(京都大学理学部) ( ー988年9月8日受理)

高密度プラズマ
中村 卓 史
(京都大学理学部)
(1988年9月8日受理)
High Density Plasma
Takashi Nakamura
(Received Septemわer8,1988)
Abstract
3 16 3
Property of High Density Matter with density from l g/cm to10 g/cm is
argued.Using the e畷uat霊on of state for h孟gh density matter,t蓋e equiliわrium structure
of hi帥dens藍ty sta,r is discussed. There are two phases of high density stars. They
are white dwarf and皿eutron star.Each has a ma,ximum possible mass.The re&son for
tぬe existence of the cr孟tical mass is simply explai皿ed.
Keywords:
high density matter,white dwarfs,neutron stars,gravity,
1. シリウスB
我々が知っている通常の物質の離は高くても1・9/cm3である・しかし・宇宙1こは・そ祖りも・もっ
と高い密度(∼106g/c㎡=1ton/cm3)が実現されていることが知られている。その発見の過程は,次の
ようなものである。大犬座のシリウスの位置がふらついていることが前からわかっていたが,そのふらっき
の原因は,シリウスが1つの星から成るのではなくて,もう一つ見えない伴星と連星をなしているからだと
考えられていた。さて,地球の太陽に対する公転周期と地球一太陽間の距離を知っていると,ケプラーの第
3法則を使うことにより太陽の質量を決めることが出来る。同様に,シリウスの運動を詳しく観測すること
によって,伴星の質量は,0。85M◎(M:o=太陽質量=2×1033g)であることがわかった㌔ やがて,
1
伴星の明るさもわかり,太陽のエネルギー放出量の吾6石と決った。これだけのデータを得て,天文学者
は,シリウスの伴星は,温度の低い従って暗い赤色楼星に違いないと考えた。ところが,1914年に
* 太陽一地球の場合(すなわち地球の質量《太陽質量)とは少し違うが,シリウス自身の質量は,スペ
クトル型から推定できる。
Eαcμ砂げS6iεηcθ,κyo∫o Univθ君3iか,κyo’o.606。
P7εsθnM4伽∬rぬごionol加δo纏oびノb7πighEnθ柳Phツsics,丁蝋〃加305
151
核融合研究 第61巻第3号 1989年3月
W S.Adamsは,シリウスの伴星のスペクトルを観測して,驚くべき事を発見した。シリウスの伴星は“赤
色”ではなく“自色”であるというのである。温度は8000K:と決ったので,これからシリウスの大きさを
ゐ(エネルギー放出量)=4π1∼2σT4から推察してみると1∼∼5000km,したがって平均密度∼106g/cm3
となってしまった。シりウスの伴星は,赤色楼星ではなくて,自色楼星であったのである。温度は高いが,
サイズの小さな星だったので,絶対光度は小さいのである。
2. 白色楼星の臨界質量
前節で,質量が1M◎,半径5000㎞,したがって,平均密度4×106g/c㎡そして温度8000:K程度のき
わめて高密度な星が存在することがわかったが,ここでは,それが物理的に何を意味するのかを考えてみよ
う。まず,星は重力平衡にあるべきであるから,
砂 G吻(7)ρ
一一=一 , (1)
47 72
卿)一4πイρ瓶 (2)
