News Letter (Vol. 2) - 畠山研究室 - 東京大学

¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of researchers ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic
Spiral
News Letter Vol.2
C
o
n
t
e
n
領域代表挨拶
t
2012.11
s
1
畠山昌則(東京大学・大学院医学系研究科・教授)
組織・班員紹介
2∼3
公募研究紹介
4∼27
‫ڦ‬微小環境の定量解析に資する培養・イメージングシステムの構築
大場雄介(北海道大学・大学院医学系研究科・教授)
‫ڦ‬腸内細菌による大腸炎が大腸異型陰窩の幹細胞に作用し腺腫形成を誘導する機構
加藤光保(筑波大学・医学医療系・教授)
‫ڦ‬感染がんにおける炎症反応とがん免疫応答のパラドックス
渋谷和子(筑波大学・医学医療系・准教授)
‫ڦ‬C 型レクチン受容体を介した炎症制御と腸管ポリープ形成の解析
角田茂(信州大学・ヒト環境科学研究支援センター・助教)
‫ڦ‬胃がんおよび大腸がんの発症における細胞質病原体センサー蛋白の役割の解明
今村龍(金沢大学・がん進展制御研究所・助教)
‫ڦ‬腫瘍関連マクロファージへの核酸 DDS の開発
橋田充(京都大学・薬学研究科・教授)
‫ڦ‬がん微小環境制御因子としての細胞間バリアーの役割
月田早智子(大阪大学・医学部・教授)
‫ڦ‬炎症発がんにおける腫瘍細胞および間質細胞の起源の同定と分子標的への応答
前田愼(横浜市立大学・医学研究科・教授)
‫ڦ‬炎症抑制による制がんの分子機構
生田統悟(埼玉県立がんセンター・臨床腫瘍研究所・主任研究員)
‫ڦ‬ヒトパピローマウイルス感染による炎症・がん化の動物モデルとがん化の阻止
清野透(国立がん研究センター研究所・ウイルス発がん研究分野・分野長)
‫ڦ‬C 型肝炎ウイルスの持続感染化、生体防御応答による慢性炎症発症機序の解明
小原道法(公益財団法人東京都医学総合研究所・ゲノム医科学研究分野・副参事研究員)
‫ڦ‬EBV 感腺がん細胞増殖を促進するウイルス遺伝子発現の分子機構とその制御
鶴見達也(愛知県がんセンター研究所・腫瘍ウイルス学部・部長)
News & Topics
28
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of researchers ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
!領域代表挨拶
新学術領域「発がんスパイラル」も発足以来3年目を迎え、マラソンでいえばちょうど折り
返し地点を廻っている状況です。2 年目からは計画研究班12班が加わり、本領域がカバーす
る研究のすそ野も大きく拡大しました。本領域は感染、炎症、がんの三極から構成されるがん
を促進する負の生体応答「発がんスパイラル」を統合的に理解し、そこから得られる学問的ロ
ジックをがんの制圧につなげるべく研究を進めています。炎症は宿主免疫系が構築する複雑な
宿主反応であるため、その病態生理学的意義を解き明かすためには個体レベルでの研究が必須
となります。遺伝子改変マウスの作製や交配を含む動物実験は系の樹立ならびに観察に少なか
らぬ時間がかかるため、大きな成果が得られるまでにある程度の時間がかかることはやむをえ
ません。こうした中、本領域の各研究班間ではきわめて活発かつ濃密な共同研究が展開されて
おり、感染がんによる「発がんスパイラル」の形成機構、「発がんスパイラル」を構成する生
体応答系の本態、「発がんスパイラル」を破壊する免疫系の賦活化、さらには生体応答系の人
為的制御を可能にする新規ドラッグレリバリーシステム(DDS)の開発などにおいて既に重要な
研究成果が生み出され、優れた論文としてインパクトの高い国際誌に報告されています。先進
の DDS 技術を用いた「発がんスパイラル遮断」の研究は、一連のマウスを用いた遺伝学的研
究と融合することにより、今後大きなブレークスルーが生み出されることが大いに期待されま
す。
本領域研究は平成24年5月に外部評価委員による進捗評価を受けるとともに平成24年
9月には文科省による中間ヒアリングを受けました。中間ヒアリングの評価結果は A(研究領
域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)でした。領域研究を構成する各研
究者の高い意識を持った真摯な研究が個ならびに集団として生み出す成果がきわめて高く評
価されたものと感謝しております。折り返し地点を通過した現在、これまでの成果をより実り
あるものにするため、異分野研究者間の一層の連携の充実と目標達成への明確なロードマップ
の作成がきわめて重要と考えます。
本ニュースレターでは昨年度から参加の公募研究班を中心に研究の現状と成果を報告して
いただいています。掘り起こすべき新たな融合研究のシーズも至る所にちりばめられています。
新たな視点からの研究の連携から、さらなる学問的高見へ向けた発見や技術開発を生み出され
ることが期待されます。
領域代表 畠山昌則
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 1
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of researchers ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
!組織・班員紹介
|総括班|
研究代表者
【領域代表】
畠山昌則
松岡雅雄
所属・役職
研究課題名
東京大学・医学系研究科・教授
感染発がんエンハンサーとしての宿主応答とその制御
京都大学・ウイルス研究所・教授
ヒト T 細胞白血病ウイルス1型による免疫系の破綻機構
下遠野邦忠
千葉工業大学・附属研究所・教授
肝炎ウイルスによる代謝修飾・炎症による肝発がんとその予防
大島正伸
金沢大学・がん進展制御研究所・教授
上皮細胞腫瘍化と炎症反応の相互作用による消化管発がん機序
東
健
谷口維紹
瀬谷司
秋吉一成
神戸大学・大学院医学研究科・教授
感染・炎症によるゲノム不安定性と発がん機構
東京大学・生産技術研究所・特任教授
炎症・免疫応答からみた発がんスパイラルの解明とその制御法
北海道大学・医学系研究科・教授
感染発がんを変調する宿主炎症応答機構
京都大学・大学院工学研究科・教授
ナノ DDS を用いた制がんベクトル変換技術の開発
2 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
|公募班|
研究代表者
所属・役職
研究課題名
大場雄介
北海道大学・大学院医学系研究科・教授
微小環境の定量解析に資する培養・イメージングシステムの構築
加藤光保
筑波大学・医学医療系・教授
腸内細菌による大腸炎が大腸異型陰窩の幹細胞に作用し腺腫形成を誘導する機構
渋谷和子
筑波大学・医学医療系・准教授
感染がんにおける炎症反応とがん免疫応答のパラドックス
角田茂
信州大学・ヒト環境科学研究支援センター・助教
C 型レクチン受容体を介した炎症制御と腸管ポリープ形成の解析
今村龍
金沢大学・がん進展制御研究所・助教
胃がんおよび大腸がんの発症における細胞質病原体センサー蛋白の役割の解明
橋田充
京都大学・薬学研究科・教授
腫瘍関連マクロファージへの核酸 DDS の開発
月田早智子
前田愼
生田統悟
大阪大学・医学部・教授
がん微小環境制御因子としての細胞間バリアーの役割
横浜市立大学・医学研究科・教授
炎症発がんにおける腫瘍細胞および間質細胞の起源の同定と分子標的への応答
埼玉県立がんセンター・臨床腫瘍研究所・主任研究員
炎症抑制による制がんの分子機構
清野透
国立がん研究センター研究所・ウイルス発がん研究分野・分野長
ヒトパピローマウイルス感染による炎症・がん化の動物モデルとがん化の阻止
小原道法
公益財団法人東京都医学総合研究所・ゲノム医科学研究分野・副参事研究員
C 型肝炎ウイルスの持続感染化、生体防御応答による慢性炎症発症機序の解明
鶴見達也
愛知県がんセンター研究所・腫瘍ウイルス学部・部長
EBV 感染がん細胞増殖を促進するウイルス遺伝子発現の分子機構とその制御
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 3
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
微小環境の定量解析に資する培養・イメージングシステムの構築
研究代表者:大場雄介(北海道大学・大学院医学研究科・教授)
!研 究 目 的
炎症反応に動員される細胞を初め、生体内に存在する細胞は培養
条件下とは異なり種々の異種細胞と相互作用し、複雑系システムを
構築することで初めて機能します。この細胞の置かれる環境の差が、
培養細胞と個体での実験結果の相違につながる一因であると考え
られます。感染性外来因子に対する生体防御反応である炎症反応が
持つ複雑性、あるいは炎症性間質とがん細胞とのインターフェース
にある複雑性を理解するためには、異種細胞間の相互作用をダイナ
ミック、かつ分子レベルで定量的に解析可能な実験系を構築する必
要とされています。本研究では、生体内に近い 3 次元培養システム
と蛍光バイオイメージング技術を組合せることにより、複雑なシス
テムの時空間的制御機構を定量的に解析するために必要な「in vivo
と in vitro の架け橋」
になる実験系を構築することも目標に研究して
います。ここで確立された実験系を用いることで、生体内において
がん細胞と炎症性間質との間で繰り広げられる相互作用、さらには
感染に伴う炎症により引き起こされるがんの発生や悪性化のメカ
ニズムの一端を紐解き、新しい概念の治療法確立のための基盤技術
の創出が期待されます。また、私ども自身の研究過程で見出されて
きた、in vitro と in vivo の実験結果に存在するギャップの謎について
も明らかにしたいと考えています。これら一連の研究を通じて、in
vivo と in vitro の違いについて、
「その存在に気づいた時代」から「な
ぜ違うかを理解する時代」へと研究の潮流をシフトさせたいと志望
しています。将来的には、私達が別途開発中の生細胞を用いた分子
標的治療薬効果の体外診断薬を本実験系に適用し、生体内の薬剤効
果を予め予測可能な次世代の診断技術開発、あるいは、領域内の他
の研究者にも実験系を提供して有機的な連携を深めることで、領域
の発展や思いもよらなかった新たな学術的大発見へと繋げたいと
考えています。
!研 究 内 容
間質細胞、実質細胞、細胞外基質を様々な蛍光タンパク質や蛍光
色素でラベルし、私達がこれまで取り組んできた定量的な多次元バ
イオイメージングを用いて、3 次元環境下における細胞間相互作用
の定量的かつ時空間的な解析に資する実験系を構築中です。すなわ
ち、in vivo と培養細胞レベルの実験の中間的存在で、両者のメリッ
トを活かせる新たなレベルの実験系の構築を目指しています。この
ような実験系のメリットは、例えば細胞外基質の組成や液性因子の
濃度について、実験者が条件を任意に調整できること、ヒト由来の
細胞やタンパク質を使用可能であることが上げられます。したがっ
て、今後ますます知見が蓄積されると予想される、モデル動物を用
いた研究や in vivo イメージングの実験から得られる結果と、従前培
養細胞で蓄積されてきた知見との違いを理解することが可能とな
り、トータルとして慢性炎症による各種疾患発症のメカニズムに迫
るためのアダプターとしての役割を担うことが期待できます。実際
には、この培養系を用いて、口腔という常に病原体に暴露された環
境下に生じる口腔癌の悪性化の分子メカニズムを明らかにしたい
と考えています。
実際には、Sirius、SECFP、Venus、tdTomato, TFP650、Keima の 6
種類の蛍光蛋白質をアクチン、核、細胞膜、細胞接着斑それぞれの
移行シグナルに融合させ、細胞のオルガネラを多色マーキング可能
な発現ベクターライブラリーを構築しました(図1)
。蛍光タンパ
ク質と標的配列の組合せによっては目的とするオルガネラに移行
しない組合せも存在しましたが、両者間のリンカーの長さや疎水
性・親水性アミノ酸の構成比を調整することで本来の局在をとるも
のを作製しました。現在、あらたな蛍光タンパク質と他の標的配列
を融合させたベクター群をさらに作製、ライブラリーを拡充中であ
り、最終的には 50 を越えるライブラリーが完成し、複数種の細胞
を多彩な彩りで染め上げることのできるカラーパレットとなりま
す。
また、マトリゲルと I 型コラーゲンの混合ゲル上に口腔癌細胞
HSC-3 を播種し、重層化した扁平上皮癌巣を再構成することに成功
しています(図2)
。この系において、親株の HSC-3 では高分化型
扁平上皮癌巣が形成されたのに対し、RANKL 発現細胞では、低分
化型扁平上皮の像を呈し、癌蜂巣を逸脱した単細胞での浸潤像も認
められました。すなわち、生体内において口腔癌の悪性度を制御す
るRANKLの機能を解析可能なex vivoの系を構築することが出来た
ことになります。現在はこの標本をライブで観察することが可能に
なっており、上記蛍光蛋白質ライブラリーを導入し、発がん・炎症
性間質の相互作用のダイナミクス、とくに腫瘍関連線維芽細胞・腫
瘍血管内皮細胞・マクロファージ等との共培養系によって、口腔癌
細胞内での RANKL 発現誘導や RANKL による EMT 誘導の分子メ
カニズムを解明し、これら一連の研究を通じて発がんスパイラル解
明に寄与する成果を上げたいと考えています。
一方、これらの研究の過程で、RANKL がインテグリンα2 の発
現を介して I 型コラーゲンへの細胞接着能を亢進することを新たに
見出しました。RANKL のおとり受容体 OPG 処理と NF-κB 阻害薬
処理により、インテグリンα2 の発現レベルと接着能が低下したこ
とから、上記は RANK-NF-κB 経路を介することが明らかになりま
した。さらにこれらの経路は、エンドサイトーシスとインテグリン
のリサイクリング亢進を介して、最終的に細胞表面のインテグリン
β1 量の増加をもたらし、細胞接着能亢進を制御することが示され
ました(図3)
。これら因子の活性化はコラーゲンゲル中の細胞生
存を促進し、また in vivo においても RANKL 発現口腔癌細胞によっ
て形成された腫瘍内のアポトーシス細胞はコントロールに比し減
少していたことから、今回見出した経路は RANKL による腫瘍形成
能亢進の分子メカニズムの一端を説明可能な知見と考えられます。
4 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1996 年
2000 年
2000 年
2001 年
2004 年
2006 年
2012 年
北海道大学医学部医学科卒業
北海道大学大学院医学研究科修了(医学博士)
国立国際医療センター研究所流動研究員
大阪大学微生物病研究所・助手
東京大学大学院医学系研究科・助手
北海道大学大学院医学研究科・助教授(准教授)
現職
2001-2005 年
科学技術振興機構さきがけ研究員(兼任)
Sirius
SECFP
Venus
tdTomato
TFP650
Keima
(
)
*
+
$
%
&
'
!
