ドコモレポート No.67 2012.3.16 携帯電話の普及期を支えた「mova」サービス、19年の歴史に幕 ドコモは、1993年3月25日、デジタル方式のmovaサービスを首都圏(東京を中心とした30Kmエ リア)で開始した。開始当時、「携帯電話」(mova)は、初期費用だけで15万円程度必要な、主に経営 者等が持つ「ステータスシンボル」的なツールであった。その後、保証金や新規加入料等の各種料金 の廃止や値下げを行い、携帯電話は、ビジネスツールからプライベートツールへと変化していった。 movaの時代には、それまで利用の中心であった「音声通話」から「データ通信」の利用も進んだ。 当初のデータ通信の通信速度は、2,400bps(回線交換方式を採用)。現在の「Xi」の通信速度は、 受信時最大75Mbpsであり、この約20年の間に、通信速度が約3万倍に高速化されたことになる。 さらに、「10円メール」や「ショートメールサービス」、さらには「i モード」の登場などにより、携帯電話 が「話すケータイ」から「使うケータイ」へとその役割が大きく変貌した。 また、今では当たり前となっている「カラー液晶」、「防水」、「カメラ」、「GPS」、「おサイフケータイ」など の機能が次々と搭載され、今では定番となった「コラボモデル」や「らくらくホン」シリーズも登場した。 movaの契約数は、ピーク時、4,440万8,400契約(2003年8月)であったが、2001年10月1 日に開始した第3世代携帯電話サービス「FOMA」に徐々に取って代わられ、movaサービスの契約 数は縮小していった。 携帯電話1人1台時代となるまでの携帯電話普及期を支えたmovaが、2012年3月31日、終了す る。今回は、19年間続いた「mova(デジタル)」の歴史についてレポートする。 ・ 契約数の推移 FOMA比率50%超 06年6月18日 6000万契約 mova契約数ピーク 4,440万8,400契約 03年8月 4000万契約 2000万契約 mova(デジタル)開始 93年3月25日 FOMA開始 01年10月1日 単位(千契約) 1992 年度 1993 年度 1994 年度 1995 年度 1996 年度 1997 年度 1998 年度 1999 年度 2000 年度 2001 年度 2002 年度 2003 年度 2004 年度 2005 年度 2006 年度 2007 年度 2008 年度 2009 年度 2010 年度 携帯自動車電話契約数 1,027 1,323 2,206 4,936 10,960 17,984 23,897 29,356 36,219 41,011 44,149 46,328 48,825 51,144 52,621 53,388 54,601 56,082 58,010 1.8 mova(アナログ) 1,027 1,317 1,826 2,380 1,515 278 6.4 381 2,556 9,445 17,706 23,895 29,356 36,219 40,922 43,819 43,283 37,324 27,680 17,092 9,438 5,560 2,879 1,239 mova(デジタル) FOMA Xi 89 330 3,045 11,501 23,463 35,529 43,949 49,040 53,203 56,746 26 ・ 携帯電話の“小型化”の歴史 ~mova(アナログ)開発の秘話~ 携帯電話が、ポケットにも入る大きさまでに「小型化」される過程には、開発競争があった。 日本電信電話(NTT)が、携帯電話サービスを開始したのは、1987年4月。初代携帯電話は、体 積500cc、重さ約900gの「TZ-802B」であり、その後も、端末の小型・軽量化が進められ、1989 年2月には、体積400cc、重さ640gの「携帯電話(TZ-803B)」が開発された。 ところが、その直後、1989年4月、アメリカのモトローラ社がNTTを上回る体積211cc、重量303 gの携帯電話「マイクロタック」を開発。ポケットに入るサイズとして、当時、画期的な大きさであった。 