ここで,ρは圧力でρは密度,又Gは万有引力定数である。又卿(7)は半径7の内側にある質量の総和を意
味する。(1)式の意味は,重力によって,縮もうとするのを物質の圧力が支えているという事である。星
の質量を〃甲,半径をR,平均密度ρ,平均圧力をクとすると,(1)式の平均を取る事により,
ρ ∼GM
r=一∼一 (3)
R
ρ
を得る。今,圧力がガス圧によって主に決っているなら,(3)式は,星の平均温度(T)が
ん,テ窟G弊 (4)
で与えられる事を意味するが,シリウスの伴星のような高密度星では,電子の縮退圧の効果が重要になって
くる。完全縮退しているとすると,フェルミエネルギーEFは,
飴2髭(、㍊)㌧ . (5)
となる。(4)式と(5)式を較べると,Rが小さくなるとっいには,EF>たβTとなり,電子は縮退し,
星は縮退圧で支えられることになる。その条件は、
R<1・4×1バ㎞(器デ (6)
となる。シリウスの伴星は,(6)式をまさに満足するので,縮退圧によって支えられた,白色(80001K)
の小さな星(楼星)となるのである。(6)式は,又,質量が軽い星ほど,より大きな半径から縮退が効く
事も示している。この事は,軽すぎる星(ハ4≦0.081%)は,核燃焼の時代がない事の基本的理由である。
さて,縮退している場合,圧力は,密度ρによって基本的に決っているので,ρ=Kργとするポりトロー
152
講座
高密度プラズマ
中 村
プ近似が十分良いが,このような場合の(1)式の解は,チャンドラセカールにより,よく研究されている。こ
こでは・その詳細には・立ち入顧こ・雛的な議論をする・雌乎認であるから・(3)式は・
顔砦ア㌔書(卜魯) (7)
となる。(7)式で,!14を万と1∼3で表すと
R窒(砦)撃(殉 . (8)
を得る。あるいは,(7)式と(8)式からρを消却すると
1 7−2
R駕(砦)蔚M37−4・ (9)
となる。(7)∼(9)式は,星の重力平衡解を定性的に考える上で,基本的に重要な式である。まず(7)
式まり・星の全質量はγ>告の時は・万力状き曜大きいが・γ篭では・万1こよらな伽・γ<昔
以下では,ρが大きい程,逆にMは小さくなる。(8)式によるとγ≧2ではρが大きい程半径は大きい
一 4
が・γ<2では・ρ大ほど半径が小さい。(9)式は・ハ4とRの関係を与える。γ<百では・ハ4が大きい
4
ほどRも大,しかし,一ぎ<γ<2では,ハ4大ほど半径小そして,γ>2では,又,M大ほど,R大となる。
これらの定性的性質は,(1)式の重力平衡の式と,ポりトロープという仮定のみで,簡単に代数的に出て
来るが,非常に重要な性質である。何故特定のγの値を境として性質が変わるのかは、まさに,重力の性質
(逆二乗則の引力)であって,宇宙以外の実験室では,考えにくいものである。
さて,完全縮退している電子ガスの圧力ρは密度ρの関数として,次のように与えられる。
ρ一壇φ(ズ) (1。a)
が
ここでφ(ズ)とκは次のように定義される。
φ(躍)一計(1+ノ)埆(誓一1)+1n(κ+4(1+汚)}・ (1・b)
ズー卿16(31獣 一(1・c)
上式は,低い密度では(ズ<1),ρ㏄ρ5声だが,高密度では(ズ>1),相対論的となって,,ρ㏄ρψPに
なる。したがって・上の一般論より・星の質量は・中心密度ρoの関数として図1のように1はじめ増大す
るが,その後一定の値になる。この値は,チャンドラセカールの臨界質量と呼ばれ,詳しい計算によると
輸1・457(蕩)班・・ (11)
ここでμoは電子1ケ当たりの質量数で・重元素(C・0)からなる臼色倭星を考えるとμ8=2となる。
白色楼星として,重力平衡にある星の質量には,最大値があるわけで、それ以上の質量の星は,縮退圧では
153
ノ
核融合研究 第61巻第3、号 1989年3月
質量
1.4
ヱ
1.2
M◎
1.O
O.8
