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第57次(平成24年度)海外電設視察団報告書
目
次
ページ
はじめに ··········································································· 1
Ⅰ.第 57 次海外電設視察団の概要
1.行 程 ·································································· 1
2.ルートマップ·························································· 2
3.団編成 ·································································· 3
Ⅱ.シエラ太陽熱発電所(eSolar 社) ···································· 4
Ⅲ.テハチャピの風力発電所················································· 8
Ⅳ.West Ford Flat 地熱発電所(Calpine Corporation) ·········· 14
まとめ ············································································· 22
2012 年 12 月 5 日経営企画委員会
はじめに
(一社)日本電設工業協会は、平成24年10月7日(日)から10月13日(土)ま
での7日間の日程でアメリカ合衆国カリフォルニア州に第57次海外電設視察団を派
遣した。
当協会の経営企画委員会・国際交流専門委員会において、実施計画等の準備をすすめ、
本年6月から募集を開始し、8月末に募集を締め切った。最終的に、当協会の長江洋一
理事を団長とする総勢19名の視察団となった。
東日本大震災による福島第一電子力発電所の事故及びそれに引き続いての全国の原
子力発電所の運転停止に伴い、電力の安定供給に対する制約が深刻な問題となっている
ことから、世界最大規模の新エネルギー発電容量を保持するアメリカの太陽熱発電所、
地熱発電所への公式訪問ならびに風力発電施設の見学等、再生可能エネルギーの実情を
視察し、日本の電気設備工事業界に有益となる制度や仕組みがないかを視察した。
Ⅰ.第 57 次海外電設視察団の概要
1.行程
月
10月
日
7日
(日)
10月
8日
移動
視察先
成田 → ロサンゼルス着
tracking station 見学
→
ランカスター
10月
9日
(火)
10月10日
(水)
ランカスター
・eSolar 社
→
(木)
視察
(金)
10月13日
(土)
マップC
・モハベスペースポード見学
マップD
ヨセミテ国立公園 ・テハチャピ風力発電所見学
マップE
ヨセミテ国立公園
・ヨセミテ国立公園見学
→
マップF
マップG
マップG
・Calpine Geothermal 社視察
サンタローザ
→ ナパバレー
・ナパバレーの見学
→ サンフランシスコ
10月12日
マップB
マップC
サンタローザ
10月11日
マップA
・NASA JPL Goldstone Deep space
ロサンゼルス
(月)
・ロサンゼルス市内観光
サンフランシスコ →
→
マップH
(機中泊)
成田
1
着後:解散
2.ルートマップ
拡大図
2
3.団編成
氏名
所属会社
団長 長江 洋一
会社役職等
六興電気(株)
代表執行役社長(電設協理事)
[報告書作成班](☆:班長)
◎第1班(eSolar 社のシエラ太陽熱発電所)
☆
技術企画室東京技術企画部メガソーラー
川井 弘志
(株)きんでん
井上
靖彦
新生テクノス(株)
営業本部エネルギーソリューション部長
大槻
重樹
因幡電機産業(株)
電設東日本推進部長
柏谷
亨
(株)サンテック
角
耀
六興電気(株)
田中
雅史
推進チーム課長
電力本部電力工事部電力工事グループ
チームリーダー
顧問
西日本電気システム(株) 執行役員鉄道技術本部新幹線本部長
◎第2班(Calpine Geothermal 社の Geysers 地熱発電所)
☆
森口
彰男
六興電気(株)
執行役員エネルギープラント部部長
岡野
雅史
東光電気工事(株)
