「日本のサイエンスマネージャーに期待すること」 What I expect from science managers in Japan. 副題:日本のRA(リサーチアドミニストレーター)に期待すること J-BILAT 2012年第4回セミナー 国際協力プロジェクトにおける科学・技術マネジメント:背景と実践 Management of Science and Technology in International Collaborative Projects: Background and Practice 2012年9月12日(水)10時半~12時半 安保ホール501AB号室(名古屋) (独立行政法人)科学技術振興機構 PO研修院・院長 上席フェロー 高 橋 宏 1 5年前に科学技術振興機構によってRAが紹介された RAはサイエンスマネージャー ü http://www.jst.go.jp/po_seminar/h19semi/semi1-pro.html 平成19年度第1回プログラムオフィサーセミナー 「競争的資金の会計的マネジメントとPOの役割」 米国のRA(リサーチアドミニストレーター)の役割紹介 「シカゴ大学における競争的資金マネジメント」 Dr. Mary Ellen Sheridan, Associate Vice President for Research and Director, University Research Administration, University of Chicago 「メリーランド大学における競争的資金マネジメント」 Ms. Anne Geronimo, Associate Director, Office of Research Administration and Advancement, University of Maryland ü http://www.jst.go.jp/po_seminar/h19semi/semi2-pro.html 平成19年度第2回プログラムオフィサーセミナー 「大学と競争的資金配分機関が協力して競争的資金を使い易くする活動の枠組み について」 FDP (Federal Demonstration Partnership)の活動紹介 2 優れた研究成果を生み出す3条件 研究者 + 研究環境 + 仕組み ü 研究は高度化、複雑化、大型化、高額化、国際化、しており、優秀な研 究者が研究に専念できる環境、仕組みを、国として、大学(研究機関)と して、整えることが重要。 ü 我が国は「仕組み」作りにおいて成すべき事が多くある。 ü そのような「仕組み」は研究を良く理解しマネジメント能力のある人材 (研究支援人材)が専任的に従事することで機能する。 ü 約9年前に内閣府によって導入されたPD/PO、昨年より文科省により 導入されつつあるRA、科学技術担当行政官 PD:プログラムディレクター PO:プログラムオフィサー RA:リサーチアドミニストレーター 3 科学技術政策の様々なレベルでの研究支援人材 総合科学技術会議 CSTP 科学技術政策 担当行政官 研 究 支 援 人 材 ) リサーチアドミニ ストレーター(RA) (昨年から導入) 研究者(大学・研究所・企業) プログラムディ レクター(PD)・ プログラムオ 望 フィサー(PO) (約9年前に導入) ー( ファンディング機関 人 材 交 流 ー 各府省 分米 国 一 体 化部 相 互 4 内閣府、文科省、経産省において、 プログラム概念の導入が議論されている 研究開発評価システムの充実に向けた検討のとりまとめ 平成24年8月31日 内閣府で我が国の研究開発の仕組み構築が議論されており、 「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に盛り込まれる予定 平成24年8月31日総合科学技術会議(CSTP)資料http://www8.cao.go.jp/cstp/ tyousakai/hyouka/haihu95/shiryo2-2.pdf#page=1 5 国の科学技術政策実施体系 国の研究開発実施体制 研究支援人材 (サイエンスマネージャー) 政府内閣府CSTP (総合科学技術会議) 政策(科学技術基本計画) 科学技術政策 担当行政官 施策 府省 配分機関 プログラムオフィサー プログラムディレクター プログラム 独 立 プロジェクト 研究者 プロジェクト プロジェクト リサーチアドミニスト レーター 従属プロジェクト 6 研究支援人材(サイエンスマネージャー)の多様な役割 ü 研究支援人材(サイエンスマネージャー)の役割は多様。 ü RAはサイエンスマネージャーの中では研究者に最も近い。 ü RAには、研究者の目線で、また国際的視点で日本の研究開発推進 体制(仕組み)をより良いものにしていく活動にも取り組んで貰いたい。 具体的には、 1.世界の優秀な研究者に日本に来て貰い、日本で優れた研究成果を挙げて貰 おうとの構想があるが、その為には、語学の堪能なRAが外国人研究者を支援 する仕組みが必要。