7MB - 地球環境産業技術研究機構

平成23年度
二酸化炭素固定化・有効利用技術等対策事業
地球環境国際研究推進事業
(脱 地 球 温 暖 化 と 持 続 的 発 展 可 能 な
経済社会実現のための対応戦略の研究)
成 果 報 告 書
【 要 約 編 】
平成24年3月
公益財団法人 地球環境産業技術研究機構
a
ま
え
が
き
本報告書は、
「脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦略の研
究 」( 通 称 ALPS : ALternative Pathways toward Sustainable development and climate
stabilization) プ ロ ジ ェ ク ト の 5 年 間 の 報 告 で あ る 。
1992 年 に ブ ラ ジ ル の リ オ デ ジ ャ ネ イ ロ で 開 催 さ れ た 国 連 環 境 開 発 会 議 で 「 環 境 と 開
発 に 関 す る 宣 言 ( リ オ 宣 言 )」 と 同 行 動 計 画 ア ジ ェ ン ダ 21 に よ っ て 、 根 本 理 念 と し て
「 持 続 可 能 な 開 発 」 が 位 置 づ け ら れ た 。 そ れ か ら 10 年 後 の 2002 年 に は 、 南 ア フ リ カ ヨ
ハ ネ ス ブ ル ク に て 、 持 続 可 能 な 開 発 に 関 す る 世 界 首 脳 会 議 が 開 催 さ れ 、「 持 続 可 能 な 開
発に関するヨハネスブルグ宣言」が採択された。また、当時の国連事務総長アナン氏
は、具体的に成果を挙げるべき重要分野として、水、エネルギー、健康、農業生産性、
生 物 多 様 性 と エ コ シ ス テ ム( WEHAB)を 掲 げ た 。1992 年 か ら 20 年 が 経 っ た 今 年 、2012
年 6 月 に は リ オ デ ジ ャ ネ イ ロ に て 「 国 連 持 続 可 能 な 開 発 会 議 ( Rio+20)」 が 開 催 予 定 と
なっている。
温 暖 化 抑 止 に 向 け て の 世 界 の 動 き で は 、2011 年 12 月 に 開 か れ た 気 候 変 動 枠 組 条 約 締
約 国 会 合( COP17)に お い て 、ダ ー バ ン ・ プ ラ ッ ト フ ォ ー ム が 採 択 さ れ 、一 部 の 先 進 国
だけに排出削減義務を課している京都議定書から、世界主要国すべてが実効ある形で
削減に取り組む新たな枠組みへの道筋ができた。しかし、その具体化はこれからであ
る。
発展途上国は貧困からの脱却を願って今後更に大幅な経済の拡大を指向しており、
こ れ と 温 暖 化 抑 止 の 努 力 を 如 何 に 整 合 さ せ 、人 類 を 安 定 な 持 続 的 発 展 に 導 く か は 21 世
紀の世界の最大の課題と考えられる。
本プロジェクトにおいては、そのような複雑な課題への回答を、定性的な総合的社
会経済シナリオの構築とモデルによる定量的な解析を組み合わせて探索してきた。こ
の成果は、今後、具体的な検討が行われる気候変動抑制の新たな枠組みの策定にも参
考になるものと考えている。
本プロジェクトでは、諸大学・研究所そして産業界からも多数の方にご助力をお願
いしてきた。また、国際的には、ウィーン郊外にある国際応用システム分析研究所
( IIASA ) 等 と も 連 携 し 、 諸 デ ー タ ・ モ デ ル 分 析 等 に お け る 総 合 協 力 を 行 い 、 大 き な 成
果を得ている。これら外部の方々のご助力に、厚く感謝申し上げたい。
平 成 24 年 3 月
(公財)地球環境産業技術研究機構
理事長
i
茅
陽一
目
要 約 (和 文 ・ 英 文 )
次
………………………………………………………….1
第 1 章 温 暖 化 問 題 と 持 続 可 能 な 発 展 を め ぐ っ て .......................... 49
1.1 持 続 可 能 な 発 展 と 地 球 温 暖 化 問 題 を め ぐ る 動 き ................................ 49
1.2 持 続 可 能 な 発 展 と 幸 福 度 ................................................................... 51
1.3 政 策 の 優 先 順 位 に お け る 地 球 温 暖 化 問 題 ........................................... 53
1.4 本 研 究 の 目 的 .................................................................................... 57
第 2 章 評 価 の た め の シ ナ リ オ と 評 価 の 方 法 ................................. 58
2.1 評 価 シ ナ リ オ の 概 要 .......................................................................... 58
2.1.1 マ ク ロ の 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ ................................................... 59
2.1.2 温 暖 化 政 策 の 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ ............................................ 63
2.1.3 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ ....................................................... 69
2.1.4 そ の 他 サ ブ シ ナ リ オ ............................................................................ 71
2.2 シ ナ リ オ 分 析 に 用 い た モ デ ル の 概 要 と 分 析 方 法 ................................ 75
2.3 シ ナ リ オ 評 価 の た め の 主 要 な 指 標 ..................................................... 77
第 3 章 人 口 、 経 済 、 貧 困 、 健 康 ................................................... 79
3.1 現 状 認 識 ........................................................................................... 79
3.1.1 社 会 経 済 (人 口 、 経 済 ) ......................................................................... 79
3.1.2 貧 困 .................................................................................................... 86
3.1.3 健 康 .................................................................................................... 88
3.2 将 来 の 見 通 し .................................................................................... 89
3.2.1 社 会 経 済 (人 口 、 経 済 ) ......................................................................... 90
3.2.2 貧 困 ................................................................................................... 101
3.2.3 健 康 ................................................................................................... 102
第 4 章 エ ネ ル ギ ー 、 気 候 変 動 .................................................... 104
4.1 現 状 認 識 ......................................................................................... 104
ii
4.1.1 エ ネ ル ギ ー ・ CO 2 ............................................................................... 104
4.1.2 気 候 変 動 ............................................................................................ 113
4.2 将 来 の 見 通 し .................................................................................. 116
4.2.1 温 室 効 果 ガ ス 排 出 削 減 レ ベ ル の 違 い に よ る エ ネ ル ギ ー の 見 通 し ......... 116
4.2.2 社 会 経 済 の 差 異 に よ る エ ネ ル ギ ー の 見 通 し ........................................ 123
4.2.3 温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 の 差 異 に よ る エ ネ ル ギ ー の 見 通 し .. 126
4.2.4 気 候 変 動 ............................................................................................ 130
4.2.5 そ の 他 の シ ナ リ オ 分 析 か ら 得 ら れ る 見 通 し ........................................ 133
第 5 章 農 業 土 地 利 用 、 食 料 、 水 、 生 物 多 様 性 ........................... 143
5.1 現 状 認 識 ......................................................................................... 143
5.1.1 農 業 土 地 利 用 、 食 料 需 要 .................................................................... 143
5.1.2 食 料 価 格 、 飢 餓 人 口 ........................................................................... 146
5.1.3 水 需 給 ............................................................................................... 149
5.1.4 生 物 多 様 性 ........................................................................................ 150
5.2 将 来 の 見 通 し .................................................................................. 152
5.2.1 農 業 土 地 利 用 、 食 料 需 要 .................................................................... 152
5.2.2 食 料 価 格 、 飢 餓 人 口 、 食 料 セ キ ュ リ テ ィ ........................................... 157
5.2.3 水 ス ト レ ス 人 口 ................................................................................. 161
5.2.4 生 物 多 様 性 ........................................................................................ 163
第 6 章 各 種 鉱 物 資 源 、 リ サ イ ク ル ............................................. 167
6.1 現 状 認 識 ......................................................................................... 167
6.1.1 鉱 物 資 源 と 地 球 温 暖 化 、 持 続 可 能 な 発 展 と の 連 関 に 関 す る 問 題 意 識 .. 167
6.1.2 レ ア メ タ ル 、 レ ア ア ー ス を 含 む 各 種 鉱 物 資 源 の 特 性 と 現 状 ................ 168
6.1.3 鉄 鋼 部 門 及 び 鉄 リ サ イ ク ル の 現 状 ...................................................... 170
6.2 将 来 の 見 通 し .................................................................................. 172
6.2.1 レ ア ア ー ス 、 レ ア メ タ ル に 関 す る 見 通 し ........................................... 172
6.2.2 粗 鋼 生 産 量 及 び 鉄 リ サ イ ク ル の 見 通 し ............................................... 173
6.3 鉱 物 資 源 、 リ サ イ ク ル に 関 す る ま と め ............................................ 175
第 7 章 総 合 評 価 ・ 分 野 横 断 的 事 項 ............................................. 178
7.1 脱 地 球 温 暖 化 と 持 続 可 能 な 発 展 の 総 合 評 価 方 法 .............................. 178
7.2 総 合 評 価 の 実 施 ............................................................................... 179
iii
7.3 総 合 評 価 ・ 分 野 横 断 的 事 項 の ま と め ................................................ 182
第 8 章 ま と め と 政 策 的 イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン ............................... 185
8.1 ま と め ............................................................................................. 185
8.2 政 策 的 イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン ............................................................. 185
iv
地球環境国際研究推進事業「脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現
の た め の 対 応 戦 略 の 研 究 - ALPS プ ロ ジ ェ ク ト ( ALternative Pathways toward
Sustainable development and climate stabilization) 」 報 告 書
要
約
本 プ ロ ジ ェ ク ト ( 通 称 ALPS プ ロ ジ ェ ク ト : ALternative Pathways toward Sustainable
development and climate stabilization) は 、 経 済 産 業 省 の 補 助 事 業 「 地 球 環 境 国 際 研 究 推
進 事 業 」 の 一 つ と し て 平 成 19 年 度 か ら 実 施 し て き た も の で あ り 、 本 報 告 書 は 、 プ ロ ジ
ェクトの予定期間 5 年間を終えた最終の報告書である。
本 プ ロ ジ ェ ク ト の 目 標 は 、( 1) 今 後 100 年 程 度 に わ た る 世 界 の 社 会 経 済 、 温 室 効 果
ガ ス 排 出 シ ナ リ オ を 提 示 す る 、( 2 ) こ の 排 出 シ ナ リ オ を 基 準 に 温 室 効 果 ガ ス を 各 種 濃
度 安 定 化 レ ベ ル に 抑 制 す る 方 策 を 示 す 、( 3 ) 各 排 出 シ ナ リ オ に お け る 水 資 源 、 食 料 ア
クセス、貧困、エネルギーセキュリティ、生物多様性等に関連する各種持続的発展指
標 を 定 量 的 に 提 示 す る 、 そ し て 、( 4 ) こ れ ら の 定 量 的 な 評 価 を 基 に 、 各 種 持 続 的 発 展
政策、温暖化緩和・適応策のあり方に関する示唆を得ることである。
はじめに
1972 年 に 出 版 さ れ た「 成 長 の 限 界 」は 、コ ン ピ ュ ー タ モ デ ル を 用 い た 分 析 に よ っ て 、
こ の ま ま の 発 展 を 続 け る と 人 類 は 限 界 に ぶ つ か る こ と を 示 唆 し た 。こ れ が 契 機 と な り 、
後 に「 持 続 可 能 な 開 発 」の 概 念 が 生 み 出 さ れ 、環 境 と 開 発 に 関 す る 世 界 委 員 会( WCED)
が 1987 年 に 公 表 し た 「 我 ら 共 通 の 未 来 ( Our Common Future)」( 通 称 「 ブ ル ン ト ラ ン
ト 報 告 書 」)に お い て 定 着 す る こ と と な っ た 。そ し て 、1992 年 に ブ ラ ジ ル の リ オ デ ジ ャ
ネイロで開催された国連環境開発会議において採択された「環境と開発に関する宣言
( リ オ 宣 言 )」 と 同 行 動 計 画 ( ア ジ ェ ン ダ 21 ) に よ っ て 、 根 本 理 念 と し て の 「 持 続 可 能
な 開 発 」 が 具 体 化 さ れ た 。 そ し て 、「 気 候 変 動 枠 組 条 約 」 と 「 生 物 多 様 性 条 約 」 が 提 起
さ れ た 。 2002 年 に は 、 南 ア フ リ カ の ヨ ハ ネ ス ブ ル ク に お い て 、 持 続 可 能 な 開 発 に 関 す
る世界首脳会議が開催された。地球環境問題に対する取り組みを評価するため、アジ
ェ ン ダ 2 1 の 実 施 状 況 を 点 検 し 、 今 後 の 取 り 組 み を 強 化 す る こ と が 確 認 さ れ 、「 持 続 可
能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」などが採択された。また、当時の国連事務総
長 の ア ナ ン 氏 は 、 具 体 的 に 成 果 を 挙 げ る こ と が 期 待 さ れ る 重 要 分 野 と し て 、 Water 、
Energy 、 Health 、 Agricultural productivity 、 Biodiversity and ecosystem management
( WEHAB) を 掲 げ た 。 そ し て 、 リ オ 宣 言 か ら 20 年 と な る 2012 年 6 月 に は 、 再 び 、 リ
オデジャネイロで、持続可能な開発と貧困根絶に対する国際的な取り組み強化を目的
に し た 「 国 連 持 続 可 能 な 開 発 会 議 ( Rio+20)」 も 予 定 さ れ て い る 。
気 候 変 動 枠 組 条 約( UNFCCC)は 、1997 年 京 都 で 開 催 さ れ た 第 3 回 締 約 国 会 合( COP3)
に お い て 京 都 議 定 書 を 採 択 し 、先 進 国 は 2008 ~ 2012 年 の 間 に CO 2 を 含 む 6 種 類 の 温 室
効果ガス排出削減目標を設定し、法的拘束力を有する形で排出削減に取り組むことが
-1-
決められた。しかしながら、以降、世界の温室効果ガス排出は、減少するどころか、
むしろ、増加の速度を速めてきた。米国も離脱し、中国をはじめとした新興国の排出
が増大したことにより、京都議定書で排出削減義務を負った国が、世界全体の排出に
占 め る 割 合 は 、 2005 年 時 点 で は 27%に ま で 減 少 し 、 温 暖 化 抑 制 の 効 果 が 極 め て 限 定 的
と見られる状況に陥った。そのため、世界すべての主要な排出国が加わる新たな枠組
み の 構 築 に 向 け た 努 力 が な さ れ 、 コ ペ ン ハ ー ゲ ン で 開 催 さ れ た COP15 に お い て 、 COP
の正式決定ではないものの、それに道筋をつけるコペンハーゲン合意が成立し、翌年
メ キ シ コ・カ ン ク ン で 開 催 さ れ た COP16 に お い て 、COP の 正 式 決 定 と な っ た 。そ し て 、
2011 年 末 に ア フ リ カ ・ ダ ー バ ン で 開 催 さ れ た COP17 で は 、京 都 議 定 書 は 形 式 上 は 延 長
されることとなったが、事実上、京都議定書体制は終焉を迎え、コペンハーゲン、カ
ンクン合意の流れを受けた「ダーバン・プラットフォーム」の下で、主要国すべてが
参加する新たな枠組み構築に踏み出すこととなった。
一連の気候変動に関する国際交渉や各国国内での対応を見ても、各国は多様な目的
を有し、また、国によって経済発展段階は異なり、また優先される政策課題も異なっ
ている。そして、ここ数年、世界経済危機が深刻で失業率が高い状況にあり、また、
各国政府の財政も悪化し、これまでのように温暖化対策に力点をおくことが難しい状
況 に 陥 っ て い る 。 ま た 、 日 本 に お い て は 、 そ れ に 加 え 、 2011 年 3 月 11 日 の 東 日 本 大 震
災とそれに起因した福島第一原子力発電所の大事故によって、温暖化対策よりも、安
全・安心へのより一層の配慮、安定的なエネルギー供給、経済といった事項への重み
を、従来よりも大きく置かざるを得なくなっている。いずれにしても、多様な目的を
バランスさせた中で温暖化対応をとらざるを得ないのが現実であるし、ここ数年益々
そのような状況が強くなっている。それは、広い文脈である「持続可能な発展」の中
で、気候変動問題・政策をとらえ、その中で、多様な目的が調和した対策・政策を見
出そうとすることでもある。
このような現実の世界を改めて直視し、よく理解しようとすると、従来の温暖化対
策モデル分析による温暖化対策シナリオ策定は、単純にすぎ、その他の多様な部分を
捨象してしまい、実態との乖離が大きく、時として、むしろ、世界の温暖化対策、政
策立案を混乱させるものにもなっている。本研究では、社会は多様で多目的であるこ
とを前提とし、それをシナリオとして定性的、そしてできる限り定量的に描き出すこ
とにより、多様、多目的な社会の中で、温暖化対応ひいては持続可能な発展につなが
るより良い意思決定ができるような情報提供を行うことを目的として研究を推進し
た。
持続可能な発展と温暖化対策
本 研 究 で は 持 続 可 能 な 発 展 の 定 義 を 行 う こ と は し な か っ た 。本 研 究 で は 、持 続 可 能 と
考えられる経済社会により接近できるシナリオはどのようなもので、それにはどのよ
うな方策をとるのが好ましいと考えられるのかを追求した。一方、持続可能な発展の
定義を行うことはしなかったものの、持続可能な発展とは、将来世代にわたって幸福
感が持続的に向上、もしくは、下がらないことが重要であろうと考えた。気候変動対
-2-
策をとるのは、とらない場合に比べて、将来において我々人類の幸福感が下がる危惧
があるためである。当然ながら、気候変動対策それ自体を目的化すべきではなく、こ
のようにより広い文脈で、我々のとるべき道を探ることが重要である。
そして、我々は、通常、幸福の感じ方の段階があるはずであり、生命の危険は幸福
感に最も大きくマイナスの影響をもたらすであろう。これを考えると飢餓や貧困問題
は根本的に重要で、優先順位の高い対応が求められる。また、働きたいのに雇用機会
が失われることも幸福感を大きく阻害するはずである。温暖化問題は重要ではあるも
のの、幸福感への直接的な影響は必ずしも大きくない。このように考えたとき、温暖
化問題が、将来そして将来世代において、飢餓や貧困、雇用・所得など、幸福感に大
きく影響すると思われる要因にどのように効いてくるのかを分析しておくことが、持
続可能な発展に向けたシナリオの評価としては特に重要と考えられる。
ロ ン ボ ー グ ら に よ る コ ペ ン ハ ー ゲ ン ・ コ ン セ ン サ ス 1で は 、 温 暖 化 政 策 の 優 先 順 位 は
大変低いとの結果が示されている。また、米国はじめ、各国での政策の優先順位の調
査 を 見 て も 、 温 暖 化 対 策 は 低 い こ と が 多 い 2。 し か し な が ら 、 温 暖 化 問 題 は 長 期 に お い
て影響が大きく現れる能性のある問題であり、調査の結果が低いからと言って重要で
はない、というメッセージにはならない。むしろ、優先順位が低い中で、長期を見据
え対策をとっていかなければならないため、大変難しい問題と認識しなければならな
い。そして、優先順位が低いからこそ、他の優先順位の高い対策、政策と調和性の良
い温暖化対策、政策としなければ、温暖化対策は持続的になりにくい。持続可能な発
展の広い文脈の中で、温暖化対策を考えなければならない理由はここにもある。
評価のためのシナリオの想定
モデル分析は、ある合理的なシナリオを導くことができ、意思決定サポートのツー
ルとして大変有用であるが、一方で、現実社会の多くを捨象せざるを得ず、時として
誤ったメッセージを発信してしまうこともある。本研究では、モデルによる定量的な
分析に先だって叙述的なシナリオ策定を行い、より広く、より深く、現実社会の動向
の把握に努め、幅広い専門家と多くの議論を重ねた。
そ れ ら も 踏 ま え つ つ 、 分 析 ・ 評 価 の た め の 主 要 な シ ナ リ オ と し て 、 1) 社 会 経 済 状 況
に 関 す る シ ナ リ オ 、 2) 温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 に 関 す る 社 会 経 済 シ ナ リ オ 、 3)
排出削減レベルに関するシナリオ(濃度安定化レベル)の 3 つの軸のシナリオを策定
した。これに加え、サブシナリオとして、温暖化対策技術の開発普及状況等について
策 定 し た ( 図 1)。
社会経済状況に関するシナリオは、その主要なドライビングフォースは技術の進歩
であるとし、その不確実性の範囲として 2 種類の見通しを策定した。技術進歩は不確
実であり、将来の革新性の高い技術を予期・予測することは不確実性が高いと考えた
ためである。本来、政策によっても技術の進歩は変わり得るが、それ以上に意図しな
い不確実性が大きいものと考えた。シナリオは、これまでの奇跡的とも言える高経済
1
2
http://www.copenhagenconsensus.com/Projects/Copenhagen%20Consensus%202008-1.aspx
例 え ば 、 Pew Research Center, “Public Priorites: Deficit Rising, Terrorism Slipping”, 2012.
-3-
成長から先進国を中心に次第に緩やかなる経済成長へと変化していく「中位技術進展
シナリオ」
( シ ナ リ オ A)と 、奇 跡 的 と も 言 え る 技 術 革 新 が 今 後 も 継 続 し 一 人 当 た り GDP
成 長 も 大 き く 成 長 す る 「 高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ 」( シ ナ リ オ B) の 2 種 類 で あ る 。
温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ は 次 の 3 種 類 で あ る 。シ ナ リ オ I
「 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ 」は 、将 来 の 社 会 行 動 は 現 在 の そ れ に 近 い こ と を 前 提 と し
たシナリオである。このシナリオでは、温暖化対策技術普及に際して様々な障壁が存
在 す る こ と が 表 現 さ れ る 。 シ ナ リ オ II は 「 温 暖 化 対 策 優 先 シ ナ リ オ 」 で あ り 、 こ の シ
ナリオにおいては、様々な目的の中で温暖化対策の優先度が高く、温暖化対策をコス
ト 効 果 的 に 実 施 す る こ と が 優 先 さ れ る シ ナ リ オ で あ る 。シ ナ リ オ III は「 エ ネ ル ギ ー 安
全保障優先シナリオ」であり、エネルギー安全保障の視点から国内資源の利用が優先
されるようなシナリオである。
排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ は 、 IPCC が 第 5 次 評 価 報 告 書 に 向 け た 新 シ ナ リ オ
の た め に 選 定 し た 4 つ の 排 出 シ ナ リ オ 3 ( Representative Concentration Pathway: RCP8.5
( 3W/m 2 を ピ ー ク
( 2100 年 に 放 射 強 制 力 が 8.5 W/m 2 )、RCP6.0、RCP4.5、RCP3PD( 2.6)
に 2100 年 に 2.6 W/m 2 )) を 参 考 に 、 ベ ー ス ラ イ ン 、 CP 6.0、 CP4.5、 CP3.0 の 排 出 推 移 を
想 定 し た 。 た だ し 、 RCP で は 、 2100 年 に 3.7 W/m 2 程 度 の シ ナ リ オ は 選 定 さ れ て い な い
が 、こ の レ ベ ル も 重 要 と 考 え た た め 、CP3.7 も 加 え た 5 シ ナ リ オ を 想 定 し て 分 析 を 行 っ
た。
ALPSコアシナリオ
長期的なマクロの経済社会状況に関するシナリオ
B:高位技術
進展シナリオ
A:中位技術
進展シナリオ
温暖化政策実施における
背景状況に関するシナリオ
排出削減レベルに
関するシナリオ
ALPS-Baseline
I:多目的多様性社会
シナリオ
ALPS-CP6.0
II. 温暖化対策優先
シナリオ
ALPS-CP4.5
ALPS-CP3.7
III:エネルギー安全
保障優先シナリオ
ALPS-CP3.0
図 1
3
AL PS で 想 定 し た シ ナ リ オ ( 主 要 な シ ナ リ オ の み )
D.P. van Vuuren et al., The representative concentration pathways: an overview, Climatic Change
(2011)な ど を 参 照 の こ と
-4-
定量的なシナリオ策定のためのモデル開発
持続可能な発展の大きな文脈の中で、シナリオを策定するためには、温暖化に関連
しつつも、より幅広い社会状況を評価できるモデルが必要である。本研究プロジェク
ト で は 、 RITE が こ れ ま で に 開 発 し て き た モ デ ル や 、 本 研 究 プ ロ ジ ェ ク ト に お い て 新 た
に開発したモデルを総合的に利用して、シナリオ策定に取り組んできた。
詳 細 な 国 別 、 セ ク タ ー 別 ・ 技 術 別 の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 削 減 の 分 析 が 可 能 な
DNE21+モ デ ル や 、 グ リ ッ ド レ ベ ル で の 評 価 が 可 能 な 食 料 需 給 ・ 淡 水 資 源 ・ 土 地 利 用 変
化評価モデルなどのモデルによって、それぞれのシナリオを表現する各指標が、整合
性 を 有 す る よ う に 定 量 的 な 分 析 を 行 う こ と が で き る よ う に し て い る ( 図 2)。
また、国別、セクター別・技術別の対策の提示が重要である一方、温暖化対策、持
続可能な発展は長期を考えた上での対応が不可欠である。そのため、短中期を扱う国
別、セクター別・技術別評価が可能なモデル以外にも、気候変動、温暖化影響を考慮
した評価が可能なより長期を対象に評価できるモデルも用いて、総合的なシナリオ策
定を行った。
社会経済
人口、GDP推計モデル
食料アクセス
評価
中期世界エネルギー・
経済モデル: DEARS
貧困人口評価
エネルギー起源CO2
以外のGHGs
超長期エネルギー・マクロ経済評価
モデル: DNE21
(2050年まで)
エネルギー起源CO2以外
のGHGs評価モデル
エネルギー
エネルギーセキュリティ評価
(2050年まで)
中期世界エネルギー・温暖化
対策評価モデル: DNE21+
(2050年まで)
気候変化
簡易気候変動モデル:
MAGICC6
食料、水資源、土地利用
食料セキュリティ評価
食料需給・水需給・土地利用評価モデル
グリッドベースの気候変動
推計モデル: MIROC3.2計
算結果利用
集約化された地球温暖化による経済ダ
メージ推計モデル(Nordhaus関数)
水ストレス評価
地球温暖化影響
図 2
生物多様性評価モデル(陸上生態系影響
および海洋酸性化)
健康影響評価モデル
定量的シナリオ策定のためのモデル群
脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会シナリオの総合評価
社会経済シナリオ
CO 2 排 出 は 、 人 類 の エ ネ ル ギ ー 利 用 と 密 接 に 関 わ っ て い る 。 今 後 、 経 済 成 長 と CO 2
排 出 の 相 関 関 係 を 断 ち 切 っ て い く こ と が 重 要 で は あ る が 、過 去 は 、CO 2 排 出 と 経 済 成 長
には強い正の相関関係があった。そのため、温暖化対策と持続可能な発展に関する総
-5-
合シナリオ策定のためには、人口、経済成長に関する見通しは重要である。本研究で
は、過去の様々な指標を総合的に分析し、昨今の世界経済危機の影響等も踏まえて、
GDP 成 長 、人 口 成 長 等 の 将 来 シ ナ リ オ を 国 別 に 策 定 し た 。一 人 当 た り GDP が 高 い と き 、
出 生 率 は 低 く 推 移 し 、低 位 の 人 口 が 予 想 さ れ る 。本 研 究 で は 、
「中位技術進展シナリオ」
( シ ナ リ オ A)と「 高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ 」
( シ ナ リ オ B)の 2 種 類 の 社 会 経 済 シ ナ リ オ
を 想 定 し た 。 シ ナ リ オ A で は 、 世 界 人 口 は 2050 年 に 9 1 億 人 、 2100 年 に 93 億 人 、 世
界 GDP は 、 2010 ~ 30 年 の 間 、 年 2.9%、 2030 ~ 50 年 の 間 、 2.2%と し た 。 一 方 、 シ ナ リ
オ B で は 、 世 界 人 口 は 2050 年 に 86 億 人 、 2100 年 に 74 億 人 、 世 界 GDP は 、 2010~ 30
年 の 間 、年 3.2%、2030 ~ 50 年 の 間 、2.6%と し た 。な お 、温 暖 化 影 響 被 害 に よ り 、ま た 、
緩 和 策 を と る こ と に よ っ て 、 GDP が 影 響 を 受 け る も の の 、 そ れ が 人 口 に 更 に 影 響 を 及
ぼすといった連関については、本シナリオ評価では取り扱わなかった。
SRES A2
(IIASA1996高位)
160
SRESの範囲
140
ALPS-シナリオA
SRES B2
UN2008高位
(UN1998中位)
120
人口(億人)
UN2008中位
IIASA2007
100
(10-90パーセンタイル)
ALPSの範囲
80
UN2008の範囲
60
UN2008低位
SRES A1/B1
40
(IIASA1996低位)
ALPS-シナリオB
20
0
1950
1975
図 3
4
2000
2025
2050
2075
2100
ALPS に お け る 世 界 人 口 シ ナ リ オ 4
ALPS の 世 界 各 国 別 の 人 口 ・ GDP シ ナ リ オ は 、 シ ナ リ オ A、 B そ れ ぞ れ 、
http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/research/alps/baselinescenario/RITEALPS_ScenarioA_POP
GDP_20110405.xls お よ び
http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/research/alps/baselinescenario/RITEALPS_ScenarioB_POP
GDP_20110405.xls か ら ダ ウ ン ロ ー ド 可 能
な お 、 国 連 は 2010 年 に 新 し い 人 口 推 計 を 発 表 し た 。2008 年 推 計 よ り も 若 干 上 位 と な る 推 計 を 示
し て い る 。し か し な が ら 、2 0 1 0 年 中 位 推 計 で は 長 期 的 に 合 計 特 殊 出 生 率 が 2 . 1 に な る よ う に 想 定
されており、目標値的な意味合いも強い。そのため、本研究では、過去の実績等も踏まえると、
よ り 下 方 の 推 移 の 方 が 、 よ り あ り 得 そ う な 人 口 推 計 と 見 て 、 シ ナ リ オ A、 B を 想 定 し た 。
-6-
RCP3PD(2.6)
400
SRESの範囲
SRES A1
GDP (Trillion 2000USD)
350
ALPS-シナリオB
SRES B1
RCPの範囲
300
RCP4.5
ALPSの範囲
250
200
150
SRES B2
SRES A2
100
RCP8.5
RCP6.0
ALPS-シナリオA
50
0
1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100
図 4
AL PS に お け る 世 界 GDP シ ナ リ オ
気候変動関連の見通し
気候変動に関連した見通しを分析した。仮に温暖化対策をとらないとしたベースラ
イ ン シ ナ リ オ の 場 合 に は 、 世 界 の CO 2 排 出 量 は 2005 年 34 GtCO 2 /yr で あ っ た が 、 図 5
で 示 す よ う に 、 2050 年 に は 64~ 66 GtCO 2 /yr 程 度 、 2100 年 に は 83~ 100 GtCO 2 /yr に 増
大 す る と 推 計 さ れ る ( GHG 排 出 量 で は 2005 年 45 GtCO 2 /yr が 、 2050 年 に は 81~ 83
GtCO 2 eq/yr 程 度 、 2100 年 に は 103~ 109 GtCO 2 eq/yr)。 そ し て こ の と き 、 2100 年 ま で に
は 全 球 平 均 気 温 は 、産 業 革 命 以 前 比 で 4.1~ 4.3℃ 上 昇 す る と 推 定 さ れ る( 平 衡 気 候 感 度
3.0℃ の 場 合 )( 表 1 参 照 )。
120
CO2 emission (GtCO2/yr)
ALPS A-Baseline
100
ALPS B-Baseline
80
ALPS A-Baseline
ALPS A-CP6.0
ALPS A-CP4.5
ALPS A-CP3.7
60
ALPS A-CP3.0
ALPS B-Baseline
40
RCP8.5
20
RCP6.0
RCP4.5
2150
2130
2110
2090
2070
2050
2030
2010
1990
0
RCP3PD
-20
図 5
AL PS に お け る 世 界 の CO 2 排 出 量 の 見 通 し と 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ
注 ) RCP( Representative Concentration Pathway) は 、 IPCC の 新 排 出 シ ナ リ オ で あ り 、 放 射 強 制 力
レ ベ ル の 違 い に よ る 4 つ の シ ナ リ オ が 選 定 さ れ て い る 。A L P S の ベ ー ス ラ イ ン 推 計 は 、2 0 5 0 年 ま で
は DNE21+モ デ ル 、 2050 年 以 降 は DNE21 モ デ ル に よ っ て 推 計 し た も の 。
-7-
表 1
各シナリオにおける気候変化推定
CO2
concentration
(ppm-CO2)
GHG
concentration
(ppm-CO2eq.)
Radiative
forcing (W/m2)
Global mean temperature
change relative to
p r e - i n d u s t r i a l l e v e l ( C )
2100
2100
2100
2050
2100
Scenario A
820
1010
7.0
2.4
4.1
Scenario B
840
1060
7.3
2.5
4.3
CP6.0
680
760
5.5 (6.0 in 2150)
2.3
3.3
CP4.5
550
630
4.5
2.1
2.8
CP3.7
480
550
3.7
2.0
2.3
CP3.0
420 (overshoot;
480 (overshoot;
3.0
1.8
1.9
380 in 2150)
450 in 2150)
Baseline
Note: Equilibrium climate sensitivity is assumed to be 3.0 C for estimates of global mean
temperature change. According to IPCC (2007), the range of climate sensitivity is likely to be
2.04.5 C, and the most likely value is 3.0 C.
シ ナ リ オ A-I( 技 術 進 展 中 位 ・ 経 済 成 長 中 位 、 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ ) 時 に 、 各
排 出 削 減 レ ベ ル を 実 現 す る 場 合 の GHG の 限 界 削 減 費 用 は 、 図 6 の よ う に 推 定 さ れ る 。
2050 年 の 限 界 削 減 費 用 は 、CP6.0、CP4.5、CP3.7、CP3.0 そ れ ぞ れ 、6、27、152、421 $/tCO 2 、
ま た 、 2100 年 は CP6.0、 CP4.5、 CP3.7、 CP 3.0 そ れ ぞ れ 、 97、 176、 251、 596 $/tCO 2 と
推 定 さ れ た ( い ず れ も 2000 年 価 格 )。 モ デ ル で は 、 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー の 相 当 な コ ス
ト 低 減 な ど を 見 込 ん で い る が 、 そ れ で も 、 と り わ け CP3.0 で は 相 当 高 い コ ス ト が 予 想
される。また、これは、世界全体で限界削減費用が均等化し、最も費用効果が高く排
出削減が可能と仮定した場合の推計値であり、実際にそれぞれの排出削減レベルを達
成しようとすれば、これよりももっと高い限界削減費用となることも予想される。
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
600
ALPS A-CP6.0
500
ALPS A-CP4.5
400
ALPS A-CP3.7
300
ALPS A-CP3.0
200
100
0
2000
図 6
IEA WEO2011
New Policy (EU)
IEA WEO2011
450 (US)
2020
2040
2060
2080
2100
各 排 出 シ ナ リ オ に お け る CO 2 限 界 削 減 費 用( い ず れ も 温 暖 化 政 策 実 施 の 背 景 状 況
に 関 す る シ ナ リ オ は 、 シ ナ リ オ A-I の 場 合 )
注 ) ALPS の 限 界 削 減 費 用 推 計 は 、 2050 年 ま で は DNE21+モ デ ル 、 2050 年 以 降 は DNE21 モ デ ル に
よって推計したもの。
-8-
ど の 地 域 で 、ど の 部 門・技 術 で 削 減 を 行 う の が 費 用 効 率 的 な の か を 示 し た の が 、図 7、
図 8 である。
地域別に見ると、すべての国・地域による取り組みが重要であることが示されてい
る が 、 途 上 国 に は 費 用 効 率 的 な 削 減 余 地 は 大 き い 。 例 え ば 、 CP 3.0 で は 、 2050 年 の エ
ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 で 必 要 な 全 排 出 削 減 量 の う ち 、 約 40%が 中 国 と イ ン ド の 2 カ 国
に 期 待 さ れ 、 こ れ に 米 国 を 加 え た 3 カ 国 だ け で 55%程 度 が 費 用 効 率 的 な 削 減 と 分 析 さ
れる。
技術別寄与度を見ると、基本的には様々な技術の組み合わせが重要であるが、比較
的 限 界 削 減 費 用 が 小 さ い CP4.5 で は 、 発 電 部 門 に お け る 省 エ ネ ル ギ ー 、 化 石 燃 料 間 転
換 、ま た 植 林 オ プ シ ョ ン が 費 用 効 率 的 で あ り 、CP 3.7 に な る と 、そ れ に 加 え て 、二 酸 化
炭 素 回 収 貯 留 ( CCS) な ど が 費 用 効 率 的 な オ プ シ ョ ン と し て 加 わ り 、 CP3.0 に な る と 、
更に、再生可能エネルギーの寄与が大きくなる傾向が見られる。
ただし、これらに近づけることは、費用効率的な削減として重要である一方、後述
のように様々なトレードオフ、シナジーも存在するため、各種事情に配慮した対策が
重要と考えられる。
60 50 AI-CP4.5
40 10%
6%
12%
8%
8%
30 20 10 エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
60 50 10%
23%
30 13%
12%
20 10 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
AI-CP3.0
0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
24%
Other Non‐OECD
12%
Other OME
注1)グラフ横の数値は2050年の
削減率(すべてのシナリオでCP3.0
における総削減量に対する比で表示)
27%
India
注2)ベースラインからの削減効果
40 China
30 17%
20 18%
40 60 50 AI-CP3.7
Other OECD
15%
USA
CO2排出量
10 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
図 7
2050 年 に 世 界 排 出 量 半 減 の た め の 地 域 別 寄 与 度( シ ナ リ オ A-I、エ ネ ル ギ ー 起 源
CO 2 排 出 分 の み )
-9-
70
70
AI-CP4.5
6%
8%
9%
50
3%
5%
14%
40
30
20
AI-CP3.7
14%
6%
12%
50
11%
40
5%
10%
30
16%
20
10
10
0
2000
60
CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
60
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
0
2000
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
70
AI-CP3.0
発電部門:CCS
12%
60
CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
11%
50
14%
10%
40
9%
30
13%
15%
20
発電部門:再生可能
発電部門:原子力
発電部門:効率向上・化石燃料間転換
発電以外のエネルギー転換部門
民生部門
注1)グラフ横の数値は2050年の
削減率(すべてのシナリオでCP3.0
における総削減量に対する比で表示)
注2)ベースラインからの削減効果
であり、ベースラインで比較的削減
が大きく進む部門もある(運輸部門
が代表的)。
運輸部門
産業部門
国際海運・国際航空
10
産業プロセス起源CO2
土地利用起源CO2
0
2000
図 8
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
CO2排出量
2050 年 に 世 界 排 出 量 半 減 の た め の 技 術 別 寄 与 度 ( シ ナ リ オ A-I、 全 CO 2 排 出 )
本研究では、各種温暖化影響やそれと関連する持続可能な発展指標について個別に
評価を行った。しかし、個別の事象に地球温暖化がどのような影響を及ぼし得るのか
を評価するとともに、マクロでの被害額についても相場観を把握し、一部の指標には
その影響も含めて分析・評価を行うことは重要と考えられる。特に温暖化によるマク
ロの影響被害額は、不確実性が大きく、また、生態系影響のように市場化されていな
い影響もあるため、評価が難しい。しかし、本研究では、生態系影響など、個別の評
価も実施しつつ、併せてマクロの被害額についても推計した。推計に用いたのは、
Nordhaus に よ っ て 提 案 さ れ て い る 関 数 5 で あ り 、 そ れ を 用 い て 計 算 す る と 、 各 排 出 削 減
レベルによって、表 2 のような温暖化影響被害が推計される。ベースラインでは、特
に 2100 年 頃 か ら 急 激 に 被 害 が 大 き く な る 可 能 性 も 示 唆 さ れ る 。
5
Nordhaus, W.D., 2010. Economic aspects of global warming in a post-Copenhagen environment.
Proceedings of the National Academy of Sciences, doi:10.1073/pnas.1005985107,
http://www.pnas.org/content/early/2010/06/10/1005985107
- 10 -
表 2
各 シ ナ リ オ に お け る マ ク ロ の 温 暖 化 影 響 被 害 推 計( 世 界 平 均 値 。各 年 の ベ ー ス ラ
イ ン の GDP 比 )
2030
2050
2100
2150
A-Baseline
0.56%
1.11%
3.14%
5.56%
A-CP6.0
0.55%
1.01%
2.15%
2.84%
A-CP4.5
0.51%
0.87%
1.55%
1.83%
A-CP3.7
0.49%
0.77%
1.14%
1.29%
A-CP3.0
0.47%
0.67%
0.84%
0.77%
注 ) 実 際 に は 、 12 地 域 別 の 温 暖 化 影 響 被 害 推 計 の 関 数 を 用 い て 推 計 し て い る 。 表 は 世 界 平 均 に 集
約化して表示。ただし、破局的な事象に関する影響被害は含まれていない。
エネルギー関連の見通し
エネルギーは、近代文明においては不可欠なものである。産業革命以降、エネルギ
ーを容易に利用できるようになったことで、人類は死のリスクを大きく低減し、また
物 質 的 豊 か さ の 向 上 も 通 し て 、一 般 的 に は 幸 福 感 を 高 め る こ と に 大 き く 寄 与 し て き た 。
一 方 で 、地 球 温 暖 化 問 題 を は じ め 、持 続 可 能 な 発 展 に 負 の 影 響 も も た ら し て し ま っ た 。
持続可能な発展と関連が深いエネルギーに関する項目として、ここでは 3 つの点に
つ い て 触 れ る 。1 つ 目 は 世 界 に お け る エ ネ ル ギ ー ア ク セ ス の 見 通 し で あ り 、2 つ 目 は 非
持 続 的 な エ ネ ル ギ ー で あ る 化 石 燃 料 消 費 量 の 見 通 し に つ い て で あ り 、3 つ め は エ ネ ル ギ
ーセキュリティの視点である。
近代的なエネルギーへのアクセスは健康被害低減や貧困削減など副次的便益が期待
されるため、これまで途上国各国が自ら取り組んできた課題の一つである。しかし、
2009 年 時 点 で 世 界 に お い て 電 力 へ の ア ク セ ス が で き な い 人 口 は 13 億 人 、調 理 の た め 伝
統 的 な バ イ オ マ ス 燃 焼 を 行 っ て い る 人 口 は 27 億 人 と さ れ る 。電 力 へ の ア ク セ ス は 今 後
と も 進 展 し 、 2050 年 時 点 で 9 億 人 程 度 に 減 少 す る と 見 ら れ る が ( ALPS シ ナ リ オ A)、
サブサハラや南アジアを中心に、電力へアクセスできない人口比率は依然として大き
い ( 図 9)。
(a)
2009 年 推 定
図 9
(b) 2050 年 ( ALPS シ ナ リ オ A)
電力へのアクセスができない人口比率
- 11 -
化石燃料の賦存量については様々な見方があるが、近年、非在来型化石燃料を含め
れ ば 、 相 当 量 が 存 在 し 、 少 な く と も 21 世 紀 中 に そ れ が 大 き な 制 約 と な る 可 能 性 は 小 さ
いとの見方の方が多い。石油価格の高騰によって、オイルサンドやシェールガスの開
発が進み、シェールオイルについても経済的にも利用可能な状況になってきている。
しかし、化石燃料の賦存量は相当大きいとしても、有限な資源であることには疑いの
余地はなく、持続性という視点からは、化石燃料への依存度を長期的には下げていく
ことは望ましい。表 3 は、各排出削減レベルにおいて、世界の累積化石燃料消費量を
示したものである。化石燃料利用の持続性という視点からすると、少なくとも、将来
に 向 け て 一 方 的 に 消 費 が 拡 大 し て い く こ と は 好 ま し い 状 況 で は な い 。表 3 か ら す る と 、
ベ ー ス ラ イ ン 、 CP 6.0 シ ナ リ オ に お い て は 、 21 世 紀 後 半 に 向 け て 化 石 燃 料 消 費 が 拡 大
傾向にあり、この点においては、あまり好ましいシナリオではない。
表 3
各 シ ナ リ オ に お け る 世 界 の 累 積 化 石 燃 料 消 費 量 ( 20 00 年 か ら の 累 積 消 費 量 )
2000 2030
2000 2050
2000 2100
A-Baseline
382 (1.5)
757 (1.9)
1825 (2.3)
A-CP6.0
369 (1.5)
714 (1.8)
1512 (1.9)
A-CP4.5
363 (1.5)
674 (1.7)
1318 (1.6)
A-CP3.7
355 (1.4)
631 (1.5)
1177 (1.5)
A-CP3.0
347 (1.4)
581 (1.4)
1048 (1.3)
注 ) 括 弧 内 の 数 値 は 年 平 均 消 費 額 ( 2000 年 の 消 費 額 8.0 Gtoe/yr に 対 す る 比 率 で 表 示 ) 。 2050 年 ま
で は DNE21+モ デ ル 、 2050 年 以 降 は DNE21 モ デ ル に よ る 分 析 結 果
図 10 に は 、ALPS A-Baseline、CP4.5、CP3.0 の 3 種 類 の 排 出 レ ベ ル に お け る エ ネ ル ギ
ー セ キ ュ リ テ ィ 度 に 関 す る 評 価 結 果 で あ る ( 2000 年 実 績 に 対 す る エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ
テ ィ 度 も 示 し た )。 CO 2 排 出 削 減 を 進 め る と 、 省 エ ネ ル ギ ー の 促 進 、 再 生 可 能 エ ネ ル ギ
ーの拡大に伴い、石油等の利用が減少し、エネルギーセキュリティにも良いというこ
とが一般的には言われる。ここでの定量的な評価からは、例えば日本においてはこれ
が あ て は ま る も の の 、国 ・ 地 域 に よ っ て は 、CO 2 排 出 削 減 の た め に 、国 内 の 石 炭 利 用 を
減少させ、海外のガス利用を増すことが必要になり、むしろエネルギーセキュリティ
の脆弱性が増すと評価されるケースも示される。例えば、中国やインド等は、この例
に 相 当 し 、CO 2 排 出 削 減 と エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ の 強 化 と い う シ ナ ジ ー の 関 係 は 必 ず
し も す べ て の 国 で 成 り 立 つ わ け で は な く 、逆 に ト レ ー ド オ フ の 関 係 に な る 場 合 も あ る 。
- 12 -
10,000
Vulnerable
Energy security index
2000
7,500
2050 A-Baseline
2050 A-CP4.5
5,000
2050 A-CP3.0
2,500
0
US
図 10
W. Europe
Japan
China
India and S. Asia
エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標 ( シ ナ リ オ A-I)
水・農業関連の見通し
水は、人が生きていくために必要不可欠なものである。基本的には温暖化すると、
世界全体での降雨量は増大する。ただし降雨のパターンが変化する。農業、工業、家
庭などの水需要を推計し、流域毎に流出水量に対する取水量を評価し、水ストレス人
口 を 推 計 し た ( 図 11)。 図 11 か ら は 、 ま ず 、 水 ス ト レ ス 人 口 は 、 人 口 変 化 に よ る 影 響
が 相 当 大 き い こ と が わ か る 。 2050 年 頃 ま で は い ず れ の シ ナ リ オ に お い て も 、 水 ス ト レ
ス人口は増大する可能性が示唆される。地域別には、特にインドや中東で水ストレス
人 口 の 増 大 が 予 想 さ れ る 。本 分 析 は 、地 理 的 に は グ リ ッ ド レ ベ ル で 評 価 し て い る た め 、
地域的な分布パターンの変化は評価している。一方、時間軸上では年平均流出水量で
評 価 し て い る た め 、1 年 の 中 で の 短 期 の 降 雨 パ タ ー ン の 変 化( 洪 水 、干 ば つ の 頻 発 な ど )
によって、評価に違いが生じる可能性もあるので、解釈には注意が必要ではある。そ
の注意の下での評価となるが、温暖化緩和を行っても、水ストレス人口の緩和にはつ
ながらず、むしろ、年間降水量の減少に伴い、水ストレスは悪化する可能性さえ示唆
される結果が示される。いずれにしても排出削減レベルよりも、人口や経済等の社会
経済的な動向の方が、水ストレス人口には大きく影響する可能性は大きい。
- 13 -
200
水ストレス人口(2000年=100)
180
A-Baseline
160
140
A-CP6.0
120
A-CP4.5
100
80
A-CP3.7
60
A-CP3.0
40
B-Baseline
20
図 11
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
0
水 ア ク セ ス に 関 す る 指 標 ( 水 ス ト レ ス 人 口 、 取 水 量 / 流 水 量 ≥ 0.4)
食料も水とともに、人が生きていくために必要不可欠であり、持続可能な発展と密
接 に 関 係 す る 。世 界 の 飢 餓 人 口 は 9 億 2500 万 人 と さ れ て い る( 国 連 食 糧 農 業 機 関( FAO)
に よ る 2010 年 の 推 計 )。 飢 餓 が 起 こ る 主 な 理 由 は 、 紛 争 な ど に よ っ て 食 料 の 入 手 が 困
難な場合や、所得に比して食料価格が高い場合である。短期的な変動は別として、長
期的な傾向としては、食料価格は顕著に下落してきている。これは、食料需要を上回
って食料生産性が向上してきたことが大きい。これにより、世界的に、農業従事者の
所得は相対的に小さくなり、農業従事者は減少をたどってきていることを認識してお
くことが重要である。食料生産性の向上が近年低下傾向にあるとの指摘もあるが、こ
れはむしろ安価な食料価格によって、生産性を高めるインセンティブが働かないこと
によると理解すべきであり、必ずしも生産性を高める余地が小さくなってきているわ
けではない。一方、温暖化によって、食料生産性が悪化し、飢餓が増大することが懸
念 さ れ て い る 6。
世 界 の 食 料 需 要 は 、カ ロ リ ー ベ ー ス で 、1961~ 1990 年 の 間 は 年 率 2.5%で 上 昇 し 、1990
~ 2005 年 は 1.5%で 上 昇 し て き た 。ALPS の 経 済 成 長 、人 口 成 長 に 基 づ く 推 計 で は 、2005
~ 2050 年 の 間 は 、 シ ナ リ オ A で は 1.0%、 シ ナ リ オ B で は 0.8%で あ る 。 ま た 、 2050 年
~ 2100 年 は 、シ ナ リ オ A で は ほ ぼ 横 ば い 、シ ナ リ オ B で は 人 口 低 減 に 伴 い 0.3%程 度 で
低減する。
世 界 の 食 料 需 要 の 増 大 に よ り 、 図 12 で 示 さ れ た よ う に 、 シ ナ リ オ A の 場 合 、 2050
年まで食料用の必要作付面積は拡大が必要と見られる。温室効果ガス排出がベースラ
インに従い、仮に適応を行わなかったとすると、食料生産性の低下要因にもなり、食
料 需 要 を 満 た す た め に は 、2050 年 ま で 農 作 物 の 必 要 作 付 面 積 は 2000 年 比 で 20%程 度 増
大が必要となる。一方、気候変化が起これば、それに適した品種に変更したり、作付
時期をずらして適応することは当然なされると考えられ、それを考慮すると、必要作
付 面 積 の 拡 大 は 若 干 少 な く て す む 。 更 に 緩 和 を 行 っ て 、 CP 4.5、 CP3.0 と す る と 、 全 体
6
た だ し 、農 作 物 の 種 類 、気 候 条 件 に よ っ て は 、少 し の 温 暖 化 は む し ろ 生 産 性 を 向 上 さ せ る と 見 ら
れるものも多い。
- 14 -
としては食料生産性向上効果が大きく、農作物の必要作付面積はベースラインよりも
小さくてすむ。新たな土地開拓が小さくて済むことになり、自然環境への負荷も小さ
くできる可能性がある。一方、人口が小さく食料需要が相対的に小さいと見込まれる
シナリオ B の場合、今後、世界的に見ても、農作物の必要作付面積の拡大はほとんど
不要と推計される。
更 に 、 シ ナ リ オ に よ る 飢 餓 の リ ス ク を 定 量 的 に 見 る た め に 、 GDP あ た り の 食 料 消 費
額を算定し、これを食料アクセス指標として推計を行った。これは、所得に比して食
料価格が高い場合に飢餓人口が大きくなる傾向が強いことを反映したものである。こ
の 指 標 を 、 主 要 地 域 、 時 点 別 、 排 出 削 減 レ ベ ル 別 に 示 し た の が 図 13 で あ る 。 所 得 上 昇
の効果は大変大きく、各地域とも食料アクセスは、将来的に大きく改善すると見込ま
れ る 。 た だ し 、 サ ブ サ ハ ラ ア フ リ カ に つ い て は 、 2050 年 頃 で も ま だ 相 当 脆 弱 な 状 況 と
予想される。一方、後述の貧困人口と同様に、排出削減レベルによる影響は大きいと
は推定されない。むしろ、厳しい排出削減レベルにおいては、わずかながら悪化する
可能性もある。また、厳しい排出削減においては、バイオエネルギーや植林のために
土地利用を行うことは比較的コスト効率的なオプションとなるが、それを大きく行う
ことによって、食料価格を若干引き上げる効果が予測され、それによって、食料アク
セス指標も若干悪化する恐れもある。温暖化対策の費用効率性だけではなく、食料ア
クセスなど、様々な持続可能な発展に調和するような温暖化対策を検討する必要があ
る 。一 方 で 、様 々 な 持 続 可 能 な 発 展 に 配 慮 し た バ ラ ン ス の と れ た 温 暖 化 対 策 を と れ ば 、
温暖化対策として見たときの費用は引き上がることにもつながる。すなわち、従来多
くなされてきたような、温暖化対策の費用効率性だけを考えた単純なモデル分析、シ
ナリオ分析で示される費用効率的な対策における削減費用では済まないことにもな
る 。そ れ を 踏 ま え る と 、現 在 、国 際 的 に 目 標 と し て 認 識 を 共 有 し て い る よ う な 2℃ 目 標
( CP3.0 シ ナ リ オ ) な ど よ り も 、 よ り 緩 や か な 削 減 目 標 も 視 野 に 入 れ る こ と も 必 要 と 考
えられる。
- 15 -
食料用必要作付面積(2000年=100)
140
A-Reference(作付
時期品種適応無)
120
A-Baseline
100
A-CP6.0
80
A-CP4.5
60
A-CP3.7
40
A-CP3.0
20
B-Baseline
図 12
686
2100
2090
食料用必要作付面積推移
916
1315
300
651
655
715
745 754
359
バイオエネルギー・植林による
影響分
バイオエネルギー・植林による
影響含まず
250
脆弱性大
200
150
100
2000
2050
2100
中国
図 13
2000
2050
2100
インド
2000
2050
2100
サブサハラ・アフリカ
2000
2050
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-CP3.0
A-baseline
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-baseline
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-CP3.0
A-baseline
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-baseline
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-baseline
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-baseline
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-CP3.0
A-baseline
A-CP3.7
A-baseline
0
A-CP4.5
50
A-CP6.0
食料アクセス指標[食料消費額/GDP]
(米国.Y2000=100)
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
0
2100
中南米
食 料 ア ク セ ス に 関 す る 指 標 ( GDP あ た り の 食 料 消 費 額 )
貧困に関する見通し
2008 年 の 世 界 銀 行 に よ る 報 告 で は 、世 界 の 貧 困 人 口 は 約 14 億 人 と さ れ て い る 。本 研
究 で は 貧 困 人 口 に つ い て も 推 計 を 行 っ た( 図 14)。将 来 に わ た る 国 、地 域 内 の 所 得 の 分
布 の 推 計 は 難 し い た め 、本 研 究 で は 、分 布 は 将 来 に わ た っ て も 変 わ ら な い と 想 定 し て 、
国 ・ 地 域 別 の 平 均 所 得 か ら 推 計 を 行 っ た 。平 均 所 得 の 変 化 は 、温 暖 化 影 響 被 害 推 計( 表
2) お よ び 緩 和 に よ る GDP ロ ス 推 計 を 基 に し て 推 計 し た 。 こ れ に よ る と 、 絶 対 貧 困 線
を 近 年 よ く 用 い ら れ る 1.25$/日 ( 実 質 値 ) と す れ ば 2030 年 に は 世 界 の 貧 困 人 口 は 4 億
人程度まで大きく減少すると推定される。一方、将来的に様々なものの価格が上昇し
貧 困 線 が 変 化 す る こ と も 考 え ら れ る 。 実 際 、 以 前 は 絶 対 貧 困 線 と し て は 1$/日 が 用 い ら
- 16 -
れ る こ と が 多 か っ た が 、現 在 で は 1.25$/日 を 用 い る ケ ー ス が 多 い 。こ こ で は 、石 油 価 格
の 見 通 し と 仮 に 比 例 さ せ た 場 合 に つ い て も 試 算 し た ( こ の と き 2100 年 の 貧 困 線 は
3.36$/ 日 )。 こ の ケ ー ス で も 、 世 界 全 体 で の 貧 困 人 口 は 相 当 低 下 す る こ と が 期 待 で き る
も の の 、 し か し 一 方 、 サ ブ サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ に つ い て は 、 2050 年 頃 ま で は む し ろ 増
大傾向となることも予想される。
気候変動による影響を見ると、地球温暖化は、サブサハラ以南アフリカなどへの影
響が相対的に大きく表れると予想されるが、一方、世界での温暖化緩和に伴う経済影
響も連鎖する。結果としては、むしろ、厳しい排出削減を行った場合の方が、わずか
ながら、貧困人口は大きくなると推計された。
1800
Europe and Former Soviet Union
People living in poverty (millions)
1600
Latin America
Sub-Sahara Africa
1400
Middle east and North Africa
1200
Other Asia
1000
India
800
China
600
400
200
0
C
V
C
baseline
V
CP4.5
2000
C
V
CP3.0
C
V
baseline
2030
図 14
C
V
CP4.5
C
V
CP3.0
C
V
baseline
2050
C
V
CP4.5
C
V
CP3.0
2100
貧 困 人 口 の 見 通 し ( シ ナ リ オ A)
注 )貧 困 線 一 定 ケ ー ス 、貧 困 線 変 動 ケ ー ス は 、貧 困 の 境 界 値 と し て 1 . 2 5( $ / 日 )一 定( “ C ” )、1 . 2 5  3 . 3 6
( $/日 ) ( 石 油 実 質 価 格 変 動 に よ る 影 響 を 考 慮 ) を そ れ ぞ れ 適 用 し た ケ ー ス ( “V”) を 示 す 。
生物多様性関連の見通し
二 酸 化 炭 素 濃 度 の 上 昇 に よ っ て 、炭 酸 カ ル シ ウ ム( CaCO 3 )で で き て い る プ ラ ン ク ト
ンの殻やサンゴの骨格が溶け出し、それらの種の生存が危険に曝されることが危惧さ
れ て い る 。 海 洋 酸 性 化 は 、 不 確 実 性 が 大 き い 気 温 上 昇 と は 関 係 な く 、 大 気 中 CO 2 濃 度
の上昇によって引き起こされるため、予測の確実性も高い。
図 15 に 、 各 排 出 削 減 レ ベ ル に 対 す る 海 洋 の pH と CaCO 3 が 組 成 の ア ラ ゴ ナ イ ト ( ア
ラ レ 石 ) の 飽 和 度 ( 北 緯 6 0°で の 評 価 例 ) の 変 化 を 示 す 。 ベ ー ス ラ イ ン に お い て は 、
2100 年 以 降 、 北 緯 60°の 海 域 で は ア ラ ゴ ナ イ ト は 溶 解 し て し ま う 可 能 性 が 高 い こ と が
わかる。
な お 、 温 か い 海 域 で は 寒 い 海 域 よ り も CaCO 3 が よ り 安 定 的 に な る た め 、 よ り 温 か い
海域におけるアラゴナイトはベースラインでも安定的と推計される。また、同じく
CaCO 3 組 成 の カ ル サ イ ト ( 方 解 石 ) は ア ラ ゴ ナ イ ト よ り も 安 定 的 で あ る こ と に は 注 意
されたい。しかし、生態系に大きな変化を与えることは好ましくなく、ここでの評価
- 17 -
だけからでも、少なくともベースラインのような大きな排出増は避けるべきとの認識
は広く共有できるものと考えられる。
1.8
8.1
1.6
1.4
 (Aragonite)
pH
8
7.9
A-Baseline
7.8
1.2
1
0.8
A-Baseline
A-CP6.0
0.6
A-CP4.5
0.4
A-CP3.7
0.2
A-CP3.0
7.7
2000
図 15
2050
2100
2150
A-CP6.0
A-CP4.5
A-CP3.7
A-CP3.0
0
2000
2050
2100
2150
海 洋 の pH( 左 図 ) と 北 緯 60°に お け る ア ラ ゴ ナ イ ト の 飽 和 度 ( 右 図 )
各種分析からの示唆
経済成長の違いからの温暖化対策の困難さへの示唆
シ ナ リ オ A( 中 位 技 術 進 展 、 中 位 経 済 成 長 シ ナ リ オ ) と シ ナ リ オ B( 高 位 技 術 進 展 、
高位経済成長シナリオ)の分析を比較すると、図 5 で示したように、特段の温室効果
ガス排出削減を行わないベースラインで両シナリオを比較すると、経済成長が高いシ
ナ リ オ B の 方 が GHG 排 出 が 大 き い 。 過 去 、 CO 2 原 単 位 は 低 下 し て き た も の の 、 そ れ を
上 回 る 経 済 成 長 に よ っ て 、経 済 成 長 と CO 2 排 出 の 関 係 は 強 固 な 正 の 相 関 が 見 ら れ た が 、
2100 年 に 至 る 将 来 に つ い て も 、 も し 特 段 の 対 策 を と ら な け れ ば 、 経 済 成 長 が 高 い 方 が
排出が大きくなると推定される。
図 16 は 、各 排 出 削 減 レ ベ ル に つ い て 、シ ナ リ オ A と B で 限 界 削 減 費 用 を 比 較 し た も
の で あ る が 、 削 減 レ ベ ル が 緩 や か な CP6.0 や CP4.5 に つ い て は 、 シ ナ リ オ B の 方 が A
よりも若干削減費用が大きいと推計される。これは、ベースラインからの削減量とし
ては、シナリオ B の方がより大きな削減量となるため、比較的理解が容易な結果であ
る 。一 方 、興 味 深 い の は 、CP3.7 や CP3.0 で は 、逆 に シ ナ リ オ B の 方 が 、限 界 削 減 費 用
が 下 が っ て い る 点 で あ る 。 理 由 と し て は 、 1) シ ナ リ オ B で は 高 い 一 人 当 た り GDP 成
長に伴い人口が低位に推移すると見られ、余剰耕地が多く生じ、植林、バイオエネル
ギ ー 等 の 対 策 に つ い て 相 対 的 に 実 施 余 地 が 増 す こ と 、2 )シ ナ リ オ B で は 再 生 可 能 エ ネ
ル ギ ー な ど の 技 術 進 展 が よ り 期 待 で き る こ と 、3)シ ナ リ オ B で は 電 化 率 が 相 対 的 に 高
く な る と 予 想 さ れ 、 厳 し い 排 出 削 減 時 に は 、 高 い 電 化 率 と 電 力 に お け る 小 さ な CO 2 原
単位の組み合わせが低コストをもたらすこと、による。
- 18 -
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
450
400
A-CP6.0
350
A-CP4.5
300
A-CP3.7
250
A-CP3.0
200
B-CP6.0
150
B-CP4.5
100
B-CP3.7
50
B-CP3.0
0
2000
図 16
2010
2020
2030
2040
2050
シ ナ リ オ A, B の 違 い に よ る CO 2 限 界 削 減 費 用 の 比 較
温暖化対策の背景状況の違いに関する分析からの示唆
世 界 各 国 に お け る 各 部 門 の エ ネ ル ギ ー 効 率 は 大 き く 異 な っ て い る 7。 エ ネ ル ギ ー 価 格
の違いによる部分もあるが、企業が長期で各種技術の投資判断をしているか否かも大
き く 影 響 し て い る 。 図 17 は 2020 年 に お け る 世 界 主 要 地 域 の 限 界 削 減 費 用 別 の 温 室 効
果ガス排出削減ポテンシャルを推定したものであるが、途上国を中心に米国でも正味
で 負 の 削 減 費 用 の 削 減 ポ テ ン シ ャ ル は 多 く 存 在 す る こ と が わ か る 。技 術 は 既 に 存 在 し 、
世界的に利用可能であるにも関わらず、技術普及障壁によって普及しておらず、仮に
普及が進めば大きな削減が期待できるのである。
投 資 判 断 に 用 い ら れ て い る 、も し く は 、結 果 と し て 逆 に 観 測 で き る 主 観 的 割 引 率 は 、
市 場 の 利 子 率 に 対 し て 相 当 高 い 8。 主 観 的 割 引 率 の 大 き さ は 、 国 、 セ ク タ ー 等 に よ っ て
大きく異なるが、いずれにしても、初期投資は高くても、エネルギー効率が高く、長
期的には便益の方が大きくい技術であっても、技術機器の導入がなされないケースが
多い。先進国は途上国に比べて相対的に低いことが多く、セクターでは、発電部門や
エネルギー多消費産業は相対的に低い一方、業務部門等では相当高い主観的割引率が
観測される。先進国でも、日本は、米国に比べ、長期でのリターンを重視する傾向が
強く、エネルギー効率の高い設備、機器が選択されやすい。
ALPS の シ ナ リ オ 分 析 で は 、 前 述 し た よ う に 、 シ ナ リ オ I「 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ
オ」は、温暖化対策技術普及の様々な障壁が存在することを前提とし、現在の社会行
動 に 近 い 状 態 を 表 現 す る 一 方 、 シ ナ リ オ II 「 温 暖 化 対 策 優 先 シ ナ リ オ 」 と し て 、 様 々
な目的の中で温暖化対策の優先度が高く、温暖化対策をコスト効果的に実施すること
が 優 先 さ れ る シ ナ リ オ を 考 え た 。シ ナ リ オ I で は 、現 実 社 会 で 観 測 さ れ る も の と 近 い 主
7
8
例 え ば 、 Oda et al., International Comparisons of Energy Efficiency in Power, Steel, and Cement
Industries, Energy Policy (in Press) は 、 発 電 、 鉄 鋼 、 セ メ ン ト の 各 部 門 に お け る 世 界 の エ ネ ル ギ
ー効率の差異を詳細に調査、分析している。
経 済 学 で は 、資 本 の ユ ー ザ ー コ ス ト の 概 念 か ら 、年 次 化 要 素 と い っ た 指 標 で 表 現 さ れ る 場 合 も あ
る 。年 次 化 要 素 は 、[ 収 益 率( 実 質 利 子 率 )] + [ 減 価 償 却 率 ] - [ 資 本 財 価 格 変 化 率 ] で 表 わ さ れ る が 、
各要素の大きさは、経済主体毎(国、セクター、企業等)に異なる。
- 19 -
観 的 割 引 率 を 用 い 、 一 方 、 シ ナ リ オ II で は 、 そ れ よ り も 低 い 主 観 的 割 引 率 を 用 い て モ
図 17
60000 50000 40000 < $0/tCO2
30000 $0 ‐ $20/tCO2
$20 ‐ $50/tCO2
20000 $50 ‐ $100/tCO2
10000 $100/tCO2 ‐
1990年排出量
非附属書I国
附属書I国
インド
中国
ロシア
日本
EU‐27
0 アメリカ
GHG 排出量と削減可能量 [MtCO2eq/yr]
デル分析を行った。
正味で負や安価な削
減費用機会は途上国
を中心に多い。.
2020 年 に お け る 世 界 主 要 地 域 の 限 界 削 減 費 用 別 の 温 室 効 果 ガ ス 排 出 削 減 ポ テ
ンシャル
注 ) 技 術 固 定 ケ ー ス の 2020 年 排 出 量 ( 2005 年 時 点 の 温 暖 化 対 策 レ ベ ル が 2020 年 ま で 全 く 変 化 し
ないと仮想的に想定した排出量)からの削減可能量
図 18 は 、 シ ナ リ オ A の ベ ー ス ラ イ ン に お け る シ ナ リ オ I、 II、 III 間 の 世 界 の 発 電 電
力 量 構 成 の 比 較 で あ る 。シ ナ リ オ I で は 、効 率 が 悪 く て も 初 期 投 資 費 用 が 小 さ い 技 術 が
選 択 さ れ や す い 一 方 、 シ ナ リ オ II で は そ れ と 比 べ て 、 高 い 省 エ ネ 性 能 を 有 す る 石 炭 発
電など、初期費用が高くても、長期の判断で利益が得られる技術が選択されている。
このように、長期的な視野に立った投資判断がされるような経済社会(主観的な割引
率 が 小 さ い 状 態 ) へ の 誘 導 も 重 要 9と 考 え ら れ る 。
図 19 は 、 シ ナ リ オ I と II に つ い て 、 限 界 削 減 費 用 ( 炭 素 価 格 ) を 比 較 し た も の で あ
る 。こ の 分 析 か ら は 主 に 2 つ の 示 唆 が 得 ら れ る 。1 つ 目 は 、先 の 指 摘 と 同 様 に 、長 期 の
視野に立った投資判断がされるような経済社会(主観的な割引率が小さい状態)が実
現すれば、より小さな限界削減費用で同じ排出削減目標を達成できるようになるとい
う点である。厳しい排出削減のためには、長期の視野に立った投資判断がされるよう
な 経 済 社 会 の 実 現 が 重 要 で あ る 。2 つ 目 と し て は 、そ う は 言 っ て も 、主 観 的 な 割 引 率 は 、
各国、各セクターの経営形態、経済状況などにも深く関係しており、それを変革する
ことはそう容易ではない。炭素に明示的な価格付けを行う政策(炭素税や排出量取引
9
例 え ば 、適 切 な ラ ベ リ ン グ に よ っ て 情 報 を 容 易 に 得 や す く す る 、エ ネ ル ギ ー ・ 環 境 教 育 を 充 実 さ
せ る 、長 期 の 投 資 判 断 を し や す い よ う に 経 営 者 の 任 期 を 長 く す る 、な ど の 方 策 が 考 え ら れ だ ろ う 。
- 20 -
制 度 )を と る 場 合 に は 、シ ナ リ オ I の 限 界 削 減 費 用 に 沿 っ た 炭 素 価 格 が 必 要 と な る 。シ
ナリオ I では相当高い炭素価格付けを行わなければ、大きな排出削減は期待できない。
しかし、それは政治、経済的に相当困難なものとなる。一方で、各主体の意思決定に
おいては、限定合理的な行動も多く見られ、それが高い主観的割引率の一因ともなっ
ている。このため、各セクター毎の基準設定、規制、ラベリングなどの手法は、その
限 定 合 理 的 な 行 動 を 是 正 し ナ ッ ジ す る( 少 し 誘 導 し 是 正 す る )手 段 と し て 重 要 で あ る 。
このような限定合理的な行動を是正する賢い政策手段をとったときの暗示的な炭素価
格 が 、 シ ナ リ オ II で 分 析 さ れ る 限 界 削 減 費 用 と 解 釈 す る こ と も で き る 。 こ の と き 、 シ
ナリオ I に比べ、より小さな限界削減費用で同じ削減レベルを達成できる可能性があ
る。トップダウン的なキャップの設定や炭素税による明示的な炭素価格戦略は、経済
社会が合理的に働いているという前提においては効率的な戦略とも評価できるもの
の、限定合理的な行動を含めて、様々な普及障壁が存在する社会においては、必ずし
も費用効果的な方策と評価することもできず、ボトムアップ的な方策の有効性をよく
認識すべきである。
50000
太陽光
45000
風力
バイオマス(高効率)
40000
発電電力量 (TWh/yr)
バイオマス(低効率)
35000
水力・地熱
30000
原子力
25000
ガス(熱併給)
ガス(高効率)
20000
ガス(中効率)
15000
ガス(低効率)
10000
石油(熱併給)
5000
石油(高効率)
石油(中効率)
2005
図 18
2020
2030
2040
2050
Scenario III
Scenario II
Scenario I
Scenario III
Scenario II
Scenario I
Scenario III
Scenario II
Scenario I
Scenario III
Scenario II
Scenario I
0
石油(低効率)
石炭(高効率)
石炭(中効率)
石炭(低効率)
ベ ー ス ラ イ ン に お け る 世 界 の 発 電 電 力 量 ( シ ナ リ オ I、 I I、 I II の 差 異 )
- 21 -
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
450
ALPS A-CP3.0 (Scenario I)
400
350
300
ALPS A-CP3.0 (Scenario II)
250
200
150
ALPS A-CP3.7 (Scenario I)
100
ALPS A-CP3.7 (Scenario II)
50
0
2000
図 19
2010
2020
2030
2040
2050
シ ナ リ オ I、 II に よ る CO 2 限 界 削 減 費 用 の 比 較
政策的インプリケーション
経済成長と持続可能な発展および地球温暖化
経済成長は必ずしも持続可能な発展を阻害しない。経済成長は持続可能な発展のた
めに必要不可欠であり、持続可能な発展と経済成長が対立するものと理解すべきでは
な い 。経 済 成 長 が 大 き い と き 、CO 2 排 出 も 大 き い 傾 向 が 過 去 見 ら れ た し 、将 来 的 に も 世
界 的 に 見 る と 、そ の 可 能 性 は 高 い 。一 方 、厳 し い CO 2 削 減 を 行 お う と し た と き に は( 産
業 革 命 以 前 比 で 2~ 2.5℃ の よ う な レ ベ ル )、 む し ろ 経 済 成 長 が 大 き い 方 が 、 よ り 小 さ な
人口が食料用の土地利用制約を緩和し植林余地等を大きくしたり、温暖化対策技術の
よ り 早 い 進 展 も 期 待 で き 、 更 に は 電 化 率 が 高 く な る こ と に よ っ て 大 き な CO 2 削 減 が し
や す く な る 傾 向 が あ っ た り す る た め 、 こ れ ら に よ っ て 、 よ り 小 さ な 費 用 で CO 2 削 減 を
行える可能性がある。
地球温暖化問題の政策的な優先順位は必ずしも高く認識されていないのが現実であ
る。その中で温暖化対策を進めて行くには、温暖化対策以外の対策、政策に、温暖化
対策を調和させることが重要である。省エネルギーのようにエネルギーの無駄を省く
対策、ブラックカーボン削減のように健康とのコベネフィットがある対策、温暖化適
応策のように経済開発と結びつきやすい対策などは、温暖化対策を実質的に進展させ
るために、とりわけ重要な対策と考えられる。
長期の排出削減目標について
産 業 革 命 以 前 比 2 ℃ 以 内 と す る CP3.0 シ ナ リ オ は 排 出 削 減 が 厳 し 過 ぎ て 、 食 料 ア ク
セスなど、様々な持続可能な発展に関する指標において、かえって悪影響も予測され
る 。 一 方 、 CP 3.7( 2100 年 に +2.3℃ 程 度 、 2150 年 に +2.5℃ 程 度 ) で は 、 2050 年 の 限 界
費 用 は 150$/tCO 2 程 度 、適 切 な レ ベ ル の エ ネ ル ギ ー 効 率 基 準 の 設 定 な ど の ボ ト ム ア ッ プ
的 な 取 り 組 み で 障 壁 除 去 等 が 進 め ば 80$/tCO 2 程 度 と 期 待 も で き 、 経 済 影 響 は か な り 抑
え つ つ 、 気 候 変 動 緩 和 も 可 能 と な る 。 た だ し 、 そ れ で も 、 CCS な ど の 革 新 的 な 技 術 の
- 22 -
大幅な普及が前提であり、革新的技術開発への取り組みが不可欠である。また、エネ
ルギーセキュリティも、排出削減を厳しくすれば単純に高まるというものではなく、
国 ・ 地 域 に よ っ て 状 況 は 様 々 で あ る 。産 業 革 命 以 前 比 2℃ 目 標 に こ だ わ ら ず 、も う 少 し
緩やかな目標も視野に入れるべきである。
温暖化への適応について
過 去 人 類 は 自 然 環 境 に い か に 適 応 す る か の 戦 い を 続 け 、死 亡 リ ス ク を 低 減 し て き た 。
温暖化への適応の余地は、農業、水、健康など、それぞれの分野で多くあり、緩和策
のみを考えるのではなく、適応策も適切に組み合わせることが重要である。そして適
応策は、経済開発とも密接に関係しており、多くの追加的な費用をかけることなく、
実施できる可能性も高い。なお、市場経済メカニズムを介した適応余地も大きく、市
場経済メカニズムを過大評価してもいけないが過小評価すべきでもない。
技術普及障壁とその克服について
世界の各地域でエネルギー効率は大きく異なる。各国、各部門などで様々な技術普
及障壁が存在する。短期的なリターンを求めると、エネルギー効率の低い技術が選択
されやすい。長期的な視野での意思決定ができるような社会経済の素地を醸成してい
く こ と は 重 要 で あ る 。例 え ば 、適 切 な ラ ベ リ ン グ に よ っ て 情 報 を 容 易 に 得 や す く す る 、
エネルギー・環境教育を充実させ、より合理的な判断ができるような社会にする、ま
た、長期の投資判断をしやすいように経営者の任期を長くする、などの方策が考えら
れる。
一方、様々な技術普及障壁が現前として存在するため、明示的な炭素価格戦略(炭
素税や排出量取引制度)では、相当高い価格付けがなければ大きな削減ができないケ
ースも多い。そのため、それは社会・経済・政治的に実現が難しい。そのため、規制
や省エネ基準の設定など、限定合理的な行動を賢く適正なレベルで是正するボトムア
ップ的な対策は重要である。
政策的なオプションについて
ト ッ プ ダ ウ ン 的 な 炭 素 価 格 付 け は 、 GHG 排 出 削 減 を 費 用 効 果 的 に 実 現 で き る 。 し か
し、上記で記述したように、厳しい排出削減を行おうとすれば、現実には高い炭素価
格が必要となり、社会・経済・政治的に実現が難しくなる。そして、温暖化緩和策と
様々な持続可能な発展に関連する指標との関係は、分析で見られたように、シナジー
効果もあるものの、むしろ、トレードオフの関係は多く、また、国・地域によっても
状況は複雑である。そのため、トップダウン的な炭素価格付けによって、具体的な対
策 を 市 場 に 委 ね て し ま う こ と は 、 GHG 排 出 削 減 と い っ た 文 脈 で は 仮 に 費 用 効 果 的 で あ
ったとしても、様々な持続可能な発展指標のバランスを図り、それぞれを高めること
は難しく、持続可能な発展をむしろ悪化させる懸念がある。よって、この点からも、
シナジー・コベネフィットなどを考えつつ、ボトムアップ的に有効な対策を実施して
いくことが重要と考えられる。
- 23 -
分析・評価に関する留意点
本研究では、出来る限り、国、セクター別の違いなど、詳細に評価を行った。しか
しながら、更に国・地域の中での分布を把握することは重要と考えられる。持続可能
な発展、将来にわたって、より幸福な社会を実現するためには、富の再分配の失敗な
どからもたらされる問題に特に留意が必要と考えられる。また、年平均ではなく、日
別に評価するなどし、年平均での評価では現れにくい、気候変動の突発的な事象の頻
発などの懸念、対応などをより良く評価することも必要と考えられ、本分析・評価の
解釈にあたっても、このような点については留意することが必要である。
- 24 -
Summary
The
ALPS
(ALternative
Pathways
toward
Sustainable
development
and
climate
stabilization) project has been carried out as a part of the "International Research Promotion
Program for Global Environment" funded by th e Ministry of Economy, Trade and Industry
(METI) since FY2007, and this report is the final report upon termination of the five-year
project.
The objectives of this project are; 1) to present global socio-economic and GHGs emission
scenarios over the next 100 years, 2) to show mit igation measures to stabilize concentrations
at certain concentration levels, based on emission scenarios we assume, 3) to provide
indicators of sustainable development regarding water resource, food access, poverty, energy
security and biodiversity for each emission scenario by making a quantitative assessment,
and 4) to explore policy implications regarding sustainable development, mitigation and
adaptation, based on the quantitative assessment we make.
Introduction
"The Limits to growth", published in 1972, showed through computer simulations that if
the trend of development continues, human beings would face a limit to growth. This
publication led to the generation of the concept of "sustainable development", and this
concept became established later in "Our common future" (also known as "Brundtland
report") from the United Nations World Commission on Environment and Development
(WCED) published in 1987. Furthermore, "sustainable development" was realized as a
principle concept by the "Rio declaration on environment and development (Rio declaration)"
and the Environment and development agenda (Agenda 21) that were adopted in the United
Nations Conference on Environment and Development held in Rio de Janeiro, Brazil in 1992.
In the conference, the United Nations Framew ork Convention on Climate Change (UNFCCC)
and the Convention on Biodiversity (CBD) were adopted. In 2002, the World Summit on
Sustainable Development was held in Johannesburg, South Africa. At the summit, the
Johannesburg Declaration on Sustainable Development and the Plan of Implementation of the
World Summit on Sustainable Development were adopted to assess measures and actions
toward climate change control. Kofi Annan, the UN Secretary-General at the time, proposed
five key areas for particular focus: Water, Energy, Health, Agricultural productivity,
Biodiversity and ecosystem management (in short: WEHAB). The United Nations Conference
on Sustainable Development (Rio+20) which aims at an enhancement of international efforts
for sustainable development and poverty eradication, will take place in Rio de Janeiro in
June, 2012 to mark the 20th anniversary of the Rio Declaration.
As for the UNFCCC, the Kyoto Protocol was adopted at the Third Conference of the
Parties to the UNFCCC (COP3) held in Kyoto in 1997, in which developed countries (Annex I
countries) commit themselves to legally-binding targets to reduce their emissions of six
- 25 -
greenhouse gases (GHGs) including CO 2 for the period 2008-2012. Afterward global GHG
emissions, however, show a high growth rate rather than decrease. Due to the U.S.
withdrawal from the Kyoto Protocol and emission increase in developing countries, such as
China, the ratio of emissions from Annex I countries to the global emissions decreased to
27% in 2005, therefore, the effectiveness of climate change control has become limited.
Given such a situation, global efforts towards an establishment of new international
framework in which all of the major emitting countries participate have been taken, and the
Copenhagen Accord which paved the way for the new framework was taken note of at COP15,
even though this was a political agreement. The following year, the Copenhagen Accord was
officially incorporated into the Cancun Agreement at COP16 held in Cancun, Mexico. Then,
the Kyoto Protocol was decided to be extended formally at COP17 held in Durban, South
Africa in 2011. In fact, however, the framework of the Kyoto Protocol became less effective
in the context of the coverage of the emissions , and the new framework with participation of
major countries has been pursued under the Durban Platform complying with the Copenhagen
Accord and the Cancun Agreement.
A series of international negotiations on climate change and policies of each country
reveals that each country has multiple objectives, and economic development stage and
prioritized policy issues differ from country to country. Given a high unemployment rate due
to the serious world financial crisis of the past few years, financial conditions of
governments have worsened and they have been facing difficulties to focus on climate change
control as they have done before. Furthermore, after the Great East Japan Earthquake on
March 11 in 2011 and the serious accident of the Fukushima Dai-ichi nuclear power plant,
Japan has to place an emphasis on a construction of safe and secure environment, a stabl e
energy supply and economic issues more than on climate control than ever before.
In reality, there is no alternative but to take climate control measures by making a balance
with multiple objectives, and such a tendency has become strong in the past several years.
This also implies that climate change control and policies are taken in a broader context of
"sustainable development", and then the measures and policies that harmonize with multiple
objectives are explored.
Scenario development by traditional modeling simulations of climate change control is so
simple that other various aspects are abstracted and it creates a large gap between the real
world and virtual model world, or rather cr eates a confusion for policy making of global
climate change contr ol.
Based on the assumption that the real-world society is diverse and consists of multiple
objectives, this research aims at providing scientific insights by describing scenarios
qualitatively and quantitatively as much as possible, which will support an effective policy
making toward climate change control and sustainable development in such a diverse and
versatile society.
- 26 -
Sustainable development and mitigation measures
Our research did not define the concept of sustainable development. Instead, we explored
what scenarios can be close to sustainable economic society and what kinds of measures can
be taken to realize it. Although the concept of sustainable development was not defined, it
was considered in such a way that a feeling of happiness would continue to improve or not
decrease over the future generations. Climate control measur es ar e taken because it is
considered that happiness of human-beings will decrease in the future when compared with
no measures. However, it is important that we should not aim at a climate control itself but
explore the ways we should take in a broader context. Generally, there are stages of
perception about happiness, and a threat to life will have a large negative impact on the
feeling of happiness.
Considering this, problems of famine and poverty are fundamentally important and should
be prioritized to solve. Regardless of incentives to work, losing employment opportunity will
also affect happiness negatively. Climate change issues are important, but a direct impact on
the happiness may not be necessarily large.
Therefore, for scenario assessment toward sustainable development, it is important to
examine how climate change issue will influence the factors that are considered to affect
happiness largely, such as famine, poverty, employment and income in the future and over the
future generation.
Copenhagen consensus 1 by Lomborg and others shows that climate change ranks well
below other problems. Also, other research about priority ranking of national policies, such
as in U.S., shows 2 that climate change control ranks low. However, as impacts of climat e
change will be large in the future, the results of these research do not imply that climate
change control is not important. Rather, it should be recognized as a very challenging issue
as policy measures with long-term perspectives should be taken although climate change
ranks low. Moreover, especially because it ranks low, climate change control measures will
be less sustainable unless they harmonize with other highly prioritized policies and
measures. That is the reason why we have to address climate change control in such a broader
context of sustainable development
Scenarios for evaluation
Modeling exercise can deliver to some reasonable scenario and it is very useful tool for
decision-making support. On the other hand, modeling involves abstraction reducing details
of real world, which can cause sending a wrong message. In this study, we developed
narrative scenarios prior to quantitative analysis in order to understand the real world
situation broadly and deeply through the discussion with a wide range of experts.
1
2
http://www.copenhagenconsensus.com/Projects/Copenhagen%20Consensus%202008-1.aspx
See Pew Research Center, “Public Priorites: Deficit Rising, Terrorism Slipping”, 2012.
- 27 -
Based on this, three different types of qualitative scenarios are developed as follows: 1)
Socio-economic scenarios, 2) Climate Change Policy scenarios, and 3) Representative
Concentration Pathways (RCPs) scenarios. Additionally, sub-scenarios focus on the subject
matter of development and diffusion of climate friendly technologies. (Figure 1)
With regard to the socio-economic scenarios, a key scenario driver is technological
progress, which involves significant uncertainty. Although policy can have an impact on
technology progress to some extent, other factors bring larger uncertainty about the future
technological change beyond policy impact. It is quite difficult to forecast future innovation
and technological progress with high accuracy, so we prepare two discrete scenarios to cover
the range of uncertainty. Scenario A (Medium technological progress scenario) illustrates a
gradual shift from rapid economic development toward a well matured economy especially in
developed countries. Scenario B (High technological progress scenario) describes a future
world of very high economic growth with brilliant innovation.
As for scenarios of climate change priority in the broader global agenda, we develop three
different narratives. Scenario I named “Pluralistic society scenario” is approximate to the
current real world situation with people’s diverse values in nature. This scenario is premised
on the existence of various barriers to technology diffusion. Scenario II is a “Climate policy
prioritized scenario” is the one under which climate change policy is prioritized and people’s
behavior are rational in the sense that mitigation measures are taken in a cost effective way.
Such assumption was implicitly adopted by most of the traditional climate change
assessment. Scenario III called “Energy security prioritized scenario” where each nation puts
high priority on securing domestic energy resources from energy supply security perspective.
Our future emissions scenarios ar e full y harmonized with a set of four RCPs 3 of the IPCC
AR5. The RCPs have selected from existing literature to span the full range of possible
trajectories for future greenhouse concentration: a very high emission scenario leading to 8.5
W/m 2 , a high stabilization scenario leading to 6 W/m 2 , an intermediate stabilization scenario
leading to 4.5 W/m 2 and a low mitigation scenario leading to 2.6 W/m 2 (RCP 3-PD).
Additionally we go over 3.7 W/m 2 scenario, which comes to five emission pathways in total.
3
See D.P. van Vuuren et al., The representative concentration pathways: an overview, Climatic Change
(2011)
- 28 -
ALPS core scenarios
Scenarios for macro‐level and socio‐economic conditions in the long term
Scenario A:
Medium technological progress scenario
Scenario B:
High technological progress scenario
Climate change policy scenarios
Scenarios for emission reduction levels
ALPS‐Baseline
I:Pluralistic society scenario
ALPS‐CP6.0
II:Climate policy prioritized scenario
ALPS‐CP4.5
ALPS‐CP3.7
III: Energy security prioritized scenario
ALPS‐CP3.0
Figure 1
Scenarios assumed in the ALPS (major scenarios only)
Model formulation for quantitative scenario evaluation
The ALPS project performs comprehensive modeling assessment supplemented with the
existing models developed by RITE. Scenarios associated with climate change need to be
developed in the context of sustainable development with a wide-ranging set of models to
reflect a multifaceted reality.
The DNE21+ Model assesses CO 2 emissions from fuel combustion with great details of
national, sectoral and technological descriptions. Along with the food model, fresh water
model, and land use model, a wide variety of plausible future scenarios and narratives are
assessed in an integrated and consistent manner. (Figure 2)
The models are chosen appropriately in accordance with time frame and objectives of the
assessment. Integrated assessment for sustainable development and climate change measures
require a longer term perspective as well as sector-, nation- and technology-wide analysis.
For near and medium term analysis, detailed descriptions of the nation, of sector and of
technology are highlighted. For longer term analysis, interactions between climate impacts
and socio- economic activities are more heavily weighted. Combined with these models
appropriately, comprehensive scenarios are formulated.
- 29 -
Socio-economy
Assessment of
food access
Mid-term world
energy and
economic model:
DEARS (until 2050)
Energy
Assessment of population
living in poverty
Population, GDP
GHGs excluding
energy-related CO2
Ultra-long-term energy and
macroeconomic model: DNE21
Assessment model for
GHGs excluding
energy-related CO2
Mid-term world energy and
mitigation measures
assessment model:
DNE21+ (until 2050)
Assessment of energy
security (until 2050)
Assessment of food
security
Food, water resource, land use
Assessment models for food demand/supply ,
water resource and land use change
Climate change
Simplified climate change
model: MAGICC6
Grid-based estimation of
climate change: using results
from MIROC3.2
Estimation model for economic