"
#
図1
蛍光蛋白質オルガネラマーカのカラーパレット
図2
器官培養の一例
type I collagen!
survival!
RANKL
RANK
""##!
endocytosis!
NF-!B!
NF-!B!
図3
Regulator(s) of endocytosis!
Integrin !2!
RANKL による細胞接着亢進のメカニズム
参考文献:
1. Tsuda M and Ohba Y. Oral Cancer Kalu U. E. Ogbureke (.ed) InTech, Croatia, 388 pages (p277-294), 2012 (ISBN:
978-953-307-805-2).
2. Yamada T, Tsuda M, Takahashi T, Totsuka Y, Shindoh M and Ohba Y. Am J Pathol. 178, 2846 –2857, 2011.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 5
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
腸内細菌による大腸炎が大腸異型陰窩の幹細胞に作用し腺腫形成を誘導する機構
研究代表者:加藤光保(筑波大学・医学医療系・教授)
!研 究 目 的
がん遺伝子やがん抑制遺伝子の作用機序など、がんが発
生する分子メカニズムに関する研究は世界中でさかんに行
われているが、実際の組織の中における細胞のがん化過程を
組織レベルで詳細に解析している研究は乏しく、発がん初期
過程における腫瘍細胞の動態には不明な点が多い。ApcMin/+
マウスは、大腸に!カテニン蓄積陰窩(BCAC)を形成するが、
腺腫まで進行することはまれである。しかし、このマウスに
デキストラン硫酸塩(DSS)を飲水投与すると大腸炎が惹起さ
れ、腸内細菌の存在に依存して BCAC が急速に腺腫に進行
することが知られている。本研究では、このモデルを用いて
炎症が腫瘍を形成している細胞の増殖動態に及ぼす作用に
ついて、3次元定量病理組織学の方法を用いて解析すること
を目的とした。
!研 究 内 容
多くのがん研究は、がんの発生に寄与する遺伝子変化や分
子機能解析に向かっている。私達もこれまで、がんの進展を
支える血管新生の分子メカニズム 1), 2)や発がんに関与する分
子の同定とその作用機序の解析 3), 4)を行ってきた。今回私達
は、腫瘍の初期病変の成立過程における細胞動態を組織中で
定量的に解析する研究を行い、それにより、発がんにおける
炎症の役割について解析することを試みた。近年、正常組織
の維持や腫瘍の発生における組織幹細胞ならびにがん幹細
胞の意義に関する研究が盛んに行われている。しかし、治療
抵抗性や再発の元となるドーマントな細胞の特性について
腫瘍組織の局所で解析することはほとんど行われていない。
そこで、大腸下部粘膜の陰窩や初期腫瘍病変でゆっくり増殖
している細胞の動態解析を計画した。解析対象としては、
ApcMin/+ マウスにデキストラン硫酸塩(DSS)を飲水投与し
て発生する大腸腺腫を用いた。ApcMin/+ マウスは小腸に多数
の腺腫を自然発症するが、大腸に腫瘍が発生することはまれ
である。大腸では、!カテニン蓄積陰窩(BCAC)が多数認
められるので、Apc 遺伝子のセカンドヒットは起こっている
がそれだけでは腫瘍形成には至らないと考えられる。4-5 週
齢のこのマウスに 2% DSS を 1 週間飲水投与するとその 2.5
週後には平均 40 個以上の大腸腫瘍の形成が見られ、DSS 投
与によって BCAC が腺腫に進行したと判断された。そこで、
このモデルを対象として、腫瘍形成の初期段階における細胞
動態の解析を行った。ドーマントな細胞の動態解析を行うた
めの解析方法の特徴のひとつは、浸透圧ミニポンプを用いて
BrdU を持続投与し、BrdU 陽性細胞とともに陽性細胞集団の
中に混在する陰性細胞があることを発見し、その数の変化に
ついて解析を行ったことである。この方法により、DNA 複
製を行った細胞の核をラベルすることができ、BrdU 投与期
間を変えることで、陽性細胞の数の推移から細胞増殖動態を
解析することが可能となる。これと同時に、増殖帯でさかん
に細胞分裂を行っている一過性増幅細胞に混在して、BrdU
を数日間投与しても陰性のままで残っている増殖停止状態
にある細胞を同定することが可能になった(図1)。この細
胞は BrdU1回投与でラベルされる一過性増幅細胞から分化
した細胞として生まれるものではない。また、BrdU の投与
期間を変えた時の数の推移から間欠的に増殖していること
が示唆される。これらから組織幹細胞である可能性が高いと
考えられるが、その同定方法から間欠性増殖細胞(Geyser
cell)と呼称することとした。また、この実験方法では、BrdU
の細胞毒性により細胞増殖動態が変化してしまうことが懸
念されたが、少なくとも7日間の投与を行っても Ki67 陽性
の増殖細胞数に変化は見られず、核濃縮や核崩壊などの細胞
傷害像も観察されず、細胞毒性の影響は少ないものと判断さ
れた。方法のふたつめの特徴は、電子顕微鏡用の標本作製技
術を応用して 2µm 厚の連続切片を安定に作製し、コンピュ
ーター内で3次元構造を再構築して3次元空間内の定量解
析を行ったことである。これにより大腸粘膜組織の構成単位
である大腸陰窩と初期腫瘍病変の全細胞数、細胞周期を回っ
ている Ki67 陽性細胞数、BrdU 陽性細胞、陰性細胞の数など
を生物学的に意味のある単位構造あたりの実数としてカウ
ントすることが可能になった(図2)。多くの場合、市販の
ソフトウエア(VGStudio MAX)で解析可能であったが、各
切片の位置合わせと組織単位や核の自動検出・カウントに新
たな画像処理方法、画像処理プログラムを開発し、特許の出
願も行った 5)。
8 週齢 C57B/6 マウスの大腸下部正常陰窩は、間欠性増殖
細胞 10 個、一過性増幅細胞(Ki67 陽性)60 個、最終分化細
胞 130 個、全体で 200 個程度の細胞から構成されていた。間
欠性増殖細胞は 7.1 日に1回、一過性増幅細胞は 49 時間に
1回分裂していた。DSS 投与後の正常陰窩では、DSS 投与
終了 7 日目において、細胞総数が 800 個と過形成を示してい
る段階でも間欠性増殖細胞の数は7個程度とやや減少して
おり、一過性増幅細胞の増加とそれに比例する最終分化細胞
の増加により総細胞数の増加を生じていた。このことから
DSS により惹起された炎症は、間欠性増殖細胞の分化と一
過性増幅細胞の増殖を亢進することが示唆された。一方、
BCAC では、細胞総数が平均 300 個と 1.5 倍程度に増加して
いるだけだったが、間欠性増殖細胞が平均 170 個以上と総細
胞数の半数以上にまで極端に増加していた。さらに、DSS
が投与されると BCAC の総細胞数はカウント不可能なまで
に増加し、BCAC はさかんに枝分かれしながら腫瘍形成に向
かっており、間欠性増殖細胞も 400 個以上にまで増加してい
た。この間、これらの実験条件の変化に関わらず、間欠性増
殖細胞の分裂速度は常に 6-7 日に1回で変化しなかった(図
3)。
以上の結果から DSS 投与による炎症刺激は、間欠性増殖
細胞が主にゆっくり均等に分裂するために死ぬ細胞の数と
のバランスが維持され安定な動態を示している BCAC に、
間欠的増殖細胞のさらなる増加を維持しながら、一過性増幅
細胞の爆発的な増加をもたらして、死んでいく細胞数とのバ
ランスが消失し、総細胞数が一気に増加して腫瘍形成を誘導
していると考えられた。
6 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1985 年東北大学医学部卒業
1985-86 年 東北大学大学院医学系研究科病理学専攻
1986-87 年 仙台市立病院病理科医員
1987-95 年 東北大学医学部・助手(病理学教室第一講座)
1995-00 年 (財)癌研究会癌研究所・研究員(生化学部)
2000-02 年 同上 主任研究員
2002-04 年 筑波大学基礎医学系・教授(病理学)
2004-11 年 筑波大学大学院人間総合科学研究科・教授
(病理学)
2011 年- 筑波大学医学医療系・教授(病理学)
図1 BrdU#$%&'()*+,-./0123!
持続投与による間欠性増殖細胞の同定
図2 5$67189:'();<=3>?@ABC
連続切片の再構築による3次元定量組織学解析
!"BrdU
!4!
!;DSS %&'()!DEFGHIJK1LMNO*+,-./01PQBCRST BrdU J,/0
図3 DSS 投与による!カテニン蓄積陰窩の腫瘍化と間欠性増殖細胞の動態解析:黄色 BrdU 陰性細胞
参考文献:
1. Itoh F, Itoh S, Adachi T, Ichikawa K, Matsumura Y, Takagi T, Festing M, Watanabe T, Weinstein M, Karlsson S, and Kato M. Blood.
119, 5320-5328, 2012.
2. Tanaka A, Itoh F, Takezawa T, Itoh S and Kato M. Blood. 115, 4138-4147, 2010.
3. Nakano N, Itoh S, Watanabe Y, Maeyama K, Itoh F and Kato M. J Biol Chem. 285, 38023-38033, 2010.
4. Watanabe Y, Itoh S, Goto T, Ohnishi E, Inamitsu M, Itoh F, Satoh K, Wiercinska E, Yang W, Shi L, Tanaka A, Nakano N, Mommaas
AM, Shibuya H, ten Dijke P and Kato M. Mol Cell. 37, 123-134, 2010.
5. 特願 2012-140594
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 7
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
感染がんにおける炎症反応とがん免疫応答のパラドックス
研究代表者:渋谷和子(筑波大学・医学医療系・准教授)
!研 究 目 的
免疫系は、生体内で発生したがん細胞を排除することで、
がんの発症を抑制している。一方、最近では、免疫系が惹起
する炎症が発がんに促進的に働いていることも明らかにな
ってきている。このように免疫系は、がんの発症においてパ
ラドキシカルな作用を有している。
本研究では、免疫細胞に発現する膜型受容体 DNAM-1 に
着目して、がんにおける免疫系のパラドキシカルな機能の分
子メカニズムの一端を明らかにする。
!研 究 内 容
DNAM-1 は、NK 細胞や CD8+ T 細胞、CD4+ T 細胞、マクロファ
ージなどをはじめとする免疫細胞や血小板に発現する分子量65kDa
の膜タンパクである。DNAM-1 は、NK 細胞や CD8+ T 細胞に細胞
傷害活性を惹起する活性化受容体として同定された。また、私達は
DNAM-1 のリガンドとして CD155 (PVR、Necl-5)と CD112 (Nectin-2)
の2つの分子を同定し、これらの DNAM-1 リガンドが未分化型胃
がんや大腸がん組織にて高発現していることを見いだした。その後、
国内外から、卵巣がん、神経芽細胞腫、子宮頸がん、黒色腫などの
種々のがんにおいて、DNAM-1 リガンドが高発現していることが報
告され、DNAM-1 が、がん免疫応答に関与していることが示唆され
た。
がん免疫における DNAM-1 の役割を検討するために、私達は最
初に DNAM-1 リガンドを発現していない腫瘍株 RMA に CD155 を
強制発現させたトランスフェクタント (CD155-RMA)を作製し、こ
れを野生型マウスに移入して、がんの増大度とマウスの生存率を、
コントロール腫瘍株 (mock-RMA)を移入した群と比較検討した。そ
の結果、CD155-RMA は mock-RMA に比較して早期に拒絶され、ほ
とんどのマウスで腫瘍は増大しなかった。また、mock-RMA を移入
したマウスが約 50 日間で全例死亡したのに対して、CD155-RMA
を移入したマウスは 180 日後でも 80%生存していた。一方、
CD155-RMA を移入した野生型マウスに DNAM-1 と CD155 の結合
を阻害する抗 DNAM-1 抗体 (TX42)を投与すると、CD155-RMA は
拒絶されなくなり、マウスの生存率も低下して、60 日以内に全例の
死亡を認めた。さらに、内因性に CD155 を発現している腫瘍株
MethA を野生型マウスとDNAM-1 遺伝子欠損マウスに移入すると、
DNAM-1 遺伝子欠損マウスの生体内では、野生型マウスに比較して、
移入した MethA が早く増大し、60 日以内に全例のマウスが死亡し
た。一方、MethA を移入した野生型マウスでは、120 日目において
も 60%以上のマウスの生存を認めた。これらの結果より、DNAM-1
CD155-RMA を拒絶したマウス個体に、RMA を移入すると、CD155
を発現していないにもかかわらずナイーブマウスと異なり、RMA
が拒絶されることも観察された。この現象は、マウス個体から CD8+
T 細胞を除去すると認められなくなった。
以上のことから、
DNAM-1
は、細胞傷害活性を惹起してがんを排除するばかりではなく、がん
抗原特異的なメモリーCD8+ T 細胞を誘導することが明らかになっ
た。
次に私達は、化学発がんにおける DNAM-1 の役割を検討した。
DNAM-1 遺伝子欠損マウスと野生型マウスにメチルコラントレン
(MCA)を 25µg 皮下に投与し、線維肉腫を誘導して、発がん率と生
存率を比較した。その結果、野生型マウスでは MCA 投与後 180 日
目においても、発がん率が 50%未満であるのに対して、DNAM-1
遺伝子欠損マウスでは、180 日目の発がん率が 100%であった。ま
た、MCA 投与後 220 日目で野生型マウスが約 60%生存しているの
に比較して、DNAM-1 遺伝子欠損マウスでは全例が死亡した。これ
らの結果より、DNAM-1 が MCA にて誘導される線維肉腫の発がん
を抑制し、生存率を改善していることが明らかになった。さらに、
野生型マウスと DNAM-1 遺伝子欠損マウスにおいて発生してきた
線維肉腫の CD155 の発現量を定量 PCR にて比較検討した結果、野
生型マウスの線維肉腫では、ほとんどすべての肉腫が CD155 の発
現量が低∼中発現であるのに対して、DNAM-1 遺伝子欠損マウスの
線維肉腫の CD155 の発現量は、線維肉腫によって著しく高いもの
から低いものまで様々であった。このことから、野生型マウスの生
体内では、CD155 を高発現している肉腫は DNAM-1 の標的となり
排除されている可能性が考えられた。
さらに、別の化学発がん物質である 7,12-dimethylbennz [a]
anthracene (DMBA) を野生型マウスと DNAM-1 遺伝子欠損マウス
に塗布し、発生する乳頭腫の数を比較検討した。その結果、MCA
投与の結果と同様に DNAM-1 遺伝子欠損マウスでは早期から多数
の乳頭腫の発生を認めた。ところが驚くべき事に、単独では乳頭腫
を 誘 導 で き な い 程 度 の 少 量 の DMBA に 加 え て
12-O-tetradecanoylphorbol- 13-acetate (TPA)を塗布して乳頭腫を
誘導すると、予測に反して、DNAM-1 遺伝子欠損マウスで発生する
乳頭腫の数が野生型マウスに比較して著名に減少することが観察
された。TPA は STAT3 依存性に炎症に関与することも知られてい
ることから、本実験結果は DNAM-1 が炎症性発がんに促進的に関
与している可能性を示めしていると考えられる。
今後は、がんの排除と発がん促進という DNAM-1 の相反する機
能について詳細に解析を加えていく予定である。
は腫瘍に発現する CD155 と結合することにより、がんの排除に重
要な役割を担っていることが明らかになった。さらに、一度
8 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1987 年
1987 年
1993 年
1993 年
1996 年
1998 年
2000 年
2001 年
2003 年
2004 年
2011 年
筑波大学医学専門学群卒業
筑波大学附属病院内科研修医
筑波大学大学院医学研究科修了
DNAX Research Institute
岡山大学医学部・講師(研究機関研究員)
筑波大学基礎医学系(免疫)・講師
筑波大学臨床医学系(臨床免疫)・講師
理研 RCAI 免疫系受容体研究チーム・研究員
筑波大学基礎医学系(免疫)・講師
筑波大学大学院人総研究科(免疫)・准教授
筑波大学医学医療系(免疫制御医学)・准教授
参考文献:
1. Nakahashi-Oda C, Tahara-Hanaoka S, Shoji M, Okoshi Y, Nakano-Yokomizo T, Ohkohchi N, Yasui T, Kikutani H, Honda S, Shibuya
K, Nagata S and Shibuya A. J Exp Med. 209, 1493-1503, 2012.
