ポスト危機時代の日本対中投資の新しい機会と展望 - R-Cube

立命館国際地域研究 第32号 2010年 10月
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<論文>
ポスト危機時代の日本対中投資の新しい機会と展望
張 季 風 *
ZHANG, Jifeng
訳:方 帆
長い間、日本対中投資と中日の二国間貿易、及び日本の対中 ODA(Official Development
Assistance,政府開発援助)は、中日経済関係の 3 大支柱と呼ばれている。日本対中投資は、
両国の経済貿易協力チェーンで果たす役割が極めて大きいだけでなく、中日戦略の互恵関係に
とって重要な意義を持っている。絶えず増加する日本対中投資の下で、両国の経済貿易関係は
すでに互恵と相互補完、そして相互利益と WinWin という良好な協力局面を形成している。
現在、中国にある約 2 万社の日系企業は、中国企業との技術協力、経営協力または独資企業の
設立などの様々な形態で中国で経営活動を行い、すでに完全に中国経済に統合された。日本の
対中 ODA の終了に伴い、日本の民間企業が対中投資で果たす役割はますます大きくなる。し
かし、様々な原因のため、日本対中投資はここ数年減少傾向にあり、特に金融危機の衝撃を受
け、その状況がますます厳しくなった。これは、中日両国の政府と企業界の高い関心に値する。
現在、中国国内と日本国内の情勢及び世界経済情勢に巨大な変化が起こっている。これは、日
本対中投資に新しい機会をもたらし、ポスト危機時代の中日経済貿易協力が新しい起点でより
良い方向へ向かっていく。
1.日本対中投資の発展軌道と特徴
(1)日本対中投資の「3 回のブーム」
日本の対中直接投資は 1979 年に始まり、これまで 3 回のブーム期を経験し、現在反落期に
ある。2009 年 11 月末まで、日本の対中投資額(実行ベース)は 692.7 億ドルである1)。日本
* 中国社会科学院日本研究所経済研究室室長
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張 季風:ポスト危機時代の日本対中投資の新しい機会と展望
対中直接投資の第 1 次ブームは、1980 年代の中・後期に起こった経済特区に対する投資である;
第 2 次ブームは、1992 年の鄧小平の南巡講話後に起こったことであり、投資がすべての沿海地
域に波及した;第 3 次ブームは、2000 年以降に起こったことであり、その背景に中国の WTO
加盟、五輪招致の成功と西部大開発戦略の実施がある(参考:図 1 と図 2)
。
第 1 次ブームでは投資規模は小さかったが、第 2 次ブームでは投資規模は増大し、しかもそ
のスピードが加速していた。第 1 次と第 2 次の投資ブーム期は「合弁時代」と言われ、この時
期の企業経営方式は基本的に中日合弁方法を主とする。投資形態では、日本企業は中国の安価
な労働力などの資源を利用し、中国各地で生産企業を中心とする輸出加工基地を設立し始めた。
第 3 次ブームでは投資規模はいっそう増大し、2005 年に史上最高レベルを達成し、実質投資
額が 65.3 億ドルである。この期間、投資の激増だけでなく、経営方式と投資形態で重大な変化
が起こった。後者がより重要である。経営方式から見ると、日本企業は独資企業の設立を中心と
し、また投資企業(地域統括会社)を設立し始めた。このように、
「合弁時代」から「企業集団
経営時代」に転換した。投資形態から見ると、中国の改革開放が絶えず深化することに伴い、特
に中国の WTO 加盟後、日本多国籍企業の対中投資は初めて生産以外の研究開発、国内販売、ア
フターサービスなどへ向かって全方位的に発展した。すなわち、
「市場獲得型投資」である。
中国と日本は、生産分野における分業体制の進展も非常に速い。この進展では、数量の変化
だけでなく、品質の変化も現れている。1980 年代に加工貿易を中心としたが、1990 年代に電器、
電子と機械産業も発展し始めた。また、新世紀に入った後、IT 産業と自動車産業まで広がった。
30 数年来の日本対中投資は WinWin 効果をもたらした。中国に対する積極的な効果について、
以下の 4 点にまとめることができる。(1)資金不足を緩和した;(2)技術水準の向上を促進し
た;
(3)就職機会を創造し、経営管理人材を育成した;
(4)中国の外国貿易の増加を促進した。