新エネルギー事業部技術第二部副長
木村
忠雄
(株)雄電社
取締役北関東支店長
後藤
和雄
ミツワ電機(株)
特別顧問
佐藤
孝文
(株)中北電機
第一営業部課長
須藤
靖弘
清水勧業(株)
営業部部長代理
松岡
徹
旭電業(株)
代表取締役社長(電設協理事)
◎第3班(テハチャピの風力発電所)
☆
電力本部風力エンジニアリングチーム
佐々木幸治
(株)関電工
大村
康之
日本電設工業(株)
営業統括本部営業開発部営業開発課長
伏木
忠了
北電力設備工事(株)
代表取締役会長
山崎
義行
(株)開進堂
代表取締役社長
(一社)日本電設工業協会
審議役
リーダー
◎事務局
野々村裕美
3
Ⅱ.「シエラ太陽熱発電所(eSolar 社)」現場視察
日 時
2012 年 10 月
9 日(火)
9 時 00 分~11 時 30 分
場 所
アメリカ合衆国
対応者
Mr. Joe Long 氏(eSolar 社 Plant Manager)
カルフォルニア州ランカスター市郊外
(1)概要
eSolar 社は,独自で設計された太陽熱発電所を計画・設計・製造している会社で
あり、全世界に 46MW の太陽熱発電所を手掛けている。当施設は eSolar 社が 2009
年夏から自社で建設・運用している発電所であり、現地視察および取材した内容を以
下に報告する。
(2)現地視察
①施設概要
システム概要を図 1.1 に示す。
①ヘリオスタッド
②タワー
③レシーバ
④蒸気タービン発電機
⑤冷却塔
⑥キャリブレーション用カメラ
⑥
余剰熱
電力
③
②
①
SG
④
ST
⑤
RT
蒸気(440℃,6MPa)
給水
冷水(常温)
図 1.1 タワー型太陽熱発電所の概要
太陽熱発電所(Concentrating Solar Thermal Power:CSTP)にはタワー型と
トラス型があり、本件はタワー型である。eSolar 社のシステムとしては、10acres
(40,470 ㎡)の面積の中央部にタワー(風力発電機用のタワーを利用)を建て、
タワー上部の「レシーバ」と呼ばれる水管ユニットを 12,000 枚の「ヘリオスタッ
ド」と呼ばれる 1.1 ㎡程度の平板ミラーを自動追尾させ、発生した蒸気により蒸気
タービン発電機を回転させて発電する非常に単純な構成である。実稼働としては
12,000 枚中 10,000 枚を自動追尾させ最大 2.0MW(発電機容量は 2.5MW)を発電
する。他社との違いは、eSolar 社独自の太陽位置自動追尾ユニットとその管理ソフ
ト(トラッキングシステム)の開発であり、校正のため各所に専用のカメラを設け、
1分間に3回自動補正させながら運用できる。
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【ヘリオスタッド】
【レシーバユニット】
【蒸気ライン】
【発電サイト】
②特徴
当発電所は実証設備の面もあり、敷地面積 20arces に形状の違う2種類のレシー
バを、高さ 60m のタワー上部に設置し、熱効率を検証している。ヘリオスタッド
については、2列を1組とした架台上に取り付けられ、基礎はコンクリート工事を
必要としないものを採用している。平板ガラス、架台、基礎とも重機を使用せずに
設置可能なため、建設時に極力専門職に頼らない構成となっているのが特徴的であ
る。
1つのタワーで約 3,000L の水が 2~3 分で循環しており、2つのタワーより集
められた蒸気は、1つの蒸気タービン発電機にパイプラインで送られ、5MW の発
電機により一般家庭 4,000 軒分の電力を発生させている。なお当施設には蓄熱設備
がないため、夜間は運転を停止する。
運用・保守については6人で実施している。ヘリオスタッドを掃除するロボット
は、スケジュールに沿って定期点検を行っている。発電設備については、10 年ご
とにオーバーホールを行う予定とのことである。
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【現地での説明状況】
【施設全体】
【清掃用ロボット】
【発電所玄関】
③太陽熱発電所の特徴
太陽光発電所と比較した。太陽熱発電所の特徴については、以下のとおりである。
・タービンに流入する蒸気量を調整することにより発電電力の調整が可能である。
・日陰等の影響による発電電力の急変は少なく、連系する発電所に対する負荷は少
ない。
・熱を備蓄することが可能で、備蓄した熱により夜間でも発電することは可能であ
