ICT05 Template - 中津川研究室 Nakatsugawa Laboratory

ミスフィット層状コバルト酸化物の熱電物性評価に関する基礎研究
A study on thermoelectric properties in misfit-layered cobalt oxides
代表研究者
横浜国立大学
大学院工学研究院
准教授
中津川
博
We have prepared polycrystalline specimens of Y doped Ca3Co4O9 using a conventional solid-state
reaction method, and investigated the Y substitution effect on the thermoelectric and magnetic properties. The
valence state of Co ions in [(Ca1-xYx)2CoO3]0.62CoO2 (0≦x≦0.04) has been clarified as Co3.2+ in CoO2 sheet
and Co3.6+ in RS-type BL, respectively. In addition, both a broad minimum at around 100K (TSDWon) and a
broad maximum between TSSend and TSSon in the ρ(T) curve correspond to two magnetic transitions, where
TSSend and TSSon could correspond to the spin-state transition of Co ions in the CoO2 sheet and in the RS-type
BL, respectively. Furthermore, in x= 0.02 and 0.04 samples, the Seebeck coefficient at 800K show the highest
value (S = 176 μ V/K). Therefore, Y doped Ca3Co4O9 are potential candidates for the practical use of
thermoelectric power generations.
1.
はじめに
電材料で 10%程度のエネルギー変換効率ηの熱電変
現在、日本国内での全一次エネルギーの 70%近
換素子を作製する事が、理論上、可能である。
くが廃熱として捨てられており、そのうち熱から電
酸化物熱電材料は 1997 年以降、早稲田大学の寺
気に直接変換(熱電変換)可能な未利用熱エネルギー
崎らの報告1)に端を発し、注目されている新規熱電
12
量は約 700×10 kcal/年(原油 7600万 kl)であり、
材料であり、酸化物のもつ構造・組成の多様性から
日本の総エネルギー消費量 の 18%に相当する。熱
多くの材料の提案がなされて来た。Ca3Co4O9 に代表
電発電はこの未利用熱資源の有効利用の一手段とし
される層状コバルト酸化物熱電材料は、イオン結合
て挙げられている。しかし、現状の材料(金属、半
性の酸化物としては例外的に低いρ(室温で 1.5mΩ
金属、縮退半導体材料など)では発電変換効率がη
cm)と、高い S(室温で 130μV/K)を有しており、低い
≦10%と低くまたコストも高い為、熱電発電は発電
κ(室温で 1W/mK)も有する材料として実用化が期待
事業、システム・デバイスのいずれの階層において
されている。筆者等は、Y3+を添加した Ca3Co4O9 多
も商用化されていない。パイプライン保守、探査衛
結晶試料を作製し、高分解能粉末中性子線回折測定
星通信、航路用ビーコンなど、電気エネルギーを得
を用いて変調結晶構造の構造解析を行った。特に、
る手段が少ない場所での使用に限られているのが現
図 1 に示した[CoO2]伝導層及び[Ca2CoO3]ブロック層
状である。熱電発電の変換効率を太陽電池並みのη
中の Co 原子価状態について評価したのでその結果
>10%に改善する為には、理論上、無次元性能指数
を報告する。
が 1 以上の素子を用いて熱電変換モジュールを作製
する必要がある。つまり、熱電変換を普及させる為
の必要条件は、無次元性能指数が 1 以上の熱電性能
を示す材料探索を進める事であり、接触抵抗などの
性能低下要因を極力排除した熱電変換モジュールの
作製技術を確立する事である。
ここで、熱起電力 S、電気抵抗率ρ、熱伝導率κ
とすると、熱電性能は性能指数 Z=S2/ρκ(K-1)で評価
され、単位温度差あたりの発電電圧が大きく(S が大
きく)、電気を流しやすく(ρが小さく)、熱を伝えに
くい(κが小さい)材料ほど熱電性能が高いと評価さ
れる。また、エネルギー変換効率はこの Z と温度 T
の積 ZT(無次元性能指数)に依存し、ZT=1 程度の熱
Fig. 1. Initial structure model of Ca3Co4O9 projected in
perspective from b-axis (left) and a-axis (right).
2.
実験方法
多結晶試料[(Ca1-xYx)2CoO3]0.62CoO2 (0≦x≦0.04)は一般
的な固相反応法により、原材料 CaCO3 , Y2O3 , 及び
Co3O4 を用いて作製した。具体的には、大気中
920℃, 12hの焼成条件で仮焼き後、ペレット状に成
型し、酸素雰囲気中 920℃, 24hの焼成条件で焼結さ
せた。また、結晶性の良い単相試料を得る為に、酸
温度範囲では、熱起電力の温度依存性がほと
んど確認されないが、TSSend から TSSon の温度範
囲では急激な温度依存性を示している。TSSon
以上では、全試料の熱起電力の温度依存性が
温度増加に対して単調増加を示している。以
上は、熱起電力が Co イオンのスピン状態と
深く関係していることを強く示唆している。
素雰囲気中 700℃, 12hの条件でアニーリングを行っ
30
た。全ての試料の密度は理論密度の約 85%であった。
[(Ca 1–xY x)2CoO 3] 0.62CoO 2
試料の均質性と結晶性は室温の粉末中性子線回折
x=0.00
x=0.01
x=0.02
x=0.03
x=0.04
測定を用いて行った。中性子回折測定は、日本原子
力研究所改3号炉に東北大学(金研)が設置した高能
20
子線の波長はλ=0.18265nmであった。中性子回折デ
ータは変調構造解析の為に開発されたリートベルト
ρ (mΩcm)
率中性子粉末回折装置(HERMES)である。入射中性
解析プログラム PREMOS91を用いて解析された。
10
80∼380Kの温度範囲の電気抵抗率及び熱起電力
測定は ResiTest8300(東陽テクニカ)を用いて行った。
TSDW
室温から 850Kの温度範囲の電気抵抗率及び熱起電
0
力測定は自家製装置を用いてヘリウム雰囲気中にお
on
end
T SS
200
いて行った。
オンのスピン状態転移が生じる温度範囲と一致して
いる。TSDWon=100K 以下の温度範囲では、20K
付近で生じるフェロ磁性転移を起源とするキ
ャリア局在の為、半導体的挙動を示している。
また、TSSend=380K までの Co イオンのスピン状態
は 低 ス ピ ン 状 態 を 取 る が 、 TSSend=380K か ら
TSSon=600K の温度範囲では、Co イオンのスピン
状態が中間スピン、高スピンと転移して行く。
図 3 に 80∼850K までの温度範囲での熱起電力測
定の結果を示す。TSDWon=100K から TSSend=380K の
600
800
Fig. 2. Temperature dependence of electrical resistivity ρ
of . [(Ca1-xYx)2Co O3]0.62CoO2 (0≦x≦0.04).
