第2部 施策編 ~「攻め」の経済産業政策~ 第1章 「価値創造」を通じた潜在内需の掘り起こしとグローバル市場獲得 「価値創造」を通じて、潜在内需の掘り起こし、グローバル市場獲得するために、まず、 新産業の創出を支援することで、「一本足」から多様な稼ぎ頭の「八ヶ岳」の産業構造への 転換を推進する。前述したとおり、ヘルスケア産業、子育て支援サービス、「人を活かす」 産業、新たなエネルギー産業といった、課題解決型産業は、社会的にニーズがある分野であ り、新市場の形成に向けた制度整備や政策的支援を行っていく。そして、我が国の強みを生 かしたクリエイティブ産業や、新たな競争力の源泉となる先端産業についても、政策的な後 押しを通じて更なる競争力強化に取り組んでいく。さらに、国民生活をより豊かにしつつ、 更なる消費も引き出していくためには、農林漁業や流通業などの産業の高度化、機能強化を 進めていく。 このような新産業を育成しつつ、グローバル展開を推進し、海外の成長の果実を国内に取 り込んでいく。新興国を始めとした新市場の獲得に向け、マーケティング、資金調達、情報 提供などの支援を行うとともに、相手国政府との交渉により現地の事業環境整備に取り組む。 さらに、海外での収益を国内に還流を促進するための制度整備に取り組むことで、国内の成 長に結び付けていく。 こうした市場獲得を進めていく中で、我が国企業が強みを発揮し収益を上げていくために、 企業戦略を転換し、価格競争から価値創造競争に転換する必要がある。企業戦略そのものは ガバメントリーチから外れる部分も多いが、政策で支援できる分野として、付加価値の高い 工程である研究開発・技術開発への支援、価値創造力を高める国際標準化の推進、IT利活 用促進を通じたイノベーション、新事業創出の促進や、創業・ベンチャーへのきめ細やかな 支援による成長企業創出などに取り組んでいく。さらに、顧客志向で新たなソリューション を提供するマインドを普及していく。 111 1.新産業の創出と産業構造の転換 (1)課題解決型産業①:ヘルスケア産業 ①現状と課題 我が国は、国民皆保険制度の下、低コストで質の高い医療サービスを国民に提供してきた 結果、世界一の健康長寿国になった。また、国民の生活様式の変化に伴い、ヘルスケア分野 におけるサービスニーズは多様化しており、公的保険制度を中心とした医療・介護等の持続 的な供給を確保することは困難になってきている。しかし視点を変えてみると、このような ニーズの拡大や、消費の主体となりうる国内外の高齢者の存在は、ヘルスケア関連市場が今 後大きく伸びる可能性を示している。 高齢化や疾病構造の変化に伴い拡大する医療・介護およびその周辺分野における需要は、 社会保障のコストとされる一方で、産業面から見ると、高齢社会の需要に適切に応えるサー ビスは内需を主導し、雇用を創出する成長産業となりうる側面を持っている。また、これら のサービスは将来的には高齢化の進む新興国等への国際展開も期待できる。一方、需要の増 大に対応する供給面に目を向けると、資源の不足・偏在や制度上の課題等により、適切なサ ービスを提供することが困難な状況も存在しており、限られた資源を効率的に活用し、安 心・安全を確保していく体制整備が必要不可欠となっている。そのため、医療・介護機関と 民間事業者等が連携し、公的保険内では対応できない多様なニーズに応える医療・介護周辺 サービスが求められている。 高齢化の進展と新興国における医療需要拡大を受け、医療機器の世界市場は約5~8%の 成長率を維持しており、今後も拡大すると予測されている。このような中、我が国のものづ くり企業は、医療機器に活かすことができる高い技術力を有しているにもかかわらず、現状 の国内医療機器市場は、貿易収支全体で輸入超過で推移している。この主要因としては、① 医療機器は規制産業である(例:治験及び承認審査に時間・コストがかかる等)、②参入リ スクが高い(例:生命・健康に直接関わる分野であるため、製造物責任が重いと思われてい る等)、③医療現場が有する課題・ニーズがものづくり現場に行き届いていない、といった 点が挙げられる。 また、急速に経済が発展すると同時に、健康に対する意識が高まっている新興国では、今 後医療サービス・機器分野に対するニーズが急速に拡大することが予想される。我が国の医 療サービスは癌治療、慢性期疾患の重症化予防・管理等世界でトップ水準の技術を有してい ることに加え、高度なものづくり技術を活用した先端的な医療機器も開発が進んでいる。し かしながら、欧米の主要な医療機関及び機器メーカーがサービスと機器をパッケージとした 積極的な海外展開戦略を推進する中、日本は遅れを取っている状況にある。 112 医療機器世界市場の将来見通し 国内医療機器市場の貿易収支の推移 輸出額(億円) (億ドル) 輸入額(億円) 赤字額(億円) 12,000 3500 10,000 3000 1255 2500 2000 6,000 981 800 1052 2,000 949 1000 818 303 日本 168 167 239 288 499 アジア (日本を除く) 2006 2010 2015 500 0 4,000 米国 0 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 1500 8,000 その他 2009年は6000億円の輸入超過 (出所)espicom “Medistat Worldwide Medical (出所)薬事工業生産動態統計 Market Forecasts to 2015” 加えて、これまで治療不可能であった疾患の根本治療が可能になると期待される再生医療 は、国民の健康増進や、医療費の削減を通じた社会保障費の軽減に大きく寄与するのみなら ず、産業の観点からも、再生医療による治療を受ける患者の増大に伴い、2020 年には世界 市場が 2010 年の 10 倍以上の約 8,700 億円まで急速に拡大すると見込まれている。一方、我 が国はiPS細胞等の研究レベルでは世界のトップを競っているものの、再生医療製品が実 用化された数は欧米や韓国と比べ著しく尐なく、再生医療の実用化・産業化に向けた取組が 課題として挙げられる。 再生医療による国民の健康増進 再生医療製品の各国の開発状況(2010 年) 日本 米国 欧州 韓国 その他 実用化 1 8 15 7 4 治験段階 2 68 23 22 5 (出所)経済産業省「平成 22 年度再生・細胞医療の産業化に向けた基盤整備に関する調査」 113 ②施策の方向性 医療・介護周辺サービスの創出にあたっては、医療・介護機関や民間サービス事業者等の 連携によるサービス提供を通じ、サービスの有効性や安全性、持続可能性等を担保する仕組 みの構築を行う。さらに、こうしたサービスが自立的に創出・提供がなされるよう、多様な 機能を有する異業種の連携や、既存事業の拡張・転換により、新たに医療・介護周辺のサー ビスを立ち上げる事業者を支援するとともに、各地域において実情に見合ったヘルスケアサ ービスの創出をサポートする事業体の創出を支援する。 医療機器については、厚労省や文科省等の関係府省・機関と連携し、世界最先端の医療機 器の研究開発を進めるとともに、高度なものづくり技術を有する異業種/中小企業の新規参 入と医療機関との連携を支援し、医療現場のニーズに応える日本発の医療機器の開発を推進 する。また、これらの早期の実用化に向けて、開発・審査の円滑化に資するガイドライン整 備などの事業環境整備を進める。これらにより、我が国における医療の質の向上と、医療機 器産業の国際競争力を強化する。なお、これらの取組を進める上では、規制改革・制度改善 の取組も一体的に進めることが重要であり、医療機器の特性を踏まえた柔軟な制度を構築し ていく必要がある。 また、我が国医療機関が医療機器メーカー等と連携しながら海外展開をしていくためのビ ジネスモデルを確立させるため、海外での医療・検査センターの運営や海外の医療人材育成 サービス等が持続可能なものとなるための企画立案を支援し、医療機器と医療サービスとが 一体となった海外市場での事業展開に関する事業性調査を行う。あわせて、海外医療機関と の連携を支える検査、診断、治療、疾病管理プロセスが一体となったシステムや技術の国内 外における開発を進め、個別化医療を含む日本の医療の海外展開を推進する。 114 平成 23 年度経済産業省 医療の国際化アウトバンド調査案件一覧 「日本式高度巡回健診サービス」提供 プロジェクト (麻田総合病院、BML等) 「日本式医療センター」プロジェクト (総合南東北病院、東京内視鏡クリニッ ク等) :昨年度のアウトバウンド 調査対象プロジェクト 「日中歯科医療技術協力研修センター」 プロジ ェクト (ア ジアデンタルフォーラム) :今年度以降案件形成の 可能性が高い国 モスクワ ウラジオストク グルジア 「日本式画像診断セン ター」プロジェクト (北斗病院、ケイアイ医 科器械、日立等) 北京(2件) ウズベキスタン 上海 クウェート トルコ サウジアラビア インド エジプト 「日本式糖尿病診療センター」 プロジェクト (テルモ、東大病院等) ミャンマー ベトナム UAE カンボジア ホーチミン インドネシア トルコ共和国 病院PPPプロジェクト (アイテック等) 「日本式高度医療サービス及び医療教育提 供施設」プロジェクト (北原国際病院、日揮、双日等) メキシコ 「日本式遠隔病理・画像診断サービス」 提供プロジェクト (国際医療福祉大学三田病院、サクラファ インテックジャパン、浜松ホトニクス等) ブラジル 再生医療の迅速な実用化を図るためには、基礎研究から実用化、周辺技術開発まで、関係 府省が連携して一貫した支援を行うことが必要であり、特に経済産業省においては、再生医 療の産業化を支える基盤技術の開発支援や、我が国のものづくり技術を活かした医工連携に よる実用化の推進、これら技術の国際標準化、産業の国際競争力強化に向けた取組を行って いく。また、より迅速に再生医療を社会に普及させるためには、再生医療の特性を踏まえた 規制・運用のあり方についても検討が必要である。 (生活支援ロボットの実用化) ①現状と課題 ロボット産業は、自動車業界、電気・電子業界という二大ユーザーによる需要に牽引され る形で成長を遂げてきた。また、一般産業分野におけるロボット利用の事例も増え、世界中 で稼働するロボットの1/4以上が我が国で稼働するなど、我が国企業のロボット出荷額は 年 7000 億円規模にまで成長してきた。しかしながら、サービス分野(生活支援分野)にお ける利用開拓が進んでおらず、依然成長途上にある。 115 我が国では、ものづくり技術及び産業用ロボットで培われた技術力を活かして、尐子化に よる労働力人口減尐の補完、作業負担の軽減、人の能力や機能の補完・拡大、人による実施 が不可能な行為の実施、製品・サービスの品質や生産性のさらなる向上等にロボットを積極 的に活用すべきという期待が高く、生活・介護・福祉等の生活支援分野、公共・防災分野、 製造分野でのロボット利用が期待されている。 生活支援分野では、特に介護・福祉におけるロボット利用への期待が高い。この理由とし て、(1)我が国は、介護現場で働く方の約7 割が腰痛であること、2025 年までに現在の 約2 倍の介護人材が必要となるとの推測等から、ロボット利用による問題解決への潜在的 ニーズは高いと考えられること、(2)高齢者、要介護者、身体障がい者(チャレンジド) 等からも、介護・移動支援等の生活支援でロボットを活用したQOL(Quality o f Life:生活の質)の向上への期待があると考えられること、 (3)我が国のものづく り技術を活用した介護・福祉ロボットを、新たな成長産業(新・ものづくり産業)に育てる という我が国のライフイノベーション戦略、が挙げられる。 なお、国際ロボット連盟によれば、生活支援分野を含むサービスロボットの世界市場は 2011~2014 年計で 197 億ドル超に成長すると推計されている。 生活支援ロボットは、産業用ロボットと異なり、人との接触度が高くなること、また使用 者として健常者以外も想定していることから、対人安全性の確立が求められるが、安全の技 術や基準・ルールが未整備であり、利用者にとって導入のハードルが高く、また企業の製品 開発リスクが高いとの指摘(課題)がある。 116 サービスロボットの世界市場 (出所)国際ロボット連盟 ②施策の方向性 経済産業省は、平成 21 年度から、NEDO において「生活支援ロボット実用化プロジェ クト」を開始し、生活支援ロボットの対人安全技術を開発するとともに、安全に関するデー タを収集・分析しながら安全性検証手法を確立する取り組みを進めている。平成 22 年 12 月には、本プロジェクトの一環として、つくば市に「生活支援ロボット安全検証センター」 を設置し、生活支援ロボットの安全検証試験設備を揃え、試験データの収集・分析を行って いる。引き続き、本センターを拠点として安全検証手法を確立するとともに、生活支援ロボ ットの国際標準(ISO13482)に準拠した安全認証の国内体制の整備を進めていく。 特に、実用化への期待が高い介護・福祉分野については、適切な検証環境の整備による有 用性等評価プロセス等の迅速化、低コスト化のためのモジュール開発、導入に際しての公的 支援について検討していく。 また、将来における国内外の市場の開拓を目指し、生活支援ロボットの有効性評価や運用 面の改善等のために、平成 24 年度より、国内及び海外における生活支援ロボットの実証事 業を実施する。 117 (2)課題解決型産業②:子育て支援サービス ①現状と課題 仕事と子育てとの両立が困難である等の理由で、第一子出産後の約6割の女性が離職をす る状況は、ここ 20 年間以上ほとんど変化していない。こうした状況の背景には、企業にお ける男性中心の働き方モデルが障害になっていることに加え、都市部を中心に“子育て支援 サービス”の不足が大きな壁となっている。 (保育サービス) 保育所における待機児童数は、登録ベースで約2.6万人(平成 23 年4月現在)(注)で あるが、その周辺には、入所を希望しながらも、入所要件を満たさないため入所資格のない 約 85~100 万人の「潜在待機児童」がいるとの報告もある。 特に都市部では、多くの児童が認可保育所への入所待ちをしている。また、利用者ニーズ は、認可保育所での定型保育のみならず、休日や 24 時間保育や病児・病後児保育、充実し た教育プログラム、自宅までの送迎サービスなど多種多様である。しかしながら、実情は、 例えば、休日保育は保育所の3.8%(1市区町村当たり0.48 ヶ所)しか実施されていな い等、供給が需要に追いついてない。こうした状況を打開するために、東京都など一部の自 治体では、自身の財源を用いて、地域の実情に応じた基準で認定した施設(=認証保育所等 =認可外保育施設)を制度化しているが、それ以外の認可外保育施設(利用者が保育料の全 額を自己負担)を利用している者も尐なくない。 認可保育所は、国と自治体からの多額の補助金によって支えられている(社会福祉法人に 対しては施設整備と運営、株式会社に対しては運営に対する補助)一方、認可外保育施設は 圧倒的に財政力の弱い状況にある。このことは利用者に必ずしも情報伝達されていない。更 に、認可保育所の保育料は、一般的に世帯年収に応じて高くなる仕組みとなっているが、認 可外保育施設を利用している利用者においては、世帯年収にかかわらず全額自己負担のため 高い保育料を支払わなければならないこととなり、公平性が担保されているとは言い難い。 制度上は、2000 年に初めて株式会社に保育所事業の参入が解禁されたものの、未だ株式 会社立は保育所全体の1%程度にすぎず、その大部分は公立や社会福祉法人立等で実施され ている。この背景としては、保育所の認可事務が一部自治体においてローカルルールにより 恣意的に運用されており、社会福祉法人と比べて株式会社やNPO法人が不利な立場に置か れている実態なども指摘されている。 注)認可保育所への入所対象は、児童福祉法第 24 条で規定する「保育に欠ける要件」 (昼間労働する ことを常態としていること等)を満たす者であり、入所を希望しているがこの入所要件を満たさ ない者は、登録ベースの待機児童数には含まれない。 118 他方で、幼稚園は、学校教育法上の学校として実施されているが、保護者の子どもに対す る教育ニーズはあるものの、尐子化や働く女性の増加に伴い、全国的に定員割れしている状 態にあり、幼稚園がない地域も約2割存在している。幼児教育の重要性が国際的にも指摘さ れる中で、教育機会が失われている状況は一刻も早く解消する必要があり、保育と幼児教育 とのシームレスな仕組み(幼保一体化)が求められている。 (放課後保育(学童保育)サービス) 我が国の学童保育は、児童福祉法第6条の2に基づき、おおむね 10 歳未満の「保育に欠 ける」就学児を対象として児童福祉事業の一環で実施されている。