日本に対する積極的な効果について、以下の 3 点にまとめることができる。
(1)日本企業の国
際産業競争力を維持し、強化した;(2)対中投資によって日本企業が巨額の利益を獲得した;
(3)日本対中貿易の増加を促進した。統計によると、在中日系企業の多くは経営状況が良好で
ある。これは、日本経済の回復と成長を強く促進し、中国の経済発展に対しても積極的な貢献
を行った。
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図 1 日本対中直接投資の推移
(出所):中国商務部統計。
図 2 日本対中投資の 3 回のブーム
(出所):日本財務省統計。
(2)日本対中投資の特徴
1)中国の直接投資受入に占めるシェアは比較的安定している。
日本対中投資が中国の直接投資受入のプロジェクト数に占めるシェアは、1990 年代に大体 6
∼ 7%である。実質投資額に占めるシェアは、1990 年に一度 15%ぐらいまで上昇したが、1992
年以降、常に 10%以下を維持している。2005 年におよそ 8.5%を占めたが、2008 年に 3.95%
まで下がった。2009 年(1 ∼ 11 月)にまた 5%まで回復した2)。投資累計額では、日本は中国
の外資導入先において第 1 位を占めており、EU の 25 カ国より高い。
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張 季風:ポスト危機時代の日本対中投資の新しい機会と展望
2)日本の海外投資で重要な地位
1990 年に日本対中直接投資が日本の海外直接投資に占める比率はわずか 0.6%であったが、
その後急激に上昇した。しかし、1995 年に一度 8.7%とピークに達した後に下がり始め、1999
年に 1.1%まで下落した。2000 年にまた 2%まで回復し、2003 年に 13.7%まで上昇した。2005
年にさらに 14.5%まで上昇したが、2007 年に 8.9%まで下がった3)。対中直接投資が日本の海
外直接投資に占める順位は依然として第 3 位である。
3)製造業投資が中心
1990 年、日本の対中直接投資の 46%が製造業に向かった。1991 年以降、製造業に対する投
資は急速に増加し、1993 年に 81%まで激増した。その後から 2008 年までに製造業への投資は
常に 70%以上を維持していた。これは製造業がずっと日本の対中投資の主要な分野であり、中
国が依然として日本企業の海外加工生産の主要な基地であることを表している4)。
製造業の産業構造について言うと、主に服装、電気機械、自動車部品、鉄鋼、化学工業及び
食品加工などの業種に集中している。1990 年代以来、電気機械産業が日本の対中製造業投資の
主要な対象になっていたが、2003 年以降、輸送機械産業が第 1 位になった。これも、一定程度
で日本の対中投資構造が高度化していることを反映している。
4)投資分野の不断の拡大と投資構造の高度化
中国経済の迅速な発展と産業構造の調整に伴い、ここ数年、日本対中投資は製造業を中心と
しながら、商業、金融、保険、証券及び流通分野での投資を拡大し始めた。日本対中投資は製
造業と非製造業を同時に推進する時代に入り始めた5)。1990 年代、日本企業の対中非製造業投
資は主にサービス業に集中していた。中国の WTO 加盟後、外国投資の分野に対する制限が徐々
に緩和され、日本企業の対中製造業投資の産業構造がより高度化した。また、対中投資がその
グローバルな分業における地位はいっそう強化された。その同時、企業の非製造業に対する投
資がある程度増加し、カバーする産業の範囲も日々拡大している。これは、日本企業が中国で
設立した経営組織の機能は日々高度化・多様化していることを表している。現地法人の職能が
絶えず拡大していることは、次のことも表している。日本対中投資規模の急速な拡大につれ、
日本企業の中国における経営活動は加工生産の部分から「微笑曲線」の両端にある高付加価値
の部分へ拡大している。
5)投資地域分布の不均衡
日本の対中直接投資は初期段階に主に香港と隣接している深圳、珠海などの華南地域の経済
特区に集中していた。14 の沿海都市が開放された後、投資の中心は北部地域にある大連と天津
に移転した。20 世紀 90 年代の中・後期から、日本企業の対中投資は、徐々に中国の東北、華
