内航船用すずフリー 加水分解型船底防汚 塗料「ハイソル」 - 日本ペイント

内航船用すずフリー
加水分解型船底防汚
塗料「ハイソル」
要旨
海洋上を航行する船舶の船底部には、生物の付着を防
止する目的で防汚塗料が塗装されている。1970年代に開
発された加水分解型有機すず防汚塗料は巻き貝に生殖異
常を引き起こすことがわかり、全世界的に使用禁止にむ
けての枠組みが作られつつある。
日本においては1990年代以降、世界に先駆けて代替塗
料の開発が積極的に進められ、様々な防汚塗料が開発さ
れてきた。2004年3月に発売された内航船用すずフリー
加水分解型船底防汚塗料「ハイソル」は、亜鉛アクリル
樹脂をもとに開発され、従来の製品では、生物付着が激
しくて良好な結果を得られなかった高汚損海域を航行す
る船舶に対しても、ハイソルは満足のいく防汚性を発揮
できる商品である。
“Hisol”∼TBT free self polishing
copolymer antifouling paints for
coastal vessels∼
日本ペイントマリン株式会社
研究開発部
島田 守
Nippon Paint Marine Coatings
Research & Development
MAMORU SHIMADA
などの巻貝に生殖異常を引き起こすことがわかり、日本
1.はじめに
国内では1990年よりその使用が全面的に禁止された。国
際的にもIMO(国際海事機構)で2001年10月「船舶の有
害な防汚方法の規則に関する国際条約」として採択され、
海洋上を航行する船舶の船底には、フジツボ、ムラサ
紹
介
内
航
船
用
す
ず
フ
リ
ー
加
水
分
解
型
船
底
防
汚
塗
料
﹁
ハ
イ
ソ
ル
﹂
キイガイなどの動物類や、藻類であるアオノリ、シオミ
2003年1月以降有機すずを含む防汚塗料の船体への適
ドロなどの様々な生物が付着する。これら付着生物の船
用、さらに2008年1月以降の船体表面への存在が禁止さ
底への付着は航行する船舶の摩擦抵抗を増加させ、船速
れるなど、全世界的にもその禁止にむけての枠組みが作
の低下や燃料費の増大などの大きな影響を与える。この
られつつある。
ため船舶の船底部には、これら生物の付着を防止する目
日本においては1990年代以降、世界に先駆けて代替塗
的で防汚塗料が塗装されている。防汚塗料は塗膜中に含
料の開発が積極的に進められ、様々な防汚塗料が開発さ
まれる防汚剤と呼ばれる薬剤の作用により付着防止効果
れてきた。その結果有機すず塗料に匹敵するような商品
を発揮する。
が開発されてきたが、生物汚損の著しい海域での防汚性
は有機すず含有防汚塗料に比較して若干劣るものであっ
た。
2.有機すず塗料の規制と代替塗料の開発
3.「ハイソル」シリーズの特徴
従来から使用されていた防汚塗料は拡散型や崩壊型
と呼ばれているもので、塗膜中に存在する防汚剤を拡
散あるいはロジンなどの海水に微溶解する助剤を用い
2004年3月に発売した内航船用すずフリー加水分解型
て溶出させるものであったが、防汚効果の持続性なら
船底防汚塗料「ハイソル」は、日本ペイントが世界に先
駆け開発した亜鉛含有加水分解型アクリル樹脂(Znア
びに物性の点で満足のいくものではなかった。
これに対して、1970年代に開発された有機すずを防汚
クリル樹脂)を基に開発された。このZnアクリル樹脂
剤として含む加水分解型の防汚塗料は、有機すずを塗料
は、海水中で加水分解反応を起こし、徐々に溶解してい
樹脂中に組み込むことで、海水中に防汚剤を徐々に溶出
くという性質を持っている。本塗料の加水分解反応は加
させるというメカニズムを持っていた。有機すず塗料は
水分解型有機すず防汚塗料と同様、海水と接する極表層
その特性として防汚剤の溶出が海水と接する極表層部の
部のみで起こり、加水分解した樹脂は海水中に溶解して
みで起こることから、従来型の塗膜で問題のあったスケ
ゆくため、表層部付近には常に活性のある防汚剤が存在
ルトン層(防汚剤が溶出してしまった塗膜層)が存在せ
することになり、長期の防汚性能の維持が可能となる
(図1)。
ず、またリーチドレイヤー層(塗膜表層部にある海水と
また船の速度、海域、稼働率や運航距離などの違いに
の反応層)も非常に薄く、長期間安定した防汚性能と塗
より近海域を運航する船舶(内航船)には様々な生物が
膜性能を維持することができる防汚塗料であった。
その高い防汚性能により有機すず塗料は全世界で使用
付着する。ハイソルではこれら様々な運航条件でも最適
されるようになった。しかしながら、その後、イボニシ
な防汚性能を発揮するために、塗膜の消耗率により防汚
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Znアクリル樹脂
海水浸せきによる塗膜の
加水分解反応
加水分解反応基
防汚剤
◎ 加水分解反応は表層部のみで起こり、
表層部付近には常に活性のある
防汚剤が存在 ◎ 加水分解の効果により、塗膜が消耗し
塗膜表面の平滑性が向上
海水中のイオン
図1 「ハイソル」シリーズの防汚剤溶出メカニズム
剤の溶出を最適なレベルに制御している。異なる塗膜の
消耗率は、Znアクリル樹脂骨格部分の官能基を変更す
ることにより自由に設計することができる。ハイソルに
は異なる塗膜の消耗率(μm/月)を持つ4つの商品を
用意している(図2、表1)。
紹
介
ハイソルは防汚剤として亜酸化銅を使用していないた
前回(従来型すずフリー防汚塗料・2003年2月) 今回(ハイソル100・2004年2月)
め、アルミ船などにも塗装することができることから、
船名:フェリー太陽 船種:フェリー
トン数:408G/T 船速:16ノット 航路:種子島∼屋久島∼口永良部島
より幅広い船舶への適用が可能である。図3に藻類付着
の著しい海域での船に塗装されたハイソルの試験結果を
図3 「ハイソル100」12ヵ月運航試験結果
(2003年2月∼2004年2月)
示す。従来の製品では生物汚損が激しく良好な結果を得
られなかった船舶に対しても、ハイソルは満足のいく防
汚性を発揮できる製品である。
4.おわりに
350
ハイソル100
塗膜消耗量/μm
300
ハイソル300
250
燃料コストの低減やドックインターバルの延長などの
200
ユーザーからの要望を満足させつつ、より安全な海洋環
境を形作るための商品開発を今後とも目指していく必要
150
がある。
100
船速;15ノット
海水温度;25℃
50
0
0
5
10
15
20
25
5.参考文献
30
運航月数/月
図2 ハイソルシリーズの塗膜消耗量モデル
1)横井準治,塗装技術,35,69(1996)
2)伊藤正康,舛岡 茂,塗装工学,33,224(1998)
表1 「ハイソル」シリーズの適用船
ハイソル
3)吉川榮一,TECHNO MARINE,879,31(2004)
適用船
100
内航高稼働船(自動車運搬船等)、長距離フェリー
200
短距離フェリー(宇和島航路、青函・津軽海峡)
300
内航船(一般)
短距離フェリー(宇和島航路、青函・津軽海峡除く)
400
内航低稼働船
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船
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