米国に世界から優秀な研究者が集まるのは米国のRA機 能が充実しているから。 2.大学のRAと競争的資金配分機関が協力して、国としての研究開発体制を 改善し、効率化するFDPと呼ばれる活動が米国にある。 この活動は平成19年に科学技術振興機構によりわが国に紹介され、平成22 年より日本版FDPとして内閣府主導で開始されたが、活動を支えるRAが今ま で日本にはいなかったので、不十分。日本版FDPの活動をRA主導で充実した ものにして欲しい。日本の研究費は、会計的に大変効率の悪い仕組みになっ ている。それを改善して欲しい。 7 0,0 Cyprus Slovakia Bulgaria Romania Poland (-06) Greece Turkey (-06) Malta Latvia Lithuania Croatia Hungary Russian (-05) Italy (-05) Estonia Portugal Spain Ireland China (-05) Slovenia Czech Republic 3,0 Norway 3 % of GDP Luxembourg 2,5 Netherlands UK (-06) EU-27 Belgium France Germany Denmark Austria US (-06) 3,5 Iceland Switzerland (-04) Japan (-05) Finland Sweden R&D Expenditure in % of GDP 各国の総研究開発投資のGDP(2007)比率 4,0 日本3.3% 米国2.6% ~ € 145 billion remains to EU 3 %-target 2,0 1,5 1,0 0,5 Source: Eurostat 8 主要国等の政府負担研究費の推移(IMF 為替レート換算) http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2010/08/20/1296532_1.pdf 文部科学省 科学技術要覧 平成22年版 9 国籍別ノーベル賞受賞者数(2011年) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%88%A5%E3%81%AE%E3%83%8E%E3%83%BC %E3%83%99%E3%83%AB%E8%B3%9E%E5%8F%97%E8%B3%9E%E8%80%85 南部陽一郎先生は米国籍。受賞時の国籍が基準。 10 日本の研究開発体制の非効率性 ü ノーベル賞は、科学技術の成果の一面でしかない。しかし、一つのバロ メーターであることも事実。 ü ノーベル賞は110年の歴史があり、受賞者数は歴史的要因、言葉の問題、 西欧圏国家か、アジア圏国家か、などさまざまな要因が絡んでいる。 しかし、日本は、人口は米国の約40%、研究費は米国の約30%であること を思い、他の先進諸国のノーベル賞受賞者数を見たときに、日本の受賞 者数はあまりにも少なすぎないか。100人前後いてもおかしくないのでは。 ü 米国は世界から優秀な研究者が集まってくると言われる。日本人のノーベ ル賞受賞者も半分近くは米国で行った研究成果で、受賞している。 外国人が米国に行って短期間で研究成果があげられるのは何故か。 様々な要因があるが、米国はRAが充実していることも大きい。 ü 米国は英語が国語であることも大きいとの意見もある。 ü 日本も英語の堪能なRAを充実させ、世界の優秀な研究者が集まる仕組 み作りたい。 11 世界の会計年度と学校年度 両者が完全に一致しているのは日本だけ。一見、効率的に思われるが、この ことが単年度会計とあいまって多くの弊害を生み出している。 日本以外の国では会計年度を跨いで学校(大学)運営するのは日常のこと。 国名 会計年年度度 学校年年度度 ⽇日本 4⽉月〜~3⽉月 4⽉月〜~3⽉月 英国 4⽉月〜~3⽉月 9⽉月〜~8⽉月 カナダ 4⽉月〜~3⽉月 9⽉月〜~8⽉月 ⾹香港 4⽉月〜~3⽉月 9⽉月〜~8⽉月 デンマーク 4⽉月〜~3⽉月 8⽉月〜~7⽉月 シンガポール 4⽉月〜~3⽉月 1⽉月〜~12⽉月 インド 4⽉月〜~3⽉月 7⽉月〜~6⽉月 オーストラリア 7⽉月〜~6⽉月 1⽉月〜~12⽉月 ノルウェー 7⽉月〜~6⽉月 8⽉月〜~7⽉月 スウェーデン 1⽉月〜~12⽉月 8⽉月〜~7⽉月 ギリシャ 7⽉月〜~6⽉月 9⽉月〜~8⽉月 フィリピン 7⽉月〜~6⽉月 6⽉月〜~5⽉月 パキスタン 7⽉月〜~6⽉月 4⽉月〜~3⽉月 ⽶米国 10⽉月〜~9⽉月 9⽉月〜~8⽉月 ハイチ 10⽉月〜~9⽉月 9⽉月〜~8⽉月 ミャンマー 10⽉月〜~9⽉月 6⽉月〜~5⽉月 国名 ドイツ フランス イタリア 中国 台湾 オランダ ロシア ベルギー サウジアラビア タイ ペルー インドネシア アルゼンチン 韓国 スイス ブラジル 会計年年度度 学校年年度度 1⽉月〜~12⽉月 9⽉月〜~8⽉月 1⽉月〜~12⽉月 9⽉月〜~8⽉月 1⽉月〜~12⽉月 9⽉月〜~8⽉月 