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北と華南から華東の経済圏に移転する傾向を見せ始め、上海及び周辺の蘇州、南通、南京など
の地域が日本企業の主要な投資先になった。2006 年だけみると、日本の対中投資額(実行ベー
ス)では、東部が 96%を占め、中部は 3%、西部がわずか 1%を占めるにすぎず、投資の地域
分布は非常に不均衡である6)。
6)分散型投資から集積型投資への転換
日本の対中投資規模が徐々に拡大するにつれ、日本企業は中国のそのグローバル戦略におけ
る地位を再び考慮し始め、現地の法人資源統合を強化し、集積化の発展を図った。日本企業の
中国における経営戦略の調整目的とは、コスト主導型戦略と規模効果の強化の下で、集約化生
産を実現し、産業チェーンを伸ばし、産業クラスターを改善し、競争力を強化することである。
例えば、2004 年に松下電器は 19 億元を投資して杭州工業園を建設し、資源統合の角度から杭
州の 9 つの白物家電生産基地に対して新しい計画を立てて管理を行い、また統合を通じて杭州
で松下の世界最大の白物家電生産基地を設立することに極力努めている。近年、他の日本企業
の内部もこれに類似した統合活動を行っている。このように、分散型作戦から集積型重点突破
まで、日本企業の中国における経営戦略がより高い段階に転換しようとしていること。
2.2006 年から 2008 年までの日本対中投資の低迷の原因分析
上述のように、改革開放以来、日本はずっと中国にとって重要な外資導入先であり、日本対
中直接投資は中日の経済関係において非常に重要な地位を占めている。しかし、2006 年、正に
中日関係が氷河期から脱出した頃、日本対中直接投資は明らかに減少し、プロジェクト数が
2,590(前年比 20.8%の減少)であり、金額が 45.98 億ドル(前年比 29.6%の減少)であった。
通常、前年度に大きな減少が起こった後、翌年に回復が現われるはずであったが、残念ながら
このような結果は現れなかった。2007 年に日本対中投資ではプロジェクト数が 1,974(前年比
23.8%の減少)であり、実質投資額が 35.9 億ドル(前年比 22.0%の減少)であった。2008 年、
実質投資額は前年比 1.7%の微増になったが、2009 年(1 ∼ 11 月)に大幅に回復し、前年比
16.6%増加した7)。
一方、日本の統計では、実際にあまり大きく変動することなく、金額はずっと 7,000 億円ぐ
らいを維持した(参考:図 2)8)。しかし、中国側のデータであろうと日本のデータであろうと、
日本対中投資が近年に低潮期にあることを表すことができる。
注意すべきことは、2006 年から 2007 年までの 2 年間の日本対中投資の激減は、日本対外投
資の成長率がそれぞれ 15.9%(2006 年)と 27.1%(2007 年)に達し、中国外資導入の成長率
がそれぞれ 4.5%(2006 年)と 13.6%(2007 年)に達した中で出現したことである。つまり、
日本から他の国家や地域への直接投資が大幅に増加しているが、中国への投資が大幅に減少し
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た。また、中国では他の国からの資本導入が増加しているが、日本からの資本導入が大幅に減
少した。中日貿易の中で産業内貿易が存在するため(特に中間財が大きなシェアを占めている)、
もし製造業投資が引き続き減少するならば、両国の貿易額の減少を引き起こす可能性が大きい。
次に、ここ数年の日本対中直接投資の低迷原因を分析する。
1)3 年連続高成長後の調整と周期性低潮
2001 年から、日本の対中直接投資はずっと急速な成長傾向を維持し、2003 年から 2005 年ま
での 3 年平均の成長率が 16.1%に達し、2005 年に更に 20%に達した。長期の急速な成長の後
に必然的に一定の調整が現われる。この現象は以前に出現したことがある。例えば、2001 年の
成長率は 49.1%に達したが、その翌年に 3.6%の低成長に転換した。
このほか、今回の日本対中投資の激減はおそらく投資周期の影響と関連している。前述のよ
うに、日本対中直接投資には 3 回のブームがあり、第 1 次ブームが 1980 年代中期に起こり、
第 2 次ブームが 90 年代中期に起こり、第 3 次ブームが 2005 年に起こった。ピーク値をみると、
