フーリエ変換赤外分光(FT-IR)法

フーリエ変換赤外分光法
Ohshio
フ ー リ エ 変 換 赤 外 分 光 (FT-IR)法
物 質 を 構 成 し て い る 分 子 は そ れ ぞ れ 固 有 の 振 動 を し て い る 。た と え ば 、
水 ( H 2 O) の Oと Hは バ ネ で 結 ば れ た よ う な 結 合 を し て 、 図 1 に 示 す よ
う に 常 に 三 種 類 の 基 本 的 な 振 動( 基 準 振 動 )を し て い る 。こ の 振 動 数 は 、
Oと Hの 重 さ( 質 量 )と 結 合 の 強 さ で 決 ま る 。こ の よ う な 分 子 振 動 の エ ネ
ルギーと同等のエネルギーをもつ電磁波が、ちょうど赤外線の波数(波
長)域にある。分子に波長を変化させた赤外線を連続的に照射すると、
分子を構成する原子間結合の伸縮振動や変角振動などの振動数に応じた
特定の波数域の光だけが吸収され、分子構造に応じた特有のスペクトル
が 得 ら れ る 。分 子 全 体 の 構 造 が ど う で あ れ 、分 子 内 に OH基 が 存 在 す れ ば 、
図に示したエネルギーに相当する吸収が現れる。このように、赤外線吸
収 ス ペ ク ト ル ( Infrared absorption spectrum: IR) に は 各 置 換 基 に 特 有 な
吸収(特性吸収という)が現れ、スペクトルから分子の構造などを解析
することができる。
O
H
H
逆対称伸縮振動
対称伸縮振動
3655cm - 1
変角振動
1595cm - 1
3756cm - 1
図 1 水の基準振動様式と振動波数
一 般 に 、赤 外 線 の 波 長( 波 数 )領 域 は 0.7~ 1000μm( 15000~ 10cm
) で あ る 。 こ の 領 域 の う ち 、 4000~ 400 cm - 1 の 中 赤 外 領 域 が 構 造 解 析
に使われる。
-1
4000
3200
O H
2400
C
C
1900 1700 1500
C
N
N H
C H 伸縮
C H 伸縮
伸縮
図 2
C C
C N
C O
伸縮
1300 1100
C H
変角
900
700 cm-1
C C
C O
C N
伸縮
変角
特性吸収の例
赤外分光器には、分散型と干渉型がある。分散型は、光を分散させて
波長ごとに光の透過率を測定するものである。干渉型は、光の干渉現象
を利用し、透過光のスペクトルを得るためにフーリエ変換を行うので、
こ の 分 光 器 に よ る 方 法 を フ ー リ エ 変 換 赤 外 分 光 法 ( Fourier transform
フーリエ変換赤外分光法
Ohshio
infrared spectroscopy: FT-IR) と 呼 ぶ 。 FT-IR 法 は 、 干 渉 計 に よ っ て 光 源
からの連続光の一部に光路差を与えて、得られる干渉波(インターフェ
ログラム)をフーリエ変換して成分波のスペクトルを得る方法である。
FT-IR の 利 点 と し て は 、短 時 間 で 測 定 可 能 、高 感 度 、波 数 精 度 が 高 い 、
S/N 比 の 高 い ス ペ ク ト ル を 得 る こ と が で き る 、 フ ー リ エ 変 換 を 行 う 必 要
上コンピュータが付き物で、スペクトル解析および自動測定が可能なこ
と が あ げ ら れ る 。 図 3 に FT-IR 装 置 を 示 し 、 図 4 に 合 成 し た オ レ ン ジ Ⅱ
の赤外吸収スペクトルを市販品のスペクトルと共に示す。
顕 微 FT-IR 部
図 3
フ ー リ エ 変 換 赤 外 分 光 光 度 計 (FT-IR)
OH
オレンジⅡ
SO3Na
N N
芳香族アミン
C N 伸縮
C C
環伸縮
O H 伸縮
芳香族
C H 伸縮
スルホン酸塩 伸縮
多環式芳香族
C H 面外変角
C C
環面外変角
吸 光 度
CO2 逆対称伸縮
合成したオレンジⅡ
市販品オレンジⅡ
4000
3500
3000
2500
2000
1500
波 数 (c m - 1 )
図 4
オ レ ン ジ Ⅱ の FT-IR ス ペ ク ト ル
1000
500