damages from global warming
(developed by Nordhaus)
Assessment of
water stress
Impacts of global Assessment model for biodiversity
warming
(Impacts on terrestrial ecosystem and
ocean acidification)
Figure 2
Assessment model
for health impact
Models for the development of ALPS quantitative scenarios
Integrated assessment and scenarios of alternative pathways toward sustainable
development and climate stabilization
Socio-economic scenarios
CO 2 emissions are closely related to the use of energy. It is important to decouple CO 2
emissions from economic growth, however, it has been shown that there is a signif icant
positive relationship statistically between CO 2 emissions, population and economic growth.
Projections of population and economic growth are bases for an integrated scenario
development of climate stabilization and sustainable development. This project aims to
analyze various indices comprehensively and to develop future scenarios such as population
and economic growth, taking impacts of world financial crisis into consideration.
Historically, it is observed that, when GDP per capita is high, low population is expected due
to low birth rate. In this study, two socio-economic scenarios are set up, namely “Medium
technological progress scenario” (Scenario A) and “High technological progress scenario”
(Scenario B). In Scenario A, the world population is estimated to reach 9.1 billion in 2050
and 9.3 billion in 2100, and average GDP growth rates are 2.9% p.a. during the years 2010-30
and 2.2% p.a. during the years 2030-50. In Scen ario B, the world population is estimated to
reach 8.6 billion in 2050 and 7.4 billion in 2100, and average GDP growth rates are 3.2% p.a.
during the years 2010-30 and 2.6% p.a. during the years 2030-50. Climate change impacts
- 30 -
and implementation of mitigation measures can affect the GDP, but its feedbacks to
population are out of scope in this study.
SRES A2
(IIASA1996 High)
160
Range in SRES
ALPS-Scenario A
140
SRES B2
UN2008 High
(UN1998 Medium)
人口(億人)
Population
(100 million)
120
UN2008 medium
IIASA2007
100
(10-90 percentile)
Range in ALPS
80
Range in UN2008
60
UN2008 Low
SRES A1/B1
40
(IIASA1996 Low)
ALPS-Scenario B
20
0
1950
1975
Figure 3
2000
2025
2050
2075
2100
Global Population Scenarios in the ALPS 4
RCP3PD(2.6)
400
Range in SRES
SRES A1
GDP (Trillion 2000USD)
350
ALPS-Scenario B
SRES B1
Range in RCP
300
RCP4.5
Range in ALPS
250
200
150
SRES B2
SRES A2
100
RCP8.5
RCP6.0
ALPS-Scenario A
50
0
1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100
Figure 4
4
Global GDP Scenarios in the ALPS
Population and GDP Scenarios of ALPS can download from the link below;
http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/research/alps/baselinescenario/RITEALPS_ScenarioA_POP
GDP_20110405.xls
http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/research/alps/baselinescenario/RITEALPS_ScenarioB_POP
GDP_20110405.xls
The UN’s “World Population Prospects: The 2010 Revision” was released in 2100. The size of
prospected populations was slightly greater than that of 2008 prospect. However, the medium estimates
is assumed to converge total fertility rate at 2.1 in the long run, which has normative aspect rather than
prospects. Therefore, Scenerio A and Scenario B take lower pathway, which is more likely in light of
historical trend.
- 31 -
Outlook related to climate change
Global CO 2 emissions were 34 Gt in 2005, but it can reach 64-66 Gt in 2050 and 83-100 Gt
in 2100, as shown in Figure 5, in the case of baseline scenario under which mitigation
measures are not taken. (Global GHGs emissions were 45 Gt CO 2 eq in 2005, and are
estimated to reach around 81-83 Gt CO 2 eq in 2050 and to 103 -109 Gt CO 2 eq in 2100.) In this
case, global mean temperature will increase to 4.1-4.3°C above pre-industrial levels where
the equilibrium climate sensitivity is 3°C (see Table 1).
120
CO2 emission (GtCO2/yr)
ALPS A-Baseline
100
ALPS B-Baseline
80
ALPS A-Baseline
ALPS A-CP6.0
ALPS A-CP4.5
ALPS A-CP3.7
60
ALPS A-CP3.0
ALPS B-Baseline
40
RCP8.5
20
RCP6.0
RCP4.5
2150
2130
2110
2090
2070
2050
2030
2010
1990
0
RCP3PD
-20
Figure 5
Global CO 2 emission pathways and scenarios for emission reduction levels in the
ALPS
Note) RCPs (Representative Concentration Pathways) are new IPCC emission scenarios and they are
divided into four scenarios based on different radiative forcing levels. Baseline in the ALPS scenarios
until 2050 and 2050 afterward are estimated using DNE21+ model and DNE21 model, respectively.
Table 1
Climate change estimation for each scenario
CO2
concentration
(ppm-CO2)
GHG
concentration
(ppm-CO2eq.)
Radiative
forcing (W/m2)
Global mean temperature
change relative to
p r e - i n d u s t r i a l l e v e l ( C )
2100
2100
2100
2050
2100
Scenario A
820
1010
7.0
2.4
4.1
Scenario B
840
1060
7.3
2.5
4.3
CP6.0
680
760
5.5 (6.0 in 2150)
2.3
3.3
CP4.5
550
630
4.5
2.1
2.8
CP3.7
480
550
3.7
2.0
2.3
CP3.0
420 (overshoot;
480 (overshoot;
3.0
1.8
1.9
380 in 2150)
450 in 2150)
Baseline
Note: Equilibrium climate sensitivity is assumed to be 3.0 C for estimates of global mean
temperature change. According to IPCC (2007), the range of climate sensitivity is likely to be
2.04.5 C, and the most likely value is 3.0 C.
- 32 -
Marginal GHG abatement costs at different stabilization levels in Scenario A-I (Pluralistic
society scenario under medium technological progress and medium economic growth
assumptions) are shown in Figure 6. The marginal abatement costs for CP6.0, CP4.5, CP3.7,
and CP3.0 are estimated to be 6, 27, 152, and 421 US2000$/t CO 2 respectively in 2050; and
are 97, 176, 251, and 596 US2000$/t CO 2 respectively in 2100. Although a substantial cost
reduction in renewable energy resour ces is taken into account, the marginal abatement costs
can be quite high in CP3.0. It should be noted that this estimation is based on the
assumptions that the marginal abatement costs are uniformed throughout the world by which
mitigation measures are implemented globally in the most cost effective way, which implied
that it can be even more expensive in reality.
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
600
ALPS A-CP6.0
500
ALPS A-CP4.5
400
ALPS A-CP3.7
300
ALPS A-CP3.0
200
IEA WEO2011
New Policy (EU)
100
0
2000
Figure 6
IEA WEO2011
450 (US)
2020
2040
2060
2080
2100
CO 2 marginal abatement cost f or each scenario
(in the case of ALPS core scenario A-I)
Note: Marginal abatement costs in the ALPS scenarios until 2050 and 2050 afterward are estimated using
DNE21+ model and DNE21 model, respectively.
Figure 7 and Figure 8 show contribution by region and by technology to halving global
emissions by 2050 in a cost effective fashion.
From a regional perspective, there is a substantial and cost effective reduction potential in
developing countries, although efforts need to be taken by all countries and regions. For
example, about 40% of reduction in CO 2 emissions from fuel combustion comes from China
and India in 2050 for CP 3.0, and it expands to 55% if emissions reduction efforts by the
United States are added.
Looking at the contribution of each technology, deployment of a mix of various
technologies is important on the whole. In the scenario of relatively lower marginal
abatement costs, such as CP4.5, energy efficiency improvement and fuel switch in power
sector and afforestation could be cost effective options. In CP3.7, carbon dioxide capture and
- 33 -
storage (CCS) comes in as a cost effective option, and the contribution of renewable energy
will expand in CP3.0.
It is necessary to note that there exists a variety of trade-offs and synergies among
mitigation measures as mentioned below. Therefore, special attention needs to be paid in the
implementation phase.
60 10%
AI-CP4.5
Energy‐related CO2 emissions and reductions [GtCO2/yr]
Energy‐related CO2 emissions and reductions [GtCO2/yr]
60 6%
50 12%
8%
40 8%
30 20 10 50 AI-CP3.7
18%
10%
40 23%
13%
30 12%
20 10 0 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
Energy‐related CO2 emissions and reductions [GtCO2/yr]
60 50 AI-CP3.0
24%
12%
Other Non‐OECD
40 27%
Other OME
India
30 17%
China
Other OECD
15%
20 USA
CO2 emissions
10 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
Figure 7
Emission reduction contribution by region to achieve each reduction target
(Scenario A-I, Energy-related CO 2 emissions only)
Note 1) Values (%) indicate ratio of regional reduction in 2050 for each scenario to global reductions in the case of
CP3.0.
Note 2) Reductions are from baseline.
- 34 -
70
70
AI-CP4.5
6%
3%
8%
9%
50
5%
14%
40
30
20
10
0
2000
AI-CP3.7
60
CO2 emissions and reductions [GtCO2/yr]
CO2 emissions and reductions [GtCO2/yr]
60
14%
6%
12%
50
11%
40
5%
10%
30
16%
20
10
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
0
2000
2050
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
70
CO2 emissions and reductions [GtCO2/yr]
60
AI-CP3.0
12%
11%
Power: CCS
Power:Renewable
Power:Nuclear
50
14%
10%
40
9%
30
13%
Power:Efficiency improvement / fuel switch
Energy conversion excluding power generation
Residential
Transport
Industry
15%
20
International bunker fuels
CO2 from industrial process
10
CO2 from land use
0
2000
Figure 8
CO2 emissions
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
Emission reduction contribution by technology to achieve each reduction target
(Scenario A-I, All CO 2 emissions)
Note 1) Values (%) indicate ratio of regional reduction in 2050 for each scenario to global reductions in the case of
CP3.0.
Note 2) Reductions are from baseline. Relatively large reductions are assumed in the baseline in some sectors, such
as transportation.
In this study, we evaluated impacts of climate change and associated sustainable
development indicators separately. Assessment of a wide range of systems and sectors
concerning the nature of future impacts, as well as rough estimates of economic impacts at
the macro-level and are important, even though impacts assessment involves great
uncertainty and estimations of the non-market value, such as biodiversity. This study covers
assessment of individual damages, such as ecosystem, and the macro economic impact as
well. The basic str uctur e of the damage functions follows the approach developed by
Nordhaus 5 . The results are shown in Table 2. It implies that damage can be markedly
accelerated after 2100 at baseline.
5
Nordhaus, W.D., 2010. Economic aspects of global warming in a post-Copenhagen environment.
Proceedings
of
the
National
Academy
of
Sciences,
doi:10.1073/pnas.1005985107,
http://www.pnas.org/content/early/2010/06/10/1005985107
- 35 -
Table 2
Estimation of damage from global warming for each scenario( Global average.
Compared with baseline GDP in each year)
2030
2050
2100
2150
A-Baseline
0.56%
1.11%
3.14%
5.56%
A-CP6.0
0.55%
1.01%
2.15%
2.84%
A-CP4.5
0.51%
0.87%
1.55%
1.83%
A-CP3.7
0.49%
0.77%
1.14%
1.29%
A-CP3.0
0.47%
0.67%
0.84%
0.77%
Note) These estimations are based on damage function for 12 regions. Results are aggregated and
expressed as a world average. Damages from catastrophic changes are not considered.
Outlook related to energy
Energy is essential in the modern world. Since the industrial revolution, easy access to
energy generally helps enjoying material affluence, improving well-being, and reducing the
risk of death of people. On the other hand, it brought negative impacts, such as global
warming, in the aspect of sustainable development.
Here we focus on three energy issues which are closely related to sustainable development;
global energy access, consumption of unsustainable energy resources –fossil fuels, and
energy supply security.
Access to modern energy is one of the major challenges for developing countries because it
brings additional benefits such as reducing poverty and health risk. However, the population
who had no access to electricity was 1.3 billion in 2009 and people who used the traditional
biomass for cooking were 2.7 billion in the world. Electricity access is expected to be
improved gradually, and the population without electricity access will decline to 0.9 billion
in 2050 according to the ALPS scenario A, but the proportion who lacks electricity access is
still high in South Asia and sub-Saharan Africa (Figure 9).
(a) 2009
Figure 9
(b) 2050 (ALPS Scenario A)
Ratio of population without energy access
- 36 -
There is a wide range of views on the amount of fossil fuel reserves, but recently it is
widely known that resources together with unconventional fossil fuels were sufficient, or
less resource constraints at least, to sustain likely growth in the 21 century. As a result of
rising oil prices, development of oil sands and shale gas has been accelerated and higher oil
prices made production of shale oil competitive. On the other hand, fossil fuels are surely
limited resources although their reserves are huge. From the viewpoint of sustainability, it
would be advisable to reduce fossil fuel dependency in the long run. Table 3 shows global
cumulative consumption of fossil fuels for each scenario. Ever-increasing fossil fuel
consumption into the future would not be preferable for sustainable use of energy resources.
Table 3 suggests that both baseline scenario and CP6.0 scenario would not be ideal patterns
of sustainable energy usage because f ossil fuel consumption keeps expanding even in the late
21st century.
Table 3
Cumulative global consumption of fossil fuels for each scenario
(from 2000)
2000 2030
2000 2050
2000 2100
A-Baseline
382 (1.5)
757 (1.9)
1825 (2.3)
A-CP6.0
369 (1.5)
714 (1.8)
1512 (1.9)
A-CP4.5
363 (1.5)
674 (1.7)
1318 (1.6)
A-CP3.7
355 (1.4)
631 (1.5)
1177 (1.5)
A-CP3.0
347 (1.4)
581 (1.4)
1048 (1.3)
Note) Values in brackets indicate annual average of consumption amount (ratio against consumption
amount of 8.0 Gtoe/yr in 2000) . Results until 2050and 2050 afterward are obtained using DNE21+ model
and DNE21 model, respectively.
Figure 10 illustrates energy security index for ALPS A scenarios; baseline, CP4.5, CP3.0
in 2050, and historical data of 2000. It is often said that efforts to reduce CO 2 emissions
would address energy security concerns because they can help cut down fossil fuels
consumption owing to improvement of energy efficiency and expansion of renewables. Our
quantitative analysis, however, suggests mixed results across countries and regions; som e
country like Japan can mitigate energy supply concerns by efforts to reduce CO 2 emissions,
but some other countries like China and India need to expand imports of gas in order to
mitigate CO 2 emissions, reducing domestic coal, which increases their vulnerability of
energy security. It is observed that efforts to reduce CO 2 emissions do not necessarily
produce the synergetic effect for securing energy supply, rather they can create trade-off
relationship between mitigation and energy security.
- 37 -
10,000
Vulnerable
Energy security index
2000
7,500
2050 A-Baseline
2050 A-CP4.5
5,000
2050 A-CP3.0
2,500
0
US
W. Europe
Figure 10
Japan
China
India and S. Asia
Energy security index (Scenario A-I)
Outlook related to water and agriculture
Water is essential for every aspect of human life. Global warming affects world's rainfall
patterns, bringing more precipitation in general. We estimated the water-stressed population
based on the water demand for agriculture, industry and household and on the annual water
availability for river basins based on annual runoff (Figure 11 ). The size of the
water-stressed population is affected by the change of population significantly, and is
expected to increase, especially India and the Middle East, until 2050 in any scenarios. We
developed a grid-based water supply-demand model, so changes in the regional patterns of
distribution are taken into account. Evaluation timescale is on an annual basis, so changes in
precipitation pattern such as frequency of floods and droughts within a year are not taken
into consideration. Even with this limitation in mind, the results suggest that climate change
mitigation may not relax the water-stressed population; rather it can worsen the situation due
to less precipitation. The water-stressed population is affected more by Socio-economic
trends such as population and economy than by the level of emissions reduction.
- 38 -
Population under water stress
(Year 2000=100)
200
180
A-Baseline
160
140
A-CP6.0
120
A-CP4.5
100
A-CP3.7
80
60
A-CP3.0
40
B-Baseline
20
Figure 11
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
0
Index of water access (Population under water stress, water withdrawals per
availability≥0.4)
Securing stable food supply is also central to human life and closely linked with
sustainable development. It is estimated that 925 million people were at risk of hunger in
2010 according to the Food and Agriculture Organization (FAO). The major causes of hunger
are thought to be lack of food availability due to conflicts or bad governance, and high prices
of foods for consumers whose disposable income is very low. Food prices, except for short
term price volatility, show downward trend on a long-term basis owing to remarkable
increases in food productivity, which surpasses increases in food demand. This also induced
a decline of farmers’ income, leading to a decrease in the number of farmers in the world.
Some point out that food productivity is decreasing recently, but this can be understood that
food producers have low incentive to improve productivity due to low food prices, not
meaning that there is little room to increase productivity. On the other hand, there is a
concern over rising hunger because climate change may reduce food productivity 6 .
Global food consumption calculated based on dietary energy increased by 2.5% p.a.
between 1961 and 1990 and 1.5% p.a. between 1990 and 2005. Based on our estimates of
economic growth and population growth, the growth rate of global food demand between
2005 and 2050 will be 0.9% p.a. for Scenario A and 0.7% p.a. for Scenario B. Food demand
between 2050 and 2100 will be stable for Scenario A, and will decline at 0.3% p.a. according
to a declining population globally.
In the baseline scenario under Scenario A without adaptive measures, land area will be
required to increase by an additional 20% above 2000 level in order to satisfy increasing
global food consumption by 2050, as shown in figur e 12. It is also reasonably assumed that
people try to adapt climate change as much as possible by shifting cycles of planting and
harvesting, or switching planting crops. All things considered, required land area for food
6
It is also noted that moderate global warming may cause improvement of plant productivity for some
type of crops.
- 39 -
production may not expand that much. With mitigation efforts under the CP 4.5 scenario or
CP3.0 scenario, the required land area for food production is smaller than the one under the
baseline scenario because productivity will be improved. Relatively smaller needs of land
development help to mitigate negative impacts on natural environment. On the other hand,
almost no additional area for food production will be needed in a lower food demand scenario
(Scenario B: high economic growth and low population).
We estimated amounts of food consumption per GDP as a food access indicator in order to
assess the risk of hunger for each scenario. This reflects a trend such that hunger tends to be
induced when food prices are high for low income consumers. Figure 13 shows food securit y
index by region, time point and scenario. Thanks to income rise, food access will be expected
to improve greatly in all regions. However, the index for Sub-Saharan Africa will be still
high in 2050. Along with poverty problem as discussed below, the impacts of climate change
on food access are relatively small. Rather, stringent climate target can slightly worsen food
index because land use change incurred by bioenergy production and afforestation, which are
relatively cost competitive mitigation options under the stringent target, increase food
prices. Climate change mitigation measures must be implemented not only from the
perspective of cost efficiency but also from the perspective of balance among other global
challenges, such as food access, in a sustainable fashion. Addressing climate change in a
balanced way can lead to higher mitigation costs than the costs that are estimated focusing
only on climate change. This implies that actual abatement costs can go far beyond the costs
estimated by traditional approach whose scope is only climate change. In that sense, it may
be necessary to reexamine a more gentle target than the two degree target (CP3.0 Scenario).
- 40 -
A-Reference
(without
adaptation)
A-Baseline
120
100
A-CP6.0
80
60
A-CP4.5
40
A-CP3.7
20
A-CP3.0
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
0
2000
Required land area for food crop
(Year 2000=100)
140
B-Baseline
Figure 12 Required land area for food crop
686
916
1315
651
655
715
745 754
359
Bioenergy and forestation
effects
w.o. Bioenergy and
forestation effects
250
200
Vulnerable
150
100
2000
2100
China
2000
2100
India
2000
2050
2100
Sub-saharan Africa
2000
2050
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-CP3.0
A-baseline
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-baseline
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-CP3.0
A-baseline
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-baseline
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-CP3.0
2050
A-baseline
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-baseline
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-CP3.0
2050
A-baseline
A-CP3.7
A-baseline
0
A-CP4.5
50
A-CP6.0
Food Access Index
[amounts of food consumptions/GDP]
(US.Y2000=100)
300
2100
L. America
Figure 13 Food access index (amounts of food consumption per GDP)
Outlook related to poverty
According to the 2008 World Bank report, the total poverty population in the world is
around 1.4 billion. This study also covers poverty population estimates (Figure 14). The
estimates are made assuming a constant distribution of income for all countries in the future.
Changes in the average income are evaluated based on the GDP loss by mitigation and the
aggregated macroeconomic impact of climate change (Table 2). If we take an income of $1.25
per day (real price) as a threshold of poverty, the total poverty population in the world will
significantly decrease to 0.4 billion in 2030. On the other hand, the poverty line can be
changed in accordance with rising commodity prices. In fact the threshold was $1 per day in
the past, but the current international poverty line is $1.25 per day. Here we also studied the
- 41 -
case where the poverty line is adjusted in accordance with oil price (poverty line in 2100 is
3.36$/day). Given this threshold for poverty, the number of people living in poverty in
Sub-Saharan Africa will increase by 2050 compared with the figures for 2000, although the
total poverty population in the world will decr ease considerably. In terms of impacts of
climate change on poverty, the strict emissions target, such as CP3.0, can lead to slightly
larger poverty population than the others, such as CP4.5 and baseline due to greater
mitigation costs.
1800
Europe and Former Soviet Union
People living in poverty (millions)
1600
Latin America
Sub-Sahara Africa
1400
Middle east and North Africa
1200
Other Asia
1000
India
800
China
600
400
200
0
C
V
baseline
C
V
CP4.5
2000
C
V
CP3.0
C
V
baseline
2030
C
V
CP4.5
C
V
CP3.0
C
V
baseline
2050
C
V
CP4.5
C
V
CP3.0
2100
Figure 14 Population living in poverty(Scenario A)
Note) For boundary values for poverty, 1.25 ($/day) constant ("C"), and 1.25 - 3.36 ($/day) considering
impacts of oil price fluctuating ("V"), are applied in the constant poverty line case and fluctuating
poverty line case, respectively.
Outlook related to biodiversity
Increases in atmospheric CO 2 concentrations cause increases in ocean acidification, which
will damage marine biodiversity, such as coral reef and plankton shells that consist of
CaCO 3 . Forecast uncertainty in ocean acidification is small because it is caused by
atmospheric CO 2 concentrations, which is certain, whereas temperature rise involves larege
uncertainty.
Figure 15 shows the estimates of ocean pH (left hand) and of the saturation state of
aragonite in the area of N60° (right hand) for different levels of CO 2 emissions scenarios. In
the baseline scenario at N60°there is a strong possibility of aragonite dissolution after 2100.
Note that composition of CaCO 3 is more stable in warmer areas than in the area with lower
temperatures, and that calcite, whose composition is the same with aragonite but crystal
structure is different from aragonite, is less soluble than aragonite, suggesting that aragonite
would be less severe in warmer areas than the baseline projection. Nevertheless, it is not
- 42 -
desirable to have a crucial impact on ecosystem. From this analysis, it would be commonly
accepted that huge increase in global CO 2 emissions should be avoided.
1.8
8.1
1.6
1.4
 (Aragonite)
pH
8
7.9
A-Baseline
7.8
1.2
1
0.8
A-Baseline
A-CP6.0
0.6
A-CP4.5
0.4
A-CP3.7
0.2
A-CP3.0
7.7
2000
2050
2100
2150
0
2000
A-CP6.0
A-CP4.5
A-CP3.7
A-CP3.0
2050
2100
2150
Figure 15 Ocean pH (left hand) and Aragonite saturation at northern latitude of 60 degrees
( Right hand)
Implications of ALPS project
Implications for the mitigation from economic growth
In the case of baseline without particular mitigation measures, GHGs emissions under the
Scenario B (high technological progress with high economic growth) will be larger than those
under the Scenario A (medium technological progress with medium economic growth) as
shown in Figure 5. Historically, CO 2 intensity has been declining, but the rate of economic
growth was greater than that of CO 2 intensity improvement. Consequently, there was a strong
correlation between economic growth and CO 2 emissions. Without particular mitigation
measures, this trend will continue in the future – even until 2100.
Figure 16 illustrate CO 2 marginal abatement costs between the Scenario A and the Scenario
B for each scenario. Marginal abatement costs for the Scenario B is slightly higher than those
for the Scenario A in the case of moderate CO 2 emission reductions, such as CP6.0 and
CP4.5. This is because larger emissions reductions from the baseline emission are required
for the Scenario B and this result seems to be consistent with our intuition. Interestingly,
stringent emission targets, such as CP3.7 and CP3.0, lead to the opposite result; marginal
abatement costs for the Scenario B is slightly lower than those for the Scenario A. This is
because 1) due to lower population with high per capita GDP growth in the Scenario B, there
exists sufficient surplus agricultural land, which provides relatively larger opportunities for
implementing afforestation and for producing bioenergy crops 2) higher technological
progress in the area, such as renewable energy, is expected in the Scenario B, and 3) higher
electrification rate in the Scenario B offers relatively cheaper mitigation options combined
with the lower CO 2 intensity of power sector.
- 43 -
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
450
400
A-CP6.0
350
A-CP4.5
300
A-CP3.7
250
A-CP3.0
200
B-CP6.0
150
B-CP4.5
100
B-CP3.7
50
B-CP3.0
0
2000
Figure 16
2010
2020
2030
2040
2050
Comparison of CO 2 marginal abatement costs
between Scenario A and Scenario B
Implications for the mitigation from climate policy
The energy efficiency of each sector is widely different across countries 7 partially
because of the difference in energy prices, but mainly because of the diversity of the
enabling environment for the firms to make longer-term investment decision. Figure 17
illustrates GHGs reduction potentials by marginal abatement costs in 2020, suggesting that
there exist large mitigation potentials with negative costs in developing countries and in the
United States as well. The technologies already exist and are available globally, but they ar e
not deployed widely due to various barriers. If we can remove them, diffusion of energy
efficient technologies would reduce CO 2 emissions significantly.
The internal rate of return on investment decision, or observed implicit discount rate is
usually much higher than market interest rate. Implicit discount rates vary widely across
nations and sectors, but energy efficient technologies, which usually bring about net benefit
in the long run even though their initial investment become high 8 , are not often implemented.
Usually implicit discount rates for residential and commercial sector are much higher than
those for power sector and energy-intensive industries. Furthermore, implicit discount rates
observed in developed countries are usually lower than those observed in developing
countries. Even within developed countries, Japan puts more emphasis on long term return
than the United States, which creates enabling environment where energy efficient
technologies are chosen.
As mentioned above, Scenario I (Pluralistic society scenario) assumes that there are
various mitigation barriers to prevent technology diffusion like our real world behavior.
7
8
See Oda et al., International Comparisons of Energy Efficiency in Power, Steel, and Cement Industries,
Energy Policy (in Press). This paper analyzes the difference of energy efficiency of the power, steel
and cement sector, across countries.
It corresponds to “annualized factor” of capital user cost in economics. Annualized factor consists of
rate of return (real interest rate) plus rate of depreciation minus rate of change in capital goods prices.
These terms are different across economic actors, such as nations, sectors and firms.
- 44 -
Scenario II (Climate policy prioritized world) puts higher priority on climate change
measures among a range of policy objectives, un der which mitigation measures are taken in a
cost effective way. We set higher implicit discount rates observed in real world for Scenario I
60000 50000 40000 < $0/tCO2
30000 $0 ‐ $20/tCO2
$20 ‐ $50/tCO2
20000 $50 ‐ $100/tCO2
10000 $100/tCO2 ‐
Emission (Y1990)
Non‐Annex I
Annex I
India
China
Russia
Japan
EU‐27
0 United States
GHG Emissions & Reduction Potentials [MtCO2eq/yr]
while lower implicit discount rates for Scenario II, in our modeling exercise.
Large mitigation potentials at
n e g a t i v e a n d l o w c o s ts e x i s t i n
developing countries.
Figure 17
GHGs reduction potentials by marginal abatement costs in 2020
Note) Reduction potentials are compared with emissions in 2020 in the case of technology-frozen case in
which mitigation policies in 2020 are assumed to remain the same as those in 2005.
Figure 18 compares power generation mix among Scenario I, II and III. Low efficient
technologies with lower initial investment are likely to be chosen in Scenario I whereas
higher energy-efficient technologies with high initial investment, such as USC coal power
plants and IGCC, are prone to be chosen in Scenario A. It would be meaningful to guide our
economy toward the one where investment decisions are made from longer term perspective.
Figure 19 contrasts marginal abatement costs (carbon prices) between Scenario I and
Scenario II, suggesting two major implications. One implication is that we can achieve
emissions reduction goals with cheaper carbon prices if we make our society have longer
term perspective as discussed above. To build enabling environment where investment
decisions are made from long term view would be a key for reducing GHGs emissions
significantly. Having said that, it is not so easy to transform society because it depends on
economic conditions and management practices of each sector. The second is that carbon
prices could be very high if we choose a society in line with Scenario I where policies, which
entails explicit carbon prices such as emission trading and carbon tax, are implemented. It
would be quite a challenge in political and economical sense. At the same time, people’s
bounded rational behavior causes high implicit discount rate. Policy measures such as setting
performance standards, regulations, and labeling would be important to nudge people to make
- 45 -
more economically rational decisions. If we employ appropriate policy measures by which
people’s rational behaviours are encouraged, marginal abatement costs can stay relatively
low level like Scenario II.
Putting emissions cap or imposing carbon tax in a top down manner entails explicit carbon
prices. This may perform well under the conditions that the economy can function in a
perfectly rational manner. In reality, however, there are a variety of barriers that hamper
least cost solution. It should be taken note of effectiveness of bottom up measures in such a
case.
50000 PV
45000 Wind
Biomass‐High
Power generation [TWh/yr]
40000 Biomass‐Low
35000 Hydro&Geo
30000 Nuclear
25000 Gas‐CHP
Gas‐High
20000 Gas‐Middle
15000 Gas‐Low
10000 Oil‐CHP
Oil‐High
5000 Oil‐Middle
2005
2020
2030
2040
Scenario III
Scenario II
Scenario I
Scenario III
Scenario II
Scenario I
Scenario III
Scenario II
Scenario I
Scenario III
Scenario II
Scenario I
0 Oil‐Low
Coal‐High
Coal‐Middle
Coal‐Low
2050
Figure 18 Global power generation in baseline for each scenario
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
450
ALPS A-CP3.0 (Scenario I)
400
350
300
ALPS A-CP3.0 (Scenario II)
250
200
150
ALPS A-CP3.7 (Scenario I)
100
ALPS A-CP3.7 (Scenario II)
50
0
2000
Figure 19
2010
2020
2030
2040
2050
CO 2 marginal abatement costs in Scenario I and Scenario II
- 46 -
Policy Implication
Economic Growth, Sustainable Development and Global Warming
Economic growth does not disturb sustainable development. Rather, economic growth is
indispensable for sustainable development. It should not be understood that economic growth
contradicts sustainable development. Historically, high economic growth entailed large CO 2
emissions, and this trend can continue with high probability in the future. On the other hand,
under the stringent CO 2 emission reduction targets of 2-2.5 degrees Celsius above
pre-industrial levels, higher economic growth consequently leads to cheaper mitigation
solution because relatively smaller population, which involves smaller food demand, gives
room for afforestation, because higher technological progress is expected and because higher
electrification rate makes it easy to reduce CO 2 emissions significantly.
In reality climate change is not always given high policy priority. Under this circumstance,
it would be important to harmonize climate measures with other policy and measures, such as
energy efficiency measures to use energy more efficiently at all stages of the energy chain,
black carbon emission control measures that have substantial co-benefits for air quality and
public health, and adaptation, which is closely linked with development needs.
Long term emissions target
The target of limiting global warming to a maximum of two degrees Celsius above
pre-industrial levels (CP3.0) can end up having adverse effects in other sustainable goals,
such as food access. In contrast, the marginal abetment cost of CP 3.7 target (about 2.3
degree Celsius in 2100 and 2.5 degree Celsius in 2150 above pre-industrial labels) in 2050
would be around 150$/t CO 2 , and this can be cut down to 80$/tCO 2 if we can remove barriers
to energy efficiency in a bottom-up manner, such as by efficiency standards. This can curb
adverse impacts on the economy as well as global warming. In this regard, however,
promotion of innovative technological development is a key because significant diffusion of
CCS and other innovative technology is a prerequisite for mitigation. Deep cut in global CO 2
emissions does not necessarily address energy security concerns, and the situation varies
across countries and regions. It may not be a good idea to stick to the 2 degree Celsius target,
and we may keep an eye on the possibility of having more moderate emissions target.
Adaptation
Our ancestors have struggled for adapting to severe natural environment, and reducing the
risk of death. Plenty opportunities for adaptation are remained in the area of agriculture,
water, and health, so combining adaptation and mitigation would be important to address
climate change. Adaptation measures are closely linked with development needs, and can be
implemented without additional costs in some cases. Market mechanism for adaptation,
which should not be overestimated and neither be underestimated, is also expected.
- 47 -
Barriers to technology diffusion and the way to overcome barriers
The level of energy efficiency of each sector is widely different across countries, and there
exists a wide range of barriers to technology diffusion in every sector and every country.
Pursuit of a shorter-term return accelerates the tendency to choose cheap but not energy
efficient technology options. To build enabling environment where investment decisions are
made from longer term perspective would be a key for improving energy efficiency
throughout the entire economy. For example, the energy labeling program that provided
consumers with information on energy consumption and performance, promotion of energy
and environmental education for building society that could make rational decisions, and the
longer term management practices for making investment decision from a long term
perspective.
With various barriers to technology diffusion, very high carbon prices would be necessary
to reduce CO 2 emissions largely if we try to overcome the barriers only by pricing carbon,
such as emissions trading and carbon tax. They can go far beyond socially and economically
acceptable level. Bottom-up type policy approach, such as regulation or setting energy
efficiency standards, nudging people who suffer from bounded rationality, would be
important.
Policy options
Putting pricing carbon in a top down manner theoretically leads to the cost effective
solution for reducing GHGs emissions. As discussed above, however, deep cut in CO 2
emission with pricing carbon entails very high carbon prices, which is not acceptable
socially, economically, and politically. There are not only synergetic effects but also
trade-offs between climate change mitigation measures and sustainable development
challenges, and the situation varies widely, depending on county and region. Therefore,
pricing carbon in a top down fashion, leaving everything to the market mechanism, may be
cost effective from the viewpoint of mitigation, but it makes difficult to balance among other
sustainable development challenges, and can end up having adverse effects in other
sustainable goals. With this in mind, bottom-up type measures that take into consideration of
synergies and trade-offs among various policy objectives could be effective approach.
Notice of evaluation and analysis
This study gives sufficient consideration to the regional and sectoral difference with great
details as much as possible. Further insights could be gained if distribution within countries
or regions is considered, because issues like redistribution could be one of the critical issues
for sustainable development and enhancement of the well-being of a society in the future.
Our analysis is basically carried out on an annual basis, but daily-basis analysis allows to
capture the frequency of abrupt events, which are not reflected in annual assessment. These
points need to be taken into account when the results of our analysis are interpreted.
- 48 -
第 1章
1.1
温暖化問題と持続可能な発展をめぐって
持続可能な発展と地球温暖化問題をめぐる動き
1972 年 に 出 版 さ れ た「 成 長 の 限 界 」は 、コ ン ピ ュ ー タ モ デ ル を 用 い た 分 析 に よ っ て 、
こ の ま ま の 発 展 を 続 け る と 人 類 は 限 界 に ぶ つ か る こ と を 示 唆 し た 。こ れ が 契 機 と な り 、
後 に「 持 続 可 能 な 開 発 」の 概 念 が 生 み 出 さ れ 、環 境 と 開 発 に 関 す る 世 界 委 員 会( WCED)
が 1987 年 に 公 表 し た 「 我 ら 共 通 の 未 来 ( Our Common Future)」( 通 称 「 ブ ル ン ト ラ ン
ト 報 告 書 」)に お い て 定 着 す る こ と と な っ た 。そ し て 、1992 年 に ブ ラ ジ ル の リ オ デ ジ ャ
ネイロで開催された国連環境開発会議において採択された「環境と開発に関する宣言
( リ オ 宣 言 )」 と 同 行 動 計 画 ( ア ジ ェ ン ダ 21 ) に よ っ て 、 根 本 理 念 と し て の 「 持 続 可 能
な 開 発 」 が 具 体 化 さ れ 、 ま た 、「 気 候 変 動 枠 組 条 約 」 と 「 生 物 多 様 性 条 約 」 の 提 起 も 行
われた。
アジェンダ21を受け、国連内の持続可能な開発に関するハイレベルなフォーラム
と し て 、持 続 可 能 な 開 発 委 員 会( Commission on Sustainable Development:CSD)が 1993
年に設立された。同委員会による活動の一環として、持続可能な開発に関する指標が
検 討 さ れ 、 2001 年 に は 、 社 会 、 環 境 、 経 済 、 制 度 の 4 つ の 分 野 か ら 持 続 可 能 な 開 発 に
関 す る 58 個 の 指 標 が 示 さ れ た 。
10 年 後 の 2002 年 に は 、南 ア フ リ カ の ヨ ハ ネ ス ブ ル ク に お い て 、持 続 可 能 な 開 発 に 関
する世界首脳会議が開催された。地球環境問題に対する取り組みを評価するため、ア
ジ ェ ン ダ 2 1 の 実 施 状 況 を 点 検 し 、 今 後 の 取 り 組 み を 強 化 す る こ と が 確 認 さ れ 、「 持 続
可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」などが採択された。また、当時の国連事務
総 長 の ア ナ ン 氏 は 、 具 体 的 に 成 果 を 挙 げ る こ と が 期 待 さ れ る 重 要 分 野 と し て 、 Water、
Energy 、 Health 、 Agricultural productivity 、 Biodiversity and ecosystem management
( WEHAB) を 掲 げ た 。
そ し て 、 リ オ 宣 言 か ら 20 年 と な る 2012 年 6 月 に リ オ デ ジ ャ ネ イ ロ で 、 持 続 可 能 な
開発と貧困根絶に対する国際的な取り組み強化を目的にした「国連持続可能な開発会
議 ( Rio+20)」 も 予 定 さ れ て い る 。
一方、この間、持続可能な発展を阻害し得る大きな問題として、とりわけ地球温暖
化 問 題 へ の 懸 念 が 高 ま っ て き た 。 そ し て 、 1992 年 の リ オ 会 議 で 開 放 さ れ た 気 候 変 動 枠
組 条 約( UNFCCC)は 、1994 年 に 締 結 と な っ た 。ま た 、1997 年 の 第 3 回 締 約 国 会 合( COP3)
で 京 都 議 定 書 が 採 択 さ れ た 。京 都 議 定 書 は 、先 進 国 に 対 し 2008 ~ 2012 年 の 間 に CO 2 を
含む6種類の温室効果ガス排出削減目標を設定し、法的拘束力を有する形で排出削減
に取り組む画期的な条約となった。京都議定書の意義は極めて大きいと評価できるも
のの、一方で、以降、世界の温室効果ガス排出は、減少するどころか、むしろ、増加
の 速 度 を 速 め て き た ( 図 1.1-1 )。 米 国 も 離 脱 し 、 中 国 を は じ め と し た 新 興 国 の 排 出 が
増大したことにより、排出京都議定書で削減義務を負った国が、世界全体の排出に占
め る 割 合 は 、 2005 年 時 点 で は 27%に ま で 減 少 し ( 図 1.1-2)、 温 暖 化 抑 制 の 効 果 が 極 め
て限定的と見られる状況に陥った。そのため、世界すべての主要な排出国が加わる新
- 49 -
た な 枠 組 み の 構 築 に 向 け た 努 力 が な さ れ 、 コ ペ ン ハ ー ゲ ン で 開 催 さ れ た COP15 に お い
て 、 COP の 正 式 決 定 で は な い も の の 、 そ れ に 道 筋 を つ け る コ ペ ン ハ ー ゲ ン 合 意 が 成 立
し 、翌 年 メ キ シ コ・カ ン ク ン で 開 催 さ れ た COP16 に お い て 、COP の 正 式 決 定 と な っ た 。
そ し て 、 2011 年 11 ~ 12 月 に か け て ア フ リ カ ・ ダ ー バ ン で 開 催 さ れ た COP17 で は 、 京
都議定書は形式上は延長されることとなったが、事実上、京都議定書体制は終焉を迎
え、コペンハーゲン、カンクン合意の流れを受けた「ダーバン・プラットフォーム」
の下で、主要国すべてが参加する新たな枠組み構築に踏み出すこととなった。詳細は
これからの検討に委ねられた形ではあるが、コペンハーゲン合意以降の流れからは、
京都議定書のようなトップダウン的な枠組みから、各国によるボトムアップ的な取り
組みを強化していく方向に変貌しつつあると考えられる。
35
CO2排出量 (GtCO2/yr)
30
世界計
25
20
附属書I国
15
10
非附属書I国
5
京都議定書採択
0
1970
図 1.1-1
Other Non
Annex I
7%
Af rica
5%
Latin
America
7%
1980
1990
2000
2010
世 界 の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 ( 出 典 : IEA 1 ) )
1990
Other Non
Annex I
7%
Af rica
6%
United
States
19%
2005
United
States
18%
Annex I exc.
US: 27%
Latin
America
8%
Other Asia
6%
India
5%
China
12%
Other
Annex I
18%
EU15
11%
Other Asia
9%
EU15
13%
EU27(+12)
4%
Japan
4%
India
6%
China
19%
Other
Annex I
10%
EU27(+12)
2%
Japan
4%
Annex I: 58%
図 1.1-2
世 界 の GHG 排 出 量 の シ ェ ア ( 出 典 : UNFCCC 2 ) , IEA 1 ) か ら RITE 推 計 )
- 50 -
Box 1: 持 続 的 発 展 (SD)の マ ク ロ 経 済 指 標
世 界 銀 行 の 経 済 学 者 た ち は genuine investment と い う 指 標 を 提 案 し 、 様 々 な 国 に つ い
て こ の 指 標 の 推 計 を 行 っ た 。 こ こ で は 、 こ の 世 界 銀 行 に よ る genuine investment の 概 念
を 基 に 、 ブ ル ン ト ラ ン ト 委 員 会 の SD 定 義 「 将 来 世 代 の ニ ー ズ 満 足 の 可 能 性 を 損 な う こ
となく、現在世代が自身のニーズを満足させるような発展」に沿うような指標として、
A r r o w や D a s g u p t a ら が 提 案 し た 指 標「 一 人 当 た り の 社 会 的 生 産 基 盤 の 成 長 」に つ い て 紹
介 す る 。こ れ は 、G D P が 投 資 と 消 費 と か ら な る が 、将 来 世 代 の 富 に つ な が る の は そ の う
ちの投資であるとの基本的考えによる。また、社会的生産基盤には、人工資本、人的資
本、自然資本、知識資本および社会制度の資産があり、これら各資本は代替可能(代替
可 能 性 を 認 め る の は 弱 い 持 続 可 能 性 、認 め な い の は 強 い 持 続 可 能 性 と 呼 ば れ る こ と が あ
る )と 仮 定 し て 金 銭 評 価 を 試 み て い る 。こ の推 計 評 価 は 必 ず し も 容 易 で な く 、ま た 自 然
資本のうち大気については気候変動の原因となる炭酸ガス排出による資本劣化のみを
扱 っ て お り 、 完 全 な 推 計 値 と 言 え な い が 、 こ の 分 野 で 従 来 よ く 使 わ れ て き た 国 連 の HDI
( 人 間 開 発 指 標 ) や も っ と 単 純 な 一 人 当 た り GDP な ど と 比 較 す る と 異 な っ た 結 果 を 示 し
て い る 。 た と え ば 、 1970~ 2000 年 に 期 間 に つ い て 、 世 界 の ほ と ん ど の 地 域 で HDI の 変
化 は 正 で あ る が 、一 人 当 た り の 社 会 的 生 産 基 盤 の 成 長 は サ ブ サ ハ ラ や 中 東 の 地 域 で 負 の
値を示している。
さ て 、こ の 指 標 の 推 計 に つ い て 少 し 詳 し く 見 て お こ う 。ま ず 通 常 の マ ク ロ 経 済 統 計 に
お い て 、教 育 関 連 支 出 は 消 費 に カ ウ ン ト さ れ る が 、こ れ は 将 来 の 人 的 資 本 の 増 大 に つ な
がるものなので、これを通常の投資に追加されるものとする。自然資本の劣化として、
エ ネ ル ギ ー 資 源 の 減 少 、金 属 資 源 の 減 少 、森 林 減 少 を 考 慮 し て 金 銭 評 価 し 、大 気 に つ い
て は 炭 酸 ガ ス 排 出 の み を 対 象 と し 1 ト ン 当 た り の 炭 酸 ガ ス 排 出 を 20 ド ル と 換 算 し て い
る 。こ れ に 人 口 変 化 を 考 慮 し て 一 人 当 た り の値 に 調 整 す る 。さ ら に 、知 識 資 本 と 社 会 制
度 資 産 の 変 化 が 加 わ る が 、 こ れ は T F P( 全 要 素 生 産 性 ) の 変 化 を 求 め る こ と に よ り 調 整
を 加 え て い る と 思 わ れ る 。 こ う し て 求 め た 1970~ 2000 年 の 期 間 の 一 人 当 た り の 社 会 的
生 産 基 盤 の 成 長 ( 期 間 平 均 値 、 各 国 の GDP の 値 で 規 格 化 し て い る ) は 南 ア ジ ア の 各 国
で 小 さ く 、中 国 で は 非 常 に 大 き く 、サ ブ サ ハラ や 中 東・北 ア フ リ カ で 負 の 値 を 示 し て い
る 。先 進 国 に つ い て 、ア メ リ カ は か な り 大 きな 正 の 値 、イ ギ リ ス に つ い て は 中 程 度 の 正
の 値 と な っ て い る 。ま た 、A r r o w 、 D a s g u p t a ら は 言 及 し て い な い が 、G D P で 加 重 平 均 し
たこの期間の世界の一人当たり社会的生産基盤の成長は正である。
自然資本には上記以外にも、水資源、漁場、土壌、生物多様性、生態系サービスなど
が 考 え ら れ 、各 資 本 の 代 替 性 に つ い て も 制 約が あ る も の と 考 え ら れ 、ま た 、人 的 資 本 に
つ い て は 罹 患 率 、死 亡 率 な ど の 影 響 が 考 慮 さ れ て お ら ず( 結 果 的 に 人 的 資 本 の 過 大 評 価
と な っ て い る )、 健 康 や 栄 養 へ の 支 出 は 人 の 生 産 性 向 上 へ 寄 与 す る こ と が 無 視 さ れ て い
る ( 結 果 的 に 人 的 資 本 の 過 小 評 価 と な っ て い る )、 な ど の 不 具 合 が あ る 。 こ の よ う な 不
具 合 は あ る も の の 、 一 人 当 た り 社 会 的 生 産 基 盤 の 値 は マ ク ロ な SD 指 標 と し て 意 義 深 い
ものと評価できる。
1.2
持続可能な発展と幸福度
持 続 可 能 な 発 展 と 幸 福 度 と の 関 連 は 深 い 。現 世 代 の み な ら ず 、将 来 世 代 に わ た っ て 、
幸福度を持続的に高めていくことが望まれるであろうし、それが持続可能な発展とも
考 え ら れ る 。 我 々 社 会 は 、 政 府 が GDP 成 長 率 を 目 標 に 掲 げ 、 そ れ が 期 待 し 得 る よ う な
政策をとろうとすることはあるものの、当然のことであるが、これまでも、経済成長
- 51 -
も し く は GDP 成 長 の 高 さ を 目 的 に 行 動 し て き た わ け で は な い 。 各 主 体 が 、 そ れ ぞ れ 幸
福 度 を 高 め る べ く 行 動 し 、 そ の 経 済 活 動 の 結 果 の 一 指 標 と し て GDP が 計 測 さ れ る に す
ぎない。
一 方 、 経 済 の 発 展 段 階 に お い て は 、 幸 福 度 と 一 人 当 た り GDP は 比 較 的 正 の 相 関 が 強
い こ と が 知 ら れ て い る が 、 一 人 当 た り GDP が 大 き く な る と 、 明 確 な 相 関 が な く な る 傾
向 が あ る ( 図 1.2-1)。 そ の た め 、 近 年 、 GDP 以 外 に 経 済 、 持 続 可 能 性 、 幸 福 な ど を よ
り適切に計る指標の検討も進められている。例えば、フランスの経済パフォーマンス
と 社 会 の 進 歩 の 測 定 に 関 す る 委 員 会 ( CMEPSP、 通 称 「 ス テ ィ グ リ ッ ツ 委 員 会 」 と も 呼
ば れ る ) 3 ) は そ の 代 表 的 な 事 例 で あ る 。 GDP は 、「 市 場 に お い て 取 引 さ れ た 財 ・ サ ー ビ
ス」を計上するもので、かつ「その年に生み出された財・サービス」の「付加価値」
を計上するという 3 原則がある。そのため、これらの範疇に入らない事象は捕捉でき
な い と し 、 GDP が 本 質 的 に 抱 え る 問 題 を 克 服 す る た め 、 以 下 の 要 素 を 考 慮 す る よ う を
提唱している。
1)
物質的な幸福を評価する場合、生産ではなく所得や消費をみる
2)
家計の視点を大切にする
3)
所得や消費は富(ストック)と一緒に評価する
4)
所得、消費、富の分布も考慮する
5)
所得指標は非市場的な活動まで拡大すること
6)
生 活 の 質 は 人 々 が 置 か れ て い る 状 況 や 能 力 に 左 右 さ れ る た め 、健 康 、教 育 、個 人
の活動、環境向上の対策をとる
7)
生活の質については、不平等も考慮される必要がある
8)
多元的な生活の質の評価
9)
統計局は多元評価に資する様々な指標を提供する
10)
幸福を客観/主観両面から評価できるようにする
11)
持続可能性の評価はさまざまな観点からの指標が必要である
12)
環境は貨幣的な側面からだけでなく物理的な面からも評価する。
なお、プロスペクト理論では、価値関数において、リファレンスポイントは移動す
るとされる。すなわち、絶対的な所得レベルだけではなく、その所得が当たり前だと
思 う と ( リ フ ァ レ ン ス ポ イ ン ト が 移 動 す る と )、 リ フ ァ レ ン ス ポ イ ン ト と し て 移 動 し た
所得からの変化によって価値(幸福度)が生じやすくなる。また、利得と損失は対称
ではなく、損失過程の方が、価値(幸福度)を大きく減じる傾向が示されている。こ
の こ と を 考 え る と き 、所 得 が 減 る と い う こ と は 、幸 福 度 を 大 き く 減 じ る 可 能 性 が あ り 、
持続可能な発展が、持続的に幸福度を高める、もしくは、減じないという理解をする
な ら ば 、 こ れ に 反 す る 状 態 と 考 え ら れ る 。 所 得 や 一 人 当 た り GDP が 大 き く な る と 、 幸
福度との相関があまり見られなくなることは確かであるが、一方で、所得や一人当た
り GDP が 減 少 す る と い う 状 態 は 、 幸 福 度 と い う 視 点 か ら も 望 ま し く な い 。
- 52 -
5.0 y = 0.2621ln(x) + 3.2068
R² = 0.2781
4.5 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0 図 1.2-1
10 20 30 50 (千$)
60 一 人 当 た り GDP と 幸 福 度 の 関 係 ( GDP は 2007 年 、 幸 福 度 は オ ラ ン ダ 、 エ ラ
ス ム ス 大 学 の Ruut Veenhoven 教 授 ら に よ る 調 査
1.3
40 4)
で 、 最 新 年 ( 主 に 2005-2008 年 ))
政策の優先順位における地球温暖化問題
地球温暖化問題は、その影響の広がりを考えると、持続可能な発展を阻害する最重
要 な 課 題 の 一 つ で あ る と 考 え ら れ る が 、一 方 で 、短 期 的 な 課 題 で は な い こ と も あ っ て 、
人類が直面している様々な政策の中にあって、一般的には優先順位が高い課題とは見
なされていない。
例 え ば 、ロ ン ボ ー グ ら が 実 施 し た コ ペ ン ハ ー ゲ ン ・ コ ン セ ン サ ス
5)
は 、世 界 が 緊 急 に
取 り 組 む べ き 10 の 課 題 に 対 し て 、 当 該 分 野 の 専 門 家 が 解 決 策 を 述 べ た 論 文 を 提 出 し 、
そ れ に 対 し て 更 に 別 の 専 門 家 が コ メ ン ト し 、 そ の 上 で 、 今 後 4 年 間 で 750 億 ド ル の 追
加資金があれば、どの課題に投資するかという問題設定をし、調査を行っている。最
終的には 5 名のノーベル経済学賞受賞者を含む 8 名の経済学者に対して調査を行って
い る 。そ の 結 果 、優 先 順 位 づ け が な さ れ た 結 果 が 表 1.3-1 の と お り で あ る 。温 暖 化 緩 和
策 へ の 投 資 は 最 下 位 の 30 位 で あ る ( 長 期 的 な 低 炭 素 エ ネ ル ギ ー 技 術 へ の R&D 投 資 は
14 位 、 両 者 の コ ン ビ ネ ー シ ョ ン が 29 位 )。
- 53 -
表 1.3-1 コ ペ ン ハ ー ゲ ン ・ コ ン セ ン サ ス ( 2008) に お け る 政 策 の 優 先 順 位
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
Solution
子供への微量栄養素(ビタミンA&亜鉛)の供給
ドーハ・ラウンド
微量栄養素強化(鉄&ヨード添加塩)
子供への予防注射の拡大
農作物の栄養価強化
学校での駆虫&その他栄養関連プログラム
学費の低減
女子就学の促進
コミュニティ・ベースの栄養促進
女性出産のための支援提供
心臓病の緊急治療
マラリアの予防と治療
結核の発見と治療
低炭素エネルギー技術へのR&D投資
家庭水処理のためのバイオサンドフィルター
地方部の水供給
条件付金銭譲渡
平和維持・紛争後情勢
HIV感染の予防
総合衛生キャンペーン
地域病院レベルでの外科設備の向上
小規模金融(女性のための)
ガス調理器使用の改善
アフリカの大規模多目的ダム
ディーゼル車の点検整備
都市部車両の低硫黄ディーゼル化
ディーゼル車の微粒子抑制技術
タバコ税
緩和策への投資&低炭素エネルギー技術へのR&D投資
緩和策への投資のみ
5)
Challenge
栄養失調
貿易
栄養失調
病気
栄養失調
栄養失調&教育
教育
女性の地位強化
栄養失調
女性の地位強化
病気
病気
病気
地球温暖化
水
水
教育
紛争
病気
水
病気
女性の地位強化
大気汚染
水
大気汚染
大気汚染
大気汚染
病気
地球温暖化
地球温暖化
ま た 、 Pew Research Center は 、 継 続 的 に 米 国 一 般 国 民 に 政 策 の 優 先 度 ア ン ケ ー ト 調
査 を 実 施 し て お り 、 表 1.3-2 は 2012 年 の 調 査 結 果 で あ る
6)
。ここでも、温暖化問題の
優 先 度 は か な り 低 く 、 温 暖 化 問 題 が 初 め て 項 目 に 上 が っ た 2007 年 以 外 、 2008 年 以 降 、
2012 年 ま で の 間 、常 に 最 下 位 で あ り 、し か も 毎 年 、優 先 度 の ポ イ ン ト が 低 下 し て い る 。
経済危機の影響により、経済、雇用といった項目が極めて高くなってきている。経済、
雇用等が、常に優先され、それらがしっかりと確保されなければ、温暖化問題への取
り組みも難しくなることが示唆されている。
貧困、飢餓への対応、雇用の確保は当然優先度が高い課題と考えられるし、これが
悪化することは幸福度を大きく減じることは疑いの余地がないところであり、これら
の 調 査 か ら も そ れ が 明 確 に 示 さ れ て い る 。温 暖 化 対 策 、持 続 可 能 な 発 展 を 考 え る と き 、
こ れ を よ く 認 識 す る こ と が 重 要 と 考 え ら れ る 。温 暖 化 対 策 は 、大 変 重 要 な 課 題 で あ る 。
しかしながら、温暖化対策は、優先順位が低いと認識されることは確かであり、それ
以外の優先順位の高い対策・政策と高い調和性をとらなければ、現実社会では実施が
困難となる。一方で、一般国民は短期的、狭い視野で評価しがちではある。よって、
長期、全地球規模で、温暖化問題を評価することは不可欠なことである。地球温暖化
によって、水、食料、健康などに大きな影響がおよぶ懸念も大きい。それによって、
将来、とりわけ、優先順位が高い傾向にある貧困、飢餓、雇用などに大きな影響が及
ぶ可能性も高く、これを良く分析・評価することは大変重要な点である。
その認識もあり、近年、グリーン成長、グリーン・ジョブ、グリーン・ニューディ
ールなどが強調されてきた。しかしながら、これまで、太陽光発電を中心に再生可能
エネルギー拡大と結びつけた議論がなされ、一部の国ではそれを政策によって強力に
実施してきたが、実際にはほとんど経済成長や雇用増に結びついてきていない、とい
- 54 -
う評価が強くなっている。高いエネルギーを導入すれば、その部門での雇用の増大が
おこるのは当然であるが、正味で社会の効用増がもたらされなければ、経済成長や雇
用増大に結びつかないのは当然である。根拠の乏しい期待感だけのグリーン成長など
は、むしろ、持続可能な発展を阻害する可能性があり、冷静な分析、理解が必要であ
る。
表 1.3-2 Pew Research Center に よ る 政 策 の 優 先 順 位 の 調 査
- 55 -
6)
Box 2: 消 費 ベ ー ス C0 2 排 出 量 か ら 見 た 各 国 の C0 2 排 出 量
CO2排出量(Mt CO2)
国内による直接排出量
国外による間接排出量
4150
4100
4050
4000
3950
3900
3850
1990
「 (消費ベース排出量)-(生産ベース排出量 )」
(%, 生産ベース 排出量比)
地 球 温 暖 化 問 題 の 解 決 の た め に は 、グ ロ ー バ ル に 温 室 効 果 ガ ス 排 出 の 削 減 を 進 め る こ
と が 必 要 で あ る 。ま た 、よ り 広 く 持 続 可 能 な社 会 を 構 築 す る た め に は 、グ ロ ー バ ル 化 し
た 世 界 に お け る 産 業 構 造 や ラ イ フ ス タ イ ル の あ り 方 に も 注 目 す る 必 要 が あ る 。京 都 議 定
書 な ど に 代 表 さ れ る 現 在 の 国 際 枠 組 み で は 、輸 出 す る 製 品 の 生 産 時 に 発 生 し た 排 出 も 含
め 国 内 で 生 じ た 排 出 量( 生 産 ベ ー ス 排 出 量 )が 算 定 さ れ 、そ れ を も と に 排 出 削 減 目 標 な
ど が 議 論 さ れ て い る 。し か し 、グ ロ ー バ ル 化が 進 展 し た 世 界 に お い て は 、生 産 拠 点 の 移
動 は 比 較 的 容 易 で あ る 。そ の た め 、排 出 削 減 圧 力 の 相 対 的 に 小 さ な 国 に 生 産 拠 点 を 移 転
し 、 そ こ で エ ネ ル ギ ー を 消 費 し 、 CO2 を 排 出 し 、 そ れ と 引 き 換 え に で き あ が っ た 製 品 と
し て 輸 入 す る こ と に よ っ て CO2 排 出 削 減 の 圧 力 か ら 逃 れ る よ う な 行 動 が 起 こ る こ と が
懸念されている。これは「炭素リーケージ」と呼ばれ、グローバルで見ると排出削減全
体 に は 寄 与 し な い 可 能 性 が 大 き い 。こ の よ う な 状 態 を 正 し く 把 握 し て 、よ り 実 効 あ る グ
ロ ー バ ル な 排 出 削 減 を 考 え る た め に は 、受 益 者 負 担 に 基 づ い た 消 費 ベ ー ス で C O 2 排 出 量
を 算 定 し 、そ れ を 議 論 し て い く こ と は 大 変 重 要 な こ と と 考 え ら れ る 。消 費 ベ ー ス C O 2 排
出 量 と は 自 国 内 で の 消 費 の た め に 生 じ た C O 2 排 出 量 で あ り 、消 費 ベ ー ス C O 2 に は 、自 国
内 で の 消 費 の た め に 海 外 か ら 調 達 し た 製 品 に つ い て 、海 外 で の 生 産 プ ロ セ ス に お い て 発
生 し た CO2 も 含 ま れ る 。
図 1 は EU27 カ 国 の 消 費 ベ ー ス CO2 排 出 量 を 示 し た も の で あ る 。 EU27 カ 国 は 、 1990
年 以 降 、 直 接 排 出 量 (輸 出 品 生 産 時 の 排 出 量 は 含 ま れ な い )は 減 っ て い る が 、 海 外 か ら の
輸入に伴う海外間接排出量を加味した消費ベース排出量でみるとむしろ増加している。
こ れ は 、 EU27 域 内 で の 生 産 プ ロ セ ス に お け る 直 接 排 出 量 は や や 減 少 し た が 、 域 内 で の
消費のために海外から調達した製品について海外での生産供給過程で環境負荷が新た
に 生 じ た こ と を 示 し て い る 。図 2 に は 、主 要 先 進 国 の 製 造 業 で の 貿 易 に 体 化 さ れ た 正 味
G H G 排 出 量 の 推 移 を 示 す 。特 に 、欧 米 で は 、製 造 業 の シ ェ ア が 減 少 す る に 伴 っ て 、輸 入
品 に 体 化 さ れ た GHG 排 出 量 が 増 大 し て い る 。 グ ロ ー バ ル 化 し た 世 界 で は 産 業 の 生 産 構
造 は 容 易 に 移 転 す る た め に 、特 定 の 地 域 に お い て の み の 排 出 削 減 で は そ の 効 果 は 著 し く
小 さ く な る 。消 費 構 造 の 変 革 を 促 す 技 術 の イ ノ ベ ー シ ョ ン が 重 要 で あ る こ と を 示 し て い
る。
2005
16%
Y2005
U.S.
14%
12%
10%
EU15
Y2000
Y2005
Y2000
Y2000
8%
6%
Y1995
Y2005
Y1995
Japan
Y1995
Y1990
4%
Y1990
Y1990
2%
0%
35%
40%
45%
50%
55%
全産業における製造業の生産シェア(%)
図 1 EU27 地域の消費ベース CO2 排出量
図 2 製造業での貿易に体化された正味 GHG 排出量の推移
こ れ ら の 結 果 は 、世 界 全 体 の 環 境 負 荷 が 小 さ く な る よ う に 世 界 全 体 の 排 出 量 原 単 位 を
低 減 さ せ な け れ ば 、グ ロ ー バ ル な 排 出 削 減 に は つ な が ら な い こ と を 示 唆 し て い る 。そ の
た め に は 国 際 的 な 協 調 が 重 要 で あ り 、世 界 的 に 公 平 な 排 出 削 減 目 標 や 、主 要 セ ク タ ー 別
の グ ロ ー バ ル な 排 出 削 減 目 標 が 重 要 で あ る 。し か し 、各 国 の 利 害 が 対 立 す る 国 際 交 渉 に
お い て 必 ず し も 適 切 な 削 減 目 標 が 合 意 さ れ る と は 限 ら な い 。こ の よ う な 中 、消 費 ベ ー ス
CO2 排 出 量 に つ い て の 認 識 を 国 際 社 会 が 共 有 す る こ と は グ ロ ー バ ル な CO2 排 出 削 減 の た
め に 重 要 で あ る 。現 時 点 で は 消 費 ベ ー ス C O 2 排 出 量 に 基 づ く 国 際 的 な 枠 組 み は 、テ ク ニ
カ ル 的 に も 難 し さ を 有 し て い る が 、持 続 可 能 な 社 会 構 築 を 目 指 す た め に も 、消 費 ベ ー ス
の CO2 排 出 量 の 議 論 を 深 め て い く こ と は 重 要 で あ る と 考 え ら れ る 。
- 56 -
1.4
本研究の目的
持続可能な発展と地球温暖化に関する報告書は多くあり、持続可能な発展や温暖化
を 警 告 す る も の は 特 に 多 い 。 本 研 究 ( 通 称 ALPS プ ロ ジ ェ ク ト : ALternative Pathways
towar d Sustainable development and climate stabilization)・ 本 報 告 で は 、 持 続 可 能 な 発 展
や地球温暖化問題をより深く、より正しく理解し、そして、現実社会での対応可能性
をよく認識して、実現性、実効性のある温暖化対応策を探っていこうとするものであ
る。そして、持続可能な発展もしくは将来にわたってより幸福度が増すような方向性
はどうあるべきかを探るものである。そして、持続可能な発展と温暖化対策とのシナ
ジー(相乗効果)やトレードオフ(相反関係)を、様々なモデルを整合的に連携させ、
分析することによって、できる限り定量的に評価した。
複雑な現実社会にしっかりと向き合った分析、検討を行わなければ、提示するシナ
リオも空虚なものでしかなくなり、また有効な温暖化対応策にもなり得ない。現実社
会は、温暖化対策だけを目的としているわけではなく、多種多様な目的を持って行動
している。それら多種多様な目的と温暖化対策が調和しないようなものであれば、現
実 社 会 で は そ の 温 暖 化 対 策 は 実 現 し な い 。地 球 温 暖 化 対 策 は 重 要 で あ る 。だ か ら こ そ 、
持続可能な発展など、温暖化対策以外のより広い文脈の中で、この温暖化問題をとら
え て 実 効 あ る 対 応 策 を 考 え て い く 必 要 が あ る 。本 研 究 で は 、そ の よ う な 認 識 に 立 っ て 、
研究目標を設定し、また研究を遂行した。
最近の国内外の情勢は、温暖化問題以外の様々な問題解決の緊急性が増し、本研究
で取り組んできた問題意識が正に顕在化している状況と言える。しかし、このように
温暖化問題が以前よりも更に優先度が低下しつつある現状において、正に真に実効あ
る温暖化対策・政策のあり方、方向性を深く考え、行動していくことが必要である。
参考文献(第 1 章に関するもの)
1)
UNFCCC, GHG data from UNFCCC. http://unfccc.int/ghg_data/ghg_data_unfccc/ items/4146
2)
IEA, CO2 emissions from fuel combustion (2011)
3)
Joseph E. Stiglitz, Amartya Sen and Jean-Paul Fitoussi(2009)“Report by the Commission on the
Measurement of Economic Performance and Social Progress”
4)
Ruut Veenhoven, World Database of Happiness, Erasmus University Rotterdam.
5)
http://www.copenhagenconsensus.com/Projects/Copenhagen%20Consensus%202008-1.aspx
6)
Pew Research Center, “Public Priorites: Deficit Rising, Terrorism Slipping”, (2012).
- 57 -
第 2章
評価のためのシナリオと評価の方法
地球温暖化問題を考えるとき、まず、温室効果ガス排出の削減を考えることは自然
である。しかし、温室効果ガス排出は、我々人類の近代的な営みの根幹をなしている
エ ネ ル ギ ー 利 用 か ら の CO 2 排 出 が 主 要 な も の と な っ て お り 、 そ れ は 過 去 、 人 類 の 経 済
発展を支え、人類が直面していた多くのリスクを低減させることに成功してきたこと
の裏面でもある。すなわち、地球温暖化問題を考えると、温室効果ガス排出の緩和は
間違いなく必要であるが、一方で様々なトレードオフが存在しており、別のリスクを
大きくする可能性もある。そのため、それらを整合的、総合的に評価しなければ、現
世代そして将来世代の幸福感を最大化する、もしくは、少しでも幸福感を高めるため
の方向性を見出すことができない。
このためには、あるシナリオを想定し、そのシナリオについて、温暖化に関連した
指標やその他、様々な持続可能な発展に関連する指標を整合的に評価することが必要
である。そして、このとき、様々な指標間を論理的、整合的に結びつけ、定量的に評
価するために、コンピュータモデルを利用することは有用な手段である。なお、シナ
リオは一つではない。シナリオ分析は、我々が取り得る、もしくは、あり得る複数の
シナリオを提示し、それを比較評価することによって、より良い方向性を意思決定す
るための材料を提供することがその最も重要な役割となる。
本研究では、シナリオ分析にあたって、いかなるシナリオを想定すれば、今後の温
暖化対策、持続可能な経済社会実現に向けた意思決定に大きく寄与できるかを、日本
における比較的幅広い関連分野の専門家を交えたブレーンストーミングも通して検討
を行った。
本章では、このような議論を通して策定した複数のシナリオの内容について記述す
る。そして、想定したこの複数のシナリオを、定量的、整合的に分析・評価するため
に開発、利用したコンピュータモデルおよび分析の方法について概説する。
2.1
評価シナリオの概要
ALPS の コ ア と す る シ ナ リ オ は 、 3 つ の 軸 ( 視 点 ) で 策 定 し た 。 そ れ は 、 マ ク ロ の 社
会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ( A、B)、温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ
( I、 II、 III)、 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ ( 濃 度 安 定 化 レ ベ ル CP: Concentration
Pathway) の 3 つ の 軸 で あ る ( 図 2.1-1)。 以 下 に そ れ ぞ れ の シ ナ リ オ の 内 容 に つ い て 記
述する。
- 58 -
ALPSコアシナリオ
長期的なマクロの経済社会状況に関するシナリオ
B:高位技術
進展シナリオ
A:中位技術
進展シナリオ
温暖化政策実施における
背景状況に関するシナリオ
排出削減レベルに
関するシナリオ
ALPS-Baseline
I:多目的多様性社会
シナリオ
ALPS-CP6.0
II. 温暖化対策優先
シナリオ
ALPS-CP4.5
ALPS-CP3.7
III:エネルギー安全
保障優先シナリオ
ALPS-CP3.0
図 2.1-1
定量的なシナリオ策定を行った叙述的シナリオ
2.1.1 マ ク ロ の 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ
本研究では、マクロの社会経済シナリオの主要なドライビングフォースは、技術の
革新であるとして、その不確実性の範囲として 2 種類の見通しを策定した。技術進歩
は不確実であり、将来の革新性の高い技術を予期することは不確実性が高いと考えた
ためである。本来、政策によっても技術の進歩は変わり得るが、それ以上に意図しな
い不確実性が大きいものと考えた。すなわち、ここで策定したマクロの社会経済シナ
リオは、理念的・目標的なシナリオを描いたものではなく、また、政策によってコン
トロールできるものとは考えないものであり、社会の帰結として実現し得る幅を有し
た将来見通しとして考えた。
2種類のシナリオは、これまでの奇跡的とも言える高経済成長から先進国を中心に
次第に緩やかなる経済成長へと変化していくシナリオ A と、奇跡的とも言える技術革
新 が 今 後 も 継 続 し 一 人 当 た り GDP 成 長 も 大 き く 成 長 す る シ ナ リ オ B で あ り 、そ れ ぞ れ
のシナリオにおける社会経済の姿を以下に示す。
- 59 -
シナリオ A