1⽉月〜~12⽉月 9⽉月〜~8⽉月 1⽉月〜~12⽉月 8⽉月〜~7⽉月 1⽉月〜~12⽉月 9⽉月〜~8⽉月 1⽉月〜~12⽉月 9⽉月〜~8⽉月 1⽉月〜~12⽉月 9⽉月〜~8⽉月 1⽉月〜~12⽉月 9⽉月〜~8⽉月 1⽉月〜~12⽉月 4⽉月〜~3⽉月 1⽉月〜~12⽉月 4⽉月〜~3⽉月 1⽉月〜~12⽉月 4⽉月〜~3⽉月 1⽉月〜~12⽉月 3⽉月〜~2⽉月 1⽉月〜~12⽉月 3⽉月〜~2⽉月 1⽉月〜~12⽉月 10⽉月〜~9⽉月 1⽉月〜~12⽉月 2⽉月〜~1⽉月12 未知に挑戦する研究費の支出パターンの特徴 A : 単年度会計(日本)の研究費支出パターン B,C,D : 単年度会計の縛りがなければ、研究テーマの進捗に応じてB、 あるいはC、あるいはDのような支出パターンになると思われる。 D 成果 研 究 費 A C B 支 出 額 1年目 年数 2年目 3年目 研究の進捗年数 13 日本の「繰越」と米国の “carry over”の相違点 (下図は一例として3年プロジェクトを想定して作成) 会計年度(FY)の境界 会計年度:FY(X) 会計年度:FY(X+1) 研究実施年度 3月 4月 研究実施年度 繰越 $100K 予算 $100K $20K 支出 $80K $120K 4月 会計年度:FY(X+2) 3月 4月 研究実施年度 $100K $100K 3月 研究費は会計年度に対して付与。会計年度を跨いでの繰越。国家の会計原 則に関わる問題。「会計年度」と「研究実施年度」が同じ。 10月 9月 10月 9月 10月 Award year FY(X) 予算 $100k 支出 $80k 9月 Award year Award year $100k $120k $100k $100k FY(X+1) Carry over $20k この$100kを当該Award year内のFY(X)で全て使うのも、FY(X+1) で全て使うのも自由→日本的な意味(会計年度間)の繰越は自由 研究費は「Award year」に対して付与。Award yearを跨いでのCarry over。 国家の会計原則の問題ではなく、NSFやNIHの内規の問題 。 Award year は会計年度を跨いでいる。→米国の予算制度(支出負担確定主義) Award year:研究資金の受領開始から1年間で、Funding Agencyが自由に設定 研究者の希望により開始時期を遅らせる事も可能 14 NSF(米国)の予算と競争的資金予算の関係 (Appropriationは歳出予算法と訳され予算権限の配分を定めるもの) X 年 X+1 年 X+2 年 X+3 年 X+4 年 X+5 年 X+6 年 X+7 年 X+8 年 1年アプロープリエーション予算(BA:金額$α) 2年アプロープリエーション(BA:金額$β) 無期限アプロープリエーション(BA:金額$γ ) BA=budget authority: 予算権限、現金ではない (NSFのX年度予算=α+β+γ) 例えば3年プロジェクトの場合3年分の研究予算(BA:権限)がX年 の「2 year appropriation(予算)」から手当て(Obligate)される 3年分予算 3年分の予算を3年間 の間に時間的にはどう 使おうと全く自由※ (繰越概念が無い) Pre award cost 研究開始から3ケ月遡っ てコスト算入が出来る 左図は一例としてNSFのStandard Grant(NSFの標準の競争的資金:通 常期間3年)の場合。NSFのプロジェクト は3~5年のものが多い。 No cost extension(予算の付かな い期間延長)3年間の繰越予算で4年 目の研究が出来る ※「全く自由」とは、時間的に自由と言う意味で使 途に関しては当然様々な規則がある。 15 競争的研究資金の効率を高めた米国のボトムアップ型の努力 (FDP:Federal Demonstration Partnershipの仕組み) http://thefdp.org/ ü FDPは米国の10の競争的資金配分機関(FA)と98の競争的資金受託 機関(大学等)のRAが協力して競争的資金に付随する事務上の負荷・ 障害(Administrative burden)を軽減する取り組み。 ü FAや大学に所属する約300名のメンバーが、1年に3回の年会、また多 くのワーキンググループ、タスクフォースなどを組織して、競争的資金の 制度的問題解決に取り組んでいる。1986年に開始し、今も続いている。 ü 新たな改善策が見出された場合には、まず、一部の競争的資金制度 において試験的に実施(demonstration)し、問題点を洗い出したうえ で、実行に移される。 ü FDPの活動は、行政改革的側面がある。クリントン政権のゴア副大統 領がFDPの活動を絶賛したとの記述がHPに記載されている。 16 FDP:http://thefdp.org/ Ø 米国の競争的資金会計制度の柔軟性は高く、競争的資金の高い効率性 が実現しているが、この制度を26年かけて構築してきた枠組みがFDP。 