7 8 9 10 11
中心密度
b9ρc(9/cm3)
図1.縮退圧で支えられる星の質量
支えられないので,重力崩壊をはじめることになる。この事実は,星の・一生を知る上で,きわめて重要な性
質であり,チャン・ドラセカールは,この業績により1985年にノーベル物理学賞を受賞したが,本質的な部
分は,以上のオーダー評価で出てくる。
3. 高密度物質の状態方程式一その1一
さて前節では,物質は圧力電離しており,しかも縮退しているとして釆たが,実際には,いくつかの補正
が必要になってくる。その第1番目は,クーロンカで,次に電子捕獲の影響を考えることにする。今,電子
の密度をπθ原子核の電荷をz6とした時・電子のクー・ンエネルギーと熱エネルギーの比は
馬/海丁一艦≠一1び(、,我γ1(、び命㎡)㌔ (12)
となるが,フェルミエネルギーとクーロンエネルギーの比は
照一4×1・一3(1び翻埆Z (13)
となり,高密度物質では,クーロンエネルギーは,フェルミエネルギーに較べて十分小さい。今,温度は低
いとして,原子核は,格子を成しているとする.各格子を半径7。一(3/伽N)叛%.は原子核の数密
度)の球で近似する。この近似では,高密度物質は,Zケの電子と1ケの原子核からなる半径70の全体と
しては中性の球に分割される事になる(Wigner−Seiもz近似)。 さて考えるべきエネルギーは,電子一電
子間エネルギーE召.6と電子一イオン間エネルギー・乾、σとなる。簡単のため電子は一様であるとすると,
このエネルギーは,
E6−E6−6+・E6一∫一一1・45Z4382処61冷 (・4)
154
講 座
高密度プラズマ
中 村
となる。このエネルギーは,圧力には負として効き,
P6一一・。48Zヅ362%θ4声 ・ (・5)
が得られる.電子が欄論陳なったときには,圧加。一方6(3π2)1砺8吻4だから,圧加及ぼ
す効果は,
鳥+P6−1−4.6×1じ3Zツ3 (16)
瑞
となり汰変小さい・しかし・非欄論的な時1こは・P。一顧3ノ)殊ε卵/(5卿6)であるから,
P。+Pc 卿θ62zヅ3
P・;卜癖’ .(17)
となつ9%6が小さくなると効いてくる・実際・鉄の場合・ρ皿25・9/c・’で・上式は圧加・哲える・
これは,鉄が固体として存在している理由であるが,現実の7.869/cm3との差は,電子の分布が一様とい
う近似のせいである。
電子の分布を考慮に入れるには,トーマスフェルミ近似が必要になってくる。そうするとポテンシャル
をy(7),フェルミエネルギーをEFとして
謡轡一響6(叫卵7(・)))喰 (18)
を解く必要がある。今
7一(藩ソ惚2、、κ・尾+6y(7)一Z61φ(κ), (19)
6
なる座標変換をすると(18)式はトーマスフェルミ方程式
42φ φ3/2
一=一一 (20)
廊2 劣1/2
となる。(20)式は・φ(0)=1・φノ(∫o)=φ(㌔)/%oという境界条件の下で解かれるが・(Xoは筍
を(19)式により無次元にしたもの)㌔→・・の場合には・φ(ズ)∼144/ズ3となり,密度が薄い場合に
は
P∼幽。10β (21)
となる。電子一電子間の反発力で,断熱係数3.3の大変かたい状態万程式になってくる。
さて,電子のフェルミエネルギーは
4一・・8醐(1び計㎡)等『 , (22)
であるが・今EFが(卿π一%)‘2−1・3MeVをこえると・陽子の電子捕獲
6一+ρ→%+レ6 −(23)
がエネルギー的に可能になってくる。生じたニュートリノは弱い相互作用しかしないので,星から逃げ出す。
155
核融合研究第61巻第3号 1989年3月
さて,(23)のような反応があれば,逆過程もあって,中性子が
%→ρ+6『+弓 (24)
とβ崩壊するのがふつうであるが,真空中とは違った事態が発生する。(24)の反応で生じる電子のエネルギー
