民間建築物を用途転用した公共施設の公共性に関する基礎的研究 浦野

民間建築物を用途転用した公共施設の公共性に関する基礎的研究
浦野 宏美
1. 背景と目的
があり、また公共施設として機能させるために改修など
近年、地方自治体の財政難や人口減少・合併を背景に、 が行われている。ヒアリング調査から取得理由及び改修
日本全国において公共施設の再編・再配置が検討され、 内容について整理を行い、加えてそのように整備された
そのあり方自体を再定義する公共施設整備の量的質的方
公共施設で生じる不具合について整理することによって、
法が模索されている。例えば指定管理者や PFI の制度に
用途転用時の整備・管理運営者の公共性の捉え方をみる。
より、公共施設に対して効率化が求められるようになっ (1)名寄市『雪あかり館』
てきた。その結果、施行や管理運営などの多様な場面で
大正時代に建設された和洋折衷の個人住宅を集会所と
公共施設は民間に委ねられることも多くなってきている。 して転用した事例である。本施設は解体の危機に瀕した
このように、今日の公共サービスを取り巻く環境は大
際に、重要建築物保存のため市が取得した。取得以前は
きく変化している。従来の“公共”とはすなわち官営を
賃貸し市職員会館として利用していたが、集会所とする
表していたが、これらの変化に伴い“公共”の持つ意味
にあたり一部解体を伴う大規模な工事を行った。全体に
合いも変化していると考える。
おいてその歴史的重要性を意識し改修されたが、特に大
そこで本研究では、建築本体に備わる公共性に注目し、 通り側の外装は建設当時を復元した。また今年度からは
“公共サービスを行う建築が備える(べき)公共性とは何
寒さ対策として石油ストーブを導入した。
か”について考える。北海道の全 180 市町村 1 を対象地
大通り部分の改修に重点を置いていることから、歴史
とし、公共施設の再編の方法のひとつである民間建築を
的建造物を利用することをまちなみとして重要視してい
公共施設へ転用した事例を評価することでこれを明らか
ることがわかる。また職員会館時代になされなかった老
にすることを目的とする。
朽化に対する大規模工事を行ったこと、取得当初は木造
ゆえの徹底した嫌火の管理方針をとっていたにも関わら
2. 調査方法と結果
ずストーブの導入を決定したことから、整備・管理運営
北海道全 180 市町村の役所に対し、電話で“民間から
者は広く住民が利用する際は管理性よりも良好な利用環
取得した建築物”の情報を得た。37 市町村で 67 の該当
境を整えることを重要と捉えているといえる。
事例が見つかった。次にその中から住宅・レジャーパー
クの事例を除いた 58 事例に対し 2009 年 8 月にアンケー (2)士別市『いぶき』
トを行った。さらにその中から“庁舎および公共サービ
移転したデパートを、図書館・生涯学習センター及び
スに利用されている施設”のみを抽出し、34 の事例を調
民間事務所による複合施設として転用した事例である。
査対象とした(うちアンケート回収 29 事例 = 表 1)。ア
市はアクセス性の高い駅前通りという立地を評価し取得
ンケート回収事例の中から、用途に変更が見られたもの
した。窓がないというデパートの建築特性に対し、採光
として 18 事例を抽出し、その中で特に事例の集中が見ら
を確保するため吹抜けを設けたが、それが柱を大幅に増
れた上川支庁の 5 事例に対して 2009 年 10 月 27 日〜 11
やす一因となった。大量の柱により地階ギャラリーの展
月 2 日現地調査を行い、整備・管理運営者の 2 者に対し
示のしにくさや死角をつくることによる管理上の問題が
ヒアリングを行った。
指摘されている。また本施設は面積過多により機能を複
3. 分析
当初民間建築物として計画された建物を公共施設とし
て整備する場合、当該民間建築物には取得に値する理由
合させたが、それぞれの開館日・開館時間が異なるため、
動線混同や解錠・施錠の不都合が挙げられた。
整備・管理運営者側はいくらか障害が起こることを予
表 1. アンケート回収の公共利用 29 事例概要
支庁
市町村名
現在用途
建設時用途
石狩
江別市
姉妹都市情報施設
窯業工場
1951
2000
寄付*
石狩市