NTTは、マイクロタックを凌駕するもの開発するべく、1989年7月、当時のNTT社長の号令のもと、 超小型端末の開発プロジェクトがスタートした。開発は、日本電気、松下通信工業、三菱電機、富士通 の4社に依頼し、「世界最小・最軽量」の携帯電話開発が目指された。 そして、1990年11月末、ついに試作機が完成した。体積150cc、重量270g(電池パック装着時) という世界最小・最軽量の「TZ-804」である。この新型機は、「ムーバ」と名づけられ、1991年4月1日 から発売された。ちなみに、「ムーバ(mova)」とは「movable(移動できる)」から名づけられたものである。 ショルダーフォン 802型 ムーバシリーズ(アナログ) premini 発売 1985年9月 1987年4月 1991年4月 2004年7月 幅×高×厚(mm) 55×190×220 42×120×180 (47~63)×(100~150) ×(23~40) 40×90×19.8 重さ 約3,000g 約900g 約270~280g 約69g ・ movaの幕開けと普及の歴史 1993年3月25日、ドコモは、首都圏(東京を中心 とした30Kmエリア)でデジタル方式のmovaサービス を開始した。 デジタル方式は、それまで提供していたアナログ方 式に比べ、通話品質、データ通信、周波数の利用効 率などに優れた特性を持っていた。 初代のデジタル・ムーバシリーズ (1993年3月) ●1993年当時、携帯電話の普及率が低かった日本 1993年1月時点、世界各国の携帯電話普及率※は、 スウェーデン7.9%、アメリカ4.4%、イギリス2.4%、 香港4.1%となり、日本は1.3%であった。 日本における普及の遅れには、大きく3つの理由があった。 ①つながらないエリアが多く利便性が悪い ②料金が高い ③端末が重く電池が長持ちしない そこで、ドコモは、①と②について、以下のとおり取り組みを行うこととなった。 なお、③については、上記で触れたように、端末の小型化等の研究開発が進められた。 ※『Mobile Communications』1993年3月25日号より ●普及への取り組み ①エリア拡大 携帯電話のつながらないエリアが多かったのは、日本の携帯電話が「自動車電話」からスタートして おり、無線基地局のネットワークが道路沿い中心の「線」であったためである。しかし、端末の小型化 が進み、ボータビリティが増すと、利用エリアは「面」的な広がりを持ち、道路以外に繁華街、ビルの内 外、地下街、郊外など広範囲での利用が進んだ。 当時、社長の大星は、「つながらない携帯電話は欠陥商品だ。こういう商品を売るわけにはいかな い。金がかかっても、思い切った投資をするしかない」との指示のもと、積極的な品質改善を行った。 ドコモは、首都圏でのサービス開始以降、関東甲信越へのエリア拡大をはかり、1994年4月に東 海・関西、1994年10月に北海道・東北・中国・九州、1995年1月に北陸・四国のそれぞれ主要都市 でデジタル方式のサービスを提供開始した。このように、movaは、サービス開始から3年後の1996 年3月末には、人口カバー率が93%まで急速に面的なエリアの拡大が行われた。 ムーバ(デジタル800MHz) 基地局数 人口カバー率 サービス開始当初(1993年3月) 250局 18% 1994年3月末 1,500局 27% 1995年3月末 2,500局 74% 1996年3月末 4,500局 93% ●普及への取り組み ②各種料金の無料化・値下げ 当初(1993年3月)、mova(デジタル)の携帯電話を所有するには、保証金:10万円、新規加入 料:4万5,800円、月々の基本使用料(回線使用料):1万7,000円が必要であり、初期費用だけで 15万円程度必要であった。 そこで、ドコモは、携帯電話を契約のハードルを下げ、まず、使ってもらい、携帯電話が便利なもの であることを知ってもらうことで、それをテコに普及拡大を狙う戦略を始めた。