は高々1.3M6V程度であるが,4が1.3MelV以上だと,入るべき準位が詰まっていて,β崩壊が禁止されて
しまう。全体として結局,密度が高くなるにつれて,陽子よりも中性子が増えることになる。実際に,どの
程度の中性子化が進むかは,反応(23)では化学平衡が
侮+修二μ” (碗はづの化学ポテンシャル) ’ (25)
と成立し又中性の条件より電子と陽子の個数が等しいという式から出すことが出釆て
2(暢一席一卿θ2)⊆Q2一卿彦)@%枷ρ)2一卿62)
(薯)一音!1+蘭2寺 醐 }ψ(26)
犯 1十一
ズ%
となる。
ここで吻一甲伽%・・Q吻%一%である・
%〆%銘はρ。∼8×1・11gc颪3までは減少して・ここで・…26という最小値をとるが・その後また増
大をはじめρ→ooでは1/8になる。1/8はρ→ooでは,全ての粒子は,質量が実際上ゼロと考えてよいか
らP/6+P/6=P,%‘とPノニP!)から簡単に出てくる。しかし,実際には核力の効果を考える必要があ
る。次にまず原子核の事を考える。
高密度物質が(ハ,Z)の原子核から成っているとして,エネルギー密度を書くと,
ε=%訓(んz)+ε6(π6)+ε6 (27)
となる。M(Z,!1)は(Z,1蛋)の原子核の質量だがふつうよく使われる式(原子核の質量公式)は,
M(Z・オ)一曜[・・991749孟+・・一1{・…84Z+“1・175過(音奇
+弊] (28)
である。ここで%は原子質量単位である。まず,第1項の係数が1からずれているのは,1核子当たりの
核力による結合エネルギー∼8M6Vを表している。第2項は,原子核が有限なために生じる表面張力にまる
表面エネルギーを表している。第3項は,単に(卿%一卿ρ一%)/%を表す。第4項は,原子核が2Z=
孟,すなわち中性子と陽子数が同じである事を好む性質を表している。この項の起源は全核子数を一定にし
て中性子と陽子のフェルミエネルギーを最小にするためには,同数がよいということからわかる。第5項は
クーロンエネルギーである。
156
中 村
高密度プラズマ
講 座
さて,密度が上がると,原子核の中性子化がはじまるが,第4項のだめ中性子化があまりに進みすぎると,
エネルギー的に損をするから,ついには,
(Z,孟)2(Z・ル1)+%” (29)
という平衡が成り立つ事が可能になる。これを中性子のdrΦと呼んでいるが,高密度物質はこの時,原子核
と電子と自由中性子から成り立つ事になる。したがってエネルギー密度は
ハ4(z,ハ)
ε=π(1一㌔)孟 +ε6(π6)+επ(%%)+ε6 、 (30)
で与えられる◎『ここで
z
%=π(1一】%)万, 物%=%}㌃・ %=核子数密度
である。実現される状態はεをZ,ノ1,y%で変分して,ゼロにな、る条件から決定される。このようにして求
められた状態方程式を用いて解いた臼色楼星の質量を図2に示す。横軸は中心密度であって,縦軸は太陽質
量単位であらわした白色倭星の質量である。点線は,図1と同じチャンドラセカールによる最初のモデルで
ある。最初,密度の増加と共に質量は増大する。それは,電子の縮退圧が主であるためγ=5/3となり,
ユ
(7)式より〃’㏄ρ戸』となるためである。しかし,電子が相対論的になると,γ=4/3となる。さらに電子
捕獲等の相変化が起こるため,γ<4/3となる。そうすると,式(7)を見れば,わかるように,今度は密
度が増大すると質量が減少することになる。このように,図2は定性的に理解することが出来る。
さて,図2を見ると,同じ質量の白色楼星に対して,中心密度の違う2つの解が平衡解として存在するの
に気がっく。どちらも実際に実現されるのであろうか? 残念ながらそうではなく,密度の高い方は摂動に対
して不安定であることがわかっている。今,密度に対して質量が減少関数になっている部分を考えよう。さ
質量
1.4
!