300
[(Ca 1–xY x)2CoO 3] 0.62CoO 2
x=0.00
x=0.01
x=0.02
x=0.03
x=0.04
200
–6
S (10 V/K)
3. 実験結果と考察
図 2 に電気抵抗率測定の結果を示す。全て
の試料で 100K付近の極小値と 350∼600K付近
の幅の広い極大値を確認した。TSDWon=100K か
ら室温までの温度範囲では金属的挙動を示し、
TSSend=380K から TSSon=600K の温度範囲では急激
な変化を示しているのは明らかである。ここ
で、TSDWon は不整合スピン密度波転移が生じ
始める温度であり、TSSend から TSSon の温度範囲
は、[CoO2]伝導層及び[Ca2CoO3]ブロック層中の Coイ
400
T (K)
on
T SS
100
end
T SS
0
200
400
T (K)
TSS
on
600
800
Fig. 3. Temperature dependence of Seebeck coefficient S
of . [(Ca1-xYx)2Co O3]0.62CoO2 (0≦x≦0.04).
表 1 に全試料の 800K における電気抵抗率、
熱起電力、出力因子、及び、300K で測定した
x=0 試料の熱伝導率を示し、この熱伝導率を
用いて、全試料の 800K における性能指数を
概算した。図 2 からも明らかように、x=0.03
試料のみが大きな電気抵抗率を示している。
熱起電力は x=0.02 と x=0.04 試料で大きく、同
様に出力因子も x=0.02 と x=0.04 試料で大きな
値を示している。従って、性能指数も x=0.02
と x=0.04 試料で ZT=0.26 という高い熱電変換
性能を示す材料であることが期待される。
結言
本研究では、80∼850Kの温度範囲で測定し
た電気抵抗率と熱起電力測定、及び、室温で
測定した HERMESによる高能率中性子粉末回
折測定の結果から[CoO2]伝導層及び[Ca2CoO3]ブ
ロック層中の Co原子価状態を評価した。その
結果、[CoO2]伝導層中の Co原子価状態は Co3.2+
であり、[Ca2CoO3]ブロック層中の Co原子価状
態は Co3.6+であることが分かった。また、800K
の実用温度における熱電特性は x=0.02及び
x=0.04試料で高い性能を示し、無次元性能指
数は ZT=0.26と見積もられた。
4.
Table 1. Electrical resistivity ρ, Seebeck coefficient S, power factor
S2/ρ, and dimensionless figure of merit ZT at 800K.Thermal
conductivity κat room temperature. In particular, ZT@800K is
estimated using thermal conductivity κat room temperature for all
samples
-3
ρ@ 800K (10 Ωcm)
-6
S@ 800K (10 V/K)
2
-4
2
S /ρ@ 800K (10 W/mK )
κ @ 300K (W/mK)
ZT@ 800K
x =0
x = 0.01
x = 0.02
x = 0.03
10.4
9.4
9.8
14.4
9.8
156
160
176
166
176
2.34
0.98
0.19
2.72
−
0.22
3.16
−
0.26
1.91
−
0.16
3.16
−
0.26
参考文献
1) I.Terasaki et al., “Large thermoelectric power in
NaCo2O4 single crystals”, Phys. Rev. B, 56 (1997)
R12685-R12687.
x = 0.04
図 4 に x=0.02 試料の室温における HERMES
による粉末中性子回折測定データを
PREMOS91 でリートベルト解析した結果を示
す。短い上下の垂直線は、それぞれメイン及
びサテライトピークを示している。測定結果
と解析結果との差は垂直線の下に示してある。
単位格子(単斜晶)の格子定数は、それぞれ
a=0.483nm, b1=0.2822nm, b2=0.45517nm, c=1.0838nm,
β=98.13°を得た。
Fig.4 Observed, calculated and difference intensities of ND
data for [(Ca0.98Y0.02)2CoO3]0.62CoO2 (x=0.02).
発表論文等
H.Nakatsugwa, H.M.Jeong, and K.Nagasawa,
“Thermoelectric properties and crystal structures in Y
doped Ca3Co4O9”, Proceedings of the 26th International
Conference on Thermoelectrics (ICT2007), 3-7 June, in
press (2007).