具体的には、「保証金」 の廃止(1993年10月)、「お買い上げ制度」の導入(1994年4月)(それまで携帯電話はレンタルで 提供される形)がなされ、「新規加入料」(1996年に無料化)と「基本使用料」(1994年4月には一万 円を切る)が徐々に値下げされた。 ●ステータスシンボルからビジネスツール、そしてプライベートツールへ 当初、携帯電話は、主に、経営者、個人事業主、資産家などが利用する「ステータスシンボル」的なツー ルであったが、1993年以降、エリアの充実や保証金の廃止などにより、ユーザー層が拡大し、「ビジネス ツール」、やがては、「プライベートツール」として定着した。 ドコモ調査によると、93年の調査では、携帯電話の利用目的では、プライベート利用が4%だったが、9 6年の調査では、37%に上昇しており、プライベートツールとしての利用が急拡大した。また、契約形態に ついては、個人契約の比率が急拡大(43%⇒92%)した。 <ドコモ調査> 利用目的 ビジネス ビジネス&プライベート プライベート 1993年(5月~7月)調査 57% 39% 4% 1996年10月調査 13% 50% 37% 契約形態 個人契約 法人契約 1993年(5月~7月)調査 43% 57% 1996年10月調査 92% 8% ・ 携帯電話が、「話すケータイ」から、「使うケータイ」へ ●データ通信利用の開始 ~1993年当時の通信速度は、2,400bps~ デジタル方式のmovaが開始され、それまで音声通話の利用が中心だった携帯電話がデータ通信 にも利用され始めた。当初(1993年)のデータ通信は、回線交換方式を採用し、通信速度は2,400 bpsで提供された。1995年4月には「デジタル9600bpsデータ通信サービス」が開始され、通信速 度は一気に4倍に引き上げられた。当時は、接続時間に応じて課金される仕組みであった。 ただ、通信速度の高速化、常時ネットワークに接続したい(時間課金ではない仕組み)というニーズ から、ドコモは、1997年3月から「DoPa」(DoCoMo Packet)サービスを提供開始した。 「DoPa」は、「パケット通信方式」を採用した。パケット(小包)単位にデータを分割してやり取りする ので、複数の通信を相乗りさせること(回線の共有)ができ、効率が良い。課金の仕組みは、接続時間 によらず情報量(パケット単位)によって課金される体系とした。「iモード」につながるデータ通信方式と して、現在でも利用されている方式である。 現在、ドコモが提供している「Xi」(クロッシィ)の通信速度は、受信時最大75Mbpsであり、初期の データ通信速度(2,400bps)と比較すると、通信速度はこの約20年間で約3万倍に高速化した。 ●文字メッセージ文化の浸透、携帯電話利用者層の拡大 ~10円メール、ショートメールサービス~ 1997年5月からは、PDAなどと携帯電話機を接続することで、インターネットメールができる「10 円メール」サービスを開始。1997年10月からは、モバイルツールを初めて使用する人でも簡単に利 用できる「ポケットボード(Pocket Board)」を発売し、若者や女性を中心に人気を集めた。 1997年6月からは、「ショートメールサービス」を開始した。これは、携帯電話機単体で、カナ・英数 字からなる最大50文字までのメッセージを送信できるサービスであった。利用方法は、ドコモの携帯 電話から「1655」をダイヤルし、送付したい相手の電話番号を入力後、メッセージを入力することで、 送付できた。 これらサービスが提供される以前(1995年~96年当時)、若者や女性の間では、「ベル友」ブーム が起きていた。ポケットベルにメッセージを送るために、公衆電話に行列を作ったり、仲間内でプッシュ ボタンを早打ちが競われていた。 ベル友ブームを支えた若者は、公衆電話に並ぶ必要がなく、すぐに返信ができる携帯電話の「10 円メール」や「ショートメールサービス」に徐々に移行し、文字メッセージによるコミュニケーション文化 が引き継がれ、携帯電話の利用者層・プライベート利用が拡大していった。 ●iモードの登場 ~話すケータイから、使うケータイへ~ 1999年2月22日、ドコモは、携帯電話機単体で、 インターネットアクセスやEメールができる「iモード」 を開始した。 