利用者数は、約 83 万人 (平成 23 年4月現在)に達し、未就学児の保育サービスに対するニーズと同様に、小学校 の学童時期の保育についても高い利用ニーズがある。潜在的に利用したい者も含めると、小 学校1年生から3年生だけに限っても、約 145 万人も存在するとの試算もある。 学童保育に対するニーズも、しつけ、小学校4年生以上や夜間(19 時以降)の預かり、 習い事の送迎、学習塾と同様の教育サービス等、多様である。厳しい家計事情の中で、保護 者は、日常的な支出は節約しても、子どもへの教育投資は重視する傾向にある。こうした実 情に対して、本事業で実施されているものは、利用者が求めている多様なニーズに対応した ものが提供されていない。この背景には、公的に位置づけられている学童保育は、主として 児童福祉という制度の中でサービスが提供されてきたことや、保育所と比較して、支援額や 指導員の処遇・養成、児童への安全対策など、バックアップ体制が圧倒的に脆弱な状況にな っていることがあげられる。 サービスの実施主体については、約2万ヶ所の施設のうち、大部分が公立や社会福祉法人、 父母会となっており、尐ない公費で運営している。株式会社(公費の対象外)については、 全体のわずか1%程度に止まっている。 ②施策の方向性 (子ども・子育て新システムの早期実現) 利用者ニーズが多様化する中で、子ども支援サービスの供給がこうしたニーズの変化に対 応できていない。こうした状況を改善するため、既存の事業主体の体質強化を図ると共に、 事業主体間におけるイコールフッティング(参入における格差の解消)や徹底した情報開 示・評価の下で、利用者による多様な選択が可能となる仕組みを導入することが必要である。 このため、内閣府、厚生労働省、文部科学省、経済産業省などの関係6府省が中心となり、 「子ども・子育て新システムの基本制度」を決定(平成 24 年3月尐子化社会対策会議決定) 119 し、同制度の関連3法案(平成 24 年3月閣議決定)を平成 24 年通常国会に提出している。 「子ども・子育て新システムの基本制度」は、 ○幼児期の学校教育・保育の一体的提供(=総合こども園制度の創設) ○質の確保のための客観的な基準を満たすことを要件に、 (ア)認可外保育施設を含めて参入を認め、 (イ)株式会社、NPO等、多様な事業主体の参入を認める ことにより、保育の量的拡大を図るとともに、利用者がニーズに応じて多様な施設や 事業を選択できる仕組み(=指定制度の導入) などを盛り込んでいる。 今後は、総合こども園制度、指定制度の詳細設計において、 「子ども・子育て新システム」 の実施が効率的かつ効果的に行われ、子ども・子育て支援における前述した様々な課題解決 につながっているかを、利用者、サービス提供者、負担者等がオープンな場で検証吟味し、 よりよい制度として施行していくことが必要である。特に、利用者の多様なニーズに対応す るためには多様な事業主体の参入促進を図り、利用者の選択の幅を広げることが必要であり、 「こども園」の指定制度における需給調整の運用が透明性の高いプロセスの中で公正に行わ れることが重要である。 「子ども・子育て新システム」における 指定制度の導入及びこども園給付等の創設について 【指定制のイメージ】 事業の開始 【認可と同等の 基準を満たす 施設】 総合こども園、幼稚園又は保育所の認可 その他の施設の届出 【多様な保育】 (小規模保育等) 【基準を満たさな い施設】 (ベビーホテル等) 財政措置 地域型保育 こども園 = = 指定により、こども園給付の対象 指定により、地域型保 育給付の対象 × (財政措置無し) 認可の有無に関わらず、質の確保のための客観的な基準を満たした施設や多様な保育について、給付の対象とする。 ※1 こども園とは、指定を受けた総合こども園、幼稚園、 保育所、それ以外の客観的な基準を満たした施設であり、その総称。 ※2 地域型保育とは、客観的な基準を満たす小規模保育、 家庭的保育、居宅訪問型保育、事業所内保育。 ※3 「子ども・子育て新システムに関する基本制度」では、「待機児童解消のため可能な限り多くの認可外保育施設が認可基準を満たすことができるよう支援」 と記載されている。 (出所)子ども・子育て新システムに関する基本制度WT資料をもとに経済産業省により作成。 (子育て支援サービスの高付加価値化) 現行制度のみならず、「子ども・子育て新システム」においても、子育て支援サービスは 主として公費で賄われることになる。具体的には、平成 24 年3月に政府決定した「社会保 障と税の一体改革」においては、「子ども・子育て新システム」を実現するために、消費税 120 増税分0.7兆円を含む約1兆円超の財政負担を投じて実施していくこととなるとされてい る。しかしながら、今後、更なる人口減尐により、現状の見通し以上に厳しい財政事情も想 定しておく必要がある。 このため、子育て支援事業者において、子育て支援事業者同士が互いに連携や創意工夫に よる切磋琢磨を行い、サービスの高付加価値化を図り、公費の対象となる標準的なサービス とそれ以外の多様なサービスを組み合わせて実施していくことで、子育てに対する社会課題 への対応が可能となる。 【子育て支援サービスの高付加価値化の例】 保護者の就労事情や子ども本位の多様できめ細かな需要に応えるために、株式会社や NPO法人等では、例えば、次のような取組が実施されている。 〔保育サービス〕 ・保育と知育教育、音楽教育、国際化教育など、高度な幼児学習との組み合わせによる サービス ・急な預かりや家事等の保護者の負担を軽減するサービス ・夜間や 24 時間の子どもの保育サービス ・子どもを保護者に代わり、保育所・幼稚園・学校から自宅や習い事の場所などに送り 迎えするサービス 〔学童保育サービス〕 ・進学学習やスポーツクラブと学童保育を組み合わせたサービス ・学習指導と送迎と学童保育を組み合わせたサービス ・高齢者介護サービスと学童保育を組み合わせたサービス こうした流れの中、鉄道事業者等では、沿線価値の向上や地域まちづくりの一貫として、 子会社や自社で、保育事業者や教育事業者等と連携して、保育サービスや、学童保育サービ ス等に積極的に事業展開している。 121 子育て支援サービスの例 (朝霞どろんこ保育園:認可保育所) (キッズベースキャンプ:学童保育サービス) このように、多様化、高度化する子育て支援サービスに対するニーズは、今後ますます高 まるものと想定されるため、従来の社会保障政策だけにとらわれずに、多様な事業主体が連 携・協働し、従来の子育て支援の発想を超えた創意工夫を後押しするための「子ども・子育 て新システム関連法案」や「課題対応事業促進法案」等の制度を活用することにより、社会 課題に対応するための高付加価値サービスの提供への支援を行っていく。 【 現 状 】 多様化・高度化する保護者の需要への対応の限界 ⇒ ● 一部の法人中心でサービスを担当 ● 年々厳しさを増す行政の財政支出 ● 画一的なサービス形態 等々 ● 一園で行うのは限界(非効率な運営) 子育て支援施設 【 今 後 の あ る べ き 方 向 性 】 公費外による 子育て等の支援 サービスの質の競争により、 サービスが高度化 利用者がニーズに応じて多様な施設や サービスを選択可能な仕組みの実現 多様な事業主体の参入促進とイコールフッティ ングを図る 子育て支援事業者同士が連携、切磋琢磨し合 い、多様できめ細かなサービスを提供する 情報公開と第三者評価の徹底を図る 保護者の就労事情や子どもの本意のニーズを 受けて、 他の業種やサービスとの連携、組合 せ等により、サービスの高付加価値化を推進 地域や沿線価値等を高めるために子育て支 援事業とセットで展開 等 公費による 子育て支援 「子ども・子育て新システム関連法案」や「課題対応事業促進法案」 等を活用することにより、多様できめ細かな需要に対応 していく 122 (子育て支援サービスの生産性の向上) 一般的に社会福祉法人が経営する保育所は、一法人一事業所が多く、小規模の経営主体が 多い。このため、経営上のリスクが一極集中すること、保育従事者の人材確保や育成を体系 的に行うことが難しいこと、作業効率が低く、食材や用具などの資材調達のロスが発生しや すいこと等の問題が指摘されている。 このため、今後、多様かつ柔軟なサービスを展開していくためには、ITの活用による仕 事の効率化(保育カルテの導入等)を図るほか、複数施設の運営や他の事業者との事業提携 等を図ることにより、組織の体質強化と事業の効率的運営を徹底する必要がある。これによ り、人材配置・育成や資材調達等におけるリスク分散が進み、効果的かつ機動的な運営が可 能となる。例えば、複数施設を運営する法人では、多様な保育・福祉需要への対応や、認知 度の向上、安定的な基盤の確立なども可能となる。 複数施設展開の効果<複数回答>(%) 0 10 20 30 40 50 60 70 61.7 地域社会における多様な保育・福祉需要に対応できるようになった 43.6 地域における園の認知度が高まった 適正な収益を確保でき、安定的な基盤を確立することができるようになった 23.5 20.1 保育士にとって働き甲斐のある職場をつくりやすくなった 14.1 保育士のキャリア形成をしやすくなった 12.1 保育士の採用に有利になった 2.0 その他 7.4 特にない (n=149) 10.7 無回答 (出所) 「保育現場における生産性向上手法の適用に関する調査」(平成 24 年3月経済産業省) ) 子育て支援サービスの生産性の向上のあるべき方向性 【現 状】 一法人一施設が基本 設置、運営 保育従事者の人材確保・育成が困難 社会福祉法人本部 (一般的な社会福祉 法人立保育所) 子育て支援 施設 作業負担が多く、資材調達のロスが発生しやすい 民間企業等 仕事の効率化等の経営指導・ 助言、事業連携 等 社会福祉法人本部 従事者等の人材育成や 接客指導 ・・等々 【今後のあるべき方向性】 IT基盤 設置運営(経営マネージメント)の最適化 人材確保・育成 資材調達 子ども情報等の電子化・共有 (保育カルテの導入 ) ・・・・・ 等々 子育て支援施設 123 子育て支援施設 (3)課題解決型産業③:新たなエネルギー産業 ①現状と課題 太陽光発電、風力発電、燃料電池、蓄電池、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH) やネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)、次世代自動車をはじめとした「新たなエネ ルギー産業」は、化石由来燃料の供給制約等のエネルギー制約を背景に、2020 年、2030 年 にかけて、市場規模とその伸び率が大きい産業である。市場規模は、2020 年には約 86 兆円 (フローベース)に達すると見込まれている。これは、例えば自動車産業の市場規模が 2010 年から 2020 年にかけて1.2倍の拡大が見込まれているのに対し、新たなエネルギー産業 は約2.8倍の拡大が見込まれていることからも、その成長の著しさを窺うことができる。 各産業の市場規模、市場規模成長率 太陽熱 25,000 1700% 青字 2010年実績 赤字 2020年予測 800% ZEB 270,000 ※ZEB/ZEHには外皮性能・建材、冷暖房・ 空調・換気、照明、給湯及び創エネ(太陽光・ 燃料電池システム)関連が含まれる 燃料電池 24,000 蓄電池(LiB) 83,000 ZEH 260,000 500% 200% 太陽光 71,000 地熱 2,000 100% 蓄電池(LiB) 10,000 50% 0% 風力 124,000 太陽熱 1,300 燃料電池 海洋エネルギー 地熱 9,000 4,000 1,000 0 1,000 バイオマス 9,000 5,000 10,000 中小水力 太陽光 20,000 25,000 ZEB 90,000 風力 52,000 50,000 ZEH 120,000 100,000 120,000 270,000 (億円) (出所)IEA「Global Energy Outlook 2010」、Global Wind Energy Council「Global Wing Energy Outlook 2010」など 各種資料より帝国データバンク作成 124 加えて、新たなエネルギー産業には異分野からの参入も相次いでおり、他産業からの業種 転換や、他業種からの構造転換の分野としても期待できる。 異分野からの参入事例 産業 自動車 造船 食品製造 企業 内容 アイシン精機 自動車部品製造のアイシン精機は、エンジンを動力とする空 調システムであるガスエンジンヒートポンプを製造。動力が エンジンであることから自動車で培った技術を転用し、また、 多くの自動車部品も転用することで、自動車産業と省エネ産 業のシナジーを体現している。サムスングループと提携し韓 国に対する販売実績も伸びており、輸出商品となっている。 三井造船 三井造船昭島研究所では、造船技術を活かし、洋上風力発 電用浮体の設計のために必要となる波、風、潮流中におけ る動揺性能や緊張係留索の張力応答、および浮体の設置 法などについて理論計算や水槽実験を通じて研究、開発を 行っている。 NPC NPCは、真空包装機を主力とする食品製造装置メーカーで あったが、電機メーカーからの発注をきっかけに、1994年に 太陽電池用の真空ラミネータを開発した。その後米国に進 出し、現地の顧客の要望に応え、1998年にモジュール工程 の一貫ラインを開発。現在ではターンキーソリューションのト ップランナーとして、売上高の96.5%以上を太陽電池製造装 置事業が占めるまでに至っている。 このような「新たなエネルギー産業」において、我が国の産業は、技術力等でポテンシャ ルを有しており、特定の分野では存在感を発揮しているものの、総じて苦戦を強いられてい る状況にあると言える。特に、モジュール・組立の分野では新興国の参入、追い上げを受け、 市場シェア自体の低下は避けられない状況にある。今後は、如何にこの分野で付加価値を獲 得し、継続的な利益の確保に繋げていけるか、という視点が重要となる。 各国では、金融危機後の経済・雇用対策の一環として新たなエネルギー産業を重要な成長 分野として支援する動きが見られる。 新たなエネルギー産業に対する各国の支援策 国 施策 米国 10年間で1500億ドル(14.5兆円)をクリーンエネルギーに投資、500万人の新規雇用を創出する計画。2009 年より2年間で、クリーンエネルギー・環境関係に803億ドル(7.8兆円)、省エネ・環境関連インフラ整備に 225億ドル(2.2兆円)を投入。 英国 洋上風力発電など再生可能エネルギーを中心とする低炭素社会への移行を提唱。再生可能エネルギーを 15%まで高めるため、2020年までに洋上風力発電に1,000億ポンド(14兆円)以上を投資。50万人の新規 雇用を目指す。 ドイツ 2010年時点における再生可能エネルギーに関する雇用は36.7万人にのぼり、2004年から20万人増加。 2020年に再生可能エネルギーの構成比を40%、2050年には80%とする目標。 中国 2009年3月、中国は景気対策として2009年より2年間に投資する4兆元(約56兆円)のうち、環境、省エネル ギー分野に2100億元(約3兆3600億円)を投資すると表明。 韓国 2009年1月、韓国政府は「グリーン・ニューディール推進方策」を公表。2012年まで4年間で約50兆ウォン (約3.7兆円)を拠出し、約96万人の新規雇用を創出する計画を表明した。2011年の知識経済部の再生可能 エネルギー関連の研究開発費は前年比24%以上増やし、1兆ウォン(約700億円)以上を重点投入している。 125 例えば、イギリスでは、北海油田・ガス田の生産量の落ち込みにより 2015 年頃には石油 もガスも半分以上を輸入に依存することが見込まれており、洋上風力発電の導入によるエネ ルギー確保と雇用拡大を目指し、事業規模 13 兆円にのぼる洋上風力発電の導入を計画した。 この計画を受け、Siemens(独)やGE(米)等が英国における工場建設を表明した。 また、同国で競争力を失った造船業の廃ドックが、洋上風力のブレードの試験場として再生 される等、産業構造の転換が進みつつある。 ドイツでは、再生可能エネルギーの利用拡大の結果、再生可能エネルギー産業の雇用が 16 万人(2004 年)から 36.7 万人(2010 年)に倍増している。他方、固定価格買取制度に おける買取費用の累積補助金総額は 2010 年までで約7.2兆円に上っており、国民負担が 課題となっているため、今後、本制度に何らかの制約が課されると言われている。 このようなことから、新たなエネルギー産業の市場は、各国や各地域の政策形成に依存す る面も多く、不確実性が伴う面が否めない。