る。
・電気以外に熱を利用する施設に採用できる。
・外気温度に左右されやすく、年間晴天日の日数が多くないと低効率になりやすい。
(3)一般的所感
当発電所が建設されているランカスター市は、サンフランシスコとロサンゼルスと
を繋ぐ貨物鉄道の給水駅のみの閑散とした都市であったが、エドワーズ空軍基地や航
空機関連企業も近くにあって、現在では 100,000 人程度のベッドタウンである。ほと
んどが平地で、気候もモハベ砂漠近傍なので亜乾燥帯であり、湿度は 20%を下回るこ
とがある。夏季の日中最高気温は 35℃であっても最低気温は 20℃を下回り、寒暖の
差が激しい。また晴天日が年間約 320 日あって、太陽光や太陽熱を利用した地域とし
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ては最適な地域であるので、他の太陽熱発電所も近傍にある。温暖湿潤気候の日本に
おいて計画する場合、同様の場所は皆無であり、設備稼働率が減少する可能性は高く、
さらなる建設コスト低減か、高効率策を講じないと採算性は厳しいと思われる。加え
て太陽光も集光するため周辺地域に対する防眩対策も検討しなければならず、ハード
ルは高い。距離感が違うので一概には言えないが、日本でも再生可能エネルギーを使
用した発電所を計画しているところは人里離れた場所が多いが、国土の広いアメリカ
などでも、人材や資材の調達だけでなく生活するのも困難な場所も多いため、居住地
より半径 50km 範囲に建設計画するのが限界ではないかと考えられる。
【eSolar 社
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玄関にて】
Ⅲ.「テハチャピの風力発電所」現場視察
日
時
2012 年 10 月
場
所
アメリカ合衆国
対応者
9 日(火)
13 時 30 分~14 時 30 分
カリフォルニア州テハチャピ
なし
(1)概要
米国の風 力発電容量 は約 50,000MW で 、州別にみ ると1位は テキサス州 の
10,394MW、2 位はアイオワ州の 4,322MW、3 位はカリフォルニア州で 3,917MW で
ある。かつてカリフォルニア州は、米国内において発電容量が最も大きな州であった
が、近年、その座をテキサス州に奪われている。州内の大規模風力発電所としては、
ロサンゼルスから北東のモハベ砂漠の西端に位置するテハチャピ風力発電所、サンフ
ランシスコの東に位置するアルタモント・パス風力発電所、ロサンゼルスの東にある
サン・ゴルゴニオ・パス風力発電所等がある。今回、テハチャピ風力発電所の設備を
視察した。
バースランディング
【カリフォルニア州の
アルタモント・パス
テハチャピ
サン・ゴルゴニオ・パス
【米国の風況マップ
出所:AWEA
】
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主な風力発電所】
(2)現地視察
バスの車窓から見える発電所が近づくにつれて、そのスケールの大きさに驚かさ
れる。広大な土地に風車が建っている様子は、”風車の森”と言った感じである。砂
漠は朝夕の気温差が大きくその時に風が吹くであろうから、視察時の日中は風が無
く風車の廻っている姿を見ることができないのではと思ったが、幸いにも風を受け
て廻っている様子を見ることができた。
【バスの車窓から見る
テハチャピ風力発電所
遠くからの眺めは
”風車の森”】
【風を受け発電している
風車 砂漠の中に数千本
の風車が建っている 】
テハチャピ風力発電所は 1980 年に建設が開始され、現在は、複数の民間企業に
より運営されている。風力発電機も様々な機種があり、その中には、日本のメーカ
ーである三菱重工製の発電機が確認できた。同社は 1980 年後半に 250kW の風力
発電機を納入したのをはじめ、600kW や 1,000kW の風力発電機も納入している。
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バスで発電所内を移動すると、支持物がトラス構造のものや、ナセル(発電機が格
納されている部分)カバーがないが調子よく廻わり発電しているものなど、日本で
はあまり見ることのできない風車もあり、さすが 30 年近く運転している発電所で
あることを感じさせる。
【三菱重工製 250kW 風