!
1
11
11
’
ノ
ノ
皿 1・2
/
!
κ◎
/
/
/
1.O
1
ノ
/
/
/
ノ
/
O.8
!
ノ
ノ
7 8 9 10
11
中心密度
b9ρC(9/cm3)
図2、白色楼星の中心密度と質量の関係
157
ノ
核融合研究第61巻第3号 1989年3月
て,中心密度が摂動によって少し高くなったとしよう。この少し高くなった密度では,平衡解はもっと小さ
い質量しか支えることが出釆ないのであるから,重力が勝ちすぎて,重力崩壊が進行し,さらに密度炉上が
ってしまう。今度は,摂動によって少し密度を下げたとしよう。密度が低いところでは平衡解はもっと大き
い質量を支えることが出来るわけだから,圧力が重力に勝ってしまい星は膨張して,さらに密度が下がる。
づまり,不安定平衡である。この事は、正確に摂動の式を固有値問題として解く事によっても示されている。
図2の最も重要な点は,白色倭星には,最大質量があって,それ以上のものは,平衡解としては存在でき
ず,重すぎる質量のためあてどない重力崩壊につき進むしかないという点である。
さてこの講座の読者の関心事は、いかに制御された核融合を地上で実現窒るかという一点にあると思うが,
ここで,高密度物質と関連して温度がゼロでも核反応が起こるという話をしたいと思う。そんなバカなと思
われるかも知れないが,Pycno(ギリシァ語でdense)核反応として,天体物理では,よく知られた現象な
のである。2つの原子核が反応するのに大きな障害は原子核間のクーロン反発力であるが,もちろんこのク
ーロン障壁はプラズマを高温にすることによって乗り越えることができる。しかし,原理的にはクーロン障壁さえ通過
すればよいわけで,プラズマを絶対に高温にしなければならないというものではない。今,考えているような
高密度では原子核は格子をなしている。原子核間のポテンシャルは原子核にごく近い所では核力が支配的で
あるが・それ以外は基本的にクーロンポテンシャルで決っている。平均の核間距離を1∼oとして・クーロンポ
テンシャル(y(劣))を簡単のため調和振動子で近似してみると,
1 2』 4Z2’
7(劣)=一K∫ , κ= . (31)
2 R3
0
さて,量子力学によると,調和振動子は基底状態でもエネルギー固有値はゼロではなく
E。一音方ω。一者方雁 『 (32)
なるゼロ点振動をヤていることが和られている(μ;換算質量ン。したがって・』たとえ温度がゼロで・全て’
の原子核が基底状態にあっても,ゼロ点振動があることになり,2つの原子核が反応する確率は有限になる。
上のゼロ点振動エネルギーを2Z二∠4の核に適用してみると
瑞一1・ (1茜㎡プ
ー咽1諒㎡ゾ・ (33)
となる。エネルギー的には,温度ゼロでも,十分高温と同pだけのエネルギーを持っている。いわば,低温
ではあるが高温であるという変な言い方も出来るかもしれない。もっとも,ρ≧1010g/cm3などというの
は,地上では,絶対に実現不可能であるが。
158
講 座
高密度プラズマ
中 村
4. パルサーの発見
さて白色楼星は,今まで知られている星の中では最も密度が高いものである事はわかったが,それでは,
白色楼星以上に密度の高いものがあるのだろうか。答えは,予想外の所からやって来た。1967年にケンブ
リッジのヒューイッシュ達のグループが,周期1.377秒で正確にパルスしている電波源を発見した。このよ
うな天体は,それ以外現在までに約450ケが見つかっておりパルサーと名づけられている。パルサーの特徴
は以下のようなものである。
1)パルサーの周期は,1.5msから4.3秒までにわたっている。
2)パルサーの周期は約103年から108年の時間スケールで,長くなっている。
3)パルサーの周期は非常に正確で,一番正確なのは15ケタにわたって周期が決められており,その精度
は原子時計といい勝負になっている。
まず,最短周期が1.5msということから,これに光速をかけて得られる450㎞というのが,考えられるパ