2. Nakano-Yokomizo T, Tahara-Hanaoka S, Nakahashi-Oda C, Nabekura T, Tchao NK, Kadosaki M, Totsuka N, Kurita N, Nakamagoe K,
Tamaoka A, Takai T, Yasui T, Kikutani H, Honda S, Shibuya K, Lanier LL and Shibuya A. J Exp Med. 208, 1661-1671, 2011.
3. Nabekura T, Shibuya K, Takenaka E, Kai H, Shibata K, Yamashita Y, Harada K, Tahara-Hanaoka S, Honda S and Shibuya A. Proc
Natl Acad Sci USA. 107, 18593-18598, 2010.
4. Iguchi-Manaka A, Kai H, Yamashita Y, Shibata K, Tahara-Hanaoka S, Honda S, Yasui T, Kikutani H, Shibuya K and Shibuya A. J
Exp Med. 205:2959-2964, 2008
5. Tahara-Hanaoka S, Shibuya K, Kai H, Miyamoto A, Morikawa Y, OhkochiN, Honda S and Shibuya A. Blood. 107, 1491-1496, 2006.
6. Shibuya A, Tahara-Hanaoka S and Shibuya K. Curr Med Chem AIAA. 4, 53-58, 2005.
7. Tahara-Hanaoka S, Shibuya K, Onoda Y, Zhang H, Yamazaki S, Miyamoto A, Honda S, Lanier LL and Shibuya A. Int Immunol. 16,
533-538, 2004.
8. Shibuya K, Shirakawa J, Kameyama T, Honda S, Tahara-Hanaoka S, Miyamoto A, Onodera M, Sumida T, Nakauchi H, Miyoshi H and
Shibuya A. J Exp Med. 198, 1829-1839, 2003.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 9
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
C 型レクチン受容体を介した炎症制御と腸管ポリープ形成の解析
研究代表者:角田茂(信州大学・ヒト環境科学研究支援センター・助教)
連携研究者:岩倉洋一郎(東京理科大学・生命医科学研究所・教授)
連携研究者:唐策(東京理科大学・生命医科学研究所・助教)
連携研究者:樋口京一(信州大学・医学系研究科・教授)
連携研究者:松本清司(信州大学・ヒト環境科学研究支援センター・准教授)
!研 究 目 的
高齢化や食生活の変化に伴い、我が国では大腸がん罹患者
数は増加傾向にあり、その発症メカニズムの解明や治療法の
開発が強く望まれている。消化管は極めて多数の微生物と常
に接していることから、これら微生物との強い相互作用を介
して恒常性が維持されている。そのため、大腸がん発症にお
いては、これら微生物の影響を強く受けることが知られてい
るが、詳細については未だ不明である。
我々の研究グループはこれまで発生工学的なアプローチ
から生体の持つ免疫機構の基礎研究を中心に行なってきた。
特に炎症性サイトカインに注目し、世界に先駆けてインター
ロイキン(IL)-1 ファミリーおよび IL-17A 遺伝子欠損(KO)
マウスを樹立し、これらの生理機能の理解に大いに貢献して
いる。特に、IL-1 は免疫活性化に重要な役割を担うばかりで
なく、特定の条件下では IL-17 の産生誘導に関与することを
見いだしたが、IL-17A は新しい T 細胞サブセット Th17(IL-17
産生性 CD4+ T 細胞)から産生される主要なサイトカインで
あることがわかり、現在免疫学の分野では最も注目を集める
サイトカインとなっている。さらに、IL-17F KO マウスの解
析から、IL-17F は炎症性自己免疫疾患の病態形成には関与
せず、粘膜組織における感染防御機構において重要な役割を
担っていることを報告した(Ishigame et al. Immunity 2009;
角田ら.炎症と免疫 2009)。
一方、外来微生物に対するセンサー分子の解析も行ってき
た。特に樹状細胞(DC)に特徴的に発現し、糖鎖を認識す
る C 型レクチン様受容体(CLR)に注目し、シグナル伝達
モチーフとして ITAM を持つ Dectin-1、ITAM アダプター分
子を使用している Dectin-2 の KO マウスを独自に作製して機
能解析を行なった。これらの解析の中から、炎症性サイトカ
イン IL-1/IL-17 とこれら CLR は互いに密接な関係を持ちな
がら免疫機構を制御していることを見いだした。すなわち、
DC 上に発現する Dectin-1, -2 は、それぞれのリガンド糖鎖で
あるβグルカンあるいはαマンナン刺激に対して Th17 の分
化を促進するシグナルを伝えることを明らかにした(Saijo et
al. Immunity 2010; 角田ら.化学療法の領域 2012)。
このように我々は、これまで KO マウスを用いて炎症性サ
イトカインや CLR の生理機能の解析を行ってきた。その中
で最近、家族性大腸腺腫症のモデル動物である ApcMin マウス
を用いた解析から、IL-17A/IL-17F が腸管ポリープ形成に促
進的な役割を担っていることを見いだしている。一方、TLR
を介した腸内細菌との相互作用が腸管ポリープ形成に影響
を及ぼすことが報告されているが、CLR についてはほとん
ど解析がなされていない。
そこで本研究では、これまでのサイトカインおよび CLR
研究を発展させ、
「感染-炎症-がん」の関係について、
「腸 内
細 菌 -CLR-IL17-ポ リ ー プ 形 成 」軸に焦点を当て、CLR と腸
管ポリープ形成の関係を明らかにすることを目的とした。
!研 究 内 容
腸管ポリープを自然発症する ApcMin マウスと我々が独自
に樹立した CLR KO マウスである Dectin-1 および Dectin-2
KO マウスを交配して二重変異マウスを作出することにより、
ApcMin マ ウ ス に 自 然 発 症 す る 腸 管 ポ リ ー プ 形 成 に お け る
Dectin-1/2 の役割の解析を行っている。
これまでに、ApcMin Dectin-1 KO マウスでは、当初の予想
に反して、腸管ポリープ形成が増悪化することを見出した。
真菌感染の場合、Dectin-1 KO マウスでは IL-17 の産生が低
下するなど、Dectin-1 からのシグナルは IL-17 産生誘導に重
要であるため、ApcMin マウスの場合も同様に IL-17 産生低下
とそれに由来する腸管ポリープ形成低下を想定していた。し
かしながら、ApcMin Dectin-1 KO マウスに発生した腸管ポリ
ープ局所において、IL-17A/F の発現量低下は認められなか
った。また、ポリープ形成の増悪化に伴い、マトリックスメ
タロプロテアーゼ遺伝子など各種炎症マーカーの発現亢進
が認められた。最近 Cedars-Sinai Medical Center の研究グル
ープより、Dectin-1 KO マウスにおいては腸内真菌に対する
感染防御能の低下に起因する DSS 誘導大腸炎の増悪化が報
告されたが(Iliev et al. Science 2012)、我々のマウス飼育環
境下ではこのような増悪化は認められず、腸内真菌も検出さ
れていない。これらのことから、Dectin-1 からのシグナルは
これまでの想定とは全く別のメカニズムを介して腸管ポリ
ープ形成増悪化となっていると考えられ、現在、その解明を
目指している。
また、我々は食物として摂取した Dectin-1 リガンド糖鎖が
全身免疫系に作用することを見出しており(Yan et al. Biosci
Biotechnol Biochem 2011)、これらリガンド糖鎖の経口摂取
による腸管ポリープ形成への影響と臨床応用への可能性に
ついても検討を進めている。
10 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1998 年 東京大学農学部獣医学科卒業
2002 年 東京大学大学院農学生命科学研究科修了
2002 年 東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究セン
ター・助手
2007 年 同上・助教
2009 年 東京大学医科学研究所システム疾患モデル研究
センター・助教
2011 年 信州大学ヒト環境科学研究支援センター・助教
参考文献:
1. 角田茂, 西城忍.化 学 療 法 の 領 域 , 28, 59-66, 2012.
2. Yan H, Kakuta S, Nishihara M, Sugi M, Adachi Y, Ohno N, Iwakura Y and Tsuji NM. Biosci Biotechnol Biochem. 75, 2178-2183,
2011.
3. Saijo S, Ikeda S, Yamabe K, Kakuta S, Ishigame H, Akitsu A, Fujikado N, Kusaka T, Kubo S, Chung SH, Komatsu R, Miura N,
Adachi Y, Ohno N, Shibuya K, Yamamoto N, Kawakami K, Yamasaki S, Saito T, Akira S, and Iwakura. Immunity. 32, 681-691,
2010.
4. Ishigame H, Kakuta S, Nagai T, Kadoki M, Nambu A, Komiyama Y, Fujikado N, Tanahashi Y, Akitsu A, Kotaki H, Sudo K, Nakae S,
Sasakawa C, and Iwakura Y. Immunity. 30, 108-119, 2009.
