用してインピーダンス変換に多用される。 2.実験 本実験では,npn 型バイポーラトランジスタ 2SC1815 を用いて,ベース接地とエミッタ接地 それぞれの回路で出力側の特性曲線を測定する。図4にそれぞれの測定回路を,図5に実際に 実験で使用するブレッドボード上の部品実装図を示す。 ~ はファンクションジェネレータ,○ A は直流電流計をそれぞれ示している。 回路図上の○ 【共通手順】 (1) 実装図を参考にしてブレッドボード回路にファンクションジェネレータ(FG)と直流定電 圧電源(DC_PS)を接続する。 (2) (3) (4) (5) オシログラフの電源を on オシログラフの表示モードを X-Y モードに切り替える。 オシログラフの X 軸(CH1)と Y 軸(CH2)の入力を両方とも GND にする。 オシログラフの X 軸(CH1)と Y 軸(CH2)のプローブの(+)端子をブレッドボードの TPX と TPY 端子に,(GND)端子をブレッドボード上の X_GND と Y_GND 端子に接続する。 (6) 使用するトランジスタモジュールをブレッドボード上の指定された位置に装着する。 (7) FG と DC_PS の出力を最低に絞った状態で,それぞれの電源を入れる。 (8) オシログラフの X 軸(CH1)と Y 軸(CH2)感度をそれぞれ CH1:2V/div,CH2:2mV/div に設定す る。 (9) オシログラフ画面上の輝点が任意の位置に定めた原点にくるよう調整する。 (10) X 軸(CH1)の入力を GND→DC に切り換える。 (11) FG の出力を上げ,オシログラフ画面上で X 軸に平行な直線が画面の左右いっぱいに現れ るように調整する。必要に応じて X 軸(CH1)の感度も調整する。 (12) Y 軸(CH2)の極性を INV に切り換える。 (13) Y 軸(CH2)の入力を GND→DC に切り換える。 2.1【ベース接地回路】 (14) 直流電流計の測定レンジを最大 15mA まで流すエミッタ電流 IE が出来るだけ正確に測れる ように設定する。 (15) DC_PS の OUTPUT を on にする。 (16) DC_PS の OUTPUT を増やしていくと直流電流計で測定される IE とオシログラフ画面上の IC-VCE 曲線が変化することを確認する。 (17) IE を 0 から 15mA まで 2mA 間隔で変化させ,そのときオシログラフ画面上に現れる IC- VCE 曲線を正確にスケッチする。注意:オシログラフでは電圧を測っている。オシログラ フの y 座標を電流 IC に読み替えるには、IC =「y 座標の値(V)」/10Ωとする。 2.2【エミッタ接地回路】 (14) 直流電流計の測定レンジを最大 100µA まで流すベース電流 IB が出来るだけ正確に測れるよ うに設定する。 (15) DC_PS の OUTPUT を on (16) DC_PS の OUTPUT を増やしていくと直流電流計で測定される IB とオシログラフ画面上の IC-VCE 曲線が変化することを確認する。 (17) IB を 0 から 100µA まで 10µA 間隔で変化させ,そのときオシログラフ画面上に現れる IC- VCE 曲線を正確にスケッチする。 【注意】 9 特性曲線をスケッチしている間,出来るだけ頻繁にオシログラフの X 軸(CH1)と Y 軸 (CH2)の入力を共に GND にし,原点が一定の位置にあることを確認すること。 9 特性曲線を正確にスケッチするだけでなく,VCE を数 V 程度の一定値に固定してオシ ロシログラフの画面から一定間隔ごとの IE または IB に対して IC の値を読み取り,下に 示したような表にして記録すること。注意:単位を必ず書く。 接地 VCE = IC IE または IB (a)ベース接地 100 TP5 1k TP4 A TPY TPX TP3 TP1 ~ GND TPY 10 TP2 (b)エミッタ接地 1k TP5 100k TP4 A TPY TPX TP3 TP1 ~ GND TPY 10 TP2 図4 バイポーラ・トランジスタ静特性測定回路 (a)ベース接地 E C B 1k 100 TP4 TP5 GND TP3 TP2 Y_GND X_GND 10 TPY TPX TP1 X_GND Y_GND (b)エミッタ接地 E C B 100k 1k TP5 GND TP4 TP3 Y_GND X_GND TP2 10 TPY TPX TP1 X_GND Y_GND 図5 バイポーラ・トランジスタ静特性測定回路実装図 3.課題と考察 (1) (2) (3) (4) (5) (6) ベース接地回路の実験結果からICとIEの関係を求め,αを計算せよ。 エミッタ接地回路の実験結果からICとIBの関係を求め,βを計算せよ。 αとβの関係を用いて式(2)から式(3)を導出せよ。 実験結果がαとβの関係を満たしていることを確認せよ。 ベース接地回路では電流増幅ができない理由を詳しく説明せよ エミッタ接地回路が増幅回路に多用される理由を詳しく説明せよ。 【注意】 9 9 感想は考察ではない。 主観を排し,客観的な実験事実から課題に挙げた項目を参考にして論理的に考察を展開す ること。 【参考資料】 2SC1815 のエミッタ接地特性曲線
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