資料館・工場
ビール工場
1999
2004
恵庭市
劇場
倉庫
1937
函館市
文学館
銀行
函館市
資料館
銀行
函館市
資料館
店舗兼住宅
小樽市
分庁舎・待合所・事務所
小樽市
観光情報館
小樽市
渡島
後志
空知
竣工年 取得年 取得方法 管理運営者
支庁
市町村名
現在用途
建設時用途
上川
名寄市
天文台
天文台
1973
1993
買上
買上 市教育委員会
名寄市
集会所
住宅
1922
1992
寄付
市
2009
買上 市教育委員会
士別市
生涯学習施設
図書館・事務所
デパート
1977
2002
寄付
市教育委員会
1921
1989
寄付
当麻町
集会所・事務所
店舗兼住宅
1973
2001
買上 町内事業団
1926
1988
買上 市教育委員会
愛別町
多目的ホール
酒貯蔵庫
1924
1946
買上
商工会
1880
ー
寄付 市教育委員会
上川町
多目的ホール
食品加工研究施設
米穀貯蔵庫
1937
2005
買上
農業協同組合
事務所
ー
1958
買上
市
東川町
ホール・ゲストハウス ホール付住宅
倉庫
1894
1983
買上
社団法人
体育館
体育館
1970
2002
買上
小樽市
フェリー待合所
フェリー待合所
1993
1994
寄付
小樽市
フェリー待合所
フェリー待合所
1993
1994
小樽市
能舞台
能舞台
1926
1954
小樽市
中学校
中学校
ー
深川市
ホール・事務所
銀行
三笠市
ギャラリー兼住宅
住宅
市・NPO
市内財団
竣工年 取得年 取得方法 管理運営者
民間企業
2002
2009
寄付
町
紋別市
診療所
診療所
1992
2009
買上
市
市
幌延町
障害者共同生活施設
社員寮
1976
2009
買上
町
市
遠軽町
図書館
スーパー
1995
2008
寄付* 町教育委員会
寄付
市
美幌町
サークル貸施設
専門学校
1987
2001
買上
町教育委員会
寄付
民間企業
雄武町
陶芸教室
工房付住宅
ー
1998
寄付
町
1991
買上
学校長
胆振
苫小牧市
障害者福祉施設
事務所兼店舗
1991
1998
買上
市
1937
2001
寄付 *
市
日高
新ひだか市
サークル貸施設
大型商業施設
1986
2006
買上
町
1955
1997
寄付
市
網走
取得後に用途の転用があった 18 事例
A Basic Study of Publicness of the Public-sector Facility
Converted from the Private-sector Building * = 建物のみ寄付。土地は買上。
URANO Hiromi
期しながら吹抜けを整備していることから、採光という
まる場としての施設整備を行おうとしているととれる。
利用環境を整えることをかなり重要視しているといえる。 (5)上川町『か夢かむ』
また複合による管理の問題は利用者にとっても不明瞭さ
農協の米穀物倉庫を地場産品の加工研究販売施設およ
を生むといえ、明確な管理計画が求められるといえる。
び多目的ホールとして転用した事例である。地域の重要
(3)当麻町『輝き』
建築であるレンガ造の倉庫内部に入れ子状に鉄骨を組む
老舗金物店兼住居を集会所として転用した事例である。 ことで構造補強し、建物を保存した。また鉄骨造にした
駅前大通りの五叉路の角地・公園の向かいという一等地
ことで 2 階の増床が可能になったが、その際吹抜けを設
に位置するため(表 2. 配置図)、民間によってそぐわな
けることで利用者を 2 階ホールに誘導することが計画さ
い建築が建つことを町が危惧し取得を決定した。改修は
れた。さらに高齢者の利用を考慮し、誰もが施設を利用
暖房や手すり取付など小規模な内装改修のみであったも
できるように昇降機や多目的トイレなどの整備を行って
のの、利用後の不具合は隙間風程度であった。
いる。利用上の不具合は特に挙がらなかった。
整備・管理運営者側は視認性の高いこの場所を地域の
整備・管理運営者は、バリアフリーや吹抜けの整備に
重点と考え、まちなみの維持のために取得を行ったもの
よって、すべての住民に対して自由な利用を促そうとし
といえる。また不具合は特にないということから歩行環
たといえる。これはつまり地域住民が集い共に活動を行