基本的に 10 年に 1 回起こる(参考:図 1 と図 2)。現在既に 3 年の低潮期に入り、2009 年に回
復し始めている。
2)投資構造の不均衡、近年の輸送機械産業に対する大プロジェクト投資
日本の対中直接投資の業種は主に電気機械と輸送機械分野に集中している。この 2 つの業種
は 50%以上占める。特に近年日本による中国運送機械産業への投資が急速に増加し、2002 年
の 200 数億円から 2004 年の 1,800 数億円まで激増した。2005 年、日本の運送機械及びその関
連産業による対中投資は、日本対中直接投資の 30%以上を占めた。しかし、2006 年にこの業
種で新しいプロジェクト投資が明らかに減少し、直接に日本対中直接投資の大幅な減少につな
がった。運送機械と関連する投資は、1 ラウンドの大規模な投資を経た後、必ず消化過程が起こっ
て調整しなければならない。
このほか、商業企業においても集中的な投資が起こった。2004 年 12 月以降、中国は卸売と
小売業において外国資本による 100%独資企業の設立を許可した。これを契機に、2005 年に日
本総合商社の多くは中国で集中的に多くの独資商業企業を設立した。これに対して、2006 年に
設立は比較的に少なかった。これは 2006 年から 2007 年までの投資激減の原因の 1 つでもある。
3)中国の国内投資環境の大変化
改革の深化と経済実力の増強につれ、現在中国の外貨不足問題は既に解決された。経済成長
モデルの転換の下で、外資導入も「数の増加」から「品質の高度化」へと転換している。
このほか、
中国の投資環境においても外資導入の拡大に影響を与える要因が出現し、
主に次の 5
点である。
(1)沿海地域の電力と水資源の不足、外資企業の集積地域の地価上昇である;
(2)労
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働力不足と賃金上昇である;
(3)新しい「労働契約法」の実施である;
(4)
「2 税合 1」
(外資企
業に関する税法と中国企業に関する税法という 2 つの法律規定を 1 つに統合し、税率などにおい
て差別をなくすことである)政策の実行である;
(5)人民元の切り上げ圧力などがある。
上述のように、国内環境の変化が外資企業のコスト上昇を招き、投資の予期効果が弱まった。
そのため、日本対中投資の減少だけでなく、アメリカと中国台湾も 5 年連続で、韓国も 3 年連
続で対中投資が減少した。
4)リスク分散
日本企業は投資リスクの分散のため、インドと ASEAN 地域に対する投資を比較的に拡大し
た。2003 年の春に起こった中国の「新型肺炎」及び 2005 年 4 月に起こった「反日デモ」や、
「日
本製品不買運動」などは、自然に日本の対中投資に一定の消極的な影響を与えた。数年前、日
本政府は投資リスクの分散を理由に、
意図的に民間企業に「China + 1」型投資モデルを採らせ、
対中投資を減少させるように扇動と誘導を行った9)。いわゆる「自由と繁栄の弧の構築」、「価
値観外交」政策の誘導の下で、日本企業はインドや ASEAN などの国家と地域に対する投資の
足並みを加速した。特にインドに対する投資は倍増し、2002 年の 636 億円から 2007 年の 1,890
数億円まで増加し、また 2008 年に 8,090 億円に達して 4.3 倍も激増し、対中投資を超過した(参
考:表 1)
。
表 1 日本の対中、対印投資比較(億円)
2006 年
2007 年
2008 年
対中投資
6704
7015
6794
対印投資
636
1890
8089
(出所):日本財務省国際収支統計資料。
もちろん、2006 年以降の日本対中投資が全体的に下落傾向にあるなかで、いくつかのスポッ
トライトも現れた。製造業の投資が大幅に減少しているが、金融、証券と保険業の投資が大幅
に増加し、その他の商業とサービス業の投資も大幅に増加した。しかし、2008 年の秋以降、金
融危機の影響を受け、金融業投資はまた大幅に減少した。
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3.日本対中投資の新しい機会と新しい起点
前述のように、現在、日本企業の対中投資の特徴とは、製造業を中心とした投資の下で、非
製造業分野に対する投資額も増大していることである。このような動向は、中国が「世界工場」