しかし、世界各国で確実に再生可能エネルギー の導入や省エネルギーの取組が強化されていく中で、再生可能エネルギーについては、いか に経済合理性を持ったエネルギーとして他のエネルギーと競合していくか、省エネルギーに ついては、いかに安いコストで省エネルギーを達成できる機器やシステム、サービスを提供 するかが、これらに係る産業に共通して克服すべき課題となる。 新たなエネルギー産業の国際競争力を強化し、再生可能エネルギーの導入コストが安いも のになれば、より質が高く低廉なエネルギーが供給されることにつながり、我が国のエネル ギーセキュリティの向上をもたらすことになる。逆に、新たなエネルギー産業の国際競争力 が低下すれば、我が国の省エネルギー、再生可能エネルギー推進の基盤が損なわれてしまう ことにもなりかねない。このように、エネルギー政策とエネルギー産業政策は車の両輪とし て一体的に取り組む必要がある。 (太陽光発電産業) 太陽光発電市場は、2050 年までに年率 12%以上の成長を続ける見通しである。日本の太 陽電池製造メーカーは、2005 年には世界シェアの5割程度を占めていたが、中国・台湾系 の台頭により急速にシェアを失いつつある。海外プレーヤーによる急激な生産設備の増強に より需給バランスが崩れてシステム単価が下落し、規模で务るメーカー等への圧力が高まっ ている。 126 太陽光発電の用途別市場規模推移 太陽電池の用途別世界市場規模推移(2010-2050年、累積発電容量ベース) 用途別の特徴 主なユーザ (GW) 発電容量 オフ グリッド • 無電化地域に おける各種施設 中小規模 電力用 • 電力会社 • 発電事業者 数MW~ 数十MW • 工場・商業施 設・オフィスビル • 公共施設 20kW~ 1MW 公共/ 産業用* 住宅用 • 戸建・集合住宅 ~ 20kW (年) 2010年 単年予測 シェア 2020年 単年予測 シェア 2030年 単年予測 シェア 2040年 単年予測 シェア 2050年 単年予測 シェア 出所:“Technology Roadmap Solar photovoltaic energy”(2010, IEA) *公共/産業用:Comercialとの位置づけだが、発電容量区分の観点から同等とした 世界市場におけるシェアの推移(全用途) 100% その他 90% First Solar(米) 80% United Solar Ovonic (Uni-Solar)(米) SunPower( 米 ) 70% E-TON(台) Isofoton( スペイン ) 60% MOTECH(台 ) 50% SolarWorld (旧Deutsche Solar)(米/独) Schott Solar( 独 ) 40% Q-Cells(独) 中国その他メーカ 30% Trina Solarh(中) yingli Green Energy( 中 ) 20% Suntech( 中 ) カ ネカ (日 ) 10% 三菱電機 ( 日 ) 三洋電機 ( 日 ) 0% 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 世界トップ25企業に入る 日本プレーヤのシェア(会社数) 16.2% 11.6% 11.8% (4/25社) (3/25社) (4/25社) 世界トップ25企業に入る 中国プレーヤのシェア(会社数) 26.1% 32.1% (7/25社) 24.6% 京セラ (日 ) シャープ (日 ) (8/25社) (11/25社) (出所)エネルギー産業研究会報告書 バリューチェーンにおける工程別の利益率は、川上工程と川下工程が高くなっており、ス マイルカーブを描いている。特に品質保証サービスなどを差別化要素とすることができる下 工程のシステム・インテグレーション(太陽光パネルやパワーコンディショナーなどを組み 合わせて発電システムを構築)の付加価値が高い。そのため、太陽光パネルメーカーによる システムインテグレーション事業への進出といった、垂直統合の動きもある。 127 バリューチェーンと主要プレーヤー システム インテグレーション (出所)各種公開情報、事業者インタビュー等より Arthur D Little 分析 (風力発電産業) 風力発電産業は高成長が見込まれており、2030 年の市場規模は 2010 年の2倍~10 倍に拡 大すると予測されている。風力発電はメンテナンス部品供給や輸送コストを理由に設置国に おける事業者が強いと言われているにもかかわらず、国内市場における日本勢合計のシェア は 21%(世界シェアでは2%)に留まっている。また世界シェアでは、以前は欧米メーカ ーが主であったが、近年は中国やインドメーカーの追い上げが激しい状況である。 風力発電の市場規模推移 悲観的 平均的 (出所)IEA Global Wind Energy Outlook 2010 より 128 楽観的 風力発電導入メーカシェア(国内・世界) メーカシェア(2008年、国内) (ドイツ) (オランダ) シェア21% Siemens その他 2% 2% Lagerwey 4% (スペイン) Gamesa 三菱重工 14% Neg-Micon 5% シェア2% 日本製鋼所 4% 5% (デンマーク) メーカシェア(2010年、世界) 荏原フライデ ラー 1% 富士重工業 1% Vestas 19% GE Wind 19% (米国) (デンマーク) (ドイツ) Repower 3% NORDEX (ドイツ) 3% (ドイツ) Enercon 12% DeWind 1% Bonus (米国) 4% (米国) (出所)野村総合研究所分析資料、: BTM Consult 「world ipv6 day market update 2010」より バリューチェーンの中では、軸受など一部の部材では日本企業が一定の存在感を維持して いる一方、風車はコスト競争の様相を呈しており日本企業は苦戦している。風車については、 発電効率を上げるための風車の大型化が進んでおり、ヴェスタスなどによる大型風車の開発 が本格化している。また、陸地での風力発電の適地が減尐していることや風車の大型化など を背景に、造船会社などが洋上風力発電産業に進出する動きも見られる。 風力発電産業のバリューチェーン (出所)The Economics of Wind Energy“ EWEA March 2009、BTMconsult など各種公開情報 及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 129 機密性○ (太陽熱発電産業) 太陽熱発電のコストは、2015 年以降、既存電源並みになる見通しであり、発電コストの 低減などにより、太陽熱発電市場は 2020 年以降の急拡大が見込まれている。太陽熱発電の 原理は単純であるが、素材、パーツ、システム全般にわたって、熱、機械、光学、電気をは じめとする幅広い領域の複合的な技術的知見が必要とされるため、高性能な部品機器提供や 技術的に高度な施設の施工管理などにおいて日本企業の参入機会は大きいと考えられる。 太陽熱発電の市場規模 (出所) 『Concentrating Solar Power : Outlook 2009』 Solar PACES の”Moderate Case”, NEDO 「再生可能エネルギー技術白書」より Arthur D Little 分析 太陽熱発電の技術方式については、現在コスト優位性を持つトラフ型と、発電効率が高く 将来的に主流になると考えられるタワー型が注目されている。トラフ型、タワー型の双方と も欧米プレーヤーに先行されているものの、付加価値獲得の余地、技術的成熟度、量産効果 を考えると、日本プレーヤーには、タワー型では勝機があると考えられる。 太陽熱発電技術方式の比較 (出所) :『Concentrating Solar Power : Outlook 2009』 GREEN PEACE、 日経ビジネス 2009.2.23、その他オープン情報より Arthur D Little 分析 130 機密性○ 太陽熱発電産業のバリューチェーンとプレーヤーマップ (出所)各社HP、日経新聞 2011.4.11、その他オープン情報より Arthur D Little 分析 太陽熱発電はまだ新しい技術であることから、利益構造については、川上工程と川下工程 が高い単純なスマイルカーブとはなっておらず、バリューチェーンの中でも特に①高い開発 リスクを伴う案件開発、②配置計画等で専門性を要求されるソーラーシステム設計、③集光 パイプ(レシーバ)等のコアとなる個別コンポーネントの利益率が高くなっている。 (蓄電池産業) リチウムイオン蓄電池市場は、これまで民生の小型用途である携帯電話やノートPC向け 市場の拡大とともに、大容量化や低コスト化を実現してきた。今後は安全性等の付加的な性 能向上によって、車載用や定置用などにおいて、更なる市場拡大が見込まれる。 131 LiB用途別市場規模推移/予測 リチウムイオン蓄電池の用途別市場規模推移/予測 車載用:普通乗用車など 世界市場規模 [兆円] 産業用(主に定置用): 電力関連、産業機器、 無停電電源装置など 民生以外中小型: 電動工具、電動二輪車など 民生小型: 携帯電話、ノートPC、 携帯音楽プレーヤーなど (出所)『2010 年版LiB部材市場の現状と将来展望』(矢野経済研究所)及びインタビュー結果等を参考に Arthur D Little 作成 蓄電池産業は、「日本のお家芸」と言えるほどに日本企業が競争力を保持してきた産業で あるが、市場の形成・拡大の過程で、欧米・中国・韓国企業の参入が進んでいる。電池材料 についても、蓄電池メーカーの競争力が増しつつある韓国・中国の部材メーカーや蓄電池メ ーカーによる内製が増えることにより、正極材や負極材を中心に、日本プレーヤーのシェア を奪い始めている。 リチウムイオン蓄電池のバリューチェーンと世界市場シェア(2011 年) 電池材料 正極材料 ① 日亜化学工業 ② L&F(韓) ③ ユミコア(ベルギー) 蓄電池 事業主 リチウムイオン電池 (19%) (13%) (10%) 負極材料 ① 日立化成工業 ② BTR(中) ③ 三菱化学 (32%) (30%) ( 9%) 電解液 ① 宇部興産 ② 三菱化学 ③ PANAX ETEC(韓) (23%) (14%) (14%) セパレータ ① 旭化成イーマテリアルズ (37%) ② 東レバッテリー セパレータフィルム (23%) ③ セルガード(米) (12%) ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ パナソニック サムソンSDI(韓) LG化学(韓) ソニー BYD(中) BAK(中) 電力会社 (23.5%) (23.2%) (16.2%) ( 8.8%) ( 8.1%) ( 4.5%) American Electric Power (米) SCE (米) DTE (米) Xcel (米) EDF Energy (英) 電力会社以外 AES Energy Storage (米) Tres Amigas (米) Rubenius (デンマーク ) 大型蓄電池向けパワコン ABB(スイス) Siemens(独) Schneider Electric (Xantrex) (仏) S&C(米) 明電舎 (出所)テクノ・システム・リサーチ(2011 年) 132 (燃料電池産業の状況) 燃料電池産業については用途別に、①家庭用、②業務・産業用、③燃料電池自動車用に分 類される。 家庭用は、先行して市場が立ち上がっている日本に加え、現在、実証事業が行われている ドイツ・デンマーク等の欧州を中心に市場拡大が進むと想定される。 業務・産業用は、電気料金とガス料金の差が大きい地域が多いなどの市場環境や、米国エ ネルギー省による研究開発支援などによって、北米を中心とした市場成長が見込まれている。 燃料電池自動車(FCV)は、日本、北米、ドイツなどでの車両本体の開発と水素ステー ションを使用した実証等が行われている。2015 年を目途に、日本、北米、欧州などでFC Vの市場が立ち上がり、その後急激な市場成長が見込まれている。 燃料電池の用途セグメント毎の市場規模推移予測 (出所) 「2011 年版燃料電池関連技術・市場の将来展望(上巻) 」富士経済より Arthur D Little 分析 燃料電池産業では部材が、種類(PEFC、SOFC)や用途(家庭、業務、産業、燃料 電池自動車)ごとに異なる上、用途ごとに使用される周辺部品・機器が異なるため、複雑な バリューチェーンを持つ。 家庭用は、2009 年に我が国が世界に先駆けて市場を立ち上げており、既に市場が存在す るのは日本だけである。燃料電池システムの心臓部であるセルスタックは、我が国が得意と するすり合わせ技術を使用しており、品質面での競争力は高い。また、政府の導入支援補助 事業を通じ導入が進められたことも受け、急速なコストダウンが図られ、コスト競争力も高 めているため、今後も競争力を保持することができる可能性がある。今後、海外市場の立ち 上がりも見込まれることから、我が国メーカーは、海外展開に向けた検討を行っているとこ ろである。 133 燃料電池自動車では、高い競争力を持つ自動車メーカーが燃料電池スタック・システム製 造も垂直統合している場合が多い。品質要求の水準も高く、部材メーカーも高い競争力を持 っている。 燃料電池産業のバリューチェーンとプレーヤーマップの概観 電極材 P E F C 部材 セパレータ 田中貴金属 英Johnson 旭化成 独BASF 工業 Matthey ケミカルズ 石福金属 旭硝子 米WLゴア 独BASF 興業 JSR 日清紡 韓Hundai ケミカル Hysco 住友金属 米Pacfic 工業 Fuel Cell 米デュポン 昭和電工 430億円 東レ 米WLゴア 三菱 レイヨン 独SGL カーボン グンゼ 283億円 AGCセイミ ケミカル マグネクス 信越化学 44億円 20億円 - 28億円 ポンプ類 家 庭 用 458億円 住友金属 田中化学 東ソー 独BASF 日立金属 鉱山 研究所 第一稀元素 第一稀元素 日本触媒 JFEスチール 化学工業 化学工業 AGCセイミ ケミカル スタック・システム 構成機器 ガス拡散層 日本 バイリーン 346億円 S O F C 電解質 業 務 ・産 業 用 貯湯システム 電気再生式水処理装置 イワキ・荻原製作所・ 東芝ホームテクノ・ パナソニック電工など オルガノ 栗田工業 ブロワ 独Vaillant リンナイ 119億円 42億円 長府 製作所 ガスタ― 家庭用改質器 イワキ・日本電産コパル 電子・東芝ホームテクノ・ アルバック機工など 新日本石油 パナソニ ック電工 パロマ ノーリツ 大阪ガス パナソニック 東芝燃料電 池システム ENEOS セルテック トヨタ・ アイシン JX日鉱日石 エネルギー 米CFCL 東京ガス 大阪ガス 東邦ガス TOTO ガスタ― ・リンナイ 京セラ 清水ハウス 墺Energy Australlia 独Rehein Energie 独E.ON ruhrgas 米Southern パナホーム California LPガス業者 Gas Company 韓POSCO POWER 米Fuel 三菱 Cell Energy 重工業 JX日鉱日石 米Bloom Energy エネルギー 米UTC 住友精密 Power 工業 カナダballard 日本ガイシ power systems 富士電機 280億円 84億円 インフラ・ サービス 組立 819億円 バルブ 熱交換器 パワコン アイビーエスジャパン SMC・鷺宮製作所・ タイム技研・ミクニ アタゴ製作所・三五・ ティラド・リガルジョ イント ウィンズ・オリジン電機・ 三社電機製作所・田淵 電機東京精電 101億円 42億円 91億円 各国オフィ スビル・デー タセンタなど JX日鉱日石 エネルギー トヨタ自動車/ホンダ自動車/日産自動車(実際に数台出 荷実績 あり) 英BP 岩谷産業 韓Dongdeok 自燃 動料 車電 池 独BMW VW 米GM/Ford 中 上海汽車/長安汽車/東風汽車/第一汽車 独Daimler AG 韓Hyundai Motor 出光興産 伊Eni S.p.A 昭和シェ ル ベルギー Linde Gas 伊藤忠 エネクス 東京ガスなど ガス会社 市場規模は2025年の予測値 (出所)各社HPなどより Arthur D Little 分析 (ZEB/ZEH産業) ZEB産業の市場規模は、各国における省エネルギー政策の強化が市場成長のドライバー として作用し、国内・海外市場共に年平均 10%を超える高成長を続ける見込みである。地 域毎のトレンドを見ると、2015 年までは北米・欧州が、それ以降はアジアが市場を牽引す る見通しとなっている。 ZEB産業の市場規模 (出所)ミック経済研究所、野村総合研究所作成 134 ZEH産業の市場規模 (出所)富士経済、野村総合研究所作成 ZEB/ZEH産業のバリューチェーンを見ると、海外市場においては現地法規制への対 応や設備設計会社との折衝等のすり合わせが必要となるため、設計/開発、建設、保守・管 理、建材は現地の企業が強い。