5. 角田茂, 西城忍, 岩倉洋一郎. 炎 症 と 免 疫 , 17, 10-20, 2009.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 11
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
⫶ࡀࢇ࠾ࡼࡧ኱⭠ࡀࢇࡢⓎ⑕࡟࠾ࡅࡿ⣽⬊㉁⑓ཎయࢭࣥࢧ࣮⺮ⓑࡢᙺ๭ࡢゎ᫂
研究代表者:今村龍(金沢大学・がん進展制御研究所・助教)
!研 究 目 的
胃がん、大腸がんにおいては、その発症において、感染
細菌や常在細菌の、宿主との相互作用が重要な役割を果た
している。小腸や大腸においては常在細菌叢によるシグナ
ルが腸の恒常性維持に重要で、このシグナルの破綻が発が
んの要因となることが報告されている。また胃がんにおい
ては、ピロリ菌による感染が直接発がんの原因となること
が証明されている。よって宿主による細菌感染や常在菌の
監視機構は、発がんの防止において重要な役割を果たす。
Toll-like receptor (TLR) は主に細胞膜に存在し、細胞外の
病原微生物を監視する自然免疫システムである。これに対
し、最近、細胞質にも病原体の侵入を監視し、自然免疫を
活性化するセンサー蛋白が存在することが明らかになっ
た。このような細胞質病原体センサーとして、少なくとも
一 部 の NLR フ ァ ミ リ ー (Nucleotide-binding domain and
leucine-rich repeat containing family)蛋白が重要な役割を果
たすことが明らかになっている(図1)。胃や腸の局所に
おいても、これらの監視システムが協調して働き、細菌感
染や常在細菌をモニターしていると考えられる。面白いこ
とに NLR 蛋白は、細菌やウイルスなどの病原体成分ばか
りでなく、ATP や痛風の原因となる尿酸結晶、アルツハイ
マー病の原因といわれる!アミロイド、動脈硬化と関係す
るコレステロール結晶など様々な内因性のリガンドにも
反応し、炎症応答を惹起することが明らかになってきてい
る(Nature, 440, 2006, Nat. Immunol., 9, 2008, Nature, 464,
2010)。さらに、NLR ファミリー遺伝子の突然変異はクロ
ーン病をはじめとする種々の自己炎症性疾患の原因とな
る。
我々は世界に先駆けて、この細胞質センサーである NLR
ファミリーに着目しその生理的・病理的機能について解析
を進めてきた。また細胞質蛋白質 ASC は NLR 蛋白とカス
パーゼ1をつなぐアダプターとして働くことが明らかに
なっている。NLR 蛋白-ASC-カスパーゼ-1 の複合体により、
カスパーゼ1が活性化され、IL-1βや IL-18 等の炎症性サ
イトカインの前駆体から活性型へのプロセシングが触媒
される。我々は、さらに ASC がアポトーシスの誘導や、
NF-κB および AP-1 などの転写因子の活性化にも働くこと
を明らかにした (参考文献 2-4)。
一方、PYNOD (Nlrp10) は、我々が発見、同定した NLR
蛋白であるが、細胞レベルでの再構成実験から、この蛋白質
は逆に、ASC やカスパーゼ1の活性化を阻害する機能を持
つことが判った(参考文献 5)。さらに PYNOD トランスジェ
ニックマウスはエンドトキシンショックに耐性を示し、この
マウスから調製したマクロファージにおいてもカスパーゼ
1の活性が抑制されていることを明らかにした(図2、参考
文献 1)。つまり PYNOD は NLR 蛋白の中でも抗炎症作用を
持つユニークな分子である (図3)。
そこで本研究では、胃がんや大腸がんのマウス発がんモデ
ルにおいて ASC や PYNOD の病理的役割を、遺伝子改変マ
ウスを用いて個体レベルで解析し、明らかにすることを目的
とする。
割を解明するために、PYNOD のノックアウトマウスを樹立
した。またヒトおよびマウス PYNOD に対するモノクローナ
ル抗体も複数樹立している。PYNOD ノックアウトマウスは、
外見上正常で、発育や妊孕性などにも異常はみられない。現
在、このノックアウトマウスを用いて、自然免疫系および獲
得免疫系の応答を、マウス個体レベルあるいはマクロファー
ジや樹状細胞などの細胞レベルにおいて解析中である。
一方、胃がんの発生においては、上皮細胞での Wnt シグ
ナル亢進および間質細胞でのプロスタグランディン
E2(PGE2)の産生が重要と考えられている。この2つのシグ
ナルを単独で活性化させたトランスジェニックマウス
(K19-Wnt1 および K19-C2mE)は、それぞれ前癌病変や過度の
炎症といった異常が見られるものの、発がんに至ることはな
い。ところが双方のシグナルを同時に活性化させたトランス
ジェニックマウス(K19-Wnt1/C2mE, Gan マウス)では全例で
胃がんの発生が認められる (Gasteroenterology 131, 2006)。そ
こで、当がん進展制御研究所の大島正伸教授との共同研究に
より、これらのトランスジェニックマウスの胃病変部におけ
る NLR 蛋白ファミリーの発現をマイクロアレイで解析した
ところ、PYNOD の発現が C2mE マウス(炎症誘導マウス)
および Gan マウス(胃がん発症マウス)で著明に上昇して
いることを発見した。さらに PYNOD の胃病変部での高発現
は蛋白レベルでも確認された(図4)。この結果は、PYNOD
の発現が誘導される細胞および環境(刺激)が生体内に存在
するということを示唆しており、PYNOD が炎症∼発がんの
過程でなんらかの役割を担っていることが想定される。現在、
この胃がん発生モデルマウスと ASC、カスパーゼ1、PYNOD
各欠損マウスおよび PYNOD トランスジェニックマウスと
の交配を行い、さらなる遺伝子改変マウスを作製中である。
またPYNODは大腸において、恒常的な発現が認められる。
そこで大腸における炎症∼発がんにおけるPYNODの寄与を
調べるために、硫酸多糖体であるDextran Sulfate Sodium
(DSS)の投与による炎症誘導、さらに発がん誘発剤である
Azoxymethane (AOM) との組み合わせによる実験的大腸が
んのモデルを用いて、PYNOD欠損マウスやトランスジェニ
ックマウスと野性型マウスを比較検討中である。
胃がんマウスにおけるPYNOD発現の結果をふまえて、ヒ
トの疾患についても検討を加えている。当がん進展制御研究
所の源利成教授との共同研究により、胃がん患者のサンプル
について病変部位でのヒトPYNODの発現を定量PCRで検討
中である。さらにタンパクレベルあるいは組織レベルでの
PYNODの検出を試みる予定である。またヒト大腸がんにつ
いても同様にサンプルの供与を受け解析中である。
我々の研究は、PYNOD欠損マウスやトランスジェニック
マウスを用いて発がんに及ぼす影響を調べることで、NLR
ファミリーという新たな視点から発がん機序の解明や治療
への応用に挑むものである。
!研 究 内 容
我々は、自ら同定した PYNOD の生理的あるいは病理的役
12 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1989 年 熊本大学医学部卒業
1993 年 学位取得(熊本大学大学院医学研究科)
1993 年 熊本大学医学部附属病院中央検査部医員
1994 年 DNAX 研究所(米国)ポストドクトラルフェロー
1998 年 金沢大学・がん研究所・助手
2007 年 金沢大学・がん研究所・助教
2011 年 金沢大学・がん進展制御研究所・助教
現在に至る
参考文献:
1. Imamura R, Wang Y, Kinoshita T, Suzuki M, Noda T, Sagara J, Taniguchi S, Okamoto H and Suda T. J Immunol. 184, 5874-5884,
2010.
2. Hasegawa M, Imamura R, Motani K, Nishiuchi T, Matsumoto N, Kinoshita T and Suda T. J Immunol. 182, 7655-7662, 2009.
3. Hasegawa M, Kawase K, Inohara N, Imamura R, Yeh WC, Kinoshita T and Suda T. Oncogene 26, 1748-1756, 2006.
4. Hasegawa M, Imamura R, Kinoshita T, Matsumoto N, Masumoto J, Inohara N and Suda T. J Biol Chem. 280, 15122-15130, 2005.
5. Wang Y, Hasugawa M, Imamura R, Kinoshita T, Kondo C, Konaka K and Suda T. Int Immunol. 16, 777-786, 2004.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 13
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
腫 瘍 関 連 マ ク ロ フ ァ ー ジ へ の 核 酸 DDS の 開 発
研究代表者:橋田充(京都大学・薬学研究科・教授)
連携研究者:山下富義(京都大学・薬学研究科・准教授)
連携研究者:川上茂(京都大学・薬学研究科・講師)
連携研究者:樋口ゆり子(京都大学・薬学研究科・助教)
!研 究 概 要
腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、各種増殖因子やサイトカイン
を産生することで腫瘍の増殖・血管新生・転移において極めて重要
な役割を果たしている。これまでに、マクロファージに対して
選択的な毒性を有するクロドロネートを用いて腫瘍関連マ
クロファージを枯渇させることにより in-vivo マウス腫瘍モ
デルにおいて高い抗腫瘍効果が得られることが報告されて
いる。しかしながら、クロドロネートの作用は、免疫応答を
担う脾臓マクロファージも共に傷害することが問題である。
そのため、TAM のみを標的とした標的指向化ドラッグデリバリー
システム(DDS)構築は、新しい癌治療法への展開が期待できる。
一方、
TAMが示す腫瘍増殖作用は、
TAMが有するM2型phenotype
に起因するものであるため、TAM の phenotype を M2 型から炎症性
免疫応答を担う M1 型 phenotype へと再分化させるアプローチは
TAM 機能を阻害することに加え、M1 型マクロファージの有する抗
腫瘍作用も得ることが期待できる。最近の報告によると、I"B kinase
ノックアウトマウスにおけるマクロファージ、すなわち NF-"B 活
性化抑制によりTAM のphenotype をM2 型からM1 型へ誘導できる
ことが明らかにされている。また、TAM 中には NF-"B の構成
成分である p50 が過剰に発現しており、核内で p50 がホモダ
イマーを形成・蓄積し、転写が阻害されることがマクロファ
ージ M2 分化に寄与していることが知られている。また、p50
ノックアウトマウスにおいては TAM が M2 型 phenotype を
示さないことが知られている。これらの知見は、TAM にお
ける NF-"B 活性化の特異的な阻害により、phenotype を M2 型
から M1 型へ誘導できる可能性を示している。
本研究では、NF-"B 活性を抑制するオリゴ核酸の TAM への導
入による phenotype 変化に関して詳細な評価を行った。次に、TAM
マクロファージ上のマンノースレセプターに認識されるマ
ンノース修飾バブルリポソーム製剤の新しい調製法の開発
を進めた。また現在、NF-"B 活性を抑制するオリゴ核酸/マンノ
ース修飾バブルリポソーム複合体と超音波照射の併用によ
る担癌モデルマウスの TAM に対するオリゴ核酸の標的指向
DDS の最適化を進めている。
!研 究 内 容
マウス腹腔マクロファージを癌細胞培養液上清を用いて培養し
た TAM 類似のフェノタイプを示すマクロファージ(M2 様マクロフ
ァージ)への NF-"B 活性化阻害実験等により、TAM を標的とした
オリゴ核酸送達システムの開発を行っている。また、TAM を標的
とするマンノース修飾バブルリポソーム/オリゴ核酸複合体の最適
化を進めている。
まず我々の実験において、NF-"B (p50) siRNA 導入後にマ
クロファージの核中に存在する p50 量をウエスタンブロッ
トにより測定したところ、顕著な p50 量の減少が確認された。
そこで次に、in-vitro でマクロファージ中の NF-"B 活性について
siRNA を用いて抑制した場合のマクロファージのフェノタイプ変
化並びにそれに伴う免疫応答の変化について評価した。実験には、
マウス腹腔マクロファージに対してcolon-26 結腸癌細胞培養液上清
を用いて培養することで TAM 類似のフェノタイプを示すマクロフ
ァージ(M2 様マクロファージ)を作製した。M2 様マクロファージに
対し NF-"B 活性化を抑制する siRNA (p50) をリポフェクション法
により導入したところ、Th2 型サイトカインである IL-10 の産生量
が顕著に減少すると共に、Th1 型サイトカイン (IL-12、TNF-#並び
に IL-6)の産生量が顕著に増大した。また、腫瘍の血管新生あるいは
転移において重要な役割を果たす VEGF 及び MMP-9 の発現量も顕
著に抑制され、M1 型マクロファージの有する細胞傷害活性に大き
く寄与する一酸化窒素の産生量が有意に増大した。マクロファージ
は癌細胞が存在する微小環境に応じて phenotype を柔軟に変化させ
ることが知られており、癌細胞種によって TAM の性質が異なるこ
とも予想される。そこで、別の 2 種の癌細胞 (B16BL6 メラノーマ
細胞及び PAN-02 膵臓癌細胞) の培養上清を用いて M2 様マクロフ
ァージを作製し、同様の検討を行った。その結果、全ての癌細胞種
によってサイトカイン及び増殖因子の産生プロファイルに微小な
変化は認められたが、いずれのマクロファージにおいても、Th2 型
サイトカイン産生減少と Th1 型サイトカイン産生増加が認められ
た。これらの知見は、M2 様マクロファージ中の NF-"B 活性化を抑
制することによりマクロファージの phenotype が M2 型様から M1
型様へ変化したことを示唆するものである (Figure 1)。
siRNA (p50)を用いた TAM 様細胞の NF-"B 活性化の抑制による
phenotype 変化に関する知見を更に検証することを目的に、NF-"B
活性化を抑制できる別のタイプのオリゴ核酸であるNF-"B decoy を
用いた検討を行った。NF-"B decoy は細胞内で活性化された NF-"B
と結合することで、NF-"B 転写活性化を抑制する。これまでに、
NF-"B decoy を用いた検討においても、siRNA で得られた上記の知
見とほぼ同様の結果が得られていることを確認している。
一方、TAM のみならずマクロファージには、マンノースレセプ
ターが発現していることが知られている。従って、DDS キャリアへ
のマンノース修飾は、TAM 以外のマクロファージへの送達も促進
してしまう。核酸を超音波照射などの外部エネルギー照射部位であ
る腫瘍組織における TAM の細胞内へのみ送達させることができれ
ば、in-vivo での TAM の機能制御すなわち M1 型様への分化誘導を
可能にできると考えられる。このような考えの基、我々は糖鎖認識
による in-vivo 誘導と超音波応答による細胞穿孔を併せ持つマンノ
ース修飾バブルリポソーム開発を進めた(Figure 2)。本研究において、
マンノース修飾バブルリポソームの脂質組成の最適化を行うこと
で、従来のものより安定性に優れたマンノース修飾バブルリポソー
ムの調製に成功した。また、オリゴ核酸と静電的相互作用を介して
複合体を形成できることも確認した。固形癌モデルマウスに対して
最適化したマンノース修飾バブルリポソーム/オリゴ核酸を投与し、
腫瘍へ超音波照射を行ったところ、TAM へのオリゴ核酸の取り込
み促進が認められた。現在、腫瘍組織における TAM の M2 様から
M1 様への phenotype 変化とその際の抗腫瘍効果について現在評価
を進めている。
14 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1974 年 京都大学薬学部卒業
1979 年 京都大学大学院薬学研究科博士課程修了
1979 年 米国カンサス大学薬学部研究員
1980 年 京都大学薬学部・助手
1983 年 京都大学薬学部・助教授
1992 年 京都大学薬学部・教授
1997 年 京都大学大学院薬学研究科に配置替
2008 年 京都大学物質-細胞統合システム(iCeMS)教授(兼任)
現在に至る。
┿
M2஑ঐॡটই॓‫ش‬४
IL-10
(TAM)
IL-12
M1஑ঐॡটই॓‫ش‬४IL-10
high
low
low
Arginasehigh
NF-"B
iNOSlow
TNF-!
IL-6low
low
VEGFhigh
MMP-9high
NO2-low
⒴⣽⬊ቑṪࠊ⾑⟶᪂⏕ཬࡧ㌿⛣ಁ㐍
NF-"Bણਙ
೪਑
NF-"B siRNA
Arginaselow
¼NF-"B
iNOShigh
IL-12high
TNF-!high
IL-6high
VEGFlow
MMP-9low
NO2-high
⭘⒆ቑṪᢚไ
Figure 1. siRNA॑৷ःञNF-"Bણਙ೪਑पेॊTAMभইख़ঀॱॖউગী৲भා଑
参考文献:
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
Higuchi Y, Kawakami S, Oka M, Yabe Y, Yamashita F and Hashida M. FEBS Lett 580, 3706-14, 2006.
Un K, Kawakami S, Suzuki R, Maruyama K, Yamashita F and Hashida M. Hum Gene Ther 21, 65-74, 2010.
Un K, Kawakami S, Suzuki R, Maruyama K, Yamashita F and Hashida M. Biomaterials 31, 7813-7826, 2010.
Wijagkanalan W, Kawakami S, Higuchi Y, Yamashita F and Hashida M. J Control Release 149, 42-50, 2011.
Un K, Kawakami S, Yoshida M, Higuchi Y, Suzuki R, Maruyama K, Yamashita F and Hashida M. Biomaterials 32, 4659-4669, 2011.
Un K, Kawakami S, Higuchi Y, Suzuki R, Maruyama K, Yamashita F and Hashida M. J Control Release 156, 355-363, 2011.