力発電機と推測。1980
年代後半に納入された古
い風力発電機】
【支持物がトラス式の古
いタイプの風力発電機
ナセルカバーがないまま
廻っている風車が何基も
あった。日本ではちょっと
考えられない】
テハチャピ風力発電所の規模をインターネットで調べた。風力発電機の数が約
5,000 基、総出力が約 700MW とある。日本の大規模な風力発電所は、島根県の新出
雲風力が 78MW、福島県布引風力が 64MW であるから、発電容量にしておよそ 10
倍とその大きさがうかがえる。
「やはり国土の広い米国だからできること。
」思いなが
ら、
「あれ、風車の間隔が近いな。
」という印象も同時に受けた。いずれにせよ、広大
な土地に数百・数千の風力発電機が並んでいる光景は、まさに“圧巻”である。これだ
10
けの基数があると、常時どのくらいの人数で運転・保守しているのか、設備の監視は
どのようにしているのか、設備利用率はどの程度か、次々疑問に思った。おそらく毎
日、数十人から数百人がこの発電所の仕事に関っているのであろうと思うと改めてそ
の規模の大きさに感服する。
【広大な土地に数百・
数千の風力発電機が並
んでいる光景はまさに
“圧巻”
】
米国の風力事情について少し調べた。2008年に米国エネルギー省(DOE)が2030
年までに電力需要の20%に相当する約300GWを風力発電の電力により賄う。そのた
めの技術を検討するという報告書を発表している。シナリオとして、
「①送電線イン
フラ整備、②立地・許可制度の合理化および国内風力発電関連設備能力強化が必要だ
としている。目標達成のため、
(1)年間のタービン設置数を2017年までに現在の3
倍以上とする。
(2)風力発電の電力連系コストを1kWh当たり0.5セント未満とする。
(3)銅等の原料が需要増加による制約を受けない。
(4)送電線の配電及びコスト
配分の見直しを図ることが重要である。これによりCO2排出量を2030年までに類計
76億トン、それ以降は毎年8億2,500万トン削減できる見通し。
」とある。これは、CO2
の排出量削減と、産油国の政情不安や原油の高騰等により再生可能エネルギーの必要
性を認識し、国や州が主導して導入促進を図りたい考えなのであろう。
テハチャピの風力発電所においても、発電した電力をロサンゼルスに送電するため
の、送電線整備プロジェクトTehachapi Renewable Transmission Project(以下
TRTP)が2008年から実施されている。視察時も送電線・変電所は工事中の様子であ
った。この計画では、テハチャピからロサンゼルスまでの間を500kVおよび220kVの
送電線・変電所を新たに構築・アップグレードする計画である。これにより、今まで
以上に風車で発電した電力を、ロサンゼルスなどの需要端に送電することが可能とな
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る。風力発電のために、500kVの送電線や変電所を新設・アップグレードするという
ことも、さすが米国スケールが大きい。
テハチャピ
220kV 送電線
【新設された送電線】
500kV 送電線
【TRTP
SEG1~3
500kV、220kV の送電線計画
(出所:サザン・カリフォルニア・エジソン社)】
【テハチャピの Windhub 変電所】
【TRTP
SEG4~11
500kV、220kV
の送電線計画
(出所:サザン・カリフォルニア・エジソ
ン社)】
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(3)一般的所感
再生可能エネルギー、特に風力発電の場合は、需要の大きな都市部から離れた地点
に大きなポテンシャルが存在するのが一般的である。したがって大規模な風力発電を
系統連系するためには、発電端から需要端までの送電線整備は必要不可欠である。
TRTPは、まさにそのためのプロジェクトであり、完成後は風力発電の連系可能量が
増え、更に大きな風力発電所に成長することが期待できる。
今回の視察において感じたことは、米国は広大な土地があり再生可能エネルギーの
ポテンシャルが豊富である。そのポテンシャルを活かし、2030年までに米国全体の
電力の20%を風力発電で賄う目標を達成すべく、大規模プロジェクトを実施したり、
大胆な政策を打ち出したりする姿勢もやはり米国だからできることであろうと考え