ルサーの最大のサィズである。というのは,もし450㎞より大きな系から出ているのなら,因果的に言っ
て,1.5msのきれいなパルスがとても出るとは考えられないからである。そして,これは,1939年にオ
ッペンハィマーとボルコフが理論的に考えた‘‘まぼろし”の中性子星ではないかということになった。それ
では,中性子星の話に入る前に,超高密度物質の状態方程式の話にもどろう。
15.高密度物質の状態方程式一その2一
ここでは,帷子がdripするρ47ゆ∼4×1・119/c㎡以上の密度での物質の状態を考えてみる・
すでに第3節で述べたように・碗鰯∫ρでは,物質は・原子核・電子と自齢駐子から成り立っている・
さて,密度が上昇するに伴って陽子の電子捕獲が進み,中性子過剰な原子核になる。さて,中性子闘には,
中性子一陽子間に働く3S1の引力がパウリ原理によって働かない。これが・重陽子は存在するが重中性子が
存在しない理由であるが・原子核はより結合のゆるいものになって行き,ρ/ρNuc≡3×10149/c㎡(原子
核の質量密度)になってくると・つ確1議源子核がなくなってしまう・したがって・成ρ4γゆの領域では
Z/オ《0.5となるので,Z/!1卑0・5 に対してのみよい近似になっている質量公式(28)では・不十分で
ある。核子間に働く核力を多体問題として精密に扱う必要が出てくる。
非相対論的な極限では,核力は速度によらない保存力として表わす事が出来る。2つの核子はスピンS1,
’S2を持っわけだから,核子間の距離を巨iとすると,最も一般的な核力ポテンシャルは,
7一巧(7)+鵬・場+恥)[3(卯ll(甲)一(ら砺)] (34)
と書く事が出来る。実験的には,電気的相互作用を除外すると,陽子一中性子に働く力も,中性子一中性
子に働く力も同じ事が知られている。すなわち,核力は荷電によっていない。したがって,(34)式は,もっ
と一般化できるが,ここでは,それにはふれない。さて巧(7),陥(7),殊(7)は,原子核の種々の性質
159
核融合研究 第61巻第3号 1989年3月
と原子核散乱の実験データを再現するものでなくてはならない。ここでは,その1つとして,原子核の飽和
性についてふれる。式(28)の原子核の質量公式を見ると,第ゼロ近似として,原子核の結合エネルギーは
質量数孟に比例しているが,この事は,(34)式から自明には出て来ない。原子核のエネルギーEは核子の
運動エネルギーTと核子間ポテンシャルエネルギーrの和になっていると考えられる。パウリ原理より
T∼紹,・c肋蜘・c孟5枷一2 (35)
又,
四㏄胴2}1)7((穿yβ)・ 、 . (36)
∂四
しかし,例えばy(∫)破一1/%としてしまうと, =0より,四㏄一!13となってしまい,全く実験
∂R
事実に合わない。躍収一11を得るためには,核間距離が小さくなった時,核子の存在を禁止するような強
い反発力が必要とされる。その結果,核子の存在しうる空間が狭くなり、パウリ原理によって運動エネルギ
ーTが増大して,もっとゆるい結合(腋一ノ1)になっているのである。
さて,以上のような要請を満たすような核力ポテンシャルを用いて,多くの人が,ρ≧ρ47ゆでの物質
の状態方程式を計算しているが,結果は,
2.0
必ずしもu鵬ueではない。それは,核
力ポテンシャルの取り方,計算法等によ
1.5
っている。図3に1例として,Baym−
r
Beth、e−Pethickによる液滴モデルの計
1.0
算例を示す。P(圧力)をρの関数とし
て描いても,あまりよくわからないので α5
ここではT≡4伽P/4伽ρ(すなわち
P儒ρ「とした時の断熱係数)を描いた。 3x1011 1012 1013 . 1014 5x1ゲ
すでに述べたようにr<万では,中心
4ρlgcm辮㍉
密度が増大すると共に星の質量は減少す 図3・高密度物質の断熱係数
4
るので不安定であるが,r>百では,
星の質量は,密度の増加関数である。図3より,ρ≧3×1013g/cm3から,,新しく安定な星が存在しうる事