Ø FDPの目的:競争的資金のAdministrative Burden(事務上の負荷)を 軽減し、研究者にScienceをさせること。裏返せばFDPの発足する26年前 は米国の競争的資金にも事務的な煩雑さや不自由があり研究活動が阻害 されていたことを伺わせる。 Ø FDPの歴史:1986年スタート(1985ーPre-FDP) PhaseⅠ---1986~1988、NSF,NIHなど5つのFAと10の大学が参加。 PhaseⅡ---1988~1996、11のFAと21大学 PhaseⅠ,Ⅱの10年間で、繰越、No Cost Extension、 費目間流用などの柔軟性とExpanded Authorityを実現 PhaseⅢ---1996~2002、11のFAと68大学 FAと大学の連携強化、事務の電子化など PhaseⅣ---2002~2008、10のFAと98の大学 事務の一層の効率化と電子化 PhaseⅤ---2008~ 現在既にテーマの検討が開始されている。 17 米国の研究費会計制度 ü 米国の研究費会計制度は、年度概念がなく繰り越しはほぼ完全に自由、 研究期間の延長も可、など自由度が高く、研究費としての”使い勝って” が良く、研究費を有効活用し、研究成果を最大化することが出来 る。こうした研究費のマネジメントに対しても米国のRAの役割は大きい。 ü 米国で、このようなことが可能なのは、米国が複数年度会計であり、 支出負担確定主義会計という特殊な会計制度を採用しているから。 ü 日本では、年度末に決算する都合上、 3月末までに使い切る傾向があり、 限られた研究費で最大の研究成果をあげる上で、非効率な面がある。 ü 米国のような研究費の仕組みを日本でも実現できないか。 日本は単年度会計が、憲法と財政法で規定されており、米国の真似は 出来ないと言われてきた。 ü しかし、台湾、韓国は日本と同じ単年度会計であるが、米国並の仕組みが 実現している。ならば、日本でもできるはず。 ü 日本版FDPの活動を盛り上げて、研究現場に近いRAがリーダーシップ を発揮して欲しい。 18 韓国は会計年度と学校年度が異なる。ファンディングはAward yearによって管理 会計年度の境界 韓国の会計年度 Jan. Dec. Jan. Jan. Jan. Jan. 韓国の学校年度 Mar. Feb. Mar. Mar. Mar. Mar. 韓国のAward year 5年プロジェクト 3年プロジェクト ü 韓国は日本と同じ単年度会計国家であるが、米国並みの研究費会計制度を実現している。 ü 韓国のAward yearは米国のように、会計年度、学校年度とは無関係に自由に設定できる。 (日本のAward year は会計年度に合わせて管理されている。) ü NRFは1年中課題採択しており、プロジェクト(プログラム)によってAward yearが異なる。 ü 例えば、3年プロジェクトとはAward yearの3年である。そして、1年目のAward yearの予算に未使用 金があっても2年目のAward yearに自由に繰越できるし、2年目の予算が減らされることも無い。 但し、プロジェクトの最後の年(Award year)の末に未使用金があれば、それは国庫に返納する。 ü 米国のNo cost extension(プロジェクト最後の年の未使用金をプロジェクト最後の年の翌年に繰り越し て使用できる)の制度はない。 19 RAに期待すること ü 日本人研究者が米国で研究するとノーベル賞級の研究をする。 ü それは日本の研究者の資質が高いことを示している。 ü 一方、研究者の数や、国全体の研究費の総額を考えると、日本はもっと ノーベル賞受賞者が多くても良いはずなのに、実際は少ない。 ü それは、研究費の会計制度や、RAがこれまではいなかった、など日本の 研究開発環境(仕組み)に効率的でない部分があるからではないか。 ü 日本の研究環境(仕組み)の改善は、RAなど研究支援人材がFDPのよう な仕組みを作り、そこで活躍して初めて実現するのではないか。 ü また、優秀な外国人研究者に対し、魅力的な研究環境を日本の中に提供 できるかどうかはRA次第。 ü RAの役割は多々あるが、こうした分野でも是非活躍して貰いたい。 FDP紹介POセミナー2008年2月22日 http://www.jst.go.jp/po_seminar/h19semi/pdf/takahashi02.pdf 20 ドイツのサイエンスマネージャー研修センター ドイツではサエンスマネージャーの育成をSpeyer大学が実施している 対象: • 競争的資金配分機関職員 • 大学や研究所の研究者 • 科学技術政策担当行政官 サイエンス マネージャー 研修センター http://www.zwm-speyer.de/ 優れた科学には優れたマネジメントが必要だ! 21 ご静聴ありがとうございました。 Thank you for your kind attention. 22
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