る。不安定な電源である風力発電を20%も系統に連系して、電力品質を維持できるの
か疑問であるが、いずれ実証結果について報告される内容に期待したい。
日本でも再生可能エネルギー導入に向け様々な取り組みがされているが、米国と比
較すると、スケールも小さく遅れていると感じる。しかし、原子力発電所の稼動が厳
しい今、国産のエネルギーである再生可能エネルギー導入促進に向け、日本人の知恵
を絞り、かつ大胆な方策を実施する必要があるのではないかと感じた。
【テハチャピ風力発電所にて】
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Ⅳ.「West Ford Flat 地熱発電所」現場視察
日
時
2012 年 10 月 11 日
場
所
アメリカ合衆国
対応者
9 時 30 分~11 時 10 分
カリフォルニア州サンフランシスコ北部
Middletown
Mr.JOHN AVERY 氏
(Calpine Corporation
Performance Program Manager)
(1)概要
環太平洋火山帯に属する、カリフォルニア州サンフランシスコ北部サンタローザ市
から北へ約 100km、Mayacamas 山中に Calpine 社はある。世界最古にして最大規
模を誇る地熱発電所だ。45 平方マイル(約 112 平方キロ)と云う広大な敷地内に、
近年建設された物も含め、18 か所の発電所を運営し、発電量 725MW を発電してい
る。その発電量はサンフランシスコ市全体の 75.5 万世帯を単独供給出来る能力が有
り、現在は、ゴールデンゲートブリッジからオレゴン州の境まで電力を供給している。
この地域は、カリフォルニアで起こったゴールドラッシュの影響を受け、1800~1900
年代にリゾートエリアとして発展してきた地域であった。しかし、環太平洋火山帯と
云う事も有り 1920 年代 100m程度の井戸を掘り、湧き出る蒸気の研究を始めた。現
在は 15×5km 四方に地下 2,000m~4,000m 程度掘削し岩盤層に存在する地下水の蒸
気を得て発電を行っている。地熱発電は溶岩が地表に近いほど開発が行いやすく蒸気
利用に繋がる。Calpine 社は地下 4 マイル付近にある溶岩を利用している。地熱発電
は、過去に多くの諸問題も発生しており、その為に、掘削方法の研究や周辺地域の観
測を行うなど、スタッフは幅広く採用されており地質学者や化学者などを含めた運営
を行っている。更には、地域などの協力も得て安定的な発電供給を行い、発電量は年
間原油使用量で換算すると 960 億リットルの減少に貢献している。
Calpine 社 地熱発電所
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(2)現地視察
①ビジターハウスにて
サンタローザの町からバスに揺られる事 1 時間 30 分、山の中にある Middletown
に到着。その町の中にあるビジターハウスで施設の説明を受けたが、施設見学の前に
安全面を中心にした諸注意が行われた。そして、保護具の着用と各指示に従う事を徹
底する為に、アメリカらしく契約書にサインを求められた。安全面での指示は、騒音
が激しくなる場所での耳栓の使用、約 200 度に達するパイプラインに触れてはいけ
ないこと、施設全般での保護眼鏡の着用、硫黄濃度が高くなった時の避難など、各指
示を受けてから施設の詳細説明へと移行した。写真撮影は通常許可出来ない箇所も有
るが、今回は視察と云う事で全てのエリアで許可された。
【ビジターハウスでの安全等の入構説明会の様子】
【地熱の説明と掲示物の様子】
【蒸気溜まりと地質深成図】
【地熱発電所全体模型】
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【掘削用の先端ドリル( 大→中→小 と使用する)
】
*掘削は、井戸の壁面をセメントで固めながら掘り進める。
カリフォルニアは、環境に対する法律が大変厳しく、地下水の汚染や硫黄濃度など
法律に違反しない様法定基準値内に収まるように、自主検査も含めて行っている。
その為、井戸の壁面はセメントでケーシング状に固められ作り上げられ、壁面の崩
落防止と地下水汚染や温泉の源泉など、周辺地域とその他地下資源への悪影響を与
えない工夫がされている。
*掘削深度は、スチームの出口として地下 1,000m 付近、更に 4,000m 程度掘り下げ