コンポーネントについては、日本企業を含む外資系企業が健 闘している。日本企業にとっては、現在欧米勢が優勢であるシステム分野への更なる進出が 可能と考えられる。 また海外では自動車部品メーカーのBosch(独)が、ZEH設計競技のソーラー・デカ スロンのスポンサーを 2011 年から担うなど、他産業からの新規参入が進んでいる。 ZEB/ZEH産業のバリューチェーンと主要なプレーヤー例 設計/開発 不動産 三菱地所 新Ascendas 三井不動産 住友不動産 現地プレイヤ ZEB 設計事務所 日本設計 英ARUP 日建設計 米Gale 久米設計 現地プレイヤ 高砂熱学工業 米APC 新菱冷熱工業 新日本空調 現地プレイヤ 大気社 関電工 住友電設 大和ハウス工業米Pulte Homes ミサワホーム 米Lennar Corp ZEH 住友林業 省エネ 創エネ 建設会社 建材 鹿島建設 韓サムスン物産 (ガラス) 清水建設 旭硝子 米Andersen 仏 バンシー 大成建設 日本板硝子 仏サンゴバン YKK AP 大林組 現地プレイヤ 現地プレイヤ (その他、断熱材) 竹中工務店 YKK AP 設備工事会社 住宅メーカ セキスイハイム 米D.R. Horton パナホーム コンポーネント 建設 現地プレイヤ PV シャープ 独Q-Cells 京セラ 中Suntech パナソニック 米First Solar 台Motech JFEロックファイバ 空調 (個別式:直膨個別分散式(ダクトレス)) ダイキン工業 中 美的 パナソニック 中 格力 三菱電機 コジェネ (セントラル式:ターボ、吸収式など) (ガスコジェネ) 三菱重工業 米キヤリア 米 ヨーク 川崎重工 三井造船 リンナイ 米GE 独 Scimens (燃料電池コジェネ) 照明 (LED) 日亜化学工業 米Cree シチズン電子 独OSRAM opt スタンレー電子 蘭Philips Lumileds 蓄電池 (LiB) 東芝 GSユアサ MHI エリーパワー 米A123 米SAFT 韓LG化学 中BYD (鉛蓄電池) 旭ファイバーグラス 川重冷熱工業 (地域冷暖房) 高砂熱学 蓄エネ GSユアサ 古河電気工業 システム BAS/BEMS 山武 米Johnson Controls オムロン 三菱電機 米Honeywell 東芝 仏Schneider NTTファシリティーズ 独Siemens パナソニック 清水建設 米Johnson Controls サービス (保守・管理) BAS/BEMS 不動産 (ハード面) 三菱地所 三井不動産 住友不動産 米CB Richard Ellis (ソフト面) 日本設計 山武 米Johnson Controls (NAS) 日本ガイシ 給湯(ヒートポンプ、太陽熱(1) パナソニック 米Carrier 三菱電機 独Vaillant コロナ 独Viiessmann ダイキン工業 ノーリツ 前川製作所 東京ガス パナソニック HEMS パナソニック 米Cisco 東芝 米SDGE 三菱電機 米Gridpoint NEC 英British Gas 大和ハウス工業 積水ハウス 大阪ガス 住宅メーカ セキスイハイム 大和ハウス工業 ミサワホーム 現地プレイヤ パナホーム 住友林業 ZEB/ZEH概ね共通 現地プレイヤが優勢 日本企業を含む外資系企業が健闘 欧米企業が優勢 (出所)各種公開情報および事業者インタビュー等より Arthur D Little 分析 135 現地プレイヤが優勢 (スマートコミュニティ) スマートコミュニティとは、再生可能エネルギーを、一連の社会システムとして、住宅や ビル、交通、ライフスタイルの転換などにより、効率的に活用する社会である。スマートコ ミュニティについては、各国でスマートメーターを大量に導入したデマンドレスポンスや各 種の技術開発を目指した実証実験が進められている段階であり、主に新興国においては都市 開発に伴うインフラ導入の一環として導入に向けた取組が行われている。 我が国では、2011 年度より、横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市において、 スマートメーターを導入し、住民の参加の下でデマンドレスポンス、エネルギーを効率的に 活用するエネルギーマネジメントシステム(HEMS、BEMS、CEMS)等の大規模実 証を行っている。 スマートコミュニティ4地域実証 スマートコミュニティでは、従来から供給サイドが担っていたエネルギー供給の役割を需 要サイドに働きかけることで、効率的なエネルギー活用が可能となる。そのため、従来の供 給サイドにおけるエネルギー供給事業者だけでなく、重電メーカー、デベロッパーや通信、 家電、自動車、ハウスメーカー等、様々な事業者が参入しつつある。新興国が本格的な都市 化を迎え、エネルギーのインフラ需要が高まる中、このような事業者がそれぞれの優位な技 術と事業領域を核としながら、様々な製品やサービス、ビジネスが生まれることが期待され ている。 136 スマートコミュニティのプレーヤー 大規模発電 送電線 蓄電池 変電所 配電線 Alcatel-Lucent Alcatel-Lucent Motorola Motorola 通 信 ・ 情 報 処 理 スマートメ ーター 東芝 富士通 Pulte Homes 日立 関西電力 機 械 ・ 設 備 Alcatel-Lucent Pirelli 日本ガイシ Motorola GE Nexans トヨタ ABB シャープ NTTファシリティーズ トヨタ ホンダ GM 日産 Landys +Gyr D.R. Horton ホンダ Itron Pulte Homes 日産 GE 三菱自動車 Sun micro HP IBM 日産 Alstom 東芝 山武 トヨタ Siemens 日立 パナソニック ホンダ 東芝 日立 CISCO NEC A123 三菱重工 Jonhson Controls 通信事業者(AT&T,Verizon,Tmobile,Sprint等) NEC Draka 次世代自動車 データセンター Oracle current SILVER SPRING CISCO BYD Areva スマートハウス スマートビル ビスキャス エクシム 日立 東芝 住友電気 東芝 積水ハウス 清水建設 古川電工 富士電機 大和ハウス 鹿島 NTT 三菱電機 三菱重工 大崎電気 富士電機 ②施策の方向性 上記のような現状と課題を踏まえ、それぞれの産業において、バリューチェーンでの付加 価値の高い分野、すなわち、上流工程の部素材と下流工程のシステム・インテグレーション の利益を着実に押さえることが必要である。 そのため、部材については政策横断的に強化することとし、今年4月に設置された「エネ ルギービジネス戦略研究会」(座長:柏木孝夫東京工業大学特命教授)の場において、エネ ルギー政策のみならず、製造産業政策、IT政策、技術政策と一体となって、その強化の方 策と具体的な強化の方向性について検討を行っていく。 また、今年7月からの固定価格買取制度の開始により再生可能エネルギーの大幅導入が進 み、システム・インテグレーション事業を担うプレーヤーの創出や既存プレーヤーのシステ ム・インテグレーション事業への進出・機能強化が図られることが期待される。他方、海外 においては、システム・インテグレーション事業を担うプレーヤーの創出事例として、成長 が期待される洋上風力発電事業において、日本企業(丸紅株式会社)が株式会社産業革新機 構とともに、洋上風力発電設備の据付事業を行う海外企業(シージャックス)を買収した事 例がある。 太陽光発電については、主にメガソーラー市場を念頭に、シリコン方式よりもコストが安 く生産方式もターンキー化(装置、生産設備やシステムなど全て一式で製造し、それを顧客 に販売・設置することにより、製造会社が簡単な操作で一定の製品を製造できるようになっ たこと)しないといわれる有機系太陽光発電を開発する。さらに、有機系太陽光発電が薄く 137 屈曲性があるという特徴を生かし、ビル壁面等に利用可能な用途の開発等を行い、有機系太 陽光発電の市場を創出する。 風力発電については、世界市場が洋上風力発電にシフトしていることから、これに伴う大 型化への対応や耐久性の向上、遠隔監視・制御システムの開発といった各種の技術課題等に 対応していく。また、我が国では、風況が良好で大規模な土地を確保可能な地域が限られて いるため、電力需要の有無とは関係なく立地を選ぶ傾向にあるが、風況の良い地域について は、風力発電の電力を系統側で受け入れるための地域内系統の整備が必要である。このため、 政策的支援等で解決することで、マザーマーケットとしての国内市場の形成に寄与する。 定置用蓄電池については、世界的にも市場が立ち上がりはじめた段階であり、国内での需 要が先行している。定置用蓄電池の強みは、制御システムとの組み合わせであり、スマート コミュニティの実証による、家、ビル、地域のスケールでのエネルギーマネジメントシステ ムとの組み合わせによって制御技術の高度化を図っていく。また、車載用蓄電池を家庭用蓄 電池として利用した場合(V2H:Vehicle to Home)の接続性についてもあ わせて実証し、導入のための支援策や認証制度整備を講じていく。 さらに、国内需要の創出に向け、定置用蓄電池への導入補助や、東北地域の復興における 蓄電池を使ったエネルギーシステムの構築を通じて、安定した国内市場の創出につなげてい く。その際、定置用蓄電池の電力会社との系統連系協議についての認証制度を整備し、定置 用蓄電池の円滑な普及を促すこととする。 車載用蓄電池については、航続距離向上に向けた性能の向上とコスト低減を後押しするこ とが必要である。そのためには、アプリケーションとなる次世代自動車の普及を促進し量産 効果によるコスト低減を図る。また、電池の性能向上・コスト低減のために車載用蓄電池産 業への設備投資や研究開発を後押しするとともに、これと併行して次世代自動車の利便性の 向上を図るために、電池性能を補完する充電インフラ・水素充填施設の整備や国際標準化等 も必要である。 このように蓄電池については、再生可能エネルギーの負荷調整といった役割や、系統連系、 次世代自動車といった様々な観点からの検討が必要であり、本年1月に政策横断的な「蓄電 池戦略プロジェクトチーム」を省内に設置したところであり、各種課題の解決を図っていく。 燃料電池については、世界で唯一の市場化を果たした我が国の競争優位を強化すべく、さ らなるコストダウンを促進するとともに、国際標準化を進め、競争力を維持しながら海外市 場への展開を狙う。また、燃料電池自動車については 2015 年の市場投入を控え、官民の協 力の下、ホームマーケットを確立すべく水素ステーションなどのインフラ整備を先行的に行 っていく。さらに、今後の水素・燃料電池の利用の拡大の在り方について官民連携の下検討 を行う。 138 スマートコミュニティについては、昨年度より国内4地域で行われている大規模実証の結 果、既に東芝、明電舎、日揮、大成建設などによりBEMSが商品化され、東芝、オムロン、 デンソー等によりHEMSが商品化されている。また、日産自動車より、今年の夏を目途に V2H対応の電気自動車が販売される予定である。さらに、北九州市においては、今年4月 より世界初の当日通知型のリアルタイムプライシング実証が開始され、けいはんな学研都市 においては、今年の夏から 900 件を対象とした大規模ダイナッミック・プライシング実証が 開始される予定である。 さらに、昨年度より国内7地域(日立市、三重大学、大阪市、鳥取市、福山市、佐世保市、 水俣市)で地域の実情に応じた実証を行っているところであり、平成 26 年まで継続し、各 種の制御システム(HEMS、BEMS、CEMS)、電力使用情報を第三者にオープンに するスマートメーター、蓄電池制御システムの開発や実証を進めるとともに、住民の参画を 募り、デマンドレスポンスに係るデータの蓄積を行う。その成果として、スマートハウス、 スマートビルの普及やその普及の要となる定置用蓄電池普及のために、認証制度構築や国際 標準化を推進するとともに、エネルギー事業への自動車、通信事業者、海外事業者などの新 規参入の促進、エネルギー需要家への働きかけを行うエネルギーのアグリゲートビジネス、 CEMSを中核としたエ ネルギーサービスの創出を図り、新たなエネルギービジネスの創出につなげる。 また、岩手・宮城・福島の被災3県においては、平成 27 年度までの間、実証実験で開発 されたCEMSを用いたスマートコミュティの構築を支援し、我が国のスマートコミュニテ ィ技術のショーケースとして世界へ発信していく。 既に北九州市の城野地区においては、実証を踏まえたスマートコミュニティの展開が検討 されているところであり、このような国内でのスマートコミュニティの展開を促進すべく、 スマートコミュニティの計画策定を支援する。 さらに、国内実証と平行して、海外では実現可能性調査(FS)を進め、国内スマートコ ミュニティ実証事業や被災3県におけるスマートコミュニティ事業の中核企業(プロジェク ト・マネージメント企業)を中心とした海外展開を支援する。 スマートハウスについては、開発・実証を進めるのみならず、「スマートハウス標準化検 討会」で、今年2月に、HEMSとスマートメーター及び宅内機器間の通信インターフェー スを「ECHONET-Lite」に標準化した。この標準の採用を、現在実施中のHEM S導入補助事業の補助要件とすることで、国内における当該標準の普及を図っている。また、 今年3月には、国際標準化に向けて、同規格をIEC(国際電気標準会議)に提案するとと もに、欧米の規格との融合を確立するための研究を開始した。さらに、今後、官民による普 及拡大に向けた工程表の策定や実行体制の整備等を通じて、日本型スマートハウスの更なる 普及拡大に努めていく。 スマートビルについても、開発・実証を進めるのみならず、BEMS導入補助事業により、 139 複数のビルを束ね、ビルのエネルギー管理サービスを提供する「BEMSアグリゲーター」 を組成し、順次事業を開始しているところである。また、東京電力と原子力損害賠償支援機 構のビジネス・シナジー・プロポーサルにより採択された事業者が、節電効果によって電力 会社などから対価を獲得するネガワット取引を開始しつつある。今後、こうしたデマンドレ スポンスの基盤となりうる事業を本格展開するため、共通標準の特定を検討していく。 上記に加え、新たなエネルギー産業の海外展開に当たっては、「国際エネルギー消費効率 化等技術・システム実証事業」の積極活用により、海外における継続的な事業化や着実な普 及に結び付けていく。新たなエネルギー産業の事業領域は、目が届きにくい規制・制度の細 部、それを運用している現地政府・企業等の利害等が複雑に絡み合っている。このため、民 間企業による調査や営業努力だけでなく、国家間協力事業として、相手国からの協力を確実 に引き出しつつ、企業間の利害調整を円滑に行いながら、ノウハウと実績を蓄積していくこ とが必要である。 これまで我が国は、40 件の実証事業を相手国と協力して行ってきた結果、315 の技術・シ ステムがビジネスベースで普及したり、海外におけるスマートコミュニティ開発のアクショ ンプランの策定を受注したりするなど、着実な成果を上げている。今後は、このような動き をより加速化していくため、技術的新規性のみならず、相手国政府に普及可能性があるか否 かの見極めや、現地デベロッパー等との利益分配関係の適切性といった観点から、事業内容 を一層洗練していき、ビジネス性・横展開可能性が高い案件を数多く作り出していく。そし て、実証後の横展開支援も充実させていく。 さらに、省エネ・新エネに関する人材育成事業や国際会議について、積極的に活用してい く。これまで我が国は、国際約束等に基づき、省エネ・新エネに係る技術指導を過去2年間 に限っても約 1,500 人に対して実施し、支援国における省エネ法策定や省エネ診断マニュア ルの作成等の制度構築支援を行い、国際的なエネルギー需給の改善に向けて着実な貢献をし てきた。今後は、新たなエネルギー産業の海外展開に大きく寄与する形で、この動きを加速 化していく。具体的には、普及可能性が高い案件の発掘、横展開に結び付く形での企画立案、 既存案件の成果を相手国の法制・調達活動に組み込ませる活動について、相手国政府機関の 巻き込みや共同声明への明記等を通じて、国家レベルでの信頼醸成を行いながら、一層の充 実を目指していく。 140 (4)クリエイティブ産業 (コンテンツ×消費財の組み合わせで「大きく稼ぐ」) ①現状と課題 日本の映画、アニメ、TV番組、ゲーム、書籍等のコンテンツ産業の市場規模は約 12 兆 円で、米国に次いで世界第2位の規模(2009 年)である。しかしながら、近年は、マイナ ス成長が続いており、尐子・高齢化や景気動向を考慮すると、今後も大きな成長は期待でき ない。 