(中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )
全 般 的 な 技 術 の 進 展 は 見 ら れ る も の の 、先 進 国 を 中 心 に 物 質 的 に 満 た さ れ て き た 社
会 の 中 で 、新 た に 大 き な 消 費 効 用 を 生 み 出 す ほ ど の 革 新 性 は 乏 し く 、従 来 の よ う に
高 位 の 経 済 成 長 を 引 き 起 こ す に は 力 不 足 で あ る 。そ の た め 、先 進 国 を 中 心 に 、次 第
に経済成長率は小さくなっていく。

シナリオ A では、シナリオ B のような高経済成長の世界自体を知らないし、国内
所得格差もシナリオ B ほどは拡大しないため、シナリオ A の世界でも十分満足し
て い る か も し れ な い 。た だ し 、経 済 的 な 向 上 感 に つ い て 乏 し さ を 感 じ て い る 人 々 も
少なくはない。

後 進 発 展 途 上 国 ( LDCs ) の 経 済 成 長 も 、 先 進 国 の 影 響 を 受 け B よ り は 小 さ い 。

先 進 途 上 国 は 、一 定 の 経 済 レ ベ ル ま で は 消 費 拡 大 指 向 が 続 く も の の 、先 進 国 に 続 い
て大量消費社会から離脱する。

全 体 と し て 、 経 済 成 長 は 比 較 的 緩 や か で あ り 、 そ れ に 伴 っ て 人 口 も 2050 年 頃 ま で
上 昇 し 、 そ れ 以 降 2100 年 頃 ま で 概 ね 維 持 さ れ る 。

先進国の潜在的な一人当たりエネルギー需要は、低下傾向に変わる。

21 世 紀 後 半 の 食 料 需 要 に つ い て は 、 経 済 成 長 に よ る 効 果 よ り も 人 口 の 影 響 の 方 が
大きく表れるため、シナリオ B よりもむしろ大きい。
シナリオ B

(高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )
世 界 は 、 過 去 に 農 業 革 命 、 産 業 革 命 、 IT 革 命 の よ う な 社 会 を 大 き く 変 え る 技 術 革
新を実現し、奇跡的とも言える経済成長を成し遂げてきた。シナリオ B では、こ
の よ う な 社 会 を 激 変 さ せ る よ う な 技 術 革 新 が 将 来 も 興 っ て 、そ れ に よ り 新 た に 大 き
な消費効用を生み出し、世界経済は高位に成長し続ける。

IT 技 術 、輸 送 技 術 を 中 心 と し た 技 術 も 更 に 進 展 し 続 け 、グ ロ ー バ ル 化 が 一 層 進 む 。

よ り 高 付 加 価 値 な 製 品 、サ ー ビ ス を 提 供 で き る 者 と そ う で な い 者 の 所 得 格 差 は 拡 大
す る 。ま た グ ロ ー バ ル 化 の 更 な る 進 展 は そ れ を 後 押 し す る 。政 府 は 税 に よ っ て 国 内
所 得 格 差 を 是 正 し た い と こ ろ だ が 、グ ロ ー バ ル 化 は そ の 対 応 を 困 難 に し 、所 得 格 差
を小さくすることには限界がある。

現 在 の 先 進 国 、新 興 発 展 途 上 国 は 、よ り 付 加 価 値 の 高 い 産 業 へ と 移 行 し て い く た め 、
第1次産業や比較的付加価値の低い第2次産業の製品製造の拠点はアフリカ等の
後進発展途上国にも移り、アフリカ等もそれ相応に発展をする。
全 世 界 的 な 高 経 済 成 長 に 伴 い 、 急 速 な 少 子 化 が 世 界 の い た る 地 域 で 進 行 し 、 21 世
紀後半には世界の人口が縮小していく。