Un K, Kawakami S, Yoshida M, Higuchi Y, Suzuki R, Maruyama K, Yamashita F and Hashida M. Hepatology 56, 259-269, 2012.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 15
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
炎症/発癌の下地形成における細胞間バリアー機能不全
研究代表者:月田早智子(大阪大学・医学部・教授)
!研 究 目 的
上皮組織を構成する上皮細胞は多細胞生物において、選択
的な物質やイオンを必要に応じて透過させ、不必要なものや
毒性のあるものを排除する隔壁を形成し、体内において大小
のコンパートメントを形成する。生体にとって危険な外部環
境に常にさらされ、内部環境を維持するという上皮細胞の役
割から、がんが 90%以上の高率で上皮細胞由来であるとい
うことも不思議ではない。上皮細胞シートの形成には上皮細
胞間接着が大きな役割を果たしているが、上皮細胞間接着の
特性の変化により、上皮細胞シートで囲まれて形成された内
部環境内の微小環境も変化する。こうした微小環境の変化は、
上皮細胞間接着装置のなかでもタイトジャンクションの特
性変化によるところが大きいと考えられる。クローディンは、
タイトジャンクションを構築し、その細胞間バリアー機能を
担う蛋白質として同定され、哺乳動物では少なくとも 27 種
類のサブタイプで構成されるファミリーを形成している。近
年、クローディンが細胞間バリアー機能のみならず、クロー
ディンサブタイプ特異的な重合様式により、細胞間の選択的
イオン透過性を制御すること、また一方で、重合・脱重合の
動的制御によるフラックスによる物質輸送を担うことが示
され、クローディンは生体内微小環境の規定因子として最も
重要なもののひとつであることが明らかになりつつある。本
研究では、タイトジャンクションにより形成される細胞間バ
リアーにおける細胞間イオン透過性とフラックスの分子基
盤、そして、それらの相互関係と異常による炎症/発がんの下
地としての微小環境の維持機構の解析を目的とする。そして
何らかの外来性の物質の投与により、物質透過性を任意に操
作できる方法の検討を行うことがねらいである。
!研 究 内 容
上皮細胞間接着装置であるタイトジャンクション TJ の透
過性変化が炎症に及ぼす影響を、プロトンを含むイオン透過
性、およびペプシンなど小分子に対する透過性(フラックス)
の両面から、特に、胃の主要なクローディンである胃型クロ
ーディン18ノックアウトマウス個体を作製・解析した。胃
炎は、胃酸の主成分であるプロトンによる胃組織への攻撃と、
プロトンに対する胃組織側の保護機能のバランスの破綻に
より生じると考えられている(Shay&Sun のバランス説)。
しかし、胃酸に対する保護機構の1つとしてのタイトジャン
クションの重要性については、タイトジャンクションの機能
障害を示すマウス個体がこれまで存在せず十分な証明がで
きていなかった。私共は、胃における主要な胃型クローディ
ン 18 のノックアウト(KO)マウスを作製し、胃タイトジャン
クションの生体における重要性や機能について検討した。
本 KO マウスでは、特性が変化した TJ を介してプロトン
の透過性が亢進する。そのため、壁細胞の成熟にともなう胃
酸分泌開始にともない、粘膜下へ胃酸が漏出し、IL-1βなど
の炎症性マーカーの上昇と、偽幽門腺化生性胃炎へと進行す
る。本マウスは、プロトンの粘膜下への漏出が胃炎を惹起す
ることを直接的に示したはじめての例である。一方、フラッ
クスの亢進は認められず、ペプシン等のプロトンより大きな
非イオン性の分子の透過による影響については、否定的であ
った。
胃炎の病態を調べるために、はじめに、Cldn18 ノックア
ウトマウス5週令マウスの HE 染色像を調べた。野生型マウ
スでは壁細胞や主細胞が見られるが、KO マウスでは明らか
に組織構築が変化し、壁細胞や主細胞の数は著しく減少して
いた。また、組織の広範囲に、炎症細胞の浸潤が認められ、
KO マウスの胃は、萎縮性胃炎を生じていることが明らかと
なった。
さらに胃炎の特性を把握するために、副細胞のマーカーで
ある TFF2 と主細胞のマーカーである内因子の蛍光染色をし
た。野生型マウスでは、TFF2 と内因子は、ほぼ局在を異に
するが、KO マウスでは共局在する SPEM 細胞が認められた。
さらに、腸上皮のマーカーである Villin で染色すると、野生
型マウスでは胃での染色は認められないにもかかわらず、
KO では染色が見られ、形態変化とともに、腸上皮化生を生
じている可能性が示唆された。
これらの所見は超薄切片電顕像の所見ともよく一致する
ものであった。野生型マウスでは、十分に分化した壁細胞や
主細胞が見られる。一方 KO の胃では、沢山の長い突起をだ
した幼弱で顆粒を含む SPEM 細胞が沢山見られた。
マウスの胃は離乳期まで成長する。胃内容物の pH 変化を
新生 1,2,3,4,14 日で調べてみると、新生 3∼4 日目で低下する
のが分かった。このとき、炎症のマーカーとして IL-1βの発
現量を調べてみると、胃内容の pH 低下と時期を同じくして
IL-1βの mRNA レベルが上昇してきた。このことから、
Cldn18KO マウスでは、胃酸分泌開始にともなうプロトンが、
発症の原因であることが示唆された。
さらに、まだ胃酸の分泌が見られない出生1日目のマウス
に、チューブを用いて経口的に酸を投与すると、KO のみで
IL-1βmRNA の発現が上昇した。炎症の開始が、胃酸による
ことが示唆された。
次に、Cldn18KO 出生 2 日目マウス胃のタイトジャンクシ
ョンの特性変化を、2チャンバーを用いた生理学的な解析で
検討した。Cldn18KO マウスでは、電気の透過性が上昇し、
野生型マウスで見られるアピカル側溶液への酸負荷による
電気抵抗の上昇も認められなかった。また、プロトンの透過
性が大きく亢進していた。一方、分子量約 400Da のビオチ
ンの透過性は認められなかった。Cldn18 が酸抵抗性の細胞
間バリアーを形成することが特徴づけられた。
今回の Cldn18 ノックアウトマウスで、萎縮性胃炎を生じ
たことは、クローディンの発現変動やそれにともなう微小環
境の変化が、がん発生の結果ではなく、原因ともなりうるこ
とを実験的に示唆したといえる。私たちは、こうした研究成
果を背景に、タイトジャンクションがつくる微小環境と炎症
およびがん化との関連をさらに解析することで、がんの発症
機構や抑制/治療基盤において、新しい概念を構築すること
を目指している。
現状では、Cldn18 ノックアウトマウスは萎縮性胃炎まで
進行しつつも、異型性やがん化への進行は認めていない。
TJ の障害は、胃酸の透過による炎症を惹起し、胃がんの下
地を形成する可能性が示唆されるが、発がんの発生には、
さらに危険因子が前提となると考え、現在、こうした付加基
盤について、異種のトランスジェニックマウスとの交配を行
うことなどの手法を用いて、検討中である。
16 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1976 年
1982 年
1982 年
1986 年
1990 年
1994 年
2003 年
2006 年
東京大学薬学部製薬化学科卒業
東京大学大学院医学系研究科博士課程 修了
日本学術振興会・奨励研究員
東京都臨床医学総合研究所超微形態研究部門・研究員
岡崎国立共同研究機構生理学研究所生体情報系・助手
京都大学医療技術短期大学部看護学科・教授
京都大学医学部保健学科検査技術科学専攻・教授
大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科・教授
参考文献:
1. Lei Z#, Maeda T#, Tamura A#, Nakamura T, Yamazaki Y, Shiratori H, Yashiro K, Tsukita S$ and Hamada H$. Dev Biol. In press. ( #
equal contribution , $ corresponding author )
2. Itoh M, Tsukita S, Yamazaki Y and Sugimoto H. Proc Natl Acad Sci USA. 109:9905-9910. In press.
3. Hayashi D#, Tamura A#, Tanaka H, Yamazaki Y, Watanabe S, Suzuki K, Suzuki K, Sentani K, Yasui W, Rakugi H, Isaka Y and
Tsukita S. Gastroenterology 142, 292-304, 2012. ( # equal contribution )
4. Kunimoto K, Yamazaki Y, Nishida T, Shinohara K, Ishikawa H, Hasegawa T, Okanoue T, Hamada H, Noda T, Tamura A, Tsukita S
and Tsukita S. Cell 148, 189-200, 2012.
5. Yamazaki Y#, Tokumasu R#, Kimura H and Tsukita S. Mol Biol. Cell 22, 1495-1504, 2011. ( # equal contribution )
6. Yano T, Yamazaki Y, Adachi M, Okawa K, Fort P, Uji M, Tsukita S and Tsukita S. J Cell Biol. 193, 319-332, 2011
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 17
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
炎症発がんにおける腫瘍細胞および間質細胞の起源の同定と分子標的への応用
研究代表者:前田愼(横浜市立大学・医学研究科・教授)
マウス胃癌モデルの作成を行っている。HER2(EGFR2)はヒ
ト胃癌においてその高発現が約20%に観察され、その中和
Helicobacter pylori(H. pylori)感染が惹起する、胃上皮細胞 抗体であるハーセプチンはすでに臨床応用されている。そこ
における遺伝子変異やマクロファージに代表される炎症細胞 で、臓器特異的に発現可能な HER2 トランスジェニックマウ
浸潤が発癌や増殖に関与することは、国内外の無数の研究が スの作成を行った。前腸に発現する FOXA3-cre マウスとの
示唆している(1)。しかしながら発癌機序を完全に説明し、 交配により、胃上皮の過形成が観察されている(図1)。ま
発癌の予見、抑止する段階には至っていない。進行胃癌はい た、胃上皮の幹細胞に発現があるとされる cytokeratin-19-cre
まだ難治疾患であり、近年分子標的治療の有用性が叫ばれて マウスとの交配を行っている。Helicobacter 感染はヒト胃癌
いるが、胃癌には有効なものはなく、標的分子の解明を含め の発生において、前癌病変である萎縮性胃炎や腸上皮化生を
た治療法向上は急務である。1994 年 John E. Dick らが血液癌 惹起するが、この感染と上記の遺伝子改変マウスの組み合わ
幹細胞と同定して以来(2)(Nature. 1994;367:645-648)、消化 せによって、ヒト胃癌発生に近似したモデルの構築が可能で
器においても癌幹細胞の存在が明らかとなってきた。胃体部 あると考えている。同様の検討は k-Ras トランスジェニック
は表層上皮細胞、壁細胞、主細胞、副細胞からなり、更に腺 マウスを用いても行っている。
頸部にはすべての分化細胞を産生する胃幹細胞が存在すると 2.幹細胞培養の腫瘍形成能の検討 組織幹細胞と腫瘍幹細
考えられている。組織幹細胞と腫瘍幹細胞の間には自己増殖 胞の間には自己増殖能や非対称分裂能などの共通点がある
能や非対称分裂能などの共通点があることから、腫瘍細胞の ことから、時に混同されることもあるが、腫瘍細胞の起源を
起源を探る上で、組織幹細胞の詳細な検討は不可避である。 探る上で、組織幹細胞の詳細な検討は不可避である。マウス
胃癌がこの組織幹細胞に由来するのか、分化した上皮前駆細 より胃組織幹細胞分離、培養が報告されたことを受け、本研
胞に由来するのかは定かではなく、これらを特定することに 究室においてもマウス胃よりオルガノイド培養法を確立し
よって、発癌過程の初期段階を捕らえることが可能となると た(図 2)
(4)。炎症によって、胃組織幹細胞にどのような
考える。胃組織幹細胞のマーカーとして、Dcamkl-1、TFF2、 変化が起こるのかを、Helicobacter 感染胃より組織幹細胞培
cytokeratin-19 が報告されているが、これらのマーカーの解析 養を行い、その変化の解析を行っている。さらに MNU 化学
から、胃癌細胞の起源や、どの系統に単独ないし複合遺伝子 発癌剤による発癌モデルや HER2, k-Ras トランスジェニッ
変異が発癌に強く寄与しているのかなどが明らかになると考 クマウスより、幹細胞分離を行なった。その細胞群では胃癌
えられる。我々はこれまでコンディショナルノックアウトマ 幹細胞マーカーでもある CD44 の発現の上昇が確認された。
ウスを用いた経験から、前述した各上皮系統(CK19, TFF2 他) その後、免疫不全マウスに移植することにより、その腫瘍形
に特異的に発現する cre マウスと Ras 関連遺伝子など既知の癌 成能を検討中である。
遺 伝 子 変 異 の flox マ ウ ス を 掛 け 合 わ せ る こ と 、 更 に 3.腫瘍組織周囲の間質細胞(腫瘍微小環境)の解析
Helicobacter 感染や、MNU などの発癌物質の投与を行うこと 担癌動物から胃を採取し、すでに確立した方法で、線維芽細
により、癌細胞の起源を詳細に検討する。すなわち第一の到 胞、間葉系幹細胞を可能な限り分離、培養する。複数の胃癌
達点として、胃癌細胞の起源を解明し、浸潤・転移を認める モデルマウスから、間質細胞を分離することにより、マウス
胃癌マウスモデルを確立し、治療薬開発に役立てることであ モデル間での間質細胞の特徴付けも、FACS やマイクロアレ
る。
イ遺伝子発現変化などで検討する。また胃癌細胞株とそれら
癌組織周囲における線維芽細胞をはじめとする間質細胞が 分離できた間質細胞の混合溶液をヌードマウスなどに接種
腫瘍細胞の増殖や転移に深く関わっていると考えられている。 し、腫瘍増殖や血管新生などへの関与も検討し、より腫瘍の
しかしながら、Helicobacter 感染胃癌において腫瘍微小環境と 増殖や悪性化、転移などに関与する間質細胞を同定する。さ
発癌そのものを解明した詳細な報告は少ない。発癌スパイラ まざまな解析により間質細胞の情報から、これらの間質細胞
ルの観点からは、Timothy Wang らのグループが炎症性サイト と、胃の発生および発癌の初期段階に関わる経路を、RNAi
カイン IL-1beta 高発現マウスに胃癌を誘発したことから、 や利用可能であれば既存の分子標的薬を用いることにより、
Helicobacter 感染の一つの宿主反応であるサイトカイン産生 それらが胃の発生や発癌にどのように関わるか、動物モデル
が myeloid-derived suppressor cells(MDSCs)の骨髄からの動員 を用いて検討する。また、間質細胞における既知の遺伝子変
を促し、胃発癌に強く関与することを報告した(3)。この報 異が、上皮性腫瘍の発癌に関与しているとする過去の報告を
告は、消化管などの末梢組織の発癌と炎症細胞の供給源であ もとに、この仮説が胃癌モデルでどのような位置をしめるか、
る骨髄の強い関連を示している。慢性萎縮性胃炎においてマ 検討する。使用するモデルは、強い表現型を呈した胃癌モデ
クロファージ、線維芽細胞などが骨髄から胃に遊走しそれら ルに間質細胞特異的な遺伝子変異を施したマウス骨髄を骨
が腫瘍増殖に関与していることが報告されているが、この相 髄移植し、間質細胞特異的な遺伝子変異と胃発癌および腫瘍
互作用が、胃発癌を検討するうえで重要な役割を果たしてい 増殖との関わりを検討する。これまでに、重要な炎症性サイ
ることを示している。我々は、骨髄由来の細胞が Helicobacter トカインである IL-6 についての発癌への関与の解析を行っ
感染胃に遊走し、そこで組織幹細胞をサポートするための環 た。IL-6 ノックアウトマウスでは MNU 化学発癌による胃腫
境 stem cell niche を形成し、正常胃底線組織の発生、形態維持 瘍発生が減少した。このモデルにおいて IL-6 は腫瘍内の主
に重要な役割を果たしていると考えている。その中で骨髄間 に線維芽細胞に発現しており、胃細胞に対して STAT3 を活
葉系細胞(MSC; mesenchymal stem cells)に着目し、Helicobacter 性化することにより、腫瘍増殖に関与していた。現在、間質
胃癌との関連を検討することは、これまでとは異なる経路に 細胞特異的に遺伝子変異をおこすため、alpha-SMA などのプ
よる発癌機序として検討が必要であると考えている。したが ロモーター下に cre を発現するマウスを用いて、IL-6 発現制
って、第二の到達点は腫瘍微小環境の発癌への役割の検討で 御に重要なシグナル伝達系である NF-kB 活性化をその重要
ある。
なキナーゼである IKKbeta を制御することによる腫瘍発生
への影響の検討を行っている。
!研 究 内 容
1.マウス炎症発癌モデルの構築 腫瘍の起源の探索のため
!研 究 目 的
18 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1993 年
1993 年
1996 年
2000 年
2001 年
2005 年
2008 年
2008 年
2010 年
北海道大学医学部卒業
東京大学医学部附属病院内科研修医
東京大学大学院医学研究科入学
同卒業 医学博士
University of California, San Diego
朝日生命成人病研究所附属丸の内病院
消化器科部長
東京大学医学部附属病院消化器内科・助教
東京大学医学部付属病院消化器内科・特任講師
横浜市立大学医学部消化器内科・主任教授
!"#$%&
図1HER2
HER2()*+,-./012+345
トランスジェニックマウスの作成
!'