の役割を発揮する以外に、巨大な「国際市場」の潜在力を持っていることを表す。WTO に加
盟した後、中国市場の開放に伴い、日本企業は相次ぎ卸売業、金融業及びほかのサービス業に
参入した。つまり、対中投資は以前の「製造業中心の投資」から「製造業と非製造業が併存す
る投資」へ転換している。ポスト危機時代、日本の対中投資を制約する要素の一部が消え、一
部が弱まっている。一方、日本の対中投資を刺激する要素が強まっており、機会も増えている
ため、日本の対中投資は低潮期から脱出する可能性がある。
(1)日本対中投資の新しい機会
第 1 に、中国経済構造の調整である。現在、中国国内は積極的に科学的発展観を実行し、和
諧(調和がとれた)社会の構築のために努力している。いわゆる和諧社会は人を中心とし、人
と人の和諧、人と自然の和諧、経済発展と自然の和諧を含む。中国の経済モデルは、粗放型成
長から集約型成長、持続可能な発展方向へ転換している。この方針の指導の下で、選択的に外
資を導入する可能性がある。特に沿海部の発展地域では外資導入に対して更に慎重であり、高
汚染、高エネルギー消耗の外国資本が沿海地域に入ることは非常に難しくなる。これは、外国
からの投資にとってむろん挑戦になる。しかし一方、この環境の下で、外国投資の水準がます
ます高まり、リスクもますます小さくなる。新しい投資分野の出現に伴い、投資の空間がます
ます広がり、チャンスもより多くなる。これはまた日本の対中投資に機会を提供した。
第 2 に、世界経済は次第に回復に向かっている。現在、金融危機の殺傷力が弱まり、各国政
府が実施した積極的な金融財政政策の刺激の下で、世界経済はついに転機を迎えた。日本経済
は安定した回復傾向にある。実質 GDP 成長率は、第 2 四半期に 2.3%であり、第 3 四半期に
1.3%である 10)が、不安定性がなお残っている。アメリカ、ヨーロッパなどの先進国市場も回
復の兆しを見せたが、市場の回復が依然として緩やかである。中国は「保 8」
(GDP の年成長
率が 8%であることを保つ)目標の実現にすでに懸念がないが、完全に回復するまでまだ時間
が必要である。アメリカの国際貿易保護主義の台頭によって、中国の輸出はしばしば打撃を受
ける。また、中国企業は東南アジア、インドなどの新興市場経済国の企業との激しい競争に直
面している。ポスト危機時代、中日の経済貿易協力にはまたたくさんの不安定要素と挑戦が待
ち受けている。
しかし、世界経済の回復傾向が逆転することはない。周知のように、中日の経済協力は既に
はるかに中日両国の範囲を超えた。中国は、日本から技術水準の高い部品を輸入して国内で組
立て、それからアメリカ、ヨーロッパなどの最終消費地域に輸出して販売している。このよう
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に、「日本−中国(東南アジアなどの新興市場経済体)−欧米」の三角貿易構造を形成した。
このような構造は非常に不合理であり、日本、中国及びその他の発展途上国の外需依存度を強
めた。しかし、このような構造は短期間に根本的な変化を非常に起こしにくい。つまり、経済
グローバル化の波で、中日の経済貿易協力はすでに世界経済と緊密に一体になった。世界経済
の回復は、自然に中日の経済協力と日本の対中投資に新しい機会をもたらすことができる。
2009 年(1 ∼ 11 月)に日本対中投資の大幅な増加はこの点を証明した。
第 3 に、
「東アジア共同体構想」はポスト危機時代の日本対中投資にまた機会をもたらした。
鳩山首相が提出した東アジア共同体構築の構想は、画期的な戦略意義を持っている。東アジア
共同体構築の理念に促進され、中日の経済協力を阻害するいわゆる「自由と繁栄の弧の構築」
と「価値観外交」政策の影響力は大いに弱まる可能性がある。つまり、日本企業の対中投資を
制約する政治的な不利要素が減少する。東アジア共同体構想の提出は、日本がいっそうアジア
と中国を重視することを意味している。民主党の新政権が発足した後、鳩山首相が中国指導者
と頻繁に会見し、両国の関係が良好な状態にある。これは、中日両国の戦略的互恵関係の更な
る発展と、日本の対中投資に良好な外部環境を創造した。
第 4 に、将来に日本対中投資の分野と地域は極めて広くなる。電気機械、化学工業、家電、
服装、金融、保険などの現在進行中の投資分野において、依然として巨大な投資潜在力が存在
している。このほか、(1)自動車、特に省エネ自動車とその関連産業、(2)新しいエネルギー