農村と都市との所得格差は一層広がり、多くの国では都市化が更に進む。

潜在的な一人当たりエネルギー需要は、これまで同様上昇が続く。

食 料 需 要 に つ い て は 、経 済 成 長 に よ る 効 果 よ り も 人 口 の 影 響 の 方 が 大 き く 表 れ る た
め 、 21 世 紀 後 半 に つ い て は 人 口 の 減 少 に 伴 っ て シ ナ リ オ A よ り も 小 さ く な る 。
- 60 -
こ れ に 沿 っ た 形 で 、一 人 当 た り GDP に つ い て 定 量 的 な シ ナ リ オ を 策 定 し た( 図 2.1-2
は 世 界 平 均 の 一 人 当 た り GDP)。社 会 経 済 に 関 す る 動 向 、具 体 的 な 将 来 推 計 に 基 づ く シ
ナリオ想定の詳細については、第 3 章を参照されたい。
60
SRESの範囲
Per-capita GDP (Thousand 2000USD)
SRES A1
SRES B1
50
ALPS-シナリオB
40
ALPSの範囲
30
20
ALPS: 世界金融危機の
影響考慮
SRES B2
10
SRES A2
ALPS-シナリオA
0
1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100
注)SRESシ ナリオは1990年価格のため、1990年の2000年価格GDPと一致するように補正して表示している 。
図 2.1-2
シ ナ リ オ A、 B に よ る 世 界 平 均 の 一 人 当 た り GDP
- 61 -
Box 3: 環 境 技 術 の 移 転
1992 年 に 採 択 さ れ た 国 連 気 候 変 動 枠 組 み 条 約 ( UNFCCC) の 第 4 条 第 5 項 に お い て 、
先 進 国 に よ る 途 上 国 へ の 環 境 技 術 と ノ ウ ハ ウ の 移 転 や 、途 上 国 の 内 発 的 な 能 力・技 術 の
開 発 及 び 強 化 を 支 援 す る こ と が 言 及 さ れ て い る 。世 界 規 模 で の 大 幅 な 排 出 量 削 減 を 達 成
するためには、先進国から途上国への環境技術の移転が重要な役割を果たす。
図 1 は 世 界 で 各 排 出 削 減 レ ベ ル を 達 成 す る 際 の 地 域 別 削 減 量 を 示 し た も の で あ る 。削
減 レ ベ ル が 最 も 厳 し い CP3.0 で は 2050 年 の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO2 排 出 で 必 要 な 全 排 出 削
減 量 の う ち 、中 国 と イ ン ド の 削 減 貢 献 度 が 約 40%に ま で 及 び 、途 上 国 に お い て 費 用 効 率
的な削減余地が大きいことがわかる。このような削減を達成するためには、緩和技術・
ノ ウ ハ ウ の 移 転 を 通 じ て 、 途 上 国 に お け る エ ネ ル ギ ー 効 率 改 善 及 び 最 先 端 ( B AT ) の 技
術導入が必要となる。
60 AI-CP4.5
50 40 30 20 10 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
60 AI-CP3.7
エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
60 50 40 30 20 10 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
AI-CP3.0
Other Non‐OECD
50 Other OME
40 India
China
30 Other OECD
20 USA
10 CO2排出量
0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
図 1 世界で各排出削減レベルを達成するための地域別削減量
( シ ナ リ オ A-I、 エ ネ ル ギ ー 起 源 CO2 排 出 分 の み 、 ベ ー ス ラ イ ン か ら の 削 減 効 果 )
中国
発電部門:効率
民生部門, 向上・化石燃料
11%
間転換, 19%
運輸部門, 12%
産業部門, 21%
発電以外のエ
ネルギー転換
部門, 3%
図 2
インド
運輸部門, 7%
産業部門, 18%
発電部門:原子
力, 18%
発電部門:再生
発電部門:CCS, 可能, 11%
6%
発電部門:
効率向上・
化石燃料間
転換, 21%
民生部門, 10%
発電以外のエ
ネルギー転換
部門, 1%
発電部門:再生
可能, 21%
発電部門:
原子力, 14%
発電部門:
CCS, 7%
世 界 で 排 出 レ ベ ル ( CP3.0) を 達 成 す る た め の 技 術 別 貢 献 度
中 国 と イ ン ド の 場 合 ( シ ナ リ オ A-I、 ベ ー ス ラ イ ン か ら の 削 減 効 果 )
図 2 は 中 国 と イ ン ド に お い て CP3.0 を 達 成 す る た め の 技 術 別 貢 献 度 を 示 し た も の で あ
る 。両 国 と も に 発 電 部 門 の 効 率 向 上 や 燃 料 転 換 の 削 減 貢 献 度 が 高 く 、次 い で 発 電 部 門 の
再生可能エネルギーや原子力、産業部門による削減貢献度が高いといえる。
上 記 の 通 り 、途 上 国 に お け る 費 用 効 率 的 な 技 術 別 の 削 減 可 能 量 が モ デ ル 分 析 で 明 ら か
と な っ た が 、現 実 の 世 界 で は 技 術 移 転 に は 様 々 な 課 題 が 存 在 す る た め 、こ れ ら の 削 減 可
能量を実現するのは容易ではない。
- 62 -
2.1.2 温 暖 化 政 策 の 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ
第 2.1.1 節 で 述 べ た マ ク ロ の 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ に 加 え て 、よ り 、政 策 的 な 議
論までを喚起するシナリオとするために、温暖化政策の背景状況に関する 3 種類のシ
ナリオを策定した。ここで策定したシナリオは、温暖化政策立案や政府における政策
立案でいずれかのシナリオをとり得ることは不可能ではないものの、温暖化政策を超
えた幅広い政策の文脈となるため、必ずしも簡単にシナリオ選択ができるものでもな
い。すなわち、前節で示したマクロの社会経済シナリオと同様に、社会の帰結ととる
こともできる一方、それとは異なって、人類の選択の余地のあるシナリオでもある。
3 種 類 の シ ナ リ オ は 、シ ナ リ オ I と し て「 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ 」を 想 定 、こ れ
は 現 在 の 社 会 行 動 に 近 い こ と を 前 提 と し た シ ナ リ オ で あ る 。 シ ナ リ オ II は 「 温 暖 化 対
策優先シナリオ」であり、このシナリオにおいては、様々な目的の中で温暖化対策の
優先度が高く、正味で負の削減費用となるような省エネ対策などが徹底的に行われる
など、温暖化対策をコスト効果的に実施することが優先されるシナリオである。シナ
リ オ III は 「 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 優 先 シ ナ リ オ 」 で あ り 、 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 の 視 点 か
ら国内資源の利用が優先されるようなシナリオである。
シナリオ I
(多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ )
社会は、様々な人で構成されており、多様な目的を有して行動している。効用の発
生も様々であり、経済合理性の追求だけが効用増をもたらすわけではない。また認知
にバイアスがかかる場合もあり、効用増大の仕組みは複雑である。更には、情報が限
られていたり、すべてを総合的に判断できる能力を持ち合わせていなかったりするこ
とによって、経済合理的な行動がとれない場合もあるだろう。
省エネルギー機器の選択においても、正味では負もしくは安価な排出削減費用と推
定されるものも多いが、主観的に判断される投資回収年数は相当短いことが観測され
ている。これは経済合理的な判断ができていないと見ることもできる一方で、多様な
目的を有して行動がなされている結果であり、エネルギーコスト以外を含めた社会全
体 の 文 脈 で 見 る と 合 理 的 な 判 断 と な っ て い る と 考 え る こ と も で き る( 図 2.1-3)。い ず れ
にしても現実の社会ではこのような行動が観測されている。
このシナリオにおいては、多様な目的の下で限定合理的な判断を行う結果、多様な
枠組みが構築されやすい。これは温暖化対策コストからは非合理的かもしれないが、
人類の多目的性、多様性を考えると一概に非合理的と言うこともできない。
なお、人間の認知は複雑であり、例えば確率が低いものを実際よりも高く認知する
一方、確率が高いものを実際よりも低く認知する傾向があるとされているし、一旦認
知したことと異なる情報は受け入れられにくくなる認知的不協和が起こることもあ
る。このシナリオでは、人間らしい認知バイアスが常に起こりやすいことが前提であ
り、混沌とした温暖化問題への見方の中で、温暖化対策も策定していかなければなら
ないと考えるシナリオである。
- 63 -
シ ナ リ オ II
(温 暖 化 対 策 優 先 シ ナ リ オ )
我 々 は 、少 な く と も こ れ ま で は コ ス ト 合 理 的 な 温 暖 化 対 策 を と っ て き て は い な い が 、
温暖化問題の重要性の認識がより広まり、より大きな排出削減をより小さな費用で実
現する必要性が高まり、技術普及障壁を取り除くことに成功し、温暖化対策について
コスト効率的な対策がとられるようになる。
具体的には、エネルギー効率の高い設備、省エネルギー機器の広範な普及が挙げら
れる。エネルギー効率の高い設備や省エネルギー機器は、正味では負もしくは安価な
排出削減費用と推定されるものも多いが、エネルギーコストとして見たとき、合理的
な意思決定がなされそれが実現されていない。しかし、このシナリオの下では相当に
コスト合理的な意思決定が進展する。
ただし、このとき、温暖化対策コストの合理性を追求することによって、場合によ
っては、別の目的、そこに発生していた効用を、一部、損なうことも起こり得るとい
うことを忘れてはいけない。すなわち、社会は多目的であるため、温暖化対策、エネ
ルギー対策としては非合理と見られても、社会の多目的性に照らすと、合理的と考え
られる場合も多く存在するためである。よって、温暖化対策の優先度を高くおくよう
な社会に変革をとげれば、ここで表現されるシナリオは合理的な対策を表現したもの
となるものの、現状のような社会状況のままであれば、社会全体としてみると必ずし
も合理的とは言えない可能性もある。よって、このシナリオが広い意味での合理性を
有 す る よ う に な る に は 、温 暖 化 対 策 以 外 の 幅 広 い 社 会 シ ス テ ム の 変 革 が 不 可 欠 で あ り 、
長期的な時間を要すると考えられる。
シ ナ リ オ III
(エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 優 先 シ ナ リ オ )
安全保障問題、とりわけエネルギー安全保障問題は各国ともに最重要課題の一つで
ある。
実際、米国オバマ政権のグリーンニューディールも具体的な内容からすると、温暖
化対策というよりもむしろエネルギー安全保障政策と見ることができる。
このシナリオにおいては、石油価格が高騰し、それに引きずられるように各種資源
価格、食料価格等も高い水準となる。また、非在来型資源の開発が一層進む。
本シナリオは、温暖化対策は推進されつつも、むしろ、それはエネルギー安全保障
政策を補完する位置付けとして推進されるシナリオである。
なお、温暖化懐疑論が勢いづいた場合には、否応なくエネルギー安全保障政策の文
脈や化石エネルギー資源の有限性といった文脈の中で、温暖化対策を推進せざるを得
なくなる可能性もある。
- 64 -
Box 4: 排 出 量 取 引 制 度 の 状 況
排 出 量 取 引 制 度 ( E T S : E m i s s i o n Tr a d i n g S c h e m e ) は 、 温 室 効 果 ガ ス 排 出 削 減 の 切 り 札
で あ る と い っ た 主 張 が 展 開 さ れ て き た 。利 点、欠 点 に つ い て 、様 々 な 議 論 が 展 開 さ れ て
きており、包括的な議論はここでは行わない。ここでは以下の 2 点に絞って言及する。
1 つ 目 は 、 最 近 の EU-ETS に お け る 炭 素 価 格 の 動 向 で あ り 、 も う 1 つ は 、 ETS を 中 心 と
した欧州の温室効果ガス排出削減政策における矛盾についてである。
EU-ETS の 炭 素 価 格 は 、 そ も そ も 東 欧 統 合 の 影 響 も あ っ て EU の 排 出 削 減 目 標 が 実 質
的 に 緩 や か な 削 減 目 標 で あ る こ と 、国 際 的 な 次 期 排 出 削 減 の 枠 組 み が 不 透 明 な こ と 、そ
し て 欧 州 経 済 危 機 の 影 響 等 も あ り 、 一 時 、 7 €/tCO2 に 落 ち 込 ん だ 。 排 出 総 量 は 担 保 さ れ
ているわけなので、価格が下がることは全く悪いことではなく、むしろ、歓迎されて然
るべきことである。しかし、安価な炭素価格では、技術開発や長期的な投資のインセン
テ ィ ブ が 小 さ く な り 、将 来 的 な 削 減 も 期 待 し に く く な る た め 、欧 州 委 員 会 は 危 機 感 を 持
っている。
35
€/t‐CO2
EUA フェーズI
EUA フェーズII
CER
30
25
20
15
10
5
0
2005/6 2005/12 2006/6 2006/12 2007/6 2007/12 2008/6 2008/12 2009/6 2009/12 2010/6 2010/12 2011/6 2011/12
EUETS の 排 出 権 価 格 ( 出 典 : Blue Next)
ま た 、 ETS の 利 点 と し て 、 同 じ 排 出 削 減 を 行 う に あ た っ て 、 価 格 メ カ ニ ズ ム を 用 い る こ
とによって、費用最小で目標を達成でき、そのため、同じ費用をかけるのであれば、よ
り 大 き な 削 減 が 達 成 で き る と い っ た 主 張 も な さ れ て き た 。し か し 、欧 州 の 温 暖 化 政 策 を
見 る と 、 EU-ETS が 導 入 さ れ て い る に も 関 わ ら ず 、 別 途 、 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 固 定 価 格
買 取 制 度 ( F I T: F e e d - i n Ta r i ff ) が 導 入 さ れ る ケ ー ス が 多 い 。 ま た 、 E U の い わ ゆ る
「 2 0 - 2 0 - 2 0 」( 温 室 効 果 ガ ス 排 出 2 0 % 削 減 、 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 比 率 2 0 % 、 エ ネ ル ギ ー 効
率 20%改 善 ) 目 標 の う ち エ ネ ル ギ ー 効 率 改 善 が 進 ん で い な い と し て 、 EU で は エ ネ ル ギ
ー 効 率 改 善 強 化 の 検 討 も 進 め ら れ て い る 。 こ の よ う に 、 ETS は 本 来 の 利 点 を 放 棄 し て 、
実 質 的 に は 、ボ ト ム ア ッ プ 的 な 方 策 に な っ て い る 。太 陽 光 発 電 の C O 2 限 界 削 減 費 用 は 大
変 高 い 。 よ っ て 、 ETS で は 導 入 が ほ と ん ど 促 進 さ れ な い 。 し た が っ て 、 FIT に よ っ て 導
入 を 促 進 し て い る 状 況 で あ る 。 し か し 、 費 用 効 率 性 を 考 え る の で あ れ ば 、 FIT を 併 用 す
る こ と は E T S の 利 点 を 否 定 す る よ う な も の で あ り 、本 来 避 け る べ き な の に 、導 入 さ れ て
い る 。ま た 、エ ネ ル ギ ー 効 率 基 準 の 検 討 も 、本 プ ロ ジ ェ ク ト で も フ ォ ー カ ス を あ て て い
る 技 術 普 及 障 壁 が 大 き い こ と を 考 え る と 当 然 の 方 向 性 と 見 受 け ら れ る 。ET S の よ う な 明
示的な炭素価格付けでは、相当高い炭素価格がつかない限り、省エネは進展しにくく、
ETS で 進 め る こ と は 容 易 で は な い 。
- 65 -
図 2.1-3
標 準 製 品 と 省 エ ネ 製 品 の コ ス ト 構 成 ( 出 典 : Koomey 3 ))
この叙述的なシナリオに沿った形で、以下のような具体的な想定を行い、シナリオ
の差異を表現し、定量的な分析・評価を行った。
温 暖 化 政 策 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ に お い て は 、 シ ナ リ オ I( お よ び III)
については、限定合理的な行動や技術・機器導入のための探索費用等を含んだ形で投
資の意思決定がなされている現実社会で観測されている投資回収年数に近いものを、
シ ナ リ オ II で は 温 暖 化 対 策 を 重 視 し 、 長 い 投 資 判 断 を 行 う 社 会 に 変 革 す る 社 会 を 想 定
し 、比 較 的 長 い 回 収 年 数 を 想 定 し た 。表 2.1-1 の よ う な 投 資 回 収 判 断 年 数( も し く は 投
資 判 断 に お け る 主 観 的 割 引 率 )を 世 界 エ ネ ル ギ ー ・ 温 暖 化 対 策 モ デ ル DNE21+( 次 節 で
概 説 ) に お い て 想 定 す る こ と に よ っ て 、 シ ナ リ オ I と II の 差 異 を 定 量 的 に 評 価 し た 。
シ ナ リ オ III( エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 優 先 シ ナ リ オ ) に お い て は 、 エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ
ティを増す手段として自国産のエネルギー利用を促進し、海外からのエネルギー輸入
を抑制するといったことが挙げられることから、シナリオの定量的な比較分析におい
て は 、海 外 か ら 輸 入 す る 石 油 及 び ガ ス に つ い て シ ナ リ オ I の 基 準 想 定 価 格 の 25%相 当 を
関 税 の よ う な 形 で 課 す こ と を 想 定 し 、 分 析 ・ 評 価 を 行 っ た ( 表 2.1-2)。
これら温暖化政策の背景状況に関するシナリオについては、第 4 章エネルギー・気
候変動の章において主に記載した。
- 66 -
表 2.1-1
シ ナ リ オ I お よ び II に お け る 投 資 回 収 年 数 ( 主 観 的 割 引 率 ) の 想 定
投資回収年数(年)
シナリオI・III
上限
発電
主観的割引率
シナリオII
下限
上限
シナリオI・III
下限
上限
シナリオII
下限
上限 下限
11.9
5.0
17.2
11.3
8%
20%
5%
8.5%
その他エネルギー転換
6.6
4.0
13.3
11.3
15%
25%
7%
8.5%
エネルギー集約産業
6.6
4.0
13.3
11.3
15%
25%
7%
8.5%
運輸(自動車)
3.3
2.2
7.6
5.8
30%
45% 10%
15%
民生・業務
3.3
1.8
7.6
5.8
30%
55% 10%
15%
注) 一人当たりGDPに応じ、地域別・時点別に表の上下限の範囲内で想定
表 2.1-2
シ ナ リ オ I お よ び III に お け る 化 石 燃 料 価 格 の 想 定
2010 年
2030 年
2050 年
石炭
106
162
185
石油
399 (63)
7 0 2 ( 11 0 )
818 (128)
ガス
308
530
569
石炭
106
162
185
石油
399 (63)
878 (138)
1023 (160)
ガス
308
663
7 11
シ ナ リ オ I・ II
シ ナ リ オ III
単 位 : US2000$/toe、 た だ し 、 括 弧 内 の 数 値 は US2000$/bbl
注 : シ ナ リ オ A - B a s e l i n e の 場 合 。モ デ ル で は 、内 生 的 に 化 石 燃 料 価 格 が 決 定 さ
れ る( 累 積 生 産 量 が 増 加 す る と 、採 掘 が 困 難 な 化 石 燃 料 を 生 産 す る こ と と な り 、
生産費用が上昇する)ため、他のシナリオではこの価格とは差異がある。
- 67 -
Box 5: 限 定 合 理 的 な 行 動
行 動 経 済 学 が 明 ら か に す る と こ ろ に よ る と、人 は 時 間 、リ ス ク 、利 得 の 感 じ 方 に つ い
て 特 有 の ク セ が あ り 、そ れ は 従 来 の 経 済 学 が 想 定 し て い た 完 全 合 理 性 で 説 明 で き る も の
と は 乖 離 し て い る こ と が わ か っ て い る 。経 済 主 体 の 合 理 性 に は 限 界 が あ る( 限 定 合 理 性 )
た め 、人 々 の 意 思 決 定 は 近 視 眼 的 な 判 断 と な り や す く 、そ れ が 長 期 的 に は 採 算 が 取 れ る
省 エ ネ 製 品 購 入 、あ る い は 省 エ ネ 設 備 の 投 資 を 阻 ん で い る 一 因 に な っ て い る と 言 わ れ て
いる。
1 9 7 9 年 に ノ ー ベ ル 経 済 学 賞 を 受 賞 し た ハ ー バ ー ト・サ イ モ ン は 、人 間 が 得 ら れ る 知 識
や 計 算 能 力 に は 限 界 が あ る と い う「 限 定 合 理性 」の 概 念 を 提 示 し 、現 実 に は 効 用 を 最 大
化 さ せ る よ う な 選 択 肢 を 探 す こ と は で き ず 、一 定 水 準 以 上 の 満 足 が あ れ が ば そ れ を 選 択
するというアプローチをとることの妥当性を説いた。
こ の よ う な 状 況 下 で は 、人 は 簡 便 か つ 直 感 的 に 満 足 の で き る 意 思 決 定 を 行 う こ と に な
る 。こ の 目 の 子 で 行 わ れ る 判 断 は ヒ ュ ー リ ス テ ィ ク ス と 呼 ば れ る 。た だ し 意 思 決 定 は ラ
ン ダ ム に 行 わ れ る わ け で は な く 、人 々 の 思 考 プ ロ セ ス に 共 通 に 見 ら れ る 一 定 の 法 則 性 や
傾 向 が あ る こ と が わ か っ て い る 。こ の 結 果 、人 々 の 行 動 に は 体 系 的 な バ イ ア ス が か か り
合 理 的 な 基 準 か ら 乖 離 す る こ と に な る 。こ れ を 理 論 的 に 体 系 化 し た も の が 行 動 経 済 学 で
あ る 。こ れ に よ り 伝 統 的 な 経 済 学 で は 説 明 が つ か な か っ た 、実 際 に 観 察 さ れ る 近 視 眼 的
な人々の行動を理論的に理解することが可能である。
行 動 理 論 を 構 成 す る 要 素 は い く つ か あ る が 、例 え ば 不 確 実 性 を 伴 う 選 択 肢 の 間 で 人 々
はどのように意思決定をするかを説明するプロスペクト理論では S 字型をした価値関数
を 用 い て 人 々 の 感 じ 方 を 理 解 す る 。こ の 関 数 の 特 徴 は 3 点 あ る 。1 つ は「 参 照 点 依 存 性 」
と呼ばれるもので、価値は絶対的な水準ではなく参照点(原点)からどれくらい離れて
いるかにより測られる。2 つめは「感応度逓減性」で、利得も損失もその値が小さいう
ち は 変 化 に 対 し て 敏 感 に 反 応 し 大 き な 価 値 の 変 化 を も た ら す が 、そ の 値 が 大 き く な る に
つれて小さな変化の感応度は減少するというものである。3 つめが「損失回避性」で、
損 失 が 与 え る 心 理 的 ダ メ ー ジ は 利 得 よ り も 大 き い と い う 点 で あ る 。こ れ を 省 エ ネ 投 資 と
い う 文 脈 で 理 解 す る と 、投 資 時 の 状 況 で あ る参 照 点 を 基 準 に 、高 い 初 期 費 用 は 損 失 、将
来のリターンは利得と認識されることになり、損失(初期投資)部分の感じ方が大きい
ために、投資回収期間が長くなるプロジェクトは採用されにくくなる。
ま た 、省 エ ネ 投 資 は 、通 常 の 投 資 よ り も 目先 に 大 き な コ ス ト が か か り 、先 々 時 間 を か
け て エ ネ ル ギ ー コ ス ト を 削 減 し 、長 期 的 に 追 加 費 用 分 を 回 収 す る こ と に な る 。そ の た め 、
人 の 時 間 に 対 す る 感 覚 が 意 思 決 定 に 影 響 を 及 ぼ す こ と に な る 。通 常 の 経 済 学 あ る い は 会
計 学 で は 、割 引 率 は 通 時 的 に 一 定 と 仮 定 し た指 数 型 割 引 が 適 用 さ れ る 。し か し 、実 際 の
人 間 は 現 在 か ら 近 未 来 に か け て は 近 視 眼 的 な の に 対 し 、遠 い 未 来 の 出 来 事 に 関 し て は 関
心 が 薄 れ 無 差 別 に な る 傾 向 が あ る ( 現 在 志 向 バ イ ア ス )。 こ の 時 間 に 対 し て 非 整 合 的 な
感 覚( 遅 滞 時 間 ア ノ マ リ ー )を 説 明 す る も の と し て 、双 曲 型 割 引 曲 線 が 提 案 さ れ て い る 。
指 数 型 割 引 は 時 間 の 経 過 と 共 に 一 定 の 割 合 で 価 値 が 減 少 す る の に 対 し 、双 曲 型 割 引 は 最
初 に 急 激 に 減 少 す る が 、時 間 が 経 つ に つ れ 価 値 の 減 少 す る 程 度 が 減 っ て い く 関 数 型 に 特
徴がある。
経済性だけに焦点をあてると初期投資額とエネルギーコストから投資水準が決まる
こ と に な る が 、実 際 に は 収 益 性 と い う 点 だ け か ら で な く 、人 々 の 心 理 的 メ カ ニ ズ ム や 個
別 の 技 術 特 性 も 人 々 の 意 思 決 定 に 影 響 を 及 ぼ し て お り 、こ れ ら を 考 慮 し た 評 価 を 行 う こ
とがより現実的なアプローチであると考えられる。
- 68 -
2.1.3 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ
IPCC の 次 期 排 出 シ ナ リ オ 策 定 に お い て は 、 気 候 変 動 モ デ ル 計 算 等 の た め 、 既 往 の シ
ナ リ オ か ら 幅 広 い レ ン ジ を 表 現 す る 4 つ の シ ナ リ オ ( RCPs: Representatie Concentration
Pathways) の 選 定 が 行 わ れ て き た
1,2)
( Box 6 を 参 照 )。 本 ALPS プ ロ ジ ェ ク ト に お い て
は 、 排 出 レ ベ ル に つ い て 、 RCP シ ナ リ オ を 参 照 に し つ つ 、 図 2.1-4 の よ う な CO 2 濃 度
パ ス ( ベ ー ス ラ イ ン ( シ ナ リ オ A, B)、 CP6.0、 CP4.5、 CP3.7、 CP3.0) を 設 定 し た ( こ
の と き の CO 2 排 出 経 路 は 図 2.1-5 の と お り )。
G8 や COP な ど 温 暖 化 国 際 交 渉 に お い て 、全 球 平 均 気 温 が 産 業 革 命 以 前 比 で 2℃ を 超
えないようにすべきという科学的知見を認識する、といった声明が採択され、いわゆ
る 2℃ 目 標 が 広 く 議 論 さ れ て い る 。 CP3.0 は 平 衡 気 候 感 度 が IPCC AR5 で most likely
value と さ れ た 3 ℃ で あ れ ば 、 産 業 革 命 以 前 比 で 2 ℃ を 超 え な い 可 能 性 が 高 い と さ れ る
シナリオとなる。
この排出削減レベルに関するシナリオ分析では、いずれのレベルの目標を選択すれ
ば 、 GHG 排 出 削 減 に 要 す る 緩 和 費 用 、 ま た 、 そ の と き の 温 暖 化 影 響 被 害 の 大 き さ 、 そ
して、それらが持続可能な発展指標へどのように間接的に影響を及ぼすのかを世界全
体のみならず、地域別の差異を含めて評価した。
1500
ALPS A-Baseline
CO2 concentration (ppm)
1300
ALPS A-CP6.0
ALPS A-CP4.5
1100
ALPS A-CP3.7
ALPS A-CP3.0
900
ALPS B-Baseline
RCP8.5
700
RCP6.0
RCP4.5
500
RCP3PD
300
1990
図 2.1-4
2010
2030
2050
2070
2090
2110
2130
2150
IPCC 第 4 次 評 価 報 告 書 で 報 告 さ れ て い る 濃 度 安 定 化 レ ベ ル と RCP と の 関 係
注 ) ベ ー ス ラ イ ン は 、 シ ナ リ オ I( 多 目 的 多 様 性 シ ナ リ オ ) の ケ ー ス を 表 示
- 69 -
120
ALPS A-Baseline
CO2 emission (GtCO2eq/yr)
100
ALPS A-CP6.0
ALPS B-Baseline
80
ALPS A-CP4.5
ALPS A-Baseline
ALPS A-CP3.7
60
ALPS A-CP3.0
ALPS B-Baseline
40
RCP8.5
20
RCP6.0
RCP4.5
2150
2130
2110
2090
2070
2050
2030
2010
1990
0
RCP3PD
-20
注)産業プロセスCO2および土地利用変化CO2排出を含む
図 2.1-5
排 出 削 減 レ ベ ル の 違 い に よ る 世 界 CO 2 排 出 シ ナ リ オ の 想 定
( ベ ー ス ラ イ ン 、 CP6.0、 CP4.5、 CP3.7、 CP3.0)
- 70 -
Box 6: IPCC の 新 シ ナ リ オ 策 定 動 向
気 候 変 動 に 関 す る 政 府 間 パ ネ ル( I P C C )は 、地 球 温 暖 化 に 関 す る 科 学 的 知 見 の 集 約 と
評 価 を 主 な 目 的 に し て お り 、2 0 0 7 年 に は ノ ー ベ ル 平 和 賞 も 受 賞 し た 。第 1 次 評 価 報 告 書
( FA R ) が 1 9 9 0 年 、 第 2 次 ( S A R ) が 1 9 9 5 年 、 第 3 次 ( TA R ) が 2 0 0 1 年 に 出 版 さ れ 、
最 新 の 第 4 次 評 価 報 告 書( A R 4 )は 2 0 0 7 年 に 出 版 さ れ て い る 。気 候 変 動 の 国 際 交 渉 や 各
国 の 国 内 政 策 に 大 き な 影 響 を 及 ぼ し て き て い る 。 次 期 第 5 次 評 価 報 告 書 ( AR5) は 、 気
候 変 動 の 科 学 的 知 見 を 集 約 す る WG1 は 2013 年 、 影 響 ・ 適 応 等 の 評 価 を 行 う WG2 と 、
緩 和 策 の 評 価 を 行 う WG3 は 2014 年 の 出 版 を 予 定 し て い る 。
I P C C は 2 0 0 0 年 に 排 出 シ ナ リ オ に 関 す る 特 別 報 告 書( S R E S )を 出 版 し 、そ こ で 、複 数
の 人 口 、 経 済 等 の 社 会 経 済 シ ナ リ オ と そ の と き の GHG 排 出 量 の シ ナ リ オ を 策 定 し 、 そ
の 後 の TA R 、 A R 4 の 分 析 、 評 価 の 基 礎 と し て 用 い ら れ る こ と と な っ た 。 し か し 、 そ れ が
古くなってきたため、最近の状況を反映した新たなシナリオ策定が行われている。
一 つ は 、 濃 度 安 定 化 レ ベ ル の 違 い に よ る シ ナ リ オ で あ り 、 こ れ は Representative
Concentration Pathways (RCPs)と 呼 ば れ て い る 。 4 種 類 の 排 出 パ ス が 既 往 の 文 献 で の 報 告
か ら 選 定 さ れ 、そ れ に つ い て 、気 候 変 動 モ デ ル に よ る 計 算 等 が 進 め ら れ て い る 。本 A L P S
プ ロ ジ ェ ク ト に お い て も 、 IPCC で の 評 価 と 関 係 性 を と れ る よ う に す る た め 、 RCP の 排
出 パ ス も 参 考 に し な が ら 、 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ ( CP) を 想 定 し た 。
IPCC で 検 討 さ れ て い る 代 表 パ ス ( RCP)
名称
RCP8.5
RCP6
RCP4.5
RCP3-PD
(2.6)
放射強制力
2100 年 に 8.5W/m2 以 上
~ 6 W/m2
( 2100 年 以 降 安 定 化 )
~ 4.5 W/m2
( 2100 年 以 降 安 定 化 )
2100 年 よ り 前 に 3 W/m2
でピーク、以後、下降
濃 度 ( CO2 等 価 )
2100 年 に 1370ppm 以 上
~ 850ppm
( 2100 年 以 降 安 定 化 )
~ 650ppm
( 2100 年 以 降 安 定 化 )
2100 年 よ り 前 に 490ppm で
ピーク、以後、下降
パス形状
上昇
オーバーシュートす る こ と
なく安定化
オーバーシュートす る こ と
なく安定化
ピークおよび下降
も う 一 つ の シ ナ リ オ 策 定 の 動 向 は 、新 社 会 経 済 シ ナ リ オ の 策 定 で あ り 、こ れ は S h a r e d
Socioeconomic Pathways (SSPs)と 呼 ば れ て い る 。 人 口 や 経 済 成 長 な ど の 社 会 経 済 状 況 、
そして、その国際的、国内的な偏りなどを規定し、温暖化影響・適応、緩和にシナリオ
の 違 い が 及 ぼ す 影 響 を 総 合 的 に 評 価 し よ う と す る も の で あ る 。 こ れ は 、 本 APLS プ ロ ジ
ェ ク ト の シ ナ リ オ A、 B お よ び シ ナ リ オ I、 II、 III の 策 定 と 強 い 関 連 性 が あ る 。 た だ し 、
現 時 点 で は S S P は ま だ 具 体 的 な シ ナ リ オ の 規 定 ま で に 至 っ て お ら ず 、作 業 中 と な っ て い
る。
こ れ ら R C P 、S S P と い っ た シ ナ リ オ は 、A R 5 で 、W G 横 断 的 に 利 用 さ れ る 予 定 で あ る 。
た だ し 、特 に S S P に つ い て は 策 定 作 業 が 遅 れ て い る と さ れ て お り 、A R 5 で は 一 部 の 評 価
にとどまり、本格的な利用は第 6 次評価報告書に持ち越されるという見方もある。
RCP、 SSP い ず れ に つ い て も 、 本 研 究 の シ ナ リ オ 策 定 ア プ ロ ー チ と 似 通 っ た 方 法 が 採
られている。
2.1.4 そ の 他 サ ブ シ ナ リ オ
マ ク ロ の 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ( A、B)、温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関
す る シ ナ リ オ ( I、 II、 III)、 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ ( 濃 度 安 定 化 レ ベ ル CP)
の 3 つ の 軸 に 加 え て 、 大 き な CO 2 削 減 が 期 待 さ れ る 技 術 に つ い て そ の 技 術 利 用 可 能 性
- 71 -
に 関 す る シ ナ リ オ 、 全 世 界 で 費 用 効 率 的 な CO 2 削 減 へ の 取 り 組 み が な さ れ な い 場 合 に
ついてのシナリオ、ブラックカーボンの排出削減を加速させたシナリオについても分
析・評価を行った。
(1) 技 術 利 用 可 能 性 に 関 す る シ ナ リ オ
技 術 利 用 可 能 性 に 関 す る シ ナ リ オ に つ い て は 、 大 規 模 に CO 2 排 出 削 減 が 期 待 で き る
原子力発電に着目した。
東日本大震災に伴って発生した福島第一原発事故によって、国内外で原子力発電の
受 容 性 の 問 題 が 従 来 よ り も 一 層 大 き く な っ て き て い る 。ALPS の 標 準 シ ナ リ オ に お い て
は、原子力発電は費用効率性のとれる範囲で順調に拡大すると想定しているが、福島
第 一 原 発 事 故 以 降 の 状 況 に お い て 、標 準 シ ナ リ オ の よ う な 拡 大 が 困 難 な 場 合 に つ い て 、
原子力低位シナリオとしてサブシナリオを想定し、分析を行うこととした。
具 体 的 な 原 子 力 発 電 電 力 量 の 想 定 を 図 2.1-6 に 示 す 。標 準 シ ナ リ オ で は 、2050 年 の 世
界 の 原 子 力 発 電 の 発 電 電 力 量 上 限 は 13000 TWh/yr と し た が 、 こ の 低 位 シ ナ リ オ で は
4500 TWh/yr を 上 限 と し て 想 定 し た 。 こ の と き 、 日 本 に つ い て は 、 原 子 力 発 電 は 稼 働 年
数 40 年 ( ALPS の 標 準 シ ナ リ オ で は 50 年 と し て い る ) と し そ の 間 、 設 備 容 量 が 減 少 す
る も の の 、福 島 第 一 原 発 4 基 を 除 く 原 発 設 備 容 量 4615 万 kW の 2/3 に 相 当 す る 3077 万
kW( 現 在 の 総 発 電 設 備 容 量 の 20%程 度 ) は 維 持 す る と 想 定 し た 。 な お 、 稼 働 率 は 70%
と 想 定 し た 。 そ の 他 の 国 に つ い て は 、 IAEA 4 ) の 8 地 域 別 の 低 位 見 通 し の 発 電 電 力 量 に
基 づ き 想 定 し た 。 稼 働 年 数 は 日 本 と 同 様 に 40 年 、 稼 働 率 は IAEA の 見 通 し に 沿 っ て 想
定 し た ( 地 域 ・ 時 点 に 依 る が 80%以 上 )。
5000
Others
発電電力量 [TWh/yr]
4500
Russia
4000
Latin America
3500
Middle East & Africa
Other Asia
3000
India
2500
China
2000
Korea
1500
Japan
Other EU27
1000
Germany
500
France
0
United States
2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
図 2.1-6
原子力低位シナリオにおける地域別原子力発電電力量
- 72 -
(2) 全 世 界 的 に 費 用 効 率 的 な CO 2 削 減 分 担 が な さ れ な い 場 合 の シ ナ リ オ
温 室 効 果 ガ ス 排 出 の 費 用 効 率 的 な 削 減 を 考 え れ ば 、世 界 全 体 の 中 で GHG 排 出 に つ い
て単位削減量あたり最も安価な対策から順に実施することが望ましい。費用効率性の
極めて悪い対策は、社会全体の効用を減じるため、これに配慮した対策、政策をとっ
て い く こ と は 大 変 重 要 な こ と で あ る 。 図 2.1-7 は 、 世 界 各 地 域 に お け る 2020 年 の 削 減
費用別の排出削減可能量の推計であるが、途上国に排出削減ポテンシャルが大きいこ
とが示されており、このような安価な排出削減ポテンシャルを優先的に実現すること
60000 50000 40000 < $0/tCO2
30000 $0 ‐ $20/tCO2
$20 ‐ $50/tCO2
20000 $50 ‐ $100/tCO2
10000 $100/tCO2 ‐
1990年排出量
図 2.1-7
非附属書I国
附属書I国
インド
中国
ロシア
日本
EU‐27
0 アメリカ
GHG 排出量と削減可能量 [MtCO2eq/yr]
は世界全体における費用効率的な排出削減のためには大変重要である。
正味で負や安価な削
減費用機会は途上国
を中心に多い。.
2020 年 に お け る 世 界 各 地 域 の 削 減 費 用 別 の 排 出 削 減 可 能 量
( DNE21+モ デ ル に よ る 推 計 )
注 ) 技 術 固 定 ケ ー ス の 2020 年 排 出 量 ( 2005 年 時 点 の 温 暖 化 対 策 レ ベ ル が 2020 年 ま で 全 く 変 化 し
ないと仮想的に想定した排出量)からの削減可能量
一 方 で 、こ の よ う に 世 界 全 体 の 中 で 1 ト ン の GHG 排 出 削 減 が 安 価 な 対 策 か ら 順 に 実
施して、限界削減費用が世界各国、部門等ですべて均等化するという温室効果ガス排
出削減費用の最小化をはかることは、現実にはほぼ不可能に近い(世界共通炭素税や
グローバルキャップ・アンド・トレードはこれを目指そうとするものだが、現実には
ほ と ん ど 不 可 能 )。 ま た 、 本 研 究 の 主 眼 で も あ る 温 暖 化 問 題 以 外 の 目 的 も 同 時 に バ ラ ン
スよく解決、高めていかなければならないことを考えると、必ずしも温室効果ガス排
出の費用効率的な削減ということが、世界の幸福度を高める最良の手段ということに
もならない面もある。
ALPS に お い て は 、標 準 的 に は 世 界 全 体 の 限 界 削 減 費 用 は 均 等 化 す る と し て 分 析 を 行
っ て い る が 、上 述 の よ う な 状 況 を 考 慮 し 、世 界 全 体 を 附 属 書 I 国 と 非 附 属 書 I 国 に 区 分
- 73 -
し 、附 属 書 I 国 が 率 先 し て 排 出 削 減 を 行 う シ ナ リ オ を サ ブ シ ナ リ オ と し て 分 析 す る こ と
と し た ( 附 属 書 I 国 ▲ 80%シ ナ リ オ と 呼 ぶ )。
具 体 的 な 排 出 削 減 分 担 を 図 2.1-8 に 示 す 。 附 属 書 I 国 は 排 出 削 減 レ ベ ル ( CP6. 0 ~
CP3.0) に 依 ら ず 、 2020 年 は コ ペ ン ハ ー ゲ ン 合 意 に お け る 各 国 の プ レ ッ ジ 、 2050 年 は
2005 年 比 ▲ 80%を 附 属 書 I 国 全 体 と し て 達 成 す る( 附 属 書 I 国 内 で 限 界 削 減 費 用 均 等 化 )
こ と と し た 。途 中 の 時 点 の 排 出 制 約 は 2020 年 と 2050 年 の 線 形 補 間 に よ っ て 想 定 し た 。
非 附 属 書 I 国 は 、世 界 全 体 で 排 出 削 減 レ ベ ル を 達 成 で き る よ う に 排 出 削 減 を 行 う こ と と
し た ( 非 附 属 書 I 国 内 で 限 界 削 減 費 用 均 等 化 )。 附 属 書 I 国 ▲ 80%シ ナ リ オ で は 、 こ の
よ う な 排 出 削 減 分 担 が CO 2 削 減 費 用 へ 及 ぼ す 影 響 に つ い て 分 析 を 行 う こ と と し た 。
エネルギー起源CO2排出量 [GtCO2/yr]
60
50
40
附属書I国
ALPS‐CP6.0
30
ALPS‐CP4.5
ALPS‐CP3.7
20
ALPS‐CP3.0
非附属書I国の排出制約
10
0
2020
図 2.1-8
2025
2030
2035
2040
2045
2050
附 属 書 I 国 ▲ 80%シ ナ リ オ に お け る 排 出 削 減 分 担
(3) ブ ラ ッ ク カ ー ボ ン 排 出 削 減 加 速 シ ナ リ オ
ブラックカーボンの排出削減は、温暖化緩和のみならず健康影響被害の緩和にも貢
献 す る た め 、CO 2 等 他 の 温 室 効 果 ガ ス に 比 べ て 国 際 的 に 排 出 削 減 合 意 が 取 り や す い 可 能
性がある。そこで、ブラックカーボンの排出削減が標準的に想定しているシナリオよ
り も 加 速 的 に 進 む シ ナ リ オ ( 図 2.1-9) を 想 定 し 、 そ の 気 温 上 昇 緩 和 効 果 を 評 価 す る と
共 に 、 標 準 シ ナ リ オ と 同 じ 気 温 上 昇 と な る ま で CO 2 の 排 出 増 加 を 許 容 し た 場 合 に ど の
程度となるかについて分析を行うこととした。
- 74 -
10
ALPS A-Baseline
Black carbon emission (Mt/yr)
9
8
ALPS A-CP6.0
7
ALPS A-CP4.5
6
ALPS A-CP3.7
5
4
ALPS A-CP3.0
3
図 2.1-9
2.2
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
1990
2
ALPS A-CP3.7(BC削
減促進)
ブラックカーボンの排出シナリオ
シナリオ分析に用いたモデルの概要と分析方法
図 2.2-1 の よ う な モ デ ル 等 を 用 い て 、脱 地 球 温 暖 化 と 持 続 可 能 な 発 展 の 総 合 分 析 を 行
った。これらのモデルは、これまでに開発し、また、前提条件を最新のデータに更新
し、そしてモデル間の整合性を図ってきたものである。
エ ネ ル ギ ー ・ 温 暖 化 対 策 分 析 の 中 心 と し て 用 い た DNE21+モ デ ル は 、詳 細 な 国 別( 世
界 を 54 地 域 に 分 割 )、セ ク タ ー 別 ・ 技 術 別( 300 程 度 の 具 体 的 な 技 術 を モ デ ル 化 )の エ
ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 削 減 の 分 析 が 可 能 な モ デ ル で あ り ( 図 2.2-2)、 2050 年 ま で の 期
間にわたる分析・評価を行った。また、グリッドレベルでの評価が可能な食料需給・
淡 水 資 源 ・ 土 地 利 用 変 化 評 価 モ デ ル ( 図 2.2-3) な ど の モ デ ル と も リ ン ク す る こ と に よ
っ て 、 バ イ オ エ ネ ル ギ ー や CO 2 固 定 化 植 林 と の 整 合 的 な 評 価 を 可 能 と し て い る 。
また、国別、セクター別・技術別の対策の提示が重要である一方、温暖化対策、持
続可能な発展は長期を考えた上での対応が不可欠である。そのため、短中期を扱う国
別、セクター別・技術別評価が可能なモデル以外にも、気候変動、温暖化影響を考慮
した評価が可能なより長期を対象に評価できるモデルも用いて、総合的なシナリオ策
定を行った。
いずれのモデルも全体の整合性をとっており、1つのシナリオの中で、各指標が整
合性をもって分析・評価できるようにしている。
- 75 -
社会経済
人口、GDP推計モデル
食料アクセス
評価
中期世界エネルギー・
経済モデル: DEARS
貧困人口評価
エネルギー起源CO2
以外のGHGs
超長期エネルギー・マクロ経済評価
モデル: DNE21
(2050年まで)
エネルギー起源CO2以外
のGHGs評価モデル
エネルギー
中期世界エネルギー・温暖化
対策評価モデル: DNE21+
エネルギーセキュリティ評価
(2050年まで)
(2050年まで)
気候変化
簡易気候変動モデル:
MAGICC6
食料、水資源、土地利用
食料セキュリティ評価
食料需給・水需給・土地利用評価モデル
グリッドベースの気候変動
推計モデル: MIROC3.2計
算結果利用
集約化された地球温暖化による経済ダ
メージ推計モデル(Nordhaus関数)
水ストレス評価
地球温暖化影響
図 2.2-1
生物多様性評価モデル(陸上生態系影響
および海洋酸性化)
総合分析のためのモデル群とその連携
産業部門
化石エネルギー
石炭
石油(在来型、非在来型)
天然ガス(在来型、非在来型)
生産
単価
各種エネルギー
変換プロセス
(石油精製、石
炭ガス化、
バイオエタノール化、
ガス改質、
水電解等)
鉄鋼
セメント
紙パ
化学(エチレン, プロピレン, アンモニア)
アルミ
累積生産量
固体、液体、気体燃料、電力
再生可能エネルギー
水力・地熱
風力
太陽光
バイオマス
健康影響評価モデル
運輸部門
各種発電
自動車
固体、液体、気体燃料、電力
供給
単価
民生・業務部門
年間生産量
CCS
原子力 (在来型、次世代型)
図 2.2-2
冷蔵庫、テレビ、エアコン 他
固体、液体、気体燃料、電力
DNE21+モ デ ル の エ ネ ル ギ ー 供 給 部 門 、 最 終 需 要 部 門 の モ デ ル 化 の 概 要
- 76 -
一人当たりGDP
農業土地
利用モデル
食料需要量
人口
作物需要量
作物生産性係数
生活・工業部門の需要量
気候
水資源量
単収
食用作物
作付地点・
作物品種・時期
(天水/灌漑)等
水需給モデル
再利用
水・淡水
化水量
灌漑効率
作付候補地
灌漑用水需要量
取水量(W)
Virtual water (地域外起源水輸入等)
余剰地等
耕地拡大域
土地利用変化
炭素放出モデル
水需給比・水ストレス流域
バイオ燃料用作物生産
ポテンシャル等
排出係数
森林面積
NPP
図 2.2-3
2.3
人口
分布
水ストレス人口
耕地拡大に伴う
炭素放出
入出力値の地域区分
国
32地域
過去の植林・自然再
生林による炭素吸収
グリッド
河川流域
農業土地利用、水需給、土地利用変化炭素放出評価モデルの枠組み
シナリオ評価のための主要な指標
第 2.1 節 で 記 述 し た シ ナ リ オ を 基 に 、第 2.2 節 で 記 述 し た モ デ ル 等 を 用 い て 、様 々 な
地球温暖化問題と持続可能な発展に関する指標を定量的に評価した。主要な評価指標
は 表 2.3-1 の よ う な も の で あ り 、 気 候 変 動 、 エ ネ ル ギ ー に 関 連 し た 指 標 だ け で は な く 、
経済・貧困、水、生態系などについても評価を行った。これらを整合的に評価するこ
とによって、指標間のシナジー、トレードオフについても検討を行った。
- 77 -
表 2.3-1
シナリオ評価にあたっての各種指標
分野
項目
経済・貧困
所 得 ( 一 人 当 た り GDP)
貧困人口
食 料 ア ク セ ス ( G D P 当 た り 食 料 消 費 額 ( エ ン ゲ ル 係 数 ))
5 歳未満児死亡者数
健康
WHO 提 示 の 環 境 関 連 の 死 亡 要 因 に よ る 死 亡 率
農業・土地利用
食料生産土地利用
食 料 セ キ ュ リ テ ィ ( GDP 当 た り 食 料 輸 入 額 )
水
水ストレス人口
生態系
潜在的陸上生態系変化
海洋酸性化
エネルギー・気候変動
エネルギーアクセス
エネルギーセキュリティ
化石エネルギー消費量(持続的エネルギー利用)
GDP あ た り CO2 排 出
GDP あ た り 排 出 削 減 費 用
気温上昇(全球平均)
以下、第 3 章には人口、経済、貧困等の経済社会に関しての評価を、第 4 章にはエ
ネルギー・気候変動に関する評価を、第 5 章には農業・土地利用、水、生態系に関し
する評価を、第 6 章では各種鉱物資源等に関する評価を記載した。そして、第 7 章で
はそれら横断的事項と総合的な評価について記載した。
参考文献(第 2 章に関するもの)
1) IPCC, Towards New Scenarios for Analysis of Emissions, Climate Change, Impaccts and
Response Strategies, IPCC Expert Meeting Reprot (2007).
2) D.P. van Vuuren et al. , The representative concentration pathways: an overview, Clim ati c
Change (2011).
3) Koomey, Jonathan G.: Long-term Energy Forecasts: Is Useful Learning Possible? A
presentation at the IIASA Conference on Learning and Climate Change, Laxenberg,
Austria. (2006)
4) I A E A , “ E n e r g y, E l e c t r i c i t y a n d N u c l e a r P o w e r E s t i m a t e s f o r t h e P e r i o d u p t o 2 0 5 0 ”
( 2 0 11 )
- 78 -
第 3章
3.1
人口、経済、貧困、健康
現状認識
3.1.1 社 会 経 済 (人 口 、 経 済 )
(1) 人 口
将 来 の 人 口 は 、地 球 温 暖 化 問 題 と 持 続 可 能 な 発 展 に 関 し て 重 要 な 因 子 の 一 つ で あ る 。
世 界 人 口 の 過 去 の 推 移 を み る と 、 世 界 人 口 は 1960 年 に は 約 30 億 人 で あ っ た が 、 2009
年 に は 約 68 億 人 に 達 し 、 着 実 に 増 大 し て き た
1)
( 図 3.1.1-1)。 1960 年 以 降 に 人 口 が
大 き く 増 大 し た 地 域 は 主 に 発 展 途 上 国 で あ り 、 世 界 人 口 に 占 め る 途 上 国 の 割 合 は 1960
年 に は 約 6 割 で あ っ た が 、 2009 年 に は 約 8 割 に 達 し て い る 。 特 に サ ブ サ ハ ラ ア フ リ カ
を 中 心 に 後 進 途 上 国 の 人 口 増 は 未 だ 激 し く 、マ ル サ ス や「 成 長 の 限 界 」2)が 指 摘 し た よ
うな危機感を抱くことも当然のように思える。一方で、世界人口は増加しているもの
の 、 そ の 成 長 率 は 年 々 低 下 傾 向 に あ り 、 1960 年 代 に は 約 2.0%/年 で あ っ た が 、 2000 年
代 に は 約 1.2%/年 ま で 低 下 し て い る( 図 3.1.2-2)。そ の 要 因 は 先 進 国 や ア ジ ア で 着 実 に
人口減少段階に入ってきたためである。地域別の人口成長率をみると、先進国・アジ
アなどでは成長率が年々低下していることが観測される。多くの先進国の出生率は急
速に低下しており、更に、東南アジア諸国等においても近年著しい出生率の低下が見
られている(小峰他
3)
)。 急 速 な 出 生 率 低 下 は 、 人 口 の 抑 制 と そ れ に 伴 う 地 球 の 有 す る
キャパシティへの負荷低減という意味では望ましいことではある。しかしながら、急
速な出生率低下は高齢化とあいまって社会保障を困難にしつつあり、これがむしろ持
続的な発展を困難にする一因子と懸念もされる。また、社会保障への財政支出の拡大
は、政府の温暖化対策への支出余地を狭めていくことにもなる。なお、フランスのよ
うに強力な少子化対策の政府支援が功を奏して合計特殊出生率が 2 程度まで回復して
いる国もあり、政策の重点化によって少子化防止にある程度の効果を持たせることも
可能とも考えられる。一方、サブサハラ地域では、近年はやや低下傾向にあるものの、
依 然 と し て 2%/年 を 超 え る 高 い 人 口 成 長 率 の 段 階 に 位 置 し て い る 。今 後 も 、世 界 的 に は
人口増加の速度は逓減していくものの、サブサハラ地域では、他地域に比して高い人
口成長率でしばらく推移することが予想される。
- 79 -
人口(百万人)
8000 東欧・旧ソ連
7000 中南米
6000 サブサハラアフリカ
5000 中東・北アフリカ
4000 その他アジア
3000 インド
2000 中国
1000 その他先進国
西欧
0 北米
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2009
図 3.1.1-1
地 域 別 人 口 の 推 移 (1960-2009 年 )
1)
3.5 北米
3.0 西欧
人口成長率 (%/年)
2.5 その他先進国
中国
2.0 インド
1.5 その他アジア
中東・北アフリカ
1.0 サブサハラアフリカ
0.5 中南米
東欧・旧ソ連
0.0 世界平均
図 3.1.1-2
2005‐2009
2000‐2005
1995‐2000
1990‐1995
1985‐1990
1980‐1985
1975‐1980
1970‐1975
1965‐1970
1960‐1965
‐0.5 地 域 別 の 人 口 年 成 長 率 (1960-2005 年 )
1)
将来の人口推定は、世界レベルでは、国連・人口部の人口推計が標準的に利用され、
日本については国立社会保障・人口問題研究所の推計が標準的に利用されている。し
かし、いずれにしても、とりわけ日本や先進諸国等の出生率が低下傾向にある国の推
計は、推計値と実績値の乖離が大きいような状況が続いている。一方、途上国の人口
推 定 は 比 較 的 実 績 値 と の 乖 離 が 小 さ い と 指 摘 さ れ て い る ( 図 3.1.1-3)。
- 80 -
図 3.1.1-3
人口推計の変遷(出典:小峰他
3)
)
第 2 章 で 述 べ た よ う に 、 ALPS プ ロ ジ ェ ク ト で は 、「 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ 」( シ ナ リ
オ A) と 「 高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ 」( シ ナ リ オ B) の 2 種 類 の ベ ー ス ラ イ ン の 社 会 経 済
シ ナ リ オ を 想 定 し た 。中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ ・ シ ナ リ オ A で は 国 連 人 口 推 計 2008 年 改
定版の中位推計
1)
を、高位技術進展シナリオ・シナリオ B ではその低位及び中位推計
を 参 考 に 策 定 し た 。 2050 年 以 降 は 国 連 超 長 期 人 口 推 計
4)
をもとに策定した。なお、温
暖 化 影 響 被 害 に よ り 、ま た 、緩 和 策 を と る こ と に よ っ て 、GDP が 影 響 を 受 け る も の の 、
それが人口に更に影響を及ぼすといった連関については、本シナリオ評価では取り扱
わ な か っ た 。 な お 、 国 連 は 2010 年 に 新 し い 人 口 推 計 を 発 表 し た
5)
。 2008 年 推 計 よ り も
若 干 上 位 と な る 推 計 を 示 し て い る 。 し か し な が ら 、 2010 年 中 位 推 計 で は 長 期 的 に 合 計
特 殊 出 生 率 が 2.1 に な る よ う に 想 定 さ れ て お り 、目 標 値 的 な 意 味 合 い も 強 い 。そ の た め 、
本研究では、過去の実績等も踏まえると、より下方の推移の方が、よりあり得そうな
人 口 推 計 と 見 て 、 シ ナ リ オ A、 B を 想 定 し た 。
- 81 -
(2) 経 済 (一 人 当 た り GDP・ GDP)
1970 年 代 の 石 油 危 機 や 1990 年 代 の ア ジ ア 通 貨 危 機 、 2007 年 の 世 界 金 融 危 機 、 直 近
の欧州経済危機などのいくつかの大規模な経済危機がありながらも、長期的には世界
経 済 は こ れ ま で 経 済 成 長 を 着 実 に 実 現 し て き た (図 3.1.1-4、 図 3.1.1-5)。 世 界 GDP は
1971 年 に は 約 12 兆 ド ル (2000 米 ド ル MER 換 算 )で あ っ た が 、 2009 年 に は 約 40 兆 ド ル
に達し、急激に増大してきた。特に、途上国を中心にその伸びは著しく、今後も着実
に成長すると予想される。世界経済は拡大しているものの、その成長率は年々低下傾
向 に あ り 、 1971~ 1980 年 に は GDP 成 長 率 は 約 3.7%/年 で あ っ た が 、 2000-2009 年 に は
約 2.3%/年 ま で 低 下 し て い る 。 ま た 、 図 3.1.1-6 に 示 さ れ る よ う に 、 経 済 発 展 の 段 階 を
表 す 一 人 当 た り GDP の 分 布 に は 地 域 的 な 偏 り が 見 ら れ 、2000 年 に お い て も サ ブ サ ハ ラ
地 域 や ア ジ ア 地 域 の 大 部 分 は 一 人 当 た り GDP が 低 い 現 状 に あ る 。
図 3.1.1-7 に 示 さ れ る よ う に 、 過 去 に お い て は 、 一 人 当 た り GDP と そ の 成 長 率 に 関
し て 次 の 傾 向 が 観 測 さ れ る 。 ① 最 貧 国 に お い て は 一 人 当 た り GDP 成 長 率 が 低 い 。 ② 一
人 当 た り GDP が 数 百 ド ル か ら 千 ド ル 程 度 に な る と 、一 人 当 た り GDP 成 長 率 は 大 き く な
る傾向がある。③それ以降は緩やかな経済発展に移行し、その成長率は逓減していく
傾向にある。また、産業構造としては、大きな傾向としては、第一次産業中心の初期
段階の産業構造から、経済の高度成長期には軽工業から重工業への発展があり、安定
成長期に入るとサービス産業や情報産業といった第三次産業が伸び始める。このよう
な経済発展に関する大きな傾向は基本的に普遍であると考え、その上で、技術進展の
程度による不確実性を考慮して、将来の経済見通しを策定した。
- 82 -
Per‐capita GDP (thousand $/capita)
40.0 北米
35.0 西欧
30.0 その他先進国
中国
25.0 インド
その他アジア
20.0 中東・北アフリカ
サブサハラアフリカ
15.0 中南米
10.0 東欧・旧ソ連
世界平均
5.0 0.0 1971
1975
1980
1985
図 3.1.1-4
1990
1995
2000
2005
2009
一 人 当 た り GDP の 推 移 (1971-2009 年 )
東欧・旧ソ連
40000 中南米
35000 サブサハラアフリカ
30000 中東・北アフリカ
25000 その他アジア
20000 インド
15000 中国
10000 その他先進国
5000 西欧
図 3.1.1-5
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
0 1971
GDP(Billion 2000US$)
45000 地 域 別 GDP の 推 移 (1971-2009 年 ) 6 )
- 83 -
北米
図 3.1.1-6
2000 年 に お け る 一 人 当 た り GDP の 世 界 分 布 図
(a) シ ナ リ オ A
12
Annual growth rate of per-cap. GDP (%)
中国
10
8
韓国
エ チオピア
インド
6
4
日本
2
ブラジ ル
インドネシ ア
0
100
1000
-2
ドイツ
米国
10000
100000
南ア
ナイジ ェリ ア
-4
GDP per capita (US 2000 $)
(b)シ ナ リ オ B
12
Annual growth rate of per-cap. GDP (%)
中国
10
8
韓国
エ チオピア
インド
6
4
日本
2
ブラジ ル
ドイツ
インドネシ ア
0
100
1000
-2
ナイジ ェリ ア
10000
米国
100000
南ア
-4
GDP per capita (US 2000 $)
図 3.1.1-7
1980-2100 年 の 一 人 当 た り GDP(MER)と そ の 年 成 長 率 の 関 係
注 )実 線 と 点 線 は 、 そ れ ぞ れ 実 績 値 と シ ナ リ オ 想 定 値 を 示 す 。 5 年 間 の 年 平 均 成 長 率 を 表 示 。
- 84 -
ま た 、経 済 成 長 率 と 人 口 増 大 率 は 逆 相 関 が 強 い こ と が 知 ら れ て い る 。図 3.1.1-8 に 見
ら れ る よ う に 、 一 人 当 た り GDP と 出 生 率 に は 比 較 的 強 い 相 関 が 見 ら れ る 。 ALPS 社 会
経済シナリオでは、人口と経済成長は密接な関連があるために過去の様々な指標を総
合 的 に 分 析 し 、 ま た 、 昨 今 の 世 界 経 済 危 機 の 影 響 等 も 踏 ま え て 、 GDP 成 長 や 人 口 成 長
等 の 将 来 シ ナ リ オ を 国 別 に 策 定 し た ( 図 3.1.1-9)。
過 去 の ト レ ン ド か ら も 、 一 人 当 た り GDP が 高 い と き 、 出 生 率 は 低 く 推 移 し 、 低 位 の
人 口 が 導 か れ る シ ナ リ オ は 蓋 然 性 が 高 い と 考 え ら れ る 。 IPCC SRES に お い て も 、 一 人
当 た り GDP の 大 き い A1、B1 シ ナ リ オ は 低 位 の 人 口 シ ナ リ オ 、一 人 当 た り GDP が 中 位
の B2 シ ナ リ オ は 中 位 の 人 口 シ ナ リ オ 、一 人 当 た り GDP が 低 位 の A2 シ ナ リ オ は 高 位 の
人口シナリオとなっている
7)
。ま た 、経 済 成 長 と 人 口 に 関 す る 研 究 事 例 か ら も こ の よ う
な 傾 向 が 示 さ れ 、例 え ば 、Lutz ら
8) 9)
の 分 析 に よ る と 、教 育 レ ベ ル が 途 上 国 に お い て 大
きく向上すると想定した場合には世界人口が低位に成長し、その教育レベルの向上が
長期的な経済成長につながることが示されている。
最 終 的 に は 、 人 口 増 大 が CO 2 排 出 増 の 最 大 の 懸 案 事 項 で あ る と い う 指 摘 も 一 般 に は
なされることがあるものの、アフリカ等の後進途上国の人口増が大きいのは経済成長
が 小 さ い た め で あ り 、 仮 に 高 経 済 成 長 に な り 一 人 当 た り の CO 2 排 出 量 が 大 き く な る よ
うな状況になれば、人口増は急激に低下することは相当確からしいことである。その
た め 、 人 口 問 題 を CO 2 排 出 の 増 大 問 題 と し て 見 る こ と は 適 切 な 排 出 削 減 方 策 を 見 誤 る
ことになりかねない。ただし、イスラム圏の人口増大については宗教や文化的な要素
も 関 係 し て い る た め 、若 干 注 意 し て 見 る こ と が 必 要 と 考 え ら れ る 。ま た 、CO 2 排 出 の 面
では人口問題がそれほど大きな問題とならないとしても、温暖化への適応や持続可能
な発展という点では極めて重要な問題として注視する必要がある。
- 85 -
7
United States
United Kingdom
Japan
Australia
Korea
Brazil
Mexico
South Af rica
China
India
Indonesia
Russia
World
6
Total fertility rate
5
4
3
2
1
0
0.1
1
10
100
GDP per capita (thousands 2000 US$)
図 3.1.1-8
一 人 当 た り GDP と 合 計 特 殊 出 生 率 の 推 移 ( 1960~ 2006 年 ) 1 0 )
シナリオ A
シナリオ B
4
3
エ チオピア
ナイジェリ ア
南ア
2
インド
インドネシ ア
ブラジ ル
韓国
中国
1
ドイツ
米国
0
100
1000
10000
100000
日本
-1
-2
Annual change rate of population (%)
Annual change rate of population (%)
4
3
エ チオピア
ナイジェリ ア
南ア
2
インド
インドネシ ア
ブラジ ル
韓国
中国
1
ドイツ
米国
0
100
1000
10000
-1
100000
日本
-2
GDP per capita (US 2000 $)
図 3.1.1-9
GDP per capita (US 2000 $)
1980-2100 年 の 人 口 成 長 率 と 一 人 当 た り GDP(MER)の 関 係
注 )実 線 と 点 線 は 、 そ れ ぞ れ 実 績 値 と シ ナ リ オ 想 定 値 を 示 す 。 5 年 間 の 年 平 均 成 長 率 を 表 示 。
3.1.2 貧 困
持続可能な発展という点からは、世界が抱える最大の課題の一つは、アフリカを中
心に未だに多く存在している最貧国をいかに貧困から解放し、持続的に経済成長させ
るか、という点があげられる。アフリカの貧困問題は、国際的に重要な議題の一つと
し て あ げ ら れ て い る 。 例 え ば 、 貧 困 の 撲 滅 は 、 国 連 ミ レ ニ ア ム 開 発 目 標 ( MDGs) が 掲
げるターゲットの一つであり、そのターゲットの対象としてアフリカ地域の占める割
合は大きい。また、貧困は国際会議においても継続的に議題として取り上げられてい
る 問 題 で あ り 、 直 近 の G8 ド ー ヴ ィ ル ・ サ ミ ッ ト ( 2011 年 開 催 ) で は 、「 ア フ リ カ の 経
- 86 -
済 成 長 の 促 進 に つ い て は 、自 律 的 な 成 長 を 実 現 す る た め 、援 助 の み な ら ず 、民 間 投 資 ・
貿易の促進が重要との認識で一致した」と結論づけられた。
世界銀行
11 )
に よ る と 、 2008 年 の 世 界 の 貧 困 人 口 は 約 13 億 人 と さ れ て い る ( 図
3.1.2-1)。 人 口 規 模 で 規 格 化 し た 貧 困 人 口 割 合 ( 図 3.1.2-2) を み る と 、 1980 年 代 ま で
は、貧困問題の対象地域は、東アジア・太平洋諸国、南アジア、サブサハラアフリカ
で あ っ た 。 し か し 、 1990 年 代 以 降 は 、 ア ジ ア 地 域 で は 急 速 な 経 済 発 展 に よ り 貧 困 人 口
割合は年々縮小してきた。特に、中国を中心とした東アジア・太平洋諸国では貧困人
口の減少傾向が著しい。一方、サブサハラアフリカ地域では、近年やや低下傾向が見
ら れ る も の の 、 2008 年 に お い て も 貧 困 人 口 割 合 が 約 50%に と ど ま る 。 こ の よ う に 、 ア
ジア地域では急激な経済発展により貧困問題は大きく減っており、今後の貧困問題の
焦点は、人口増加が今後も続くアフリカ地域にあると考えられる。アジアの急激な経
済発展によって、アフリカ諸国の経済発展機会が奪われたとする見方がある一方、ア
ジアの後を追従する形でアフリカも経済発展がしやすくなったと見る見方も存在す
る。
大きな論争としては、後発開発途上国支援の方法論があげられる。ジェフリー・サ
ックスは、これまでの先進国のアフリカ支援は、支援額が大変少なく、援助額を大幅
に引き上げることが必要だと主張している。しかし、大幅に引き上げたとしても先進
国の経済規模からしてみればわずかで済むのであり、支援を惜しむべきではないとし
ている
12)13)
。一方、ウィリアム・イースタリーは、援助・投資の増大と貧困国経済の
離陸には相関はなく、援助を増額してもアフリカの経済発展にはつながらない。ガバ
ナンスこそが最大の問題であり、支援先のガバナンス改善に取り組むべきと主張して
いる
14)
。また、ポール・コリアーは、社会・経済が不安定な国において、民主主義の
シンボルである普通選挙を導入しても、機能せず、むしろ混乱の種になる事が多いと
指摘している
15)
。
貧困問題は、脱温暖化や持続可能な発展に関するさまざまな問題と密接に関連して
いる。例えば、貧困問題は、食料と関連する飢餓問題と密接な関係がある。飢餓は、
世界で食料が足りていないわけではなく、貧困・低所得やガバナンスの問題など、食
料 ア ク セ ス が 十 分 で は な い こ と に 起 因 す る と 言 わ れ て い る 。こ の 問 題 に 関 し て は 、第 5
章で後述する。また、貧困を克服し経済規模が大きくなれば、温暖化対策や水アクセ
スなどの緩和策や適応策に要する費用の負担割合が小さくなるため、貧困問題の解決
は今後の脱温暖化や持続可能な発展に対して重要な課題であると言える。
- 87 -
2500
貧困人口 (百万人)
2000
サブサハラアフリカ
1500
南アジア
中東・北アフリカ
1000
ラテンアメリカ
中東欧
東アジア・太平洋諸国
500
0
1981
1984
1987
1990
1993
1996
1999
2002
2005
2008
途 上 国 の 貧 困 人 口 (貧 困 線 :1.25$/日 ) 1 1 )
図 3.1.2-1
90
貧困人口割合 (% of 総人口)
80
70
東アジア・太平洋諸国
60
中東欧
50
ラテンアメリカ
40
中東・北アフリカ
30
南アジア
20
サブサハラアフリカ
10
0
1981
1984
1987
図 3.1.2-2
1990
1993
1996
1999
2002
2005
2008
途 上 国 の 貧 困 人 口 割 合 (貧 困 線 :1.25$/日 ) 1 1 )
3.1.3 健 康
健康な生活は、年齢や地域を問わず誰もが願うものであり、改善に向けた行動は、
持続的な発展において重要である。但し、一言で健康といっても、実際に直面してい
る 課 題 は 地 域 に よ っ て 異 な る 。図 3.1.3-1 は 世 界 各 地 域 の 年 齢 別 疾 病 別 死 亡 率 を 示 し た
も の で あ る 。 こ れ に よ る と 、 ど の 地 域 も 65 歳 以 上 の 循 環 器 ・ 呼 吸 器 疾 患 に よ る 死 亡 率
が高いことが読み取れる。年齢が高くなるにつれてリウマチ性や高血圧性、虚血性の
心疾患、脳血管障害、慢性閉塞性肺疾患等に罹患しやすくなることによる。地域によ
る 差 が 顕 著 な の は 、5 歳 未 満 児 の 感 染 症 に よ る 死 亡 率 が ア フ リ カ や 東 南 ア ジ ア 、東 地 中
海 等 で 高 い こ と で あ る 。 こ れ ら の 地 域 で は 、 HIV/AIDS、 マ ラ リ ア 、 熱 帯 病 、 呼 吸 器 感
染症、下痢等による死亡率が高い。背景には、予防接種や健康教育の欠如、適切な居
住環境や衛生施設の不足等が指摘されており、その改善が国連ミレニアム開発目標
18)
で も 謳 わ れ て い る 。 一 方 、 IPCC に よ る と 、 温 暖 化 に よ っ て 、 マ ラ リ ア や 下 痢 等 の 感 染
症、対流圏オゾン等大気質の変化に伴う循環器・呼吸器疾患、洪水や干ばつに伴う損
- 88 -
傷等の増大の可能性も報告されており
19)
、もともと脆弱な高齢者や途上国の乳幼児感
染症のリスクを高めることが懸念される。
東南アジア
その他
循環器疾患、
呼吸器疾患
5‐64歳
65歳以上
西太平洋
0‐4歳
65歳以上
5‐64歳
65歳以上
0‐4歳
感染症
5‐64歳
死亡率(千人/10万人)
死亡率(千人/10万人)
8
7
6
5
4
3
2
1
0
65歳以上
0‐4歳
8
7
6
5
4
3
2
1
0
0‐4歳
死亡率(千人/10万人)
65歳以上
5‐64歳
0‐4歳
死亡率(千人/10万人)
東地中海
8
7
6
5
4
3
2
1
0
ヨーロッパ
アメリカ
8
7
6
5
4
3
2
1
0
図 3.1.3-1
5‐64歳
死亡率(千人/10万人)
8
7
6
5
4
3
2
1
0
65歳以上
5‐64歳
0‐4歳
死亡率(千人/10万人)
アフリカ
8
7
6
5
4
3
2
1
0
2004 年 の 世 界 各 地 域 の 年 齢 別 疾 病 別 死 亡 率 ( WHO 統 計
17)
を基に作図)
注 : 約 100 種 の 疾 病 別 死 亡 者 数 を 、感 染 症 、循 環 器 ・ 呼 吸 器 疾 患 、そ の 他 の 3 つ の カ テ ゴ リ ー に
集約して表示。
このような課題の対策を考える上で、各疾病死亡にどのような要因が寄与している
か を 把 握 す る こ と は 重 要 で あ る 。WHO の 世 界 に 蔓 延 す る 代 表 的 な 健 康 被 害 要 因 に 関 す
る研究
20)
によると、例えば、アフリカの 5 歳未満児の下痢による死亡は、安全な水に
アクセスできない、低体重、ビタミン A 欠乏、亜鉛欠乏等低栄養といった要因の影響