他方で、日本のコンテンツは海外から高く評価されており、海外において日本発のコンテ ンツを中心とした「クールジャパン関連」イベントも行われている。例えば、フランスの民 間団体主催により毎年開催されているJAPAN EXPO(コンテンツを中心とした日本 発のポップカルチャーが展示されるイベント)は、今年で 12 回目を数え、昨年は 19 万人を 超える観客が来場しており、日本コンテンツの根強い人気が窺える。 しかし、日本のコンテンツ産業の海外輸出比率は約5%となっており、日本コンテンツの 人気を経済的利益に転換出来ていないのが現状である。なお、米国のコンテンツ産業の海外 輸出比率は約 17.8%である。今後の持続的な成長のためには、日本のコンテンツの価値を 活かし、成長するアジア諸国等の需要を十分に取り込む等、海外からの収益を獲得していく ことが重要である。 主要国のコンテンツ市場規模 (単位:10億US$) 500 米国 400 300 200 100 日本 中国 ドイツ 英国 0 韓国 (出所)PWC「Global Entertainment and Media Outlook:2010-2014」 *2010 以降は予測値 141 アジア主要都市における日・韓・欧米コンテンツ普及度 よく見るアニメ・マンガは どの国のものか? 好きなドラマは どこの国のものか? よく聴く音楽は どこの国のものか? 好きな映画は どこの国のものか? 1% 台北 11% 61% 香港 6% 48% バンコク 28% 10% 上海 25% 8% ジャカルタ 19% 6% シンガポール 17% ホーチミン 13% 2% 4% 特に東アジアで は、日本アニメ・ マンガの人気が 11% 2% 非常に高い 41% 38% 33% 34% 34% 21% 34% 10% 18% 32% 25% 23% 11% 14% 1% 39% 60% 17% 67% 42% 10% 3% 27% 12% 18% 21% 22% 42% 3% 4% 5% 0% 12% 2% ムンバイ 4% 45% 1% 韓国ドラマの 人気が特に 高い 16% 1% 1% 6% 27% 48% 57% 28% 23% 9% 台北、シンガ ポールでは欧 米音楽の人気 が圧倒的 10% 1% 25% 11% 3% 92% 70% 47% 27% 4% 7% 16% 韓国 30% 2% 66% 67% 日本 欧米 26% 43% 5% 36% 10% 10% 17% 全般に欧米 映画の人気 が高い 32% インドは自国コンテンツの人気が高く、 外国コンテンツの普及度は低い 0% (出所)博報堂 Global HABIT 調査 2011 年7月(サンプル調査: 15~54 歳の男女 6,591 名が回答(複数回答) ) ②施策の方向性 (海外市場獲得に向けた取組) コンテンツを海外展開する場合、一企業が単体で進出するだけでは、稼ぎが尐なく、短期 間でのリクープ(元をとる)が難しい。また、海外でコンテンツの認知度を上げるためには コンテンツを現地で継続的に露出し続ける必要があるものの、米国等と比べ資本力がない日 系企業が単体でリスクを取るのが難しい現状がある。このため、ドラマや映画等の企画を、 諸権利を含めてそのまま海外に売り切ってしまい、海外企業がリメイクして莫大な利益を上 げても、日本のコンテンツ企業がその利益を享受できないといった状況がある。 こうした問題意識の下、コンテンツ産業に関わる人材育成や海賊版対策といったコンテン ツ企業が単体で海外に進出する際の環境整備の構築といった支援に加え、日本企業が魅力あ るコンテンツを核として海外で「大きく稼ぐ」ための場の設定や、日本発のコンテンツの海 外発信促進のためのプラットフォーム構築支援等が必要である。 (コンテンツ×消費財の組み合わせで「大きく稼ぐ」取組) 日本企業が魅力ある日本コンテンツを核として海外で「大きく稼ぐ」ためのプラットフォ ームを提供する試みとして、2012 年3月に「クール・ジャパン海外展開関心企業大会議(ク ールジャパン大会議)」を開催した。この会議においては、コンテンツの発信力を活かし、 コンテンツ×消費財の組み合わせによりグローバルで「大きく稼ぐ」成功事例を創出するた め、コンテンツ企業と消費財メーカーのマッチングを行った。当日の出席者は 200 名を超え、 海外展開を行いたいコンテンツ企業 20 社が、パートナー候補企業に向けてプレゼンテーシ ョンを行い、最大 11 社とのマッチングに成功した。今後、こうした取組のフォローアップ 142 など、魅力ある日本コンテンツと消費財メーカーの連携による海外展開を支援していく必要 がある。 (映像コンテンツを継続的に海外放送・配信するための支援) 海外において、日本のコンテンツや「Made in Japan」ブランドに対する人気を獲得・維 持するためには、日本のアニメ・ドラマ・映画・テレビ番組などの映像コンテンツを継続的 かつ大量に視聴できる環境を整備することが必要である。 映像コンテンツの海外展開に際しては、翻訳等のローカライズ費用が必要となるが、海外 からの収益は国内に比して小さく、多くのコンテンツ企業にとって企業単体で海外展開をす るにはリスクが高いため、海外向けのコンテンツ量が不足しているのが現状である。また、 海外における放送・配信機会の確保を個別企業毎に行っていることから、全体としての取引 コストの増大や交渉力の減退を招いており、有効な発信機会を獲得できていないことも課題 となっている。 今後、我が国の映像コンテンツを海外展開するに際しては、現地市場向けに字幕や吹き替 え等を行うローカライズ、現地におけるチャネルの開拓や売り込み、海賊版対策や権利処理 等といった機能の充実が必要であり、これらの取組に対する支援を通じて、継続的に日本の 映像コンテンツを発信する仕組みを構築していくことが必要である。 放 送 局 映 像 アニメ 映画 ドラマ 情報番組 ◆現地市場向けローカライズ(字幕/吹替え等) ◆現地チャネル開拓・売り込み ◆海賊版対策・版権処理対応(BGM差し替え) バラエティ 音楽番組 各 種 コ ン テ ン ツ デジタルコンテンツ グロザス 販売委託 着メロ、ゲーム、電子書籍、 アパレル、伝統工芸 等 出版 マンガ、雑誌、小説 原作ストーリー キャラクター マンガ、映画、ドラマ、 小説、ゲーム、玩具 ◆放送・配信 電子化 現地市場向けローカライズ(翻訳等) 産業革新機構とニフティの 出資による新会社 アジア諸国向けコンテンツ 配信プラットフォーム 出版デジタル機構 配 信 サ イ ト 配信・収益回収 電子出版の販売・配信 産業革新機構と大手出版社等 の出資による新会社 グローバル市場向けリメイク (企画・立案・プロモーション) ANEW ㈱All Nippon Entertainment Works 産業革新機構100%出資による新会社 143 全米公開 米 ハ リ ウ ッ ド グローバル 配給 ア ジ ア 新 興 国 (商業施設などの小売り流通業との連携で「大きく稼ぐ」) ①現状と課題 アジアを中心とする新興マーケットで、日本の食、ファッション・アパレル、日用雑貨、 地域産品等の人気も高く、日本企業は個々に海外展開を試みてきたが、物流、流通、商業施 設を含めシステムとして「大きく稼ぐ」モデルを描けていないため、収益を上げることがで きていない。 ②施策の方向性 このような中で、食、ファッション・アパレル、ライフスタイル雑貨等中小テナント企業 と流通・物流・商業施設企業との大規模なマッチング・イベント「クール・ジャパン大会議 (流通・ディベロッパー・商業施設編)」を行い、その上で、企業がターゲット国を決め、 コンソーシアム組成、海外展開を国としても後押しする。 ※4月 24 日に上記イベントを開催し、計 70 以上の企業が参加。 商業施設などの小売流通業との連携のイメージ 我が国流通業にとって、新たな成長機会を求めて海外に進出することが必須の状況となっ ているが、進出した先で競合する現地企業及び欧米系企業と競争していくためには、他社と の差別化を図っていくことなどが必要である。また、流通・デベロッパー・商業施設側が、 クール・ジャパン戦略に関わることで、次のメリットがあると考えられる。 144 ①クール・ジャパン戦略は取扱商品の多様化に資する取組であり、また、クール・ジャパ ンのプロモーションイベントを流通業者の保有する商業施設内で行うことにより、魅力 ある店舗づくりや各社の宣伝戦略の一助ともなる。 (例)クール・ジャパン戦略推進事業の予算を活用することにより、テナント企業の製 品を中心に現地のテスト・マーケティング費用等の支援が可能。日本らしさを出 した「ジャパン・フロア」 「ジャパン・ストリート」を「面」として打ち出せば、 現地企業及び欧米系企業との差別化も可能である。 ②クール・ジャパン戦略に沿った商品を供給する必要性から、関連産業である消費財製造 業・サービス業の海外展開にとっても後押しとなる他、多種多様な商材・サービスを取 り扱う企業をテナントに誘致できる等、流通業者のテナントリーシングの観点からも期 待される効果は大きい。 ③国が後押しする「クール・ジャパン」という旗印を活用することによって、日本企業単 独では難しい相手国政府との折衝についても、政府を活用することが可能となる。 (例)デベロッパーによる競争入札、立地計画への説明 等 ④毎年2回、国が主導してビジネス・マッチングの場を確保し、海外展開に意欲のあるク ール・ジャパン関連企業のデータベース化を図ることにより、誘致するテナント候補先 の幅を広めることが可能である。 上記の観点から、今後とも魅力ある中小テナント企業が流通業等と連携して、世界で「大 きく稼ぐ」成功事例を創出していくことで、日本の魅力やブランド価値向上にも繋げていく。 (地域に眠る資源を発掘し、国際的に発信し地域活性化や観光誘致に繋げる) ①現状と課題 現役世代減尐による内需低迷の打撃を受け、地域経済は疲弊している。それに対し、これ まで工場誘致やクラスターの形成など様々な施策が行われてきたが、一時的には効果があが るものの、持続的に発展する段階にまで至らずに終わるケースが多く見られた。 今の日本の状況に鑑みれば、高度成長期のように大量生産型の経済活動をすべての地域で 行うのではなく、各地の持っている固有の資源を活かし、様々な業種が連携し、地域から世 界に直接訴求し、また世界から観光客を呼び込めるような新しい産業をつくることが重要に なっている。また、その過程において人間性を尊重し文化的付加価値をつけることも肝要で 145 ある。このような取組の先進事例としては、金沢や直島での連携が挙げられる。 金沢では、古い街並みや伝統工芸といった地域資源に、アートやデザインなど新しい要素 をかけあわせた連携が進んできた。金沢市の取組があったことに加え、1999 年に金沢経済 同友会が「金沢創造都市会議」を設置し、産官が一体となった取組を開始した。2004 年に は、伝統の街に現代美術館(「金沢 21 世紀美術館」)を設置し、観光客の増加等により大き な経済効果をもたらした。このように業種を超えた連携が好循環を生んでいる。 金沢における取組(時系列) 直島は、精錬所以外に産業が無く過疎化に悩む島であったが、現代アートという新しい要 素を加えることで、瀬戸内海の風景という資源を観光産業に変えた。直島福武美術財団は、 1992 年にアート展示スペースを備えたホテル「ベネッセハウス」を開館。1998 年からは民 家を利用した「家プロジェクト」を通じて外部クリエイターと住民との協業がはじまり、住 民の参画や観光客の増加等が進んだ。2011 年には近隣の島と共に瀬戸内国際芸術祭を実施。 146 瀬戸内海にまたがる波及効果を見せている。 直島における取組(時系列) 金沢や直島以外にもこうした事例はあるが、下記2つの共通要素が見られる。 1)希尐性の高い地域資源を核に、デザインやアートなど「プロデュース」する業種との 連携により新しい産業が生み出されている。 2)新しい産業が面として機能し、海外で大きく稼ぐ商品やサービスの開発や、海外から の観光需要の獲得につながっている。 こうした経済活動のネットワークをクリエイティブ・シティ・ネットワークと呼び、各地 の取組を応援すると共に世界とのネットワーク構築が重要である。 ②施策の方向性 これまでの中小企業支援や地域活性化に関する各種施策の多くは商品開発やイベント等 の取組に対する支援であった。こうした施策の活用により、全国各地で地元の資源を活かし た食品や新製品の開発がなされ、成功事例も多く出てきたが、それらが、他の会社に波及し たり、地域のブランド力を上げたりするような波及効果には、まだつながっていない。 こうした先進的な企業同士が業種を超えて連携することで、より持続的に発展出来る経 済活動や新しい産業の発展につながるが、この段階に進むためには、複数産業にわたる連 携や地域を超えた取組が重要である。具体的には、内外の才能ある人材と、業種や規模に 関係なくビジョンを共有し意欲を持つ企業の集まりの構築や、各地が横に連携し、情報や ノウハウを共有するネットワークの整備が重要である。また、世界のクリエイティブ・シ ティとの連携強化も重要である。 147 (農林漁業の活性化) ①現状と課題 農林漁業は、地域に密着した重要な産業である。すなわち、地域経済を活性化するために は、地域の重要産業である農林漁業を活性化することが極めて有効であると言える。近年、 我が国の農林漁業は、所得の減尐、担い手不足の深刻化や高齢化等といった厳しい状況に直 面しており、食と農林漁業の競争力・体質強化は待ったなしの課題である。 農業の現状 農業就業者の平均年齢 2000年 61.1歳 2005年 63.2歳 2010年 65.8歳 資料:平成22年度食料・農業・農村の動向 資料:第1回食と農林漁業の再生実現会議: 参考資料4「農林水産業の現状について」 資料:平成22年版食料・農業・農村白書 注:1)1990年度=100としたもの 2)農家1戸当たり農業所得は、それぞれの年度にお ける農業純生産を総農家数で除したもの こうした認識を踏まえ、平成 23 年 10 月に「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方 針・行動計画」(食と農林漁業の再生推進本部決定)が策定された。今後は、当該方針に基づ き、農業先進国であるオランダ等諸外国の取組も参考にしつつ、農林漁業を成長産業にして いくべく具体的に取り組んでいくことが重要となる。 我が国の農林漁業が持続的に成長していくためには、これを支える市場が必要となるが、 農林水産物の市場は、基本的にこれを消費する人間の胃袋の大きさ、すなわち、人口の規模・ 動向に大きく影響を受けることとなる。わが国人口は 2010 年には約 12.7千万人であるが、 2050 年には 25%減の約9.5千万人に減尐することが見込まれている。一方で、同じ 21 世 紀前半の東アジア全体では約 15 億人の人口を維持、東南アジアでは約6億人の人口が、約 1.3倍の7.6億人へと増加すると見込まれている。我が国の農林漁業が持続的に成長して いくためには、国内市場の縮小を踏まえれば、国内において新たな市場を創り出すことはも とより、国外、特に人口増加・生活水準向上によって急伸するアジア市場を獲得することが 極めて重要であると考えられる。 148 マーケット規模の将来展望 2010年を1とした 場合の相対値 1 日本 東南アジア (115,224) 1 1.03 (1,573,970) (1,625,463) 1 (593,415) オーストラリア・ ニュージーランド 0.75 0.91 (127,176) 東アジア 2050年 2030年 2010年 0.96 (1,511,963) 1.19 1.28 (705,987) (759,207) (32,982) (26,637) 1 1.24 (95,152) (37,063) 1.39 (出所)UN stat「World Population Prospects 2010」をもとに作成 他方、国外市場における我が国と諸外国の輸出規模を比較した場合、我が国は、輸入に比 べて輸出の割合が圧倒的に尐なく、国外市場をほとんど獲得できていない。すなわち、日本 の農産物は世界的に高い評価を受けていながら、また、成長する市場を近くに抱えながら、 我が国の農林漁業はその成長をほとんど取り込めていない状況にあると言える。我が国の農 林漁業が持続的に発展していくためには、その成長を支えうる近隣諸国の市場を獲得し、拡 大していく必要がある。 主要国の農産物貿易額(2008 年実績) (出所)社団法人日本施設園芸協会「スーパーホルトプロジェクト:オランダ調査」2011、データは FAOSTAT 149 ②施策の方向性 上記のとおり、近隣諸国の市場を獲得し、拡大しつつ、我が国の農林漁業を産業として成 長させていく必要があるが、持続的な成長を実現させていくためには、カンフル剤的な一過 性の収益向上のための取組みを繰り返すのではなく、持続的に収益を確保・拡大しつつ事業 として成長できる持続発展可能な「収益システム」を構築する必要がある。 