!6!
図2 789:;<=>?
胃オルガノイド培養
!
IL-6 37AB3CD3EF
図3!@!
IL-6 の胃癌への関与の検討
! ! ! ! ! ! ! !
参考文献:
1. Maeda S and Omata M. Cancer Sci. 99, 836-42, 2008.
2. Lapidot T, Staed C, Vormoor J, Murdoch B, Hoang T, Caceres-Corles J, Minden M, Paterson B, Callgiuri MA and Dick JE. Nature.
17, 367, 645-8, 1994.
3. Tu S, Bhagat G, Cui G, Takaishi S, Kurt-Jones EA, Rickman B, Betz KS, Penz-Oesterreicher M, Bjorkdahl O, Fox JG and Wang TC.
Cancer Cell. 4, 14, 408-19, 2008.
4. Barker N, Huch M, Kujala P, van de Wetering M, Snippert HJ, van Es JH, Sato T, Sato T, Stange DE, Begthel H, van den Bom M,
Danenberg E, van den Brink S, Korving J, Abo A, Peters PJ, Wright N, Poulsom R and Clevers H. Cell Stem Cell. 8, 6, 25-36, 2010.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 19
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
炎症抑制による制がんの分子機構
研究代表者:生田統悟(埼玉県立がんセンター・臨床腫瘍研究所・主任研究員)
!研 究 目 的
Aryl hydrocarbon receptor (AhR)は、ダイオキシン等の化学
物質をリガンドとし、その毒性を仲介する因子として知られ
ている一方、その生物学的機能が明らかにされつつある。
我々は AhR の生物機能を調べる目的で AhR ノックアウト
(AhRKO)マウスの表現形を解析し、その過程で盲腸にがんが
自然発生することを見いだした。AhR はリガンド依存性の
転写因子であり、CYP1A1 等の薬物代謝酵素の転写を活性化
する作用があること、また E3 ユビキチンリガーゼ複合体の
基質認識部位として働き、エストロゲン受容体およびアンド
ロゲン受容体の蛋白分解に関わる分子である。AhR KO マウ
スの発がん機構を調べると、AhR のユビキチンリガーゼ活
性は!-catenin 蛋白を分解することが明らかとなった。組織幹
細胞において、!-catenin の活性化は Wnt シグナル経路の活
性化を導き、がん幹細胞への変化を促すことが示されている。
!-catenin の安定化が、盲腸において腸上皮細胞のがん化に
critical な働きをすることが示唆された。
一方、発がんおよびがんの悪性化には、炎症反応がかかわ
ることが古くから知られている。消化器官では、生息するバ
クテリア等の微生物に対する生体の免疫反応ががんの発生、
悪性化に重要な役割をもつ。このマウスの腫瘍形成部位は、
ほぼ決まって盲腸内部の小腸に近いエリアである。!-catenin
の安定化は遺伝的に決められたことであり、組織特異的な現
象とは考え難い。にもかかわらず腫瘍が形成されるのは常に
特定の部位であるという現象は、この部位を決定しているの
は、遺伝要因ではなくむしろ環境要因であることを示唆して
いる。
AhRKO マウス にみられる腫瘍形成は、!-catenin の安定
化だけで進行するのか、それとも組織の炎症反応を必要とす
るのであろうか。このマウスのがんと炎症との関連を調べる
目的で、研究をおこなった。
!研 究 内 容
AhRKO マウスにみられる発がんと炎症との関連
このことについて検討するため、2種類のマウスを用いて実
験した。
1)無菌的に飼育された AhRKO マウスを用いた解析
無菌的に飼育されたマウスでは、腸内細菌と宿主との相互
作用が減少し、組織の炎症は低下すると考えられる。このよ
うな状況でもがんは生じるのだろうか。SPF 条件化で飼育さ
れた AhRKO マウスは、およそ 10 週齢以降のほぼ全てのマ
ウスに腫瘍が生じる。一方、germ free で AhRKO マウスを
25 週齢まで飼育したところ、盲腸では!-catenin の蓄積が観
察され、また c-myc の発現も見られたにもかかわらず、腫
瘍は生じなかった。このことから、このマウスの盲腸におけ
る腫瘍形成には、腸内細菌に対する宿主の炎症作用が重要で
あることが示唆された。トリプトファン代謝物の中には AhR
の内因性リガンドの性質を示す物質がある。germ free で飼
育されたマウスの糞では、このような物質の含量が低下し、
さらに AhR の発現量も低下していた。腸内細菌と宿主の相
互作用を通して AhR リガンドの産生と AhR 発現が制御され、
組織の恒常性の維持に関与していると考えられる。
2)AhR・ASC 二重遺伝子ノックアウトマウスを用いた解
析
炎症性腸疾患の患者は,大腸がんを発生するする危険性が
高くなると考えられている。発がんと炎症の関連を検討する
ため、AhR・ASC 二重遺伝子ノックアウト(DKO)マウスを作
製した。ASC は、IL-1!前駆体を成熟型に変換する Caspase-1
の活性化に必須な因子であり、ASCKO マウスでは炎症反応
は低下する。また、AhR は NF"B と協調し、plasminogen
activator inhibitor-2(PAI-2) の転写を活性化することをとお
して IL-1!産生を抑えることが示されている。
はじめに、各遺伝子型マウスで、炎症レベルを比較した。
LPS 刺激後の敗血症ショックによる死亡率は、AhRKO マウ
スが最も高く、DKO マウスでは正常マウス(WT)より低かっ
た。個体のレベルで AhRKO マウスの炎症亢進と、DKO マ
ウスの炎症の低下が示された。これに対応して血中の炎症性
サイトカインレベル(IL-1b, IL-6)は、AhRKO マウスが最大で
あり、DKO マウスで最も低かった。次に、DKO マウスの盲
腸の腫瘍形成を調べた。このマウスは組織学的に AhRKO マ
ウスの場合と同じく管状腺がんを生じるが、がんを生じる時
期は 40 週以降に遅延することがわかった。これらの実験結
果は、AhRKO マウスにみられた炎症の亢進が、盲腸特異的
ながんの発生を促進していることを示唆している。
がんを生じるために重要な炎症シグナルについて
1)Caspase-1:さらに発がんにおける炎症の役割を検討す
るため、AhRKO マウスに Caspase-1 阻害剤である YVAD を
腹腔投与し、溶媒のみを投与した AhRKO マウスと比較した。
がんの大きさならびに悪性度は、阻害剤投与群で有意に低下
した。これらより、AhRKO マウスにみられる発がんは、ASC
を介した Caspase-1 の活性化による IL-1!など炎症性サイト
カインの亢進を必要とすることが示唆される。
2)Jak-Stat:Jak-Stat シグナルは、サイトカインのシグナル
伝達に重要な経路で、中でも Stat3 は多くのがんにおいて恒
常的に活性化している。WT マウス、AhRKO マウス、DKO
マウスの盲腸を採取し、immunoblot によりリン酸化 Stat を
認識する抗体を用いて Stat の活性を調べた。いくつかの Stat
isoforms を調べた中で、がんを生じる前の 8 週齢マウスでは、
リン酸化 Stat3(pStat3[Y705])が AhRKO マウスに検出され、
WT ならびに DKO のそれは弱かった。また、組織別に調べ
ると AhRKO マウスの十二指腸、結腸の pStat3[Y705]は低く、
盲腸で最も高かった。がんを生じる遺伝子型および組織に特
徴的な Stat3 の活性化が示された。pStat3[Y705]発現細胞を明
らかにするため、盲腸組織の免疫染色をおこなった。8週齢
AhRKO マウスでは間質(CD45 陽性細胞)に、腫瘍組織では上
皮と間質の双方の細胞で Stat3 が活性化されていることが示
された。
次に AhRKO マウスの発がんにおける Jak-Stat3 シグナル経
路の重要性を検討するため、Jak の阻害剤である AG490 をマ
ウスに投与し、がんの大きさと悪性度に与える影響を解析し
た。阻害剤を投与されたマウスの盲腸では、検出される
pStat3[Y705]レベルは低下しており、AG490 効果が確認され
た。投与群のがんは、悪性度とその大きさにおいて、対照群
と比較して有意に低下した。
まとめ
AhR による大腸がん抑制作用のメカニズムは、ユビキチ
ンリガーゼ複合体の一因子として!-catenin の分解に関与す
ることのみならず、転写因子として PAI-2 活性化をとおして
IL-1!の産生を抑え、炎症を抑制することが重要と考えられ
る。反対に AhRKO マウスの発がんメカニズムを考えると、
腸上皮細胞に蓄積した!-catenin は細胞の増殖を促し、また上
皮細胞周辺に集まった炎症性の細胞は上皮細胞との相互作
用を通して細胞がん化や、血管形成などがんの増殖に有利な
状況を形成する手助けをするかもしれない。AhRKO マウス
は、がんと炎症の関連を解析する上で、有用なモデルになる
と思われる。
20 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1988 年
1990 年
1994 年
同年
同年
1995 年
埼玉大学理学部生体制御学科卒業
埼玉大学理学系研究科修了
東京大学大学院医学系研究科修了
東京大学医科学研究所・客員研究員
東京大学医科学研究所・助手
埼玉県立がんセンター研究所研究員
参考文献:
1. Sekine H, Mimura J, Oshima M, Okawa H, Kanno J, Igarashi K, Gonzarez FJ, Ikuta T, Kawajiri K and Fujii-Kuriyama Y. Mol Cell
Biol 29, 6391-6400, 2009.