がわかる。これが,中性子星なのである。
一さて,密度が核物質の密度ρ測,=3×1014g/cm3をこえるとさらにいろいろな事を考えなくてはならな
い。まず,電子の化学ポテンシャルμ6がミューオンの静止質量(104MeV)を超えると
6→μ+ンμ+y6
が可能になり,ミューオンが出現してくる。すなわち,電子をミューオンに一部変換した方が,全系の縮退
エネルギーが減るからである。
160
講座
高密度プラズマ
中 村
挙らに・μ6(一μガμρ)加π齪なると・
%2ρ+π
より,パィオンが出現してくる可能性がある。パィオンは,スピンゼロで,ボーズーアィンシュタイン統計
に従うので,温度が十分低ければ,ボーズーアィンシュタィン凝縮をする可能性が出てくる。もし,パィオ
ンが凝縮すれば,中性子の数が減るから,フェルミエネルギーが減少し、状態方程式がやわらかくなる。し
かし,パイオン凝縮が起こると考えられている密度ρ>2ρκucでは,核力の多体効果を正確に取り入れる
必要がある。
パィオン凝縮と同時に,密度が上がると核子の励起状態も考える必要がある。3−3共鳴と呼ばれている
∠をはじめとして,躍,Σ±・o,∠±,o等である。このようになってくると、核子間の力をポテンシャノ↓で表
現するという描像がだんだん悪くなってくる。ρ;≧10ρ.ひ。では,中性子のフェルミエネルギーはE}≧
400MeVとなって,核子間の相互作用は,相対論的になり,速度に依存するようになる。
さて,量子色力学(QCD二Quantum Chromo Dynamics)によると,核子等の強い相互作用をする粒子
2
は,%、4,s,‘冶,渉の6つの最小構成単位(クォーク)からなる。循4グォークは,それぞれ,万6,
1
一万6の分数電荷を持ち・例えば・陽子は趨クォーク2ケ・4クォーク1ケの計3ケのクォークが・グ
ルオンという膠で固められたものと考えられ七いる。中性子は,%クォーク1ケと4クォーク2ケとグルオン
からなると考えられている。さて,ρ≧10ρ冊,にもなると,グルオン同志がくっついて,ついにに,物
質が,陽子や中性子というアンデンティテ.イを失って,フォークとグルオンから成るのではないかと言われてい
る。クォークークォーク間の相互作用はエネルギーが高くなるにつれ,漸近的に自由粒子のように振舞う事
が知られており,状態方程式は・γ蓄のやわらかいものとなるであろう・うまり・ρ≧ρN.,では・%・
4,s,6,渉、6という6つのはんぱな電荷を持ったクォークプラズマの世界であるかも知れない。そうなる
と,電子とイオンとからなるプラズマとは全く違った様相が生まれるだろう。種々のプラズマ波とその安定
性等はどうなるのだろうか。
6.中性子星の最大質量
5節でρ≧ρ.ひ。での物質の諸相を述べたが,基本的には,種々の可能性を述べたまでで,どれも確立し
ているわけではない。特に状態方程式については』今だにBethe一:Baym−Pethickの状態方程式とか,
Waleckaの状態方程式とか言うように,固有名詞が,全て付いている。本来状態方程式は,一つであるのだ
から,固有名詞がいくつも付いているというのは,その難しさをそれ自身で表しているが,ここでは個々の
状態方程式によらずに,言える事を述べたい。
今状態方程式を1つ決めたとする。そうすると,圧力Pは,温度が十分低い時(ふつうこの条件は満たさ
れる)密度の関数(P=P(ρ))として与えられる。そうすると(1)式は
161
核融合研究 第61巻第3号 1989年3月
4ρ G卿(7)ρ
一=一 (37)
47 24P
7 −
4ρ
となる。星の中心密度をρ6として,(37)式をρ=0まで解いて行くと,密度ρoの関数として,星の質
量M(ρ6)と半径R(ρ6)が決まる。さて,中性子星のような密度の高い星では,一般相対論の効果が効く。
重力は,ニュートンの重力より強くなり(37)式は
p p
4ρ
睾署)・[(1+警轟)(辱)
47
]
(38)
となる。一般相対論効果として新たにかけら.
