資料 長野県工技センター研報 No. 2 , p.P35-P37 (2007) IEC61000-4-3第3版への試験対応 輕部俊幸* 柳沢秀信* 蜜澤雅之* Check on our Test System for the IEC61000-4-3 Third-edition Toshiyuki KARUBE, Hidenobu YANAGISAWA and Masayuki MITSUZAWA 2006 年 2 月に発行された放射性無線周波数電磁界イミュニティ試験の国際規格 IEC61000-4-3 第3 版について,精密・電子技術部門で現在保有する設備での試験実施可能範囲を検証した。その結果, 試験周波数 1000MHz までの一般要求周波数帯と,携帯電話等の無線機器の放射電波からの保護のた めに要求される周波数帯の一部について試験対応が可能であることを確認した。 キーワード:IEC 規格,無線周波数電磁界,イミュニティ 1 で試験を行っており,影響は無い。 はじめに 電子機器の電磁環境適合性(EMC)要求の一つである 放射性無線周波数電磁界イミュニティ試験の国際規格 IEC61000-4-3 第3版1)が 2006 年 2 月に発行された。 2.2 試験条件 規格で要求される試験周波数範囲,電界強度等につい て第2版(2002 年発行)と第3版(2006 年発行)との比較し IEC61000-4-3 は,携帯電話やトランシーバー等の無線 通信器により意図的に発生される電磁エネルギー,ある いは溶接機,サイリスタ,インバータ式蛍光灯等により たものを表1に示す。 2.3 電界均一領域の校正方法 規格では,試験時に試験品に電磁波を照射する面を 電 不用意に放射される電磁エネルギーに対する耐性を評価 界均一領域 と定義している。図1に試験配置と電界均 するための試験規格である。試験は,電波暗室内でアン 一領域を示す。この電界均一領域には試験実施前に電界 テナから電磁波を放射し,電磁波に曝された被試験品が 強度分布の均一性を確認する校正作業が要求されている。 誤動作を起こさないか確認を行う。 これまでは無変調電界の試験電界強度での校正が規定さ これまでの第2版からの主な変更点の確認を行い,精 れていたが,第3版では試験電界強度の+5.1dB(およそ 密・電子技術部門(以下,当部門)が現在保有する設備 1.8 倍)で行うことになった。これは,電力増幅器が飽 での第3版への対応可能な範囲を検証したので報告する。 和し,出力波形が歪んだ状態で試験を実施してしまうこ とを回避するためである。校正後に信号発生器の出力レ 2 ベルを校正時から 5.1dB 減じ電力増幅器に入力し,校正 IEC61000-4-3 第3版の主な変更点 第3版の主な変更点は,これまで電波暗室の代替とし て認められていた TEM セル及び反射箱を用いた試験が 区別された点,試験周波数範囲の 6GHz までへの拡大と, 時の進行電力の差分が 3.1dB 以上あることと合わせて確 認する。 このような条件の追加は,電力増幅器の出力パワーが 試験波形が歪んだ状態で試験実施してしまうことを回避 これまでの校正時よりも少なくとも+5.1dB 求められ,電 した(電界均一領域の校正方法変更)点である。 力増幅器の能力限界付近で試験してきた当部門にとって 2.1 は,大きな課題を与えられた。 試験の独立性 これまで電波暗室内で行う試験の代替法としてTEM 3 セル法(IEC61000-4-20),反射箱法(IEC61000-4-21)によ る試験が認められていた。第3版では「この規格は独立 3.1 電界均一領域の校正の実施 周波数範囲 80MHz∼1000MHz した試験方法である。この試験に適合していることを示 図1に示す試験配置で,アンテナの距離,高さ,電波 すために他の試験方法を用いることは認められない。」と 吸収帯の配置を変え,電界均一領域の電界強度分布を確 いう一文が付加され,このことにより他の規格を代用す 認し,最適な配置を検討した。ここで,当部門に持ち込 ることができなくなった。 まれる被試験品は,大きさが 1m×1m よりも小型である この点については,当部門ではこれまでも電波暗室内 ことが多いので,電界均一領域の大きさは 1m×1m とし, 電界強度測定ポイントは 0.5m 間隔の 9 点とした。主な * 試験装置を表2に示す。 電子部 -P35- 表1 要求内容比較 項目 第 3 版(2006) 第 2.1 版(2002) 一般的要求範囲 80MHz∼1000MHz 80MHz∼1000MHz デジタル携帯電話等対応 (各国,地域の事情による) 800MHz∼960MHz 1.4GHz∼6GHz 800MHz∼960MHz 1.4GHz∼3GHz 試験レベル 上記全ての周波数で1つ の試験レベルを使用。 1GHz を境に2つの試験 レベルが存在した。 