海外の市場を大きく獲得していくためには、ニッチトップ市場に受け入れられるこだわり 商品を主軸として生産・提供するのではなく、市場のボリュームゾーン(マスマーケット) のニーズを捉え、これを充たす商品を主軸として効率的に生産し、海外の市場に提供してい くことが重要である。その際、安易な価格競争に陥らないよう、マーケットに価格以外の価 値を伝える方法を確立し、世界的に高い評価のある我が国の農林漁業が、その持ち味を生か したいわばコストパフォーマンス競争によって、持続的に成長し得る仕組みを構築していく ことが重要である。 以上を踏まえ、オランダやニュージーランドなど農業先進国の例も参考としつつ、以下の 4つの方法により、我が国農林漁業の成長産業化を推進することが適切である。 第一に、①マーケティングによりアジア市場を狙える分野(品目・品種・品質等)の選択を 行い、②流通・販促等の行程の管理の徹底によるリソースの集中により、競争力の高い商品 を市場に投入し、③そして市場の反応をフィードバックし、戦略的に国際市場を捉えていく 総合的な枠組み、いわば日本版アグリビジネスメジャーとも言うべき組織形成を実現する。 その際、諸外国が行っているように、農産品に係る育成者権と商標権を積極的に運用してい くことで収益をあげていく視点が重要である。 第二に、生産、加工、流通、販売までの過程において、商工業の技術・ノウハウの導入に よって、生産性を高める。例えば、農業、商業、工業の連携のシンボルとも言える植物工場 は、農業において高度な計画生産を可能とするシステムであり、環境制御により、安定した 品質の農産品を定時・定量生産することが可能である。植物工場は、例えば、特定の病理患 者等でも摂取できるよう、農産品の成分をコントロールして育成できる等、新たな市場の開 拓が期待できるとともに、オランダのように、EU市場獲得のために植物工場クラスターを 整備し、価格競争力が高く品質の揃った農産品を提供することもできる。このように、IT やその他の工業技術を農林漁業に導入することによって、高付加価値化や効率化等が可能な 農林漁業の実現が期待できる。 第三に、生産や加工の現場で生み出された価格以外の価値が、市場に訴求する形で確実に 伝わる仕組みを整備する。例えば、食味、安全性、環境性のほか、外見、成分、加工のしや すさ、さらには市場が潜在的に求めているものについて、市場の情報ニーズを捉えながら、 150 例えば指標の整備等、日本の農林水産物の固有の価値の見える化を進めることで、他国農産 品との差別化を行うことが適切である。 第四に、これらの情報を官民の様々なチャンネルを通じ、国内外に広く発信する。これに より、日本の農林水産物の価値・魅力が国内外に認識され、市場が拡大していくとともに、 農林漁業に新たな成長性を感じた者が参入し、ひいては農林漁業を先導していくような者が 増加していくことが期待できる。 さらに、農林漁業を活性化していくに当たっては、具体的な成長モデルを現実に示してい くことが重要であり、政府としては、特区や地域連携等の取組みを通じ、国の持つネットワ ーク等を活かしつつ、ハンズオンで成長モデルの具体的構築を支援していくべきである。 151 (5)先端産業 (生活支援ロボット(再掲)) (次世代自動車) ①現状と課題 電気自動車等の次世代自動車については、環境・エネルギー制約の高まり等を背景に、先 進国市場はもちろん、経済成長が進む新興国市場も含め、世界的な市場拡大が見込まれる成 長分野として期待されている。また、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、燃料電 池自動車など、車種毎に様々な技術的特徴を持つため、地域毎の使用実態、エネルギー事情 等によって、いずれの車種の強みが発揮されるかは異なる。即ち、市場が多様化していく傾 向にあり、幅広い技術開発を進めることが必要となっている。 我が国自動車産業は世界に先駆けて電気自動車、プラグインハイブリッド自動車の量産販 売を開始しており、燃料電池自動車の実用化開発も進んでいる。このように、現時点では諸 外国を先行しているものの、ポテンシャルの高い市場に対して各国とも次々と参入を計画し ており、今後、競争が激化していく見込みである。 そのような中、先行者の優位性を失うことなく、世界市場におけるプレゼンスを確保する ためには、日本市場における取組が重要な鍵を握る。次世代自動車は、先進的であるがゆえ にリスクも高い。また、市場における地位を確立するまでには、市場投入後も性能や品質向 上を継続的に実施することが必要となる。一定の規模を有し、所得水準や環境志向の高い日 本市場は、こういった先進技術を育てる土壌としては最適である。日本市場を次世代自動車 市場として世界に先駆けて確立することで、多様な技術を育てる苗床とし、今後の成長、多 様化をする国際市場を取り込んでいくことが可能となる。 国内において次世代自動車の普及を加速化していくためには様々な課題が存在する。 まず、電気自動車等の次世代自動車は、平成 21 年度から本格的な量産が開始され、一定 の価格低減は進んでいるものの、依然としてコスト高が最大の課題となっている。 また、次世代自動車の利便性・性能を一層向上することが求められている。特に、電気自 動車は航続距離に課題を持つため、充電インフラの整備や蓄電池性能の向上等を図ることが 必要である。 加えて、従来とは異なる新たな役割、価値を提示していくことも必要である。例えば、大 容量蓄電池を活用したピークシフトへの貢献等、エネルギー需給調整機能としての役割にも 期待が高まっている。こういった自動車の「走る」、 「曲がる」、 「止まる」という従来の機能 に加えた新しい機能によって、消費者に対する魅力が向上していくことが期待される。 152 ②施策の方向性 次世代自動車の普及については、新成長戦略(2010 年6月 18 日、閣議決定)や、次世代 自動車戦略 2010(2010 年4月 12 日、経済産業省次世代自動車戦略研究会)等において、新 車販売に占める次世代自動車の割合を 2020 年に最大 50%まで普及させるなどの目標を掲げ ている。本目標の達成により、国内市場の創出を通じた世界市場の獲得を果たしていくこと が重要である。一方で、このような意欲的な目標の達成に向けては、次のような施策を講じ ていくことが必要である。 次世代自動車の普及目標(政府目標) 2020年 2030年 ハイブリッド自動車 50~80% 20~50% 20~30% 30~50% 50~70% 30~40% 電気自動車 プラグイン・ハイブリッド自動車 15~20% 20~30% ~1% ~5% ~3% 5~10% 従来車 次世代自動車 燃料電池自動車 クリーンディーゼル自動車 (出所)次世代自動車戦略 2010(2010 年4月 12 日、経済産業省次世代自動車戦略研究会) 乗用車販売に占める次世代自動車シェア 50.0% 45.0% 40.0% 35.0% 30.0% 25.0% 20.0% 15.0% 10.0% 5.0% 0.0% 4 6 8 1012 2 4 6 8 1012 2 4 6 8 1012 2 4 6 8 1012 2 4 6 8 1012 2007 年度 2008 年度 2009 年度 2010 年度 2011 年度 (出所) 「産業ヒアリング説明資料( (社)日本自動車工業会)」 (2012 年3月1日) 153 次世代自動車のコスト課題については、引き続き導入支援を行うことで初期需要を創出し、 量産効果による価格低減を進めて行く。また、次世代自動車の基幹部品であり、主要なコス ト要因となっている蓄電池について、価格低減及び性能向上に向けた研究開発・設備投資支 援も併せて講じる。また、電動車両に係る安全性・性能等に関する試験・評価・認証等に関 する環境整備を強化することも重要である。 次世代自動車の利便性・性能向上に向け、効率的・計画的な配備や普及が進みにくい施設 への整備等も配慮し、充電設備・システム等のインフラの整備を強化していく。また、充電 インフラ等の国際標準化について官民を挙げて取り組む。加えて、今後普及が見込まれる燃 料電池自動車や水素充填ステーション、超小型モビリティについても、市場導入の状況を見 つつ普及促進を図っていく。併せて、従来にない新しい価値を創造するため、次世代自動車 を中心に情報技術との更なる連携を図る。 さらに、新たな役割として期待される充放電機能の活用についても進めて行く。災害時の 非常用電源、再生可能エネルギーの蓄電補完、負荷平準等、電力システムにおける需給調整 機能などを果たしていくべく、V2H(Vehicle to Home:車載用蓄電池に貯 めた電力を家庭用に利用)に関する必要な制度整備や、導入のための支援策(導入補助・実 証実験等)、安全性等への認証制度構築等を講じていく。 (航空機産業) ①現状と課題 航空機産業は、広い裾野、他産業への技術波及、防衛産業基盤等が特徴である。航空機産 業の中でも、防衛機部門は国防予算を投入した超最先端技術の実証の場としての側面を有す るほか、また民間機部門では、旅客機が中長期的な成長分野(2008~2028 年で累計26,000 機、 300 兆円の新規需要)と見込まれている。このため、主要国は航空機産業を戦略産業として 積極的に育成している。 近年では、開発コストが膨大で、投資回収期間が超長期に及ぶことによる投資・生産上の リスクを最小化するため、米・欧主導の国際共同開発がビジネスモデルの趨勢となっている。 このため、コアの技術は押さえつつ、モジュール単位で外注する国際分業の中、内外の優れ た技術や生産基盤を自陣営に取り込む競争が激化している。特に、今後の機体、エンジン、 装備品開発では、安全性と共に、環境適合性や燃費向上が技術課題の焦点となっており、主 要国は、複合材等の最先端の技術に関し、産学官の連携を含めた戦略的な研究開発を加速さ せつつある。 154 他方、中国、ロシアの市場参入により、コスト競争力を格段に重視せざるを得ない市場環 境になっており、欧米の一次下請企業では、国際的なサプライチェーンを展開し、技術的に 一定水準以下の部分については、新興国のコスト競争力を活用しつつ、自らはモジュール単 位でのより包括的なシステム統合と中核技術に集中する傾向にある。我が国が共同開発に参 画する観点から最大の「市場」であるB(ボーイング)737、A(エアバス)320 の後継機 を始め、次世代機の開発においては、環境・燃費性能やコスト競争力等の観点から、機体、 エンジン、装備品開発のパートナー選別が国際的に進められる見通しである。 ボーイング社のビジネスモデルの変化 (出所)経済産業省作成 こうした中、我が国の航空機産業は、モジュール単位での国際共同開発への参画拡大(例: B787 機体の 35%)を通じて、生産額も約1.2 兆円まで拡大し、民需が防需を逆転したが、 依然主要国より一桁小さい規模である。防衛機部門も、全体に占める割合は尐なくなったも のの、全機開発・生産の経験が民間機部門でも活用されるなど、産業基盤維持のため引き続 き重要な役割を果たしている。我が国の強みは、精度の高さと品質管理、納期遵守、複合材 等の素材関連技術(例:東レがB787 の炭素繊維を独占供給)などであり、高い品質が必要 な部位を日本に発注するパターンが定着しており、米・欧とも、日本との更なる協力を模索 している。 155 我が国航空機産業の生産額の推移 民需:52% 防需:48% (出所)日本航空宇宙工業会「日本の航空宇宙工業」より経済産業省作成 他方、単なる「部品供給・モジュール分担」にとどまっている限りは飛躍的な成長は困難 となっており、自ら機体開発等の全体統合を成功させない限り、真にクリティカルな技術・ 特許や経験の蓄積と、裾野の拡大には結びつかない。また、新興国の追い上げがコスト競争 の圧力となっているとともに、強みである複合材分野でも海外の巻き返しに対し、更なる技 術革新で優位性を維持・拡大することが必要となっている。さらに、個々の分野(素材、機 体、エンジン、装備品など)では世界と戦える優れた技術を有しているものの、設計・開発 から航空安全当局の型式認証、国際的なサプライチェーン管理、販売後のプロダクトサポー トまでの一貫したソリューションを提供する総合力が課題となっている。 このほか、航空機分野への参入意欲のある中堅・中小企業は多く、複数の企業が連携した 一貫生産の共同受注などの動きもあるが、航空機分野には特有の参入障壁の高さもあり、大 手航空機メーカーへ具体的な提案を行う力と機会を補う必要がある。 156 航空機複合材構造のバリューチェーン (出所)経済産業省作成 (2)今後の方向性 我が国の航空機産業が、今後、単なる「部品・モジュールの分担」から脱皮し、「次世代 環境航空機の世界的拠点」として、高付加価値化することを目指す。具体的には①2020 年 に航空機産業の売上高2兆円(約2倍)を実現するとともに、②2030 年の売上高3兆円(約 3倍)の達成を確実にする。 上記の方向性を実現するため、以下の(ア)~(ウ)の具体的施策に取り組む。 (ア) 国産機で世界に航空機ソリューションの提供 三菱リージョナルジェット(MRJ)プロジェクトを推進するなど、優れた技術力と合わせ、 機材提案からファイナンス、運航方法、維持整備面まで含む、総合的環境航空機ソリューシ ョンを提供する。また、防衛航空機(次期輸送機XC-2や救難飛行艇US-2)の民間転用 を推進して、MRJに続く国産航空機を実現する。 (イ) 環境航空機向けの部品・素材ソリューションを提供し、高い技術力で世界のトップラン ナーとして次世代旅客機等の開発を主導 機体、エンジン、装備品、素材メーカー等の連携や、製造現場の課題を学問が解決する実 学的な産学官の連携により、次世代旅客機等の開発に向けて、トータルソリューションの提 供により世界をリードできる体制を構築する。具体的には、複合材等の材料技術の強みを活 かしつつ、材料の性能を最大限活かした設計技術を獲得し、装備品を含めた包括的なモジュ ール単位での設計・開発を行うとともに、販売後の維持整備面での優れた対応策を確立する。 157 (ウ) 航空機分野への他産業や中小企業の参入を促し、製造業の総動員による厚みと競争力の ある高付加価値航空機産業を実現 他産業の革新技術(例:燃料電池)を航空機分野に活用して、環境対応等、日本ならではの 技術を提供する。そのため、単発の部品、加工下請けではなく、複数の企業が連携して高付 加価値の部品、素材を提供する取組みを促進するほか、優れた技術を持つ中小企業が大手航 空機メーカーに具体的提案を行う能力の向上や機会の創出を支援する。また、航空機、材料 メーカーの連携の下、高付加価値の大型鍛造部品の国際的な安定供給に資する国内拠点を実 現する。 (宇宙産業) ①現状と課題 宇宙の開発利用は国民生活の向上、産業の振興、科学技術振興、国際協力、環境保全、安 全保障など様々な観点から重要な意義を持つため、欧米に加えて、中国や韓国等の新興国な ど諸外国は国家戦略的な位置づけの下、宇宙産業の育成を行っている。 世界全体の宇宙産業の規模は、衛星を利用したサービスまで含めれば、約 15 兆円の産業 規模となる。また、宇宙の利用が途上国・新興国等にも広がっているため、年平均約 14% で増加する成長産業である。宇宙システムの核となる衛星については、地球観測衛星と通信 放送衛星の2分野が有望な市場として期待できる。地球観測衛星については、世界的に今後 10 年間で衛星打上げ数が倍増(途上国については約4倍)、商業衛星データ市場についても 3倍増(12 億ドル(2009 年)から 39 億ドル(2018 年)と見込まれる。 他方、我が国の宇宙産業については、宇宙機器産業の売上高は約 2600 億円(利用サービ ス産業、ユーザー産業、宇宙関連民生機器産業を含めると約9兆円)であり、欧州(約 7000 億円)の約1/3、米国(約4.5兆円)の約1/15 に留まっている。この背景として、欧米 と比較して宇宙関連予算が尐ないことに加えて、我が国の宇宙産業は、これまで国内官需プ ロジェクトに依存してきたため、幅広い分野での技術は蓄積をしてきたものの、低コスト化 や標準化、機器の運用実績の積み上げなどシステム全体としての国際競争力の強化につなが る取組みが遅れてきたことが上げられる。このため、通信放送等の国内民需についても海外 メーカーの受注が大半であり、加えて、宇宙システムの輸出実績は限定的であった。 ここ数年は官民連携した成果により、我が国企業のトルコの国営通信会社からの通信衛星 2機の受注や地球観測衛星2機の調達を含むベトナムとのODAによる宇宙協力が確定す るなどの明るい動きが見られるが、世界全体の市場の伸びを我が国の経済成長につなげるた めには、我が国宇宙産業の競争力強化、利用拡大、官民連携したソリューションの提案等に より、海外への展開を促進することが必要である。 