れている係数は1より大であり,重力の効果
中性子星の質量
3,0
を増す。図4にハ4(%)を種々の状態方程式
MF
について描いた。ハ4FとかT1とかが,状態
方程式の名前である。重要な特徴は,はじめ
Tl
2.0
TM
ハ4(ρ6)は%の増加関数であるが・最大のM
があって,それからは減少関数になるという
事で,この事実は全く状態方程式に依ってい
竺
ハ40
1.0
ない。これは,次のように定性的に理解でき
る。はじめ,%≦3×1014g/c㎡では,中性
01014
子は非相対論的で,圧力には,中性子の縮退
5
圧が効き,したがって,γ=一である。
3
この領域では,一般相対論的効果は小さいか
1015
1016
ρ‘lg cm−31
中心密度
図4.中性子星の質量
ら(7)と(8)式縦って,M叩61娠㏄
ρ虚すなわち,質量は増大し,半径は減少
する。さて,%≧1・・59/c㎡になると・一般相対論的効果が強くなり・γ≧告でもMは%の減少関数と
4
なってしまうのである。つまり・114が%の増大関数か減少関数になるのかがγ=百でわかれるのは・ニュ
トニアンの時のみで・一般相対論的効果を翫ると,彦告でも・動の増大のため少ない質量しか与え
る事が出来なくなるのである。
図4より分かる重要な点は,申性子星には,最大質量が存在するという事である。しかし,これは,全く,
状態方程式によっていない事なのであろうか。すなわち,ある特別な状態方程式を使えば,いくらでも重い
中性子星が作れないかと心配になってくる。しかし,そのような心配は,以下の仮定を認めれば不要である
という事が示されている。
中性子星の平衡状態について次の4つの仮定を置く。
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講 座
高密度プラズマ
中 村
1)アィンシュタインによる一般相対論は正しい。
2)中性子量は球対称とする。
3)物質の状態方程式は因稟律を満たす・すなわ猪速屠は光速以下である。
4)ρ=ρ測cでは,音速は光速以下である。
4番目は,仮定というよりは,実験事実であるが,以上の仮定の下で,得られる結論は,
1)中性子星には,最大質量が存在する。
2)最大質量は・大きくても3M◎である。
これは,状態方程式によらない結論で,全く強力である。実際,質量が決定された中性子星PSR1913+16
は,1。4Moで3Mo以下になっている。多くの人は、2Moぐらいが最大質量ではないかと考えているが,
それでは,L4Moの中性子星に,物質を落として3M◎以上にすれば,どうなるのであろうか。中性子星と
しての平衡状態はないのだから1どこまでも重力が圧力に打ち克ち乳重力崩壊が止まらない。そして,つい
にはブラックホールになるのである。
もっと詳しく勉強したい人のためには,S。L.Shapir。&S.んTeukolskyの教科書1〉をお薦めします。
参 考 文 献
1) S.L.Shapiroand S.A.Teukolsky:BZαcんHo!e3,PVh覚ePwαザ3αη4/Ve漉70πSオαγs(John W量ley&Sons)1983.
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