2. Kawajiri K, Kobayashi Y, Ohtake F, Ikuta T, Matsushima Y, Mimura J, Petterson S, Pollenz RS, Sakaki T, Hirokawa T, Akiyama T,
Kurosumi M, Poellinger L, Kato S and Fujii-Kuriyama Y. Proc Natl Acad Sci USA 106, 13481-13486, 2009.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 21
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
ヒトパピローマウイルス感染による炎症・がん化の動物モデルとがん化の阻止
研究代表者:清野透(国立がん研究センター研究所・ウイルス発がん研究分野・分野長)
連携研究者:温川恭至(国立がん研究センター研究所・ウイルス発がん研究分野・研究員)
!研 究 目 的
少なくとも 90%以上の子宮頸がんは HPV16 などの高リスク型
HPV の感染が引き金となって発症する。中咽頭癌の約 30%など頭
頸部がんの一部もHPVが関与しており、
世界的に増加傾向にある。
子宮頸部への高リスク型HPV の生涯感染率は70-80%といわれてい
るが、通常は感染後半年程度で、3 年以内には 90%でウイルスは排
除される。またこれらの女性では E2, E6, E7 蛋白に対する T 細胞の
反応が高頻度に観察されることから、これらのウイルス蛋白に対す
る CTL により免疫学的に排除されていると推測されている。しか
し、約 10%では3年以上感染が持続し、CIN1 から CIN2/3 病変へ進
行する。これらの患者では T 細胞の反応が低く、放置すればその約
半数から子宮頸がんが発症すると推定されている。HPV16 などの
E6,E7 蛋白は p53 経路と pRb 経路の不活化やテロメラーゼの活性
化などがん化に重要な活性を持つ。そのため、ウイルスゲノムの染
色体への組み込みなどにより一旦 E6,E7 を高発現する前がん細胞
が出現すれば、がん化は時間の問題と考えられる。E6,E7 が高発現
しても免疫学的に排除されにくいのは、宿主側の要因に加え E6,
E7 自身にも免疫監視機構を抑制する機能があるためと考えられて
いる(3, 4)。
子宮頸がんのモデル動物としては K14 プロモーター制御下に
E6,E7 単独あるいは両者を発現する Tg マウスがウィスコンシン大
の Lambert らにより作成され精力的に解析されている。K14-E6 や
K14-E7 Tg マウスでは皮膚や子宮頸部の扁平重層上皮の肥厚が観察
され、K14-E6 や K14-E6/E7 マウスでは低頻度ながら皮膚がんを生
じる。また、K14-E7 マウスにエストロゲンを持続投与すると子宮
頸がんが高頻度に出現し、K14-E6/E7 マウスでは頻度と悪性度が増
す。
一方、ヒト細胞はマウスに比べがん化に抵抗性でこれまでヒト細
胞を用いた良い発がんモデルはなかった。最近、申請者らはヒト正
常子宮頸部角化細胞 (HCK)を用いて in vitro における子宮頸がん多
段階発がんモデルの作成に成功し解析を進めている(3, 5)。HCK に
4つの遺伝子(E6,E7,活性型 RAS,c-MYC)を順次導入すると、10-200
個の細胞を免疫不全マウスの皮下に移植するだけで短期間に腫瘍
を形成することを示した。
さらに、
3つの遺伝子
(E6,E7,活性型RAS)
を導入した 200 個の細胞も腫瘍を形成することを確認した(1)。この
ように、わずか3-4因子でヒト正常細胞からがん幹細胞(CSC:
Cancer Stem Cell)の性質を有する細胞を誘導できることが示された。
4因子を同時に発現するレンチウイルスベクター(図上)を用いる
と遺伝子導入と共に正常細胞が造腫瘍性を獲得すること、またこの
4因子発現ベクターを用いると、膵管上皮など全く異なる細胞種に
も強い造腫瘍性を付与できることを見いだしている(図中央)
。こ
れらの細胞を iPS 細胞にちなんで誘導型ヒト人工がん幹細胞(iCSC)
と呼ぶことにする。
本研究では第1 に子宮頸がんで報告されている種々の遺伝子異常
の組み合わせにより多様な子宮頸がん iCSC を作成し、正常細胞が
がん化に至る全過程を詳細に解析する。また、HPV16 E6,E7 の変異
体や HPV16 以外の粘膜型 HPV の E6,E7 による iCSC 誘導能を比較
検討する。しかし、iCSC を用いた研究は細胞自立性の多段階発が
ん過程を詳細に解析できるものの、前がん病変の形成や炎症・免疫
反応を解析することはできない。
そこで、第2にこの3-4因子を同時にあるいは HPV 遺伝子のみ
を発現するレンチウイルスベクターを直接実験動物に接種するこ
とにより、化学発がん剤や遺伝子改変動物を用いずに個体での多段
階発がんモデルの作成を目指す。レンチウイルスベクターは分裂し
ていない組織幹細胞にも高効率に遺伝子導入できる。また、ベクタ
ー調製時に種々の変異を導入することができ、接種部位やウイルス
量によりがん化の部位や頻度を調節することが可能な他、プロモー
ターを自由に選択できるため標的細胞の特定、発現量やタイミング
を調節することも理論上可能である。これらのレンチウイルスベク
ターを実験動物正常細胞に導入することにより de novo の病変を誘
導し、正常免疫を有する個体における新たな子宮頸がん多段階発が
んモデルを構築する。本動物モデルはマウス、ラットだけでなく免
疫系などがヒトにより近い中-大型動物や最終的には霊長類にも適
用することが可能と考えられる。
このde novoの動物発がんモデルを用いHPV による発がん機構の
全貌を明らかにしたい。2因子(E6,E7)のみを発現し前がん(CIN)
病変を誘導したのち、自然免疫、獲得免疫の誘導により病変の免疫
学的排除とその機構を解析できる系の樹立を目指す。この系は
E6,E7 を標的とした治療法の開発における前臨床試験のプラットフ
ォームとして極めて有望である。さらに、HPV 関連がん以外のウイ
ルス発がんモデルへの発展が考えられる。
!研 究 内 容
ヒト正常角化細胞を用いた in vitro 多段階発がんモデルの解析を
先行した。E6,E7,c-MYC,活性型 RAS の4因子をヒト正常子宮頸部
角化細胞(HCK)に導入すると高率に iCSC が出現しがん原性を獲得
することを観察していた。この時、MYC 導入の有無により足場非
依存性増殖や造腫瘍性が著しく亢進することから MYC ががん幹細
胞性の誘導と維持に重要であると考えた。しかし、E6,E7, 活性型
RAS の3 因子の導入によって得られた細胞も200 個移植すると腫瘍
を形成した。この際、活性型 RAS の導入により MYC のリン酸化
と安定化がもたらされていることが確認された。そこで、この細胞
に MYC のドミナントネガティブ体として働く OmoMYC をテトラ
サイクリン誘導系にて発現誘導すると、造腫瘍性が著しく低下する
ことが確認された。また、MYC に対する siRNA テトラサイクリン
誘導系にて発現誘導した時も同様に造腫瘍性低下が観察された(1)。
OmoMYC または siRNA によって MYC の活性をその閾値以下にす
ることによってがん幹細胞性を失わせることができることが示唆
される。また、同様の結果は舌角化細胞を用いても確認することが
できた(2)。2 年次には de novo 子宮頸がん発がんモデルの作出を重
点的に進める。
22 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1984 年
1984 年
1986 年
1996 年
名古屋大学医学部卒業
みなと協立病院にて初期研修
愛知県がんセンター研究所ウイルス部
Fred Hutchinson Cancer Research Center
(Denise Galloway lab)
1998 年 愛知県がんセンター研究所ウイルス部 室長
2002 年 国立がんセンター研究所ウイルス部 部長
2010 年 国立がん研究センター研究所
ウイルス発がん研究分野 分野長
(独法化、改組に伴い名称変更)
参考文献:
1. Narisawa-Saito M, Inagawa Y, Yoshimatsu Y, Haga K, Tanaka K, Egawa N, Ohno S, Ichikawa H, Yugawa T, Fujita M and Kiyono T.
Carcinogenesis. 33, 910-917, 2012.
2. Zushi Y, Narisawa-Saito M, Noguchi K, Yoshimatsu Y, Yugawa T, Egawa N, Fujita M, Urade M and Kiyono T. Am J Cancer Res. 1, 869-881,
2011.
3. Yugawa T and Kiyono T. Rev Med Virol. 19, 97-113, 2009.
4. Takaoka A, Tamura T and Taniguchi T. Cancer Sci. 99, 467-478, 2008.
5. Narisawa-Saito M, Yoshimatsu Y, Ohno S, Yugawa T, Egawa N, Fujita M, Hirohashi S and Kiyono T. Cancer Res. 68, 5699-5705, 2008.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 23
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
C型肝炎ウイルスの持続感染化、生体防御応答による慢性炎症発症機序の解明
研究代表者:小原道法(公益財団法人東京都医学総合研究所・ゲノム医科学研究分野・副参事研究員)
!研 究 目 的
難治性のウイルス疾患の中でも 200 万人と感染者が多く、
予後も悪いC型肝炎ウイルス(HCV)疾患の征圧を研究の基
軸とする。HCV 感染の大きな特徴として感染後 80∼90%の
高率で持続感染化し、慢性肝炎、さらに肝細胞癌を発症する
ことがあげられる。持続感染が成立するためには細胞内自然
免疫と宿主の獲得免疫監視機構の両方から逃避する必要が
ある。HCV 感染ヒト肝臓キメラマウス肝細胞では TypeI イ
ンターフェロンは誘導されず TypeIII インターフェロンのみ
が誘導されることを見いだしている。 また、HCV 感染ヒト
肝臓組織では HCV が持続的に複製し、特異的 CTL が誘導さ
れているにも関わらず、ウイルス感染細胞が完全には排除さ
れず免疫寛容状態になっている。そこで本研究者はこの免疫
寛容獲得から破綻に至る機序を解析するために、スイッチン
グ発現後に獲得した受動的免疫寛容状態にある HCV Tg マ
ウスに、正常マウス由来の脾細胞を移入したところ、HCV
蛋白量が減少することを見出した。このことは移入したナイ
ーブな免疫担当細胞によって免疫寛容が破綻したことを示
唆する。また、臨床的に HCV 感染患者において糸球体腎炎
などの自己抗体による疾患を合併しやすいことが報告され
ている。HCV はヒト及びマウス肝臓蛋白質と非常に相同性
の高いエピトープ(分子相同性エピトープ)を多く有してい
ることが明らかとなり、慢性肝炎は自己免疫疾患様の病態と
考えることもできる。さらに、老化に伴って肝炎が増悪化し、
肝硬変を経て、肝細胞癌(HCC)に至ることが報告されている。
そこで本研究では1)HCV がいかにして免疫監視機構を回
避しているか、2)さらに老化により破綻することにより自
己免疫疾患様の病態をもたらし、肝炎が増悪化し、肝硬変を
経て、肝細胞癌(HCC)に至る機序を明らかにする。3)HCV
は感染することにより被感染者の多くが慢性化してしまう
が、10-20%は慢性化せず自己の免疫によりウイルスを排除
する。これらのことは、免疫を賦活化することによりウイル
スのコントロールができる可能性を示唆している。そこで
HCV 特異的免疫賦活化による根治を目指した治療的ワクチ
ンの検討を行っている。
!研 究 内 容
HCV 感染症における大きな特徴は感染者のほとんどが持
続感染化し、慢性肝炎を発症することである。我々は、HCV
遺伝子をスイッチング発現するトランスジェニック
(HCV-Tg)マウスを作製し、急性肝炎から慢性肝炎状態に
移行し、肝細胞がんを発症させることに成功した。この慢性
肝炎に対する治療ワクチンとして HCV 蛋白質組み換えワク
チニアウイルス(HCV-rVV)を作製し、慢性肝炎状態の
HCV-Tg マウスを用いて HCV-rVV の治療効果を検討した。
その結果、HCV-rVV 接種後1週で慢性肝炎の病態が改善し、
肝細胞の膨化、索状配列の乱れ、脂肪変性、グリコーゲン変
性といった組織異常の正常化がみられた。そこで、HCV に
対する宿主の免疫応答がどのように病態形成に寄与してい
るかを解析した。HCV-Tg マウスに構造蛋白質を主に発現す
る rVV-CN2、非構造蛋白質を発現する rVV-N25、全蛋白質
を発現する rVV-CN5 および control として LC16m8 を接種後
1 週または 4 週のマウスにおいて1)肝臓における HCV core
蛋白量2)Serum ALT, cytokine, chemokine level 3)脾臓リ
ンパ球での抗原特異的 CTLs 4)肝臓、脾臓、脂肪組織での
macrophages、monocytes の機能解析5)肝臓の H.E., AZAN,
Oil-red-O, F4/80, Ly-6C 染色を行った。更に macrophages の関
与を検討するために Lipo-clodronate を HCV-Tg に投与 1 週間
後に肝組織、肝臓脾臓のリンパ球解析を行った。
rVV 接種後 4 週で rVV-N25 接種群のみで肝臓 HCV 蛋白量
が減少しており、肝臓内の NS2 特異的 CTL 数の増加が認め
られた。FACS 解析により、4 週目の rVV-N25 接種群では肝
臓内の CD8+T 細胞が増加していることがわかった。そこで
抗 CD8 抗体および抗 CD4 抗体を予め投与した状態のマウス
に rVV-N25 を接種すると、どちらも HCV 蛋白の減少はみら
れなくなった。このことから、rVV-N25 の HCV 蛋白の排除
には CD4 および CD8+T 細胞が重要であることが示唆され
た。しかし、肝臓の形態異常は抗 CD8 抗体および抗 CD4 抗
体を投与したにも関わらず正常化していたことから、病態形
成と HCV 蛋白排除は別の機序であることが明らかとなった。
また rVV-N25 接種群では接種後 1 週で壊死性細胞浸潤、肝
細胞索の乱れ、肝細胞の膨化、グリコーゲン変性および脂肪
変性といった慢性肝炎の病態の正常化が認められた。血清中
の炎症性サイトカインの変化を経時的にみると、接種後 6∼
7 日目で上昇していた炎症性サイトカインレベルが
rVV-N25 群では正常マウスレベルにまで戻っていたことが
わかった。さらに、抗炎症性サイトカインである PDGF や
TGF-b などはコントロール群に比べ上昇していることがわ
かった。また rVV-N25 接種群では接種後 1 週で血清中の
IFN-g, TNF-a, IL-6 な ど の cytokine が 低 下 し 、 さ ら に 、
macrophages や monocytes の肝臓内浸潤数が著明に減少して
いた。また TNF-a や IL-6R の中和抗体を HCV-Tg に投与す
ることにより慢性肝炎の組織像が改善し、同様に
Lipo-clodronate 投与により macrophages を除去した後でも肝
組織像が改善していた。
rVV-N25 接種により HCV 蛋白の減少および慢性肝炎の組
織像が著明に改善し、これは抗原特異的 CTL の誘導のみな
らず肝臓内へのマクロファージの浸潤が抑制され TNF-a や
IL-6 の産生が低下したことに起因していると考えられた。こ
れらの知見は rVV-N25 が抗ウイルス作用だけでなく抗炎症
作用も有することを認め慢性肝炎に対する治療的ワクチン
としての可能性が示された。
24 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1973 年
1973 年
1982 年
1984 年
1986 年
1989 年
高知大学文理学部理学科生物専攻卒業
(財)日本ポリオ研究所・研究員
北里大学薬学部公衆衛生学教室講座研究員
東京大学医学部細菌学教室・受託研究員
東京大学医学部 医学博士
東燃、総合研究所、基礎研究所、
免疫工学グループ・グループヘッド
1992 年 (財)東京都臨床医学総合研究所、
感染制御 PT・PT リーダー
2011 年 (公財)東京都医学総合研究所、感染制御 PT
(研究所統合に伴い名称変更)
!""#$%&!"#$%&'()*+,-./01234
!"#$!
!%&!
!%'!
%&'!
!"#
$%&'!
()*#
+,-.
/012#
34"#
参考文献:
1. Sekiguchi S, et al. Immunization with recombinant vaccinia virus encoding hepatitis C virus nonstructural protein recovers chronic
hepatitis in mice. PLoS ONE. In press.
2. Aoki J, et al. Kinetics of Peripheral Hepatitis B Virus-specific CD8+ T Cells in Patients with Onset of Viral Reactivation. J
Gastroenterology. In press.
3. Hirata Y, Ikeda K, Sudoh M, Tokunaga Y, Suzuki A, Weng L, Ohta M, Tobita Y, Okano K, Ozeki K, Kawasaki K, Tsukuda T,
Katsume A, Aoki Y, Umehara T, Sekiguchi S, Toyoda T, Shimotohno K, Soga T, Nishijima M, Taguchi R and Kohara M. PLoS
Pathog. 8, e1002860, 2012.
4. Kimura K and Kohara M. Experimental Animals. 60, 93-100, 2011.
5. Kasama Y, Sekiguchi S, Sito M, Tanaka K, Satoh M, Kuwahara K, Sakaguchi N, Takeya M, Hiasa Y, Kohara M and
Tsukiyama-Kohara K. Blood 116, 4926-4933, 2010.