た間欠泉にまで掘り進む。1 本の掘削日数は、トラブルが無ければ、60~80 日。
*1 本の井戸から、枝状に蒸気水層へと掘り進む事もある。
*最近、もっと地下に約 400 度の蒸気層の有る事が判明した為、小さなドリルで更
に掘り進める。
*蒸気を取り出す掘削方法は、2 種類「一般型と注入型」
一般型は、330 カ所ある。蒸気を取り出した後には地下へ 75%戻すが、圧力が徐々
に低下していくということが発生している。この問題を解決したのが、注入型、50
カ所程度ある。注入型は、近隣の住宅の下水を集め河川へ戻せる程度に蒸留したも
のを地下へ注入し、注入したものから再度蒸気を取り出し発電を行っている。大変
環境へも配慮しているとのことであった。
【ビジターハウス内に掲示された、水循環パネル】
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*一般的な地熱発電所と異なり、Calpine 社は過熱蒸気を扱っている。
一般の地熱発電所は、地下から熱水を汲み上げて発電している。これに対して
Calpine 社の場合は、地中の過熱蒸気(高温高圧で、蒸気と水の区別がつかない状態
を言う・・・熱力学)を扱うのが特徴と言っている。分かりやすく言えば、一般の地
熱発電所では水温が高くても圧力が低いので、液体としての熱水を扱っている。過熱
蒸気は、タービンを回すのに理想的な熱源である。注:加熱ではなく、過熱である。
【発電システム
(タービンは、東芝製が多く、三菱、富士製も有る)】
・地震の観測
蒸気を取り出すことや戻すことで、マグニチュード 3~5 程度の地震が発生する。
特に、マグニチュード 1~3 程度は、頻発している。これは、岩の中が伸縮すること
になりストラクチャーがずれる事が原因で、マイクロサイズの地震が発生する。そこ
で、どの場所に水を戻せば効率よく、地震発生が小さく再利用が効率的かなど、地殻
の状況を 24 時間観測、モニタリングしている。この地域の過去の最大地震はマグネ
チュード 5.0 であるが年間通して、1~2 回程度である。
【モニタリングの状況説明】
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②発電所構内視察
・地下からの蒸気取り出しと、蒸気移送ライン
蒸気圧力は 6 気圧
・タービン建屋内
タービンは 2 台
2 台で、28.5MW を発電している。
・タービン建屋内、バスケットゴールが有った。
仕事と遊びを両立している感じで、何ともアメリカらしい。
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・中央制御室
この施設の Calpine 社の社員数は、110 名で管理している。全社では 310 名。
・再生
蒸気に含まれる硫黄を回収、地域の農家が土壌改良材として買い取る。
・クーリングタワー
蒸気はクーリングタワーによって水に戻り、75%が地下へ戻されるが 25%は無く
なってしまう。その為に地下の蒸気水は不足し 50 年間で蒸気圧力は低下すると言
われている。又、この施設が、発電所の中で一番大きく、頭頂部からの蒸気は景観
の問題を引き起こす。発電所全体としては、外観は緑を基調とし塗装され、環境に
配慮した形となっていた。問題が有るかどうかの考え方は独自で判断して欲しいと
の事で有った。
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③地熱発電に対する疑問点、問題点
・蒸気の枯渇
地熱発電が長期に亘ると、当然のごとく蒸気は枯渇状態になり蒸気圧は下がり発
電能力は低下する。更に岩盤内には空洞が出来る。その為、ストラクチャーにズレ
ができ地震の発生が多くなる。この問題の解決策として、1998 年からサンタロー
ザ市の廃水を充分に浄化し利用する事となり、1 日当たり 1,200 万ガロンの廃水を
原泉に送り込む事が出来る様になった。その為に、今でも安定した発電を行う事が
出来る様になった。温泉街への影響は、発電所との距離が充分に有り、更には、コ
ンクリートのケーシングにより周辺への影響を与えない様にしている。
更には、「資源は掘りすぎない事だ」と云う。減衰を出来るだけ遅らせる事が今
できる最善策と云う。
・有毒ガスの発生
基本的には硫黄ガスの発生となるが、問題の発生の原因となり易い不使用の掘削