が 大 き い 。 ま た 、 各 地 域 の 65 歳 以 上 の 高 血 圧 性 心 疾 患 に つ い て は 肥 満 、 慢 性 閉 塞 性 肺
疾患については喫煙の影響も小さくない事が指摘されている。すなわち、途上国の乳
幼児死亡率が高いの背景には、必要栄養素の不足やインフラの不整備など、貧困に関
わる問題があると考えられる。また、高齢者の死亡率低減には、肥満や喫煙など、生
活習慣に関わる課題があると考えられる。
3.2
将来の見通し
温暖化対策と持続可能な発展に関する総合シナリオ策定のためには、人口と経済成
長 に 関 す る 見 通 し は 重 要 で あ る 。 経 済 成 長 と の 強 い 正 の 相 関 関 係 が 観 測 さ れ る CO 2 排
- 89 -
出は、人類のエネルギー利用と密接に関わってきた。将来に向けて脱温暖化と持続可
能 な 発 展 を 達 成 さ せ る た め に は 、 経 済 成 長 と CO 2 排 出 の 相 関 関 係 を 小 さ く す る 、 あ る
い は 断 ち 切 っ て い く こ と が 重 要 で あ る 。第 2 章 で 述 べ た よ う に 、ALPS プ ロ ジ ェ ク ト で
は、技術の不確実性の幅を表すように、2 種類の社会経済シナリオを考慮した。
3.2.1 社 会 経 済 (人 口 、 経 済 )
図 3.2.1-1 に は 、 策 定 し た ALPS 人 口 シ ナ リ オ を 示 す 。 シ ナ リ オ A( 中 位 技 術 進 展 シ
ナ リ オ ) で は 、 世 界 人 口 は 2050 年 に 91 億 人 、 2100 年 に 93 億 人 、 世 界 GDP は 、 2010
~ 30 年 の 間 、 年 2.9%、 2030 ~ 50 年 の 間 、 2.2%と し た 。 一 方 、 シ ナ リ オ B( 高 位 技 術 進
展 シ ナ リ オ ) で は 、 世 界 人 口 は 2050 年 に 86 億 人 、 2100 年 に 74 億 人 、 世 界 GDP は 、
2010 ~ 30 年 の 間 、 年 3.2%、 2030 ~ 50 年 の 間 、 2.6%と し た 。 ALPS シ ナ リ オ は SRES 人
口 シ ナ リ オ の 低 位 に 相 当 す る 範 囲 に 収 ま る 。ALPS で は 、ア ジ ア や ア フ リ カ な ど の 途 上
国 の 将 来 の 人 口 増 加 を 考 慮 し た と し て も 、 今 後 の 世 界 人 口 が 100 億 人 を 大 き く 上 回 る
よ う な 人 口 シ ナ リ オ は 蓋 然 性 が 低 い と 考 え た 。ま た 、IIASA( 国 際 応 用 シ ス テ ム 研 究 所 )
が 2007 年 に 発 表 し た 分 析 結 果
16)
と 比 較 す る と 、ALPS シ ナ リ オ A,B は と も に IIASA2007
の 10~ 90%パ ー セ ン タ イ ル の 中 に 位 置 す る 。こ の よ う に 、策 定 し た ALPS 人 口 シ ナ リ オ
は比較的蓋然性の高いシナリオと考えられる。
SRES A2
(IIASA1996高位)
160
SRESの範囲
140
ALPS-シナリオA
SRES B2
UN2008高位
(UN1998中位)
120
人口(億人)
UN2008中位
IIASA2007
100
(10-90パーセンタイル)
ALPSの範囲
80
UN2008の範囲
60
UN2008低位
SRES A1/B1
40
(IIASA1996低位)
ALPS-シナリオB
20
0
1950
1975
2000
図 3.2.1-1
2025
2050
2075
2100
ALPS に お け る 世 界 人 口 シ ナ リ オ 1
図 3.2.1-2 に 、 シ ナ リ オ A、 B の 世 界 の 一 人 当 た り GDP を 示 す 。 ま た 、 比 較 の た め 、
IPCC SRES シ ナ リ オ に お け る 一 人 当 た り GDP も 記 載 し た 。 図 3.2.1-3 と 図 3.2.1-4 に
1
ALPS の 世 界 各 国 別 の 人 口 ・ GDP シ ナ リ オ は 、 シ ナ リ オ A、 B そ れ ぞ れ 、
http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/research/alps/baselinescenario/RITEALPS_ScenarioA_POP
GDP_20110405.xls お よ び
http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/research/alps/baselinescenario/RITEALPS_ScenarioB_POP
GDP_20110405.xls か ら ダ ウ ン ロ ー ド 可 能
- 90 -
は 、 2050 年 、 2100 年 の 一 人 当 た り GDP の 世 界 分 布 を そ れ ぞ れ 示 し た 。 SRES と 比 較 す
る と 、 本 研 究 で 策 定 し た シ ナ リ オ A、 B は SRES B2 を 挟 む よ う な シ ナ リ オ で あ り 、 ま
た 、 SRES B1 と A2 で 挟 ま れ た よ う な シ ナ リ オ と な っ て い る 。 少 し SRES シ ナ リ オ よ り
も 不 確 実 性 の 幅 は 小 さ く と っ て い る も の の 、 極 め て 高 い 一 人 当 た り GDP を 想 定 し て い
る SRES A1 を 除 け ば 、 SRES シ ナ リ オ と も 大 き な 見 通 し の 差 は な い と 言 え る 。
シ ナ リ オ A で は 、 現 在 の 先 進 国 は 2100 年 に か け て 徐 々 に 成 長 ス ピ ー ド が 低 下 し 、
2100 年 に 一 人 当 た り GDP 成 長 率 が 約 0.5%/年 に 収 束 す る 。 途 上 国 は 着 実 に 成 長 し 続
け る も の の 、2100 年 に は 、新 興 途 上 国 、後 発 途 上 国 に お い て そ れ ぞ れ 約 1%、2%/年 で
の 成 長 に と ど ま る 。 2000-2100 年 の 世 界 の 平 均 成 長 率 は 1.5%/年 で あ る 。
シ ナ リ オ B で は 、 現 在 の 先 進 国 も 2100 年 に お い て も 一 人 当 た り GDP が 約 1.0%/
年 を 維 持 し て 成 長 し 続 け る 。 途 上 国 は 急 速 に 成 長 し 続 け 、 2100 年 に お い て も 現 在 の 新
興 途 上 国 、 後 発 途 上 国 が そ れ ぞ れ 約 2%/ 年 、 3%/ 年 台 で 成 長 し 続 け る 。 2000 ~ 2100 年
の 世 界 の 平 均 成 長 率 2.1%/年 で あ る 。
経 済 格 差 に 関 し て は 、 シ ナ リ オ A、 B と も に 、 2100 年 に か け て 現 在 の 先 進 国 と 途 上
国 の 格 差 は 2100 年 に か け て 着 実 に 縮 ま る 。地 域 間 格 差 を 見 る と 、シ ナ リ オ B の 方 が 、
シ ナ リ オ A よ り も 先 進 国 と 途 上 国 の 経 済 格 差 は 大 き い 。 例 え ば 、 OECD90 対 ア フ リ カ
の 一 人 当 た り GDP の 比 は 、 2000 年 時 点 で は 38.5 だ が 、2100 年 で は シ ナ リ オ A で 6.4、
シ ナ リ オ B で 6.7 で あ る 。 ま た 、 国 内 格 差 に 関 し て も 、 第 2 章 で 述 べ た よ う に 、 シ ナ
リオ A に比べ、シナリオ B の方が悪化すると考えられ、国内格差を表す所得分布に基
づく貧困人口の分析は次節で説明する。
60
SRES A1
一人当たりGDP ( 2000価格千ドル)
SRES B1
SRESの範囲
50
40
ALPS-シナリオB
30
20
ALPS-シナリオA
10
SRES B2
SRES A2
0
1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100
図 3.2.1-2
1980-2100 年 の 世 界 平 均 の 一 人 当 た り GDP(MER)
注 ) 2008 年 ま で は 統 計 値 、 2009 年 以 降 RITE 見 通 し 。 SRES は IPCC 排 出 シ ナ リ オ に 関 す る 特 別 報
告 書 7 ) に お け る シ ナ リ オ 。S R E S シ ナ リ オ は 1 9 9 0 年 価 格 の た め 、1 9 9 0 年 の 2 0 0 0 年 価 格 G D P と 一 致
するように補正して表示している。
- 91 -
(a) シ ナ リ オ A( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )
(b) シ ナ リ オ B( 高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )
図 3.2.1-3 2050 年 の 一 人 当 た り GDP の 世 界 分 布 図
(a) シ ナ リ オ A( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )
(b) シ ナ リ オ B( 高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )
図 3.2.1-4
2100 年 の 一 人 当 た り GDP の 世 界 分 布 図
- 92 -
RCP3PD(2.6)
400
SRESの範囲
SRES A1
GDP (Trillion 2000USD)
350
ALPS-シナリオB
SRES B1
RCPの範囲
300
RCP4.5
ALPSの範囲
250
200
150
SRES B2
SRES A2
100
RCP8.5
RCP6.0
ALPS-シナリオA
50
0
1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100
図 3.2.1-5
ALPS に お け る 世 界 GDP シ ナ リ オ
図 3.2.1-5 に は 、前 述 の 人 口 と 一 人 当 た り GDP の 積 か ら 求 め ら れ た 、ALPS に お け る
世 界 GDP シ ナ リ オ を 示 し た 。 世 界 の 潜 在 的 な GDP( ベ ー ス ラ イ ン シ ナ リ オ ) は 、 シ ナ
リ オ A に 比 べ 、 シ ナ リ オ B の 方 が 高 位 に 推 移 す る 。 た だ し 、 一 人 当 た り GDP が シ ナ
リオ B よりも高位に推移するシナリオ A では、人口はシナリオ B よりも小さくなる
と 見 ら れ る た め 、 両 シ ナ リ オ に お け る GDP の 差 異 は 縮 ま る 。 シ ナ リ オ A 、 B の
2000-2100 年 の 世 界 の 年 平 均 成 長 率 は そ れ ぞ れ 2.0%/年 、 2.3%/年 で あ る 。 SRES と 比 較
す る と 、2050 年 頃 ま で は SRES B と 比 較 的 近 く 、SRES A2 と B1 で 挟 ま れ た よ う な シ ナ
リ オ と な っ て い る 。一 方 、2100 年 で は 高 位 シ ナ リ オ の シ ナ リ オ B と SRES A2、B2 と 同
じ よ う な レ ベ ル で 、 中 位 の シ ナ リ オ A で は SRES の い ず れ の シ ナ リ オ よ り も 低 位 と な
っている。
図 3.2.1-6 に は 、主 要 地 域 別 GDP( MER 換 算 )シ ェ ア の 推 移 を シ ナ リ オ 別 に 示 し た 。
シ ナ リ オ A、B の 地 域 シ ェ ア の 違 い は 小 さ い 。世 界 GDP に 占 め る 先 進 国( 米 国 、EU27、
日 本 、 そ の 他 OECD の 合 計 ) の シ ェ ア は 、 2005 年 に は 約 77%で あ る が 、 そ の 後 徐 々 に
先 進 国 の シ ェ ア は 低 下 し 続 け 、2100 年 に は シ ナ リ オ A で 36%、シ ナ リ オ B で 約 33% と
な る 。2100 年 に は 、現 在 の GDP シ ェ ア と は 大 き く 異 な り 、現 在 の 途 上 国 が 世 界 経 済 に
お い て 大 き な シ ェ ア を 占 め る 。 2050 頃 ま で は 中 国 な ど の 現 在 の 新 興 途 上 国 の 経 済 発 展
が 急 速 に 進 展 し 、そ れ 以 降 は ア フ リ カ な ど の 現 在 の 後 発 途 上 国 が 相 応 に 経 済 発 展 す る 。
ま た 、前 述 の GDP(MER 換 算 )に 対 応 し た GDP( PPP(購 買 力 平 価 )換 算 )シ ナ リ オ を 見 る
と 、 2000 年 時 点 に お い て 、 GDP( MER 換 算 ) に 比 べ る と 、 GDP( PPP 換 算 ) は 先 進 国
と途上国の差異がより小さく、今後もその差異はより縮小すると推計される(図
3.2.1-7)。
- 93 -
1990
ラテンアメリカ
6%
アフリカ
2%
その他アジア
4%
インド
1%
中国
2%
その他非附属
書I国
3%
米国
29%
ラテンアメリカ
7%
その他アジア
5%
インド
2%
2005
アフリカ
2%
その他非附属
書I国
3%
米国
30%
中国
6%
その他附属書I国
7%
日本
17%
その他附属書I国
6%
日本
EU15
27%
14%
EU27(+12)
1%
EU27(+12)
2%
2050 (ALPS‐A)
アフリカ
5%
EU15
24%
2100 (ALPS‐A)
その他非附属
書I国
5%
その他非附属
書I国
7%
米国
19%
ラテンアメリカ
8%
米国
15%
アフリカ
11%
その他アジア
7%
ラテンアメリカ
11%
EU15
13%
インド
7%
中国
22%
EU15
9%
日本
6%
EU27(+12)
1%
日本
3%
その他アジア
12%
EU27(+12)
2%
インド
11%
中国
16%
その他附属書I国
4%
その他附属書I国
6%
2050 (ALPS‐B)
アフリカ
5%
2100 (ALPS‐B)
その他非附属
書I国
5%
その他非附属
書I国
7%
米国
20%
ラテンアメリカ
8%
米国
14%
アフリカ
11%
その他アジア
7%
EU15
8%
ラテンアメリカ
10%
EU15
13%
インド
7%
中国
21%
その他アジア
12%
EU27(+12)
2%
その他附属書I国
6%
図 3.2.1-6
インド
12%
日本
6%
中国
17%
地 域 別 GDP(MER 換 算 )シ ナ リ オ
(上 段 :実 績 値 、 中 段 :シ ナ リ オ A、 下 段 :シ ナ リ オ B)
- 94 -
EU27(+12)
日本 2%
3%
その他附属書I国
4%
1990
ラテンアメリカ
8%
アフリカ
4%
2005
その他非附属
書I国
5%
ラテンアメリカ
8%
その他非附属
書I国
5%
米国
米国
21%
20%
その他アジア
7%
インド
4%
アフリカ
4%
その他アジア
8%
中国
6%
その他附属書I国
10%
インド
6%
EU15
23%
日本
9%
中国
15%
EU27(+12)
3%
EU15
9%
日本
3%
米国
12%
EU15
7%
アフリカ
15%
EU15
9%
EU27(+12)
1%
日本
3%
中国
21%
インド
14%
2100(ALPS‐B)
その他アジア
11%
インド
12%
その他附属書I国
3%
中国
15%
その他非附属
書I国
7%
米国
13%
ラテンアメリカ
9%
日本
2%
その他アジア
14%
2050(ALPS‐B)
その他非附属
書I国
6%
アフリカ
10%
EU15
7%
EU27(+12)
1%
ラテンアメリカ
10%
その他附属書I国
5%
中国
22%
米国
11%
アフリカ
16%
EU27(+12)
1%
その他アジア
11%
インド
12%
EU27(+12)
2%
2100(ALPS‐A)
その他非附属
書I国
7%
米国
12%
ラテンアメリカ
9%
日本
6%
その他附属書I国
7%
2050(ALPS‐A)
その他非附属
書I国
6%
アフリカ
10%
EU15
19%
日本
2%
ラテンアメリカ
10%
中国
15%
その他アジア
14%
その他附属書I国
5%
図 3.2.1-7
EU27(+12)
1%
その他附属書I国
4%
インド
13%
地 域 別 GDP(PPP 換 算 )シ ナ リ オ
(上 段 :実 績 値 、 中 段 :シ ナ リ オ A、 下 段 :シ ナ リ オ B)
温 暖 化 抑 制 シ ナ リ オ に お け る GDP シ ナ リ オ に 関 し て は 、 温 暖 化 緩 和 策 と 温 暖 化 影 響
被害によるマクロ経済影響の 2 種類を考慮して策定した。緩和策費用だけではなくマ
クロでの被害額についても把握し、一部の指標にはその影響も含めて分析・評価を行
う こ と は 重 要 と 考 え ら れ る 。温 暖 化 に よ る マ ク ロ の 影 響 被 害 額 は 、不 確 実 性 が 大 き く 、
ま た 、生 態 系 影 響 の よ う に 市 場 化 さ れ て い な い 影 響 も あ る た め 、評 価 が 難 し い も の の 、
既存研究事例を参考にマクロの被害額についても推計した。
- 95 -
温 暖 化 緩 和 策 に よ る 経 済 影 響 に 関 し て 、 限 界 削 減 費 用 均 等 化 ケ ー ス に お け る DNE21
モ デ ル に よ る 温 暖 化 緩 和 策 に よ る GDP 変 化 を 利 用 し た 。 緩 和 策 の 費 用 負 担 の 再 割 当 は
考 慮 し て い な い 点 に 留 意 さ れ た い 。 図 3.2.1-8 と 図 3.2.1-9 に は 、 シ ナ リ オ A,B の 、 温
暖 化 緩 和 策 に よ る GDP ロ ス を 地 域 別 、 時 点 別 、 温 暖 化 抑 制 シ ナ リ オ 別 に そ れ ぞ れ 示 し
た 。 地 域 別 に 比 較 す る と 、 GDP に 関 し て は 費 用 負 担 の 再 割 当 を 考 慮 せ ず に 限 界 削 減 費
用均等化の結果を反映したために、途上国では削減費用が比較的安価な地域で大きな
削 減 を 行 う 結 果 で あ り 、 そ れ ら の 地 域 で 相 対 的 に GDP ロ ス が 大 き く な る 傾 向 に あ る 。
ま た 、時 系 列 の 傾 向 を 見 る と 、シ ナ リ オ A で は 時 点 と と も に GDP ロ ス が 増 加 す る 傾 向
に あ る が 、シ ナ リ オ B で は 2050 年 ま で は GDP ロ ス が 増 加 す る が 、2100 年 で は GDP ロ
スが縮小する傾向にある。
図 3.2.1-10 に は 、 各 排 出 削 減 シ ナ リ オ に つ い て 、 シ ナ リ オ A と B で GDP ロ ス を 比
較した。特段の温室効果ガス排出削減を行わないベースラインで両シナリオを比較す
る と 、経 済 成 長 が 高 い シ ナ リ オ B の 方 が CO 2 排 出 量 が 大 き い も の の 、特 に 2100 年 時 点
で は 、シ ナ リ オ B の 方 が GDP ロ ス が 小 さ い 傾 向 に あ る 。こ れ は シ ナ リ オ A と B の 限 界
削減費用の比較と同様の結果であり、この要因については第 4 章で後述する。
(a) 主 要 先 進 国
温暖化緩和策によるGDPロス
(%,ベースライン比)
10%
9%
8%
7%
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
米国
CP6.0
西欧
CP4.5
CP3.7
CP3.0
日本
CP6.0
CP4.5
2030
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
2050
CP3.7
CP3.0
2100
(b) 主 要 途 上 国
温暖化緩和策によるGDPロス
(%,ベースライン比)
10%
9%
8%
7%
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
中国
CP6.0
インド
CP4.5
サブサハラアフリカ
CP3.7
CP3.0
CP6.0
中南米
CP4.5
2030
図 3.2.1-8
CP3.7
2050
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
2100
シ ナ リ オ A の 緩 和 策 に よ る 地 域 別 GDP ロ ス (ベ ー ス ラ イ ン 比 )
- 96 -
(a) 主 要 先 進 国
温暖化緩和策によるGDPロス
(%,ベースライン比)
10%
9%
8%
7%
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
米国
CP6.0
西欧
CP4.5
CP3.7
日本
CP3.0
CP6.0
2030
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
2050
CP4.5
CP3.7
CP3.0
2100
温暖化緩和策によるGDPロス
(%,ベースライン比)
(b) 主 要 途 上 国
10%
9%
8%
7%
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
中国
CP6.0
インド
CP4.5
サブサハラアフリカ
CP3.7
CP3.0
CP6.0
2030
図 3.2.1-9
温暖化緩和策によるGDPロス
(%,ベースライン比)
10%
9%
8%
7%
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
中南米
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
2050
CP4.5
CP3.7
CP3.0
2100
シ ナ リ オ B の 緩 和 策 に よ る 地 域 別 GDP ロ ス (ベ ー ス ラ イ ン 比 )
ALPS‐A
ALPS‐B
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
2030
図 3.2.1-10
CP3.7
2050
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
2100
緩 和 策 に よ る 世 界 平 均 の GDP ロ ス (ベ ー ス ラ イ ン 比 )
次 に 、温 暖 化 影 響 被 害 に よ る 経 済 影 響 に 関 し て 、Nordhaus 2 1 ) に よ っ て 提 案 さ れ て い る
次の評価関数を用いて推計した。
- 97 -
D(t)
 a 1T(t)  a 2 (T(t)) a 3
GDPBase (t)
(3-1)
D(t): 温 暖 化 影 響 に よ る 被 害 額 、 GDP B a s e : Baseline の GDP、 T(t): 全 球 平 均 気 温 、 a1、
a2: 係 数 ( 12 地 域 別 )、 a3: 2.0
各 シ ナ リ オ の 時 点 別 の 全 球 平 均 気 温 T(t)に 関 し て は 、 後 述 の 第 4 章 の 結 果 を 利 用 し た 。
表 3.2.1-1 に 示 し た 地 域 別 係 数 a 1 、 a 2 は 時 点 に よ ら ず 一 定 と し た 。
表 3.2.1-1
影 響 被 害 評 価 関 数 の 地 域 別 係 数 (Nordhaus 1 7 ) )
a1
a2
米国
0
0.141
カナダ
0
0.156
西欧
0
0.159
日本
0
0.162
豪 ・ NZ
0
0.156
東欧・旧ソ連
0
0 . 11 5
中国
0.08
0.126
インド
0.44
0.169
その他アジア
0.18
0.173
中東・北アフリカ
0.28
0.159
サブサハラ以南アフリカ
0.34
0.198
中南米
0.06
0.135
表 3.2.1-2 に は 、 社 会 経 済 シ ナ リ オ A、 B の 各 温 暖 化 抑 制 シ ナ リ オ に お け る 世 界 全 体
の マ ク ロ の 温 暖 化 影 響 被 害 推 計 を そ れ ぞ れ 示 し た 。 ベ ー ス ラ イ ン で は 、 シ ナ リ オ A、 B
と も に 、 特 に 2100 年 頃 か ら 急 激 に 被 害 が 大 き く な る 可 能 性 が 示 唆 さ れ る 。 ま た 、 シ ナ
リオ B のベースラインでは、シナリオ A と比較して、高位の経済成長によりベースラ
イン排出量が大きく全球平均気温が大きいために、シナリオ A と比較すると、影響被
害がやや大きく推計される。
- 98 -
表 3.2.1-2
社会経済シナリオ A の各温暖化抑制シナリオにおけるマクロの温暖化影
響 被 害 推 計 ( 世 界 平 均 値 。 各 年 の シ ナ リ オ A ま た は B の 各 ベ ー ス ラ イ ン の GDP 比 )
2030
2050
2100
2150
A-Baseline
0.56%
1.11%
3.14%
5.56%
A-CP6.0
0.55%
1.01%
2.15%
2.84%
A-CP4.5
0.51%
0.87%
1.55%
1.83%
A-CP3.7
0.49%
0.77%
1.14%
1.29%
A-CP3.0
0.47%
0.67%
0.84%
0.77%
B-Baseline
0.56%
1.12%
3.38%
6.11%
B-CP6.0
0.54%
1.01%
2.21%
2.96%
B-CP4.5
0.51%
0.87%
1.61%
1.95%
B-CP3.7
0.49%
0.77%
1.21%
1.40%
B-CP3.0
0.47%
0.68%
0.90%
0.87%
注 ) 実 際 に は 、 12 地 域 別 の 温 暖 化 影 響 被 害 推 計 の 関 数 を 用 い て 推 計 し て い る 。 表 は 世 界 平 均 に 集
約化して表示。ただし、破局的な事象に関する影響被害は含まれていない。
最 後 に 、図 3.2.1-11 に は 、シ ナ リ オ A の 、温 暖 化 緩 和 策 と 温 暖 化 影 響 被 害 の 両 者 を
考 慮 し た 一 人 当 た り GDP シ ナ リ オ ( ベ ー ス ラ イ ン 比 ) を そ れ ぞ れ 示 し た 。 グ ラ フ が 正
( 負 ) 値 は 、 ベ ー ス ラ イ ン か ら GDP の 増 加 ( 減 少 ) 率 を 示 す 。 よ っ て 、 緩 和 策 に よ る
GDP ロ ス は グ ラ フ の 負 値 と し て 表 さ れ る 。一 方 、温 暖 化 影 響 被 害 に よ る GDP は 気 温 が
最も高いベースラインの被害額が最も大きいの、グラフではベースラインとの比較で
グラフの正値として表現される。
両 シ ナ リ オ と も に 、2030、2050 年 時 点 で は 、GDP の 変 化 に は 、温 暖 化 影 響 被 害 の 影
響 は 小 さ く 、 緩 和 策 に よ る 影 響 が 主 で あ る 。 2100 年 に は 途 上 国 を 中 心 に 温 暖 化 影 響 被
害 に よ る GDP 変 化 が 比 較 的 大 き い も の の 、緩 和 策 に よ る GDP ロ ス の 影 響 の 方 が よ り 大
き い た め 、 最 も 厳 し い 排 出 削 減 シ ナ リ オ CP3.0 で GDP の 減 少 が 最 も 大 き い 傾 向 が 見 ら
れる。
- 99 -
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
緩和策・影響被害によるGDP変化
(%,ベースライン比)
‐6.0%
‐8.0%
‐8.0%
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
緩和策・影響被害によるGDP変化
(%,ベースライン比)
(a) 2030 年
4.0%
2.0%
0.0%
‐2.0%
‐4.0%
緩和策によるGDP変化
影響被害によるGDP変化
緩和策・影響被害を考慮したGDP変化(上記2 要因の合計)
‐10.0%
米国
米国
西欧
西欧
日本
日本
中国
中国
- 100 インド
インド
サブサハラ
アフリカ
サブサハラ
アフリカ
中南米
中南米
図 3.2.1-11 シ ナ リ オ A の 排 出 削 減 シ ナ リ オ 別 の GDP 変 化
世界平均
(b) 2050 年
4.0%
2.0%
0.0%
‐2.0%
‐4.0%
‐6.0%
緩和策によるGDP変化
影響被害によるGDP変化
‐10.0%
緩和策・影響被害を考慮したGDP変化(上記2要因の合計)
世界平均
緩和策・影響被害によるGDP変化
(%,ベースライン比)
(c) 2100 年
4.0%
2.0%
0.0%
‐2.0%
‐4.0%
‐6.0%
‐8.0%
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
CP6.0
CP4.5
CP3.7
CP3.0
‐10.0%
緩和策によるGDP変化
影響被害によるGDP変化
緩和策・影響被害を考慮したGDP変化(上記2要因の合計)
米国
西欧
日本
中国
インド
サブサハラ
アフリカ
中南米
世界平均
図 3.2.1-11 (続 き ) シ ナ リ オ A の 排 出 削 減 シ ナ リ オ 別 の GDP 変 化
3.2.2 貧 困
貧 困 人 口 の 将 来 シ ナ リ オ を 策 定 し た ( 図 3.2.2-1 )。 将 来 に わ た る 国 、 地 域 内 の 所 得
の分布の推計は難しいため、本研究では、分布は将来にわたっても変わらないと想定
して、国・地域別の平均所得から推計を行った。平均所得の変化は、前述の温暖化影
響 被 害 推 計 お よ び 緩 和 に よ る GDP ロ ス 推 計 を 基 に し て 推 計 し た 。 こ れ に よ る と 、 絶 対
貧 困 線 を 近 年 よ く 用 い ら れ る 1.25$/日 ( 実 質 値 ) と す れ ば 2030 年 に は 世 界 の 貧 困 人 口
は 4 億人程度まで大きく減少すると推定される。一方、将来的に様々なものの価格が
上 昇 し 貧 困 線 が 変 化 す る こ と も 考 え ら れ る 。 実 際 、 以 前 は 絶 対 貧 困 線 と し て は 1$/日 が
用 い ら れ る こ と が 多 か っ た が 、現 在 で は 1.25$/日 を 用 い る ケ ー ス が 多 い
11 )
。こ こ で は 、
石 油 価 格 の 見 通 し と 仮 に 比 例 さ せ た 場 合 に つ い て も 試 算 し た( こ の と き 2100 年 の 貧 困
線 は 3.36$/日 )。 こ の ケ ー ス で も 、 世 界 全 体 で の 貧 困 人 口 は 相 当 低 下 す る こ と が 期 待 で
き る も の の 、 し か し 一 方 、 サ ブ サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ に つ い て は 、 2050 年 頃 ま で は む し
ろ増大傾向となることも予想される。
気候変動による影響を見ると、地球温暖化は、サブサハラ以南アフリカなどへの影
響が相対的に大きく表れると予想されるが、一方、世界での温暖化緩和に伴う経済影
響も連鎖する。結果としては、むしろ、厳しい排出削減を行った場合の方が、わずか
ながら、貧困人口は大きくなると推計された。
- 101 -
1800
Europe and Former Soviet Union
People living in poverty (millions)
1600
Latin America
Sub-Sahara Africa
1400
Middle east and North Africa
1200
Other Asia
1000
India
800
China
600
400
200
0
C
V
baseline
2000
C
V
CP4.5
C
V
CP3.0
C
V
baseline
2030
図 3.2.2-1
C
V
CP4.5
C
V
CP3.0
C
V
baseline
2050
C
V
CP4.5
C
V
CP3.0
2100
貧 困 人 口 の 見 通 し ( シ ナ リ オ A)
注 )貧 困 線 一 定 ケ ー ス 、貧 困 線 変 動 ケ ー ス は 、貧 困 の 境 界 値 と し て 1 . 2 5 $ / 日 一 定( ”C ”)、1 . 2 5  3 . 3 6 $ /
日 ( 石 油 実 質 価 格 変 動 に よ る 影 響 を 考 慮 ) を そ れ ぞ れ 適 用 し た ケ ー ス ( ”V”) を 示 す 。
3.2.3
健康
第 3.1.3 節 で 述 べ た よ う に 、現 在 の 健 康 に 関 す る 課 題 と し て 、ア フ リ カ 等 途 上 国 に お
ける乳幼児の感染症死亡率の低減、また、どの地域にも共通するものとして高齢者の
呼吸器・循環器疾患死亡率低減があげられる。このうち、高齢者の呼吸器疾患につい
ては、温暖化による対流圏オゾン等大気質の変化によるリスク増加も懸念されるもの
の 、WHO の 分 析
20)
に 基 づ く と 、喫 煙 等 生 活 習 慣 の 要 因 も 小 さ く な い 。ま た 、循 環 器 疾
患については肥満などの要因も小さくない。このため、そのような生活習慣の変化を
見通した上で、死亡率が現在より増加するのか減少するのかを定量的に評価すること
は容易でない。但し、高齢者割合の増加に伴ってこのような死亡者が増加する事は間
違いなく、従って、年齢構成の変化を考慮した衛生インフラや保険制度等の整備が必
要と考えられる。
途上国における乳幼児の感染症死亡率について、温暖化によるリスク増大に備える
ことは必要である。但し、この死亡率が高い背景には、貧困問題も大きく寄与してい
る と 考 え ら れ る 。言 い 換 え る と 、ALPS シ ナ リ オ B の よ う な 高 経 済 シ ナ リ オ 下 で は 、低
栄養等、貧困と密接に関わるリスクが大幅に低減され、温暖化の悪影響はそれほど大
きくない可能性も考えられる。なお、健康に関する行動は、個々人のリスク認知や価
値判断による差も大きいと考えられることより、そのような不確実性を考慮した、リ
スク評価も今後必要といえる。
- 102 -
参考文献(第 3 章に関するもの)
1)
UN, World Population Prospects, the 2008 Revision, http://esa.un.org/unpd/wpp/index.htm
2)
ドネラ H.メドウズ:
「成長の限界―ローマ・クラブ人類の危機レポート」
、ダイヤモンド社、(1972)
3)
小峰隆夫、日本経済研究センター(編):「超長期予測 老いるアジア―変貌する世界人口・経済地
図」、日本経済新聞出版社、(2007)
4)
UN, World population to 2300,
http://www.un.org/esa/population/publications/longrange2/WorldPop2300final.pdf, (2003)
5)
UN, World Population Prospects, the 2010 Revision, http://esa.un.org/unpd/wpp/index.htm
6)
IEA, CO2 emissions from fuel combustion (2011 edition), 2011
7)
IPCC: Special Report on Emissions Scenarios (SRES), Cambridge University Press, (2000)
8)
Lutz, W., and Samir, K.C., “Global human capital: Integrating education and population,” Science vol.333,
pp.587-592, (2011)
9)
Lutz, W., Cuaresma, J. C. and Sanderson, W., “The Demography of educational attainment and economic
growth,” Science vol.319, pp.1047-1048, (2008)
10) World Bank, World Development Indicator
11) World Bank, PovcalNet, http://iresearch.worldbank.org/PovcalNet/index.htm?1
12) ジェフリー・サックス:「貧困の終焉―2025 年までに世界を変える」、早川書房、(2006)
13) ジェフリー・サックス:「地球全体を幸福にする経済学―過密化する世界とグローバル・ゴール」、
早川書房、(2009)
14) ウィリアム・イースタリー:「エコノミスト 南の貧困と闘う」
、東洋経済新報社、(2003)
15) ポール・コリアー:
「民主主義がアフリカ経済を殺す(原題:Wars、 Guns、 and Votes-Dmocracy in
Dangerous Places)」、日経 BP 社、(2010)
16) IIASA, World Population Program: 2007 update of probabilistic world population projections,
http://www.iiasa.ac.at/Research/POP/proj07/index.html?sb=6
(最終アクセス日 2012.3.10)
17) WHO; The global burden of disease: 2004 update (2008),
(http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/2004_report_update/en/index.html)
18) UN; Millennium development goals, (http://www.un.org/en/mdg/summit2010/).
19) IPCC; Climate Change 2007: Impacts, Adaptation and Vulnerability, Cambridge University Press,
Cambridge (2007)
20) WHO: Global health risks, mortality and burden of disease attributable to selected major risks (2009),
(http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/global_health_risks/en/index.html)
21) Nordhaus, W.D., 2010. Economic aspects of global warming in a post-Copenhagen environment.
Proceedings
of
the
National
Academy
of
http://www.pnas.org/content/early/2010/06/10/1005985107
- 103 -
Sciences,
doi:10.1073/pnas.1005985107,
第 4章
4.1
エネルギー、気候変動
現状認識
4.1.1 エ ネ ル ギ ー ・ CO 2
エネルギーは、人類の生活基盤を支える重要な技術の一つであり、持続可能な発展
の た め の 重 要 な 因 子 の 一 つ と 言 え る 。 図 4.1.1-1、 図 4.1.1-2 は 、 1980 年 か ら 現 在 ま で
の 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 を エ ネ ル ギ ー 種 別 、地 域 別 に そ れ ぞ れ 示 し て い る
1)
が 、着 実 に
増 加 し て き て い る 。 1980 年 に お け る 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 は 7,300Mtoe/yr で あ っ た の
に 対 し 、 2009 年 に お け る そ の 量 は 12,300Mtoe/yr と 1980 年 比 で は 約 1.7 倍 、 年 平 均 増
加 率 は 1.8%/yr と な っ て い る 。
エネルギー種別に見ると、主たるエネルギーは石炭、石油及び天然ガスの化石燃料
で あ る 。 1980 年 に お け る 化 石 燃 料 の 供 給 量 は 6,200Mtoe/yr で あ り 、 全 体 に 占 め る 割 合
は 85% で あ っ た 。 そ の 後 、 そ の 供 給 量 は 現 在 に 至 る ま で 増 加 し 、 2009 年 に お い て は
10,000Mtoe/yr に 達 し て い る 。 一 次 エ ネ ル ギ ー 全 体 に 占 め る 割 合 は 、 原 子 力 の 普 及 拡 大
も あ り 、 81%と 1980 年 に 比 べ て 若 干 低 下 し て い る も の の 、 依 然 と し て エ ネ ル ギ ー 供 給
はその大部分を化石燃料に依存しているのが現状と言える。
地域別に見ると、最も一次エネルギー供給量が多いのは、早くから経済発展してき
た OECD 諸 国 で あ る 。 1980 年 に お け る 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 は 4,100Mtoe/yr で あ り 、
世 界 全 体 の 56%を 占 め て い た 。 現 在 ま で そ の 供 給 量 は 増 加 し て お り 、 2009 年 に お け る
供 給 量 は 5,300Mtoe/yr に 達 し て い る 。し か し な が ら 、世 界 全 体 に 占 め る 割 合 は 、OECD
諸 国 以 外 の 地 域 で の 増 加 が 大 き い こ と か ら 1990 年 代 か ら 一 貫 し て 低 下 し 、 2004 年 に
50%を き り 、 2009 年 に お い て は 44%と な っ て い る 。 OECD 諸 国 以 外 の 地 域 に つ い て は 、
1991 年 に 崩 壊 し た ソ 連 を 含 む 非 OECD ヨ ー ロ ッ パ 及 び ユ ー ラ シ ア 以 外 の 地 域 は 1980
年 以 降 そ の 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 は OECD 諸 国 を 上 回 る 速 度 で 増 加 し 続 け て い る が 、
特 に 中 国 を 含 む ア ジ ア で の 増 加 が 大 き い 。 1980 年 に お け る 中 国 と そ の 他 ア ジ ア の 一 次
エ ネ ル ギ ー 供 給 量 は 、 そ れ ぞ れ 600Mtoe/yr 、 470Mtoe/yr で あ り 、 世 界 全 体 に 占 め る 割
合 は 両 者 合 わ せ て 15%で あ っ た 。 そ の 後 、 1990 年 代 の ア ジ ア 通 貨 危 機 と い っ た 経 済 危
機 が あ っ た も の の 、 エ ネ ル ギ ー 供 給 は 継 続 的 に 増 加 し 、 2009 年 に お け る 一 次 エ ネ ル ギ
ー 供 給 量 は 中 国 で 2,300Mtoe/yr、そ の 他 ア ジ ア で 1,500Mtoe/yr と 両 者 合 わ せ る と 世 界 全
体 の 31%を 占 め る に 至 っ て い る 。特 に 中 国 に お い て は 最 近 の 2000 年 代 に お け る 伸 び が
著 し く 、1980 年 か ら 2009 年 の 年 平 均 増 加 率 は 4.6%/yr で あ る も の の 、2000 年 か ら の そ
れ は 8.1%/yr と な っ て い る 。 以 上 よ り 、 1990 年 代 頃 ま で は OECD 諸 国 に お け る 一 次 エ
ネルギー供給量が世界全体の半分以上を占める状態であったが、その伸びは他地域に
比 べ て 相 対 的 に 鈍 化 し て お り 、 2000 年 以 降 は 工 業 化 を 伴 う 経 済 発 展 が 著 し い 中 国 を 含
むアジアにおけるエネルギー需要の拡大が顕著になっているのが現状と言える。
- 104 -
14000
一次エネルギー供給 [Mtoe/yr]
12000
Solar
10000
Wind
Nuclear
8000
Hydro+Geothermal
6000
Biomass
Natural Gas
4000
Crude Oil
Coal
2000
図 4.1.1-1
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
0
世界のエネルギー種別一次エネルギー供給
14000
Non‐OECD Europe
and Eurasia
12000
一次エネルギー供給 [Mtoe/yr]
1)
Latin America
10000
Africa
8000
Middle East
6000
Other Asia
4000
China
2000
OECD
図 4.1.1-2
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
0
世界の地域別一次エネルギー供給
1)
このように、一次エネルギー供給は主に途上国において増加が著しいが、一方で、
現状でもなお近代的なエネルギーへのアクセスが不可能な人々は多く存在する。図
4.1.1-3 は 、2009 年 に お け る 電 力 に ア ク セ ス で き な い 人 々 の 比 率( 非 ア ク セ ス 人 口 比 率 )
を 国 別 に 示 し て い る 。 ま た 、 図 4.1.1-4 に は 、 2009 年 に お け る 調 理 の た め に 伝 統 的 な
バイオマス燃焼を行っている人口の比率を同様に国別に示している。現状では、サブ
サ ハ ラ 、南 ア ジ ア 、東 南 ア ジ ア を 中 心 に エ ネ ル ギ ー 非 ア ク セ ス 比 率 は 高 い 状 況 で あ り 、
世 界 全 体 で は 電 力 へ の 非 ア ク セ ス 人 口 は 約 13 億 人 、調 理 の た め に 伝 統 的 な バ イ オ マ ス
燃 焼 を 行 っ て い る 人 口 は 約 27 億 人 と さ れ る 。 近 代 的 な エ ネ ル ギ ー へ の ア ク セ ス は 、 夜
間の安全や家事効率化(労働時間節減)等、幅広い目的のために必要となる基礎的な
- 105 -
条件の一つであり、持続可能な発展のためには今後改善していくべき課題の一つと言
える。
図 4.1.1-3
電 力 へ の 非 ア ク セ ス 人 口 比 率 ( 2009 年 )
注 ) IEA(2011)2)の 電 力 へ の 非 ア ク セ ス 人 口 比 率 を 基 に RITE 作 成
図 4.1.1-4
調 理 時 に 伝 統 的 な バ イ オ マ ス 燃 焼 に 依 存 す る 人 口 比 率 ( 2009 年 )
注 ) IEA(2011)2)の 16 カ 国 の 数 値 を 参 考 と し つ つ RITE 推 定
次 に 、 CO 2 排 出 量 に つ い て 述 べ る 。 図 4.1.1-5 は 、 化 石 燃 料 の 燃 焼 に 伴 う エ ネ ル ギ
ー 起 源 CO 2 排 出 量 の 過 去 の 推 移 を 地 域 別 に 示 し て い る
3)
。先に述べたように、化石燃
料 は 主 た る エ ネ ル ギ ー 源 と し て 利 用 が 拡 大 し て い る た め 、CO 2 排 出 量 も そ れ に 伴 っ て 増
加 し て お り 、 1980 年 に お け る CO 2 排 出 量 は 18GtCO 2 /yr で あ っ た が 、 2009 年 に お い て
は 28GtCO 2 /yr に 達 し て い る 。 地 域 別 の 動 向 に つ い て は 、 一 次 エ ネ ル ギ ー に つ い て 先 に
- 106 -
述 べ た よ う に 、 1) OECD 諸 国 の 排 出 割 合 が 多 か っ た が そ の 伸 び は 近 年 他 地 域 に 比 べ て
相 対 的 に 鈍 化 し て い る 、2)中 国 及 び そ の 他 ア ジ ア に お け る 排 出 量 の 増 加 が 近 年 著 し い 、
といった状況である。
エネルギー起源CO2排出量 [GtCO2/yr]
30
Non‐OECD Europe
and Eurasia
25
Latin America
20
Africa
Middle East
15
Other Asia
10
China
5
OECD
図 4.1.1-5
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
0
世 界 の 地 域 別 エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量
3)
図 4.1.1-6 は 茅 恒 等 式 に お け る CO 2 、 CO 2 /TPES ( 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 当 た り の
CO 2 )、TPES/GDP( GDP 当 た り の 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 )、GDP/POP( 一 人 当 た り GDP)、
及 び POP( 人 口 ) に つ い て 、 そ の 推 移 を 1980 年 に お け る 値 を 1 と し て 示 し て い る 。 ま
た 、表 4.1.1-1 は 、こ れ ら 五 つ の 指 標 に つ い て 、時 点 別 の 年 平 均 変 化 率 を 整 理 し て い る 。
CO 2 /TPES に つ い て は 、 図 4.1.1-1 に 示 し た よ う に 、 総 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 に 占 め る 化
石 燃 料 の 割 合 は 原 子 力 の 普 及 拡 大 も あ り 若 干 で は あ る が 低 下 し て い る こ と か ら 、 1980
年 に 比 べ る と 改 善 さ れ て い る 。ま た 、TPES/GDP に つ い て は 、産 業 構 造 の 変 化( エ ネ ル
ギー多消費な第二次産業から第三次産業へ)や各種技術のエネルギー効率改善等によ
り 、改 善 の 速 度 は 時 点 に よ っ て 異 な る も の の 1980 年 か ら 継 続 し て 改 善 が 続 い て い る と
言 え る 。 し か し な が ら 、 経 済 発 展 に 伴 う 一 人 当 た り GDP( GDP/POP) と 、 人 口 の 増 加
率 が こ れ ら の 改 善 率 を 上 回 っ て お り 、 CO 2 排 出 量 は 増 加 し 続 け て き た と 解 釈 で き る 。
- 107 -
1.8
1.6
Indicator [Y1980 = 1]
1.4
1.2
CO2
1.0
CO2/TPES
0.8
TPES/GDP
GDP/POP
0.6
POP
0.4
0.2
0.0
1980
1985
1990
図 4.1.1-6
表 4.1.1-1
1995
2000
2005
世界の各種指標の推移
2010
1),3)
世界の各種指標の年平均変化率
1985/1980 1990/1985
CO2
0.7
2.3
CO2/TPES
-0.7
-0.2
TPES/GDP
-1.3
-0.8
GDP/POP
0.9
1.6
POP
1.8
1.8
年平均変化率 [%/yr]
1995/1990 2000/1995 2005/2000 2009/2005
0.7
1.4
2.9
1.9
-0.3
-0.3
0.3
0.2
-1.3
-1.7
-0.1
-0.5
0.7
2.0
1.5
1.0
1.5
1.4
1.3
1.2
なお、上述した各種技術のエネルギー効率改善については、各国でその状況が大き
く 異 な っ て い る こ と が 知 ら れ る 。 図 4.1.1-7、 図 4.1.1-8 は そ の 例 と し て 、 石 炭 火 力 の
発電効率と転炉鋼製造におけるエネルギー効率の国際比較を示している。石炭火力発
電、転炉鋼製造共にその効率は国によって大きな差異があることが見てとれる。両者
共に日本の効率が最も良いというデータであり、他国も日本の技術を導入すれば効率
が大きく改善され、エネルギー消費を大きく削減できると期待される。
しかしながら、現実には、国際的に効率に大きな差異があること自体が証明してい
るように、仮に効率改善による省エネが経済合理的と判断される場合であっても、現
実には実施されないことも多い。望ましいと考えられる省エネルギー水準と現状の差
は 省 エ ネ ギ ャ ッ プ ( Energy Efficiency Gap) と し て 知 ら れ 、 こ の ギ ャ ッ プ の 大 き さ は 事
後的に高い主観的割引率として観察される。
省エネギャップの原因について、これまで様々な理論的な説明がなされてきた。表
4.1.1-2 に 示 す よ う に 、 Sorrell ら
5)
は省エネ普及障壁を 3 つのカテゴリーに分けて説明
している。一つは経済的な要因によるもので隠れたコスト、リスク、資金不足、不完
全情報、逆選択、利害の不一致、投資主体と代理人の関係、実際には採算が合わない
ケース、といったものがある。二つめは行動的・心理的な要因で、人間の限定合理性、
不適切な情報提供、情報の信頼、惰性、価値観などである。三つめは組織的な要因で、
組織の意思決定プロセスや組織文化といったものがある。
- 108 -
これらの要因以外にも、企業であれば他の投資機会との競合や高い期待収益率、個
人であれば他製品との競合といった理由も考えられる。例えば、いくら省エネ投資の
採算がとれたとしても、企業が新製品の生産ラインに対する投資を必要としていると
きには、資金が省エネ投資に向かない可能性がある。個人の購買行動にしても、省エ
ネは数多くある製品特性の一つに過ぎず、ブランドやデザインといったものが優先さ
れることも珍しくない。
43
China (2,590TWh)
41
US (2,126TWh)
India (543TWh)
39
Germany (301TWh)
37
Efficiency (%)
Japan (298TWh)
35
South Africa (242TWh)
33
Australia (197TWh)
Russia (181TWh)
31
Korea (172TWh)
29
Poland (147TWh)
EU27 (985TWh)
27
World (8,072TWh)
25
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
図 4.1.1-7 石 炭 火 力 発 電 の 主 要 国 に お け る 発 電 効 率
4)
注 ) 凡 例 の 括 弧 内 は 2006~ 2008 年 の 平 均 石 炭 火 力 発 電 の 発 電 電 力 量
転炉鋼エ ネルギー効率(GJ/tcs)
35
2000年
2005年
30
25
20
値が小さい方が
優れている
15
10
5
0
図 4.1.1-8 鉄 鋼 部 門 ( 転 炉 鋼 ) の 主 要 国 に お け る エ ネ ル ギ ー 効 率
- 109 -
4)
表 4.1.1-2 省 エ ネ バ リ ア の 分 類 ( 出 典 : Sorrell et al. 5 ) )
分野
経済学
合理的な行
動
障壁
不均一性
隠れたコスト
リスク
資本調達
投資のための資金調達が
難しい主体がある
不完全情報
経済効率的な決定するた
めに十分な情報の不足
逆選択
製品のエネルギー性能が
伝わらず、選択されない
イ ン セ ン テ ィ
ブの不一致
オーナーとテナントの関
係などでは双方インセン
ティブが異なる
プ リ ン シ パ
ル・エ ー ジ ェ ン
ト関係
経営者は不完全情報を補
完すべく厳しい投資判断
基準を設ける
限定合理性
限定合理性
人間的側面
情報の形式
認知的な制約により最適
なものより満足なものを
選択、ルーティンにより
体系的に省エネが度外視
される
情報の形が不適切
市 場 / 組 織
の失敗
行動科学
信頼性・信用
慣性
価値
組織論
事例
特定のケースでは当該技
術がコスト効率的ではな
い場合がある
技術に対する投資では、
エンジニアリングモデル
では考慮されない追加的
費用や便益ロスが発生す
る
一定のリスクを考慮して
投資判断が行われる
権威
文化
情報源に信用がない
人はこれまでやってきた
ことを正当化するため変
化を拒みやすい
環境に対する認識不足に
より効率改善を放置
責任者に十分な権限がな
い
企業文化に環境意識がな
い
- 110 -
留意事項
実証問題
スタッフの間接費、エ
ネルギーデータ管理シ
ステムの費用、想定外
のトラブルなど
省エネ投資は他の投資
機会よりもリスクが高
い、あるいはビジネス
リスクが存在
自己資本比率の制約や
追加融資にともない発
生する問題
情報には公共性の性格
があり、市場に十分伝
わらない可能性
取引費用により本来そ
の製品が持っている省
エネ性の便益が伝わら
ない情報の非対称性
エネルギー消費に責任
のない部門やランニン
グコストに責任のない
資材調達
プリンシパルが知りえ
ない情報があることか
ら、エージェントの行
動に歪みが生じ効率的
な資源配分が妨げられ
る
主流の経済学に対する
反定立。エネルギー関
連の意思決定で数多く
の 実 証 事 例 が み ら れ
る。
社会心理学の知見によ
る
信用が取引を促進
認知的不協和
障壁ではないが重要な
説明要因
エネルギー管理者の地
位が低い
障壁ではないが重要な
説明要因
本 節 で は 、 エ ネ ル ギ ー ・ CO 2 に つ い て 、 過 去 及 び 現 状 を 整 理 し た 。 過 去 に お い て は
GDP 当 た り の 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 に 一 定 の 継 続 し た 改 善 が 見 ら れ る も の の 、 一 人 当
た り GDP と 人 口 の 増 加 率 が こ れ ら の 改 善 率 を 上 回 っ て お り 、エ ネ ル ギ ー も CO 2 排 出 量
も 増 加 を 続 け て い る 。 こ う し た 状 況 を 鑑 み る と 、 特 段 の 施 策 が 無 い と す れ ば 、 1) 今 後
も人類が発展していくのに伴い、近代的エネルギーへのアクセスの改善も含め、エネ
ル ギ ー 需 要 は 継 続 し て 増 加 す る 、 2) 効 率 の 改 善 等 、 エ ネ ル ギ ー 消 費 を 削 減 す る 手 段 は
存在するものの、省エネバリアの存在等を考えると特段の施策無しには大きな削減は
困 難 で あ り 、 今 後 も エ ネ ル ギ ー 供 給 は 増 加 す る 、 3) エ ネ ル ギ ー 当 た り の CO 2 排 出 量 を
改善する低炭素化についても、より困難を伴った上でエネルギー消費の削減と同様の
課 題 が 存 在 し 、 今 後 も CO 2 排 出 量 は 増 加 す る 、 と 見 通 さ れ る 。
- 111 -
Box 7: シ ェ ー ル ガ ス の 動 向
シ ェ ー ル ガ ス は 近 年 注 目 を 集 め て い る 非 在 来 型 ガ ス 資 源 の 一 つ で 、特 に ア メ リ カ の ガ
ス市場に大きな影響を与え、それが世界市場に波及している。
シ ェ ー ル ガ ス を 掘 り 出 す に は 、掘 削 リ グ か ら 地 下 深 く 垂 直 に 掘 り 進 ん だ あ と 、シ ェ ー
ル 層 の 部 分 で 貯 留 層 に 沿 っ て 水 平 に 横 堀 し 、薬 剤 を 添 加 し た 水 を 高 圧 注 入 し て 岩 石 層 を
破 砕 し て ガ ス を 集 め る こ と に な る 。こ れ ら の 技 術 が 進 歩 し コ ス ト 低 下 が 進 ん だ こ と に よ
りシェールガス開発の経済性が高まった。
シ ェ ー ル ガ ス 開 発 に 拍 車 を か け た の は 、B a r n e t t( テ キ サ ス 州 )で 2 0 0 2 年 ~ 0 4 年 頃 に か
け て の 開 発 成 功 に あ る 。 現 在 で は B a r n e t t、 F a y e t t e v i l l e 、 H a y n e s v i l l e 、 M a r c e l l u s の 4 大
シェール層で開発が中心になっている。シェールガスの存在は昔から知られていたが、
そ の 採 掘 に は 高 い 技 術 と 初 期 コ ス ト が か か る こ と に 加 え 、1 9 9 0 年 代 は ガ ス 価 格 が 低 か っ
た た め 、石 油 メ ジ ャ ー ズ と 言 わ れ る 大 手 は 在来 型 の 探 鉱・開 発 に 重 点 を 置 き 、非 在 来 型
に は 熱 心 で な か っ た 。 非 在 来 型 ガ ス の 開 発 に 積 極 的 に 取 り 組 ん で き た の は Chesapeake、
X TO E n e rg y 、 D e v o n、 E O G E n e rg y 、 な ど イ ン デ ィ ペ ン デ ン ツ と い わ れ る 独 立 系 の 中 小 企
業であり、その活況を受けメジャーズも最近、開発にのりだすようになった。
ア メ リ カ の エ ネ ル ギ ー 省( E I A )が 2 0 11 年 4 月 に 世 界 の シ ェ ー ル ガ ス 資 源 量 を 評 価 し
た レ ポ ー ト に よ る と 、最 も 資 源 量 が 多 い の は 中 国 の 1 2 7 5 Tc f で 、ア メ リ カ の 8 6 2 Tc f が そ
れ に 次 い で お り 、世 界 の 主 要 地 域 に お い て 技 術 的 に 回 収 可 能 な シ ェ ー ル ガ ス の 埋 蔵 量 は
6 , 6 2 2 Tc f に の ぼ る と さ れ る 。 な お 2 0 1 0 年 に お け る 世 界 の 天 然 ガ ス 消 費 量 は 11 2 Tc f で あ
り 、 シ ェ ー ル ガ ス だ け で そ の 60 年 分 に 相 当 す る 。
シ ェ ー ル ガ ス 開 発 に か か る コ ス ト は 、鉱 床 の 地 質 条 件 や 既 存 イ ン フ ラ の 利 用 可 能 性 な
ど に よ り 幅 が あ る が 、北 米 で は 探 鉱 開 発 コ ス ト が $ 1 ~ 2 / M M B t u に 加 え 同 程 度 の 生 産 コ ス
ト が 上 乗 せ さ れ 、採 算 ラ イ ン が $ 3 ~ 4 / M M B t u( 石 油 換 算 約 $ 2 0 / バ レ ル )程 度 と 言 わ れ て い
る 。 2012 年 2 月 末 現 在 、 ガ ス 価 格 は $2.5/MMBtu あ た り に 低 迷 し て お り 、 現 在 の 価 格 水
準 で は ほ と ん ど の 鉱 区 で 採 算 が と れ な い た め 、現 在 は 新 掘 及 び 生 産 の 抑 制 が 行 わ れ 、代
わりにその技術を使ってタイトオイルを開発するプロジェクトに投資がシフトしてい
ると言われている。
天 然 ガ ス 燃 焼 に と も な う 二 酸 化 炭 素 ( CO2) 排 出 量 は 石 炭 の 60%、 石 油 の 75%と 言 わ
れ 、ク リ ー ン な 化 石 燃 料 と 言 わ れ て い る 。ただ し 、シ ェ ー ル ガ ス の 生 産 過 程 で 地 球 温 暖
化 係 数 ( G W P : G l o b a l . Wa r m i n g P o t e n t i a l ) の 大 き な メ タ ン が 漏 え い す る た め 、 ラ イ フ サ
イクルの排出量でみると必ずしも低排出とは言えないのではないかとする論文がある
一 方 、そ れ を 否 定 す る そ よ う な 研 究 も あ り 、そ の 論 争 は 現 在 も ま だ 決 着 が つ い て い な い 。
メ タ ン は 天 然 ガ ス の 約 90%を 構 成 し て お り 、 大 気 中 寿 命 は 12 年 と 比 較 的 短 い が 温 室
効 果 は CO2 よ り 大 き く 、 20 年 で み た 場 合 の 地 球 温 暖 化 係 数 は 72、 100 年 の 場 合 は 25 と
な っ て い る 。そ の た め 長 期 的 に は そ の 影 響 は小 さ く な る が 、短 期 で み た 場 合 、特 に メ タ
ン 排 出 の 影 響 が 大 き く 評 価 さ れ や す い 。そ の た め 、こ の 漏 洩 率 を ど の 程 度 み 込 む か で 評
価 が 大 き く 分 か れ る 。そ れ 以 外 に も 、G W P の 値( 2 0 年 の も の を 使 う か 、1 0 0 年 の も の を
使 う か )、 発 電 所 の 効 率 差 、 評 価 方 法 ( M A G I C C に よ る 気 候 モ デ ル を 使 う か 否 か ) な ど
に よ っ て 評 価 が 分 か れ て い る 。た だ し 、抗 井 掘 削 段 階 に お け る メ タ ン 漏 洩 を 抑 え る 技 術
は 既 に 実 用 化 さ れ て お り 、実 際 の 温 暖 化 問 題 に 対 す る 影 響 と い う 意 味 で は 、コ ス ト を か
けて漏洩対策をとるかどうかに帰着しうる問題ともいえよう。
- 112 -
4.1.2 気 候 変 動
前 節 で 述 べ た よ う に 、 化 石 燃 料 消 費 の 増 加 に 伴 い 、 CO 2 排 出 量 も 増 加 を 続 け て い る 。
図 4.1.2-1 は 、 1960 年 以 降 の 大 気 中 CO 2 濃 度 と 1850 年 以 降 の 気 温 上 昇 ( 1960 ~ 1990
年 の 平 均 値 比 ) で あ る 。 CO 2 濃 度 に つ い て は 、 前 節 に 示 し た CO 2 排 出 量 の 増 加 に 伴 い 、
増 加 の 一 途 を た ど っ て い る 。 1960 年 は 316ppm、 1980 年 は 339ppm で あ っ た が 、 2010
年 に お い て は 389ppm に 達 し て い る と さ れ て い る 。気 温 上 昇 に つ い て は 、年 に よ る 変 動
も 大 き い が 、 20 世 紀 後 半 に お い て は 気 温 上 昇 の 傾 向 が 強 い と 見 て 取 れ る 。
気候システムが温暖化しているという事象については、専門家の間でほぼ合意され
て い る と 言 え る が 、と り わ け 、CO 2 を 初 め と す る 人 為 起 源 の 温 室 効 果 ガ ス が 気 温 上 昇 に
ど の 程 度 の 影 響 を 与 え て い る か に つ い て は 、専 門 家 の 間 で も 意 見 が 別 れ る 所 で あ る( 例
え ば 、 文 献 8)に お け る 日 本 人 専 門 家 5 名 の 討 論 参 照 )。 IPCC 第 4 次 評 価 報 告 書 で も 、
平 衡 気 候 感 度 は 2.0~ 4.5℃ が ”likely”と し て お り 、 更 に こ の 範 囲 以 外 の 可 能 性 の 指 摘 も
多くあり、現時点では不確実性の幅は相当大きい。研究が更に進展し不確実性の幅が
小さくなることが望まれるが、いずれにしても、不確実性が大きい中でも温暖化への
対応の意思決定をしていく必要があり、高度なリスクマネージメントが求められる。
また、第 1 章でも触れたように、温暖化政策の優先順位が一般的に低いと見なされる
中での意思決定、対策の推進が必要となる。
400
0.6
390
0.4
380
0.2
気温上昇 [℃]
CO2濃度 [ppm]
370
360
350
340
330
0
1850
1900
1950
2000
‐0.2
‐0.4
320
‐0.6
310
300
1960
1970
図 4.1.2-1
1980
1990
CO 2 濃 度
6)
2000
と気温
2010
7)
‐0.8
の 推 移 (気 温 は 1960~ 1990 年 の 平 均 値 比 )
出 典 : CO2 濃 度 は ハ ワ イ マ ウ ナ ロ ア に お け る CO2 濃 度 観 測 に 基 づ く 値 で あ り 、 NOAA(National
O c e a n i c & A t m o s p h e r i c A d m i n i s t r a t i o n ) の デ ー タ 。ま た 、気 温 上 昇 に つ い て は 、C D I A C ( C a r b o n D i o x i d e
Information Analysis Center)の デ ー タ 。
図 4.1.2-2 は 、 CO 2 以 外 の 温 室 効 果 ガ ス ( GHG) を 含 む 排 出 量 を 1970 年 か ら 2004 年
ま で 整 理 し て い る 。 GHG 排 出 量 は 1970 年 か ら 2004 年 の 間 に 約 70%増 加 し て い る 。 ガ
ス 別 に 見 る と 、CO 2 の 増 加 が と り わ け 大 き く 、そ の 中 で も 前 節 で 示 し た 化 石 燃 料 の 燃 焼
に 伴 う エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 の 割 合 が 大 き い こ と が わ か る 。
大 気 中 の 濃 度 に 関 し て は 、 CO 2 濃 度 は 図 4.1.2-1 に 示 し た よ う に 2005 年 に お い て
379ppm で あ る が 、そ の 他 の GHG も 含 め た 等 価 CO 2 濃 度 は 455ppm-CO 2 eq と さ れ て お り 、
CO 2 以 外 の GHG は 76ppm-CO 2 eq に 相 当 す る と 言 え る 。
- 113 -
図 4.1.2-2
温 室 効 果 ガ ス 排 出 量 (IPCC 第 四 次 評 価 報 告 書 WG3 SPM)
現在から排出削減を相当行ったとしても、既に排出した温室効果ガスの影響で、将
来的に、少なくとも一定程度の温暖化は不可避と見られる。そのため、緩和策と共に
適応策も重要である。適応策は、経済開発と密接であり、経済開発を進めながら、そ
れと調和した形で温暖化適応を進めていくことは極めて重要であるし、それはさほど
大きな追加的費用を必要とせずに実現できる可能性は十分にあると考えられる。
なお、温暖化問題以前に、過去、人類は自然環境への適応の歴史でもあった。現在
までに自然環境に適応してきた例としては、自然環境の影響を大きく受ける農業分野
で の 適 応 が 挙 げ ら れ る 。図 4.1.2-3 は 例 と し て 北 海 道 に お け る 米 の 作 付 品 種 の 変 遷 を 示
している。本来北海道は寒冷な気候のため稲作には向いていなかったが、その環境に
- 114 -
適応して品種改良を行うことにより米の生産を行ってきたことがわかる。しかも、か
なり短期間で品種を変えてきたこともわかる。品種の改良以外にも、灌漑など、農業
における適応手段はたくさんあり、気候変動がある程度予測でき、且つそれほど急激
な変化でなければ、相応の適応は十分可能であると考えられる。
また、水分野における適応策としては、地下水の利用、貯水池やダム建設による貯
留容量の増加、海水淡水化といった対策が考えられるが、それらは、温暖化問題以前
に過去の長い人類の歴史の中で行ってきたものであり、特別新しい対策というわけで
はない。
以上のように、将来の気候変動への適応は、これまでの歴史を振り返っても相応に
可能であると考えられる。勿論、気候変動によって突発的な気象(例:集中豪雨)が
増加し、例として挙げた農業分野や水分野に影響を与えるといったことも考えられる
し、生態系のように人類と異なって適応能力が必ずしも高くないものも多いといった
ふうに様々な問題もあるため、適応策のみに期待しすぎることはすべきではないこと
は言うまでもなく、温暖化緩和と温暖化影響とのバランスを考慮することが重要であ
る。
図 4.1.2-3
北 海 道 に お け る 稲 作 の 歴 史 ( 出 典 : 杉 山 、 ALPS 国 際 シ ン ポ ジ ム
- 115 -
9)
)
4.2
将来の見通し
第 4.1 節 で 見 た よ う に 、 エ ネ ル ギ ー と CO 2 排 出 は 少 な く と も 今 日 ま で は 表 裏 一 体 で
あった。本節では、第 2 章で想定した複数のシナリオについて、エネルギーシステム
モ デ ル DNE21+を 中 心 と し つ つ 各 種 の 定 量 評 価 モ デ ル を 用 い た 分 析 に 基 づ き 、エ ネ ル ギ
ーと気候変動の将来の見通しについて述べる。
4.2.1
温室効果ガス排出削減レベルの違いによるエネルギーの見通し
本 節 で は 、温 室 効 果 ガ ス 排 出 削 減 を 特 段 行 わ な い ベ ー ス ラ イ ン か ら 、CP3.0 ま で の 各
排出削減レベルにおけるエネルギーおよび気候変動の見通しについて述べる。なお、
こ こ で の 分 析 で は 、 社 会 経 済 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ は A( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )、 温
暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ は I( 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ )と
した。
図 4.2.1-1、 図 4.2.1-2 は 、 そ れ ぞ れ の 排 出 削 減 レ ベ ル の シ ナ リ オ を 達 成 達 成 す る た
めに、最も費用効率的に実現するための地域別削減量、部門・技術別削減量を示して
いる。
地域別に見ると、全ての国・地域による排出削減への取り組みが重要であると示さ
れ て い る が 、 費 用 効 率 的 な 削 減 余 地 は 途 上 国 に 大 き い と 言 え る 。 例 え ば 、 CP 3.0 で は
2050 年 の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 で 必 要 な 全 排 出 削 減 量 の う ち 、 約 40%が 中 国 と イ ン
ド の 2 カ 国 に 期 待 さ れ 、 こ れ に 米 国 を 加 え た 3 カ 国 で 55%程 度 の 削 減 と な り 、 こ の 分
担が費用効率的な削減として分析されている。
部門別・技術別に見ると、様々な技術による削減が重要であるが、比較的排出削減
レ ベ ル の 緩 や か な CP4.5 で は 、 発 電 部 門 に お け る 火 力 発 電 の 効 率 向 上 、 化 石 燃 料 間 転
換 、ま た 植 林 に よ る CO 2 固 定 が 費 用 効 率 的 な 対 策 と し て 排 出 削 減 に 寄 与 し て い る 。CP3.7
に な る と 、 そ れ に 加 え て 二 酸 化 炭 素 回 収 貯 留 ( CCS) が 導 入 さ れ 、 CP3.0 で は 更 に 再 生
可能エネルギーの拡大による排出削減への寄与が大きくなる。
費用効率的な排出削減を行うためには、基本的にはここで示すような対応を目指す
ことが望ましい。ただし、この削減見通しは、現実社会における国やセクターなどの
間における投資判断における割引率の違いも含んだ中で費用最小化するポートフォリ
オである。
- 116 -
60 50 AI-CP4.5
10%
6%
12%
8%
8%
40 30 20 10 エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
60 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
AI-CP3.0
10%
40 23%
30 13%
12%
20 10 24%
Other Non‐OECD
12%
Other OME
注1)グラフ横の数値は2050年の
削減率(すべてのシナリオでCP3.0
における総削減量に対する比で表示)
27%
India
注2)ベースラインからの削減効果
40 China
30 17%
Other OECD
15%
20 18%
0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
60 50 AI-CP3.7
50 USA
CO2排出量
10 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
図 4.2.1-1
排出削減のための地域別寄与度
(シ ナ リ オ A-I, エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 分 の み )
70
70
AI-CP4.5
6%
8%
9%
50
3%
5%
14%
40
30
20
AI-CP3.7
14%
6%
12%
50
11%
40
5%
10%
30
16%
20
10
10
0
2000
60
CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
60
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
0
2000
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
70
AI-CP3.0
発電部門:CCS
12%
60
CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
11%
50
14%
10%
40
9%
30
13%
15%
20
発電部門:再生可能
発電部門:原子力
発電部門:効率向上・化石燃料間転換
発電以外のエネルギー転換部門
民生部門
注1)グラフ横の数値は2050年の
削減率(すべてのシナリオでCP3.0
における総削減量に対する比で表示)
注2)ベースラインからの削減効果
であり、ベースラインで比較的削減
が大きく進む部門もある(運輸部門
が代表的)。
運輸部門
産業部門
国際海運・国際航空
10
産業プロセス起源CO2
土地利用起源CO2
0
2000
2005
2010
2015
2020
図 4.2.1-2
2025
2030
2035
2040
2045
2050
CO2排出量
排 出 削 減 の た め の 技 術 別 寄 与 度 (シ ナ リ オ A-I、 全 CO 2 排 出 )
- 117 -
次に、排出削減レベル別にどのような一次エネルギー供給が求められるのかを見る
こ と と す る 。図 4.2.1-3 は 世 界 全 体 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 を 示 し て い る 。ま た 、排 出 削
減の寄与度が大きい発電部門について、排出削減レベル別の世界発電電力量を図
4.2.1-4 に 示 し た 。
一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 は ベ ー ス ラ イ ン で は 着 実 に 増 加 し 、世 界 全 体 で の 2050 年 に お
け る 総 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 は 21,400Mtoe/yr で あ り 、 現 状 の 約 2 倍 に 達 し て い る 。過
去 は 、 約 30 年 間 で 2 倍 に 増 加 し て お り 、 過 去 の 増 加 率 よ り は 緩 や か な も の の 、 そ れ で
も、途上国を中心とした経済発展に伴い、引き続き、エネルギー利用の大きな伸びが
見込まれる。なお、これと同時に、近代的エネルギーへのアクセスに関しては、電力
へ の ア ク セ ス 人 口 の 増 加 ( 非 ア ク セ ス 人 口 は 2009 年 の 13.2 億 人 か ら 2050 年 9.4 億 人
へ 減 少 )や 伝 統 的 な バ イ オ マ ス 燃 焼 へ の 依 存 の 減 少( 利 用 者 は 2009 年 の 26.6 億 人 か ら
2050 年 25.4 億 人 へ 減 少 ) が 見 込 ま れ る 。 後 述 の よ う に 、 こ の よ う な エ ネ ル ギ ー 増 大 は
CO 2 の 増 大 や 持 続 可 能 な エ ネ ル ギ ー 利 用 と い う 点 で 問 題 だ が 、一 方 で 、近 代 的 エ ネ ル ギ
ーへアクセス可能になることによって、労働機会を増やしたり、健康影響を低減した
りも期待でき、持続可能な発展に不可欠な要素でもある。
排 出 削 減 シ ナ リ オ で は 、 2050 年 で は ベ ー ス ラ イ ン で 21,400Mtoe/yr で あ っ た の に 対
し 、 CP6.0 : 20,300Mtoe/yr 、 CP4.5 : 18,800Mtoe/yr 、 CP3.7 : 18,000Mtoe/yr 、 CP3.0 :
17,200Mtoe/yr で あ り 、 エ ネ ル ギ ー 供 給 側 ・ 需 要 側 で 共 に 省 エ ネ ル ギ ー を 促 進 す る こ と
と な る 。エ ネ ル ギ ー 構 成 に 関 し て は 、排 出 削 減 レ ベ ル の 比 較 的 緩 や か な CP6.0 や CP4.5
では石炭の減少、原子力の拡大が見られる。排出削減レベルがより厳しくなると、石
炭の減少・原子力拡大に加え、再生可能エネルギー(バイオマス、太陽光)の拡大を
進める必要がある。
発電部門においては、風力や太陽光など再生可能エネルギーのコスト低減を見込ん
だ と し て も 、 ベ ー ス ラ イ ン で は 石 炭 火 力 や ガ ス 火 力 が 今 後 も 増 加 し 、 2050 年 ま で の 期
間にわたって、石炭火力が総発電電力量の半分程度を占めるような見通しである。原
子 力 に つ い て は 、2020 年 ~ 2050 年 に お い て は 概 ね 4,000 TWh/yr 弱 の 水 準 で あ り 、現 状
よ り 微 増 す る レ ベ ル で あ る 。CO 2 削 減 の 必 要 性 が な い と す る ベ ー ス ラ イ ン で は 、投 資 判
断において高い割引率がとられている国では、原子力のコスト優位性が比較的小さい
ためである。風力発電は総発電電力量に占める割合は限定的であるが、今後着実に増
加 し 2050 年 で は 500TWh/yr に 達 す る 見 通 し で あ る 。 な お 、 太 陽 光 発 電 に つ い て は 、 特
段 の CO 2 排 出 削 減 政 策 を 見 込 ま な い ベ ー ス ラ イ ン に お い て は 、 コ ス ト 低 減 を 見 込 ん だ
としても、特別な政策無しではコストが他の電源より高く、導入が見込まれない。
排 出 削 減 シ ナ リ オ で は 、一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 と 同 様 に 総 発 電 電 力 量 が 減 少 し て お り 、
需 要 側 で の 省 エ ネ が 進 む 。但 し 、CP3.7 や CP3.0 の よ う に 排 出 削 減 レ ベ ル が 厳 し い シ ナ
リオでは、電力の排出原単位を改善するために石炭火力やガス火力、バイオマス火力
に も 大 量 に CCS を 導 入 し 、 CCS に 要 す る 電 力 が 増 加 す る た め に 、 逆 に 総 発 電 電 力 量 は
増 加 に 転 じ て い る 。電 源 の 構 成 に 関 し て は 、CP6.0 で は 石 炭 火 力 の 減 少 、原 子 力 の 拡 大
が ベ ー ス ラ イ ン か ら の 主 た る 変 化 で あ る 。 CP 4.5 に な る と 、 石 炭 火 力 へ の CCS の 普 及
や 風 力 発 電 の 拡 大 と い っ た 対 策 が 追 加 的 に 取 ら れ て い る 。CP3.7 で は 石 炭 火 力 に は ほ ぼ
100%CCS を 導 入 す る と 共 に 、ガ ス 火 力 に つ い て も 大 規 模 に CCS を 導 入 す る 結 果 で あ る 。
- 118 -
ま た 、 CP 3.7 の よ う な 排 出 削 減 レ ベ ル の 2050 年 に な る と 、 太 陽 光 発 電 も 相 当 量 導 入 さ
れ、その発電電力量は風力発電以上に達している(風力発電は太陽光発電よりも安価
で あ る が 、 ポ テ ン シ ャ ル が 太 陽 光 発 電 に 比 べ 相 対 的 に 小 さ な 国 が 多 い 。)。 CP3.0 で は 、
更 な る 太 陽 光 発 電 の 拡 大 の 他 、 バ イ オ マ ス +CCS の 導 入 ( 1,200TWh/yr 程 度 ) が 対 策 と
して導入されている。
一次エネルギー供給 [Mtoe/yr]
25000
20000
太陽光
風力
原子力
15000
水力・地熱
バイオマス
10000
天然ガス
石油
5000
石炭
2005
2020
図 4.2.1-3
2030
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐CP6.0
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐CP6.0
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP6.0
0
2050
ベースラインと排出削減レベル別一次エネルギー供給
(シ ナ リ オ A-I、 世 界 全 体 )
50000
45000
40000
発電電力量 [TWh/yr]
PV
35000
Wind power
30000
Nuclear
25000
Hydro&Geothermal
Biomass+CCS
20000
Biomass
15000
Gas+CCS
10000
Gas
Oil+CCS
5000
Oil
2005
図 4.2.1-4
2020
2030
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐CP6.0
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐CP6.0
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐CP6.0
ALPS A‐Baseline
0
Coal+CCS
Coal
2050
ベ ー ス ラ イ ン と 排 出 削 減 レ ベ ル 別 発 電 電 力 量 (シ ナ リ オ A-I、 世 界 全 体 )
- 119 -
図 4.2.1-5 は 、需 要 部 門 の 一 つ で あ る 運 輸 部 門 の 道 路 交 通 部 門 に お け る CO 2 排 出 削 減
を 示 し て い る 。 道 路 交 通 部 門 で の CO 2 排 出 削 減 対 策 と し て は 、 自 動 車 の 燃 費 改 善 や 燃
料の低炭素化は勿論であるが、交通流対策やエコドライブ等の実際の走行時の燃費を
向上させる対策も重要である。これらの対策はその費用の算定が困難であること、ま
た 、 比 較 的 安 価 に 対 応 で き る 部 分 も 多 い と 見 る ら れ る た め 、 DNE21+モ デ ル で は ベ ー ス
ラインにそれらの効果を織り込んだ形でモデル化している
1 0 ) 、 11 )
。 そ こ で 、 図 4.2.1-5
で は 2005 年 の 輸 送 需 要 ( 走 行 距 離 ) 当 た り CO 2 排 出 量 を 2050 年 ま で 固 定 と し て 評 価
する技術固定ケースを仮想的に想定し、それらの効果やベースラインで見込まれてい
る燃費改善や燃料低炭素化の効果も含めて示している。
ベースラインにおける排出削減については、自動車自体の燃費改善、交通流対策・
エコドライブ等の実走行時の燃費向上、燃料低炭素化の順に寄与度が大きい。自動車
自体の燃費改善については、先進国を中心とするハイブリッド車の普及の他に、従来
か ら の 内 燃 機 関 車 の 燃 費 改 善 に よ っ て 達 成 さ れ て い る 。 図 4.2.1-2 か ら も 見 て 取 れ る
が 、ベ ー ス ラ イ ン か ら CP4.5 ま で は 大 き な 削 減 は 無 い 。排 出 削 減 の 厳 し い CP 3.7 や CP3.0
においては、燃費改善(世界的なハイブリッド車の普及、プラグインハイブリッド車
や電気自動車の導入等)や燃料低炭素化(バイオ燃料の利用拡大や電力排出原単位の
改 善 さ れ た 電 力 の 利 用 ) に よ っ て 2050 年 で は CP3.7: CP4.5 か ら 0.8GtCO 2 /yr の 削 減 、
CP3.0: CP3.7 か ら 2.1GtCO 2 /yr の 削 減 を 行 う と 評 価 さ れ た 。な お 、道 路 交 通 部 門 単 体 で
はなく、運輸部門全体としてのモーダルシフト(鉄道の利用等)等、より広い視野か
らの見通しや排出削減の定量的な分析は今後も重要であると言える。
12000
技術固定ケース
Baselineにおける交通流対策・エコドライブ等
Baselineにおける燃費改善
10000
Baselineにおける燃料低炭素化
CO2排出量・削減量 [MtCO2/yr]
DNE21+モデルのBaseline
Baseline‐CP6.0(燃費改善)
8000
Baseline‐CP6.0(燃料低炭素化)
CP6.0‐CP4.5(燃費改善)
6000
CP6.0‐CP4.5(燃料低炭素化)
CP4.5‐CP3.7(燃費改善)
4000
CP4.5‐CP3.7(燃料低炭素化)
CP3.7‐CP3.0(燃費改善)
2000
CP3.7‐CP3.0(燃料低炭素化)
CP3.0における排出量
0
2005
2010
2015
2020
2025
図 4.2.1-5
2030
2035
2040
2045
2050
道 路 交 通 部 門 に お け る CO 2 排 出 削 減
(シ ナ リ オ A-I、 世 界 全 体 、 Tank to Wheel)
- 120 -
以上のように排出削減レベルに依ってエネルギー需給は大きく変化するが、エネル
ギーセキュリティにどのような影響を及ぼすかについて評価を行った。エネルギーセ
キ ュ リ テ ィ の 概 念 は 様 々 あ る が 、 こ こ で は 、 IEA 1 2 ) 及 び エ ネ ル ギ ー 白 書 2010 年 版
13)
を 参 考 に 作 成 し た 式 (4.2-1) で 表 さ れ る エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標 に よ っ て 評 価 す る
こととした。
(4.2-1)
こ こ で 、r i は 地 域 i の 政 治 リ ス ク 、c o i l /TPES は 一 次 エ ネ ル ギ ー 総 供 給 量 に 占 め る 原 油 の
シ ェ ア 、S i , o i l は 地 域 i か ら の 原 油 輸 入 シ ェ ア で あ る 。(4.2-1)式 は 、国 単 位 で 見 た 石 油 と
ガ ス の 輸 入 の 脆 弱 性 に 着 目 し た 指 標 で あ る 。具 体 的 に は 、1 )一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 に 占 め
る 石 油 ・ ガ ス の 比 率 、 2)石 油 ・ ガ ス の 輸 入 元 集 中 度 、 3)輸 入 元 の 政 治 リ ス ク 、 以 上 3 項
目の積をとった。
特 段 の 温 室 効 果 ガ ス 排 出 削 減 を 行 わ な い ベ ー ス ラ イ ン の 結 果( 2030 年 )を 図 4.2.1-6
に 示 す 。こ の 図 で は 比 較 の た め 2001 年 時 点 の エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標 も 掲 載 し た 。
このように、時間の経過に伴い、セキュリティは脆弱となる結果である。
12,500
Energy security index
2001
Vulnerable
2030
10,000
7,500
5,000
2,500
0
US
図 4.2.1-6
W. Europe
China
ASEAN and
India and S.
SE Asia
Asia
Baseline の 地 域 別 エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標
次 に 、 排 出 抑 制 の 影 響 を 見 る た め 、 ベ ー ス ラ イ ン 、 CP4.5、 CP3.0 の 結 果 を 図 4.2.1-7
に示す。大きな傾向として、欧米諸国は排出抑制を行ってもエネルギーセキュリティ
に大きな変化はない。
これに対し、中国、インドは、排出抑制によりセキュリティ上の脆弱度が増す。こ
れ は 、 1) 中 国 、 イ ン ド 国 内 の CO 2 貯 留 ポ テ ン シ ャ ル が 比 較 的 小 さ い こ と 、 2) 中 国 、
イ ン ド 国 内 に ガ ス 資 源 が 相 対 的 に 少 な い こ と 、 3) 海 外 か ら ガ ス を 輸 入 す る 場 合 、 近 隣
のロシア、中東といった輸出ポテンシャルのある地域に、ガス輸入を集中させること
が経済的であること、などによる。
- 121 -
2050
Energy security index
12,500
A-Baseline
10,000
A-CP4.5
Vulnerable
A-CP3.0
7,500
5,000
2,500
0
US
W. Europe
Japan
China
ASEAN and India and S.
SE Asia
図 4.2.1-7
Asia
2050 年 時 点 排 出 削 減 レ ベ ル 別 エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標
(シ ナ リ オ A-I)
次 に CO 2 削 減 に 要 す る 費 用 を 見 る こ と と す る 。図 4.2.1-8 は 、CO 2 限 界 削 減 費 用 を 示
し て い る 。 CO 2 限 界 削 減 費 用 は 時 点 に 従 っ て 増 加 し 、 2050 年 の CO 2 限 界 削 減 費 用 は
CP6.0 、 CP4.5 、 CP 3.7 、 CP3.0 そ れ ぞ れ で 、 $6/tCO 2 、 $27/tCO 2 、 $152/tCO 2 、 $421/tCO 2
と な る 。 な お 、 世 界 全 体 で の 年 間 の CO 2 削 減 の 総 費 用 は 、 そ れ ぞ れ で 60 billion$/yr、
310 billion$/yr、 970 billion$/yr、 2780 billion$/yr で あ る 。 こ れ は 、 2050 年 の GDP 比 で
は そ れ ぞ れ 0.05%、 0.27%、 0.86%、 2.46%に 相 当 す る 。 モ デ ル 分 析 に お い て は 再 生 可 能
エ ネ ル ギ ー の 費 用 低 減 等 の 技 術 進 歩 は 見 込 ん で い る が 、特 に 、CP3.0 で は 非 常 に 大 き な
負担になっていると言える。
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
450
400
ALPS A-CP6.0
350
300
ALPS A-CP4.5
250
200
ALPS A-CP3.7
150
100
ALPS A-CP3.0
50
0
2000
2010
2020
図 4.2.1-8
2030
2040
CO 2 限 界 削 減 費 用
- 122 -
2050
4.2.2
社会経済の差異によるエネルギーの見通し
本 節 で は 、 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ A ( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )、 B ( 高 位 技 術 進
展シナリオ)の比較分析について述べる。温暖化政策実施における背景状況に関する
シナリオは I とした。
図 4.2.2-1 は 、異 な る 社 会 経 済 状 況 の 下 で 想 定 し た 粗 鋼 生 産 と 乗 用 車 輸 送 需 要 に つ い
て 、 2005 年 を 1 と し て 規 格 化 し た 一 人 当 た り 活 動 量 及 び 活 動 量 を 示 し て い る 。 一 人 当
た り 活 動 量 に つ い て は 、 粗 鋼 生 産 量 、 乗 用 車 輸 送 需 要 共 に 一 人 当 た り GDP が 高 い シ ナ
リオ B の方が大きいと見込んでいる。しかしながら、シナリオ B は人口がより低位で
推移すると見ているため、総活動量としては、共にシナリオ B の方が小さいという見
通しである。その他のエネルギー多消費産業や輸送モード(バス、トラック)につい
ても、活動量はシナリオ B の方が小さいシナリオを想定している。シナリオ B は、サ
ービス部門への以降がシナリオ A よりも早く進むと想定したシナリオになる。
このような活動量のシナリオの下でのベースラインにおけるエネルギー需要部門の
エ ネ ル ギ ー 消 費 を 図 4.2.2-2 に 示 す 。 総 エ ネ ル ギ ー 消 費 は 、 2020 年 、 2030 年 は ほ ぼ 同
じ 水 準 で あ る が 、 2050 年 に お い て は 、 シ ナ リ オ A で 13,000Mtoe/yr、 シ ナ リ オ B で
13,300Mtoe/yr で あ る 。 エ ネ ル ギ ー 多 消 費 産 業 や 運 輸 部 門 で の 活 動 量 が 小 さ い に も 関 わ
らずシナリオ B のエネルギー消費が多いのは、主として民生業務部門において一人当
た り GDP が 高 い シ ナ リ オ B の 需 要 が よ り 伸 び る と 見 込 ま れ る た め で あ る 。ま た 、 エ ネ
ルギー種別の構成に関しては、エネルギー多消費産業や運輸部門での利用が多い固体
燃 料 (燃 焼 に よ る 直 接 熱 利 用 )及 び 液 体 燃 料 は シ ナ リ オ B の 方 が 少 な く 、気 体 燃 料 と 電 力
についてはシナリオ B の方が多い。つまり、エネルギー需要といった観点からは、シ
ナリオ B の方がマクロ的にはより電化が進んでいるシナリオとなる。
2.8
2.2
2.4
活動量 [Y2005=1]
一人当たり活動量 [Y2005=1]
2.6
2
1.8
1.6
1.4
粗鋼生産(Scenario A)
2.2
2
粗鋼生産(Scenario B)
1.8
乗用車輸送(Scenario A)
1.6
乗用車輸送(Scenario B)
1.4
1.2
1.2
1
2005
2015
2025
2035
図 4.2.2-1
2045
1
2005
2015
2025
2035
2045
シ ナ リ オ A、 B に お け る 活 動 量 想 定 (世 界 全 体 )
- 123 -
14000
エネルギー消費 [Mtoe/yr]
12000
Electricity
10000
Gaseous
8000
6000
Liquid
4000
Solid
2000
0
Scenario A Scenario B Scenario A Scenario B Scenario A Scenario B
2005
図 4.2.2-2
2020
2030
2050
エネルギー需要部門のエネルギー種別エネルギー消費
(シ ナ リ オ A、 B、 ベ ー ス ラ イ ン 、 世 界 全 体 ) *電 力 は 1MWh = 0.086toe で 換 算
各 排 出 削 減 レ ベ ル に お け る CO 2 限 界 削 減 費 用 に つ い て シ ナ リ オ A、 B で 比 較 し た も
の を 図 4.2.2-3 に 示 す 。CP6.0、CP4.5 に お い て は 、2050 年 の CO 2 限 界 削 減 費 用 は CP6.0:
シ ナ リ オ A で $6/tCO 2 、 シ ナ リ オ B で $8/tCO 2 、 CP4.5: シ ナ リ オ A で $27/tCO 2 、 シ ナ リ
オ B で $28/tCO 2 で あ り 、 よ り 多 く の ベ ー ス ラ イ ン か ら の 排 出 削 減 が 必 要 と な る シ ナ リ
オ B の 方 が 、 僅 か で は あ る が CO 2 限 界 削 減 費 用 は 高 い 。 し か し 、 よ り 排 出 削 減 レ ベ ル
が 厳 し い CP3.7、 CP3.0 に お い て は 、 2050 年 の CO 2 限 界 削 減 費 用 は CP3.7: シ ナ リ オ A
で $152/tCO 2 、 シ ナ リ オ B で $121/tCO 2 、 CP 3.0: シ ナ リ オ A で $421/tCO 2 、 シ ナ リ オ B
で $327/tCO 2 で あ り 、 逆 に シ ナ リ オ B の 方 が CO 2 限 界 削 減 費 用 は 安 い 。 ま た 、 同 じ く
2050 年 に お け る CO 2 削 減 の 総 費 用 も 、 CP 3.7: シ ナ リ オ A で 970 billion$/yr、 シ ナ リ オ
B で 940 billion$/yr、CP3.0:シ ナ リ オ A で 2780 billion$/yr、シ ナ リ オ B で 2450 billion$/yr
と、全体として必要となる費用もシナリオ B の方が安い。
- 124 -
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
450
400
A-CP6.0
350
A-CP4.5
300
A-CP3.7
250
A-CP3.0
200
B-CP6.0
150
B-CP4.5
100
B-CP3.7
50
B-CP3.0
0
2000
2010
2020
図 4.2.2-3
2030
2040
2050
CO 2 限 界 削 減 費 用
図 4.2.2-4 は 、 CP3.0 に つ い て 、 部 門 別 ・ 技 術 別 削 減 量 を 示 し て い る 。 ベ ー ス ラ イ ン
か ら の 排 出 削 減 が 最 も 大 き い 2050 年 に 着 目 す る と 、削 減 量 に お い て シ ナ リ オ B の 方 が
多 い 技 術 と し て は 、 土 地 利 用 起 源 CO 2 と 発 電 部 門 に お け る CCS や 効 率 向 上 ・ 化 石 燃 料
間転換が挙げられる。
土 地 利 用 起 源 CO 2 に 関 し て は 、 シ ナ リ オ B の 方 が 人 口 は 低 位 に 推 移 す る と 見 通 し て
おり、食料生産に要する土地が少なく余剰耕地がより多く生じているため、植林をよ
り 多 く 実 施 し て い る と い う 結 果 で あ る 。 ま た 、 発 電 部 門 に お け る CCS や 効 率 向 上 ・ 化
石 燃 料 転 換 に よ る 削 減 に つ い て は 、図 4.2.2-2 で 示 し た よ う に シ ナ リ オ B の 電 力 需 要 が
より多いため、電力の排出原単位を改善することで排出削減を図るこれらの技術の導
入 が よ り 増 加 す る と い う 結 果 で あ る 。こ れ ら の 技 術 は 図 4.2.1-2 で 示 し た よ う に 、よ り
排 出 削 減 レ ベ ル が 緩 い CP4.5 で も 費 用 効 率 的 な 対 策 と し て 導 入 さ れ て お り 、 そ の 費 用
は 安 い 。 結 果 と し て 、 CO 2 限 界 削 減 費 用 や CO 2 削 減 総 費 用 は 、 シ ナ リ オ B の 方 が シ ナ
リ オ A よ り 安 く な っ て い る 。 過 去 、 経 済 成 長 と CO 2 排 出 の 間 に は 正 の 相 関 が 見 ら れ 、
本 分 析 で も ベ ー ス ラ イ ン に お け る CO 2 排 出 量 は よ り 経 済 成 長 が 進 む シ ナ リ オ B の 方 が
多いとされた。しかしながら、厳しい排出削減を行うとき、ベースラインでの排出量
が大きいと見込まれる高経済成長状況の方が、大きな排出削減費用が必要になるとい
うわけではなく、むしろ、厳しい排出削減には高経済成長の方が望ましい可能性が示
唆された。
- 125 -
70
CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr]
60
発電部門:CCS
発電部門:再生可能
発電部門:原子力
50
発電部門:効率向上・化石燃料間転換
発電以外のエネルギー転換部門
40
民生部門
運輸部門
産業部門
30
国際海運・国際航空
プロセス起源CO2
20
土地利用起源CO2
CO2排出量
10
Scenario A
Scenario B
2020
図 4.2.2-4
4.2.3
Scenario A
Scenario B
Scenario A
2030
Scenario B
2050
排 出 削 減 の た め の 技 術 別 寄 与 度 の 比 較 (CP3.0、 全 CO 2 排 出 )
温暖化政策実施における背景状況の差異によるエネルギーの見通し
本 節 で は 、温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ I、II、III の 比 較 分 析
について述べる。社会経済に関するシナリオは A とした。
図 4.2.3-1 は 、ベ ー ス ラ イ ン に お け る シ ナ リ オ I~ III に お け る 技 術 選 択 の 比 較 と し て 、
発 電 電 力 量 の 結 果 を 示 し て い る 。 シ ナ リ オ I や III で は 、 効 率 が 悪 く て も 初 期 投 資 費 用
が 安 い 技 術 が 導 入 さ れ て い る 一 方 、 シ ナ リ オ II で は そ れ と 比 べ て 高 効 率 な 石 炭 火 力 の
ような初期投資費用が高くても長期の判断では費用効率的な技術が導入されている。
図 4.2.3-2 は 技 術 選 択 に 大 き な 差 異 の あ る シ ナ リ オ I と II に つ い て 、CO 2 限 界 削 減 費
用 の 比 較 を 行 っ て い る 。例 え ば 、シ ナ リ オ I で は CP3.0 に お い て は 2050 年 で $421/tCO 2
と 非 常 に 高 い CO 2 限 界 削 減 費 用 で あ る が 、シ ナ リ オ II で は $267/tCO 2 で あ る 等 、シ ナ リ
オ II の CO 2 限 界 削 減 費 用 が 安 く な っ て い る 。
図 4.2.3-1 で 示 し た よ う に 初 期 投 資 費 用 が 高 く て も 長 期 の 判 断 で は 費 用 効 率 的 な 技
術が導入されるよう、長期的な視野に立った投資判断がされるような経済社会(主観
的な割引率が小さい状態)への誘導(適切なラベリングによって省エネに関する情報
を 容 易 に 得 や す く す る 、 エ ネ ル ギ ー ・ 環 境 教 育 の 充 実 等 ) に よ り 、 よ り 安 い CO 2 限 界
削減費用での排出削減達成が可能となることがこの結果より示唆される。しかしなが
ら、主観的な割引率は各国、各セクターの経営形態、経済状況等にも深く関係してお
り、その変革は容易ではなく、それほど単純な話ではない。一方で、各主体の意思決
定においては限定合理的な行動も多く見られ、それが高い主観的割引率の一因ともな
っている。よって、セクター毎の基準設定、規制、ラベリング等の手法は、その限定
合理的な行動を是正しナッジする(少し誘導し是正する)手段として重要である。こ
- 126 -
のような限定合理的な行動を是正する賢い政策手段をとった時の暗示的な炭素価格が
シ ナ リ オ II で 分 析 さ れ た CO 2 限 界 削 減 費 用 と 解 釈 す る こ と も で き る 。 こ の 時 、 シ ナ リ
オ I に 比 べ 、よ り 小 さ な 限 界 削 減 費 用 で 同 じ 排 出 削 減 レ ベ ル を 達 成 で き る 可 能 性 が あ る
と言える。
50000
太陽光
45000
風力
バイオマス(高効率)
40000
発電電力量 [TWh/yr]
バイオマス(低効率)
35000
水力・地熱
30000
原子力
ガス(熱併給)
25000
ガス(高効率)
20000
ガス(中効率)
15000
ガス(低効率)
10000
石油(熱併給)
石油(高効率)
5000
石油(中効率)
2005
2020
2030
Scenario III
Scenario II
Scenario I
Scenario III
Scenario II
Scenario I
Scenario III
Scenario II
Scenario I
0
石油(低効率)
石炭(高効率)
石炭(中効率)
石炭(低効率)
2050
図 4.2.3-1 ベ ー ス ラ イ ン に お け る 世 界 の 発 電 電 力 量 の シ ナ リ オ I~ III の 比 較
(シ ナ リ オ A)
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
450
400
I-CP6.0
350
I-CP4.5
300
I-CP3.7
250
I-CP3.0
200
II-CP6.0
150
II-CP4.5
100
II-CP3.7
50
II-CP3.0
0
2000
2010
2020
2030
2040
2050
図 4.2.3-2 シ ナ リ オ I、 II に お け る CO 2 限 界 削 減 費 用 の 比 較 (シ ナ リ オ A)
- 127 -
次 に 、 シ ナ リ オ I と III の 比 較 か ら 、 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 が 優 先 さ れ る よ う な 場 合 に
はどのようにエネルギーの見通しが変わる可能性があるのかについて述べる。図
4.2.3-3 に は 、 石 炭 利 用 の 多 い 中 国 及 び イ ン ド に お け る 発 電 電 力 量 に つ い て 、 シ ナ リ オ
I と シ ナ リ オ III の 比 較 を 示 し て い る 。 シ ナ リ オ I で は 排 出 削 減 レ ベ ル が 厳 し く な る に
従 い 、両 国 の 石 炭 火 力 の 利 用 は 大 き く 減 少 す る 結 果 で あ る が 、シ ナ リ オ III で は エ ネ ル
ギーセキュリティに配慮した中で対策をとる結果、石炭火力減少の度合いが小さくな
っ て い る 。 特 に イ ン ド に つ い て は そ の 傾 向 が 顕 著 で あ り 、 ベ ー ス ラ イ ン か ら CP4.5 ま
で は 石 炭 火 力 の シ ェ ア が 最 も 大 き い 。 た だ し 、 CP 3.7、 CP3.0 と 更 に 排 出 削 減 レ ベ ル が
厳 し く な る と 、 大 幅 な CO 2 削 減 が 不 可 避 で あ る た め 、 石 炭 火 力 の 発 電 電 力 量 は シ ナ リ
オ III で も シ ナ リ オ I と 同 様 の レ ベ ル と な る 。
中 国 ( シ ナ リ オ I)
中 国 ( シ ナ リ オ III)
12000
12000
10000
10000
発電電力量 [TWh/yr]
発電電力量 [TWh/yr]
PV
8000
6000
4000
2000
Wind power
8000
Nuclear
Hydro&Geothermal
6000
Biomass+CCS
Biomass
4000
Gas+CCS
Gas
2000
Oil+CCS
0
Oil
2050
イ ン ド ( シ ナ リ オ I)
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP6.0
2030
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP6.0
2020
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP6.0
2005
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP6.0
2030
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP6.0
2020
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP6.0
2005
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐Baseline
0
Coal+CCS
Coal
2050
イ ン ド ( シ ナ リ オ III)
5000
5000
4500
4500
4000
4000
3500
3500
Biomass
1500
2020
図 4.2.3-3
2030
Gas+CCS
Gas
Oil+CCS
2005
2020
2030
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐CP6.0
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐CP6.0
ALPS A‐Baseline
2050
ALPS A‐Baseline
Oil
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐CP6.0
ALPS A‐Baseline
ALPS A‐CP3.0
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐CP6.0
0
ALPS A‐Baseline
0
ALPS A‐CP3.0
500
ALPS A‐CP3.7
500
ALPS A‐CP4.5
1000
ALPS A‐CP6.0
1000
2005
Biomass+CCS
ALPS A‐CP3.0
1500
Hydro&Geothermal
2000
ALPS A‐CP3.7
2000
Nuclear
2500
ALPS A‐CP4.5
2500
Wind power
3000
ALPS A‐CP6.0
発電電力量 [TWh/yr]
3000
ALPS A‐Baseline
発電電力量 [TWh/yr]
PV
Coal+CCS
Coal
2050
中 国 ・ イ ン ド の 発 電 電 力 量 の シ ナ リ オ I と III の 比 較 (シ ナ リ オ A)
- 128 -
図 4.2.3-4 は シ ナ リ オ 毎 の エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標 を 評 価 し た も の で あ る 。シ ナ
リ オ I と シ ナ リ オ III を 比 べ る と 、 各 地 域 に お い て シ ナ リ オ III に お け る エ ネ ル ギ ー セ
キュリティの脆弱度は、シナリオ I に比べて緩和されていることが見て取れる。但し、
CP3.0 の よ う に 排 出 削 減 レ ベ ル が 非 常 に 厳 し い シ ナ リ オ で は 、 図 4.2.3-3 に 示 し た よ う
に 2050 年 の イ ン ド に お け る 電 源 構 成 は シ ナ リ オ I と シ ナ リ オ III で 差 異 は 無 く 、 エ ネ
ルギーセキュリティ指標もほぼ同じと脆弱度の緩和が図れない結果である。
10,000
Vulnerable
Energy Security index
2050, Scenario I
7,500
2050, Scenario III (Addiotnal Tax case)
5,000
2,500
US
W. Europe
図 4.2.3-4
Central and Eastern Europe
China
A‐CP3.0
A‐CP4.5
A‐Baseline
A‐CP3.0
A‐CP4.5
A‐Baseline
A‐CP3.0
A‐CP4.5
A‐Baseline
A‐CP3.0
A‐CP4.5
A‐Baseline
A‐CP3.0
A‐Baseline
A‐CP4.5
0
India
2050 年 時 点 に お け る シ ナ リ オ I と III の
エネルギーセキュリティ指標比較
図 4.2.3-5 は シ ナ リ オ I と III に つ い て 2030 年 の CO 2 限 界 削 減 費 用 の 比 較 を 示 し て い
る 。両 シ ナ リ オ の CO 2 限 界 削 減 費 用 は 似 通 っ た レ ベ ル で あ る が 、シ ナ リ オ III の 方 が 数
ド ル 程 度 高 い 。こ れ は 、エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ に 配 慮 し て 、図 4.2.3-3 に 示 し た よ う
70
62 57 60
50
28 31 Scenario III
30
Scenario I
40
ALPS A‐CP6.0
ALPS A‐CP4.5
ALPS A‐CP3.7
Scenario III
1 10 Scenario I
0 9 Scenario III
0
Scenario III
10
Scenario I
20
Scenario I
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
に石炭を利用することによる影響であると言える。
ALPS A‐CP3.0
図 4.2.3-5 シ ナ リ オ I、 I II に お け る CO 2 限 界 削 減 費 用 の 比 較 (シ ナ リ オ A、 20 30 年 )
- 129 -
4.2.4
気候変動
図 4.2.4-1 に 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ A、B そ れ ぞ れ の ベ ー ス ラ イ ン と CP6.0~ 3.0
の排出抑制シナリオに対する全球平均気温(産業革命前比)を示す。計算には、簡易
気 候 変 動 モ デ ル MAGICCver6 1 4 ) 、 1 5 ) ( 気 候 感 度 3.0°C) を 用 い た 。 そ れ に よ る と 、 A-ベ
ー ス ラ イ ン 、A-CP6.0、A-CP4.5、A-CP3.7、A-CP3.0 の 2050 年 の 全 球 平 均 気 温( 産 業 革
命 前 比 ) は そ れ ぞ れ 2.4、 2.3、 2.1、 2.0、 1.8°C、 2100 年 の 同 気 温 は そ れ ぞ れ 4.1、 3.3、
2.8、 2.3、 1.9°C で あ る 。 な お 、 B-ベ ー ス ラ イ ン は 、 高 い 経 済 成 長 見 通 し に よ り 、 A-ベ
ー ス ラ イ ン に 比 べ CO 2 及 び 非 CO 2 GHGs の 排 出 量 が 少 し 高 く 見 込 ま れ 、 2100 年 の 気 温
で 0.2°C 程 高 い 値 に な っ て い る 。
7
ALPS A-Baseline
6
Surface temperature
relative to pre-industrial (K)
ALPS A-CP6.0
5
ALPS A-CP4.5
ALPS A-CP3.7
4
ALPS A-CP3.0
ALPS B-Baseline
3
RCP8.5
RCP6.0
2
RCP4.5
1
RCP3PD
0
1990
2010
2030
図 4.2.4-1
2050
2070
2090
2110
2130
2150
全球平均気温上昇(産業革命前比)
図 4.2.4-2 は 、 IPCC 第 四 次 評 価 報 告 書 で 整 理 さ れ て い る 温 暖 化 影 響 の 推 定 を 示 し て
い る 。 全 球 平 均 気 温 が 1990 年 比 で 約 2~ 3 ℃ 以 上 ( 産 業 革 命 前 比 約 2.5~ 3.5℃ 以 上 ) の
場合、全ての地域で正味の便益(排出削減費用は含まない)が減少する可能性が非常
に 高 い と さ れ て い る 。 本 分 析 に お い て は 、 シ ナ リ オ A、 B 共 に 2050 年 以 降 に 産 業 革 命
前 比 2.5℃ 以 上 と な る と 共 に 、CP 6.0 に つ い て は 2060 年 頃 以 降 、CP4.5 に つ い て は 2070
年 頃 以 降 に 産 業 革 命 前 比 2.5℃ 以 上 と 算 定 さ れ て お り 、温 暖 化 影 響 被 害 が 大 き く な る こ
とが予測されていると言える。
但 し 、図 4.2.4-2 の 推 定 に お い て は 気 候 変 動 へ の 適 応 が 考 慮 さ れ て い な い こ と 、ま た 、
便益の推定には温暖化緩和のための排出削減費用が含まれていないことに注意が必要
である。温暖化問題を考える際には、基本的には、温暖化緩和、適応、影響被害コス
ト が バ ラ ン ス す る 対 策 が 望 ま れ る 。図 4.2.4-3 は 、左 図 が 適 応 策 レ ベ ル と 温 暖 化 影 響 被
害低減のバランス点のイメージ、右図がその影響低減後の影響被害コストと緩和コス
トとのバランスのイメージである。このように、最適な温暖化適応策・適応レベル、
最適な緩和策・緩和レベルを探るべきであり、緩和策だけ、適応策だけといったこと
- 130 -
は避けるべきである。こうした総合的な評価については、今後も検討を進めることが
重要と考えられる。
2℃目標(産業革命以前比。90年比では1.5℃)
図 4.2.4-2
温 暖 化 影 響 の 推 定 (IPCC 第 4 次 評 価 報 告 書 )
注:気候変動への適応は考慮されていない
図 4.2.4-3
温 暖 化 適 応 、温 暖 化 影 響 、緩 和 コ ス ト の 関 係( 出 典:Patt et al., 2010 1 6 ) )
- 131 -
Box 8: 気 候 感 度 に 関 す る 最 新 の 研 究 動 向
気 候 感 度 の 値 に 関 し て は 、気 候 科 学 者 の み な ら ず 、気 候 変 動 の 影 響 や 緩 和 に 関 す る 専
門 家 の 間 で も 高 い 関 心 が あ る 。そ れ は 、G H G の 排 出 と 全 球 気 温 上 昇 と を 関 係 つ け る 重 要
な 物 理 定 数 で あ る 。 正 確 に は 、 CO2 等 価 濃 度 が 2 倍 に な っ た と き の 全 球 平 均 気 温 上 昇 値
(平衡値)である。しかし、気候システムは大規模で複雑であるため、気候科学者の大
き な 努 力 に も か か わ ら ず 、現 在 に お い て な お 大 き な 不 確 定 性 幅 を 有 し 、気 候 科 学 に お け
る 最 大 の 不 確 定 性 と さ れ て い る 。 IPCC の 第 3 次 評 価 報 告 書 ( 2001) で は 最 良 値 と し て
2.5℃ ( 66%幅 ; 1.5–4.5℃ ) と 評 価 さ れ て い た が 、 第 4 次 評 価 報 告 書 ( 2007) で は 3.0℃
( 66%幅 ; 2–4.5℃ ) と 評 価 さ れ た 。 そ の 後 の 研 究 も 加 え た 評 価 は 第 5 次 評 価 報 告 書 を 待
つよりないが、ここでは、その後の研究報告をランダムにいくつか見てみよう。
国 立 環 境 研 究 所 、 東 京 大 学 等 の 国 内 チ ー ム 1)は 、 新 し く 気 候 モ デ ル を 走 ら せ る 実 験 を
行 い 、気 候 感 度 の 評 価 を 行 っ た 。気 候 感 度 の幅 を 生 じ さ せ る と も の と し て 、気 候 モ デ ル
の物理スキームの構造の違いによるものと物理スキーム内のパラメータの違いによる
も の の 2 種 類 が 考 え ら れ る が 、後 者 に 関 し て は 研 究 例 が 少 な く 、こ の 研 究 は こ の 後 者 の
評 価 を 目 指 し た も の で あ る 。パ ラ メ ー タ を 振 っ て も 大 気 上 端 で の 放 射 収 支 が 変 化 し な い
よ う な パ ラ メ ー タ の 組 み 合 わ せ を 求 め る 方 法 を 開 発 し 、 約 30 の ケ ー ス に つ い て フ ル の
大 気 海 洋 結 合 モ デ ル を 用 い て 計 算 を 行 っ た 。そ し て 、最 良 値 は 2 . 8 ℃ 強 、全 幅 は 2 . 2 – 3 . 4 ℃ 、
1 0 ~ 9 0 % 幅 は 約 2 . 7 ~ 3 . 0 ℃ と の 評 価 結 果 を 得 て い る 。( 現 実 に は 、 こ れ に 、 物 理 ス キ ー ム
の構造の差による幅が重畳されることに注意)
Schmittner ら 2)は 、 最 終 氷 河 期 ( LGM) の 陸 域 、 海 域 の 気 温 を 再 現 し 、 こ れ ら か ら 気
候 感 度 を 2 . 3 ℃ 、6 6 % 幅 を 1 . 7 ~ 2 . 6 ℃ と 他 の 研 究 に 比 し か な り 低 く 見 積 も っ て い る 。こ の
実 験 の 利 点 と し て 、 著 者 ら は LGM と 現 代 と の 気 温 差 、 CO2 濃 度 差 が 大 き く 信 号 ・ 雑 音
比 が よ い こ と 、L G M の 気 候 は 平 衡 状 態 に 近 く 海 洋 熱 吸 収 の 遷 移 状 態 に お け る 不 確 定 性 を
避 け ら れ る こ と を 挙 げ て い る 。ま た 、L G M デ ー タ を 用 い た こ れ ま で の 研 究 に 比 べ 気 候 感
度 が 低 い 値 と な っ た 理 由 と し て 、 以 下 を 挙 げ て い る 。 ま ず 、 今 回 の LGM 再 現 気 温 が 過
去 の 研 究 に 比 し 高 い こ と 、 次 に 、 今 回 の LGM 再 現 気 温 の 空 間 的 デ ー タ カ バ レ ッ ジ が 広
い こ と ( こ れ に よ り 再 現 平 均 気 温 が 高 く な っ て い る と の こ と )、 3 つ 目 と し て 、 過 去 の
LGM 研 究 の い く つ か に お い て は ダ ス ト レ ベ ル が 高 か っ た と い う 十 分 な 証 拠 が あ る に も
か か わ ら ず ダ ス ト の 放 射 強 制 力 を 無 視 し て い る こ と( こ の こ と が 過 去 の 研 究 に お い て 高
い気候感度につながっているとのこと)を挙げている。
Lindzen ら 3)は 、 計 算 機 に よ る モ デ ル 計 算 で は な く 、 観 測 値 に 基 づ く 気 候 感 度 の 値 の
評価を行っている。用いた観測値は、海表面温度の振れ、大気上端での放射の振れ(二
つ の 衛 星 観 測 に よ る も の )で あ り 、そ の 結 果、モ デ ル 実 験 は 気 候 感 度 の 分 布 を 過 大 評 価
している可能性のあることを指摘している。
Annan ら 4)は 、 気 候 感 度 の 高 い 側 に つ い て 、 ベ イ ズ の 定 理 を 使 用 す れ ば 不 確 定 性 を 大
幅 に 小 さ く で き る と し て 、気 候 感 度 が 4 . 5 ℃ を 超 え る 確 率 は あ り そ う に な い と し て い る 。
大 き な 気 候 モ デ ル を 用 い た 実 験 は 費 用 が か か る の で 、異 な る ふ た つ の 実 験 結 果 を 組 み
合 わ せ 実 効 的 に サ ン ブ ル 数 を 増 大 さ せ る こ と に よ り 、よ り よ い 統 計 結 果 を 導 く 手 法 が 開
発 さ れ て き た が 、 Rougier ら 5)は 、 ハ ド レ ー セ ン タ ー の 気 候 感 度 を 計 算 す る ス ラ ブ モ デ
ル に 適 用 す る た め の エ ミ ュ レ ー タ ー 構 築 を 行 っ て お り 、気 候 感 度 を 決 定 す る 重 要 パ ラ メ
ー タ の 同 定 、気 候 感 度 の 不 確 定 性 幅 の 評 価 を 行 っ て い る 。気 候 感 度 に つ い て の 結 果 は 従
来 と あ ま り 変 わ ら ず 。そ の 値 の 分 布 は 高 い 値 の 側 に 長 い 尾 を 引 い て お り 、不 確 定 性 幅 を
大幅には縮小していない。
ま た 、 Danabasoglu ら
6)
は、気候感度の値そのものを議論するものではないが、その
方 法 論 に 関 し て 、気 候 感 度 を 求 め る 際 に よ く 利 用 さ れ る ス ラ ブ モ デ ル( フ ル の 大 気 海 洋
結 合 モ デ ル よ り は 簡 易 な モ デ ル )で は 、フ ル の 大 気 海 洋 結 合 モ デ ル を 使 用 し た 場 合 よ り
気 候 感 度 が 0.14℃ 低 く 評 価 さ れ る こ と を 指 摘 し て い る 。
- 132 -
( Box 8
続き)
し か し 、気 候 感 度 の 高 い 側 に は 相 変 わ ら ず 大 き な 不 確 定 性 が あ る よ う で あ り 、か な り
の 数 の 報 告 7)~ 9)が 従 来 の 分 布 と あ ま り 変 わ ら な い こ と を 支 持 し て い る 。 ま た 、 2008 年
の レ ビ ュ ー 論 文 1 0 ) で も 、分 布 の 下 側 は 制 限 で き て も 上 側 の 制 限 は は る か に 難 し い と 指 摘
している。さらに、国内のある気候専門家は、気候感度値の分布幅の縮小には、現代気
候 を 用 い た 検 証 が 必 要 で あ り 、 そ の た め に は 気 温 上 昇 が も う 少 し 進 展 す る 2030 年 ご ろ
までかかるのではないかとしている。
以 上 、最 近 の 文 献 の 一 端 を 紹 介 し た が 、こ れ ら 文 献 の 評 価 を 行 う こ と は 非 専 門 家 の 能
力 を 超 え て い る 。今 後 、気 候 感 度 の 値 と そ の 不 確 定 性 幅 の 評 価 に 関 し て は 、2 0 1 3 年 に 刊
行 予 定 の IPCC 第 5 次 評 価 報 告 書 に ゆ だ ね る ほ か な い 。
参考文献
1)
塩 竃 他 :「 気 候 感 度 の 物 理 パ ラ メ ー タ 不 確 実 性 の メ カ ニ ズ ム と 制 約 」、 第 8 回 「 異 常
気 象 と 長 期 変 動 」 研 究 集 会 、 講 演 プ ロ シ ー デ ィ ン グ ( 2 0 11 )
2)
A . S c h m i t t n e r e t a l . : C l i m a t e S e n s i t i v i t y E s t i m a t e d f r o m Te m p e r a t u r e R e c o n s t r u c t i o n s o f
t h e L a s t G l a c i a l M a x i m u m , S c i e n c e , 3 3 4 ( 6 0 6 1 ) , 1 3 8 5 – 1 3 8 8 ( 2 0 11 )
3)
R . S . L i n d z e n a n d Y. C h o i : O n t h e o b s e r v a t i o n a l d e t e r m i n a t i o n o f c l i m a t e s e n s i t i v i t y a n d
i t s i m p l i c a t i o n s , A s i a - P a c i f i c J o u r n a l o f A t m o s p h e r i c S c i e n c e s , 4 7 ( 4 ) , 3 7 7 – 3 9 0 ( 2 0 11 )
4)
J . D . A n n a n a n d J . C . H a rg r e a v e s : U s i n g m u l t i p l e o b s e r v a t i o n a l l y - b a s e d c o n s t r a i n t s t o
e s t i m a t e c l i m a t e s e n s i t i v i t y, G e o p h y s i c a l R e s e a rc h L e t t e r s , 3 3 , L 0 6 7 0 4 ( 2 0 0 6 )
5)
J. Rougier et al.: Analyzing the Climate Sensitivity of the HadSM3 Climate Model Using
E n s e m b l e s f r o m D i ff e r e n t b u t R e l a t e d E x p e r i m e n t s , J o u r n a l o f C l i m a t e , 2 2 , 3 5 4 0 – 3 5 5 7
(2009)
6)
G. D a n a b a s o g l u a n d P. R . G e n t : E q u i l i b r i u m C l i m a t e S e n s i t i v i t y : I s I t A c c u r a t e t o U s e a
Slab Ocean Model?, Journal of Climate, 22, 2494–2499 (2009)
7)
J . H a n s e n e t a l . : Ta rg e t a t m o s p h e r i c C O 2 : W h e r e S h o u l d H u m a n i t y A i m ? , T h e O p e n
Atmospheric Science Journal, 2, pp.217–231 (2008)
8)
D . W. L e a : T h e 1 0 0 0 0 0 - Y r C y c l e i n Tr o p ic a l S S T, G r e e n h o u s e F o r c i n g , a n d C l i m a t e
S e n s i t i v i t y, J o u r n a l o f C l i m a t e , 1 7 , 2 1 7 0 – 2 1 7 9 ( 2 0 0 4 )
9)
T. S . v o n D e i m l i n g e t a l . : C l i m a t e s e n s i t i v i t y e s t i m a t e d f r o m e n s e m b l e s i m u l a t i o n s o f
glacial climate, Climate Dynamics, 27(2-3), 149–163 (2006)
1 0 ) R . K n u t t i a n d G. C . H e g e r l : T h e e q u i l i b r i u m s e n s i t i v i t y o f t h e E a r t h ' s t e m p e r a t u r e t o
r a d i a t i o n c h a n g e s , N a t u re G e o s c i e n c e , 1 ( 11 ) , 7 3 5 – 7 4 3 ( 2 0 0 8 )
4.2.5
その他のシナリオ分析から得られる見通し
本 節 で は 、第 2.1.4 節 で 想 定 し た 複 数 の サ ブ シ ナ リ オ に つ い て 分 析 を 行 う 。こ こ で の
分 析 で は 、 社 会 経 済 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ は A( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )、 温 暖 化 政 策
実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ は I( 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ ) と し た 。
各種サブシナリオに対し、前節までに述べたモデル分析については、本節では標準
シナリオと呼ぶ。
- 133 -
(1) 原 子 力 低 位 シ ナ リ オ
標 準 シ ナ リ オ と 原 子 力 低 位 シ ナ リ オ に お け る 世 界 全 体 発 電 電 力 量 の 比 較 を 、 CP4.5、
CP3.7 及 び CP3.0 に つ い て 図 4.2.5-1 に 示 す 。 CP 4.5 で は 、 原 子 力 が 拡 大 で き な い 代 替
と し て 石 炭 火 力 や ガ ス 火 力 が よ り 多 く 導 入 さ れ る 。 2050 年 に お い て は 、 CCS を 付 け た
石 炭 火 力 や ガ ス 火 力 の 増 加 も 見 ら れ る 。 CP3.7 で は 、 標 準 シ ナ リ オ に 比 べ 、 更 に CCS
を付けた石炭火力・ガス火力の拡大が更に進む他、太陽光発電の普及拡大が排出削減
の た め の 対 策 と し て 取 ら れ て い る 。 CP3.0 に つ い て も 同 じ よ う に CCS 及 び 太 陽 光 発 電
が標準ケースに比べてより多く導入される。結果として、電力排出原単位は排出削減
を行うシナリオでは標準シナリオと大きな差異は無い。原子力が拡大できない代替と
し て 石 炭 火 力 +CCS や ガ ス 火 力 +CCS 及 び 太 陽 光 発 電 を 拡 大 す る こ と に よ り 、 電 力 排 出
原単位を標準シナリオと同等まで改善する結果と言える。ただし、標準シナリオにお
け る CP3.0 ケ ー ス で も 同 じ よ う な 課 題 は あ る が 、 こ れ ほ ど ま で に 大 き く CCS や 太 陽 光
発電を拡大することが、以下に述べるコストの問題以外でも、現実に実施可能かとい
う疑問は残る。
図 4.2.5-2 は 、標 準 シ ナ リ オ と 原 子 力 低 位 シ ナ リ オ に お け る CO 2 限 界 削 減 費 用 を 示 し
て い る 。 排 出 削 減 レ ベ ル が 緩 や か な CP6.0 及 び CP4.5 に つ い て は 、 比 較 的 安 価 な CCS
で 代 替 す る こ と に よ り 、い ず れ も 大 き な 差 異 は 生 じ て い な い 。CP3.7 や CP3.0 に つ い て
は 、 図 4.2.5-1 に 示 し た よ う に 太 陽 光 発 電 の 普 及 拡 大 も 必 要 と な る た め 、 CO 2 限 界 削 減
費 用 は 上 昇 す る 。 2050 年 に お け る CO 2 限 界 削 減 費 用 は 、 CP3.7 で 標 準 シ ナ リ オ :
$152/tCO 2 、 原 子 力 低 位 シ ナ リ オ : $166/tCO 2 、 CP3.0 で 標 準 シ ナ リ オ : $421/tCO 2 、 原 子
力 低 位 シ ナ リ オ : $445/tCO 2 、 で あ る 。 な お 、 CO 2 削 減 総 費 用 に つ い て は 、 CP 3.7 で 標
準 シ ナ リ オ : 970 billion$/yr、 原 子 力 低 位 シ ナ リ オ : 1080 billion$/yr、 CP3.0 で 標 準 シ ナ
リ オ : 2780 billion$/yr、 原 子 力 低 位 シ ナ リ オ : 2940 billion$/yr で あ る 。
- 134 -
CP3.7
40000
40000
35000
35000
20000
15000
0
2005
原子力低位シナリオ
標準シナリオ
標準シナリオ
2020
2030
標準シナリオ
5000
0
原子力低位シナリオ
10000
5000
原子力低位シナリオ
10000
2005
2050
2020
原子力低位シナリオ
15000
25000
標準シナリオ
20000
原子力低位シナリオ
25000
30000
標準シナリオ
30000
原子力低位シナリオ
発電電力量 [TWh/yr]
45000
標準シナリオ
発電電力量 [TWh/yr]
CP4.5
45000
2030
2050
CP3.0
45000
40000
PV
30000
Wind power
25000
Nuclear
20000
Hydro&Geothermal
Biomass+CCS
15000
Biomass
10000
Gas+CCS
5000
Gas
Oil+CCS
2005
2020
図 4.2.5-1
2030
原子力低位シナリオ
標準シナリオ
原子力低位シナリオ
標準シナリオ
標準シナリオ
原子力低位シナリオ
0
Oil
Coal+CCS
Coal
2050
標準シナリオと原子力低位シナリオにおける発電電力量の比較
(世 界 全 体 、 シ ナ リ オ A-I)
500
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
発電電力量 [TWh/yr]
35000
450
ALPS A-CP6.0(標準シナリオ)
400
ALPS A-CP4.5(標準シナリオ)
350
ALPS A-CP3.7(標準シナリオ)
300
ALPS A-CP3.0(標準シナリオ)
250
ALPS A-CP6.0(原子力低位シナリオ)
200
ALPS A-CP4.5(原子力低位シナリオ)
150
ALPS A-CP3.7(原子力低位シナリオ)
100
ALPS A-CP3.0(原子力低位シナリオ)
50
0
2000
図 4.2.5-2
2010
2020
2030
2040
2050
標 準 シ ナ リ オ と 原 子 力 低 位 シ ナ リ オ に お け る CO 2 限 界 削 減 費 用 の 比 較
(シ ナ リ オ A-I)
- 135 -
表 4.2.5-1 は 、標 準 シ ナ リ オ と 原 子 力 低 位 シ ナ リ オ に お け る 地 域 別 の エ ネ ル ギ ー 起 源
CO 2 排 出 量 を 整 理 し て い る 。排 出 削 減 シ ナ リ オ や 時 点 に よ っ て 若 干 変 化 す る も の の 、基
本的に日本を初めとする先進国では標準シナリオに比べて原子力低位シナリオのエネ
ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 が 多 く 、 逆 に 途 上 国 で は 標 準 シ ナ リ オ に 比 べ て 原 子 力 低 位 シ ナ
リ オ の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 が 少 な い 。 つ ま り 、 世 界 全 体 で 最 も 費 用 効 率 的 に 排
出 削 減 分 担 が な さ れ る( CO 2 限 界 削 減 費 用 が 均 等 化 す る )と し て い る た め 、原 子 力 シ ナ
リ オ で は 標 準 シ ナ リ オ に 比 べ て CO 2 貯 留 ポ テ ン シ ャ ル が 大 き い 国 で よ り 多 く の 排 出 削
減を行うような排出削減分担になっていると言える。このように世界全体で最も費用
効 率 的 な 排 出 削 減 分 担 が な さ れ る 場 合 に は 費 用 へ の 影 響 は 図 4.2.5-2 の よ う に な る が 、
途上国でより多くの排出削減を行うこととなっており、現実的には特に排出削減が厳
し い CP3.7 や CP3.0 に お い て は 図 4.2.5-2 に 示 し た 費 用 上 昇 で 実 現 す る こ と は 非 常 に 困
難と見られる。
原子力低位シナリオにおいて排出削減が困難になる国の一つである日本について、
発 電 電 力 量 、 電 力 排 出 原 単 位 を 図 4.2.5-3、 図 4.2.5-4 に そ れ ぞ れ 示 す 。 標 準 シ ナ リ オ
においては原子力発電が順調に拡大できると見込んでいるが、原子力低位シナリオに
お い て は 原 子 力 の 代 替 と し て CP3.7 で は 石 炭 火 力 CCS 、 CP 3.0 で は ガ ス 火 力 CCS を よ
り 多 く 導 入 す る こ と と な っ て い る 。し か し な が ら 、CO 2 の 貯 留 ポ テ ン シ ャ ル が 限 ら れ て
い る た め 、電 力 排 出 原 単 位 は 標 準 シ ナ リ オ に 比 べ て 大 き く 悪 化 し て い る 。結 果 と し て 、
表 4.2.5-1 に 示 し た よ う に 、エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 は 標 準 シ ナ リ オ に 比 べ て 大 き く
増加する。仮に標準シナリオにおける排出量と同じ排出量を原子力低位シナリオにお
い て も 達 成 す る こ と と す る と 、 非 常 に 費 用 が 高 く な り 、 CO 2 限 界 削 減 費 用 は 図 4.2.5-2
よりも大きく上昇すると見込まれる。
- 136 -
表 4.2.5-1
標 準 シ ナ リ オ と 原 子 力 低 位 シ ナ リ オ に お け る 地 域 別 エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2
排 出 量 の 比 較 (シ ナ リ オ A-I) 単 位 [2005 年 比 %]
2020年
標準シ ナリオ
Base lin e C P6 . 0
C P4 . 5
Un it e d St at e s
18
17
EU- 2 7
17
17
Japan
-5
-5
Ru ssia
8
2
Ot h e r An n e x I C o u n t r ie s
23
22
C h in a
110
96
In dia
115
111
Ot h e r Asia
61
57
M iddle East & Afr ic a
82
69
Lat in Am e r ic a
40
37
Ot h e r s
32
27
C P3 . 7
11
9
-5
0
15
89
96
51
66
28
25
C P3 . 0
4
7
-6
-5
9
81
92
35
44
11
19
1
4
-6
-9
3
75
78
24
38
-45
13
原子力低位シ ナリオ
Base lin e C P6 . 0
C P4 . 5
20
16
22
21
5
5
11
5
24
22
108
95
119
111
56
53
75
69
40
36
33
27
C P3 . 7
10
13
5
1
13
87
97
44
66
27
26
C P3 . 0
4
10
4
-3
11
80
92
29
44
-2
20
1
7
2
-8
5
73
74
18
37
-47
12
2030年
標準シ ナリオ
原子力低位シ ナリオ
Base lin e C P6 . 0
C P4 . 5
C P3 . 7
C P3 . 0
Base lin e C P6 . 0
C P4 . 5
C P3 . 7
C P3 . 0
Un it e d St at e s
36
32
8
-13
-27
37
32
7
-10
-22
EU- 2 7
27
25
10
-8
-22
32
30
14
-4
-17
Japan
-13
-13
-14
-17
-20
1
1
1
-3
-10
Ru ssia
20
15
8
-19
-39
20
14
8
-20
-40
Ot h e r An n e x I C o u n t r ie s
27
24
13
-20
-67
26
24
14
-29
-65
C h in a
165
147
123
97
53
158
140
119
92
48
In dia
211
200
155
105
55
212
198
154
104
53
Ot h e r Asia
102
96
67
37
3
101
95
64
34
1
M iddle East & Afr ic a
129
115
75
60
26
128
115
74
56
15
Lat in Am e r ic a
71
66
41
-43
-62
70
65
42
-44
-63
Ot h e r s
50
43
36
-4
-26
50
43
37
-6
-26
2050年
標準シ ナリオ
原子力低位シ ナリオ
Base lin e C P6 . 0
C P4 . 5
C P3 . 7
C P3 . 0
Base lin e C P6 . 0
C P4 . 5
C P3 . 7
C P3 . 0
Un it e d St at e s
35
19
-24
-50
-72
33
17
-32
-49
-71
EU- 2 7
49
35
-21
-51
-82
44
36
-19
-52
-82
Japan
-29
-30
-35
-53
-69
-14
-14
-19
-40
-62
Ru ssia
52
42
-59
-95
-100
43
35
-70
-95
-100
Ot h e r An n e x I C o u n t r ie s
40
20
-57
-85
-98
29
16
-60
-85
-97
C h in a
188
144
92
5
-22
187
150
103
4
-24
In dia
432
371
220
95
20
420
361
229
95
31
Ot h e r Asia
176
151
84
-6
-58
174
147
84
-7
-66
M iddle East & Afr ic a
242
220
71
9
-28
239
217
62
9
-28
Lat in Am e r ic a
151
121
-27
-64
-89
149
118
-27
-65
-89
Ot h e r s
72
51
0
-32
-75
72
51
-7
-35
-75
* 色 付 き の 欄 は 、原 子 力 低 位 シ ナ リ オ に お け る C O 2 排 出 量 が 標 準 シ ナ リ オ に お け る C O 2 排 出 量 よ り
多いことを意味する。
- 137 -
CP3.7
1400
1200
1200
1000
1000
0
2005
2030
原子力低位シナリオ
原子力低位シナリオ
原子力低位シナリオ
2020
標準シナリオ
0
標準シナリオ
200
標準シナリオ
200
2005
2050
2020
原子力低位シナリオ
400
標準シナリオ
400
600
原子力低位シナリオ
600
800
標準シナリオ
800
原子力低位シナリオ
発電電力量 [TWh/yr]
1400
標準シナリオ
発電電力量 [TWh/yr]
CP4.5
2030
2050
CP3.0
1400
PV
1000
Wind power
800
Nuclear
Hydro&Geothermal
600
Biomass+CCS
400
Biomass
Gas+CCS
200
Gas
Oil+CCS
2005
2020
図 4.2.5-3
2030
原子力低位シナリオ
標準シナリオ
原子力低位シナリオ
標準シナリオ
原子力低位シナリオ
標準シナリオ
0
Oil
Coal+CCS
Coal
2050
標準シナリオと原子力低位シナリオにおける発電電力量の比較
(日 本 、 シ ナ リ オ A-I)
0.45
0.4
電力排出原単位 [tCO2/MWh]
発電電力量 [TWh/yr]
1200
ALPS A‐Baseline(標準シナリオ)
0.35
ALPS A‐CP6.0(標準シナリオ)
0.3
ALPS A‐CP4.5(標準シナリオ)
ALPS A‐CP3.7(標準シナリオ)
0.25
ALPS A‐CP3.0(標準シナリオ)
0.2
ALPS A‐Baseline(原子力低位シナリオ)
ALPS A‐CP6.0(原子力低位シナリオ)
0.15
ALPS A‐CP4.5(原子力低位シナリオ)
0.1
ALPS A‐CP3.7(原子力低位シナリオ)
0.05
ALPS A‐CP3.0(原子力低位シナリオ)
0
2005
‐0.05
2015
図 4.2.5-4
2025
2035
2045
日 本 の 発 電 端 電 力 排 出 原 単 位 の 比 較 (シ ナ リ オ A-I)
- 138 -
(2) 附 属 書 I 国 ▲ 80%シ ナ リ オ
次 に 附 属 書 I 国 が 2050 年 に 2005 年 比 で GHG 排 出 を 80%削 減 す る ケ ー ス に つ い て の
見 通 し を 示 す 。 図 4.2.5-5 は 、 附 属 書 I 国 ▲ 80%シ ナ リ オ に お け る 附 属 書 I 国 ・ 非 附 属
書 I 国 の CO 2 限 界 削 減 費 用 を 示 し て い る 。附 属 書 I 国 は 、コ ペ ン ハ ー ゲ ン 合 意 に お け る
排出削減目標に附属書 I 国全体として最も費用効率的な排出削減分担で取り組んだ場
合 、 そ の 限 界 削 減 費 用 は $50/tCO 2 程 度 と な る 。 そ の 後 、 2050 年 ▲ 80%に 向 け て CO 2 限
界 削 減 費 用 は 上 昇 し 、 2050 年 に お け る CO 2 限 界 削 減 費 用 は CP6.0 や CP4.5 で は 約
$270/tCO 2 と 算 定 さ れ て い る 。 そ の 際 の 非 附 属 書 I 国 の CO 2 限 界 削 減 費 用 は CP6.0 で は
$0/tCO 2 、 CP4.5 で は $13/tCO 2 で あ る 。 CP3.7 に な る と 附 属 書 I 国 が ▲ 80%に 取 り 組 む と
し て も 非 附 属 書 I 国 で も 相 応 の 排 出 削 減 ( 2050 年 で は 2005 年 比 +27%、 ベ ー ス ラ イ ン
比 ▲ 59%) を 行 う た め 、 2050 年 に お け る CO 2 限 界 削 減 費 用 は 附 属 書 I 国 $317/tCO 2 、 非
附 属 書 I 国 $88/tCO 2 と 二 地 域 間 の 差 は 縮 ま っ て い る 。 CP3.0 で は 、 CO 2 限 界 削 減 費 用 は
2040 年 か ら 均 等 化 し 、2050 年 で は $364/tCO 2 で あ る 。CO 2 限 界 削 減 費 用 が 均 等 化 し て い
る の は 、附 属 書 I 国 が シ ナ リ オ で 想 定 し た 排 出 上 限 よ り 削 減 し た た め で あ り 、こ の 時 の
附 属 書 I 国 の 2050 年 に お け る エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 は 2005 年 比 ▲ 83%、一 方 非 附
属 書 I 国 は 2005 年 比 ▲ 31%と な っ て い る 。
CO 2 削 減 総 費 用 も 標 準 シ ナ リ オ に 比 べ て 増 加 し て い る 。CP6.0 や CP4.5 に お け る 2050
年 の CO 2 削 減 総 費 用 は そ れ ぞ れ 820 billion$/yr、 920 billion$/yr で あ り 、 標 準 シ ナ リ オ
の CP3.7 の 970 billion$/yr と 近 い 水 準 に あ る 。 CP3.7 で は 、 附 属 書 I 国 ▲ 80%シ ナ リ オ
に お け る CO 2 削 減 総 費 用 は 2050 年 で 1430 billion$/yr で あ り 、標 準 シ ナ リ オ と 比 べ て 約
50%増 と な っ て い る 。 な お 、 CP 3.0 に つ い て は 上 述 の よ う に 2040 年 以 降 は CO 2 限 界 削