iモードは、ポケベルなどの文字コミュニケーショ ンの環境の中で育った若者に対して、漢字や絵文 字など最大全角250字のメールが、15字程度であ れば1円で、全角250字でも約4円で送付できるサ ービスとして支持が集まった。 また、ドコモは、あらゆるユーザーに対応できるよう ニュースや天気予報、番組情報やレストランガイドなど多種多様なサービスメニューを用意した。これ らメニューの豊富さが、iモードの大きな魅力となり、多くのユーザーをひきつけることとなった。 movaの時代には、iモードが登場し、「携帯電話」が話すケータイから使うケータイへと進化した。 ・ 携帯電話の機能進化は、movaから movaでは、現在の基本機能となっている「カラー液晶」、「防水」、「カメラ」、「GPS」、「おサイフケータイ」 などの機能が次々と搭載され、今となっては定番であるコラボモデルやらくらくホンシリーズが登場した。 P601es 初のらくらくホン (1999年10月) F502i 初のカラー液晶 (1999年12月) P505i 阪神タイガース優勝バージョン (2003年10月) P506iC FeliCa機能を初搭載 (2004年7月) R691i(GEOFREE) 防水機能を初搭載 (2001年2月) F661i GPS機能を初搭載 (2003年4月) Music PORTER ミュージックプレーヤーを内蔵。 デザインもポータブルプレーヤー (2004年12月 ) SH251i カメラ機能を初搭載 (2002年6月) premini 世界最小iモード対応端末 (2004年7月) RADIDEN(ラジデン) 世界初、AM、FM、TVに対応した ラジオチューナー搭載 (2005年10月) ・ (参考) 主な沿革 主な沿革 1979年 12月 自動車電話サービス開始 1985年 9月 ショルダーフォン(100型)の販売開始 1987年 4月 携帯電話(802型)発売、携帯電話サービス開始 1988年 6月 携帯電話(803型)発売 1991年 4月 ムーバシリーズ(アナログ方式)発売 1993年 3月 デジタル・ムーバシリーズ発売 10月 保証金制度の廃止 1994年 4月 お買い上げ制度の開始 1995年 4月 デジタル9,600bps高速データ通信サービス開始 デジタル・ムーバHYPERシリーズ発売 1996年 12月 新規加入料の廃止 1997年 2月 ドコモ契約数が1,000万を突破 3月 「DoPa」(パケット通信サービス)開始 デジタル・ムーバP301HYPER発売(DoPa初対応端末) 5月 「10円メール」開始 6月 「ショートメールサービス」開始 1998年 8月 1999年 2月 2000年 4月 2001年 10月 FOMAサービス開始 2002年 1月 ドコモ契約数が4,000万を突破 2003年 8月 mova契約数がピークに(4,440万8,400契約) 2004年 2月 FOMA900i シリーズ発売 2005年 11月 ドコモ契約数が5,000万を突破 2006年 4月 mova最後の端末「P506iCⅡ」発売 6月 携帯電話契約におけるFOMAの契約数比率が50%突破 10月 携帯電話番号ポータビリティ(MNP)制度の開始 2008年 7月 コーポレートブランドロゴを変更 11月 movaサービスの新規申込み受付終了 2009年 1月 2010年 4月 Xperiaの発売 9月 「spモード」の開始 12月 「Xi」(クロッシィ)の開始 2012年 3月 3月 ドコモ契約数が2,000万契約を突破 「i モード」開始 デジタル・ムーバ501i シリーズ発売 (F501:初の i モード対応端末) 3月 アナログ方式の携帯・自動車電話サービスの終了 12月 デジタル・ムーバ502i シリーズ発売 (F502:日本初のカラー液晶端末) ドコモ契約数が3,000万を突破 movaサービス・DoPaサービス終了の告知 ドコモ契約者が6,000万を突破 movaサービス・DoPaサービス終了
© Copyright 2024 ExpyDoc