掃引時間 0.5s より遅くすること。 機器の反応時間より速く ならないこと。 1.5×10-3decade/secよ りも速くならないこ と。 試験周波数 表2 80MHz∼1000MHz 試験時の機器一覧 機器名 メーカー 型番 仕様 信号発生器 Hewlett Packard 8341B 10MHz∼20GHz 電力増幅器 Amplifier Research 100W1000M7 80MHz∼1000MHz 100W アンテナ Schwarzbeck VULB9167 25MHz∼1.5GHz 電界センサ Amplifier Research FM1000 FP1000 10kHz∼1000MHz 電界均一領域 格子点が電界強度測定位置 電波吸収帯 送信アンテナ 図1 試験配置と電界均一領域 電界強度分布 電力一定 3V/m 水平 計算後 電界強度分布 電力一定 3V/m 垂直 計算後 8 電界強度 (dBV/m) 電界強度 (dBV/m) 8 6 4 2 0 -2 6 4 2 0 -2 0 200 400 600 周波数 (MHz) 800 1000 0 (a) 水平偏波時 200 400 600 周波数 (MHz) (b) 垂直偏波時 図2 電界強度分布(3V/m) -P36- 800 1000 電界強度分布 電力一定 10V/m 垂直 計算後 8 6 8 電界強度 (dBV/m) 電界強度 (dBV/m) 電界強度分布 電力一定 10V/m 水平 計算後 4 2 0 -2 -4 -6 6 4 2 0 -2 0 200 400 600 周波数 (MHz) 800 1000 0 (a) 水平偏波時 400 600 周波数 (MHz) 800 1000 (b) 垂直偏波時 図3 表3 3.1.1 200 電界強度分布(10V/m) 1GHz∼2GHz 試験時の機器一覧 機器名 メーカー 型番 仕様 信号発生器 Hewlett Packard 8341B 10MHz∼20GHz 電力増幅器 Avantek APG-2002 1GHz∼2GHz 1W アンテナ EMCO 3115 1GHz∼18GHz 電界センサ Amplifier Research FM1000 FP2080 80MHz∼40GHz れないことは明らかであるので,独立ウィンドウ方式を 試験電界強度 3V/m 試験電界強度 3V/m(校正時 6V/m)時の分布(規格書 採用した。ウィンドウサイズは規格で要求されている による計算後のもの)を図2に示す。規格が要求する 0.5m×0.5m とし,試験電界強度 3V/m(校正時 6V/m)の 75%に相当する7点以上の測定ポイントで全周波数帯に 均一性を4点全てが+6dB 以内にあることを確認した。 おいて+6dB 以内に納まることが確認された。また,校正 時における電力増幅器からの進行電力と,試験時の進行 4 電力の差が 3.1dB 以上であることも確認した。 3.1.2 まとめ 電界均一領域の校正と進行電力の検証を行い,その結 果,第3版による試験可能範囲は以下のとおりであるこ 試験電界強度 10V/m 使用した複合型アンテナ VULB9167 は先端のエレメン トから最後部のエレメントまで 1.1m の長さがある。ア とを確認した。 (1) 周波数帯 80MHz∼1000MHz で,電界強度(1V/m), ンテナと電界均一領域の距離を十分取ろうとすると,有 効なエレメントが後部に位置する低い周波数帯では 3V/m, 10V/m (2) 周波数帯 1GHz∼2GHz で,電界強度(1V/m), 3V/m 100W の電力増幅器では必要な電界強度を得ることがで しかしながら,電気医用機器への EMC 要求の国際規 きない。一方,低い周波数帯に合わせてアンテナを電界 格の最新版 IEC60601-1-2:2004 においても試験周波数は 均一領域に近づけると,700MHz 以上で均一性を確保す 2.5GHz まで要求されており,現状ではユーザーに十分な ることができなかった。そこで,200MHz を境にし,ア サービスを提供することができない状態である。 ンテナの位置を前後させ,必要な電界強度と均一性を得 今後も他の試験項目も含め,IEC 等の規格に準じた試 た。分布測定結果を図3に示す。さらに,進行電力の差 験を行い,県内企業の支援を引き続きできるよう,ハー も 3.1dB 以上であることも確認した。 ド,ソフト両面で十分検討を重ねていきたい。 3.2 周波数範囲 1GHz 以上 参考文献 主な試験装置を表3に示す。電力増幅器の定格が 1GHz∼2GHz,1W であることから十分な供給電力を得ら -P37- 1) IEC61000-4-3 Third edition. 2006
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