減費用が均等化しており、費用効率的な排出削減分担となっていることから評価対象
期間の後半においては標準シナリオとの差異はほとんどない。
標 準 シ ナ リ オ で 前 提 と し て い る 全 世 界 的 に 費 用 効 率 的 な CO 2 排 出 削 減 分 担 を 図 る こ
とは社会全体の効用を減じないためにも重要であるが、現実にはほぼ不可能に近い。
本 節 で は 、附 属 書 I 国 と 非 附 属 書 I 国 の 二 つ で 限 界 削 減 費 用 が 差 異 化 さ れ る よ う な 非 効
率 的 で あ る も の の 、 全 世 界 的 に 費 用 効 率 的 な CO 2 排 出 削 減 分 担 よ り は 現 実 に 近 い と 思
わ れ る 排 出 削 減 分 担 を 想 定 し た が 、 比 較 的 緩 や か な 排 出 削 減 を 想 定 し て い る CP6.0 や
CP4.5 で も CO 2 削 減 総 費 用 は 理 想 的 な 標 準 シ ナ リ オ に 比 べ て 大 き く 増 加 す る と 算 定 さ
れた。現実の排出削減分担は必ずしも費用効率的に定まるわけではないことを考慮す
れ ば CO 2 削 減 総 費 用 は 理 想 的 な 排 出 削 減 分 担 の 下 で の 費 用 に 比 べ て 非 常 に 大 き く な る
可能性が高いことが示唆される。
- 139 -
400
附属書I国 ALPS A-CP6.0(附属書I国▲80%シナリオ)
CO2 marginal abatement cost ($/tCO2)
350
附属書I国 ALPS A-CP4.5(附属書I国▲80%シナリオ)
300
附属書I国 ALPS A-CP3.7(附属書I国▲80%シナリオ)
250
附属書I国 ALPS A-CP3.0(附属書I国▲80%シナリオ)
200
非附属書I国 ALPS A-CP6.0(附属書I国▲80%シナリオ)
150
非附属書I国 ALPS A-CP4.5(附属書I国▲80%シナリオ)
100
非附属書I国 ALPS A-CP3.7(附属書I国▲80%シナリオ)
非附属書I国 ALPS A-CP3.0(附属書I国▲80%シナリオ)
50
0
2000
2010
図 4.2.5-5
2020
2030
2040
2050
附 属 書 I 国 ▲ 80%シ ナ リ オ に お け る 附 属 書 I 国 ・ 非 附 属 書 I 国 の
CO 2 限 界 削 減 費 用 (シ ナ リ オ A-I)
(3) ブ ラ ッ ク カ ー ボ ン 排 出 削 減 加 速 シ ナ リ オ
第 2.1.4 節 で 述 べ た よ う に 、ブ ラ ッ ク カ ー ボ ン の 排 出 削 減 は 、温 暖 化 緩 和 の み な ら ず
健 康 影 響 被 害 の 緩 和 に も 貢 献 す る た め 、CO 2 な ど に 比 べ て 国 内 外 で 排 出 削 減 の 合 意 を 得
やすい可能性があり、近い時点における温暖化防止に一定の効果があるのではないか
と 近 年 注 目 さ れ て い る 。分 析 に よ る と 、ブ ラ ッ ク カ ー ボ ン の 排 出 削 減 を 加 速 し た CP3.7
で は 、 標 準 シ ナ リ オ に お け る CP3.7 に 比 べ て 全 球 平 均 気 温 上 昇 が 抑 制 さ れ 、 2050 年 か
ら 2100 年 頃 に お い て は 0.05℃ 程 度 の 抑 制 が 可 能 と 算 定 さ れ た ( 図 4.2.5-6)。 こ の 平 均
気 温 上 昇 抑 制 分 相 当 の CO 2 排 出 増 加 を 許 容 し た 場 合 ( ブ ラ ッ ク カ ー ボ ン 排 出 削 減 加 速
+CO 2 増 )、図 4.2.5-7 に 示 す よ う に 2020 年 か ら 2030 年 頃 を 中 心 に CO 2 排 出 削 減 レ ベ ル
が 緩 和 さ れ る こ と と な る 。2020 年 に お け る CO 2 排 出 量 は 44GtCO 2 /yr で あ り 、標 準 シ ナ
リ オ に お け る CP3.7 の CO 2 排 出 量 41GtCO 2 /yr に 比 べ て 3GtCO 2 /yr の 増 加 と な っ て お り 、
排 出 削 減 レ ベ ル が よ り 緩 や か な CP4.5 の CO 2 排 出 量 と ほ ぼ 同 程 度 で あ る 。
仮 に ブ ラ ッ ク カ ー ボ ン の 排 出 削 減 が 加 速 さ れ た 場 合 に は 、2020 年 ~ 2030 年 の CO 2 排
出削減があまり進まなくても、気候への影響をある程度緩和できることが示された。
CO 2 等 の 排 出 削 減 の 見 通 し が 不 確 実 な 現 状 に お い て 、ブ ラ ッ ク カ ー ボ ン の 排 出 削 減 は そ
れを補足しうるボトムアップ的な取り組みとして重要であると言える。ただし、長期
的な気候緩和の効果は限定的であり、ブラックカーボンの対策で温暖化問題が解決で
きるようなことはない。
- 140 -
2.5
Surface temperature relative to pre‐industrial (K)
ALPS A‐CP4.5
2.0
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP3.0
1.5
ALPS A‐CP3.7(ブラックカーボン
排出削減加速)
1.0
ALPS A‐CP3.7(ブラックカーボン
排出削減加速+CO2増)
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
1990
0.5
図 4.2.5-6 全 球 平 均 気 温 上 昇 の 比 較
CO2 Emission (GtCO2/yr)
50
40
ALPS A‐CP4.5
30
ALPS A‐CP3.7
ALPS A‐CP3.0
20
10
ALPS A‐CP3.7(ブラックカーボン
排出削減加速)
0
ALPS A‐CP3.7(ブラックカーボン
排出削減加速+CO2増)
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
1990
‐10
図 4.2.5-7 CO 2 排 出 量 の 比 較 ( 世 界 全 体 )
参考文献(第 4 章に関するもの)
1) IEA, Energy Balances of OECD/Non-OECD Countries 2011 Edition (2011)
2) I E A , Wo r l d E n e r g y O u t l o o k 2 0 11 , O E C D / I E A , P a r i s ( 2 0 11 )
3) IEA, CO 2 Emissions from Fuel Combustion 2011 Edition (2011)
4) Jyunichiro Oda, et al., “International Comparisons of Energy Efficiency in Power, Steel
and Cement Industries”, Energy Policy (In Press)
- 141 -
5) Sorrell, et al., “Reducing Barriers to Energy Efficiency in Public and Private
Organizations”, Science and Technology Policy Research (SPRU) (2000)
6) National Oceanic & Atmospheric Administration (NOAA),
http://www.esrl.noaa.gov/gmd/ccgg/trends/index.html#global
7) Carbon Dioxide Information Analysis Center (CDIAC),
http://cdiac.ornl.gov/trends /temp/jonescru/jones.html
8) エネルギー・資源学会、
「地球温暖化:その科学的真実を問う」 http://www.jser.gr.jp/index.html (2009)
9) 杉山大志、ALPS 国際シンポジウム講演資料 (2012)
10) RITE、「地球環境国際研究推進事業(脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦
略の研究)成果報告書」(2011)
11) METI/RITE、「国内外における気候変動問題の動向に関するモデル分析及び調査研究報告書」(2009)
12) IEA: Energy Security and Climate Policy – Assessing Interactions, Paris: IEA Publications(2007)
13) METI 資源エネルギー庁:
「エネルギー白書 2010 年版」(2011)
14) Meinshausen M, Raper SCB, Wigley TML; Emulating coupled atmosphere-ocean and carbon cycle models
with a simpler model, MAGICC6: Part I—model description and calibration, Atmos Chem Phys
11:1417–1456 (2011).
15) Meinshausen M, Raper S, Wigley T; Emulating IPCC AR4 atmosphere-ocean and carbon cycle models for
projecting global-mean, hemispheric and land/ocean temperatures: MAGICC 6.0-Supplementary
Material(2007).
16) Antohny G. Patt, Detlef P. van Vuuren, Frans Berkhout, Asbjorn Aaheim, Andreis F. Hof, Morna Issaac,
Reinhard Mechler, Adaptation in integrated assessment modeling: where do we stand? Climatic Change, 99:
383-402 (2010)
- 142 -
第 5章
5.1
農業土地利用、食料、水、生物多様性
現状認識
5.1.1 農 業 土 地 利 用 、 食 料 需 要
(1)
食料需要量
食料は生命維持のために必要不可欠であり、食料需給、食料アクセス等の問題は、
優 先 順 位 の 極 め て 高 い 問 題 で あ る 。世 界 の 食 料 需 要 は 、カ ロ リ ー ベ ー ス で 、1 961~ 1990
年 の 間 は 年 率 2.5%で 上 昇 し 、1990~ 2005 年 は 1.7%で 上 昇 し て き た( 図 5.1.1-1)。今 後
は、途上国を中心とする人口増加と、経済発展に伴う一人当たり食料需要量の増加に
より、更なる需要量の増加が予想される。
食料需要量(Tcal/day)
20,000
18,000
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
1960
図 5.1.1-1
1970
1980
1990
2000
世 界 の 食 料 需 要 量 (カ ロ リ ー ベ ー ス ) ( 文 献 1 ) の 値 を 基 に 作 図 )
但し、人間が食べられる量は限られており、ある一定量を満たせば、それ以上につ
いては、豊かになったからといって一人当たりの食事量が増え続けることはない。ま
た、各地域には、それぞれの風土や伝統に即した食習慣があり、どの地域も同じカロ
リー量を食べるようになるとも考え難い。従って、将来の食料需要を推定するには、
地域毎の文化や過去の傾向を考慮する必要もある。
(2)
耕地面積
増 加 す る 食 料 需 要 に 対 応 す る た め 、世 界 の 耕 地 面 積 は 、図 5.1.1-2 (a)に 示 す よ う に 増
大 を 続 け て き た 。 但 し 、 1990 年 以 降 は 増 大 が 鈍 化 の 傾 向 に あ る 。 こ れ に つ い て 、 人 類
は 耕 地 と し て 使 え る 土 地 の ほ と ん ど を 利 用 し た 結 果 、こ の 鈍 化 傾 向 に つ な が っ て お り 、
今後の耕地拡大は難しい、従って、増加が予想される食料需要量を満たすだけの食料
生産は厳しい可能性がある、という見方もある。しかし、地域毎に耕地面積の推移を
み る と 地 域 に よ る 差 は 非 常 に 大 き い 。 例 え ば 、 図 5.1.1-2 (b) に 示 す 、 日 本 、 カ ナ ダ 、
イ ン ド の よ う に 過 去 約 50 年 間 、 耕 地 面 積 は ほ ぼ 一 定 で 増 加 し て い な い 地 域 や 、 米 国 、
西 欧 の よ う に 緩 や か に 減 少 し て い る 地 域 も あ る 。一 方 、図 5.1.1-2 (c)に 示 す 、ア フ リ カ 、
中 南 米 で は 過 去 約 50 年 間 、 継 続 的 に 耕 地 が 拡 大 し て い る 。 つ ま り 、 図 5.1.1-2 (a)に 示
- 143 -
す耕地増大の鈍化は、土地がない、というのではなく、耕地が継続的に増大している
地域もあるが、そうでない地域もあり、それらを合わせた結果のものである。地域毎
の背景事情を考慮する必要があるといえる。
FAOSTAT耕地面積(百万ha)
1,600
1,500
1,400
1,300
1960
1970
1980
1990
2000
2010
(a) 世 界 全 体
140 FAOSTAT耕地面積(百万ha)
180 United States
160 India
140 Russia
120 China
100 Western Europe
80 Canada
60 Oceanina
40 0 1960
1970
1980
1990
2000
120 South Wast Africa
100 South East Africa
80 Brazil
60 Indonesia
40 Paraguay, Uruguay, Argentina
20 Japan
20 FAOSTAT耕地面積(百万ha)
200 0 1960 1970 1980 1990 2000 2010
2010
(b) ほ ぼ 一 定 又 は 減 少 地 域
図 5.1.1-2
文献
1)
(c) 増 加 が 顕 著 な 地 域
1961-2009 年 の 耕 地 面 積 推 移
の 「 Arable land and Permanent crops」 の 値 を 基 に 作 図
図 5.1.1-3 は 、 FAOSTAT 統 計
1)
を 基 に 推 定 し た 余 剰 耕 地 面 積 で あ る 。 FAOSTAT 統 計
に 基 づ く と 、 2000 年 の 世 界 の 耕 地 面 積 は 約 15 億 ha で あ る が 、 そ の う ち 、 作 物 生 産 に
利 用 さ れ た 耕 地 は 12 億 ha 弱 と 推 定 さ れ る 。す な わ ち 、世 界 に は 3~ 4 億 ha の 余 剰 耕 地
が存在したと解釈される。特に北米や東欧・旧ソ連には余剰耕地が多く存在したとい
とみられる。すなわち、このような地域では、拡大できる土地がないというよりも、
むしろ耕地が余っており、拡大する必要がなかったと考えられる。
- 144 -
図 5.1.1-3
文献
1)
アフリカ
中東
東南・南アジア
東アジア
オセアニア
西欧
旧ソ連・東欧
中米
北米
余剰耕地地面積(百万ha)
120
100
80
60
40
20
0
2000 年 の 余 剰 耕 地
よ り 「 Arable land and Permanent crops」 と 「 Area Harvested」 の 差 よ り 推 定 。
ア ジ ア な ど で 「 Area Harvested」 > 「 Arable land and Permanent crops」 と な っ た 地 域 は 余 剰 耕 地 無
と解釈。
図 5.1.1-4 は 、IIASA の 推 計
2)
を 参 考 に 、RITE 農 業 土 地 利 用 モ デ ル を 用 い 、主 要 作 物
の 生 産 ポ テ ン シ ャ ル 、ア ク セ ス 条 件 、土 地 被 覆 を 考 慮 し て 推 定 し た 潜 在 的 耕 地 で あ る 。
こ れ に よ る と 、 世 界 に お け る 潜 在 的 な 耕 地 面 積 は 約 30 億 ha で 、 2000 年 の 耕 地 面 積 の
約 2 倍に相当する。これは、前述した土地開発に関する制度やコストを考慮しないも
のであるが、世界的には、食料生産に適した潜在的な土地はまだ十分にあると解釈さ
れる。
図 5.1.1-4
潜在的耕地
潜 在 的 耕 地 面 積 に 対 す る 、 2000 年 の 耕 地 面 積 の 割 合 ( 耕 地 率 と 呼 ぶ ) を 地 域 に 別 に
算定すると、中東や北米、ヨーロッパ、オセアニア、中国、インドを含む南アジアな
ど で 、耕 地 率 が 0.6 以 上 と 高 い の に 対 し 、ア フ リ カ や 南 米 で は 0.3 程 度 と 低 い 傾 向 が み
れる。すなわち、アフリカや南米では、耕地として条件のよい土地が比較的多く残っ
ていることより、食料需要増加に対応するため、あるいは、より条件の良い土地を求
めて、耕地を拡大しやすい状況にあると解釈できる。
- 145 -
(3) 農 作 物 の 生 産 性
過去の食料需要増加に対し、人類は、耕地の拡大の他、緑の革命に代表される品種
改 良 や 、化 学 肥 料 の 導 入 、機 械 化 等 に よ っ て 生 産 性 の 向 上 も 行 っ て き た 。図 5.1.1-5 は 、
1961 ~ 2005 年 の 農 作 物 の 単 収 の 推 移 に つ い て 、 小 麦 と ト ウ モ ロ コ シ を 例 に 一 人 当 た り
GDP と の 関 係 を 調 べ た も の で あ る 。 こ れ に よ る と 、 一 人 当 た り GDP の 増 加 に 伴 っ て 、
単収が向上する傾向がみられるものの、相関関係は必ずしも明らかでない。その理由
として、次のような解釈ができる。例えば、米国の小麦の場合、十分な余剰耕地があ
るため単収を向上させる必要がなく、むしろ供給過剰によって価格の低下を招かない
程度に単収を調整している。また、日本のトウモロコシのように、ごく一部の生食用
以外は輸入に依存しており国内の単収を向上させるインセンティブが小さい、等であ
る。つまり、技術的には単収を向上させることが可能であっても、価格、農業従事者
の所得維持といった経済的な事情によって生産性の向上を控えているケースも少なく
ないと考えられる。
7
12
Wheat
6
5
Western
Europe
Japan
4
Oceania
China
3
India
2
USA
10
Yield (ton/ha)
Yield(ton/ha)
Maize
USA
Western
Europe
Japan
8
Oceania
China
6
India
4
Brazil
Brazil
2
1
0
0
0
10000
20000
30000
40000
0
10000
GDPperCap($)
図 5.1.1-5
20000
30000
40000
GDPperCap($)
地 域 別 の 単 収 と 一 人 当 た り GDP の 関 係
一 人 当 た り GDP は 文 献
3)
、単収は文献
1)
の値
5.1.2 食 料 価 格 、 飢 餓 人 口
(1) 食 料 価 格
1960 年 以 降 の 長 期 的 な 傾 向 と し て 食 料 価 格 は 低 下 し て い る ( 図 5.1.2-1)。 こ れ は 、
この間、世界の食料需要は増加したが、前節で見てきたように、生産性の向上や耕地
の拡大により、需要増加以上に生産量が増大した事を示唆している。すなわち、少な
くとも現時点では食料需要を満たすに十分な生産ポテンシャルがあると解釈できる。
ところで、近年は小麦等の価格上昇がしばしば話題に上る。農林水産省によると、
2011 年 3 月 の 穀 物 等 の 国 際 価 格 は 、2006 年 秋 頃 に 比 べ 1.7~ 3.2 倍 の 高 い 水 準 に あ り( 図
5.1.2-2)、そ の 要 因 と し て 、2010 年 の ロ シ ア の 干 ば つ と 穀 物 輸 出 禁 止 措 置 、と う も ろ こ
しのバイオ燃料向け需要の増大、中国の旺盛な大豆輸入等があげられている
- 146 -
5)
。また、
このような、天候不順や需要増大に加え、穀物市場に投機マネーが流入し、相場を押
し上げているという見方もある。
つまり、これまで長期的には、生産ポテンシャルは需要量を上回り、価格は低下傾
向にあった。但し、短期的には、天候不順、生産国の貿易措置、金融商品としての取
引等、の影響を受けて食料価格は大きく変動すると解釈できる。長期のトレンドと短
期の動向と、それぞれの要因を冷静に分析・評価することが重要と考えられる。
図 5.1.2-1
食料価格の変遷
4)
注) 実質価格
図 5.1.2-2 穀 物 等 の 国 際 価 格 の 動 向
5)
注) 小麦、トウモロコシ、大豆:シカゴ商品取引所価格、米:タイ国家貿易取引委員会公表値。
いずれも相対価格。
- 147 -
(2) 飢 餓 人 口
FAO に よ る と
6)
、「 物 理 的 、 社 会 的 、 経 済 的 な 理 由 に よ り 、 必 要 な 食 料 に ア ク セ ス で
き な い 人 ( = 飢 餓 人 口 )」 は 、 世 界 で 約 10 億 人 に の ぼ る ( 図 5.1.2-3)。 こ こ で 、「 必 要
な 食 料 」 と は 、 生 活 に 必 要 な 最 低 熱 量 ( MDER: Minimum Dietary Energy Requirement)
を 意 味 し 、 主 と し て 途 上 国 を 対 象 に 各 国 の 性 別 や 年 齢 構 成 を 考 慮 し FAO に よ っ て 設 定
さ れ て い る 。 2004-2006 年 の 149 カ 国 を 対 象 に 設 定 さ れ た MDER は 、 平 均 で
1825[kcal/person/day] ( 最 少 国 の 値 が
1990[kcal/person/day]) で あ る
7)
1680[kcal/person/day] 、 最 高 国 の 値 が
。
一 方 、 図 5.1.2-4 は 、 図 5.1.2-3 で 飢 餓 人 口 が 多 い と さ れ た 、 イ ン ド 、 中 国 、 サ ブ サ
ハ ラ ア フ リ カ に つ い て 一 人 ・一 日 当 た り の 供 給 熱 量
6)
を 示 し た も の で あ る 。こ こ で 、一
人・一日当たりの供給熱量は、家庭で捨てられる分も含んだものであり、厳密な摂取
量 で は な い が 、前 述 の MDER と 比 較 す る と 、ど の 国( 地 域 )も 、平 均 供 給 熱 量 は MDER
を上回っていることが分かる。つまり、国(地域)全体では国民(地域民)に必要な
だけの食料が供給されているにも関わらず、社会的、経済的格差のため、必要な食料
にアクセスできていない人が一部に存在する、と解釈できる。すなわち、飢餓人口問
題は、食料が足りない、というよりも、途上国を中心とする低所得国での格差に関わ
る問題と考えられる。
2009年
(m illions)
図 5.1.2-3
2009 年 の 飢 餓 人 口
- 148 -
6)
必要最低熱量
(途上国平均
=1825kcal)
図 5.1.2-4
一 人 ・ 一 日 当 た り の 供 給 熱 量 ( 2004-2006 年 ) (文 献 6)を 基 に 作 図 )
注) 必要最低熱量は、文献
7)
の値
5.1.3 水 需 給
世 界 の 年 間 水 資 源 賦 存 量( 陸 域 の 降 水 か ら 蒸 発 散 分 を 差 し 引 い た 量 )は 、約 45,500km 3
8)
で あ る の に 対 し 、人 間 が 直 接 に 取 水 し て 利 用 し て い る 量 は そ の 1/10 以 下 で あ る
3)
。そ
れ に も 関 わ ら ず 世 界 に は 、 13 ~ 23 億 人 の 水 ス ト レ ス 人 口 が 存 在 す る と 推 定 さ れ
9 , 1 0 , 11 , 1 2 )
、 水 資 源 の 不 足 が 懸 念 さ れ る の は 、 図 5.1.3-1 に 示 す よ う に 空 間 的 分 布 が 不 均
一であることや、需給のタイミングが一致しないことがあげられる。
0
0.5
1.0
図 5.1.3-1
1.5
2.0
2.5
3.0 < [mm/day]
年 間 水 資 源 賦 存 量 ( 1961-1990 年 平 均 )
MIROC3.2hires モ デ ル
13)
による流出量予測値
14)
を基に作図
今後は、温暖化に伴って水資源の量と分布が変化すると予想されている
え、人口増加や経済発展に伴う水需要量の増加も予想され
が顕在化することが懸念される。
- 149 -
10)
15)
ことに加
、地域によっては水不足
一方、そのように懸念される水不足に対して、適応策による対応の余地も考えられ
ている。例えば、水供給側の適応策として、貯水量の拡大、淡水化、流域間での水輸
送等、また、需要側の適応策として再利用水の利用拡大、農作物の作付品種や時期の
調整による灌漑用水需要の低減、生産に大量の水を消費する農産物の輸入等が議論さ
れている
15)
。 図 5.1.3-2 は 、 バ ー チ ャ ル ウ ォ ー タ ー の 評 価 例 で あ り 、 年 間 200km 3 余 り
の水が北米、南米等から、アジアや西欧、北アフリカ、中東等へ農産物を介して輸入
されている。
図 5.1.3-2
農 産 物 貿 易 に よ る 水 の 移 動 ( 1995-1999 年 ) 1 6 )
緑は水の輸出地域、赤は水の輸入地域に相当
ただし、これまでの水利用の歴史においてもそうであったのと同様に、各適応策に
は、それぞれの課題があることも指摘されている。例えば、貯留容量の増大や流域間
での水輸送等は、環境へ悪影響を及ぼす可能性がある。海水淡水化は、コストの問題
に加え、化石燃料を用いて製造する場合は、温暖化政策と相反する。需要側の適応策
は、個々の行動に委ねられ側面も大きいことより、効果の不確実性が高い、等である。
従って、地域事情と多様な側面からの評価を踏まえた上での、対策検討が必要と考え
られる。
5.1.4 生 物 多 様 性
生物多様性は様々な面で気候変動対策と関連している。両者の対策間に多くのコベ
ネ フ ィ ッ ト を 追 求 す る 機 会 が あ る 一 方 、 ト レ ー ド オ フ の 関 係 に あ る 対 策 も あ る 。 2000
年 の COP5 で は 気 候 変 動 の 影 響 に よ り 海 水 中 の 二 酸 化 炭 素 濃 度 が 増 加 し 、サ ン ゴ 礁 の 白
化現象が深刻化していることが指摘され、両者の関係が検討される契機となったが、
その他、湿地・マングローブ・北極やアルプスの生態系も気候変動の影響を受けやす
いとされている。ただし、生物多様性への懸念としては、気候変動よりも開発にとも
なう人為的影響などの方が大きく、持続可能な発展の中に位置づけて対策を講じてい
く必要がある。
- 150 -
図 5.1.4-1 は 日 本 に お け る 生 物 多 様 性 の 損 失 と な っ て い る と 考 え ら れ る 要 因 で あ る
が、ここでは大きく 3 つの要因に分類されている
17)
。1 つは開発、生物の直接的利用、
水 質 汚 濁 に よ る も の で 、高 度 成 長 期 は 特 に こ の 影 響 が 大 き か っ た 。2 つ め は 、森 林 生 態
系や里山などの農地生態系において、農業・農法の変化、農村部の過疎化・高齢化な
どにともなう管理放棄、生物資源の利用縮小、植生遷移などが進むためで、これは現
在 も 増 大 し て い る 。3 つ め は 外 来 種 や 化 学 物 質 に よ る 影 響 で 、と り わ け 陸 水 生 態 系 や 島
嶼生態系が脆弱と考えられている。
世界における生態系は多様で、各地域で固有の生態系が形成されている。それぞれ
の地域において生物多様性が損ねられている要因は異なるが、中国やインドをはじめ
とする途上国の今後の経済発展を考えれば、伝統的な生活様式からの変化やインフラ
や都市開発による影響はますます大きなものになっていくと考えられる。
回答数
120
100
80
60
40
20
過去半世紀間に生物多様性の脅威となったと考えられる因子
その他
地球温暖 化
農薬・化 学物質 による 汚染
外来生物 の影響
動物によ る食害
狩猟圧の 低下
耕作放棄
草地の管 理放棄
森林の管 理放棄
窒素の蓄 積
水質汚濁
狩猟・漁 獲
園芸・鑑 賞・薬 用の捕 獲採取
ダム建設
道路建設
観光開発
ゴ ル フ 場 ・ ス キ ー場 の 造 成
都市開発
草地の開 発
図 5.1.4-1
沿岸の開 発
湖沼・河 川・湿 原の開 発
人工林へ の転換
森林伐採
0
17)
生 物 多 様 性 条 約 ( CBD; Convention on Biological Diversity) は 、 気 候 変 動 枠 組 条 約 と
と も に 1992 年 の リ オ サ ミ ッ ト で 採 択 さ れ た 。 こ れ ま で 、 そ れ ぞ れ の 条 約 下 で 別 々 に 交
渉 が 進 め ら れ て き た が 、 今 後 、 REDD+ な ど 生 物 多 様 性 の 保 全 や 持 続 可 能 な 利 用 と 気 候
変動の緩和策・適応策の相乗効果を見込んだ手段が模索される機会が増えていくと考
えられる。気候変動の緩和策も生物多様性の保全と相乗効果が期待できるものもあれ
ば、トレードオフ関係のケースもあることに留意する必要がある。
一般に、森林保護、持続可能な森林管理、森林再生の取り組みにおける在来樹種の
活用、持続可能な湿地管理や農業経営といった取り組みは気候変動と生物多様性、両
- 151 -
方の目的に資するものである。ただし、制度設計や管理方法によっては気候変動への
対策が生物多様性に悪影響を与える可能性もある。例えば、天然林から人工林への転
換、あるいは植林による非森林から森林への転換は炭素吸収を促す活動ではあるが、
在来種数や構成樹種数の低下を招くおそれがあり、生物多様性という観点からみると
悪 影 響 に も な り う る 。 そ の た め REDD+の 制 度 設 計 な ど に お い て も 慎 重 な 配 慮 が 求 め ら
れる。
風 力 ・ 太 陽 光 ・ 地 熱 ・ バ イ オ マ ス ・ 水 力 と い っ た 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 資 源 は CO 2 排
出削減に寄与する。だが食料作物を利用する第一世代バイオ燃料は、生物多様性への
悪影響を伴う森林減少など土地利用変化を加速する可能性もある。セラードと呼ばれ
るブラジル中央部のサバンナ地帯は固有の植物種が数多く存在し、生物多様性の豊か
な 地 域 だ が 、 近 年 、 世 界 有 数 の 食 料 生 産 基 地 と し て 急 速 に 農 地 開 発 が 進 み 、 2002 年 か
ら 2008 年 に か け て 約 1 万 4 千 km 2 /年 の ペ ー ス で セ ラ ー ド が 消 失 し 現 在 も 大 豆 栽 培 用 の
農地等への改変が続いている。また、大規模な水力発電なども地域の生態系に悪影響
をもたらす懸念がある
18)
。
気候変動の適応策として適切に管理された森林などを整備し、気候変動への耐性・
回復力を高めることは、生物多様性および生態系サービスの面から見ても好ましいと
される。他方、沿岸域に作られているインフラ(護岸、堤防など)は、潮流を変化さ
せ、周辺の生態系のバランスを壊し、堆積物や栄養の循環を妨げる懸念もある。生物
多様性を保全する取り組みと、気候変動対策はコベネフィットの機会が多くあるもの
の、トレードオフの関係にあるものもあることから、持続可能な発展に向けた様々な
課題を視野に入れ、バランスよい解決策が求めらるだろう。
5.2
将来の見通し
前節では、農業土地利用、食料、水、生物多様性に関連した過去から現在に至る過
程を含めて現状について様々な視点から見てきた。その現状把握をベースに、本節で
は、食料需給・水資源・土地利用評価モデルによる分析などを通しながら、将来の見
通しについて述べる。
5.2.1 農 業 土 地 利 用 、 食 料 需 要
(1) 食 料 需 要 量
第 3 章で示したような将来の人口、経済成長の見通しの下で、今後、食料需要はど
の よ う に 見 通 す こ と が で き る の か に つ い て 述 べ る 。ALPS で は 、地 域 的 な 食 文 化 や 風 習
に よ る 差 を 考 慮 し つ つ 世 界 の 食 料 需 要 見 通 し を 策 定 す る た め 、 世 界 32 地 域 別 に 、 過 去
約 50 年 間 の 一 人 当 た り 食 料 需 要 量 ( 供 給 熱 量 ) や 、 穀 類 ・ 野 菜 、 甘 物 、 植 物 油 、 動 物
性食品の内訳の変化傾向を調べた
19,20)
上 で 、食 料 需 要 を 推 計 し た 。図 5.2.1-1 の 点 線 に 、
ALPS-A に 対 す る 、主 要 地 域 の 一 人 当 た り 食 料 需 要 量( 供 給 熱 量 、家 庭 で 捨 て ら れ る 部
分 も 含 む ) を 示 す 。 こ の 図 に 示 す よ う に 、 本 分 析 で は 一 人 当 た り GDP に 伴 っ て 一 人 当
た り 食 料 需 要 量 は 増 加 し 、 あ る 一 定 の 量 で 飽 和 す る と 想 定 し た 。 世 界 32 地 域 中 、 最 も
一人当たり需要量が高いと推定されたのは、米国である。近年では、肥満による糖尿
- 152 -
病 や 高 血 圧 も 社 会 問 題 に な り つ つ あ る が 、 一 人 当 た り の 食 料 需 要 量 は 4,000kcal/day を
上 回 る シ ナ リ オ に な っ て い る 。 一 方 、 世 界 32 地 域 中 で 最 も 低 い 値 で 飽 和 す る と 推 定 さ
れ た の は イ ン ド で 、 2,500kcal/day 程 度 と な っ て い る 。 回 帰 分 析 の 他 、 牛 肉 を 食 さ ず 豚
肉も好まないヒンズー教徒が多い、バラモンに菜食主義が多いという背景事情
21)
を考
慮したものである。
Food demand (kcal/day/cap)
4,500
United States
4,000
Western Europe
Japan
3,500
China
Indonesia
3,000
India
Annex I of FUSSR
2,500
Brazil
South East Africa
2,000
1,500
100
1000
10000
100000
GDP per capita (US 2000 $)
図 5.2.1-1 主 要 地 域 の 一 人 当 た り 食 料 需 要 量
注 ) 実 線 は 統 計 値 、 点 線 は ALPS-A シ ナ リ オ 2010~ 2100 年
世 界 の 食 料 需 要 量 は 、図 5.2.1-2 に 示 す よ う に 、シ ナ リ オ A( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )
は 2005 ~ 2050 年 は 、 人 口 増 加 と 経 済 発 展 に 伴 う 一 人 当 た り 需 要 量 の 増 加 に 伴 い 年 率
1.0% で 増 加 す る が 、 そ れ 以 降 は 人 口 増 加 が 鈍 化 す る た め 、 ほ ぼ 横 ば い と な る 。 シ ナ リ
オ B( 高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ ) は 、 人 口 が シ ナ リ オ A よ り 小 さ い た め 、 2005~ 2050 年
の 年 増 加 率 は 0.8%と 小 さ め で あ る 。さ ら に 、2050 年 以 降 は 人 口 低 減 に 伴 い 0.3%程 度 で
低 減 す る 。 こ の よ う に 、 ALPS の シ ナ リ オ A、 B と も 、 食 料 需 要 量 の 増 加 は 2050 年 頃
ま で 続 く 、 但 し 、 そ の 増 加 率 は 、 1961~1990 年 の 2.5% p.a.や 1990~2005 年 の 1.7% p.a.
に 比 べ る と 小 さ い と 見 込 ま れ る 。な お 、ALPS シ ナ リ オ A の 見 通 し で は 、FAO 2 2 ) の 予 測
に比べ、世界平均一人当たり食料需要量はやや低めであるが、人口シナリオも考慮し
た 世 界 総 需 要 量 は 、 FAO の 予 測 と 同 程 度 に な っ て い る 。
- 153 -
Food demand (Tcal/day)
30,000
FAO(2006)
25,000
ALPS-A
ALPS-B
20,000
FAOSTAT
15,000
10,000
図 5.2.1-2
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
1990
1980
1970
1960
5,000
世界の食料需要量
(2) 食 料 生 産 に 必 要 な 土 地 面 積
耕地面積や、食料生産に必要な土地の面積(食料用必要作付面積)の推移は、これ
までもそうであったように、将来も地域によって様々と考えられる。世界全体では図
5.2.1-3 に 示 す よ う に 、2000 年 に 約 12 億 ha の 食 料 用 必 要 作 付 面 積 は 、シ ナ リ オ A で 2050
年 に 2000 年 の 約 1.2 倍 ま で 増 大 、 そ の 後 は 、 食 料 需 要 量 増 加 の 鈍 化 と 生 産 性 の 向 上 に
より、次第に減少する結果となった。シナリオ B は、シナリオ A に比べ需要量を小さ
く、生産性向上を大きく想定したため、食料用必要作付面積は小さい。その分、余剰
耕地面積(耕地面積から食料用必要作付面積を差しい引いた土地面積)はシナリオ A
より大きい、すなわち、バイオ燃料用作物栽培や植林等、温暖化緩和のために利用で
きる土地面積は大きい結果になった。
なお、本研究の分析では、断りがない限り、気候変動に対する適応策として、各地
点で、各作物の生産量が最大になる品種と作付時期を選択することを想定している。
- 154 -
World
Area (million ha)
2,500
耕地(シナリオA)
2,000
食料用必要作付地(シナリオA)
1,500
余剰耕地(シナリオA)
1,000
耕地(シナリオB)
食料用必要作付地(シナリオB)
500
余剰耕地(シナリオB)
0
2000
図 5.2.1-3
2020
2040
2060
2080
2100
世界全体の耕地面積、食料用必要作付面積、余剰耕地面積
( ALPS-A,B、 ベ ー ス ラ イ ン )
温 暖 化 を ベ ー ス ラ イ ン ケ ー ス か ら 、 CP3.0 ケ ー ス ま で 抑 制 す る と 、 2100 年 の 食 料 用
必 要 作 付 面 積 は 、 ベ ー ス ラ イ ン ケ ー ス よ り シ ナ リ オ A で 約 10%、 シ ナ リ オ B で 約 15%
減 少 す る ( 図 5.2.1-4 )。 こ れ は 、 作 物 や 地 域 、 時 点 に よ っ て 異 な る も の の 、 総 じ て み
ると温暖化によって単収は低下すると見込まれる影響が緩和されるためである。
図 5.2.1-4 の 、シ ナ リ オ A の リ フ ァ レ ン ス ケ ー ス は 、適 応 策 の 効 果 を み る た め 設 定 し
たもので、気候はベースラインケースと同様に変化するが、各作物の作付品種や時期
は 2010 年 の ま ま 固 定( 適 応 無 )と し て い る 。こ れ に よ る と 、リ フ ァ レ ン ス ケ ー ス で は 、
ベ ー ス ラ イ ン ケ ー ス に 比 べ 、食 料 用 必 要 作 付 面 積 が 数 %高 く 算 定 さ れ て い る 。将 来 の 気
候条件下で、それに適した品種や作付時期の選択は、当然なされると考えられるもの
であり、それが必要な面積の縮小につながる事が定量的に示された。
A-Reference(作付時期品種適応無)
1,400
A-Baseline
A-CP6.0
1,200
A-CP4.5
1,000
A-CP3.7
800
A-CP3.0
600
B-Baseline
B-CP6.0
400
B-CP4.5
図 5.2.1-4
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
B-CP3.0
2020
B-CP3.7
0
2010
200
2000
食料用必要作付面積(百万ha)
1,600
食 料 用 必 要 作 付 面 積 ( ALPS-A,B、 ベ ー ス ラ イ ン と CP6.0~ 3.0)
- 155 -
(3) バ イ オ 燃 料 用 作 物 作 物 の 潜 在 量
バイオ燃料は、再生可能なエネルギーまた基本的にはカーボンニュートラルな燃料
として温暖化問題と持続可能な発展にとって重要と考えられる。一方で、食料との競
合や、生産におけるエネルギー投入やその他温室項がガス排出の増進などによって
LCA 的 に 見 る と 効 果 が 減 じ ら れ る と い っ た 懸 念 も 示 さ れ て い る 。 本 報 告 で は 、 後 者 に
ついては評価していないが、前者について、整合的、定量的な分析を行った。
食料生産と直接競合せず、また、炭素排出や生物多様性への影響が小さいと考えら
れる余剰耕地と草地のうち、単収、アクセス、水需給比の条件を満たす土地を対象に、
バ イ オ 燃 料 用 作 物 の 潜 在 量 を 推 定 し た 。図 5.2.1-5 に 、セ ル ロ ー ス 系 作 物 の 潜 在 量 を 示
す 。 こ の 作 物 は 、 澱 粉 系 作 物 ( 小 麦 、 米 、 ト ウ モ ロ コ シ )、 糖 質 系 作 物 ( サ ト ウ キ ビ )、
油 脂 系 作 物 I( オ イ ル パ ー ム )、 油 脂 系 作 物 II( 大 豆 、 菜 種 ) の 中 で 、 最 も 大 き な 潜 在
量 が 推 定 さ れ た も の で あ る 。単 収 や ア ク セ ス 条 件 に よ っ て 、4 つ の レ ベ ル を 想 定 し た が 、
現 実 的 と 考 え ら れ る レ ベ ル 1( 高 単 収 ・ ア ク セ ス 普 )と レ ベ ル 2( 中 単 収 ・ ア ク セ ス 普 )
を 合 わ せ る と 、 潜 在 的 栽 培 面 積 は 2000 年 の 約 4 億 ha か ら 、 そ の 後 、 余 剰 耕 地 の 増 大
に 伴 い 2100 年 の 約 6 億 ha ま で 増 大 す る 、 ま た 、 潜 在 的 エ ネ ル ギ ー 量 は 2000 年 の 約
65EJ/yr か ら 、 2100 年 に は 約 100 EJ/yr ま で 増 加 す る と 推 定 さ れ た 。 シ ナ リ オ B は シ ナ
リオ A より余剰耕地が多い分、バイオ燃料用作物の潜在量も多い結果となった。地域
では、中南米、東南アジア、アフリカに多いと見込まれる。
- 156 -
潜在的面積 (百万ha)
2000年
耕地面積
1600
1400
1200
A-レベル3(低単収・アクセス普)
1000
800
A-レベル2(中単収・アクセス普)
600
A-レベル1(高単収・アクセス普)
400
B(レベル1-4の合計)
200
0
B(レベル1-2の合計)
2000 2020 2040 2060 2080 2100
潜在的エネルギー(EJ/yr)
A-レベル4(低単収・アクセス悪)
200
150
100
50
0
2000
2020
2040
2060
図 5.2.1-5
2080
2100
バイオ燃料用作物(セルロース系作物)の
潜在的栽培面積(上)と潜在的エネルギー(下)
(ALPS-A,B、 ベ ー ス ラ イ ン )
5.2.2 食 料 価 格 、 飢 餓 人 口 、 食 料 セ キ ュ リ テ ィ
(1) 食 料 価 格
図 5.2.2-1 に は 、小 麦 の シ ナ リ オ A・ ベ ー ス ラ イ ン シ ナ リ オ に お け る 国 際 価 格 シ ナ リ
オを示した。将来においてはベースラインではバイオエネルギー作物の増加はほとん
ど 見 ら れ な い ( 第 4 章 参 照 )。 ま た 、 土 地 以 外 の 要 素 は 生 産 性 が 向 上 し 、 ま た 穀 物 の 世
界供給ポテンシャルは十分に余力があると見込まれ、これまでの長期的な価格低下傾
向( 第 5.1 節 参 照 )に 従 い 国 際 価 格 は 逓 減 す る と 想 定 し た 。既 存 の 研 究 事 例 の シ ナ リ オ
と比較すると、シナリオ A の価格シナリオは概ね中位的な推計と言える。シナリオ B
では、シナリオ A に比べ、人口が少なく食料需要量が少なくまた技術進展も進むため
に、シナリオ B の食料価格はより低位に推移することが見込まれる。
- 157 -
Wheat Price (2000$/mt)
400
350
300
250
200
150
100
50
0
実績値(WB)←
→シナリオA
IIASA(2010)
IIASA(2010)
FAO(2010)
1960
1980
図 5.2.2-1
2000
2020
MiniCAM(2009)
2040
2060
2080
2100
シナリオ A の小麦のベースライン価格シナリオ
注 : 1960-2010 年 実 績 値 は World Bank
23)
の US HRW(硬 質 赤 冬 コ ム ギ )値 を 利 用
表 5.2.2-1 に は 、シ ナ リ オ A の 温 暖 化 抑 制 シ ナ リ オ 別 の 穀 物 価 格 を 示 し た 。図 5.2.2-2
に は 、シ ナ リ オ A の 2050 年 の 温 暖 化 抑 制 シ ナ リ オ 別 の 穀 物 価 格 の 変 化 率( ベ ー ス ラ イ
ン比)について、気候変動の緩和による単収向上の影響を受けた食料用作付面積によ
る寄与度とエネルギー作物・植林用の土地利用面積増加による寄与度をそれぞれ示し
た。ここでは、食料価格の重要な決定要因である土地以外の要素はベースライン価格
シナリオでは考慮したが、温暖化対策を導入した場合に食料価格へ与える影響は非常
に小さく、土地以外の要素はベースラインシナリオから変化しないものと想定した。
CP6.0 シ ナ リ オ で は 、ベ ー ス ラ イ ン と 比 較 し て 、単 収 は ほ と ん ど 変 化 せ ず ま た バ イ オ エ
ネルギー作物や植林の導入がほとんど見込まれないことから、価格変化はほとんどみ
ら れ な い 。 一 方 、 CP4.5~CP3.0 シ ナ リ オ で は 、 排 出 削 減 レ ベ ル が 厳 し く な る に つ れ て 、
食料用作付面積とエネルギー作物・植林用の土地利用面積による寄与度の絶対値はと
もに大きくなるものの、エネルギー作物・植林用の土地利用面積増加による食料価格
上昇の効果が大きいと推計された。
表 5.2.2-1
2000
小麦
米
とうもろこし
注: [
114
208
89
シナリオ A の穀物価格のシナリオ間比較
2010
ベースライン
187
147
467
361
155
109
CP6.0
147 [ -0.2% ]
361 [ -0.0% ]
109 [ -0.2% ]
]は ベ ー ス ラ イ ン 比 変 化 を 表 す 。
- 158 -
2050
CP4.5
152 [ +2.9% ]
365 [ +1.0% ]
112 [ +2.1% ]
154
366
113
CP3.7
[ +4.4% ]
[ +1.5% ]
[ +3.6% ]
152
368
114
CP3.0
[ +3.4% ]
[ +1.9% ]
[ +3.8% ]
国際価格の変化率
(ベースライン比%)
エネルギー作物・植林の土地利用変化による寄与度
食料用の土地利用変化による寄与度
国際価格変化(上記2要因の合計)
8%
6%
4%
2%
0%
‐2%
‐4%
CP6.0 CP4.5 CP3.7 CP3.0 CP6.0 CP4.5 CP3.7 CP3.0 CP6.0 CP4.5 CP3.7 CP3.0
小麦
図 5.2.2-2
米
とうもろこし
シ ナ リ オ A の 穀 物 の 国 際 価 格 変 化 の 要 因 分 解 (2050 年 )
(2) 食 料 ア ク セ ス
シ ナ リ オ 毎 に 飢 餓 の リ ス ク を 定 量 的 に 見 る た め に 、GDP あ た り の 食 料 消 費 額 (エ ン ゲ
ル 係 数 に 相 当 す る )を 算 定 し 、 こ れ を 食 料 ア ク セ ス 指 標 と し て 推 計 を 行 っ た 。 こ れ は 、
食料の購買力を表す所得に対して食料価格が高い場合には、飢餓人口が大きくなる傾
向が強いことを反映したものである。この指標の推計の際には、所得の効果、気候変
動に伴う食料の土地生産性の変化による食料生産価格の変化、食料生産と土地競合す
るバイオ燃料・植林による食料生産価格の上昇効果などがあり、それらを整合性を持
って評価した。
食 料 ア ク セ ス 指 標 を 、 主 要 地 域 、 時 点 別 、 排 出 削 減 レ ベ ル 別 に 示 し た の が 図 3.2.2-1
である。所得上昇の効果は大変大きく、各地域とも食料アクセスは、将来的に大きく
改 善 す る と 見 込 ま れ る 。 た だ し 、 サ ブ サ ハ ラ ア フ リ カ に つ い て は 、 2050 年 頃 で も ま だ
相当脆弱な状況と予想される。一方、後述の貧困人口と同様に、排出削減レベルによ
る影響は大きいとは推定されない。むしろ、厳しい排出削減レベルにおいては、わず
かながら悪化する可能性もある。また、厳しい排出削減においては、バイオエネルギ
ーや植林のために土地利用を行うことは比較的コスト効率的なオプションとなるが、
それを大きく行うことによって、食料価格を若干引き上げる効果が予測され、それに
よって、食料アクセス指標も若干悪化する恐れもある。温暖化対策の費用効率性だけ
ではなく、食料アクセスなど、様々な持続可能な発展に調和するような温暖化対策を
検討する必要がある。一方で、様々な持続可能な発展に配慮したバランスのとれた温
暖 化 対 策 を と れ ば 、温 暖 化 対 策 と し て 見 た と き の 費 用 は 引 き 上 が る こ と に も つ な が る 。
すなわち、従来多くなされてきたような、温暖化対策の費用効率性だけを考えた単純
なモデル分析、シナリオ分析で示される費用効率的な対策における削減費用では済ま
ないことにもなる。それを踏まえると、現在、国際的に目標として認識を共有してい
る よ う な 2℃ 目 標 ( CP 3.0 シ ナ リ オ ) な ど よ り も 、 よ り 緩 や か な 削 減 目 標 も 視 野 に 入 れ
ることも必要と考えられる。
- 159 -
686
916
1315
651
655
715
745 754
359
バイオエネルギー・植林による
影響分
バイオエネルギー・植林による
影響含まず
250
脆弱性大
200
150
100
2000
2100
中国
図 5.2.2-3
2000
2100
インド
2000
2050
2100
サブサハラ・アフリカ
2000
2050
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-CP3.0
A-baseline
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-baseline
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-CP3.0
A-baseline
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-baseline
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-CP3.0
2050
A-baseline
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-baseline
A-CP3.0
A-CP3.7
A-CP4.5
A-CP6.0
A-CP3.0
2050
A-baseline
A-CP3.7
A-baseline
0
A-CP4.5
50
A-CP6.0
食料アクセス指標[食料消費額/GDP]
(米国.Y2000=100)
300
2100
中南米
主 要 地 域 の 食 料 ア ク セ ス に 関 す る 指 標 ( GDP あ た り の 食 料 消 費 額 )
(3) 食 料 セ キ ュ リ テ ィ
食料セキュリティに関する従来からの代表的な指標として、食料自給率があげられ
る。この指標は、通常、国内消費に対して自国内でどの程度生産しているかをカロリ
ーベースで評価している。しかし、自国内生産割合を評価するのはセキュリティ指標
としては不十分であり、今後も食料貿易が発展する世界においては、経済力を考慮し
十分な食料を許容可能な価格以下で入手できるかという視点がむしろ重要であると考
え ら れ る 。 そ こ で 、 ALPS プ ロ ジ ェ ク ト で は 、「 食 料 セ キ ュ リ テ ィ 」 に 関 す る 指 標 と し
て、
「 GDP に 占 め る 食 料 輸 入 額 」を 評 価 し た 。食 料 輸 入 依 存 度 を 評 価 す る こ の 指 標 で は 、
購 買 力 を 考 慮 す る た め に 、 GDP を 各 地 域 の 購 買 力 の 代 理 指 標 と し て 扱 っ た 。 GDP に 占
め る 食 料 消 費 額 が 大 き い ほ ど 、食 料 安 全 保 障 に 対 し て 脆 弱 で あ る と 評 価 す る 。よ っ て 、
食料価格が高い場合には所得に比して食料輸入の依存度が大きくなり、地域における
食料セキュリティの脆弱性が増加することを示したものである。
図 5.2.2-4 に は 、シ ナ リ オ A に 関 し て 、こ の 食 料 セ キ ュ リ テ ィ 指 標 を 主 要 地 域 、時 点
別、排出削減レベル別にそれぞれ示した。食料アクセス指標と同様に、両シナリオと
もに、所得上昇の効果は大変大きく、各地域とも食料セキュリティは、将来的に大き
く改善すると見込まれる。ただし、中東・北アフリカやサブサハラアフリカについて
は 、 2050 年 頃 で も ま だ 相 当 脆 弱 な 状 況 と 予 想 さ れ る 。 シ ナ リ オ B で は 、 シ ナ リ オ A に
比べ、高位経済成長のため所得が大きく、また人口が少ないため食料供給量・食料用
土地利用面積が小さいために、食料価格は小さくなる。そのため、シナリオ B では、
シナリオ A に比べ、食料セキュリティの脆弱性は小さくなる傾向が見られる。
一方、前述の貧困人口や食料アクセスと同様に、排出削減レベルによる影響は大き
いとは推定されない。むしろ、厳しい排出削減レベルにおいては、わずかながら悪化
する可能性もある。また、厳しい排出削減においては、バイオエネルギーや植林のた
めに土地利用を行うことは比較的コスト効率的なオプションとなるが、それを大きく
- 160 -
行うことによって、食料価格を若干引き上げる効果が予測され、それによって、食料
セキュリティ指標も若干悪化する恐れもある。
脆弱性大
900 バイオエネルギー・植林による影響分
800 バイオエネルギー・植林による影響含まず
700 600 500 400 300 200 100 2000
2050
2000
日本
図 5.2.2-4
5.2.3
2050
中国
2000
2030
2050
中東・北アフリカ
2000
2050
サブサハラアフリカ
2000
2030
A‐CP3.0
A‐CP3.7
A‐CP4.5
A‐CP6.0
A‐CP3.0
A‐baseline
A‐CP3.7
A‐CP4.5
A‐CP6.0
A‐baseline
A‐CP3.0
A‐CP3.7
A‐CP4.5
A‐CP6.0
A‐baseline
A‐CP3.7
2030
A‐CP3.0
A‐CP4.5
A‐CP6.0
A‐baseline
A‐CP3.0
A‐CP3.7
A‐CP4.5
A‐CP6.0
A‐CP3.0
A‐baseline
A‐CP3.7
A‐CP4.5
A‐CP6.0
A‐baseline
A‐CP3.0
A‐CP3.7
A‐CP4.5
A‐CP6.0
A‐CP3.0
A‐CP3.7
2030
A‐baseline
A‐CP4.5
A‐CP6.0
A‐baseline
A‐CP3.0
A‐CP3.7
A‐CP4.5
A‐CP6.0
A‐CP3.0
2030
A‐baseline
A‐CP3.7
A‐CP4.5
A‐CP6.0
0 A‐baseline
食料セキュリティ指標 [穀物輸入額/GDP]
(日本.Y2000=100)
1073
1023
1243
1050
1000 2050
中南米
シ ナ リ オ A の 食 料 セ キ ュ リ テ ィ に 関 す る 指 標 ( GDP あ た り の 穀 物 輸 入 額 )
水ストレス人口
安 定 的 な 水 の 供 給 は 、 持 続 的 な 発 展 に 必 要 不 可 欠 の 項 目 の 一 つ で あ る 。 ALPS で は 、
Oki and Kanae 8 ) や Alcamo 1 0 ) 等 の 研 究 に な ら い 、 将 来 の 社 会 経 済 ・ 気 候 変 動 シ ナ リ オ 下
で 想 定 さ れ る 水 需 要 量 と 水 資 源 量 の 比 ( 年 間 取 水 量 /水 資 源 量 で 、 以 下 、 水 需 給 比 と 呼
ぶ ) を 河 川 流 域 毎 に 算 定 し 、 水 需 給 比 ≥0.4 の 水 ス ト レ ス 流 域 に 住 む 、 水 ス ト レ ス 人 口
を 評 価 し た 。「 水 ス ト レ ス 人 口 」 指 標 は 、 洪 水 ・ 渇 水 等 短 期 的 な 気 候 変 化 の 影 響 や 、 0.4
以上の需給比の差異、を考慮できないという欠点があるものの、長期的な気候変化の
影 響 を 測 る も の と し て IPCC で も 取 り 上 げ ら れ て い る
15、 24)
。
本 研 究 の 分 析 に よ る と 、 図 5.2.3-1 に 示 す よ う に 、 2000 年 に 、 世 界 の 水 ス ト レ ス 人
口 は 約 17 億 人 で 、 そ の 約 80%は 、 北 ア フ リ カ ・ 中 東 、 中 国 、 及 び 、 イ ン ド を 含 む 南 ア
ジ ア の 住 人 で あ る と 推 定 さ れ た 。今 後 2050 年 に か け 、主 と し て こ れ ら の 地 域 に お い て 、
人口増加と経済発展に伴う水需要量増加により水ストレス人口はさらに増大し、世界
の 水 ス ト レ ス 人 口 は ALPS-A の ベ ー ス ラ イ ン ケ ー ス で 約 3 0 億 人 ( 2000 年 の 1.7 倍 )、
ALPS-B の ベ ー ス ラ イ ン ケ ー ス で 28 億 人 ( 同 1.6 倍 ) に 達 す る と 推 定 さ れ た 。
- 161 -
3,400
A-Reference
A-Baseline
A-CP6.0
A-CP4.5
A-CP3.7
A-CP3.0
B-Baseline
B-CP6.0
B-CP4.5
B-CP3.7
B-CP3.0
水ストレス人口(百万人)
3,200
3,000
2,800
2,600
2,400
2,200
2,000
1,800
1,600
図 5.2.3-1
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
1,400
世 界 の 水 ス ト レ ス 人 口 ( ALPS-A,B、 ベ ー ス ラ イ ン と CP6.0~ 3.0)
温 暖 化 の 影 響 は 地 域 に よ っ て 異 な り 、図 5.2.3-2 の 2050 年 A-ベ ー ス ラ イ ン と A-CP3.0
の比較でみられるように、南西部アフリカのように、温暖化によって年間水資源量が
減少するため水ストレス人口が増大すると見込まれる地域がある一方で、インドのよ
うに、年間水資源量が増加するため、水ストレス人口が減少すると見込まれる地域も
あ る 。 世 界 全 体 で は 、 後 者 の 効 果 が 大 き く 、 図 5.2.3-1 の A-ベ ー ス ラ イ ン と A-CP3.0
との比較から読み取れるように、温暖化によって水ストレス人口は減少する。また、
世界全体では、温暖化よりも社会経済シナリオの差異の影響が大きいと考えられ、温
暖化緩和のレベルによらず、シナリオ B は、シナリオ A より水ストレス人口は小さい
1,200
1,000
800
600
400
200
北アフリカ・中東
図 5.2.3-2
南西部アフリカ
中国
主要地域の水ストレス人口
- 162 -
インド
2050 B‐Base
2050 A‐CP3.0
2050 A‐Base
2000
2050 B‐Base
2050 A‐CP3.0
2050 A‐Base
2000
2050 B‐Base
2050 A‐CP3.0
2050 A‐Base
2000
2050 B‐Base
2050 A‐CP3.0
2050 A‐Base
0
2000
水ストレス人口(百万人)
結果となった。
なお、以上の分析は、いずれも、灌漑用水については、農作物の品種や作付時期の
最適化と灌漑効率の向上を、そして、生活や工業用水については再利用水増大、とい
う総取水量低減に関する適応策導入を見込んだものである。仮に、これらの適応策が
導 入 さ れ な い と し た ケ ー ス ( 図 5.2.3-1 の A-Reference ケ ー ス ) に 比 べ 、 こ れ ら の 適 応
策 が 導 入 さ れ る と し た ケ ー ス ( 同 図 A-Baseline ケ ー ス ) で は 、 世 界 の 水 ス ト レ ス 人 口
が 2050 年 で 約 6%小 さ く 算 定 さ れ 、 す な わ ち 、 適 応 策 に よ る 水 ス ト レ ス 人 口 低 減 の 可
能性も示唆された。
以 上 の よ う に 、 世 界 の 水 ス ト レ ス 人 口 は 、 2000 年 の 約 17 億 人 か ら 2050 年 に か け 、
30 億 人 程 度 ま で 増 大 す る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。そ の 多 く は 、北 ア フ リ カ ・ 中 東 、中 国 、
及び、インドを含む南アジアでの増加であり、また、その主な要因として、気候変動
より人口増加やそれに伴う水需要量増大の影響の方が大きいと考えられる。さらに、
取水量低減等の適応策によって、世界の水ストレス人口増大を緩和する可能性も示唆
された。豪雨や干ばつ等、短期的な気候変化と、より細かな地域毎の背景事情を考慮
した温暖化影響と適応策の評価は今後の課題である。
5.2.4
生物多様性
陸上生態系については、温暖化影響の指標として浸食される潜在的植生分布面積の
変 化 を 排 出 削 減 レ ベ ル 別 に 評 価 し た 。 図 5.2.4-1 は 、 2030 年 、 2050 年 、 2100 年 の 潜 在
的 植 生 分 布 面 積 を 1 9 9 0 年 比 で 示 し た も の で あ る 。ベ ー ス ラ イ ン に お い て は 、2 0 3 0 年 :
5%、2050 年 : 8%、2100 年 : 17%と 気 候 の 変 動 が 大 き く な る に 伴 っ て 浸 食 さ れ る 潜 在 的
植 生 分 布 面 積 は 増 加 し て い く 。排 出 削 減 に よ っ て 気 候 変 動 を 緩 和 す る こ と に よ り 、2100
年 に お け る 浸 食 さ れ る 潜 在 的 植 生 分 布 面 積 は 、 CP6.0: 13%、 CP4.5: 10%、 CP3.7: 8%、
CP3.0: 6%と ベ ー ス ラ イ ン に 比 べ て 抑 制 さ れ る こ と が わ か る 。但 し 、こ れ は あ く ま で 入
力した気温条件等が定常状態に達した時に支配的となる植生を潜在的植生として評価
するものである。現実の植生分布については、植生の移動の速さや、他の植生の侵入
によって植生が入れ替わる可能性等の複雑且つ不確実性が大きい因子によって決定さ
れることに留意する必要がある。
- 163 -
浸食される潜在的植生分布面積 [1990年比%]
18
16
14
12
ALPS A‐Baseline
10
ALPS A‐CP6.0
ALPS A‐CP4.5
8
ALPS A‐CP3.7
6
ALPS A‐CP3.0
4
2
0
2030
図 5.2.4-1
2050
2100
各 排 出 削 減 レ ベ ル の 下 で の 潜 在 的 植 生 分 布 の 減 少 (1990 年 比 )
海 洋 生 態 系 に つ い て は 、 二 酸 化 炭 素 濃 度 の 上 昇 に よ っ て 、 炭 酸 カ ル シ ウ ム ( CaCO 3 )
でできているプランクトンの殻やサンゴの骨格が溶け出し、それらの種の生存が危険
に曝されることが危惧されている。海洋酸性化は、不確実性が大きい気温上昇とは関
係 な く 、 大 気 中 CO 2 濃 度 の 上 昇 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る た め 、 予 測 の 確 実 性 も 高 い 。
図 5.2.4-2 に 、各 排 出 削 減 レ ベ ル に 対 す る 海 洋 の pH と CaCO 3 が 組 成 の ア ラ ゴ ナ イ ト
( ア ラ レ 石 )の 飽 和 度( 北 緯 60°で の 評 価 例 )の 変 化 を 示 す 。ベ ー ス ラ イ ン に お い て は 、
2100 年 以 降 、 北 緯 60°の 海 域 で は ア ラ ゴ ナ イ ト は 溶 解 し て し ま う 可 能 性 が 高 い こ と が
わかる。
な お 、 温 か い 海 域 で は 寒 い 海 域 よ り も CaCO 3 が よ り 安 定 的 に な る た め 、 よ り 温 か い
海域におけるアラゴナイトはベースラインでも安定的と推計される。また、同じく
CaCO 3 組 成 の カ ル サ イ ト ( 方 解 石 ) は ア ラ ゴ ナ イ ト よ り も 安 定 的 で あ る こ と に は 注 意
されたい。しかし、生態系に大きな変化を与えることは好ましくなく、ここでの評価
だけからでも、少なくともベースラインのような大きな排出増は避けるべきとの認識
は広く共有できるものと考えられる。
1.8
8.1
1.6
1.4
 (Aragonite)
pH
8
7.9
A-Baseline
7.8
1.2
1
0.8
A-Baseline
A-CP6.0
0.6
A-CP4.5
0.4
A-CP3.7
0.2
A-CP3.0
7.7
2000
図 5.2.4-2
2050
2100
2150
0
2000
A-CP6.0
A-CP4.5
A-CP3.7
A-CP3.0
2050
2100
海 洋 の pH( 左 ) と 北 緯 60°に お け る ア ラ ゴ ナ イ ト の 飽 和 度 ( 右 )
- 164 -
2150
参考文献(第 5 章に関するもの)
1)
FAO; FAOSTAT
(http://faostat.fao.org/site/291/default.aspx).
2)
IIASA; Gross extents with rain-fed cultivation potential (1000 ha) - maximizing technology mix (Table35)
(http://www.iiasa.ac.at/Research/LUC/GAEZ/index.htm).
3)
World bank; World development indicators (2008).
4)
FAO; World agriculture: towards 2015/2030, an FAO perspective, Edited by J. Bruinsma (2003).
5)
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(http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_zyukyu_kakaku/pdf/kakaku.pdf).
6)
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7)
FAO:Minimum dietary energy requirement (2006).
8)
Oki T and Kanae S; Global hydrological cycles and world water resources, Science,313-25 (2006)
9)
Vörösmarty CJ, Green P, Salisbury J, Lammers RB; Global water resources: vulnerability from climate
change and population growth, Science, 289: 284-288 (2000).
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sosio-economic and climate changes, Hydrilogical Science, 52(2): 247-275 (2007).
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for the assessment of global water resources –Part 1: Model description and input meteorological forcing,
Hydrol. Earth Syst. Sci., 12: 1007-1025 (2008).
12) Arnell NW; Climate change and global water resources: SRES emissions and sosio-economic scenarios,
Global Environmental Change,14: 31-52 (2004).
13) Hasumi H, Emori S; K-1 coupled GCM (MIROC) description (2004).
14) PCMDI (2004) WCRP CMIP3 multi-model database. http://www-pcmdi.llnl.gov/ipcc/about_ipcc.php.
15) IPCC; Climate Change 2007: Impacts, Adaptation and Vulnerability, Cambridge University Press,
Cambridge (2007).
16) Hoekstra, A.Y. and Hung, P.Q.; Globalization of water resources: international virtual water flows in relation
to crop trade, Global environmental Change, 15, 45-56 (2005).
17) 環境省生物多様性総合評価検討委員会; 生物多様性総合評価報告書 (2010).
18) Luiz A.Martinelli and Solange Filoso; Expansion of sugarcane ethanol production in brazil: Environmental
and Social Challenges, Ecological Application, 18(4) (2008)
(http://www.tamu.edu/faculty/tpd8/BICH407/Brazilenvsoc2.pdf).
19) RITE; 脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦略の研究平成 21 年度成果
報告書 (2010).
20) RITE; 脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦略の研究平成 22 年度成果
報告書 (2011).
21) 川島博之; 世界の食料生産とバイオマスエネルギー
2050 年の展望, 東京大学出版会(2008).
22) FAO; World agriculture: towards 2030/2050, Interim report (2006).
23) World Bank, Commodity price data (Pink Sheet), http://go.worldbank.org/A5VNHNLPO0.
- 165 -
24) IPCC; Climate Change 2001: Impacts, Adaptation and Vulnerability, Cambridge University Press,
Cambridge (2001).
- 166 -
第 6章
6.1
各種鉱物資源、リサイクル
現状認識
6.1.1 鉱 物 資 源 と 地 球 温 暖 化 、 持 続 可 能 な 発 展 と の 連 関 に 関 す る 問 題 意 識
金属鉱物資源は、鉄、銅、亜鉛、アルミなどのコモンメタルと、レアメタル、レア
アースに分けられる。レアメタル、レアアースは、有用であるが、何らかの制約によ
り 使 用 量 自 体 は 少 な い 金 属 鉱 物 資 源 を 指 す 。非 金 属 鉱 物 資 源 の 代 表 例 は 石 灰 石 で あ り 、
石灰石はセメント部門を中心に広く工業部門で利用されている。これら鉱物資源の現
状をどのように把握すべきだろうか。また将来をどう考えるべきなのだろうか。
鉱 物 資 源 は 究 極 的 に 枯 渇 し う る た め 、「 鉱 物 資 源 を 使 用 す る こ と 自 体 、 持 続 可 能 な 発
展( SD)に 反 す る 」と の 認 識 も 見 ら れ る 。ま た 採 掘 、精 錬 、加 工 、使 用 、
( リ サ イ ク ル )、
処理や廃棄、さらに各段階での輸送などを通して、ローカル及びグローバルな環境負
荷を伴う
1)
。 そ の た め 、「 鉱 物 資 源 の 使 用 量 を 減 ら す こ と が 温 暖 化 問 題 の た め に 重 要 」
という理論的、かつ根本的な解決法が導かれる。
一 方 、 人 間 に と っ て 最 低 限 の 住 居 、 安 全 な 水 へ の ア ク セ ス ( 上 水 道 の 整 備 )、 食 料 へ
のアクセス、エネルギーへのアクセス、教育施設、保健医療施設、自然災害に対する
最 低 限 の 防 御 、 道 路 な ど の 移 動 輸 送 手 段 は 、 持 続 可 能 な 発 展 ( SD ) と い う 意 味 で も 最
低限必要である。また経済活動の基礎として、発電設備や送電線、石油精製施設や給
油施設、鉄道、港湾施設などのインフラ整備が欠かせない。これらの基礎的インフラ
構築のためには、鉄、セメントの量が必要となる。
このような鉱物資源の功罪を共に見れば、リサイクルの潜在的な重要性は明らかで
ある
2)
。そ れ で は 、鉱 物 資 源 の リ サ イ ク ル は 現 状 ど の 程 度 な さ れ て い て 、将 来 の リ サ イ
クルにどの程度期待したら良いのだろうか。
さ ら に レ ア ア ー ス 、 レ ア メ タ ル に 目 を 向 け る と 、 2011 年 は 中 国 の 実 質 的 な レ ア ア ー
ス 輸 出 規 制 に よ り 、 ジ ス プ ロ シ ウ ム Dy や ネ オ ジ ム Nd な ど の レ ア ア ー ス の 価 格 高 騰 、
そ れ に と も な う 各 種 製 品 ( エ ア コ ン 、 ハ イ ブ リ ッ ド カ ー HV な ど ) の 小 売 価 格 上 方 改 定
が 話 題 と な っ た 。 ジ ス プ ロ シ ウ ム Dy は 、 2011 年 7 月 に 2000 年 代 の 平 均 価 格 水 準 の 約
30 倍 と な る 3000US$/kg ま で 急 騰 し た
3)
け高効率モーターに使用される。岩本ら
。 Dy は 高 温 下 で の 磁 性 維 持 を 目 的 に 、 と り わ
4)
に よ る と 、 Dy は 車 両 や 機 器 単 体 で 見 て 15%
か ら 30%の 省 エ ネ 効 果 を 持 つ 。
このようなレアアースの価格高騰、省エネ機器の製造原価上昇は、温暖化対策をよ
り 難 し く す る の で は な い か 。 HV、 PHEV、 EV 向 け の み な ら ず 、 再 生 可 能 エ ネ 大 量 普 及
時の系統安定化のために蓄電池の大量普及が必要であり、蓄電池製造のためには多く
のレアメタルが必要なのではないか。このようなレアアース、レアメタルの資源制約
が 省 エ ネ 機 器 や 蓄 電 池 の 利 用 可 能 性 や 将 来 の CO 2 削 減 可 能 性 を 制 限 す る の で は な い か 。
以上の問題意識に基づき、レアアース、レアメタルを中心に各種鉱物資源の特性と
現状に言及した後、コモンメタルの代表格である鉄の現状を整理する。鉄鋼部門は、
- 167 -
2008 年 時 点 で 世 界 の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 の 5.1%を 占 め
5)
、今 後 の 緩 和 策 を 考 え る
上でも重要な部門である。
次に、こらら現状を踏まえた上で、将来のレアアース、レアメタルの将来見通し、
及び鉄の需要量やリサイクルの見通しを示す。
6.1.2
レアメタル、レアアースを含む各種鉱物資源の特性と現状
(1) レ ア メ タ ル 、 レ ア ア ー ス の 多 様 性
レアメタル、レアアースは、鉄、銅、亜鉛、アルミなどのコモンメタルと対をなす
概念上の区分であるが、少なくとも次の何れかの性質を一つ以上持つ。