と再生可能なエネルギーの開発と利用、(3)高速鉄道、都市の軌道交通、(4)原子力発電所な
どの分野は、将来に中長期の日本対中投資の重要な分野になる可能性がある。上述の分野のす
べては実際にエネルギー環境と関連している。気候変化の問題で全世界の関心を集め、温室ガ
スの削減が重要な歴史課題になる今日、中日両国がグリーン経済、省エネルギーの環境保護分
野で協力を強化することも歴史的に必然なことである。中日両国はアジアの最も重要な国家で
あり、エネルギーの消費大国でもある。また、エネルギー環境分野で多くの共通利益と提携の
潜在力が存在している。日本が省エネルギー環境分野で豊富な経験を蓄積しており、明らかな
技術優位を持っているため、中国にとって重要な参考価値がある。関連部門の予測によると、
今後省エネルギーの実施過程で、中国が大量の関連技術と設備を買収する予定であり、省エネ
建築だけで 2,000 数億ドルの投資潜在力が存在している。
「十一・五」
(2006 ∼ 2010 年)期間
の環境保護の投資が 1.4 兆元を必要とし、「十二・五」(2011 ∼ 2015 年)期間の環境保護の投
資も大幅に増加する可能性がある。中国の省エネ環境保護市場の巨大な潜在力は、両国の協力
展開に広大な空間を提供している。この分野における両国の協力は最も相互補完と WinWin
効果を発揮することができる。
これまでの日本対中投資の地域をみると、分布は極めて不均衡である。主に東部地域に集積
している。これは必然的に一連の問題を引き起こすことができる。沿海地域の未開発地域では、
社会インフラが既にかなり改善しており、投資環境が非常に良く、産業基盤が充実しており、
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また投資リスクが低く、投資リターンが速いなどの明らかな優位性を持っている。中部、東北、
西北及び西南地区では地域が広く、資源が豊富であり、経済成長の条件が整っており、投資空
間も広い。現在の状況をみると、もし沿海の日系企業を拠点にし、徐々に東部地域の更なる内
陸部及び内陸地域へ広げれば、非常にやりがいがある。
(2)いくつかの提案
A 政府側
長期的な協力と摩擦を経て、中日 2 国間の経済貿易協力が既に市場の軌道に乗り、市場の「見
えざる手」が重要な役割を発揮した。しかし、市場が機能しない時があり、現在現れている日
本対中投資の低潮期及び金融危機に現れた新しい困難がこの点を十分に証明した。このような
状況の下で、「政策」という手段を通じて調整しなければならない。中日両国の政府は、国際
金融危機に対応する過程で各種の手段を利用して 2 国間経済貿易協力が安定した発展を支える
べきである。官が民を指導し、官民協力を行う。これによって、日本の対中投資は新しい起点
から良い方向へ向かうことができる。政府側では、以下の 3 点をしっかり行うべきである。
(1)「中日韓投資協定」の署名を推進する。「中日韓投資協定」の締結によって、中日韓 3 カ
国の企業の相互投資がより順調に進み、自然に日本対中投資の順調な発展を促進することがで
きる。
(2)中日政府が共同出資し、
「中日省エネ環境保護基金」を設立する。中国と日本は省エネ
ルギーと環境保護分野での協力強化において、必然的に大量の資金投入を必要とする。省エネ
環境保護分野では公益性が比較的に高く、投資リターンの周期も比較的に長い、政府の前期投
入を非常に必要としている。そのため、中日政府が共同出資する「中日省エネ環境保護基金」
の設立を積極的に推進し、資金面において中日の省エネ環境保護協力を支えるべきである。自
民党時期、かつてこの議題を提起したことがあるが、各種の原因のため、放置されていた。コ
ペンハーゲン会議では各国が削減目標を明確にし、中日両国が厳しい試練に直面した。この基
金の設立によって、両国の削減目標の実現を促進することができる。
(3)「東アジア共同体」構築の進展を推進し、まず中日のエネルギー環境共同体を創立する
べきである。すなわち、「中日省エネ環境保護基金」の設立の下で、中日エネルギー環境共同
体の創立を推進する。条件が成熟すれば、中日韓あるいは東アジア地域のエネルギー環境共同
体まで拡大させる。エネルギー環境共同体の創立は、最も実現しやすく、最も切実であり、最
も中日間と東アジア各国間の共通利益を表現している。東アジアエネルギー環境共同体は、ヨー