境を整える改修工事は適切なものであったといえる。ま
う場や機会を整備したといえ、地域住民が交流を図るこ
た整備者が「階段が普通の住宅並みに狭かったら…使い
とを可能にするつくりが必要だと考えているともいえる。
づらいだろうなって。」と捉えていることから名家のゆと
4. 考察
りあるつくりが公共施設に適していたともいえる。
全体を通して、民間建築を公共建築として転用する際、
(4)愛別町『蔵 KURARA ら』
酒蔵の倉庫を農協の米穀物倉庫を経て多目的ホールと
して転用した事例である。中心商店街の核施設化と町の
文化財として保護保全を兼ねて取得した。軟石造ゆえの
良好な音響効果を活かしホールとして整備するため一部
柱を抜いて広い空間を実現、その際梁と一部の柱に構造
補強を行った。ホワイエとホールの境に可動間仕切りを
設けることによりホール未使用時の暖房効率をあげてい
る。一方、夏季は間仕切りを開放することで施設全体で
温度を下げることが可能となっている。またトイレを区
分し営業時間外も利用できるようなつくりとした。
整備・管理運営者は既存建築の特徴を活かしつつホー
ルとしての機能を高めようとしている。またホール未利
用時のホワイエ利用も想定し、かつ良好な環境を整えよ
うとしていることから、バス待ちや休息客などのホール
利用者以外に対しての整備も重要と捉えており住民が集
整備・管理運営者は機能のみならずその利用環境を整え
ることを重要視していることがわかった。またその整備
の意識は広く住民全体に向けられている。公共性のひと
つの要素として地域住民全体の利用を考えた快適性が必
要であると考えられていることが明らかになった。
5. 今後の展望
本論文では民間から公共へと転用された建築を通して、
整備・管理運営者側から見る建築の公共性の一端を示し
得たと考える。
今後の展開としては、今回示した公共性の一端を利用
者側から見た価値基準と照らし合わせることで、公共性
のより本質的な部分を探ることが求められる。
注
2009 年 8 月当時。以下本論文ではすべてこの時の市町村の状態で議論を進める。
参考文献
1)山田明 ,『公共事業と財政』再考(3), 名古屋市立大学 人間文化研究 ,2008
2)斉藤純一著 ,「公共性」, 岩波書店 ,2000
表 2. 現地調査対象概要
名称 ( 所在地 )
雪あかり館
(名寄市)
いぶき(士別市)
輝き(当麻町)
蔵 KURARA ら(愛別町)
か夢かむ(上川町)
事例写真
建設時の用途
個人住宅
デパート
店舗 兼 住宅
倉庫
倉庫
現在の用途
集会所
生涯学習センター
図書館 /JA 事務所
集会所
事業団事務所
多目的ホール
調理施設
多目的ホール
用途決定理由
記入なし
集客力のある施設構成 / 駅前周
辺の活性化を期待
中心商店街の活性化 / 町民の交
農と対話した中で地場産品の加
空き店舗の利用促進 / 中心商店 流・情報の受発信の場 / 商店街 工研究施設(保健所の許可のと
の核施設 / 賑わいのある商店街
街特拠点施設への期待
の形成 / 町の文化財としての保 れる)の建設のため
存 / 町民の福祉の向上
転用時
工事概要
用途転用前の良質木材を使用し
た建具補正 / 建物東側取壊 / 西
側改装
耐震補強 / ユニバーサルデザ
インの導入 / 内外部仕上は全
て改修 / エスカレーター撤去
/ 吹抜けを新設し採光確保
内外装改修 一式
屋根下地・小屋組修繕 / 排煙窓設置
/ 屋根鉄板の張替 / 外部建具の取替 /
柱の一部撤去 / 梁の取替 / 間仕切壁
の変更 / 内装工事 / 給排水設備工事
/ 換気設備工事 / 暖房設備工事 / 電
気設備工事(照明・音響)
全面改築…妻側上部壁の撤去
/ 屋根・小屋組の全面撤去 /
土間コンクリート解体 / 構造
入替
転用前
515.7 ㎡
6,896 ㎡
542.46 ㎡
427.32 ㎡
183.87 ㎡
転用後
392.32 ㎡
6,717 ㎡
542.46 ㎡
427.32 ㎡
349.34 ㎡
大通り
市役所
JR 駅
バス停
配置図
↓JR 駅
0
100m
N
N
0
100m
公園
バス停
公園
0
商店街
JR 駅→
N
100m
JR 駅→
← JR 駅
0
100m
N
延床面積
0
商店街
100m
N