口は、コンクリートで確実に埋められ、ガス等の漏れによる不具合が発生しない様
に確実に処置されている。
・メンテナンス
10 年に 1 回、全システムのメンテナンスを行う。その間は、状況に合わせて調
整、修理を行っている。
・優遇税制の問題
(TAX CREDIT 方式)
アメリカでの風力・太陽光は、2017 年までに建設したものを対象に、政府から
TAX CREDIT 方式により 30%補助が出るが、地熱発電は風力や太陽光に比べ建設
時間が長いなど問題点が多く、交渉がうまく進んでいない。その為、2014 年まで
に建設したもののみが対象となっている。又、TAX CREDIT 方式とは納税額を控
除する権利のことで、企業が納税している場合に初めて補助を受ける事が出来、メ
リットとなる。アメリカ政府の立場から見ると財源もないのに補助金を出すわけで
はない、と云う考え方である。この点が、日本との大きな違いであると云える。
Calpine 社の場合は、地熱のほかに天然ガス発電所を運営していたが、リーマンシ
ョック後に天然ガスの価格が急騰し、経営破綻してしまった。そのため莫大な累積
損失があり、現在は納税していない。したがって、TAX CREDIT はもらっても意
味がないとの事であった。であるから、会社運営は自然エネルギー使用の中でも厳
しい状況であるとのことであった。
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(3)一般的所感
カリフォルニア州は「実に自然エネルギーの恵まれた土地だ。」と言っている人が
いるが、地熱発電所も広大な山の中で、ふんだんに蒸気を使い世界最大の地熱発電所
を運営している事に感心する。そして、その大半を今回訪問した Calpine 社が占める。
その発電所は、安全管理やデータ採取、更にデータの活用や廃棄物の再利用に至るま
で、非常によく考えられ運営されていると思えた。諸問題は有るにしても家庭用排水
の利用など、地熱発電に対しカリフォルニア州や近隣地域が自然エネルギーの利用に
対し良く理解を示し、そしてバックアップしながら石炭石油の使用量を減すなど、地
域に貢献させていると感じた。この様な環境でこそ、75.5 万世帯の電力をカバー出来
る魅力的な発電が出来ると納得した。
一方、火山国である日本における地熱発電はと考えると、やはり最大の問題は国土
の広さの問題かと考えてしまう。如何しても発電所は温泉地域に近くなり、更に、観
光地としての景観の問題を上げる人が多くなる。又、それらの解決の為に、国定公園
法や行政がどれくらいバックアップ出来るか。日本としてメリットとデメリットを理
解し、両社の協調がどの様に解決出来るのか、広い土地を持った国の状況を見た後で
は、相当に難しく感じた。
【Calpine 社
発電所構内にて】
21
まとめ
今回の視察を通して感じたことは、米国の広大な土地に再生可能エネルギーのさら
なる可能性をうかがえたことである。日本においては、太陽光発電及び風力発電の用
地確保の問題があり、地熱発電においては開発地点の多くが国立・国定公園、都道府
県立自然公園、自然環境保全地域など、法制上の制約を抱えており、また、温泉事業
者との調整も必要である。
エネルギー自給率 4%とエネルギー資源の大部分を輸入に頼ってきた我が国が、国
産のエネルギーである再生可能エネルギーの比率を高めていくには、日本の環境にあ
った優れた技術を活かせるよう各企業の努力と個人個人の意識の向上を図ることが
更に必要と考える。
また、気象条件に左右される自然エネルギーを効率的に安定した電源として供給す
るためには、蓄電設備の設置が必要であると強く感じた。我々電気設備工事業界は、
創エネ・畜エネの構築に向けて具体的な行動がとれるポジションにおり、その役割は
重要であり、積極的に取組んでいかなければならない。
最後に、砂漠、丘陵、火山地帯とハードなスケジュールの視察であったが、世界遺
産であるヨセミテ国立公園の動物や自然とのかかわりあい、日本にはないアメリカ大
陸ならではの深い谷やそびえ立つスギなどの巨木、手つかずの大自然とその雄大さの
体験もでき、長江団長を中心として有意義に初期の目的を達成することができた。
今回の訪問・視察において、我々を受け入れた頂いた現地企業の方々、並びに事前
の準備にご尽力頂いた方々に対し心より感謝申し上げる。
以上
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