資 源 的 に 稀 少 な 金 属 = 白 金 族 金 属 (Pt, Rh, Pd), イ ン ジ ウ ム In, ガ リ ウ ム Ga, タ ン
タ ル Ta, ジ ス プ ロ シ ウ ム Dy な ど

資 源 的 に 豊 富 だ が 、 精 錬 し 金 属 を 得 る の が 困 難 な 金 属 = チ タ ン Ti, シ リ コ ン Si,
マ グ ネ シ ウ ム Mg な ど

資源的に豊富でも地球に薄く広く分布し、鉱石の品位が低い金属=バナジウム
V, ス カ ン ジ ウ ム Sc な ど
レアアース、レアメタルは数が多く、これまで様々な整理がなされてきた。岡部
1)
は、次のようにレアメタルを用途別に整理する方法が、分り易く良い整理法であると
している。
1.
合金添加
2.
電子材料
3.
航 空 宇 宙 材 料 ( Ti、 Ni 合 金 、 Re) … 空 と ぶ レ ア メ タ ル
4.
自動車用…走るレアメタル
a. 合 金 添 加 ( Mo、 V、 Nb、 Ti) … 強 度 増 大 ・ 軽 量 化 目 的
b. 磁 石 材 料 ( Nd、 Dy、 Sm、 Co) … 高 性 能 モ ー タ に 不 可 欠
c. 排 ガ ス 浄 化 触 媒 ( Pt、 Pd、 Ph)
5.
原子力レアメタル
…燃料集合体への利用など
このように多様なレアメタル、レアアースを含めた鉱物資源を考察するためには、
次のようないつくかの特徴的な性質を認識することが重要である。

潜在的にはリサイクルが可能である

多様な素材間競争下にある

単 位 重 量 /単 位 容 量 当 り の 単 価 が 極 め て 幅 広 い
以下、これら特徴を具体例(コモンメタルや非金属鉱物資源含む)と共に示す。
(2) リ サ イ ク ル の 可 能 性
リサイクルの効果は素材により多様である。リサイクル品は純度低下が起こり、ま
た不純物管理が困難であることから、カスケード的なリサイクルに留まる金属資源も
あ る ( 例 : ア ル ミ 、 コ バ ル ト )。 そ の た め レ ア ア ー ス 、 レ ア メ タ ル の リ サ イ ク ル は 、 現
状のところ経済的、技術的に困難であり、リサイクルしやすい一部製品を除き、リサ
イ ク ル 率 は 1%未 満 と 低 い も の が 多 い
6)
。一方、鉄は二次精錬技術などの向上により老
- 168 -
廃屑を鉄源とした場合であってもアップグレードされている(カスケード的なリサイ
ク ル で は な い )。
温暖化緩和策との連関という意味で問題となるのは、リサイクルによって当素材の
一 次 消 費 は 節 約 で き て も 、 ラ イ フ サ イ ク ル で 見 て エ ネ ル ギ ー や CO 2 削 減 が 見 込 め る か
どうかである。また、ライフサイクルで見た経済性も持続可能なリサイクル実施のた
めに重要である。
プラスチック製品は元のプラスチック製品にリサイクルしようとすると一次資源を
利用するよりもより多くのエネルギー投入が必要となる。そのためライフサイクルで
見 た CO 2 低 減 と い う 観 点 か ら も 、 廃 プ ラ の コ ー ク ス 炉 や 高 炉 投 入 と い っ た サ ー マ ル リ
サイクル、あるいはケミカルリサイクルが有効である。
一 方 、 鉄 や ア ル ミ は リ サ イ ク ル し た 方 が 、 省 エ ネ 及 び CO 2 低 減 が 見 込 め る 。 鉄 は リ
サ イ ク ル す る こ と で 約 1/3、 ア ル ミ は 約 3 %の CO 2 排 出 と な る 。 た だ し 、 こ の よ う な 素
材は、既に物理的な可能性や社会的経済的な制約の下、ある一定のリサイクルが現状
なされている。
このようにリサイクルは一次鉱物資源の重要な節減方策であるが、純度低下や不純
物混入によりリサイクルが現状の技術では困難な素材も多い。また素材によってライ
フ サ イ ク ル で 見 た CO 2 低 減 効 果 に 差 異 が あ り 、 ま た 追 加 的 な リ サ イ ク ル 率 向 上 の 実 現
可能性にも注意が必要である。
(3) 素 材 間 競 争 、 素 材 間 の 連 関
素材間の競争や連関は多様な様相を持つ。例えば、代替関係にあるケース(例:鉄
と ア ル ミ )、併 用 さ れ る ケ ー ス( 例 : 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト の 鉄 と コ ン ク リ ー ト )、主 産 物 ・
副 産 物 の 関 係 に あ る ケ ー ス( 例 : イ ン ジ ウ ム In は 亜 鉛 Zn の 副 産 物 )な ど あ る
1)
。こ の
ように状況が多様であるため、素材単独での考慮が難しい。
この内、鉄とアルミの代替・競合は、飲料缶や自動車の分野でとりわけ注目される。
自動車向けでは、炭素繊維も話題性が高い。一方、鉄も高張力鋼の技術開発が一層進
んでおり、各種鋼板の経済性、加工性、剛性や強度、衝突安全性など需要家(自動車
業 界 側 ) か ら の 複 数 の 要 求 に き め 細 か く 1応 え て い る ( な お 、 高 張 力 鋼 板 は 数 %の マ ン
ガ ン Mn、 シ リ コ ン Si を 含 む )。
主 産 物 ・ 副 産 物 の 関 係 に 関 し て 、イ ン ジ ウ ム In 価 格 高 騰 は 、イ ン ジ ウ ム In の 供 給 拡
大 を 促 す よ う で あ る が 、実 際 は 主 産 物 で あ る 亜 鉛 Zn の 生 産 量 や 価 格 に 左 右 さ れ る 。レ
アメタル、レアアースは、生産者、需要家が限られていることもあり短期的な需給の
マッチングがとりにくく価格がそもそも不安定であるが、このような主産物・副産物
の関係は、価格の不安定性をより高める。
コモンメタルである鉄と銅の関係も重要である。廃自動車由来の鉄スクラップは、
銅混入の大きなルートであり、鉄源全体への銅蓄積(濃縮)が懸念されてきた
1
7)、 8)
。
よ り 詳 細 に 説 明 す る と 次 の 通 り で あ る 。自 動 車 を 構 成 す る 部 品 と し て 、外 板( ド ア ア ウ タ ー な ど )、
内 板 、構 造 部 材 、床 下 部 材( サ ス ペ ン シ ョ ン ア ー ム な ど )な ど が あ る が 、こ れ ら が 要 求 す る 特 性
(張り剛性、耐デント性、降伏強度、部材剛性、耐久強度、動的圧漬強度)は、部品によりそれ
ぞ れ 異 な る 。ま た 、車 種 に よ っ て も 異 な っ て く る 。部 品 や 車 種 に よ っ て は 、ア ル ミ へ の 代 替 が よ
り進みやすい部品もあるし、逆に鉄がより有利な部品もある。
- 169 -
しかし、その後、銅などの素材スクラップ価格高騰により、廃自動車から銅などを抜
きとり分別する傾向が強まった
2)
。そ の た め 鉄 源 フ ロ ー 全 体 へ の 銅 の 懸 念 は そ の 後 相 対
的 に 弱 く な っ て い る ( 従 っ て 、 鉄 ス ク ラ ッ プ 発 生 量 自 体 が 中 心 的 な 律 速 条 件 で あ る )。
(4) 単 位 重 量 /単 位 容 量 当 り の 単 価
石 灰 石 は 1kg 当 り 1 円 程 度 で あ る 。 こ れ に 対 し 、 ジ ス プ ロ シ ウ ム Dy や 白 金 Pt は 単
価 が 高 い 。 白 金 は 2011 年 3 月 か ら 2012 年 3 月 に か け て kg 当 り 4.5 万 US$か ら 6.4 万
US$で あ る
9)
。 単 位 重 量 当 た り で 白 金 は 石 灰 石 の 4*10 6 倍 の 価 格 で あ る 。 白 金 は 採 掘 適
地であっても鉱石品位は極めて低く、掘削や精錬には単純な白金重量だけでは表現で
きない潜在的な環境負荷が存在することに注意が必要である
1)
。
また石灰石のように容積当りの単価の低い鉱物資源は、長距離輸送や国際貿易はあ
まりなされない。なお本報告書では直接の分析対象としていないが、石灰石を大量に
利用するセメント産業は、副残物、廃棄物、危険物(多くは逆有償の価格帯)も同様
に大量に受入れており、このように静脈産業を支えるセメント部門は、持続可能な発
展といった意味でも重要である。
一方、単価の高い鉱物資源やスクラップは国際貿易が活発である。そのため特定の
地域での政策(例えばリサイクル率向上のための政策)は、国際貿易の変化を引き起
こし、政策で意図していた当初の目的から距離が生じる可能性がある。
(5) ま と め
レアメタル、レアアースの多様な特性を、コモンメタルや非金属鉱物資源と共に見
てきた。ここから次のような示唆が得られる。

CO 2 削 減 と い う 目 的 の た め 、特 定 の 素 材 需 要 量 を 低 減 さ せ よ う と す る 政 策 は 、素
材 間 競 争 を ゆ が め 、あ る い は( 多 様 か つ 複 雑 な 素 材 間 競 争 に よ っ て )予 期 せ ぬ 副
作 用 を 生 む 可 能 性 が あ る 。 そ の た め 、 当 初 の 目 的 で あ っ た CO 2 削 減 が 本 当 に 達
成されうるのかは慎重な判断が必要である。

単 価 の 高 い 鉱 物 資 源 や ス ク ラ ッ プ は 国 際 貿 易 が 活 発 で あ る 。そ の た め( 持 続 可 能
な 発 展 と い う 目 的 の た め )特 定 の 地 域 で リ サ イ ク ル 率 向 上 の た め の 政 策 を 実 施 す
る こ と は 、国 際 貿 易 の 変 化 を 引 き 起 こ し 、当 初 政 策 で 意 図 し て い た 目 的 か ら 距 離
が生じる可能性がある。
6.1.3
鉄鋼部門及び鉄リサイクルの現状
こ こ で は 代 表 的 な コ モ ン メ タ ル で あ る 鉄 に 注 目 す る 。図 6.1.3-1 は 鉄 鋼 生 産 方 式 を 簡
易的に図式化したものである。
- 170 -
図 6.1.3-1
鉄鋼生産方式の概要
ここでのポイントは次の通りである。

鉄 鋼 生 産 方 式 は 、鉄 鉱 石 を 主 な 鉄 源 と す る 高 炉 転 炉 法 、ス ク ラ ッ プ を 主 な 鉄 源 と
す る 電 炉 法 が あ る ( 他 に 直 接 還 元 法 も 商 用 運 転 さ れ て い る )。

た だ し 、高 炉 で 生 産 し た 銑 鉄 を 電 炉 へ 投 入 し た り 、ス ク ラ ッ プ を 転 炉 へ 投 入 し た
り す る ケ ー ス も 多 い 。 転 炉 へ の ス ク ラ ッ プ 投 入 に よ り CO 2 削 減 が 進 む 。

鉄 鋼 部 門 全 体 の CO 2 低 減 の た め に は 、( 電 炉 法 普 及 と 言 う よ り む し ろ ) 世 界 的 に
鉄スクラップがどの程度発生しうるかが問題である。

高 炉 転 炉 法 で は 、自 動 車 向 け の 冷 間 圧 延 鋼 材 、メ ッ キ 鋼 板 も 大 規 模 生 産 さ れ て い
る が 、老 廃 屑 を 鉄 源 と し た 電 炉 法 で は 建 築 土 木 向 け の 汎 用 鋼 材 が 量 的 に 主 体 で あ
る。

た だ し 、電 炉 鋼 と は 言 え 、ス ク ラ ッ プ 品 質 管 理 や 二 次 精 錬 技 術 の 向 上 に 伴 い 、多
種の鋼材を価格競争力を伴った形で製造可能となりつつある。

以 上 か ら 、一 次 生 産( 鉄 鉱 石 由 来 の 鉄 源 を 使 用 )か 、二 次 生 産( ス ク ラ ッ プ 由 来
の 鉄 源 を 使 用 )か は 、鋼 材 需 要 側 の 制 約 よ り も 、世 界 的 な ス ク ラ ッ プ 発 生 量 に 帰
着する。
こ の よ う な 問 題 意 識 の 下 、 2010 年 ま で の 老 廃 屑 ( 使 用 や 耐 用 年 数 を 経 て 発 生 す る ス
ク ラ ッ プ の 総 称 )に つ い て 、文 献
11 ) ~ 1 9 )
を 参 考 と し つ つ RITE に て 推 計 を 行 っ た の が 図
6.1.3-2 で あ る 。 土 木 建 築 向 け の 鉄 鋼 製 品 の 「 寿 命 」 は 、 日 本 で は 40 年 強 と 比 較 的 短 い
と さ れ る が 、欧 米 諸 国 で は 少 な く と も 50 年 以 上 と さ れ る
献
11 ) 1 2 )
15)16)
。そ の た め 、こ こ で は 文
な ど を 参 考 と し つ つ 1870 年 か ら と い っ た 140 年 前 の 時 点 か ら の 鉄 源 フ ロ ー 推 定
- 171 -
を 行 っ た ( 図 で は 1900 年 以 降 を 表 示 )。 ま た 、 2010 年 と い っ た 直 近 に つ い て は 過 去 に
比 べ 年 産 量 が 大 き く 全 体 へ 一 定 の 影 響 度 が あ る た め 、Hatayama et al.,
13)
、BIR
14)
といっ
た最新の情報や推定データも参照した。
14
粗鋼生産量
生産量、 回収・使用料 (億トン/年)
12
銑鉄生産量
10
老廃屑回収・利用量
8
6
4
19%
2
22%
9%
0
1900
14%
1920
1940
図 6.1.3-2
16%
1960
21%
22%
1980
23%
21%
2000
過去の老廃屑の発生・利用量の推定
注)図中のパーセントは、粗鋼生産比の老廃屑量
図 6.1.3-2 か ら 次 の こ と が 示 唆 さ れ る 。

老廃屑はこれまで極めて重要な役割を担っている。

た だ し 粗 鋼 に 対 す る 老 廃 屑 量 は 、粗 鋼 生 産 の 成 長 が 遅 い 1980 年 か ら 2000 年 の 間
に お い て も 21% か ら 23% と 微 増 に と ど ま る 。

こ れ は 、 i) 建 築 や 土 木 向 け な ど 「 寿 命 」 が 数 十 年 以 上 と な る よ う な 長 寿 命 の 鉄
鋼 需 要 の 影 響 、 ii) 港 湾 施 設 や 建 物 の 基 礎 部 分 の 埋 め 殺 し 、 ダ ム や ト ン ネ ル の 永
久構造物による影響
20)
7)
、 iii) 老 廃 屑 と し て 回 収 可 能 性 が あ っ た が 、 米 国 の デ ー タ
か ら 示 唆 さ れ る 通 り 、都 市 ご み と 共 に 埋 め 立 て 散 逸 し た 未 回 収 分 の 影 響
1 5 ) 、1 6 )
、
などによる。
6.2
6.2.1
将来の見通し
レアアース、レアメタルに関する見通し
これまで鉱物資源に関する定量分析では、単純化のため各鉱物資源量の重量を単純
に加算することもあった。これは、鉄、セメントなど使用量の大きい素材使用量を集
約し簡易的に表現するためには必要な作業である。また、そもそもレアアース、レア
メタルの使用量もこれまでそれほど大きくなかった。
- 172 -
しかし今後は、小型化、軽量化、高速化、バッテリー容量拡大、より高いエネルギ
ー効率などの需要側からの要求に対応するため、より軽量な金属(アルミ、チタンな
ど )、 さ ら に は レ ア ア ー ス 、 レ ア メ タ ル も 製 品 製 造 の た め 必 要 と な る 見 込 み で あ る 。
Alonso, et al. 2 1 ) は 、「 緩 や か な 電 化 ケ ー ス 」 と 「 GHG 450ppm ケ ー ス 」 の 2 ケ ー ス に
お い て 、 ネ オ ジ ム Nd と ジ ス プ ロ シ ウ ム Dy の 需 要 量 の 見 通 し を 示 し て い る 。「 G H G
450ppm ケ ー ス 」に お い て 、Nd と Dy は 2030 年 に 2010 年 比 で そ れ ぞ れ 8 倍 、27 倍 の 需
要 量 と な る 。 な お Dy は 「 緩 や か な 電 化 ケ ー ス 」 で あ っ て も 、 10kt 程 度 と 2010 年 の 10
倍に増加する。
経済産業省製造産業局
6)
は 、 2011 年 の 中 国 の 動 向 や レ ア ア ー ス 高 騰 を 受 け て 、 Dy 使
用 量 低 減 技 術 、 Dy 代 替 材 料 開 発 を 急 ぐ 必 要 性 、 中 国 以 外 の 供 給 源 確 保 、 リ サ イ ク ル 技
術の開発の必要性を打ち出している。
岡部
1)
は 、レ ア ア ー ス 、レ ア メ タ ル の 短 期 的 需 給 マ ッ チ ン グ が 取 り づ ら い 点 に 言 及 し
つつも、長期的には技術開発が極めて重要かつ有効であり、同時に期待できるため、
短期的なレアアース高騰が省エネ機器開発を長期的に抑制するといった懸念は不要と
する。ただし、レアアース、レアメタルの優良鉱山は地球規模で見てもごく一部に限
られているため、それら優良鉱山の乱開発や掘削、精錬時におけるローカルな環境負
荷についてもっと関心を向けるべきとする。これは、持続可能な発展を考える上でも
重要である。
6.2.2
粗鋼生産量及び鉄リサイクルの見通し
(1) 粗 鋼 生 産 シ ナ リ オ
ALPS シ ナ リ オ A( ALPS-A) で 想 定 し て い る 人 口 、 GDP を 基 に 作 成 し た 将 来 の 粗 鋼
生 産 シ ナ リ オ を 図 6.2.2-1 に 示 す 。IEA 2 2 ) は 将 来 の 粗 鋼 生 産 見 通 し に つ い て 、Low と High
の 2 つ を 示 し て い る が 、そ れ ら と 比 較 す る と 、図 6.2.2-1 で 示 し た 粗 鋼 生 産 シ ナ リ オ は 、
2050 年 の 世 界 計 が 21.9 億 t で あ り 、こ れ は IEA 2 2 ) の Low ケ ー ス 23.1 億 t よ り も 少 な い 。
本粗鋼生産シナリオは、使用段階での効率化、薄肉化(例えば、高張力鋼)をより見
込んだシナリオと考察される。
- 173 -
Latin America
Scenario
Africa and Middle East
2,000
Crude steel production (Million ton/yr)
Statistics
Other developing Asia
1,500
India
Economies in transition
1,000
China
500
OECD Pacific
OECD North America
OECD Europe
0
1990
2000
図 6.2.2-1
2010
2020
2030
2040
2050
地 域 別 の 粗 鋼 生 産 シ ナ リ オ (ALPS-A)
な お 、 よ り 高 い 経 済 成 長 と 低 い 人 口 を 見 込 ん だ ALPS-B で は 、 2050 年 時 点 の 粗 鋼 生
産 が 21.3 億 t と 、 ALPS-A よ り 少 な い 。 こ れ は 、 短 期 的 な 鋼 材 需 要 量 ( フ ロ ー ) は 経 済
成長に依存するが、長期的には一人当たり鉄鋼蓄積量(ストック)が鍵になるという
構造による
13)、 15)、 16)
。
(2) 鉄 の リ サ イ ク ル に 関 す る 長 期 シ ナ リ オ
鉄 ス ク ラ ッ プ を 転 炉 や 電 炉 へ 投 入 す る こ と に よ り CO 2 削 減 が 見 込 め る ( 図 6.1.3-1
参 照 )。 そ の た め 、 鉄 鋼 部 門 か ら の 長 期 的 な CO 2 排 出 レ ベ ル は 、 ス ク ラ ッ プ の 入 手 可 能
性 に 帰 着 す る 。 こ の よ う な 問 題 意 識 の 下 、 過 去 の 推 計 ( 図 6.1.3-2) で 得 ら れ た 多 数 の
パ ラ メ ー タ を 活 用 し つ つ 、ご く 最 近 の 分 析 デ ー タ
13)~ 15)、 17)
も 参 考 に し つ つ 、将 来 の 老
廃 屑 回 収 ・ 利 用 量 の シ ナ リ オ を 構 築 し た ( 図 6.2.2-2)。 図 6.2.2-2 は 、 次 の こ と を 示 唆
している。

将来、大量の老廃屑発生となるのは確実であり、さらにその重要性が増す。

た だ し 、 粗 鋼 と の 比 で 見 る と 、 2050 年 に 4 割 弱 、 か な り 長 期 で 見 た 2100 年 に お
い て も 5 割 弱 に と ど ま る 。こ れ は 、高 炉 一 貫 な ど に よ る 一 次 生 産 が 、少 な く と も
2050 年 と い っ た タ イ ム ス パ ン で 、 重 要 な 役 割 も 持 ち 続 け る こ と を 意 味 す る 。
- 174 -
粗鋼生産量、老廃屑回収・利用量(億トン/年)
25
粗鋼生産量
老廃屑回収・利用量
20
15
48%
39%
10
5
14%
23%
21%
0
1900
1925
1950
図 6.2.2-2
1975
2000
2025
2050
2075
2100
将 来 の 老 廃 屑 回 収 ・ 利 用 量 の 推 定 ( 2100 年 ま で )
注)図中のパーセントは、粗鋼生産比の老廃屑量
(3) 粗 鋼 生 産 量 及 び 鉄 の リ サ イ ク ル に 関 す る ま と め
鉄 の リ サ イ ク ル は 、 省 資 源 、 持 続 可 能 な 発 展 、 CO 2 削 減 に と っ て 重 要 な 枠 割 を 持 つ 。
老 廃 屑 量 は 今 後 と も 拡 大 が 見 込 め る も の の 、 2050 年 と い っ た 中 期 で 見 て も 粗 鋼 生 産 比
で 見 る と 39% で あ り 、 鉄 鉱 石 由 来 の 一 次 生 産 が 必 要 で あ る 。 こ れ は 次 の こ と を 示 唆 し
ている。

将 来 、 仮 に 大 幅 な CO 2 削 減 を 目 指 す と し た 場 合 で も 、 老 廃 屑 量 に 量 的 な 限 度 が
あ る た め 、高 炉 転 炉 法 や 直 接 還 元 法 、さ ら に は 新 方 式 の 一 次 生 産 方 式 に 関 連 す る
多様な技術開発が長期的にも必要である。

老 廃 屑 量 の さ ら な る 回 収 増 進 は 、都 市 ご み か ら の 回 収 加 速 な ど に よ り 、若 干 は 見
込める
20)
。ただし、鋼材の埋め殺し分、永久利用分があることを考えると、老
廃屑量を政策により大幅に増加させることは困難であると考えられる。
6.3
鉱物資源、リサイクルに関するまとめ
鉱 物 資 源 の 採 掘 、 精 錬 に は 、 ロ ー カ ル な 環 境 負 荷 や CO 2 排 出 を 伴 う 。 そ の 一 方 、 持
続 可 能 な 発 展( SD)や 貧 困 削 減 の た め に は 各 種 の 基 礎 的 イ ン フ ラ の 整 備 が 前 提 と な る 。
イ ン フ ラ 整 備 に は 鉄 や セ メ ン ト と い っ た 基 礎 素 材 が 必 要 で あ り 、 SD の た め に は 鉱 物 資
源の利用は不可欠である。
世 界 の CO 2 排 出 量 を 低 減 す る た め に は 、 省 エ ネ 機 器 や エ ネ ル ギ ー 高 効 率 車 両 、 蓄 電
池の大量普及が鍵となるが、この場合、レアメタル、レアアースなどの投入も必要で
ある。
こ の よ う に 鉱 物 資 源 は 持 続 可 能 な 発 展( SD)、CO 2 排 出 に 深 い 連 関 が あ り 、SD や CO 2
排出削減のため、鉱物資源利用を減らせば良いという単純な関係にはない。リサイク
- 175 -
ル は 、 鉱 物 資 源 の 掘 削 や 精 錬 に 伴 う 環 境 負 荷 を 低 減 し う る が 、 1) 経 済 性 、 2) 品 質 低
下 ( カ ス ケ ー ド 利 用 を せ ざ る を え な い )、 3) ラ イ フ サ イ ク ル CO 2 、 4) ス ク ラ ッ プ の 量
的 な 入 手 可 能 性 、 な ど に 注 意 が 必 要 で あ る 。 例 え ば 鉄 の リ サ イ ク ル は 、 1) か ら 3) に
つ い て 基 本 的 に 問 題 は な く 、 そ の た め ま さ に 4)こ そ が 問 題 と な る 。
リ サ イ ク ル は 極 め て 重 要 で あ る が 、リ サ イ ク ル の み に 頼 る こ と な く 、素 材 代 替 技 術 、
省 資 源 技 術 を 高 め る こ と が 、 CO 2 低 減 、 SD 、 さ ら に は 資 源 セ キ ュ リ テ ィ の た め に 重 要
と言える。
SD や CO 2 低 減 を 目 的 と し 、鉱 物 資 源 や リ サ イ ク ル に 関 す る 政 策 を 実 施 す る 際 は 、1)
多 様 な 素 材 間 競 争 の 存 在 、 2) 鉱 物 資 源 や ス ク ラ ッ プ の 国 際 貿 易 が 盛 ん な こ と 、 3) 鉱
物 資 源 の 価 格 ボ ラ テ ィ リ テ ィ が 大 き い こ と 、 4) 静 脈 産 業 へ の 影 響 、 な ど へ の 配 慮 が 求
められる。
参考文献(第 6 章に関するもの)
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2)
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4)
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28 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス特別講演、東京、2012 年 1 月 30・31 日 (2012)
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http://www.bir.org/assets/Documents/publications/brochures/aFerrousReportFinal2006-2010.pdf
15) D. B. Muller, T. Wang, and B. Duval: Patterns of Use in Societal Evolution, Environmental Science and
Tehchnology, 45, 182-188 (2011)
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Tehchnology, 41, 5120-5129 (2007)
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(2006)
http://www.chem.uu.nl/nws/www/publica/publicaties2006/NWS-E-2006- 180.pdf
20) US EPA: Municipal Solid Waste (MSW) in the United States: Facts and Figures, (2010)
http://www.epa.gov/osw/nonhaz/municipal/msw99.htm
21) E. Alonso, et al.: Evaluating Rare Earth Element Availability: A Case with Revolutionary Demand from
Clean Technologies, Environmental Science and Tehchnology, 46: 3406–3414 (2012)
22) IEA: Energy Technology Perspectives 2010, Scenarios & Strategies to 2050, Paris (2010)
- 177 -
第 7章
総合評価・分野横断的事項
本章では、将来シナリオ(第 2 章)において、地球温暖化と持続可能な発展の指標
( 第 3 章 か ら 第 6 章 )が 総 合 的 に 見 て ど の よ う な 推 移 を 示 す の か 、分 野 横 断 的 な 関 係 は
どうなっているのかに着目する。また本分析から抽出されるシナジー、トレードオフ
の関係や、示唆された含意を示す。
7.1
脱地球温暖化と持続可能な発展の総合評価方法
温 暖 化 と 持 続 可 能 な 発 展 に 関 す る 指 標( S D 指 標 )と し て 、表 7.1-1 に 示 す 16 の 定 量
的指標を分析対象とする。
表 7.1-1
シ ナ リ オ 評 価 に あ た っ て の SD 指 標
分野
項目
経済・貧困
所 得 ( 一 人 当 た り GDP)
貧 困 人 口 ( 貧 困 の 境 界 値 と し て 1 . 2 5 ( $ / 日 )固 定 の ケ ー ス )
食 料 ア ク セ ス ( G D P 当 た り 食 料 消 費 額 ( エ ン ゲ ル 係 数 ))
5 歳未満児死亡者数
健康
W H O 提 示 の 環 境 関 連 の 死 亡 要 因 に よ る 死 亡 率( W H O 提 示 の
室内空気汚染による若年死亡者数にて表現)
農業・土地利用
食料生産土地利用
食 料 セ キ ュ リ テ ィ ( GDP 当 た り 食 料 輸 入 額 )
水
水ストレス人口
生態系
潜在的陸上生態系変化
海洋酸性化
エネルギー・気候変動
エネルギーアクセス(次の 2 項目の単純平均人口にて表現、
1) 電 力 へ の 非 ア ク セ ス 人 口 世 界 計 、 2)調 理 時 に 伝 統 的 な バ
イオマス燃焼に依存する人口世界計)
エネルギーセキュリティ
化石エネルギー消費量(持続的エネルギー利用)
GDP あ た り CO2 排 出
GDP あ た り 排 出 削 減 費 用
気温上昇(全球平均)
評 価 の た め の シ ナ リ オ は 、 マ ク ロ な 社 会 経 済 シ ナ リ オ A 及 び B、 温 暖 化 政 策 の 背 景
状 況 に 関 す る 3 種 類 の シ ナ リ オ I、II、III で あ る 。ま た こ れ に 温 室 効 果 ガ ス 排 出 に 関 す
る 制 約 が 加 わ る 。 こ れ ら 概 要 は 表 7.1-1 の 通 り で あ る ( 詳 細 は 第 2 章 を 参 照 の こ と )。
- 178 -
シ ナ リ オ の 組 み 合 わ せ は 多 数 と な り え る が 、本 節 で は シ ナ リ オ A、シ ナ リ オ I を 基 準 と
し て 多 く の 場 合 こ の シ ナ リ オ A、 シ ナ リ オ I を 参 照 す る 。
表 7.1-2
シナリオの概要
シナリオ名
補足
マ ク ロ の 社 シナリオ A
会 経 済 シ ナ(中位技術進展シナリオ)
リオ
シナリオ B
(高位技術進展シナリオ)
中 位 経 済 成 長・中 位 人 口 成 長 シ ナ リ オ 。
高 位 経 済 成 長・低 位 人 口 成 長 シ ナ リ オ 。
温 暖 化 政 策 シナリオ I
の 背 景 状 況(多目的多様性社会シナリオ)
に 関 す る シ
シ ナ リ オ II
ナリオ
(温暖化対策優先シナリオ)
現状観測される諸状況を反映
機器や設備導入に関して、各主体が観
測される投資回収年数(シナリオ I で
想定)よりも、長い投資回収年数とな
るケースを想定
シ ナ リ オ III
石 油 ガ ス 輸 入 に 対 し 25%関 税 を 追 加 し
(エネルギー安全保障優先シナリオ) 表現
ALPS-Baseline
特段の温暖化緩和策を追加しない場合
ALPS-CP6.0
放 射 強 制 力 を 長 期 的 に 6.0W/m2 へ 安 定
化させるシナリオ
温 室 効 果 ガ
ス 排 出 に 関
ALPS-CP4.5
する制約
ALPS-CP3.7
同 4.5W/m2
同 3.7W/m2
同 3.0W/m2
ALPS-CP3.0
注)詳細については、第 2 章を参照のこと。
こ の よ う に 複 数 の シ ナ リ オ 下 で 、 多 く の SD 指 標 を 総 合 的 に 比 較 す る た め に は 、 各
SD 指 標 の 無 次 元 化 ( 同 一 指 標 内 の 相 対 化 ) が 不 可 欠 で あ る 。 時 点 に よ る 推 移 も 含 め て
比 較 評 価 す る た め に 、こ こ で は 分 析 対 象 期 間 の 中 央 に 近 い 2050 年 時 点 の 値 を 100 と し
無次元化した。総合評価のためには各指標間の重付けや優先順位などの相対化も必要
だが、ここでは暫定的にこのような簡便法をとった。なお、個別の指標が元来持つ意
味については、第 3 章から第 6 章を個別に参照されたい。
本分析では温暖化政策の背景状況に関するシナリオはシナリオ I に注目する(以下、
シ ナ リ オ I の 値 で あ る こ と の 提 示 を 省 略 )。 シ ナ リ オ II 及 び III と の 差 異 は 、 第 4 章 を
参照のこと。
7.2
総合評価の実施
複 数 あ る SD 指 標 全 般 の 時 系 列 的 推 移 を 見 る た め 、 こ こ で は ALPS-A CP4.5 の 無 次 元
化 値 を 図 7.2-1 に 示 す 。
- 179 -
300
↑SD指標値
として劣る
ALPS A‐CP4.5
250
所得(一人当たりGDP)
貧困人口
食料アクセス(GDP当たり食料消費額)
5歳未満児死亡者数
室内空気汚染による若年死亡者数
200
食料生産土地利用
食料セキュリティ(GDP当たり食料輸入額)
150
水ストレス人口
潜在的陸上生態系変化
海洋酸性化
100
エネルギーアクセス
エネルギーセキュリティ
化石エネルギー消費量
50
GDPあたりCO2排出
↓SD指標値
として良い
0
2000
2030
図 7.2-1
2050
2100
2150
GDPあたり排出削減費用
気温上昇(全球平均)
無 次 元 化 さ れ た 各 SD 指 標 の 推 移 ( ALPS-A CP4.5)
図 7.2-1 か ら 、時 間 の 経 過 と 共 に 改 善 さ れ て い く 指 標 と 時 間 の 経 過 と 共 に 悪 化 し て い
く指標が多くの指標で見られる。とりわけ、マクロ経済に関する指標、即ち「一人当
た り GDP」 と の 連 関 が 深 い 「 貧 困 人 口 」、「 食 料 ア ク セ ス 」 は 2000 年 時 点 か ら 急 速 な 改
善 が 見 ら れ る 。 こ の よ う な 指 標 は 、 よ り 近 い 2030 年 と い っ た 短 中 期 の 時 点 で 注 目 す べ
き課題と言えよう。
こ の よ う に 、 マ ク ロ 経 済 に 関 す る 指 標 は 改 善 速 度 が 速 い も の の 、「 5 歳 未 満 児 死 亡 者
数 」、
「 室 内 空 気 汚 染 に よ る 若 年 死 亡 者 数 」、
「 食 料 生 産 土 地 利 用 」、
「 食 料 セ キ ュ リ テ ィ 」、
「 水 ス ト レ ス 人 口 」、「 エ ネ ル ギ ー ア ク セ ス 」 は 、 総 合 的 に 改 善 速 度 が 緩 慢 で あ る 。 こ れ
ら 諸 課 題 に つ い て は 、 2050 年 と い っ た よ り 長 い 期 間 に 渡 り 注 目 し て い く 必 要 が あ る 。
こ れ に 対 し 、 温 暖 化 に 関 連 す る 「 気 温 上 昇 」、「 潜 在 的 陸 上 生 態 系 変 化 」、「 海 洋 酸 性
化 」、「 GDP 当 た り の CO 2 削 減 対 策 費 用 」 は 、 2050 年 と い う よ り 、 む し ろ 2100 年 、 さ
ら に は 2150 年 と い っ た 超 長 期 で よ り 顕 在 化 す る 。温 暖 化 問 題 特 有 の 長 期 的 性 質 を 再 確
認 す る 一 方 、 SD に 関 連 す る 指 標 は 現 時 点 、 2030 年 、 長 期 の も の で も 2050 年 ま で が 相
対的により深刻であり、時間軸で見てこれらの間には大きな差異がある。
次 に 、 排 出 レ ベ ル 別 ( Baseline、 CP6.0、 CP4.5、 CP3.0) に SD 指 標 が ど の よ う な 推 移
を 示 す か 整 理 し た も の が 図 7.2-2 で あ る ( ALPS-A)。
- 180 -
300
300
↑劣る
300
所得(一人当たりGDP)
ALPS A‐Baseline
250
250
200
食料アクセス(GDP当たり
150
100
食料アクセス(GDP当たり
食料消費額)
室内空気汚染による若年死
食料消費額)
室内空気汚染による若年死
亡者数
食料生産土地利用
亡者数
食料生産土地利用
亡者数
食料生産土地利用
食料セキュリティ(GDP当
食料セキュリティ(GDP当
食料セキュリティ(GDP当
たり食料輸入額)
水ストレス人口
たり食料輸入額)
水ストレス人口
たり食料輸入額)
水ストレス人口
潜在的陸上生態系変化
潜在的陸上生態系変化
海洋酸性化
海洋酸性化
エネルギーアクセス
エネルギーアクセス
エネルギーセキュリティ
エネルギーセキュリティ
化石エネルギー消費量
化石エネルギー消費量
GDPあたりCO2排出
GDPあたりCO2排出
GDPあたり排出削減費用
GDPあたり排出削減費用
200
150
潜在的陸上生態系変化
エネルギーアクセス
100
エネルギーセキュリティ
化石エネルギー消費量
50
50
50
GDPあたりCO2排出
GDPあたり排出削減費用
↓良い
0
0
2030
2050
2100
2150
貧困人口
食料アクセス(GDP当たり
250
海洋酸性化
100
貧困人口
食料消費額)
室内空気汚染による若年死
200
150
所得(一人当たりGDP)
ALPS A‐CP3.0
貧困人口
2000
所得(一人当たりGDP)
ALPS A‐CP4.5
気温上昇(全球平均)
2000
図 7.2-2
2030
2050
2100
0
2150
気温上昇(全球平均)
2000
2030
2050
2100
気温上昇(全球平均)
2150
排 出 レ ベ ル 別 の SD 指 標 推 移 ( ALPS-A)
2100 年 や 2150 年 と い っ た 長 期 で 見 る と 、 Baseline に お い て 「 気 温 上 昇 」、「 潜 在 的 陸
上 生 態 系 変 化 」、
「 海 洋 酸 性 化 」、
「 化 石 エ ネ 消 費 量 」の 指 標 悪 化 が 見 ら れ る 。CP3.0 で は 、
こ の よ う な 温 暖 化 影 響 は 緩 和 さ れ る も の の 、「 GDP 当 た り の CO2 削 減 対 策 費 用 」 が 急
激 に 上 昇 す る 。ま た「 エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 」も 劣 る 方 向 へ シ フ ト す る 。 CP3.0 の よ
う に 厳 し い 排 出 削 減 を 進 め て も 、 他 の SD 指 標 は そ れ ほ ど 良 い 方 向 へ シ フ ト し な い 。
以 上 の よ う に 、 多 数 の SD 指 標 を 同 時 に 見 る と 、 Baseline は 2100 年 以 降 で は 温 暖 化
影 響 が 生 じ 長 期 的 観 点 か ら 回 避 す べ き と 言 え る 。 同 様 に 非 常 に 大 き な CO2 削 減 対 策 費
用 を 要 す る と い う 面 か ら CP3.0 も 同 様 に 回 避 す べ き と も 言 え る 結 果 で あ る 。CP3.0 の よ
う に 排 出 削 減 を 進 め て も 他 の 多 く の SD 指 標 の 改 善 は あ ま り 見 ら れ な い 。
次 に 、 マ ク ロ な 社 会 経 済 的 影 響 ( 人 口 、 GDP 、 さ ら に は そ れ ら 基 礎 デ ー タ に 由 来 す
る差異)を評価するため、社会経済シナリオ A と B の差異をレーダーチャートで比較
し た 。 2050 年 時 点 の 結 果 を 図 7.2-3 に 示 す 。
図 7.2-3 か ら 2050 年 時 点 で は 、多 く の SD 指 標 で 一 人 当 た り GDP 成 長 を 高 く 見 込 ん
だ シ ナ リ オ B の 方 が 内 側 に あ る 。緩 和 策 レ ベ ル( Baseline、CP4.5、CP3.0)に よ る 影 響
は 、 温 暖 化 関 連 の 指 標 値 を 変 化 さ せ る が 、 2050 年 時 点 に お い て 社 会 経 済 的 影 響 ( シ ナ
リ オ A、 B) に よ る 差 異 が 相 対 的 に よ り 大 き い 。
- 181 -
所得(一人当
たりGDP)
125
気温上昇(全
球平均)
100
A‐Base [2050]
B‐Base [2050]
気温上昇(全
球平均)
貧困人口
75
GDPあたり排
出削減費用
食料アクセス
50
所得(一人当
たりGDP)
125
100
↑
内側=良い
食料セキュリ
ティ
外側=劣る
↓
海洋酸性化
貧困人口
食料アクセス
50
気温上昇(全
球平均)
所得(一人当
たりGDP)
125
100
化石エネル
ギー消費量
水ストレス人
口
潜在的陸上生
態系変化
図 7.2-3
食料セキュリ
ティ
水ストレス人
口
潜在的陸上生
態系変化
海洋酸性化
B‐CP3.0 [2050]
貧困人口
50
食料アクセス
25
0
GDPあたり
CO2排出
A‐CP3.0 [2050]
75
GDPあたり排
出削減費用
25
0
化石エネル
ギー消費量
B‐CP4.5 [2050]
75
GDPあたり排
出削減費用
25
GDPあたり
CO2排出
A‐CP4.5 [2050]
0
GDPあたり
CO2排出
化石エネル
ギー消費量
海洋酸性化
食料セキュリ
ティ
水ストレス人
口
潜在的陸上生
態系変化
SD 指 標 の 社 会 経 済 シ ナ リ オ A、 B の 比 較 ( 2050 年 )
図 7.2-3 か ら 、B の 方 が 多 く の SD 指 標 に お い て 内 側 に あ り 、こ れ は 一 人 当 た り GDP
成 長 が 高 い B の 方 が 多 く の SD 指 標 に 対 し 有 利 で あ る こ と を 意 味 し て い る 。
以 上 ま と め る と 、 第 一 義 的 に 時 間 軸 に よ る 影 響 が 大 き い 。 2050 年 と い っ た 中 期 で は
社 会 経 済 シ ナ リ オ A、B の 差 異 が 大 き く 、よ り 長 期 の 2100 年 や 2150 年 で は 緩 和 策 実 施
の程度による差異がより大きくなる。
温 暖 化 と SD と い う 2 つ の 大 き な 問 題 を こ の よ う な 視 点 か ら 考 え る と 、 2050 年 頃 ま
で は SD に 直 接 関 連 す る 諸 課 題 が 相 対 的 に 重 要 と 言 え る 。こ れ は 今 ま さ に 起 こ っ て い る
問題である。このような状況の中で、長期的課題である温暖化対策を早期かつ実効性
のある形で如何に進めていくべきかが大きな課題である。
7.3
総合評価・分野横断的事項のまとめ
本 章 で は 、多 数 の SD 指 標 を 無 次 元 化 す る こ と に よ り 、時 間 軸 上 の 差 異 、社 会 経 済 シ
ナリオの差異、緩和策実施の程度による差異の影響を総合的に比較した。本分析(さ
らには、第 1 章から第 7 章までに示してきたことも一部含む)から次のことが示唆さ
れた。

各 SD 指 標 は 時 間 の 経 過 に 伴 い 特 徴 的 な 推 移 を 示 す 。2050 年 頃 ま で は SD に 直 接
関 連 す る 諸 課 題 が 相 対 的 に 重 要 と 言 え る 。と り わ け 、貧 困 、食 料 、水 、エ ネ ル ギ
ー ア ク セ ス 、健 康 影 響 に つ い て 、関 心 を 向 け る 必 要 が あ る 。こ れ は 今 ま さ に 起 こ
っている問題である。

2050 年 と い っ た 中 期 で は 社 会 経 済 シ ナ リ オ A、 B の 差 異 が 大 き く 、 よ り 長 期 の
2100 年 、 2150 年 で は 緩 和 策 実 施 の 程 度 に よ る 差 異 が 大 き い 。

貧 困 、 食 料 、 水 、 エ ネ ル ギ ー ア ク セ ス 、 健 康 影 響 と い っ た SD の 緊 急 性 が 示 唆 さ
れ る 中 で 、長 期 的 課 題 で あ る 温 暖 化 対 策 を 早 期 か つ 実 効 性 の あ る 形 で 如 何 に 進 め
ていくべきかが大きな課題である。

こ れ ら SD へ 我 々 の 関 心 や リ ソ ー ス を 早 い 段 階 で 重 点 的 に 配 分 す る た め に も 、温
暖 化 に 関 す る 長 期 的 な 安 定 化 目 標 と し て 、 CP 4.5 前 後 ( CP 6.0 か ら CP3.7) が バ
ランスが良い可能性がある。
- 182 -

温 暖 化 対 策 を 実 効 性 の あ る 形 で 持 続 的 に 進 め る に も 、次 の よ う な シ ナ ジ ー 、ト レ
ードオフに、より配慮する必要がある。

緩和策実施の程度をより高めると、自明ながら化石燃料使用量の低減、潜
在 的 陸 上 生 態 系 変 化 や 海 洋 酸 性 化 の 抑 制 に つ な が る ( シ ナ ジ ー )。

緩 和 策 実 施 の 程 度 を よ り 高 め る と 、( 国 内 炭 の 利 用 減 少 、 天 然 ガ ス の 輸 入 増
大がアジア地域などで進むことにより)エネルギーセキュリティ上の脆弱
性 が よ り 深 刻 と な る 可 能 性 が あ る ( ト レ ー ド オ フ )。

緩 和 策 実 施 の 程 度 を よ り 高 め る と 、( 緩 和 策 費 用 の 増 大 に よ り ) 貧 困 人 口 減
少 速 度 が や や 鈍 る 可 能 性 が あ る ( ト レ ー ド オ フ )。
- 183 -
Box 9: ジ オ エ ン ジ ニ ア リ ン グ
気 候 変 動 緩 和 の た め 様 々 な GHG 排 出 削 減 対 策 が 講 じ ら れ よ う と し て い る 。 全 球 平 均
気 温 上 昇 を 2℃ 以 下 に 抑 え る な ど 、 気 候 変 動 を 危 険 で な い レ ベ ル に 抑 制 す る た め に は 、
2050 年 ま で に GHG 排 出 レ ベ ル を お お む ね 1990 年 の レ ベ ル の 半 分 以 下 に 削 減 す る 必 要 が
あ る と さ れ て い る 。し か し 、そ の た め の 国 際 枠 組 み は 確 立 し て お ら ず 排 出 削 減 の 見 通 し
が 不 確 実 な う え 、現 在 の 気 候 科 学 や 気 温 上 昇 の 影 響 に つ い て も 大 き な 不 確 実 性 が 存 在 し
て お り( 気 候 感 度 の 値 に つ い て 不 確 実 性 幅 が大 き く 、し か も 、大 き な 値 の ほ う に 長 い 尾
を引いている;気温上昇による破局的事象・極端現象発生に関する知見が不十分である
な ど )、 た と え 、 目 標 通 り の 排 出 削 減 が 達 成 さ れ た と し て も 、 気 候 変 動 を 目 標 通 り に 抑
制 で き 、そ の 影 響 を 許 容 レ ベ ル 以 下 に 抑 制 で き る か ど う か に つ い て の 不 確 実 性 が 存 在 す
る 。ま た 、従 来 の 排 出 削 減 緩 和 策 は 効 果 が 現れ る ま で に 十 年 単 位 の 期 間 を 要 す る 。そ の
た め 、世 界 の 排 出 削 減 の 努 力 に も か か わ ら ず、あ る い は 、そ の よ う な 努 力 が 首 尾 よ く 実
施 さ れ な い 場 合 に は 、大 き な 気 候 変 動 が 生 じ 、人 類 が 受 け 入 れ 難 い ほ ど の 被 害 が 発 生 す
る 事 態 を 招 き か ね な い 。 し た が っ て 、 従 来 の 緩 和 策 の 本 流 で あ る GHG 排 出 削 減 と は 性
格 の 異 な る 、気 温 上 昇 の 抑 制 に 直 接 的 に 作 用 す る 、で き れ ば 即 効 性 を 有 す る 対 策 が 検 討
さ れ て い る 。 こ れ ら は ジ オ エ ン ジ ニ ア リ ン グ と 総 称 さ れ て お り 、 大 別 し て 、 大 気 中 CO2
の除去と地球への太陽光入射制御のふたつの方法がある。従来の植林などは大気中の
CO2 を 除 去 す る も の で あ る が 、 こ こ で は 、 よ り 人 工 的 な 手 段 に よ る 除 去 を 意 味 し 、 Air
c a p t u r e( 空 気 中 C O 2 の 直 接 回 収 ) や 海 洋 肥 沃 化 ・ 光 合 成 促 進 に よ る 海 上 で の 大 気 中 C O 2
除去の促進などが挙げられている。太陽光入射制御には太陽光シールドの宇宙への設
置 、 地 表 面 ア ル ベ ド の 増 大 ( 建 築 物 屋 根 を 白 く す る 、 砂 漠 地 に 反 射 板 を 設 置 す る な ど )、
成層圏へのエアロゾルの注入・雲の生成、雲のアルベド増大などがあり、これまであま
り 話 題 に な ら な か っ た も の と し て 、海 洋 表 層 で の マ イ ク ロ バ ブ ル の 形 成 に よ る 表 面 反 射
率 の 増 大 が あ る 。大 気 中 C O 2 の 除 去 よ り も 太 陽 光 入 射 制 御 の ほ う が 即 効 性 が あ る 。た だ
し 、後 者 は 気 温 上 昇 を 防 止 す る の み で C O 2 に よ る 影 響 、た と え ば 海 洋 酸 性 化 を 防 止 す る
効 果 は な く 、ま た 、気 候 シ ス テ ム を よ り 自 然 に 近 い 状 態 に 戻 す と い う 観 点 か ら は 前 者 の
ほ う が 望 ま し い 。さ ら に 、太 陽 光 入 射 制 御 に関 し て は 、温 暖 化 の 状 況 に 応 じ て 短 期 間 実
施 す る こ と に つ い て は 社 会 的 受 容 可 能 性 が あ る と し て も 、 CO2 排 出 が 継 続 す る な か 、 長
期間にわたって気候システムをバランスよく安定化することについては疑問視する見
方もある。
こ れ ら ジ オ エ ン ジ ニ ア リ ン グ 技 術 は 、決 し て 本 来 の 排 出 削 減 緩 和 策 を 代 替 す る も の で
はなく、上記の通り「保険的」な補完手段であり、未知の副作用も危惧される。そのた
め 、本 来 の 排 出 削 減 努 力 を 怠 っ て は な ら な いこ と は 言 う ま で も な い 。ま た 、こ れ ら に つ
い て は 、地 球 上 の 分 布 も 含 め た 気 温 上 昇 抑 制効 果 、自 然 環 境 へ の 副 作 用 、コ ス ト 等 に 関
す る 不 確 実 性 が 大 き く 、今 後 、こ れ ら を 明 確に し て い く 研 究 努 力 が 必 須 と な る 。そ の た
め に は 、気 候 モ デ ル の さ ら な る 発 展 、慎 重 に計 画 さ れ た 実 験 な ど が 望 ま れ る が 、実 験 実
施でさえどの程度の規模の実験までなら実施してもよいかなど国際的合意が必要とな
ろ う 。も ち ろ ん 、ジ オ エ ン ジ ニ ア リ ン グ 技 術 の 実 用 に 当 た っ て は 世 界 的 な ガ バ ナ ン ス の
問題を解決せねばならない。
- 184 -
第 8章
8.1
まとめと政策的インプリケーション
まとめ
本 研 究 プ ロ ジ ェ ク ト ( 通 称 ALPS プ ロ ジ ェ ク ト : ALternative Pathways toward
Sustainable development and climate stabilization) は 、 経 済 産 業 省 の 補 助 事 業 「 地 球 環 境
国 際 研 究 推 進 事 業 」 の 一 つ と し て 、( 1) 今 後 100 年 程 度 に わ た る 世 界 の 社 会 経 済 、 温
室 効 果 ガ ス 排 出 シ ナ リ オ を 提 示 す る 、( 2 ) こ の 排 出 シ ナ リ オ を 基 準 に 温 室 効 果 ガ ス を
各 種 濃 度 安 定 化 レ ベ ル に 抑 制 す る 方 策 を 示 す 、( 3 ) 各 排 出 シ ナ リ オ に お け る 水 資 源 、
食料アクセス、貧困、エネルギーセキュリティ、生物多様性等に関連する各種持続的
発 展 指 標 を 定 量 的 に 提 示 す る 、 そ し て 、( 4 ) こ れ ら の 定 量 的 な 評 価 を 基 に 、 各 種 持 続
的 発 展 政 策 、 温 暖 化 緩 和 ・ 適 応 策 の あ り 方 に 関 す る 示 唆 を 得 る こ と を 目 標 に 、 平 成 19
年度から 5 年間実施した。
分 析 ・ 評 価 の た め の 主 要 な シ ナ リ オ と し て 、 1) 社 会 経 済 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ 、 2)
温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 に 関 す る 社 会 経 済 シ ナ リ オ 、 3) 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る
シナリオ(濃度安定化レベル)の 3 つの軸からなるシナリオを中心にして、複数の代
替的なシナリオを想定し、各シナリオについて地球温暖化問題と持続可能な発展の相
互関係の整合性を保った分析・評価を行った。これによって、複雑に存在する指標間
のトレードオフやシナジーの関係性も明確にし、政策的なインプリケーションを導い
た。
従来、温暖化対策もしくはより狭く温暖化緩和策の中での評価が多くあったが、本
研究は、温暖化対策と持続可能な発展に関する指標の相互関係について整合性をもっ
て評価するものであり、このように広い文脈で定量的分析、評価を実施した研究はほ
とんど存在せず、大きな意義を有すると考えられる。
8.2
政策的インプリケーション
これらの分析を通じて得られた政策的なインプリケーションは次のとおりである。
①
経済成長と持続可能な発展および地球温暖化
経済成長は必ずしも持続可能な発展を阻害しない。経済成長は持続可能な発展のた
めに必要不可欠であり、持続可能な発展と経済成長が対立するものと理解すべきでは
な い 。経 済 成 長 が 大 き い と き 、CO 2 排 出 も 大 き い 傾 向 が 過 去 見 ら れ た し 、将 来 的 に も 世
界 的 に 見 る と 、そ の 可 能 性 は 高 い 。一 方 、厳 し い CO 2 削 減 を 行 お う と し た と き に は( 産
業 革 命 以 前 比 で 2~ 2.5℃ の よ う な レ ベ ル )、 む し ろ 経 済 成 長 が 大 き い 方 が 、 よ り 小 さ な
人口が食料用の土地利用制約を緩和し植林余地等を大きくしたり、温暖化対策技術の
よ り 早 い 進 展 も 期 待 で き 、 更 に は 電 化 率 が 高 く な る こ と に よ っ て 大 き な CO 2 削 減 が し
や す く な る 傾 向 が あ っ た り す る た め 、 こ れ ら に よ っ て 、 よ り 小 さ な 費 用 で CO 2 削 減 を
行える可能性がある。
- 185 -
地球温暖化問題の政策的な優先順位は必ずしも高く認識されていないのが現実であ
る。その中で温暖化対策を進めて行くには、温暖化対策以外の対策、政策に、温暖化
対策を調和させることが重要である。省エネルギーのようにエネルギーの無駄を省く
対策、ブラックカーボン削減のように健康とのコベネフィットがある対策、温暖化適
応策のように経済開発と結びつきやすい対策などは、温暖化対策を実質的に進展させ
るために、とりわけ重要な対策と考えられる。
②
貧困問題と脱地球温暖化・持続可能な発展について
ミレニアム開発目標の重要なターゲットである貧困問題の撲滅はより良い世界を築
くために国際社会が一体となって取り組むべき目標であり、途上国における貧困問題
は、脱温暖化や持続可能な発展に関するさまざまな問題と密接に関連している。例え
ば、貧困問題は、食料と関連する飢餓問題と密接な関係がある。飢餓は、世界で食料
の総量が不足しているわけではなく、貧困やガバナンスの問題など、食料アクセスが
十分ではないことに起因すると言われている。食料アクセス分析で示したように、豊
か に な り GDP が 増 加 す る と 食 料 ア ク セ ス の 脆 弱 性 は 小 さ く な る 。 ま た 、 貧 困 を 克 服 し
経済規模が大きくなれば、温暖化対策や水ストレスなどの対策に要する費用の負担割
合が小さくなりうる。このように、世界が貧困から脱し豊かになると、さまざまな諸
問題の解決がより容易になる。貧困問題は今後もサブサハラアフリカ地域を中心に存
在すると見込まれ、貧困問題の解決は今後の脱温暖化や持続可能な発展に対して重要
な課題であると言える。
③
長期の排出削減目標について
産 業 革 命 以 前 比 2℃ 以 内 と す る CP3.0 シ ナ リ オ は 排 出 削 減 が 厳 し 過 ぎ て 、食 料 ア ク セ
ス な ど 、様 々 な 持 続 可 能 な 発 展 に 関 す る 指 標 に お い て 、か え っ て 悪 影 響 も 予 測 さ れ る 。
一 方 、 CP 3.7( 2100 年 に +2.3℃ 程 度 、 2150 年 に +2.5℃ 程 度 ) で は 、 2050 年 の 限 界 費 用
は 150$/tCO 2 程 度 、適 切 な レ ベ ル の エ ネ ル ギ ー 効 率 基 準 の 設 定 な ど の ボ ト ム ア ッ プ 的 な
取 り 組 み で 障 壁 除 去 等 が 進 め ば 80$/tCO 2 程 度 と 期 待 も で き 、 経 済 影 響 は か な り 抑 え つ
つ 、 気 候 変 動 緩 和 も 可 能 と な る 。 た だ し 、 そ れ で も 、 CCS な ど の 革 新 的 な 技 術 の 大 幅
な普及が前提であり、革新的技術開発への取り組みが不可欠である。また、エネルギ
ーセキュリティも、排出削減を厳しくすれば単純に高まるというものではなく、国・
地域によって状況は様々である。産業革命以前比2℃目標にこだわらず、もう少し緩
やかな目標も視野に入れるべきである。
④
温暖化への適応について
過 去 人 類 は 自 然 環 境 に い か に 適 応 す る か の 戦 い を 続 け 、死 亡 リ ス ク を 低 減 し て き た 。
温暖化への適応の余地は、農業、水、健康など、それぞれの分野で多くあり、緩和策
のみを考えるのではなく、適応策も適切に組み合わせることが重要である。そして適
応策は、経済開発とも密接に関係しており、多くの追加的な費用をかけることなく、
実施できる可能性も高い。なお、市場経済メカニズムを介した適応余地も大きく、市
場経済メカニズムを過大評価してもいけないが過小評価すべきでもない。
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⑤
コベネフィットについて
温室効果ガス排出削減を図るに当たり、その削減による温暖化緩和のみならず他の
便 益 も 同 時 に 得 ら れ る( コ ベ ネ フ ィ ッ ト )よ う な 対 策 は 相 対 的 に 受 け 入 れ ら れ や す く 、
排出削減がより進むことが期待できる。そうしたコベネフィットが得られる対策の一
つとして、温暖化緩和とあわせて健康影響被害の緩和にも貢献するブラックカーボン
の排出削減がある。ブラックカーボンの排出削減をより進めた場合、長期的な温暖化
緩 和 効 果 は 限 定 的 で あ る も の の 、 比 較 的 近 い 時 点 に お い て CO2 等 の 温 室 効 果 ガ ス 排 出
削減があまり進まなくても、ある程度温暖化を緩和できることが期待できる。このよ
うにコベネフィットを有する対策の促進は、有益かつ実効的な温暖化緩和につながる
と考えられる。
⑥
化石燃料利用と持続可能性について
近年、資源採掘にかかわる様々な技術開発が進み、シェールガスなど非在来型の化
石燃料利用が拡大するようになっている。それにともない技術的に回収可能な資源量
も 拡 大 し 、少 な く と も 21 世 紀 中 に 化 石 燃 料 が 大 き な 制 約 と な る 可 能 性 は 減 っ て き て い
る 。 む し ろ シ ェ ー ル ガ ス の 採 掘 に 随 伴 す る 地 球 温 暖 化 係 数 ( GWP ) の 大 き い メ タ ン 漏
洩など、環境へ与える影響の方が懸念される。また資源賦存量が大きいとしても、有
限であることに変わりはなく、長期的には化石燃料依存度を下げていくことが望まし
い。しかし当面はエネルギー密度が高く利用しやすい化石燃料に頼らざるを得ず、そ
の た め に も エ ネ ル ギ ー 効 率 向 上 や CCS な ど の 技 術 開 発 を 進 め て い く こ と が 資 源 制 約 、
環境制約の緩和につながり、持続可能な発展にとって重要であろう。
⑦
技術普及障壁とその克服について
世界の各地域でエネルギー効率は大きく異なる。各国、各部門などで様々な技術普
及障壁が存在する。短期的なリターンを求めると、エネルギー効率の低い技術が選択
されやすい。長期的な視野での意思決定ができるような社会経済の素地を醸成してい
く こ と は 重 要 で あ る 。例 え ば 、適 切 な ラ ベ リ ン グ に よ っ て 情 報 を 容 易 に 得 や す く す る 、
エネルギー・環境教育を充実させ、より合理的な判断ができるような社会にする、ま
た、長期の投資判断をしやすいように経営者の任期を長くする、などの方策が考えら
れる。
一方、様々な技術普及障壁が現前として存在するため、明示的な炭素価格戦略(炭
素税や排出量取引制度)では、相当高い価格付けがなければ大きな削減ができないケ
ースも多い。そのため、それは社会・経済・政治的に実現が難しい。そのため、規制
や省エネ基準の設定など、限定合理的な行動を賢く適正なレベルで是正するボトムア
ップ的な対策は重要である。
⑧
技術移転と技術普及策について
中 国 及 び イ ン ド と い っ た 新 興 国 や 非 OECD 諸 国 に お け る 安 価 な 排 出 削 減 ポ テ ン シ ャ
ルは大きいと見積もられ、その削減を優先的に実現することは世界全体の費用効率的
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な排出削減のために大変重要である。また、排出削減分担は必ずしも費用効率性のみ
から決まるわけではないという現実性を考慮した場合でも、世界全体で大幅に排出削
減 を 行 う 必 要 が あ る CP3.7 や CP3.0 で は そ う い っ た 国 々 で も 大 幅 な 排 出 削 減 が 必 要 と
なる。排出削減ポテンシャルが大きい部門としては発電部門が挙げられ、具体的な技
術としては効率向上や燃料転換等が比較的近い時点から大きなポテンシャルを有す
る。また、需要部門については産業部門における排出削減ポテンシャルが大きいと見
積もられる。この排出削減を実現するための技術は現状では先進国が保有していると
ころであり、技術の普及を図る必要があるが、現実の世界においては技術を移転する
にあたり様々な障壁が存在するため、実際に普及を拡大させることは容易ではない。
したがって、各種部門別の技術の特徴、技術普及の障壁及び技術移転先の国・企業の
技 術 レ ベ ル を 考 慮 し た 地 道 な ボ ト ム ア ッ プ の 活 動 及 び 技 術 協 力 が 重 要 で あ る 。一 方 で 、
エネルギーアクセスの確保が十分でない低所得国や脆弱国においては、エネルギーア
クセス問題は貧困問題と健康問題に大きく関わってくるため、近代エネルギーサービ
スへのアクセスを向上させる早急な対策が必要である。しかし、これらの低所得国に
は十分な資金がないため、気候変動に関する基金や融資に柔軟性をもたせて技術普及
を図ると共に、現地の能力開発(キャパシティ・ビルディング)を同時に向上させる
技術協力・資金援助が重要である。
⑨
政策的なオプションについて
ト ッ プ ダ ウ ン 的 な 炭 素 価 格 付 け は 、 GHG 排 出 削 減 を 費 用 効 果 的 に 実 現 で き る 。 し か
し、上記で記述したように、厳しい排出削減を行おうとすれば、現実には高い炭素価
格が必要となり、社会・経済・政治的に実現が難しくなる。そして、温暖化緩和策と
様々な持続可能な発展に関連する指標との関係は、分析で見られたように、シナジー
効果もあるものの、むしろ、トレードオフの関係は多く、また、国・地域によっても
状況は複雑である。そのため、トップダウン的な炭素価格付けによって、具体的な対
策 を 市 場 に 委 ね て し ま う こ と は 、 GHG 排 出 削 減 と い っ た 文 脈 で は 仮 に 費 用 効 果 的 で あ
ったとしても、様々な持続可能な発展指標のバランスを図り、それぞれを高めること
は難しく、持続可能な発展をむしろ悪化させる懸念がある。よって、この点からも、
シナジー・コベネフィットなどを考えつつ、ボトムアップ的に有効な対策を実施して
いくことが重要と考えられる。
⑩
分析・評価に関する留意点
本研究では、出来る限り、国、セクター別の違いなど、詳細に評価を行った。しか
しながら、更に国・地域の中での分布を把握することは重要と考えられる。持続可能
な発展、将来にわたって、より幸福な社会を実現するためには、富の再分配の失敗な
どからもたらされる問題に特に留意が必要と考えられる。また、年平均ではなく、日
別に評価するなどし、年平均での評価では現れにくい、気候変動の突発的な事象の頻
発などの懸念、対応などをより良く評価することも必要と考えられ、本分析・評価の
解釈にあたっても、このような点については留意することが必要である。
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