6. Amako Y, Tsukiyama-Kohara K, Katsume A, Hirata Y, Sekiguchi S, Tobita Y, Hayashi Y, Hishima T, Funata N, Yonekawa H and
Kohara M. J Virology 84, 303-311, 2010.
7. Machida K, Tsukiyama-Kohara K, Sekiguchi S, Seike E, Tone S, Hayashi Y, Kasama Y, Shimizu M, Takahashi H, Taya C, Yonekawa
H, Tanaka N and Kohara M. Gastroenterology 137, 285-96, 2009.
8. Nishimura T, Kohara M, Izumi K, Kasama Y, Hirata Y, Huang Y, Shuda M, Nuriya H, Tokunaga Y, Sato M, Saito M, Kai C and
Tsukiyama-Kohara K. J Biol Chem. 284, 36442 -36452, 2009.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 25
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦ Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic Spiral
EBV感染がん細胞増殖を促進するウイルス遺伝子発現の分子機構とその制御
研究代表者:鶴見達也(愛知県がんセンター研究所・腫瘍ウイルス学部・部長)
連携研究者:村田貴之(愛知県がんセンター研究所・腫瘍ウイルス学部・研究員)
!研 究 目 的
Epstein-Barr ウイルス(EBV)は感染後体内に潜伏し、がん発
生・維持に深く関わる。EBV は二つの感染様式(潜伏感染
とウイルス産生感染)を採るが、EBV 陽性がんの大部分の
細胞は潜伏感染状態にあり、ウイルス癌遺伝子 LMP1 を発現
している。LMP1 は膜蛋白質であり、TRAFs 分子を介して
NF-kB 経路などを恒常的に活性化し、細胞増殖を促進すると
共に、サイトカインを放出し、さらに細胞増殖を亢進させる。
また EBV 陽性がんの一部の細胞は BZLF1 を発現することに
よりウイルス産生感染状態に移行し、子孫ウイルスを産出す
る と 共 に サ イ ト カ イ ン (IL10, viral IL10, BARF1( 可 溶 型
CSF-1R)等)を放出し、これらのサイトカインが EBV 潜伏感
染がん細胞の増殖を亢進させている。本研究では EBV 陽性
がん細胞維持に重要な LMP1 及び BZLF1 の遺伝子発現機構
を明らかにすることを目的とした。
!研 究 内 容
( 1 ) 潜 伏 感 染 II 型 に お け る LMP1 遺 伝 子 の 発 現 を 調
節 す る 因 子 の 同 定 : EBV が B リンパ球に感染すると B リ
ンパ芽球にトランスフォームし細胞は分裂増殖を始める。こ
の時、細胞はウイルス産生のない潜伏感染状態にあり、免疫
による抑圧がない為に9種類のウイルス蛋白質が発現する
(潜伏感染 III 型)。潜伏感染 III 型では LMP1 は EBNA2 及
び EBNA LP 依存的に発現するが、EBV 陽性がんでは免疫系
が働くため、この発現様式は稀である。ホジキンリンパ腫、
上咽頭癌、NK/T 細胞リンパ腫などの多くの EBV 陽性がんは
潜伏感染 II 型の発現様式を採り、LMP1 は EBNA 非依存的
に発現するが、その分子機構は不明な部分が多い。本研究で
は潜伏感染 II 型におけるウイルス癌遺伝子 LMP1 の発現の
分子機構の一端を明らかにした。
LMP1 遺伝子の転写を制御する宿主因子を網羅的に同定
するために、cDNA 発現ライブラリーを用いたスクリーニン
グを遂行し、LMP1 プロモーターを活性化する宿主因子の探
索を行った。これまでに 2 万個以上のクローンを精査した結
果、新規転写因子として C/EBP$を同定した。C/EBP#,!,%,$,&
のうち C/EBP#,!,$が特に強力に LMP1 プロモーターを活性
化することを明らかにした。また、LMP1 には近位(ED-L1)、
遠位(TR-L1)の二つのプロモーターが存在するが、近位のプ
ロモーター上の特定部位に C/EBP が結合することで近位と
遠位の両プロモーターを活性化することが分かった。C/EBP
結合部位に変異を加えた組換えウイルスでは LMP1 の発現
量が減少し、さらに、shRNA を用いて C/EBP をノックダウ
ンさせると、LMP1 タンパク質の発現量が減少することが分
かった。以上 EBNA2 が発現のない潜伏感染 II 型様式を採る
EBV 感染細胞では新規に C/EBP がその発現に関与すること
がわかり、今後 EBV 陽性がんに対する薬剤開発に役立つこ
とが期待される。
現在進めている研究は以下の通りである。これまでに報告
された LMP1 プロモーターに結合する転写因子についてそ
の結合部位に変異を導入した組替え EBV BACDNA をそれ
ぞれ作成し、HEK293 細胞にトランスフェクションすること
によりそれぞれの組替え EB ウイルスが潜伏感染する細胞株
を樹立している。その中で AP2 の結合部位に変異を持つ
EBV 潜伏感染細胞では LMP1 の転写および蛋白質レベルで
発現量が顕著に低下することを見いだした。潜伏感染 II 型
発現する上咽頭癌由来の細胞で AP2 をノックダウンさせる
と LMP1 の発現量は低下し、逆に AP2 を過剰発現させると
上昇することを見いだしている。このことから上咽頭癌など
の潜伏感染 II 型様式を採るがん細胞では AP2 が LMP1 の発
現に重要な役割を持つと考えている。
( 2 ) EBV潜 伏 感 染 の 維 持 に 関 与 す る 転 写 因 子 の 同 定 :
BZLF1プロモーターの発現制御がEBVの潜伏感染の維持とウ
イルス産生感染への再活性化の鍵を握っている。我々はb-Zip
型転写抑制因子c-Jun dimerization protein 2 (JDP2)が、BZLF1プ
ロモーターに結合し、BZLF1の転写を抑制することでウイル
スの再活性化を抑制し、潜伏感染の維持に貢献していること
を見いだした。JDP2を過剰発現するとEBウイルス再活性化は
抑制され、逆にsiRNAによりJDP2をノックダウンすると再活
性化が促進された。JDP2はBZLF1プロモーター上のZIIと呼ば
れるシスエレメントに結合し、ヒストン脱アセチル化酵素の
ひとつであるHDAC3をプロモーター上にリクルートするこ
とでBZLF1の発現を抑制していることを確認した。潜伏感染
時にJDP2はZIIに結合しBZLF1の転写をブロックしていると
考えられる。溶解感染が誘導されるとZIIに結合しているJDP2
はCREBやAP1, XBP1等の転写因子と置き換わり、その周辺の
ヒストンをアセチル化し、BZLF1の転写を促進させていると
考えられる。
現在進めている研究は以下の通りである。BZLF1プロモー
タ ー (Zp) を 活 性 化 す る 新 規 宿 主 転 写 因 子 を 同 定 す る 為 に
cDNA発現ライブラリーを用いたスクリーニングを遂行し、
MEF2B、KLF、b-zip因子等を見いだしている。これらの結合
部位に変異を導入した組替えEBV BACDNAをそれぞれ作成
し、HEK293細胞にトランスフェクションすることによりそれ
ぞれの組替えEBウイルスが潜伏感染する細胞株を樹立した。
b-zip 因 子 の 結 合 部 位 に 変 異 を 持 つ EBV 潜 伏 感 染 細 胞 で は
BZLF1の発現量が顕著に低下したが、KLFの結合部位変異株
で は あ ま り 影 響 し な か っ た 。 MEF2の 結 合 部 位 変 異 株 で は
BZLF1の発現量は顕著に低下した。MEF2はH3K4をメチル化
(positive marker)する酵素をリクルートすることが報告され
ているのでZp周辺のヒストン修飾について検討している。
26 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
略歴:
1979 年
1984 年
1984 年
名古屋大学医学部医学科卒業
名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了、医学博士
名古屋大学医学部附属病態制御研究施設
ウイルス感染研究部門・助手
1987-89 年 博士後研究員(米国スタンフォード大学医学部生化学
講座 I.R.Lehman 教授)
1995 年
名古屋大学医学部附属病態制御研究施設ウイルス感染
研究部門・助教授
1997 年
愛知県がんセンター研究所ウイルス部部長
2000 年愛知県がんセンター研究所腫瘍ウイルス学部部長
㢦෗┿
参考文献:
1. Murata T, Kondo Y, Sugimoto A, Kawashima D, Saito S, Isomura H, Kanda T and Tsurumi T. J Virol. 86, 4752-4761, 2012.
2. Noda C, Murata T, Kanda T, Yoshiyama H, Sugimoto A, Kawashima D, Saito S, Isomura H and Tsurumi T. J Biol Chem. 286,
42524-42533, 2011.
3. Murata T, Noda C, Saito S, Kawashima D, Sugimoto A, Isomura H, Kanda T, Yokoyama K and Tsurumi T. J Biol Chem 286,
22007-22016, 2011.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「発がんスパイラル」News Letter Vol.2 ¦ 27
¦ Contents ¦ Preface ¦ Introduction of persons doing research ¦
Research activities ¦ News & Topics ¦
Carcinogenic
Spiral
Carcinogenic
Spiral
|活動報告|
▶「発がんスパイラル第2回国際シンポジウム」
会期:2012年1月16日(月)∼17日(火)
会場:京都大学芝蘭会館
Website: http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2011/120117_1.htm
2012年1月16日∼17日、京都大学 芝蘭会館にて「発がんスパイ
ラル第2回国際シンポジウム」を開催致しました。国内外合わせて参加
者のべ 176 名あまりを得、シンポジウムは成功裏に終了しました。参加
者の皆様ならびに関係各位に心より感謝申し上げます。
▶ 第2回総括班会議
日時:2012年6月22日(金)11:00∼12:00
会場:東京大学 伊藤国際学術研究センター 中教室
(1)報告事項
報告第1号 新学術領域研究の中間ヒアリングについて
報告第2号 第2回「発がんスパイラル」国際会議(京都)の報告
報告第3号 第3回「発がんスパイラル」国際会議(金沢)の準備状況
(2)協議事項
議案第1号 各計画研究班の研究進捗状況について
議案第2号 第4回国際シンポジウムの開催について
議案第3号 公募研究班について
議案第4号 ホームページの内容について
議案第5号 News Letter の発行について
議案第6号 中間ヒアリングについて
—議事録—
【報告事項】
1. 新学術領域研究の中間ヒアリングについて
領域代表より、文科省から中間ヒアリング開催の連絡を受けたとの報
告があった。
2. 第2回「発がんスパイラル」国際会議(京都)の報告
国際会議の概要の報告があった。
3. 第3回「発がんスパイラル」国際会議(金沢)の準備状況
がん研究所シンポジウムとの共催である旨の説明、招待講演者の紹
介、ポスターセッションへの応募の依頼があった。
【協議事項】
1. 領域の運営について
! 各計画研究班の研究進捗状況
࣭今まで以上に班員同士の連携強化すべきとの意見があった。
࣭進捗の全般状況としては全員順調との結論となった。
" 第4回国際シンポジウムの開催について
࣭東京以外の場所で持ち回りで開催することの意義の確認がな
され、地方でのサイエンスの活性化の一面があることが回答
された。
࣭主催者の負担を考え、いずれかの学会・セミナーとの共催が
提案された。さらに、今後の日本国内のがん研究の将来の観
点から、他領域との共催が提案された。
# 公募研究班について
࣭現在進行中の公募班について再任に対する文科省の指針・基準
等の有無が質問され、現状特になしとの回答があった。
࣭今後の公募班採用の指針となるため、午後の審査をお願いいた
しますとの依頼があった。
$ ホームページの内容について
࣭閲覧者数等の報告がなされた。
࣭各班員が投稿した論文の掲載など現在以上の使用法を検討し
たいとの申し出があった。
% News Letter の発行について
࣭公募班中心に発行したいとの報告があり、原稿執筆の依頼を行
うとの申し次があった。
࣭「若手の声」などの形で News Letter やホームページ上で若手
の育成を発信してはどうかとの提案があった。
࣭がん支援班の支援活動参加者や、研究室間の技術指導などの人
材交流を News Letter やホームページで発信してはどうかとの
提案があり、若手研究者にレポートの提出依頼を行うことで同
意した。
2. 中間ヒアリングについて
! ヒアリング出席者の選出
" ヒアリング用資料の作成について
# ヒアリングに向けての準備スケジュールについて
࣭ヒアリング資料作成のスケジュールなどが報告された。
▶研究進捗報告会
日時:2012年6月22日(金)13:00∼17:00
会場:東京大学 伊藤国際学術研究センター 中教室
計画研究代表者8名、公募研究代表者12名(代理含む)による10分程度
の発表(これまでの成果と今後の計画)及び、2分程度の質疑応答が行わ
れました。本発表会では、発表者の皆様は短い時間にも関わらず、質の高
い研究について素晴らしい発表を行い、発表に対する活発な質疑応答が行
われました。
|お知らせ|
▶「発がんスパイラル」第3回国際シンポジウム&金沢国際がん生
物学シンポジウム
会期:2013年1月24日(木)∼25日(金)
会場:金沢エクセルホテル東急
Website: http://www.kanazawa-u.ac.jp/~ganken/Spiral2013/index.html
詳細が決まり次第、順次 Website 上でお知らせ致します。
▶「発がんスパイラル」ホームページのご案内
Website: http://www.microbiol.m.u-tokyo.ac.jp/spiral/
ホームページを通して領域内の活動等をご案内致します。是非ご覧下さ
い。
28 ¦ 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域「発がんスパイラル」News Letter Vol.2
Carcinogenic Spiral
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究
「感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換」News Letter Vol. 2
発行人
発行日
発行所
畠山昌則
2012 年 11 月
新学術領域研究「発がんスパイラル」事務局
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
東京大学大学院医学系研究科・医学部 病因・病理学専攻 微生物学教室
TEL:03-5841-3408
FAX:03-5841-3406
E-mail:[email protected]
Website:http://www.microbiol.m.u-tokyo.ac.jp/spiral/
編集・構成 新学術領域研究「発がんスパイラル」事務局
印刷・表紙デザイン 株式会社シャローム印刷
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究
感染・炎症が加速する発がんスパイラルと
その遮断に向けた制がんベクトル変換
Website
http://www.microbiol.m.u-tokyo.ac.jp/spiral/