158 世界の宇宙産業の売上げ推移 世界の地球観測衛星の打上げ見込み (出所)roconsult[Satellite-Based Earth Observation, Market Prospects to 2018] (出所)Satellite Industry Association[State of the Satellite Industry Report(2011)] 我が国の宇宙産業の規模(平成 22 年度) 出所 (社)日本航空宇宙工業界 平成 23 年度宇宙産業データ ブック ②施策の方向性 2020 年までに、我が国宇宙産業の市場規模を現在の2倍程度(宇宙機器産業市場の規模 としては 2600 億→5000 億円、更に宇宙利用サービス産業市場を加えた場合は1兆円→2兆 円の市場規模が目標)まで拡大させることを目指す。 目標を実現するための基本的な方針としては、国際市場のニーズを踏まえた競争力のある 宇宙システムやアプリケーションの研究開発を行うとともに、衛星関連の各種サービスをパ ッケージ化(衛星、打上げサービス、地上システム、利用アプリケーション、人材育成等) を官民連携して図り、相手国へのソリューションを図ることにより、新興国等への宇宙シス テムの提供、さらには宇宙システムの利用サービスの拡大を図る。 159 また、これらの政策を実施するに当たっては、今年度、政府全体の宇宙政策の司令塔とし て設立予定の内閣府・宇宙戦略室(仮)を中心に関係省庁が連携をするとともに、民間事業 者活動の促進のため業務活動を拡大するJAXAとの連携を図ることが重要となる。 ・我が国宇宙産業の国際競争力強化 技術開発等を通じて、我が国宇宙産業の国際競争力強化を図ることが重要である。特に、 低コスト・短納期・高性能・高信頼性などの宇宙新興国ニーズを踏まえた小型地球観測衛星 の開発・実証を進めるとともに、衛星の複数機連携を実現するための地上管制技術の研究開 発、競争力を持った打上げサービスを提供するためのロケットの研究開発、低コスト化・高 性能化を図るための標準バスの育成、民生品の実証、標準化への取組、利用拡大のための資 源探査等に利用できるセンサーや防災や農業、資源管理等の分野での利用用途に即したアプ リケーションの研究開発等を行うことにより、システム全体の国際競争力の強化を図る。 ・ソリューション提案を通じた海外展開 宇宙システムは防災、環境監視、森林監視、資源探査、国土管理等幅広い用途での利用が 期待できるため、我が国宇宙産業の国際展開を促進するためには、相手国のニーズに応じた 衛星の利用アプリケーションまで含めたソリューションを相手国に提案し、我が国宇宙産業 の海外展開を加速させることが重要となる。 加えて、相手国への提案を行うにあたっては、相手国のニーズを踏まえて、人材育成や技 術協力、地上システムの整備等のパッケージ化を図るとともに、必要に応じて、政策金融・ ODAの活用やトップセールス外交の積極的な実施など、官民連携した海外展開を目指す。 特に、ODAによる協力が決定したベトナムとの協力を進めるとともに、昨年度の日アセ アン外相会談や日アセアン首脳会談で我が国より提案した「アセアン防災ネットワーク構 想」の具体化を通じて、観測頻度を向上させるため我が国とアセアンとの地球観測衛星の連 携運用を目指す。さらに、アセアンとの間では、防災分野の協力から始め、森林管理、農業、 資源探査など幅広い分野での同地域との宇宙協力を目指す。 ・宇宙利用サービスの拡大 今後世界的な需要の拡大が見込まれるリモートセンシング分野について、地球環境変動の 把握、農水産業の収穫管理、エネルギー資源探査、防災・国土管理等の利用の促進を図るた め、ハイパースペクトルセンサーや利用技術の研究開発、事業環境の整備や衛星の官民共同 運用(PPP)等を通じて、サービスの拡大を目指す。 160 加えて、2010 年度後半を目途に4機体制の整備が閣議決定した実用準天頂衛星システム については、情報提供サービス、建設・測量、自動車、鉄道、物流、航空、防災・救難等の 広範囲な分野での利用の可能性があることから、我が国産業の高度化や新たなサービスの創 出に貢献するとともに、本衛星システムがカバーするアジア・オセアニア地域での利用サー ビスの展開を目指す。 このようなサービスを享受できる環境を整備するため、内閣府を中心とした関係省庁及び 産業界の推進体制を構築し、技術開発の推進や社会制度の整備を図るとともに、利用促進や ビジネスモデル構築に向けた課題抽出のための利用実証の実施を行いつつ、海外展開を関係 諸国との連携の下、国家の基盤的なインフラとしてパッケージでの展開を目指す。 アセアンとの地球観測衛星の連携運用 (地球観測衛星の利用例) 準天頂衛星システムの利用例 161 (部素材産業) ①現状と課題 かつて我が国のサプライチェーンは、セットメーカーを中心としたピラミッド状に組織さ れていた。部素材メーカーは、セットメーカーの提示するコンセプトに従って技術開発に注 力し、セットメーカーも、「摺り合わせ」を通じて部素材メーカーの開発した革新的な部素 材を活用し、魅力的な最終製品を生み出してきた。 しかし、エレクトロニクス産業など製品の構成部品のデジタル化・モジュール化が進展し た結果、新興国でモジュールを製造し、セットまで行われるようになり、我が国のセットメ ーカーは主力製品でもシェアを落としている。その結果、部素材メーカーが開発する革新的 な部素材をセットメーカーが商品化する力の低下が危惧される。 一方で、長年ピラミッド構造に依存してきた部素材メーカーについては、我が国セットメ ーカーからの受注が減尐しており、製品化まで見越したセットメーカーへの提案能力を発揮 する機会が減っている。 我が国サプライチェーン構造の変化 液晶テレビのシェアの推移 セット メーカー コンセプト提示 革新的部素材開発 部素材メーカー セットメーカーの 国際競争激化 デジタル化 モジュール化 の進展 出所:経済産業省推計 このように、国内製造業の次の稼ぎ頭が生まれない状況の中、革新的な部素材の開発に成 功し、ニッチマーケットで高いシェアを有している一部の部素材メーカーは、新興国セット メーカー向けのB to Bビジネスにより高い利益を上げており、更なるビジネス拡大を狙 い、研究開発の方向性を新興国セットメーカーから得ようと新興国への生産拠点・R&D拠 点の海外展開を進めつつある。 162 【パソコン】 (9%、2.7兆円) 163 100 100億 0 1,0001000億 10,000 1兆 【HDD】 (33%、1兆円) 20 【HDD(2.5"ATA)】 【小型モータ】 (50%、8,334億円) 【カーAVC機器】 (48%、1.4兆円) 【モータ】 (61%、1兆円) 【ワイヤーハーネス】 (60%、1.9兆円) 【複合機】 【記録型DVD】 (69%、7,100億円) (85%、4,442億円) 【アルミ電解コンデンサ】 【セラミックコンデンサ】 (88%、4,408億円) (73%、5,160億円) 【シリコンウエハ(単結晶)】 (68%、7,900億円) 【撮像機器】 (90%、2.2兆円) 最終製品(エレクトロニクス系) 最終製品(自動車) 部材・装置(エレクトロニクス系) 部材(自動車) 医療・バイオ系 その他 【ハイブリッド車】 (94%、1.4兆円) <凡例> 数字:(日本企業の世界シェア、日本企業の売上額) バブルの大きさ:日系企業の売上額の大きさ 主要先端製品・部材の売上高と世界シェア 40 日本企業の世界シェア(%) 60 80 【ゲーム機】 (90%、923億円) 100 【偏光板保護フィルム (補償機能付き)】 (100%、1,516億円) 【偏光板保護フィルム (ブレーンTAC)】 (100%、969億円) 【エアコン】 【ガバナレスモータ】 (44%、5,350億円) 【光ピックアップ】 【ガラス基板(白板)】 (92%、4,500億円) 【DVDプレーヤ(Blue-ray)】 (40%、4,487億円) 【映像記録再生機器】 【偏光板】 (69%、3,794億円) (56%、4,642億円) 【フラッシュメモリ (60%、4,120億円) 【CVT】 【ブラシレスモータ】 【一眼レフ用交換レンズ】 (NAND/AND型)】 【メインディスプレイ】 (90%、3,920億円) (83%、2,450億円) (98%、3,223億円) (33%、3,690億円) (37%、3,921億円) 【カラーPDP】 (48%、3,312億 【ニッケル水素電池】 【高速マウンタ】 【ハードディスク基盤】 【リチウムイオン電池正負極材】 (80%、1,445億円) (90%、1,591億円) 【ボールベアリング】 (78%、1,429億円) (63%、1,418億円) 【フォークリフト】 (39%、1.3兆円) 【多層プリント配線盤】 <出典> 経済産業省平成21年度産業技術調査事業委託費「日本企業の 国際競争ポジションの定量的調査分析事業」調査結果(委託先: 富士キメラ総研)、JEITA「電子情報産業の世界生産見通し」等 【鉛蓄電池】 (22%、4,000億円) 【スイッチ】 (2%、480億円) 【シートシステム】 (21%、5,640億円) 【工作機械】 (22%、1.1兆円) 【カラーフィルタ】 (27%、3,800億円) 【電子計測器/電子応 用装置/事務用機器】 (20%、2.5兆円) 【ディスプレイデバイス】 (25%、5.7兆円) 【情報端末】 (29%、4.3兆円) 【テレビ(液晶/PDP)】 (41%、4.4兆円) 【AV機器】 (44%、9.6兆円) 【電子部品】 (41%、8.4兆円) 【自動車】 (35%、45兆 円) 【電子機器】 (23%、25兆 円) 【電子部品・デバイス】 (30%、16.9兆円) 【通信機器】 【半導体】 (14%、4.3兆円) (22%、5.7兆円) 【コンピュータ 及び情報端末】 (19%、8.6兆円) 【音声機器】 (25%、8,600億円) 【サーバ機器】 (10%、6,500億円) 100,000 10兆(10%、7,007億円) 【サーバ・ストレージ】 【携帯電話】 (15%、2.2兆円) 1,000,000 100兆 【医薬品 (12%、10.1兆 円) (1%、3.7兆円) 【石油】 世界市場規模(円) 10,000,0001000兆 主要先端製品・部素材の売上高と世界シェア ○ (2 韓 を ○ (2 の 韓 ○ (2 【鉛蓄電池】 (22%、4,000億円) 【映像記録再生機器】 (56%、4,642億円) 【偏光板】 (60%、4,120億円) 【ハードディスク基盤】 【リチウムイオン電池正負極材】 (78%、1,429億円) (63%、1,418億円) 【ニッケル水素電池】 (80%、1,445億円) <出典> 経済産業省平成21年度産業技術調査事業委託費「日本企業の 国際競争ポジションの定量的調査分析事業」調査結果(委託先: 富士キメラ総研)、JEITA「電子情報産業の世界生産見通し」等 100 100億 0 20 (92%、4,500億円) 【DVDプレーヤ(Blue-ray)】 (69%、3,794億円) 【CVT】 【一眼レフ用交換レンズ】 (90%、3,920億円) (98%、3,223億円) 【ブラシレスモータ】 (83%、2,450億円) 【カラーPDP】 (48%、3,312億 1,0001000億 【高速マウンタ】 (90%、1,591億円) 【ボールベアリング】 【ゲーム機】 (90%、923億円) 40 60 【偏光板保護フィルム (補償機能付き)】 (100%、1,516億円) 【偏光板保護フィルム (ブレーンTAC)】 (100%、969億円) 80 100 日本企業の世界シェア(%) ニッチマーケットで高いシェアを有する部素材メーカー 企業 製品 今期予想純益増益率 東洋炭素 等方正黒鉛世界首位 8.1% 小松精錬 合繊の染色加工国内首位 10.8% 東京応化工業 フォトレジストで世界首位 15.1% 宇部興産 Li電池電解液で世界首位 30.3% オハラ 工学ガラス国内首位 27.0% 旭化成では樹脂や繊 韓国の生産能力を8割 を決めた。 ○三井化学、シンガポ (2011年9/13 日経産 三井化学はシンガポ である三井化学シンガ ○タチエス、日米中でR (2011年9/1 日経産業 自動車用シート大手の 強化する。近くタイにも (出所)日経ビジネス 最近の日本企業の生産拠点・R&D拠点の海外移転の事例 主要先端製品・部材の売上高と世界シェア <凡例> 数字:(日本企業の世界シェア、日本企業の売上額) バブルの大きさ:日系企業の売上額の大きさ 器】 6兆円) 】 ) (40%、4,487億円) 【フラッシュメモリ (NAND/AND型)】 【メインディスプレイ】 (33%、3,690億円) (37%、3,921億円) 最終製品(エレクトロニクス系) 最終製品(自動車) 部材・装置(エレクトロニクス系) 部材(自動車) 医療・バイオ系 その他 【テレビ(液晶/PDP)】 (41%、4.4兆円) 【カーAVC機器】 (48%、1.4兆円) 【ワイヤーハーネス】 (60%、1.9兆円) 【小型モータ】 (50%、8,334億円) 【HDD(2.5"ATA)】 エアコン】 5,350億円) 【モータ】 (61%、1兆円) 【複合機】 【記録型DVD】 (69%、7,100億円) (85%、4,442億円) 【アルミ電解コンデンサ】 【セラミックコンデンサ】 (88%、4,408億円) (73%、5,160億円) 【ガバナレスモータ】 【映像記録再生機器】 (56%、4,642億円) 【撮像機器】 (90%、2.2兆円) 【シリコンウエハ(単結晶)】 (68%、7,900億円) 【偏光板】 (60%、4,120億円) 【DVDプレーヤ(Blue-ray)】 (69%、3,794億円) 【ニッケル水素電池】 (80%、1,445億円) 【高速マウンタ】 (90%、1,591億円) 【ボールベアリング】 【ゲーム機】 (90%、923億円) 60 【光ピックアップ】 (92%、4,500億円) 【CVT】 【一眼レフ用交換レンズ】 (90%、3,920億円) (98%、3,223億円) 【ブラシレスモータ】 (83%、2,450億円) ゙ィスク基盤】 【リチウムイオン電池正負極材】 (78%、1,429億円) 1,418億円) 【ハイブリッド車】 (94%、1.4兆円) 【偏光板保護フィルム (補償機能付き)】 (100%、1,516億円) 【偏光板保護フィルム (ブレーンTAC)】 (100%、969億円) 80 100 業の世界シェア(%) 品 世界首位 今期予想純益増益率 8.1% 工国内首位 10.8% で世界首位 15.1% で世界首位 30.3% 国内首位 27.0% ○「基礎研究」は日本、「応用研究」は韓国 (2011年11/7 日経ビジネス) 液晶ディスプレーの材料を扱うJSRは基礎研究は蓄積 のある日本で手がけ、成分の微調整などの応用研究は 韓国や中国など現地に近いところに機能を移す方針。 ○「量産」は韓国、「開発」は日本 (2011年11/7 日経ビジネス) 旭化成では樹脂や繊維の原料となるアクリロニトリルで 韓国の生産能力を8割増やし、世界最大拠点にすること を決めた。 ○三井化学、シンガポールに (2011年9/13 日経産業新聞14面) 三井化学はシンガポールに海外初の研究開発子会社 である三井化学シンガポールR&Dセンターを設立。 ○タチエス、日米中でR&D強化 (2011年9/1 日経産業新聞18面) 自動車用シート大手のタチエスは国内外のR&D機能を 強化する。近くタイにも研究開発拠点を設ける。 現在は商品化につながるシーズをたくさん持っているはずの部素材メーカーであるが、歴 史的な成り立ちも含め、長きに渡り、セットメーカーを中心とするピラミッド構造に馴染ん でしまっているため、この構造を自ら打破するには困難が伴う。また、セットメーカーによ る不完全な垂直統合の結果として、部素材や製造装置が競争相手に流れることによって競争 環境が次第に悪化しつつある。 このように、セットメーカーが牽引してきたピラミッド構造は、デジタル化・モジュール 化の進展に伴って優位性が失われつつあり、先端部素材メーカーの海外移転が進めば、川上 産業の集積という数尐ない立地環境の優位性も失われ、セットメーカーの海外移転が更に加 速していく。 164 ②施策の方向性 我が国のサプライチェーンにおいて、セットメーカーと部素材メーカーが互いに競争力を 高めあう好循環を復活するには、セットメーカーの海外移転を極力食い止めるための国内事 業環境の底上げに努めるとともに、部素材メーカーの提案力を活かすことで、革新的な部素 材を最終製品の開発につなげ、顧客の支持を得られる最終製品を日本から生み出すことが必 要である。 部素材メーカーの提案力を活かすためには、技術の共同開発・共同設備投資・事業連携等 の手段で川下と川上が互いに連携し、サプライチェーンの分断を補っていくことが重要とな る。