ロッパの最初の「石炭鉄鋼共同体」に類似しており、将来、東アジア共同体の原形になる。共
同体の原形を形成した後、また漸進的に FTA/EPA、共通通貨単位、共通通貨の経済共同体へ
拡大させる。
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B 企業側
企業側では、最も肝心なのは中国と中国経済に対して客観的かつ正確な認識を持つべきであ
る。中国の経済モデル転換を正確に理解しなければならない。和諧社会を構築し、科学的発展
観を実行し、持続可能な発展を進めることは世界的潮流である。中国はもしこの転換任務を完
成することができれば、国民経済が更に高い段階で発展することができ、より大きなパワーが
現れる。それに伴い、外国投資者も更なるリターンを獲得することができる。中国の都市と農
村の市場が極めて大きいため、どの起点からスタートしても、巨大な需要が生まれる。
中国の投資環境では一部の変化が起こったが、中国の投資魅力は変わらない。また潜在的な
リターン率はより高くなるはずである。中国の社会インフラは比較的に完備しており、インド
やベトナムよりずっと良い。中日の経済貿易関係はすでに長期的な歴史(中日の政治関係が最
も厳しい時期を含む)を経験した。中国はすでに市場化し、基盤も整っており、日本企業の対
中投資の経験も比較的に多い。過去の円借款、エネルギーの低利融資は中国のインフラ建設に
貢献し、日本企業の対中進出に道を開き、十分に基礎を立てた。これまで、日本企業はすでに
中国に 690 数億ドルを投資し、生産や流通などの面で既に緊密な基盤を構築した。現在、中国
市場は潜在的な市場から現実的な市場へ向かっているため、正に最も利益を獲得しやすい時期
である。13 億人口の中国市場にさらに中華経済圏市場を加えると、インドやベトナムなどの国
よりずっと成熟している。北京からハルビンまでの工業回廊の建設は、ニューデリーからボン
ベイまでの工業回廊の建設よりも現実的である。日本企業は積極的に環渤海経済圏の開発に参
入する場合、
リスクがより小さく、利益獲得においてもより直接的で容易であり、利益も大きい。
2009 年(1 ∼ 11 月)に日本の対中直接投資額は 39 億ドルに達し、前年比 16.6%の増加となっ
た。金融危機の逆境の中で、回復の傾向が見られた。ポスト危機時代の中日経済貿易協力を展
望すると、機会が挑戦よりも多い。中日両国の政府は東アジア共同体構築という目標の下で、
できるだけ早く両国政府が共同出資する「中日省エネ環境保護基金」を設立し、中日エネルギー
環境共同体を構築し、中日の経済協力に新しい成長点を育成し、企業投資に良好な環境を創造
するべきである。また、日本企業はこのチャンスを逃すことなく、十分に世界経済の回復と東
アジア共同体構築の新しい機会を利用し、時機と情勢を推量して新しい起点で対中投資を拡大
し、共通利益と WinWin 効果を持った中日経済協力に貢献するべきである。
注
1)商務部公表の外資統計データから計算したものである。http://www.fdi.gov.cn/pub/FDI/wztj/wstztj/
lywzkx/t20091215_115862.htm。
2)商務部外資司:
『2009 年 1-11 月全国吸收外商直接投資快訊』。
3)『ジェトロ貿易投資白書』2009 年版。
4)張季風(2008 年)編:
『中日友好交流三十年(経済巻)』,社会科学文献出版社,15 ページ。
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張 季風:ポスト危機時代の日本対中投資の新しい機会と展望
5)王洛林(2008 年)編:
『日本経済藍皮書̶̶日本経済与中日経済関係発展報告(2008)』、社会科学文
献出版社,17 ページ。
6)商務部外資統計資料。
7)商務部外資司:
『2009 年 1-11 月全国吸收外商直接投資快訊』。
8)中日両国が日本の対中投資データにおいて大きな違いが存在する原因は、主に両国の統計手法が異なっ
ていることである。中国側の統計は日本の対中直接投資(製造業)で新しく増加した投資プロジェク
トしか含まないが、日本側の統計は国際収支基準に従っており、
(非製造業を含む)全業種だけでなく、
中国にある日系企業の利益再投資を含んでいる。
9)日本経済産業省:
『通商白書』
10)『日本経済新聞』2009 年 12 月 28 日、経済データ版。