海外の道路行政における NPM の現状∼米国と英国を事例として∼ 01P04

第25 回日本道路会議論文
01P04
海外の道路行政における NPM の現状∼米国と英国を事例として∼
国土交通省
国土技術政策総合研究所
道路研究部道路研究室
同
長谷川金二
○松田和香
1. はじめに
現在、我が国においては、国、地方自治体問わず、
「ニューパブリックマネジメント」
(以下 NPM)の潮流
にある。NPM という言葉自体は新しいものだが、1970 年代後半から英国、オーストラリア、ニュージーラ
ンドその他 OECD 諸国における行政改革に代表される概念であり、「公的部門の管理手法に民間企業で培わ
れてきた、アウトプット/アウトカムに基づくマネジメント手法を導入し、公的部門の効率化・パフォーマ
ンスの改善を図ろうとするもの」と整理される 1)。
本研究では特に道路行政に着目し、近年、米国および英国において実践されている NPM について、背景
となる制度、計画・報告書の概要、指標の特徴、予算との関連性という観点から、その特徴を明らかにする。
2. 米国の連邦道路局(Federal Highway Agency)における NPM
米国では 1993 年の GPRA(The Government Performance Evaluation and Result Act)によって、①戦略計画
(Multiyear Strategic Plan)
、②業績計画(Performance Plan)、③業績報告書(Performance Report)の作成が義
務づけられた。①は先 6 年間について記述するもので 3 年ごとに改訂され、②と③は毎年作成される。連邦
交通省の下部局である連邦道路局には作成義務がないものの、これらを積極的に活用している。
連邦道路局の業績計画では、安全性、移動性・生産性、環境、国家安全保障、組織改革という 5 つの戦略
課目標が掲げられており、これは連邦交通省の①戦略計画に整合する。これらの戦略目標それぞれに対し、
戦略目的および戦略成果(いわゆるアウトカム指標)、その下に具体的な 4∼5 の業績目標や目標数値などが
設定されている(「安全性」の例:表-1)。業績報告書では、ベンチマークや外的要因の分析、定性評価およ
び次年の方針・施策が提示され、付録としてデータの出典や計測方法も明記されている。なお、戦略目標に
大きな変更はみられないが、アウトカム指標などは毎年検討され、変更されている。また、業績計画書には
表-1
戦略目標
安全性
連邦道路局における戦略目標や指標の体系(例:安全性、2002 年)
戦略目的
道路関連交通事故を
減らし、その結果、事
故による死亡者・負傷
者を減らす。
戦略成果(アウトカム)
道路関連死亡者数
(実数および 1 億 VMT
あたり換算値)。2003
年度の目標値は、1.4
人(/億 VMT)。道路関
連負傷者数(実数およ
び 1 億 VMT あたり換
算値)。2003 年度の
目標値は、107 人(/億
VMT)。
※ VMT = Vehicle
Miles Traveled
業績目標
最重要目標:道路逸脱事故
(脱路・正面衝突)関連死亡
者を 2007 年度までに 10%
減少させる。
最重要目標:交差点事故死
者を 2007 年度までに 10%
減少させる。
最重要目標:歩行者事故死
者を 2007 年度までに 10 減
少させる。
最重要目標:シートベルト着
用率の向上など、多様な目
標に貢献する国家戦略を実
施する。
業績測定
路肩凹凸面技術勧告など
を採用する州道路当局を
増やす。
国家計画に基づき、交差
点安全性計画を採用する
州道路当局を増やす。
歩 行 者 にと っ て危 険 な地
点を見つけ改善する現行
プログラムを持つ地域を増
やす。
2003 年度初めに策定され
る評価基準に基づき、包
括的で優れた安全性計画
を実施する州道路当局を
増やす。
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戦略目標別のおおよその予算配分は示されているが、業績と予算との関連性については、整合性を高めるた
めの開発に取り組んでいるという記述はあるものの、厳密な連携はなされていないようである。
3. 英国の道路庁(Highway Agency)における NPM
英国では Agency(外庁)制度の導入により、外庁における毎年の業績目標値を設定し、年次報告書(Annual
Report)を作成することになっている。道路庁は、①事業計画(Corporate Plan)、②年次計画書(Business Plan)
を作成し、英国交通省から承認を受ける。年次計画書では目標、目的および業績指標や目標値が示される。
特に 2003-2004 年の年次計画書では、新しい戦略フレームワークとして BSC(Balanced Score Card)が提示さ
れた。BSC とは、1990 年代の初めにハーバード大学の Kaplan 教授と経営コンサルタントの Norton 氏が共同
開発した経営を可視化する多元的な業績評価のフレームワークである 2)。道路庁の BSC では、渋滞解消、事
故減少、効率の改善という 3 つの戦略および、顧客へのサービス、チームワーク、改良、多様性、最善の価
値という 5 つの目標が設定され、それぞれの目標別に目的、業績指標項目および目標値が設定されている(顧
客サービスの例:表-2)。指標や指標の記述順位、戦略・目標の体系などについては毎年変更がみられる。な
お、予算との関連性については明記されていない。
表-2
道路庁の戦略目標および目的・指標の体系(例:顧客サービス、2003-2004)
戦略目標
目的
顧客に対して高品質
のサービス提供
顧客サービス
安全性の改善
移動の信頼性確保
環境への配慮
主要な業績指標
1.道路ユーザー満足度調査
2.道路ユーザー憲章の目標
3.中央政府に対する 6 サービス基準
4.修繕必要割合
5.死重傷者数の減少(1994-98 の平均
4,991 人)
6.軽傷者数の減少(1 億台キロあたり。
1994-98 の平均 22.14)
7.道路工事関連死者数の減少(10 万人
あたり)
8.ピーク時供用車線割合
9.主要事業計画進捗
10.交通コントロールセンター供用
11.環境関連の 5 副指標
03-04 の目標
少なくとも 84%
100%
100%
7%∼8%
少なくとも 694 人減らす
(4,297 人へ)
少なくとも 0.92 に減らす
(21.22 へ)
少なくとも 5 人減らす
少なくとも 98.5%
少なくとも 49 のうち、47
2004 年 3 月 31 日
少なくとも 95%
4. まとめ
国土交通省においても、道路行政については、平成 15 年度からアウトカム指標に基づく行政マネジメン
トシステムを導入することとしており、平成 15 年度の数値目標等を示した「平成 15 年度業績計画書」を策
定する等、新たな行政運営へさらに一歩踏み出した。しかし、先進的と言われる米国、英国においても毎年
指標の検討、変更がなされているように、今後我が国でもより洗練されたマネジメントシステムの構築を目
指し、柔軟に対応していく姿勢が必要である。
今後の研究課題として、英国、米国を始めとする先進諸国における業績評価の結果とマネジメントの関連
性についての具体的な調査や、予算とマネジメントの連携のあり方についての検討などがあげられる。
参考文献
1) 玉村雅敏、「新公共経営(NPM:New Public Management)と公共選択」、公共選択の研究 第 31 号、勁
草書房、1998
2) Robert S. Kaplan and David P. Norton, “Using the Balanced Scorecard as a Strategic Management System”,
Harvard Business Review,1996