政府の役割としては、最終製品への組み込み、量産化のための部素材の用途開発、安全 性・性能の評価や生産性向上のための共同設備投資、販路開拓や資源調達におけるバーゲニ ングパワーの強化につながる企業合併など、企業の連携を総合的に支援していくことが求め られる。 政府による企業連携の支援策 政策支援 サプライ チェーン 川上 課題 資源 資源調達 部素材 技術流出 販路 加工 セット メーカー 川下 低収益 高コスト 製品開発 技術開発 設備投資 事業連携 部素材メーカーどうしの共同開 発、セットメーカーとの共同開 発の支援により、部素材のこれ までにはない用途を開拓し、量 産化を可能にすることで革新 的な最終製品を生み出す。 サプライチェーン上で競争力の源泉となる 技術を見極め、企業間連携を通じた安全 性・性能の評価や、生産性向上のための 設備投資を支援することで、技術の実用 化とブラックボックス化、収益拡大を図る。 事業連携により、ワンストップで製品・加 工を提供することにより販路開拓を進め、 また資源権益を確保して原料調達力を 高めることで、部素材を起点とした川上・ 川下両側の競争力強化を実現する。 権益確保 自動車部品メーカー の中国共同進出 水平統合 販路開拓 ブラック ボックス 化 炭素繊維/革新的鋼板/ スポンジチタン/超複雑形状鋳造 /ジスプロシウムフリーモーター 共同で革新的設備導入 (高品位チタン製造) 実証・評価拠点整備 (有機EL材料/炭素繊維等) 用途開拓 コスト削減 165 東レ合繊クラスター 垂 直 統 合 鉱山開発から製品開 発までの事業統合 海外展開 1 (企業間連携の方向性) ⅰ)共同技術開発 ~部素材の用途拡大を目指す~ 部素材メーカー同士の共同開発、セットメーカーとの共同開発の支援により、部素材のこ れまでにはない用途を開拓し、量産化を可能にすることで革新的な最終製品を生み出す。 ⅱ)共同設備投資 ~生産性の向上、安全性・性能の評価~ サプライチェーン上で競争力の源泉となる技術を見極め、生産性向上のための設備投資や 企業間連携を通じた安全性・性能の評価のための拠点整備を支援することで、技術の実用 化とブラックボックス化、収益拡大を図る。 ⅲ)事業連携 ~原料調達力強化や商品開発・販路開拓を目指す~ 事業連携により、ワンストップでの製品・加工の提供による販路開拓、資源権益確保によ る原料調達力の強化、系列を超えた経営力・技術力の結集をすることで、部素材を起点と した川上・川下両側の競争力強化を実現する。 ⅰ)~ⅲ)の方向性について、以下、事例を挙げて説明する。 ⅰ)共同技術開発 ~部素材の用途拡大を目指す~ ア.鉄鋼材料 ハイテン材開発の成功により、日本鉄鋼業は他国を大きくリードしたが、新興国の技術 的追い上げは早く、また、鋼板技術の進展は頭打ちの状況にあり、優位性が薄れつつある。 将来にわたり、技術の優位性を確保するためには、従来技術の常識(強度と加工性のト レードオフ関係)を覆す複層化等の未来型技術によるブレークスルーが必要である。 また、セットメーカーの最終製品(特に鋼材が全重量の7割を占める自動車については、 鋼材の軽量化による省エネ効果が大きい)に採用されるためには、接合技術や加工技術の 高度化、生産コストの低減が重要である。 そこで、鉄鋼業界では、自動車メーカー、加工メーカー、大学等と連携して、鋼材の共 同開発を計画している。 166 イ.炭素繊維複合材料 炭素繊維は国内メーカーが世界シェアの7割を占め、日本が圧倒的な競争力を有する素 材である。しかし、国内の炭素繊維複合材料(CFRP)需要は世界の1割弱と尐ないた め、加工技術が発展しておらず、新たな需要も生まれないという負の循環となっている。 そこで、CFRPを量産型製品に本格的に適用させるために必要な、設計・加工技術を 開発し、国内に自動車など大量生産型製品の新市場を創出する。これにより、炭素繊維を 軸とした川上から川下までの関連産業の競争力の維持・強化を推進する。 加工メーカー 装置メーカー 炭素繊維メーカー 欧米企業 (自動車メーカー、 加工メーカー等) すでに連携した取 組を実施中 東レ 帝人 三菱レイヨン 競争力高 ○炭素繊維は加工の難しさやそのコストから、 量産車には使用されていない。 ○炭素繊維そのもののコスト低減に加え、新 たな樹脂(熱可塑性樹脂。従来は熱硬化性 樹脂)も使用しつつ、CFRPの特性を活かし た使い方により、軽量化率の向上やコスト の大幅な低減が必要。 (未来開拓研究で研究開発事業が進行中) 育成 連携 大学 自動車メーカー トヨタ 日産 ホンダ等 競争力高 CFRPの実用化に共通の問題意識を持った先進企業が集まったナショナ ルコンポジットセンターの場を活用し、コスト、設計、加工等の諸問題につい て、実際に試作し、実証・評価を行うことを通じて、具体的な解決策、改善 策を見いだしていく。 アクションプラン (1)材料開発及び加工技術等の キャッチアップ ・基盤技術の開発 ・応用技術の開発 (2)裾野産業の育成 (3)材料及び部品のシーズとニーズ の摺り合わせ (4)長期的課題の研究 ウ.チタン 高品位なスポンジチタン及びそれを用いたチタン展伸材は様々な用途への活用が期待 されており、特に航空機や淡水化プラント向けの需要が高まっている。 これに対応するためには、加工技術の向上と製造コストの低減が必要であり、スポンジ チタンについては還元・電解効率向上及び廃棄物低減の技術開発、チタン展伸材について は溶解技術や合金チタンの鍛造技術の開発、スクラップ材を使用可能な製造プロセスの開 発等を企業間で連携して取り組まなければならない。 これら、プロセス開発の支援を通じて成形時の歩留まり向上・省エネを実現し、低コス トで製造する技術を確立することにより、チタンの用途拡大を図り、新市場開拓を目指す。 167 エ.ジスプロシウムフリーモーター 愛知製鋼では、磁粉と樹脂からなるボンド磁石において調達リスクのあるジスプロシウ ムを使用せずに耐熱性を確保する技術を開発している。 ジスプロシウムの調達リスクからモーターにおけるレアアース焼結磁石の使用が見直 される中、モーターメーカーとともに、ボンド磁石の易成形性を活かして、モーターの製 造工程においてローターに磁石を精密な形状で注入し着磁することを計画中である。 ボンド磁石メーカー 愛知製鋼 競争力 高 モーターメーカー ローターに磁石を 注入し同時に着磁 (製造工程の融合) A社 B社 連携を下流に展開 168 調達リスクの低減 新市場の開拓 オ.超複雑形状鋳造生産技術 鋳造の基礎的技術は、大仏、梵鐘を製造していた時代から大きく進歩しておらず、単純 形状の大量生産鋳造製品は、中国、アジア諸国の新興国の追い上げが激しくなっており、 新興国と比べコストが2割高い我が国鋳造業は競争力を失いつつある。 我が国が技術的優位性を保つため、1000 年来の鋳造工程で必要とされていた複数の工 程を一工程で代替し、コストをおさえつつ、これまで実現できなかった超複雑・超薄肉形 状の鋳造製品を一体鋳造できる三次元積層造形技術を開発する必要がある。 鋳造メーカー、鋳造機械メーカー、セットメーカー(ユーザーメーカー)、大学等が一 体となった連携により(コンソーシアム組織等)、複数大学・研究所等が持つ基盤技術・ ノウハウと複数企業の持つ優れた要素技術を融合、かつ、それぞれの開発知見を結集させ ることにより、軽量かつ複雑形状な高付加価値鋳造製品を早期に実用化開発し、市場投入 を加速し、国内生産を維持・国際競争力を強化する。 ⅱ)共同設備投資 ~生産性の向上、安全性・性能の評価~ ア.スポンジチタン熔解設備を共同で導入 我が国スポンジチタンメーカーは航空機エンジン向けの最高品質チタンが製造でき競 争力が高いが、下流メーカーは製造工程に多くの工程を抱えており価格競争力に欠けたと ころ、工程の一部が省略可能な革新的なDCスラブⓇを東邦チタニウムと新日鐵が共同開 発し東邦チタニウムはそれを量産するために新設備(EB熔解炉)を設置した。 加工工程を省略することで、従来の展伸材の製造工期を約2割短縮するとともに、コス トを3割削減し、我が国メーカーの展伸材の技術的競争力に加え価格競争力が強化された。 スポンジチタン チタン 鉱石 ビレットスラブ (今まで) チタンインゴット 東 邦 チ タ ニ ウ ム 競争力 高 認定獲得済 連携を上流に展開 EB炉増設 高 性 能 DC ス ラ ブ 展伸材 工期:2割短縮 コスト:3割削減 新 日 鐵 連携を下流に展開 169 素 材 完 成 品 イ.先端分野の部素材開発における評価拠点整備 先端分野の部素材開発においては、ユーザーであるセットメーカーから実装を想定した データの提供を求められることが多いが、結果については採用か不採用かだけを示される ケースがほとんどであり、部素材メーカーは改良の方向感がつかめないまま、時間と労力 をかけざるを得ない状況。特に、複数の部素材を複合して1つの機能を発揮するようなも のについては、性能や安全性の評価に多大なコストがかかっている。 また、部素材の評価に必要な試作設備や評価設備は、高額のものや製造装置をトータル で揃えなければならないものが多く、これらを素材側の個別の企業がそれぞれ整備するこ とは困難となっている。 上記を踏まえ、部素材の個別評価を可能とする共通評価基盤を確立する必要がある。性 能評価や安全性評価といった、共通の評価基盤の整備は、競合企業であっても連携するこ とが十分可能であり、自由競争原理は維持しつつ業界毎の特性を勘案した上で、優れた部 素材メーカーを集積させることでユーザーを呼び込み、新たなユーザーとの垂直連携を生 み出す。 これまでに有機EL素子やリチウムイオン電池材料について、評価拠点を整備したとこ ろ、今後も次世代部素材について、タイムリーな評価拠点整備が求められている状況であ る。 現在、次世代の太陽電池として期待が集まる「有機薄膜太陽電池」や電気自動車やスマ ートコミュニティなどで期待されている「パワー半導体デバイス」について、国主導で研 究開発が進められているが、こうした製品の実用化のためには、耐久性等の高信頼性を部 素材レベルで適確に評価できることも不可欠である。 このため、有機薄膜太陽電池材料、パワー半導体デバイス材料を始めとした複合型部素 材を中心に先端的な機能性化学材料について、産総研の設備やノウハウも活用して、評価 研究開発拠点の整備を進め、部素材メーカーの提案力を強化しつつ、ユーザーとの摺り合 わせを行っていくことが重要である。 関連公的 研究機関 名称:次世代化学材料評価技術研究組合(CEREBA) 場所:産総研つくばセンター 運営形態:材料メーカーを中心とした技術組合 TIAnano 分野・内容に 応じて連携 理研 SPring-8 NIMS NMR 愛知県 中部シンク ロトロン 等 有機薄膜太陽電池 有機ELグループ ○○グループ 狙い・効果 ・有機ELの材料性能の評価基準を統一化することで、 照明やディスプレイの開発効率を向上。 ・モデル素子を作ることで、モジュール特性や他材料との整合性など、 単一企業では困難な素子としての性能評価が可能に。 素子損傷・劣化評価装置 パワー半導体デバイス EL性能評価装置 ○○グループ 評価: ・寿命・耐久性評価(モジュール性能評価) ・損傷・劣化評価(材料組み合せ、プロセス適合性評価) ・標準評価素子による材料性能評価(評価基準の統一化) ・発光材料、電子材料の基本物理的・化学的物性評価 ・・・ 企業A 企業C 企業B ・・・ 企業E 企業D 企業F 170 ・・・ 分野・内容に 応じて連携 ウ.炭素繊維複合材料の実証・評価拠点整備 これまで、炭素繊維複合材の初期需要は航空機用途であったため、大型プレスなど川中 の成形加工では、欧米に大きく遅れている。近年、熱可塑性樹脂を用いた炭素繊維複合材 の自動車への活用が各国で始まっているが、川中が欧米に押さえられているため、川下の 利用面でも国際競争力が向上しない状態にある。 そこで、ものづくり産業が集積する中部地域において、素材メーカー、航空機関連メー カー、自動車関連メーカー、装置メーカーが参加して、全国の炭素複合材先端研究拠点と のネットワークを構築しつつ、我が国初となる複合材製造技術の実証・評価のための拠点 を整備することで、大型部材成形技術、落雷、耐火・耐炎試験評価と標準化等を産学官が 連携して実施する。 これにより、これまで海外(ドイツ、フランス等)でしか実施ができなかった実物大の 大型部材成形の試作・評価が国内で可能となる他、落雷、耐火・耐炎をパッケージにした 拠点が整備されることで、我が国複合材評価技術の標準化戦略への貢献等が期待される。 ○事業主体:名古屋大学 ○整備場所:名古屋大学東山キャンパス内 ○事業規模:約20億円(うち、2/3を上限とする補助を経済 ○主な実証・評価内容 ・大型成形(2㎡級以上)技術開発、試作評価 ・落雷、耐火・耐炎試験評価、標準化 産業省が実施) ■整備する設備のイメージ ○拠点整備後の運営 ・運営協議会を設置。会費、企業等からの施設使用料、 共同研究、大学の自己資金等による運営。 ・具体的な研究開発テーマによって、NEDO等の研究開 (二軸押出機) (大型プレス成形機) 発資金の獲得を検討。 ○参加予定機関(連携機関含む) 【産】素材、航空、自動車及び装置関連メーカー、 支援機関(JADC、C-ASTEC、素形材セン ターRIMCOF室)、関係中小企業 等 【学】名古屋大学、東京大学、名古屋工業大学、 岐阜大学、金沢工業大学、大同大学 等 【官】JAXA、産総研、知の拠点、ぎふ技術革新セ ンター、いしかわ次世代産業創造支援センター 等 (耐雷試験機) (耐火・耐炎試験機) 本センターにおける関係者の連携のイメージ 川中(生産・成形加工) 炭素繊維複合材評価研究基盤拠点 ・大型部材(2㎡級以上)プレス加工、射出成形など、 成形加工の基盤技術 ・耐火・耐雷等の安全性評価 ・自動搬送など、システム化技術 産業機械メーカー等 (プレス、射出、ロボット、金型等) 自動車メーカー 航空機メーカー 鉄道車両メーカー等 川上(素材) 川下(出口) ・炭素繊維で日本は世界シェア7割 ・サステナブルハイパーコンポジット(東大高橋 教授等)等、国費で世界最先端の素材研究を 実施中。 繊維メーカー、樹脂メーカー ・これまで熱硬化樹脂の航空機応用は、欧米主 導(日本はMRJ)。 ・大型部材の試験評価のために海外出張の状況 (国内空洞化) ⅲ)事業連合 ~原料調達力強化や販路開拓を目指す~ ア.鉱山開発から製品開発までの連携 佐川眞人氏(ネオジム磁石の発明者)が社長を務めるインターメタリックス株式会社が レアアースの使用量を大幅に削減するネオジム磁石の新工法を開発した。 三菱商事及び大同特殊鋼は、レアアース鉱山を保有する米・モリコープ社と共同でネオ ジム磁石の製造会社であるインターメタリックスジャパン株式会社を新たに設立した。 これにより、同社は安定的にレアアースを調達できるとともに、インターメタリックス 株式会社から製造に関するライセンスの供与を受け、レアアースの使用量を大幅に削減す るネオジム磁石の量産化を行う。 171 イ.Tier2自動車部品メーカーの中国共同進出 デンソー傘下の Tier2自動車部品メーカー12 社が共同で海外事業を行うため、中国に衆 智達汽車部件(常州)有限公司を設立した。 中国など新興国市場は今後も確実に成長すると目されているが、一般的に Tier2以下の 自動車部品メーカーは、製品・加工単位が細かすぎるため販路開拓が困難であり、財務基 盤が脆弱等の理由により、単独では海外でのビジネスチャンスを獲得できない状況にある。 加えて、この企業に対して、株式会社産業革新機構が追加出資を行った事で、従来は有 していなかった自動車ユニット製造の基幹行程を自前で設けることや、外部からの経営人 材の投入ができ、経営リソース不足が解消された。その結果、ワンストップサービスが確 立でき、今後の中国での事業拡大が見込まれる。 ウ.系列を超えた開放型のビジネスモデル(東レ合繊クラスター) 国内繊維産業の復権・再活性化を図るために、産学官の有機的連携を目指し、民間ベー スの実務的な運営母体として東レ合繊クラスターを形成している。 従来の「メーカー系列」や「委託」、 「自販」という枠組みを越え、産地企業と東レの経 営力・技術力を結集し、世界に類のない原糸・高次一貫の連携体制を構築している。 東レは一企業としての利益追求ではなく、産地の活性化に向けて、クラスター活動の運 営、技術・販売のアドバイス、知財関係、人材育成、事務局業務等を通じて、中小企業の 自立・自販を全面的にサポートしている。 東レ合繊クラスター形成 糸加工 ユーザー 各 社 小売り 各 社 ユーザー 各 社 小売り 各 社 ユーザー 各 社 小売り 各 社 機業場 ニッター 原糸・原綿 メーカー 染工場 地方自治体 経産省 全国の大学 北陸3県の 大学、大学院 172
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